秋尾敏の俳句


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第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾 敏の俳句 2017年


軸9月号 覚えている

秋の婚みな来し方を考える
頷いて明日を覗き込む桔梗
沙羅の花笑ったことは覚えている
  「俳句」一六句武蔵嵐山より
馬頭観音ひそかに蚋を連れ戻る
鋳物師が来て戦乱の大夏野
夢は見たかと黄金の蛇隠る
  文學の森「俳句界」俳句六句細身にて「軸」五十周年
麦の秋六百冊に風とおす
夏の蝶日暮れて水を選びだす
若やぐか老いるか絹の夏帽子


軸8月号  受け渡す

膨張に弁明のない夏の雲
稲妻の裸身未来を受け渡す
突き当たるものみな事実てんと虫
晩夏光雲のエッジが効いている
かき氷筆禍舌禍と匙立てて
青嵐戦後の空が消えかかる
  文學の森「俳句界」誌八月号「細身にて」六句より
薫風の内在律や半世紀
卯の花腐し書庫に刃物の二三本
細身にて俳誌涼しく背を立てる


軸七月号 半世紀
緑濃き水の幽明半世紀
六百冊の背文字グラフのように夏
ベランダに細身の野望大南風
トタン屋根から麦秋が古びだす
軋む自転車麦秋が痩せ細る
たんこぶをひとつ増やして夏の雲
交番の躑躅が闇を埋めている
  「俳句」(角川書店)七月号掲載「武蔵嵐山」十六句より
斬り結ぶ影か万緑おののかせ
夏燕かならず雲を置いてゆく 


俳句四季9月号

澄む水の積まれて山を遠ざかる


角川「俳句」7月号 武蔵嵐山

斬り結ぶ影か万緑おののかせ
馬頭観音ひそかに蚋を連れ戻る
  詠史畠山重忠二句
卯の花に馬を担ぎし人の声
銅拍子叩くに強き汗の肩
鋳物師が来て戦乱の大夏野
夢は見たかと黄金の蛇隠る
受付に長居の男あとずさり
麦秋の匂いで戻る部活の子
燕の子山田うどんの軒に待つ
夏の川かすむ秩父をおきざりに
あめんぼう秩父の水を踏みしめる
雲の峰オオムラサキはまだ蛹
夏の鴨淀にかかって声濁す
渓谷の残像あらわ心太
仰向けの川うつぶせのサングラス
夏燕かならず雲を置いてゆく


文學の森「俳句界」 細身にて 「軸」五十周年

薫風の内在律や半世紀
麦の秋六百冊に風とおす
卯の花腐し書庫に刃物の二三本
夏の蝶日暮れて水を選びだす
若やぐか老いるか絹の夏帽子
細身にて俳誌涼しく背を立てる


俳句四季

やわらかなパセリの木蔭ムール貝


軸6月号 演じきる

夏に噴く二人住まいの炊飯器
夏野なら羽毛ひとつを浮かせおく
平積みの三百万部夏の雲
雨浴びて最後の薔薇になるつもり
薔薇一輪愚直光を演じきる
気取らぬという常夏のダンディズム
ままごとの目が芍薬を不思議がる
余花残花止めを刺すということも
攻めどきであろう蛙の目借どき


軸5月号 通過点

わたくしという通過点花吹雪く
花筏なら腐るまで沈まない
夕闇に肩差し込めば花冷ゆる
春雷は私のせいか洗濯機
うら若き母の誤差より蘖ゆる
山桜雨に生まれて雨に散る
ライオンに根っこが生えて春深し
春の山から機関車の色違い
塩澤正子さんを偲ぶ
まっすぐに人を見ている春の星


軸四月号 ジェラシーの雪崩

両肩を露出して来る桜餅
桃の花人待つふりをしてひとり
締切は一時ガラスの靴の雛
男岳よりジェラシーの雪崩
卒業が山の向こうにあるらしい
俄然呆然白鳥の首は消え
砂上の陽炎言葉が燃え尽きたよう
エレベーター点滅春が降りてくる
         千葉現俳
ご笑覧あれ海風の花一枝


軸3月号 歌いだす

立春大吉新製品が安い
三寒を超え学校が歌いだす
春愁よ空に足場を組むごとく
二月のポプラ先端から若い
ぶっちぎってひとり早春が青ざめる
凩を聞くふくろうのカレンダー
冬晴に寂しいことをいうスマホ
     叔母金子敏子を偲ぶ
手を伸べて明日は春よと窓に笑む
     岡安百合子さん追悼
やわらかな冬日となって句を降らす


軸2月号 誤差がある

寒詣北北西に誤差がある
祈ります三原色に着膨れて
自転車の影が命となる冬日
疲れた雲雪がちぎれてきたらしい
テーブルと椅子が向き合う冬座敷
一月の塩煎餅のおめでとう
    原人社創立七十周年を祝す三句
原始林橇の轍の深々と
人間に底力あり雪を搔く
凍土を来て七十路の力瘤


軸六百号記念新年俳句大会

大晦日夜は序曲のように来る
青春があるはず若水を滾らせる
マスクが小さい透明人間をやめる


「西日本新聞」新春に寄せて

元朝の鶏鳴湖が張りつめる
去年今年少し俳句に似てきたか
人間に底力あり雪を搔く


軸1月号 張りつめる

元朝の鶏鳴湖が張りつめる
初昔振子のように遠ざかる
去年今年少し俳句に似てきたか
街角の豆大福にぼたん雪
冬桜夢が小さくなっている
ぬくもりの吹き残されている聖夜
木枯に散って心に積もるもの
寒波来る夜のフルーツケーキにも
自分のかたちの白菜を選ぶ