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 カンバセーション・ウィズ・トム・ペティ 2005年 トム・ペティ (完訳)  Page  1  2  3  4  5  6


Contents:(目次のタイトルをクリックすると、その箇所に飛びます)

 acknowledgement / about the author / forword by tom petty / introduction
part one , life   part two, songs
 1. dreamville tom petty & the heartbreakers
 2. california you're gonna get it
 3. anything that's rock 'n' roll damn the torpedoes
 4. tangles & torpedoes hard promises
 5. changing horses long after dark
 6. who got lucky southern accents
 7. don't come around here as much pack up the plantation :live!
 8. runaway trains let me up ( i've had enough)
 9. handle with care full moon fever
 10. into the great wide open into the great wide open
 11. somewhere you feel free greatest hits
 12. some days are diamonds wildflowers
 13. angel dream playback
 14. howie song and music from "she's the one"
 15. joe echo
anthology : through the years
the last dj
epilogue, highway companion

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Playback 1995

Q:さて、ボックス・セットの [Playback] についてです。数多いあなたのヒット作品も含まれていますが、それだけではなく、未発表で、珠玉の、掘り出し物のお宝音源満載ですね。たくさんの素晴らしい作品なのにアルバムに収録されなかったのが不思議ですが、(シングルの)B面になっています。

TP:[Playback] は [Wildflowers] の後のことだ。でも、ぼくらがMCA所属としていられる日数が限られていた。すごい仕事量になると思われた。6枚にやっと収録したくらいだから、とにかくべらぼうな数の曲数だった。
 倉庫を見て回って、すべての未発表音源やBサイド曲から、ボックスセット購入者が欲しいであろう曲をを見つけ出した。

 あのボックスセットに関して、ぼくはかなり満足している。本当にお気に入りなんだ。ぼくらのベスト・ワークのいくらかはあのボックスに収録されているんじゃないかな。
 最後の1枚([Nobody's Children])なんかは特に好きだ。
 ああいうボックスセットは、そう簡単に手に入らないよ。多くのボックスセットは退屈で面白くないものになり勝ちで、聞けば「こいつがリリースされなかった理由がわかるな。どうして本人たちがリリースしたくなかったのかが分かるもん」とか言いたくなる。
 もしくは、同じ曲のパターン違いが9曲も入っていたりしてね。

 このボックスに関しては、ジョージ・ドラコウリアスがプロデューサーになって、すべてを監督してくれた。
 一番良い曲を探し出すために、彼は実に良い仕事をしてくれた。ぼくら自身でやるつもりはなかったからね。あまり深入りし過ぎるつもりはなかったんだ。ロードの最中だったし、大変だろうから。
 ぼくは一度、彼の仕事にお邪魔したことがある。彼の仕事部屋は、どえらい数のテープで一杯だった。空まで届くみたいなテープの山だった。べらぼうなテープの数でね。彼は実際に、このテープをすべて聴いていた。大変だよ。それでも良くやってくれた。ぼくは採用しない曲も沢山あっただろうし、ぼくら自身には、時間も余裕もなかったから、彼がやってくれたのは本当に助かった。

Q:リリースされなかった、数多くの素晴らしい曲が収録されているという点において、このボックスは普通ではありませんでしたね。

TP:ああ、まったくさ。古い曲もあるし、新しいたぐいの一群も聴くことができる。今でも売れ続けているんだ。
 パッケージも良くできているよね。CD一枚一枚に、それぞれのジャケットを作ったんだ。そから、ビル・フラナガン(VH1の編集監督,およびロックンロールに関する書籍の著者)による文章。大満足さ。

Q:我々にとっては幸運なことに、[Playback] には "Peace in L.A." が含まれています。あなたが大急ぎで録音し、ラジオで流した曲ですね。

TP:たぶん、レコーディングは24時間以内に行われたんだろう。
 ぼくがヨーロッパから帰国して、帰ってきた日にロサンゼルス暴動が始まった。ぼくらはヨーロッパ・ツアーをしていたんだ。もどってきてみたら、とんでもない事になっていた。
 ぼくはラジオから、"Peace" って言葉が流れる必要があると思った。ただ、"Peace"、"Peace" って言葉を聞く必要があるんだ。ぼくは大急ぎで電話をかけてセッションを設定すると、小部屋にこもり、曲を書いた。大急ぎだった。

Q:曲を書く前にまず、セッションを決めたのですか。思い切りましたね。

TP:確かに、思い切ったな。それから、すべてを準備して、スタジオに入った。ぼくを含め、来れる人は全員来たんだけど、ハウイだけはダメだった。
 それでハウイに電話して、電話越しに録音した。ただ喋るだけなんだけど。
 電話越しに、ハウイのヴォーカルを録れるかと思ったんだけど、どう言う訳だか、上手く行かなかった。だから最終的には、ハウイにしばらく喋っていてもらうことにした。

Q:彼は「何が燃えているんだろう?そこらじゅう煙だらけになってる?」と言っていますね。

TP:ああ、シチュエーションにぴったり合っていた。ハウイは何かが燃やされているのを見たんだろうな。シチュエーションに良く合っているのから、それを取っておいた。
 ボックスセットに実際に収録されたのは、B面なんだ。"Peace Mix" と呼ばれている。B面向きに、違うミックスをしていたんだ。

 この曲はすぐにラジオで流れた。衛星回線を使って、局に送ったんだ。そうしたら、あっと言う間にオンエアされた。ぼくらはこの曲の収益をすべてイーストL.A.の異なる団体に寄贈している。
 今でも、ぼくはイーストL.A.の団体から、お礼を手紙をもらう。ボックスセットが売れ続けているので、寄付も続いているからね。その恩恵を受け続けているんだ。

 それからロードに出た時に、壁に "Peace in L.A." って落書きされているのを見たことがある。思ったよ。「エラいことだな(笑)。ちょっと思いついて、ラジオで流して、それが今壁に落書きされているなんて」って。だからすごく良い気持ちがした。
(ロサンゼルス暴動はロドニー・キングを殴打した罪で訴追された4人のロサンゼルス市警官の無罪判決をきっかけに、1992年4月29日午後から始まった。警官たちが無罪になった時、ロサンゼルス,サウス・セントラル地区で不満が爆発し、市内へ拡大して行った。)

Q:"I Don't Know What To Say To You" という曲は初期のハートブレイカーズ・セッションで録音され、"Listen To Her Heart" のB面としてリリースされました。

TP:ジョン・セバスチャンが参加しているんだ。バリトン・ギターか、6弦ベースを弾いている。サム・ピック(親指に装着するピック)も使いながら、指で弾いている。
 みんなであんなような事をやっていたら、デニー・コーデルが言ったんだ。
「ああ、これは良いぞ。すばらしい。こいつを録音してみないか?」

 そこでぼくはすぐに書き上げた。歌詞のいくつかは、コーデルの競馬用書類から拾い上げた。彼は競馬の書き込みフォームを持っていて、ぼくはそこから馬の名前を取ったりしたんだ。ともあれ、ただの言葉遊びだよ。

Q:とてもディランっぽいですよ。

TP:まったくだな。ロード・ターキーの事も出てくる。こいつはスタン(・リンチ)と、マーティ(・ジョウラード)の前のバンドなんだ。歌詞はこんな風。"Road Turkey's in the lobby" ただの言葉遊びだけど、とても格好良い小品だよ。

Q:それから、ライブ音源で凄いのがありますね。アコースティック・バージョンの "King's Highway"。これのヴォーカルには情熱がこもっています。

TP:カリフォルニア、オークランドで録音したんだと思う。マイクがマンドリンを弾いている。
 ショーでああいうのをするのが好きなんだ。ああいうこじんまりした感じのセクションで、マイクがマンドリン、ぼくがアコースティック・ギターで、ドラムを入れない。曲を借りてくるみたいに持ってきて、アレンジするんだ。
 それで、ああいう風にうまく仕上がった。何かのB面として入れられたよ。

Q:"Depot Street" はマッドクラッチ時代の曲ですね。その年一杯録音に費やして、発売されました。

TP:うん。この曲が(マッドクラッチとして)発表された唯一の曲だった。シングルで、"Depot Street" のB面にぼくが書いた "Wild Eyes" という曲が入っていた。
 これはLAに来て間もない頃のものだ(1975年)。サンタ・モニカのヴィレッジ・レコーダーで作り、デニー・コーデルがプロデュースした。

Q:デポ・ストリート というのは、ゲインズビルの通りなのですか?

TP:そう。デポ・アヴェニューだっか、デモ・ロードだったかな。でもぼくは「デポ・ストリート」と言っていた。それをベースにしている。
 ぼくが作り上げた、ちょっとした物語だ。とにかく、何かしらでこの通りのことが頭にあったんだな。

Q:レゲエのリズムを試してみようとしたのですか?

TP:やってみた。コーラスにちょっとレゲエっぽいリズムを入れてみたんだ。スカっぽいビートを試していた。
 あれは絶対、(デニー・)コーデルの影響だよ。だって彼はジャメイカに行ったことがあって、いろいろなレゲエ・グループとも契約してるんだから。
 そんなわけで、ぼくらがLAにやってきた時から、彼がいつもレゲエとかを聞かせれくれたんだ。

Q:"I can't Fight It" という曲についてはいかがです?これまたマッドクラッチの曲ですね。

TP:うん。結局発表されることのなかったアルバムのために録音したものなんだ。

Q:とある女の子に関する曲ではありますが、ミュージシャンとしての夢を叶えることについてでもありますよね。こういう歌詞があります。
"This dream has become an obsession / 'couse I've held it inside so long / All my friends say I should use discretion / but I know I'm just not that strong."
 リズムについて話していたところですが、すべての歌詞が完璧なリズム感を持っています。

TP:この曲は本当に古いね。ぼくはただ、ロックンロール・ソングを書きたかっただけだと思う。そういう大きな事を考えていた訳じゃないと思うな。
 ぼくはベースを弾いている。我が懐かしきベーシスト時代だね。ベースを弾くのは大好きだし、今でもそうなんだ。

Q:"Since You Said You Loved Me" は、リリースされなかった、あなたのファースト・アルバム向けの曲でした。エモリー・ゴーディがベースを弾いていますね。アル・クーパーがキーボード、ジム・ゴードンがドラム。

TP:マイクがギター。

Q:マイクは、「良い録音ではあるけど、感傷的な曲だ」とコメントしていますね。私はべつに「感傷的な曲」だとは思いませんが。

TP:(笑)メジャー・セブンス・コードの使い過ぎなんだよ(笑)

Q:だから感傷的なのですか?多くのミュージシャンがメジャー・セブンス・コードが好きじゃありませんね。ちょっと洒落過ぎていると考えているようですが。

TP:そう、使うときは気をつけないとね。でも、ぼくは何にしろ感傷的だとは思わない。
 ぼくにとって、この曲はリズム&ブルースっぽい曲だな。それから、ぼくはリード・シンガーとして成長しようとする途上だった。マッドクラッチでは、常にぼくがシンガーという訳ではなかったからね。ベストを尽くそうとしていた。

Q:とてもソウルフルなヴォーカルですよ。

TP:リズム&ブルースっぽくできていると思う。ボックスセットができるまでは、ほとんど聞かれることがなかった。でも、なかなかクールだと思ったよ。
 ジム・ゴードンがすばらしいね。ワォ、彼は最高だよ。

Q:それからアル・クーパーがオルガンですね。

TP:ああ、彼はオルガンに関しては凄まじいよ。エモリーもすばらしい。
 エモリーは実に様々な人々とプレイしているんだ。エルヴィスとか。それに、あの偉大なるグラム・パーソンズのアルバム [Grievous Angel]でもプレイしている。彼は古典的なタイプのプロで、本当に凄いんだ。あの、ぼくらと一緒にプレイしたこじんまりしたバンドは、良かったよ。

Q:"Turning Point" はバディ・ホリーにインスパイアされた曲です。あなたは「不吉な曲ではあるけど、楽観的な曲でもある」と発言していますね。

TP:この曲は [Long After Dark] のセッションでやったんだと思う。ずいぶん採用しない曲があったんだ。最後の最後でアルバムに入れなかった曲も数曲あった。
 ジミー(・アイヴィーン)はちょっとカントリーっぽ過ぎとでも思ったんだろうな(笑)。ぼくは全然カントリーっぽいとは思ってなかったけど。

Q:あなたはこれをローン・ジャスティスというバンドに回しましたが、採用されませんでした。

TP:そうなんだよ。彼らは "Ways to Be Wicked" を録音していた。これまたアウトテイクで。それで、ぼくは彼らの次のアルバム用に "Turning Point" を回したんだけど、使われなかった。連中には良いと思ったんだけどな。

Q:"Ways to Be Wicked" のコーラスもすばらしいですよね。

TP:うん。ジミーにかっさらわれたみたいなものなんだよ。この曲をローン・ジャスティスの所に持って行って、あげちゃったんだから。ずっと前の、[Damn the Torpedoes] の時の話さ。
 マイクとぼくで書いた曲なんだけど、 上手くキメることができていなかった。どう録音すれば良いのか分からなかったんだ。
 ところがジミーときたら、ぼくらが作ったものを持って行ってしまおうと企て、ローン・ジャスティスにやってしまったんだ。あいつ、ぼくに確認もしなかった。ぼくは後になって知ったんだ。
 でも、ぼくは構わなかった。ともあれ、ぼくが知ったのは、彼らが録音してからだった。

 ぼくらの、あるバージョンをボックスセットに入れてリリースした訳だけど、それまでは、この曲を聞く機会は、ローン・ジャステシスのバージョンに限られていたんだ。

Q:ジョージ(・ドラコウリアス)は、あなたがたが聞く前に、ボックスセットの曲目を決め込んでいたのですか?

TP:いや。ぼくらも時々顔を出していたから。彼に確認していたし、どんな事をしているのかも見ていた。時によっては、数日付き合った。
 でも、彼が仕事をしている間のほとんど、ぼくらはロードに出ていた。だから、顔をだしたり、出さなかったりだった。

Q:彼はすばらしい仕事をしてくれましたね。

TP:本当に、よくやってくれた。

Q:彼が採用しなかった中には、私たちが聞いたこともなかったような曲もありましたか?

TP:うん、入らなかった曲もあった。スペースが足りなかったか、単に入れるほどの域に達していなかったか。
 とにかく彼は倉庫の中にある内の、ベストなものを選んでくれたんだと思う。他にも色々あったんだろうけど、基準のレベルには達していなかったんじゃないかな。

Q:それこそ正に、あなたがたが如何に多作であるかの証明ですね。傑作がディスク6枚分なのですから。

TP:まぁ、ずいぶん長い間スタジオに居るからね。ハートブレイカーズって言うのは、今の今まで、ずっと正真正銘のワーカホリック(仕事中毒)なんだよ。ぼくらはそうだった。

 ぼくらはロックンロールに生きてきた。パートタイム労働者ではなかった。一日24時間、それに費やしてきた。ぼくらにとって、それが全てだ。
 もしぼくらがツアーに出てライブをやっていない期間があるとしたら、スタジオに突進しないでいられる期間なんて、せいぜい一週間か二週間が限度だ。一度スタジオに入ったら、次のツアーに出るまで籠っている。
 それに、ホーム・スタジオでの作品でさらに作品が大激増する。マイクとぼく、ハウイがそうだな。そんな訳で、ぼくらはずっと働いてきたわけだ。

 ハートブレイカーズは、録音向けのリハーサルというものをしたことがない。これは普通のことじゃない。
 ぼくらはスタジオに集まると、一緒に曲作りを始める。それでリハーサルを兼ねてしまっている訳だ。
 だから、「予行演習」みたいな録音用のリハはしない。これは、ぼくらはどうやれば良いのかを、全然分かっていないという事でもあるんだ。ハートブレイカーズは、この授業の単位は取ろうともしなかった(笑)。
 ぼくらはスタジオに集まると、ただやるだけ。ちょっと高くつくやり方かも知れないけど、ぼくらに分かっている、唯一の方法なんだ。

 それに、ぼくらには、A&R担当者がついたことがない。レコード会社からそういう人を付けられた事なんて一度たりとも無いし、ぼくらの仕事にああだこうだと言う人も居なかった。
 ぼくらはただやることをやって、録音するだけ。
 とにかくぼくらは、会社から小銭を渡されて、そこらをウロウロする連中に囲まれているようなバンドではなかった。そんな事には、決して容赦しなかった。この点において、ぼくらはユニークな存在だった。
 だから、ぼくらが(会社から)信頼されている点に関しては、ラッキーだった。レーベルも、とても信頼してくれた。ぼくらはそういうやり方しか、知らなかったんだけどね。

 全キャリアにおいて、ぼくらは仕上げまで自分でやり遂げてきた。そして決して人に口出しされることもなかった。曲作りに関して口を差し挟もうとか、割り込んでくる人も居なかった。
 みんな、ぼくら自身のやり方を見いだせるようにさせてくれた。

Q:それが上手く行ったわけですね。リハーサルをしていない箇所はライブっぽく、その場限りっぽくなります。こういうやり方は、「作り込みすぎ」を防いでくれますから。

TP:それがぼくらの法則なんだ。リハーサルをしてから録音すると、素晴らしく魔法のようなテイクが録れてしまい、それ以上テープを回そうとは思わない。
 一方、ぼくらは全てをテープに録る。ぼくが言っているのは、正に「全て」って事なんだ。バンドが部屋に居るときは、テープを回すのがぼくらのルールだ。
 だって、いつ誰かが再現不能な演奏を始めるか、分からないじゃないか。だからべらぼうな量のテープを使い果たす。何せ誰かしらが部屋に居れば回しちゃうんだからね。そういうやり方なんだ。
 もしぼくが部屋に居るとして、何をプレイし出すか分からないだろう?だからいつもテープは周りっぱなし。

Q:スタンがただドラムの調整をしているだけの時もですか?

TP:だれが何をする時もさ。誰かか部屋に居れば、テープを回す。ここが重要なんだ。テープを取り替えれば、2トラック録ることになるね。いかなる物も録り逃しちゃいけない。

Q:私は "You Get Me High" という曲が好きです。

TP:(笑)これまた、即興だな。ほんと、ただのジョークなんだよ。実際のぼくらは、それほどエラくハイになっちゃうようなタイプじゃないし。
 実はこの曲、ヨーロッパでのステージで、即興演奏したものだと記憶している。ある晩、ぼくがプレイを始めて、おバカみたいにバンドを引っ張っていったんだ。これってクールじゃんと思って、すごく上手く行ったんだ(笑)。
 それでこれを取っておいて、録音することにした。

Q:コンサートでこれをやるというのは、ずいぶん大胆不敵ですね。

TP:まぁね、今じゃああいうのをやるなんて、想像できないな。でも、何かで上手く行ったから、やってみたんだよ。

Q:これは恐らく、あなたの曲の中でも最もポット(マリファナ)をやることについて明白に述べている曲になりますね。

TP:うん。ぼくは「ミスター・ポット」ってタイトルをもらうことになった。でも、今では全然吸わないんだよ。全く。人がそれを信じるかどうか、気にしてたかどうかも考えたことがないけど。

Q:"You Don't Know How It Feels" で、"Let's roll another joint (ハッパをもう一本巻いて)"と歌っていますけど。

TP:コンサートでこの曲がが始まると、ハッパの雨あられ。みんなぼくらにハッパを投げてきて、ステージに溢れる。始まるといつもこうだ。そしてみんな一服やりはじめる。
 ともあれポットは、やり過ぎなければ、悪いものではないと思う。軽くやる程度なら、悪い事じゃないよ。アルコールよりは余程マシだと思うけどな。

Q:曲作りの助けにはなりましたか?

TP:たぶんね。常にそうとい訳じゃないけど。セッション中だったら、夜も押し迫ってプレイバックの時に、少しやるって方が良い。ポットをやるとムチャクチャになっちゃうんだったら、やり過ぎちゃまずい。上手く頭が働かなくなるから。
 だから、ぼくはこう考えるようにしているんだ。もしポットを吸いたくなったら、セッションが終わって、聞き返す時居にしよう、って。

Q:ミックス作業中はどうですか?

TP:いや、やらない。だって、とても大事な作業だろ。ミキシングの時は、自分の感覚をちゃんと保っていたい。外科手術みたいなものだもの。そして、曲を磨きあげてゆく。

 誰かが席を外していたとしても、ミキシングっていうのは、総掛かりのタッグプレイなんだ。その外していた人が戻ってくると、こいつは頭がフレッシュな状態だから、詰めていた人には聞こえなかったものが、聞き取れたりするんだ。
 だから、ぼくとマイク、それから一緒にプロデュースする誰かの内、一人が外すようにしている。その一人はミキシングルームから出ているんだ。
 ぼくが出ていた人だとするといつも、部屋に入ってくると、こう言うことになるんだ。
「なぁ、タンバリンがうるさ過ぎるよ。」
 すると、部屋に居た方が、「まじかよ、気づかなかった」となる。
 ともあれ、部屋から一度も出ることなしに、曲を百回も聴いたりすると、ミスをするものなんだ。だからこれは自然なことだし、より良くしていく手段なんだ。

 リック・ルービンと一緒に [Wildflowers] をやった時のことを思い出すよ。誰かがしばらく舵取りをすると、今度は他の誰かがその役割をする。
 ぼくらで最初のミックスを作ると、そいつをカセットテープに落として、車の中でかけたんだ。車の中で聞いて、またスタジオ入りする。ぼくらはこの車がえらく気に入ってしまって(笑)。
 レンタカーだったんだけど、借りれなかった時なんて、パニックを起こしちゃって(笑)。誰かがどうにかしなきゃならなかった。ぼくらがカセットプレイヤーとして使うために、適当な車を手に入れなきゃならなかった。ノイローゼ状態だな。

 ある時、(ロジャー・)マッグインが来たんだけど、彼は無線装置を作ってくれたんだ。スタジオから発信できるようにね。それを駐車場で聞けるようにしてくれたんだ。実際、スタジオから駐車場に、たくさん流れるようにしてくれて、ぼくらは駐車場に止めた車のラジオで聞くって寸法だった。
 俺たち、イカれてるよね(笑)。車のラジオのサウンド環境を良くしたかったんだ。

Q:ミックスを調整するために、車で聴くのですか?

TP:そうだよ。ぼくらは車で曲を聴いてから、「バス・ドラムの音が足りないな」とか何とか言うんだ。それからスタジオに戻り、追加作業をほどこす。

Q:ヴォーカルがそのまま聞こえるような、ちょうど良い位置に、上手く調整されていますね。でも、同時にバンドの音もよく聞こえています。
 ザ・ローリング・ストーンズはミックス段階でリード・ヴォーカルを後ろに下げるようなことをよくしますが、あなたにはそういう所がありません。録音したものと、ヴォーカルを、いかにしてちょうど良く調整するのですか?

TP:とても難しいことだな。長い期間を経て、ぼくはどんどんヴォーカルの音を大きくしてきたと思う。これは少し変わったミックスなんだ。人によっては、あんなに大きく声をミックスしないから。
 ぼくはビートルズの、ああいう声のレコードが好きだ。声を中心にして、その周りにサウンドを構築していくようになっている。ぼくらにとっては、そうだね。

 これはぼくらのやり方なんだ。まず声をしっかり定めて、全てをその周りに配していく傾向にある。
 でも、どこに何をどう配するのか見いだすのは、いつも簡単に行くとは限らない。ヴォーカルを大きくし過ぎると、バンドの音が消されてしまう。だから、バンドの音も大きいままで、ハッピーなバランスを保てるようにしたくなる。
 でも声っていうのはあいかわらず存在している訳で、全ての音色や、複雑に入り組んだ声ををしっかり調整しなきゃならないんだ。そうすれば、微妙な音を聞き取ることができる。シンガーの声には、たくさんのフィーリングが詰まっているしね。

 ともあれ、ぼくは全ての録音を聴いている。リック・ルービン曰く、ぼくは彼が一緒に仕事をした中で唯一、全てに耳を通すアーチストだそうだ。ほとんどの人は、自分の音しか聴かないんだって。
 でも、ぼくは全てを聴く。全ての演奏を聴く。全てを見落とさないように聴き込んでいるんだ。

Q:エフェクトを沢山かけるのは好きですか?リヴァーブ(響きの増幅)などを、ヴォーカルにほどこすものはどうでしょうか?

TP:ぼくらは普段、声には何の手もかけないことにしている。そのままにしておく。
 [Full Moon Fever] の頃から、そうしているな。ジェフ(・リン)が言っていたんだ。
「声に手を付けちゃいけない。そのまま、ドライなままにしておいて。放っておくんだ。」
 ぼくらはそのやり方がとても気に入って、あれ以来、そのやりかたのままで来ている。今やリヴァーブとかを聴くと、頭がおかしくなりそうだ。特定の楽器にエフェクトをかける以外は、リヴァーブは全く使わない。

Q:全ての音が濁ってしまうからですか?

TP:何もかもがスピーカーに逆戻りしちゃうからだよ。
 80年代の初期には、(リヴァーブを)多用していた。でもぼくにとっては、大失敗だった。全然好きじゃない。テープの遅回しとか、早回しは好きだけど。早回しとかリミッターは使うこともあるだろう。でも、ヴォーカルにリヴァーブをかけるのは好きじゃない。
 ぼくはドライな状態のマイクロフォンが好きなんだ。すべてをマイクに集約するようにね。そうすると良いサウンドが得られる。でも、ちゃんと歌わないとね!何も隠しおおせることは出来ないから。
 とにかく、サウンドはとても良くなる。

Q:ええ、とてもクリーンですね。ヴォーカルを録る時、特にお気に入りのマイクはありますか?

TP:ノイマンのマイクが好きだな。C-12。何年も使い続けている。ノイマン87を使うこともある。でも、普段はC-12を使うんだ。

Q:"Come On Down To My House" は、かなりはっちゃめちゃな曲ですね。あなたの叫び声から始まっています。

TP:そうだな。あれは、パンクっぽいなにかを、試しにやってみようとしたものなんだ。スピーカーを最大にしてね。良かったよ。好きだな。
 やり終わると、リフレッシュされたような気分になるんだ。歌う方としては、良いセラピーだよ。

Q:よく、アンコールで演奏していましたね。

TP:うん。アンコールで演奏していた。ショーの真ん中へんでやる訳には行かないだろ。あの曲の後で何をするのも、難しいし。とんでもない速さだから。本当に頑張らなきゃいけない曲だし、全ての力を出し尽くさないとね。

Q:スタンのプレイは、爆発的ですね。

TP:そうそう、かなり凶暴。

Q:"You Come Through" という曲も、大好きです。

TP:ああ、あれは良いね。レニー・クラヴィッツがドラムを叩いている。

Q:さらに、ベースとヴォーカルもやっていますね。

TP:そうだ。ぼくらはあらん限りのことをやり尽くしたんだけど(笑)、(レニー・クラヴィッツに任せるのは)ドラコウリアスのアイディアだった。録音が完了していなかったからね。

Q:ドラムスは入っていなかったのですか?

TP:入っていなくて、クリック・トラックだけだった。それでレニーに任せて、やってもらったんだ。彼はドラムとベース、バッキング・ヴォーカルを重ねた。もともとは、ぼく自身が入れた、バック・ヴォーカルが入っていたんだけどね。レニーが少しだけ歌を加えた。すごく良くしてくれたよ。シングルにとても良かった。

Q:以前、あなたのヴォーカルの幅広さについて話しましたが、この曲ではそれが良く出ていますね。とても低く歌ったかと思うと、高い音に飛び上がる。

TP:そう、スライ・ストーンみたいにやってみたんだ。すごく低く落として、もとに戻すだろ。そういうのに触発されたのさ。マイクのアレンジなんだ。

Q:エンディングっぽくして実は終わらず、また戻ってくるようになっていますね。

TP:ああ、あれはジョージ・ドラコウリアスのアイディアだ。ぼくはちょっと戸惑ったけどね(笑)。ぼくがあれを最初に聴いたとき、思ったんだよ。「なんで?」
 そのうち分かってきた。良い感じのグルーヴに乗っている間に、終わってしまいそうになり、また戻ってくるのが、まとめの総決算っぽく思えるんだ。
 この曲は大好きだよ。本当にお気に入り。あれを発表しなかったのだから、自分蹴り飛ばしてやりたいよ。どうしてだろうな。ポップ過ぎると考えたとか、なんやらだろう。それで、レコードには収録していなかった。

Q:ポップ過ぎますか?ソウルフルですよ。

TP:そうだな。どうして採用しなかったのか自分でも分からない。意味わかんないよ。

Q:ライブではやりますか?

TP:いや、やったことがない。うん、良い曲だもんね。ただ、なんとなくやってなかっただけさ。

Q:ジョージはこのボックス・セットに関して実に素晴らしい仕事をしていますね。多くの曲が、各自のエキサイティングな仕事で、ただそれらを追加していったにも関わらず、それぞれがアルバムとして立派に成り立っているのですから。

TP:とても特別なことだと思うよ。そりゃ、ぼくは贔屓目で見てしまう訳だけど。とにかく、彼の仕事にはとても満足している。
 もし彼が、ぼくらの全キャリアに渡るドキュメンタリーのような形にしてくれなかったら、あれらの多くの作品は失われてしまったわけだから、ジョージには死ぬまで感謝する。

 ただ単に、レコードを作った、ってだけじゃない。ぼくらのライフ・スタイルを反映したものだったんだ。
 ぼくらは人生の多くの時間を、スタジオで過ごしているのだから。ぼくらの使命はいつも、最高のトラックをモノにすること。信じられないほどにね。とにかくその事に夢中なんだ。今、ぼくが仕事を眼前にしようものなら、きみはきっとそのハードさに気が狂ってしまう。

 ああ、どいつもこいつも、よくやったものさ。とにかく一生懸命だった。ただ、何か最高の物を作りあげようとしていた。ただやるのみだった。さもなきゃ、死ぬほど挑戦する。だめな物も沢山できるし、そういうものも聴かされることになる。

Q:"Casa Dega" はすばらしい曲でね。

TP:「カッサデガ Cassadega」っていうのは、フロリダでもかなり変わったところで、占い師で溢れかえっている。町全体が超能力者や占い師が居るみたいな所なんだ。とても小さな町だけどね。想像の中で、ひと一人カサデガに行かせるようにして書いた曲だ。
 (カッサデガ Cassadegaの)綴りを間違えちゃったな。Sを二つ重ねるのが正しいんだ。まぁ、詩だから良いよね。

 ともあれこれは "Don't Do Me Like That" のB面で、[Damn the Torpedoes] の時期の作品だ。

Q:飛行機の中で書いたのですか?

TP:そう。飛行機の中で書いた。きみ、何でも知ってるね。

Q:曲と詞の両方を?

TP:うん。歌詞と、メロディを少し作ったんだと思う。それで、マイクのテープのどれかに吹き込んだんだ。ぼくらはそれを一緒にスタジオに持ち込んだ。
 アレンジとか、ほかにも全部やり直して、ベースを中心に、基礎を固めた。ベースとドラムがすべての中心になっている。

Q:コーラスがすごいですね。"I'm standing to believe things that I've heard / 'Cause tonight in Casa Dega, I hang on every word..."

TP:(コーラスを歌いながら)うん。そう、占い師やら超能力者が一杯。変わったアイディアだよ。ああいう連中がウヨウヨしている所に、みんな行って占ってもらったりするんだ。

Q:楽しい曲と言えば、"Heartbreaker's Beach Party" です。

TP:ああ、あれは意味不明。セッションの合間にブレイクがあったらとうなる、みたいな感じでやりたかったんだ。
 待ち時間なんかにも、よくバンドの演奏が始まるんだ。そういうときは、こういう即興演奏になる。バカみたいだろ。この曲が好きだって人が、何人も居るもんだから、可笑しくなっちゃうよ。全くの意味不明なのにね。
 ただのジョークで作ったんだ。全部アドリブだし。でも、ショーの時、"Heartbreaker's Beach Party" とか歌っている連中を目にする(笑)。

 1982年にキャメロン・クロウがドキュメンタリーを作ったんだけど、この作品の名前が "Heartbreaker's Beach Party"。
 ぼくら、映画製作者にとって、最初のヒット作品を作る機会をけっこう提供しているんだ。(笑)
 今でも、キャメロンにこれに関して冗談を言うんだ。なにせ、これは彼の最初の作品だったからね。

Q:この曲のエンディングであなたが "Another modern classic." と言うところが好きです。

TP:ああ、"Another modern classic." ね。 あれが全てだな。でも、ただのジョークだよ。

Q:"Trailer" は、"Don't Come Around here No More" のB面曲です。[Southern Accents] 向けに書いたのですか?

TP:うん。この曲をアルバムに入れなかったのでは大きな間違いだった。どうして入れなかったんだろう。あのころ、ものすごく色々なゴタゴタが起こっていたんだ。体を悪くしたりとか何とか。とにかく、この曲はアルバムに入れるべきだった。
 この曲は重要だと思う。あの時期のある部分を表している。アルバムに入れるべきだったけど、B面になった。ぼくらはアルバムに入らない、B面を作るのって、好きなんだ。

Q:どうして?

TP:さらに稼げるから。アルバムを持っていても、シングルを購入する動機付けになる。
 ぼくがシングルを買うときも、それが楽しみだったんだ。アルバムに入っていないものを聴けるんだよ。だからぼくらはいつも、アルバムに入っていない曲をシングルに入れようとしてきたんだ。

Q:あなたは、"Trailer" に関して、「ぼくらは実際トレイラーで生活したし、そのことをよく理解できている」と述べていましたね。

TP:そう、そのとおりだ。ぼくらは、トレイラーで暮らしている人も沢山知っていた。
 これは一種の悲劇だよ。高校の恋人同士が勢いに乗って結婚してしまい、それは早すぎてトレイラーで暮らす羽目となり、上手く行かなくなってしまう。
"I could have had the Army / I could have had the Navy / but I had to go for a mobile home / kept up the payments / kept up my interest..." ある意味悲しい曲だ。"We used to dance to Lynyrd Skynyrd...she used to look so good at times..."

とにかく、アルバムに入れなかったのは、返す返すも残念だ。

Q:もう一つ、おかしくてテンポの早い曲が、"Gator on the Lawn" ですね。

TP:ああ、これは "Heartbreaker's Beach Party" のカテゴリーに入る類だな。ただアドリブでやってみたんだ。これが残るだなんて面白いな。ロカビリーみたいだろ。

Q:ゲインズビルにはそこらじゅうにワニが居るものだと解釈していますが。マーティ・ジョウラードの家の芝生に一匹現れて、彼の犬を食べてしまったとか。

TP:あいつの犬を食っちゃった!ぼくらは、こいつはかなりぶっ飛んだ話だと思った。あいつにとっては、そうでもなかったらしいけど。
 確かに悲劇ではあるんだけど、ワニがあいつの犬を食べちゃったって話は、馬鹿ウケだった。ゲインズヴィルでは、そこらじゅうにワニが居る。どこにでもね。

Q:それで、あなたの出版社をゴーン・ゲイター(ワニ)・ミュージックにしたのですか?

TP:うん。ワニに感化されたんだな。「毎日のように、うちの庭にはワニが居る」これぞ、まさにマーティの実体験だ。
 あいつの家族は、湖みたいな所に住んでいた。入江というか、湖というか。そこにはワニがウジャウジャしていた。ちょっとそこのほとりを歩くだけで、ワニが見えるんだ。それが家の芝生にのさばっているんだから、笑えるだろ。

Q:"Make That Connection" という曲も、アドリブの産物ですか?

TP:まったくをもってその通り。ぼくにアイディアがあって、みんなでアドリブでやってみたんじゃないかな。いくつかのポイントで、ぼくが歌詞に困っているのが分かるだろう。かなり思いつきでやっていた。出まかせだよ。ハウイが後ろのコーラスパートで、ファルセットっぽく歌っている。
 ライブ録音でやったんだと思うな。流れにまかせていたし。ああいうのも、楽しいよね。

Q:ブリッジが面白いですね。コード一つだけで押し通しています。

TP:(笑)どうすりゃ良いか分からなかったんだろう。またもや、ぼくが「A!」とか叫んで、その通りやったんだろう。そのうち、どのコードにも行けなくなったのさ。


Q:"Down the Line" についてはどうですか?

TP:ぼくらはまず、ドラムとベースのパートから作って、そこから歌を作り上げていった。それから、ホーンに、マーティ・ジョウラードを入れた。あいつの音をどんどん重ねて行ったんだ。

Q:マイクはこの曲にコードをつけるのに加わっていますか?

TP:あいつが付けたんだ。詞はぼくが書いて、ジェフ(・リン)がアレンジを手伝ってくれた。

Q:[Full Moon Fever] 制作中に、ハートブレイカーズのアルバムを作ろうとしていたのですか?

TP:ちょっとばかり。やってみようとした時期もあった。でも、さすがに仕事量過多だよね。全てをこなすのは無理だった。
 "Travelin" って曲は作った。これはハートブレイカーズの曲だ。ジェフは居なくて、ぼくとマイクだけでプロデュースした。あの曲は好きだよ。クールなサウンドをモノにしている。

Q:コーラスから始まって、すばらしい下降コードのメロディが含まれていますね。

TP:ああ、あの時は好きになれなかったけど。
 一日で仕上げたんだ。ぼくはセッションに向かう車の中で、書き上げた。歌なんて物じゃなかったな。実際、セッションに向かう移動中に、頭の中で作った。もっと良くなりそうだと思っていたからね。何せ、ハートブレイカーズにかかれば、全てが良くなってしまう。
 ぼくはスタジオに入ると、まっすぐピアノの所に行って、頭の中にあったものをそのまま形にした。それから、ぼくらは録音の準備を整えた。実際、一昼夜で出来上がった。

 ぼくは気に入ったけど、ほかのみんなはそうでもないと言うことは、雰囲気で分かった。みんな、ぼくと会って嬉しくなかったんだと思うよ(笑)。
 ウィルベリーズに参加していた時みたいに、ぼくはソロ・アルバムを制作中で、みんな思ったんだろう。「くそ、もうおしまいだ。俺たちだってやりたいのに」って。
 実際は、みんなだって他のプロジェクトに参加していたのにね。

 みんな、バンドがどうなってしまうのかを気にしていた。だからぼくは言ったんだ。
「バンドのレコードも作ろうぜ」
 でも、ぼくの手には余った。それで、その後集まって、「後でもう一度やらなきゃ」って事になった。でも、この曲はその後どこかに紛れ込んでしまった。一度きりしかやらなかったから。

Q:("Travelin'"は)エルヴィスにインスパイアされているようですね。

TP:全くその通りだ。この曲も、ボックス・セットを作るに当たって、ジョージ・ドアコウリアスが探し出してきてくれた曲だ。

Q:ボックス・セットには、スッティーヴィー・ニックスがハーモニーを歌っている "Apartment Song" の素晴らしいホーム・デモが入っていますね。

TP:(スティーヴィーとは)よくこう言うことをしていたんだ。ちょっと座って一緒に歌うみたいにね。場合によってはテープを回して、それを聞きながら飲んだりする。
 彼女はしょっちゅうぼくを訪ねてきていた。やって来ちゃぁ、歌ったり。そうやってスティーヴィーと歌うのが好きだった。

Q:あなたはこの曲を[Full Moon Fever] で録音しています。そのとき、スティーヴィーの歌を入れるという考えはありましたか?

TP:いや。あの時は、ソロでやるつもりだったと思う。実際のところ、一度もデュエット向きには考えたことは無かったんだ。
 でも、たまたまスティーヴィーがその場に居たから、書いた曲を披露して見せたんだ。そういたら彼女の気に入って、一緒に歌ってくれた。たぶん、それを録音したのはこの一度切りだろう。

Q:[Let Me Up (I've Had Enough)] 向けに、"Can't Get Her Out" を録音していますね。

TP:うん、そうだったかな。たぶん、スタジオで書いて、録音したんだろう。それから、スタジオの床に座り込んで、アレンジについてあれこれと相談した。
 すごく良いオルガンが入っているね。そのことをよく覚えている。びっくりするくらい良いものだった。
 それでぼくが、そのオルガンに乗せてギター・ソロを弾いた。ハウイの対旋律の歌も好きだな。ああいうのが得意だった。

Q:キャッチーなコーラスですね。"Can't get her out / Can't get her out of my mind..."

TP:ああ、初歩的だな。ベーシックで。でも、うまく行っている。

Q:"Got's Gift To Man" は素敵な(調が)Aのブルースですね。これは即興だったのですか?

TP:うん、完全にね。ただ四つカウントして、ギターを弾き、全てを良く聞けば、みんなどんどん入ってきて、さらに速度が早くなっていく。実の所ぼくらはテンポを保のは得意じゃなくて、さらにぼくは詞をどんどん即興で作っていった。
 これまた、ジョージ・ドラコウリアスが見つけだしてくれて、リリースに値すると考えた曲の一つだな。
 ただ、後者のリリースするって事に関しては、ぼくらは考えもしたとこがなかった。ほんの5分ばかりで作って、録音したものだから。それほど悪い出来じゃなかったんだな。

Q:ボックスセット最後の曲は、"Up In Mississippi" です。1973年,マッドクラッチ最初の曲ですね。

TP:うわぁ。これって、ぼくらが初めてスタジオに入ったときの物だよ。これを、ゲインズヴィルのペッパー・レコードのシングルとして録音したんだ。ぼくらの町じゃうまくやっていたし、かなりギグもやっていたんだ(笑)。

Q:良いサウンドですね。ミックスも良いし。

TP:ああ、ジョージがリミックスしてくれたんだと思う。8トラックで録ったんだ。ジョージがボックスセットのためにリミックスしたんだ。
 そう、確かにぼくらは小編成だけど良いバンドだったな。自分たちが何をやっているのかも良く分かっていなかったけど、とにかく録音するために数時間しかなくて、その分しかお金が出せなかった。実際、4時間程度しかスタジオに居なかったと思う。
 ともあれ、悪くないな。ぼくらは両面を実に素早く録音したものだった。

Q:地理に関する、良いセンスが感じられますね。"Up in Mississippi"とは。

TP:うん、ちょっと不思議な感じがする。本当にミシシッピーを上って行くには、まさに本当の南部に居なきゃならないんだから(笑)。
 ともあれ、ぼくは当時すごくナイーヴだった。あの時はこの詞で良かったんだろう。
 このボックスセットをしめくくるには、可愛くて素敵な曲だね。
 そこには、ただ少年たちが居るだけなんだよ。何かをしてやろうとしていた、青臭い少年たちさ。

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Song and music from "She the One" 1996

Q:[Wildflowers] に続く [She's the One]には、[Wildflowers] からカットした曲が入っていると言っていましたね。"Walls" は二つのバージョンがありますが。

TP:"Walls" は(She's the oneのための)新曲だった。この曲は、映画のためにチキン・シャック(当時住んでいた自称「ニワトリ小屋のような家」)で作った。映画のための歌を書くことになって、インスピレーションを得たんだと思う。
 最初のきっかけは、ある日ジョニー・キャッシュが言った言葉だと思う。"Some days are diamonds and some days are rocks" この一節を使って、この曲を書いた。

Q:良いオープニングです。

TP:うん、素晴らしい一節だと思う。

Q:"Walls (Circus)" と呼ばれるバージョンには、リンゼイ・バッキンガムによる、もの凄いハーモニー・ボーカルがありますね。

TP:彼は最高だよ。とにかく来て、ただ歌ってくれるだけで良かった。

Q:彼を呼ぶのは、あなたのアイディアですか?

TP:そうそう。ぼくはリンゼイの大ファンだからね。彼を呼んで、ああいう風にぼくを助けてくれたもんだから、すっかりノックアウトされてしまった。
("Walls" に二つのバージョンがあるのは)エド・バーンズのアイディアだ。彼は映画の始まりバージョンの "Walls" と、終わり向けのアレンジをしたもう一つが欲しかったんだ。それで二つの異なったものを作ったというわけ。
 とにかく、あの曲のリンゼイは素晴らしいよ。

Q:ハーモニーのアイディアを出したのは彼ですか?

TP:そう、みんなリンゼイだ。彼は録音に来て、一回のセッションで全部終わった。ぼくはただ後ろの方で座って、彼がやるのを眺めているだけだった。
 そしてこう。「よーし、俺がやりたかったのはそれ!」(笑)

Q:スティーヴィー・ニックスとリンゼイ両方と仕事をしたというのは、かなりのものですね。

TP:うん。(リンゼイとは)"The Last DJ" でも一緒に仕事をしている。"The Man who Loves Woman" で歌っているんだ。

Q:どういう訳で、[She's the one] のために、ベックの "Asshole" を選んだのですか?

TP:好きだからだよ。リック(・ルービン)がぼくに聞かせたんだ。映画には、本当におバカなやつ(asshole)が登場するし。それでこの曲は映画に合うと思った。
 エド・バーンズはこの曲に関しては少し納得していないみたいだけどね(笑)。どうしてかは知らないけど、とにかくそうみたい。

Q:ベックのファンですか?

TP:そうさ。彼は長く活躍できる、数少ないアーチストの一人だと思うよ。すごく幅が広い。しかも志が高いと思うな。

Q:"Angel Dream" についてはどうですか?

TP:"Angel Dream"はぼくがデイナに初めて会ったとき、彼女のために書いた。

Q:"Angel Dream #4"と、"Angel Dream #2" という二つのバージョンがありますね。

TP:(笑)まったくを以て、このナンバーには意味なんてないんだ(笑)。ちょっとしたジョークだよ。そう、デイナに恋をしたときに書いたんだ。

Q:"Supernatural Radio" はどうですか?

TP:新しく書いた曲。このレコードのために作った。このアルバムのために何曲か新しく作りはしたけど、ほとんどは [Wildflowers] からカットした曲なんだよ。未だに、[Wildflowers] に収録できずに、未発表になっている曲がいくつかあるんだ。だから、(She's the Oneは)パッチワークみたいなものなんだよね。

Q:"California"はいかがですか?

TP:"California" は [Wildflowers] の曲だった。

Q:"Hung up and Overdue" はかなり力強い曲ですね。この曲をあなたが [Wildflowers] に収録しなかったというのは驚きなのですが。

TP:そうだな、かなり色々と採用できなかったんだ。そういうのが、"Hope You Never" みたいに、[She's the One] の構成曲になったのさ。これも[Wildflowers]の曲だったんだ。
 "Hung up and Overdue" については、とても満足している。このアルバムの中で、おそらく一番の曲だろう。

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Echo 1999

Q:[Echo] は考え深いアルバムで、とても良い曲が含まれていますね。

TP:うん、何曲か良い曲があるね。"Billy the Kid" が含まれるけど、この曲は大好きだ。

Q:それから、"Counting on You"。

TP:あれも良い。シングルにするべきだった。どうしてみんなあれをシングルにしなかったのか、よく分からないよ。

Q:"Room at the Top" は、世界から切り離された孤独について考えずには居られない曲ですね。あなた自身の、あのころの心境なのですか?

TP:うん。あのころのぼくの状況を上手くまとめている。今でも聴くのが辛いんだ。

 ぼくらは最初のヴァースと、最後のヴァースを、まるっきりストレートに録音した。ソフトで、優しく、かなりカントリーっぽく。一貫してね。それからリック(・ルービン)が、二番目のヴァースでマイクのヘヴィなギターをガツンとかますアイディアを出した。あれは完全にリックのアイディアなんだ。それでリックとマイクがあのギターを試してみて、みんなすっかり興奮してしまった。素晴らしいサウンドだった。
 それから最初に戻って、ベースラインをすっかり変えた。ほかにもいくらか追加したんだけど、ヘヴィなコードを重ねるめに、ピアノを入れたんだ。そうやって、最初とはぜんぜん違う録音になった。
 あのセクションでは、ぼく自身のアコースティッック・ギターを外してしまった。スコット・サーストンも何かエレクトリック・ギターを弾いていて、たしかずっとレスリー(のアンプ)を使っていたのだと思う。録音はしてあったけど、ぼくのアコースティックはカットした。カットしてみると、全然違う感じになった。アコースティック・ギターがずっとかき鳴らしているのに比べると、すごく変わった感じになった。なんだか改造を加えたような感じだった。

 とにかく、ぼくらはメチャメチャこの "Room at the Top" が気に入った(笑)。今でも、このアルバムの中での良いところの一つだと思っている。
 この曲作りの行程には楽しませてもらった。ハートブレイカーズ仕事の良い例だね。ぼく一人では絶対にたどりつけないようなアレンジだ。ハートブレイカーズなら、ぼく一人では出来ない所へと達してしまう。

Q:この曲はピアノで書いたのですか?

TP:そう、ぼくがまともにピアノで弾ける調、Cでね(笑)。実は、この曲になる元ネタは、自分でも覚えていないほど大昔から、ピアノで弾いていたんだ。ピアノの前に座ると、この "Room at the Top" になる曲を何となく弾いていたわけ。あのコードをね。
 ある日ジェフ・リンと曲を作ろうとしていたら、彼がこう言った。「そういう曲をやりたいの?」
 ぼくは答えた。「どういうの?」
 ジェフが言った。「ずっときみがピアノで弾いているその曲さ。」
 ぼくは自分が何か弾いているのかも自覚していなかった。それで言ったんだ。
「これは曲とかじゃないよ。ただコードをいじくっているだけ。」
 するとジェフが言った。「いや、毎回おなじような曲を弾いているよ。」
 それでその夜ぼくは考えて、最終的にはモノにした。とにかくぼくは全然自覚なしに弾いていたからね。ピアノで弾いてみて、カセットに録音し、一緒に歌ってみた。それから分かったのは、ぼくがいつもピアノの前に座って弾いていた曲の調はCだ、って事だった。

Q:歌詞も美しいですね。世界のてっぺんにある部屋は、逃避であり、同時に必要な存在でもある。

TP:書き始めた頃に比べると、かなりの発展形になっているんだ。VH-1の「ストーリーテラーズ」でジョークで言ったよ。これは「現実逃避主義」って呼ばれる現実逃避の歌なんだ、ってね(笑)(バンドはVH-1の番組「ストーリーテラーズ」を1999年3月31日ロサンゼルスにて収録)。

Q:ギター・ソロの一方はとてもワイルドですね。ギター2本でやっているのでしょうか?

TP:いや。クラヴィネットとギターなんだ。ギターアンプを通したベンのクラヴィネットと、マイクのギターがかわりばんこになっている。
 そうは言っても、きみの言っていることも正しいんだよ。実際ギターが2本鳴っているから。マイクはもう一つのメロディを弾いているんだけど、誰かが間違えて両方とも一緒にしてしまったから。ぼくには素晴らしいサウンドに思えた。それでぼくらは、二ヶ所にだけちょっとだけ追加の録音をした。
 実際は、ソロ・セクションをカットしたんだ。長すぎたからね。二倍の長さはあった。ああいうのは好きじゃないんだ。演奏そのものは本当に素晴らしかったと思うけど、ちょっと長すぎると感じた。歌とのバランスが良くないので、カットしなけりゃならなかった。
 ともあれ、プレイヤーたちは実に素晴らしく、時々怖くなる。

Q:そしてこのアルバム全曲で、スティーブ・フェローニがドラムを叩いています。バンドにギアが入ったような感じの、ソリッドなプレイです。

TP:ああ、彼はとても良いよね。ついでに、ぼくらは彼に、絶対ドラマ・ソロは叩くな、って教え込んだ(笑)。
「だめだよ、スティーブ、これだけを弾いて。」
 すると彼が尋ねる。「本当?本当にこれで良いの?」
 ぼくはこう答える。「その通り。それ以上はなにも叩かないでくれ。」
 ともあれ、彼にはすごくナチュラルなフィーリングがあるんだ。スタジオ仕事も最高だし。仕事が早いし、テンポも完璧だ。ぼくらもテンポに関しては、完全に彼に頼っている。

Q:"Free Girl Now" に関しては、MP3の形でインターネット上に発表しましたね。あなたはこういうことをした最初のメジャーなアーチストで、かなり革命的なことでした。多くの人が、これはレコード産業の崩壊だと感じたようですが。

TP:そういう連中は、ラジオもレコード産業の崩壊だと思うのさ。もはや誰もがレコードを必要としない、ってね。それに録音用カセットテープの販売も同じようなものなんだろうさ。DATも同様に。
 ぼくは、これが("Free Girl now" をインターネット上に発表したこと)レコード産業の崩壊とかいうケースには当たらないと思うな。そういう連中の重要事項は「守り」なんだよ。でもぼくは、みんなに音楽を提供すれば、それはもっと多くの音楽が売れることにつながると考えている。
 この "Free Girl Now" ではそれが起こった。何せぼくは、シングルは出さないっていう方針を(会社から)説明されていたからね。出しても出さなくても同じだし。ポップ・シングル・チャートは今、(シングル売り上げではなく)エア・プレイ回数なんだから。どのシングルが売れたかっていう統計は取らないんだ。シングルはただ、アルバムを売るための宣伝ツールでしかないんだよ。
 それで今回の場合、ぼくは曲をMP3にしてアップし、ファンたちがダウンロードできるようにしたら良いじゃないか、って思ったんだ。すごく良いアルバムの宣伝になるし、誰でも曲を聴くことができる。そうしてみたら、すさまじい反応になった。一日で何百、何千って人が狂ったようにダウンロードしまくった。
 そんなもんだから、これはやらない方が無難だろうと、礼儀正しくアドバイスされた(笑)。

Q:レコード会社からですか?

TP:うん。ぼくらは会社からの許可を求めようともしていなかったし、ただやってみただけだった事は白状しないとね。会社の連中は礼節を守りつつも、おバカではなかった。こう言うんだ。「トム、こいつはおかしいよ・・・」

Q:「トム、もうやるなよ」とは言いませんでしたか?

TP:そうは言わなかった。ただ、「よした方が良かったと思うよ。小休止だな。」

Q:それであなたはどうしたのです?

TP:うん。その通りにした(笑)。

Q:会社の人は、宣伝ツールとしての効果は見いだしていましたか?

TP:そうだと思うよ。確認はしていないけど。

Q:"Lonesome Sundown" は調が揺れ動くという点が、音楽的に興味深い物になっています。どの調なのかもはっきりしません。

TP:そうだな、ぼくにもよく分からないんだ。キーがどうなっているか、自分でも分からない。でも、ああいうのは好きだよ。ある調から、ある調に飛躍できて、さらにどうにかして戻ってくるんだからね。もう話したけど、簡単な事じゃないよ。

Q:"Lonesome Sundown" には、あはたが書いた中でももっとも美しい歌詞が含まれています。"Redemption comes to those who wait / forgiviness is the key..." このヴァースのきっかけは何だったか覚えていますか?

TP:これに関しては、かなり熟慮を重ねたんだと思うな。どっぷりはまりこんで、やがて(歌詞が生まれ)始めた。この曲を書いた頃は、人生の中でも色々なことがあった。何年か前からは離婚の手続きをしていたし、新しい人生をスタートさせようと、頑張っていた。この曲にはそういうことは反映されていると思うんだ。それから、ぼくと、子供たちとの関係もね。
 そうは言っても、「俺は離婚したばっかりです」アルバムみたいな物は作りたくなかった。だからそう言うことは意識して退けようとした。でも、少しは入り込んできているんだな。

Q:このアルバム全体を通して、明らかな悲しい瞬間がありますね。

TP:そう、時々でてくる。寂しげな感じだな。

Q:でも希望もある。"Lonesome Sundown" は希望を抱かせる曲です。

TP:場合によっては、一つの曲の中に両方の感覚があることに気づかされるよ。多くの異なった人々が、それぞれの見方をもって一つの歌に対して持っているんだ。あるヴァースはハッピーな感じだし、次のヴァースはちょっとメランコリーだったりする(笑)。
 ぼくの人生の中にだって、色々良いこととかもあったわけだからね。実際、いまのぼくはハッピーさ。我ながらうまくやってきたものだと思う。だから曲の中には幸福感があるんだ。
 この曲の歌詞は何回か変わった。でも、最終的には、ぼくが気に入るようになった。この曲はほかの曲に比べて手が掛かったように思うな。

Q:Swingin'" という曲もありますが、かなりクールな曲ですね。

TP:"Swingin'" は良いよ。実際は完全なアドリブだった。それが曲作りになった。ほんと、まるっきりアドリブなんだ。最初の一節のコードを作って、そこにバンドが加わる。そして最初から最後までアドリブで詞をつけた。

Q:イカしたアドリブでしたね。

TP:うん、イカしたアドリブだ(笑)。幸運だったね。このアルバムの中でも一番簡単にできた曲だった。
 ぼくらはアルバムの最後に来て、"Free Girl Now" を録り直そうって考え始めていた。そうすればレコードがもっと良くなると思ったんだ。ある考え方では、レコードをもっと良くできると思われたし、ある人はそのままで良いと思った。このアルバムは、こんな風に・・・揺れ動いていたから。

Q:手を加えていない感じですが、それが良い感じですよ。

TP:うん、すごくナマな感じがする。とにかくぼくらはスタジオに集まり、土壇場になってもう一度、もっと良い録音ができるかどうか検討した。でも結局、ぼくらの気持ちはそう録り直そうと言う風には向かなかった。誰もがやり切ったということを悟っていた。結局は録音したものを聞き返さなかった(笑)。
 その代わりみんなで楽器をオンにして座り込み、ぼくがあの"Swingin'"のアドリブを持ち出した。
 実際、ぼくはバンドが演奏しているのに沿ってやっているだけだった。バンドみんなでジャムって、フィードバックのノイズなんかも入ってきた。さらに、ぼくはみんなとは違うことを始める。
 バンドは違うキーでやっていたと思うな。それでもぼくは続けた。そうするとホンモノのビートが現れた。これぞカオスだった。そして不協和音。全員のノイズが入り込んでいる。こうやって引き出した、素晴らしいギターサウンドや、こういうコードは、とても素敵だと感じた。ほかにはどうしようもなかったので、ぼくは演奏を続けた(笑)。それで、あのコードを何度も何度も繰り返した。
 最終的には、全員のコードがうまく合うようになってきた。
 そして、ク、ク、ァバン!ってドラムを加え、ぼくらのやりたいような形に落ち着いた。歌に関しては全部アドリブだよ。徹頭徹尾。

Q:"Swingin'"の歌詞は面白いですね。...like Benny Goodman, like Glenn Miller, like Sonny Liston...

TP:ああ、あれはどこからともなく、アドリブで湧いてきたんだ。Dizzy Gillespieも入れれば良かったな(笑)。
 (アドリブの)一連の演奏を見たリック・ルービンが、「これはスゴいレコードになると思う」と言った。ぼくはただアドリブをやっていただけだから、およそ信じられなかった。
 アドリブだけじゃなくて、ハウイがライブ録音のバックで歌ってはいるんだけど、でもそんなもんだ。ぼくが指定した数個のコードしかないし。それでぼくらはもう一回聴いてみて、もう再度録音してみた。それで出来たのがあれだ。
 出来上がってはみたものの、ぼくはこの歌を覚えてもいなかった。すごいスリルだった。この曲を覚えてもいないのに、出来上がってしまった。レコードになってしまったんだ。

Q:簡単に曲ができてしまったことが信じられなかったのですか?

TP:まさにそれなんだよ。だって、どこからどう出来たかも分からないんだよ。一体どっから発生したんだろう?
 でも、これもまた才能の一部なんだと受け入れられるようになってきた。出来たものに満足しなきゃね。

Q:事前に歌詞は出来ていなかったのですか?

TP:うん。事前には出来ていなかった。とにかく演奏が始まってからのことだった。

Q:"Accused of Love" についてはどうですか?

TP:"Accused of Love" には、二日くらいかかった。二日間、ずっと考えていた。まず、タイトルが浮かび、それが落ち(決め文句)になり、うまく良い場所に落ち着いた。自分ではどうなるか分かっていなかったからね。でも何が言いたいかは分かっていたけど、どう表現すればよいのかは分からなかった。
 デイナと一緒にいたときの事だ。結婚する前だけど(笑)。朝の5時くらいに、ぼくは彼女にこの曲を聴かせ続けていた。ギターで。ぼくはただ、タイトルになりそうな言葉をあれこれやってみていた。"Can of beans (マメの缶詰)"とか。そして突然、ポーン、"Accused of Love" に落ち着いた。ぼくは部屋じゅうで笑い転げ、すっかり得意になってしまった。

Q:"Accused of Love" は、ブリティッシュな、初期のビートルズっぽいサウンドですね。

TP:そうそう。その影響の巡り合わせを考え合わせると面白いよ。ぼくはあのメロディに関しては、ドン・エヴァリーを念頭においていたのだから。でも、60年代半ばのブリティッシュ・サウンドになった。ドン・エヴァリーは、60年代英国勢にすごく大きな影響を及ぼしていたんだ。

Q:ああいった古い曲は、3分以下の短い曲だという点などですね。

TP:うん。それくらいの時間にうまく全てを表現できると、最高だよ。

Q:ブリッジはインストルメンタルになっっていますね。ここに詞をあてはめて歌おうとは思いませんでしたか?

TP:いや。少しは考えたけど、ここで歌ってしまうとこの曲は言葉過多なものになると感じた。
 ブリティッシュ・インヴェイジョンのバンドなんかは、この(ブリッジをインストルメンタルだけにする)手法を取っている。彼らは、ブリッジで、変わったバリエーションのコード進行をひねり出したりしている。そう言う感じだ。

Q:最後のヴァースは、司法手続きについての話になりますね。防御のために窓から飛び出すとか。これらはタイトルが決まってから書いたのですか?

TP:うーん、最後のヴァースはちょっと違ったんだ。タイトルが浮かんでから、急に最後のヴァースを書き改めたんだ。

Q:新たな物を一から作り上げると言うよりは、パズルのピースを探すように、作り上げる物を発見するプロセスみたいな感じなのでしょうか?

TP:ぼくはずっとそういう感じで曲作りをしている。作品はすでにどこかに出来上がっていて、ただ、それが「来る」だけなんだ。そういう曲作りを楽しんでいる。
 アルバム作りはいつも楽しいよ。ぼくは曲を自分のペースで書いているし、早く作れという実際のプレッシャーとかは無いし。だから、素敵に楽しめる作業なんだ。全部出来上がってしまうと、悲しくなっちゃうんだ(笑)。
 もっと良いものが出来る準備はいつでも万端と思っている(笑)。

Q:楽しんでいるということは、よくあなたが選ぶメロディやコードのチェンジに反映されていますね。そういうチェンジは普通のことではありませんが、どれも必然的に思えます。

TP:そう?ありがとう。コードを習ったときは完璧だよ。素敵なコードがいろいろあるよね。"Lonesome Sundown" にも良いコードが使われている。ちょっと変わった循環コードだ。ぼくはあれが本当に大好きだ。けっこう笑えるよね。
 ほかには、"One More Day, One More Night"。あれのコードも好き。もともとは、スキッフルみたいな感じで書いたんだ。すごく速くね。(膝の上の手でリズムを取りながら、速いテンポで歌い出す)One more day ...って。
 でも考えたんだ。「スキッフル風は随分作ったからな」それでこの曲を、もっとバンドサウンドの、R&B風にしたんだ。一度はみんなスキッフルでやったんだけど、誰も何も言わなかった。でも、なんだか顔に「これって、結構やったことあるよね」みたいに書いてあるっぽくて。それで、R&B風にしよう、って言ったんだ。

Q:タイトル・ソングの "Echo" は美しい曲ですね。

TP:長い(笑)。でも良い曲だよ。長い曲であり、ちょっと面白い。これと言った緊張感がないんだ(笑)。色々な人に歌われている。
 語りっぽく始めて、やがて語り口調から脱していく。でもぼくは、この曲は最初に浮かんだまんまにしておくのが良いと思った。このアルバムに収録したものは全く編集を加えていないし、変に考えすぎたりもしなかった。とにかく、あるがままにしたんだ。
 歌っていうのは、場合によってはおっかないものだ。でも良いものでもある。ぼくらはこの曲について、恐ろしいくらい素晴らしいサウンドになったと思った。イントロが始まって、そのピアノがまず美しい。アップライトピアノを使ったんだ。
 でも、"About to give Out" ってロックンロールな曲の方が好きだな。あれの演奏はグレイトだよ。
 おかしいんだけど、このアルバムを聞くと、確かに自分でやったはずなのに、完璧に忘れてしまっている曲がでてくるんだ。その曲を書いた記憶さえない。"It Won't Last Long" の(歌い出す)I'm down, but it won't last long..." なんて、思ったよ。
「ワァオ、クールじゃん!」自分で書いた記憶がない。みんなで録音したことも忘れている(笑)。
 もう一度聞いてみると、奇妙な感覚がする。まるで初めて聞く人みたいな感覚で聴いているんだ。

 でも、それが "Echo" なんだろうな。ぼくの人生の中で、様々なことが起こった時期だった。ハウイはぼくらの眼前で壊れて行ってしまっていた。これは重大なことだった。ハートブレイカーズにとって、ハッピーな時期では決してなかった。
 このレコードのサポートツアーをやった。ぼくらにしては長いツアーだった。ぼくが一番よく覚えているのは、このツアーをやったことだった。ツアーが、ずっと、ずっと続いていた。このアルバムからの曲は少ししかやらなかった。でもぼくは、[Echo] 以降に、新たな境地に立てたような感じで、うれしかった(笑)。
 ほかのどこかにたどり着いたような感じの嬉しさだった。どうしてかは分からない。でもぼくらは、このアルバムの後、再び太陽の照る場所に戻ってこれたような気がするんだ。

Q:"Billy the Kid" についてはどうですか?

TP:この曲は、スタジオに向かうバグズのトラックの中で書いた。我が信頼すべきバグズは、仕事の時にぼくを連れていってくれるんだ。
 その途上で、この "Billy the Kid" のアイディアが浮かんだ。カーブの多いトッパンガ・キャニオンを通っている最中にメモ帳を引っ張りだして、まさに紙の端っこに書いていた。さらにトラックの中で、あちらこちらに書き散らした。この仕事への道すがらで、全て書き上げてしまった。そしてメロディも頭の中にあった。

Q:何か楽器を使ったのではなくて?ギターとか、何かは?

TP:何も。とにかく頭の中にあった。それで仕事場に持ち込んで言った。
「みんな、良いのが出来たと思うんだけど。」
 連中が聞き返した。「どんなの?」
「ちょっと待てよ、いま形にしてみるから。」ぼくは答えた。するとみんな、ぼくを「はぁ?」みたいな感じで見た。
 ぼくはギターを取り上げ、コードを形作り始めた。頭の中でメロディは出来ていたからね。その一方で、誓って言うけど「歌」そのものがどうなるのかは分かっていなかった。
 紙に歌詞を書き出して、アコースティック・ギターでコードを重ねた。それから、キーを適当な物に変更した。ぼくが頭の中でハミングしていたのは、実際にぼくが弾き始めてたのより、高かったから。
 "Billy the Kid" を聴くと最初に、ビヨォ〜ンって聞こえるよね。

Q:ええ、あれは何の音ですか?

TP:あれはね、マイクが全てのエンジニアリングをしていった過程でのことなんだ。あいつ以外のエンジニアは居なかった。バンドが演奏中の時、録音操作をしたのは、マイクだ。
 バンドが("Billy the Kid" の)演奏を始めて、良い感じになってきたから、ぼくがマイクに叫んだんだ。「録って、録って!」するとあいつはクルリと振り向いて、録音操作をした。聴いてみると、マイクのギターはゆっくりと入ってくる。ちょうどマイクが自分のギターの準備をしていたからね。
 とにかく、"Billy the Kid" はそんな具合だった。ぼくらは演奏してみて、曲の最後にはえらく興奮した。ぼくらはみんな、「よし、この曲はスゴいぞ」と言った。
 それで、ぼくらはこの曲を一晩中演奏してみた。でも、一番最初にやった時のような良い感じにはならなかった。それで、頭にノイズの入っている最初のトラックをどうにかして使うことにした。それで、あの音が入っているやつを使うことになったのだけど、そのノイズは残した。

Q:"I Don't Wanna Fight" はマイク・キャンベルが独りで書いた曲ですが、あなたは全く手伝わなかったのですか?

TP:ぼくが書いたところ、知ってる?I'm a lover lover lover のところを書いたんだ。

Q:一番おいしい所じゃないですか。

TP:そこにぼくは入り込んだ(笑)。

Q:曲全体のオチになっていますね。うまく作用しています。

TP:ぼくもそう思う。でも、マイクは曲のほとんどを書き上げていたから、この曲にぼくをクレジットするのは、フェアじゃないと思った。とにかく、このワン・ラインはぼくが助けてあげたんだ。

Q:私は "Rhino Skin" も大好きです。笑える曲であると同時に、悲しい曲でもあります。

TP:たしかに、暗い曲だな。陰鬱であると同時に、ユーモアもある。中には、"elephant's ball" って歌詞を不快に思う人も居るんだ。

Q:"elephants"にですか?

TP:(笑)さぁ、分からない。どこがどう不快なのか皆目見当がつかない。リック(・ルービン)もダメな方だった。彼はぼくに、この一節をはずさせようとした。でもぼくには無理だった。やってはみたけど、どうもサウンド的にしっくり来なかった。だから残す、って言ったよ。そう歌えば、うまくサウンドに乗るし、それに別に不快でも何でもないって思ったから。
 それにリックは、どこがどう良くないかを説明出来なかった。実際、ある時、この一点については、「このラインは変えるべきだ。こいつがこの曲を軽薄にしている」って言われたんだ。こいつに関しては、脅しみたいな感じだったけど、でも結局は残して良かったと思うよ。

Q:同感です。バーで一杯やった男が、誰かに話しかけているような感じがしますから。

TP:ぼくもそれを考えていた。"You need elephant balls if you don't want to crawl..." 会話文みたいなものだと思うんだ。きみがそう解釈してくれて嬉しいよ。

Q:"Rhino Skin" というのは、丈夫な皮膚になることを必要とするという事を表現するには、完璧なタイトルですね。

TP:うん、最近じゃそういうのが必要だからね(笑)。

Q:"One More Day, One More Night" では、"God I've had to fight / To keep my line of sight on what's real" と歌っています。あなたは音楽産業の内側に居ながらにして、この業界の外に居る人のように、アルバムに関する意義やインパクトに関する考え方を、自分でキープできていると思いますか?

TP:できていると良いと思う。みんながぼくをそうであるように望んでいたし、今でもそうだ。レコードがぼくにとってどれほど大事なものかは、自分でも分かっている。どれほど重要か、人には分かってもらえないだろう。人は、ほかの物にも考えが及んでしまうだろうから。ぼくはそのままで居ありたい思う。だれもがアルバムを買って、何事かに触発されてほしい。みんなそうだと思うよ。とてもたくさんの人が、ぼくにそう言うからね。
 ぼくは自分のためにもそうしているんだ。もしぼくが止めてしまったら、誰かが同じように感じるだろうね。

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Anthology: through the years. 2000

Q:[Anthology] はあなたのそれまでの作品をまとめたものであり、さらに "Waiting For Tonight" と、"Surrender" の2曲をボーナス・トラックとして収録しています。
 "Waiting For Tonight" は、[Playback] に収められた "Travelin'" と同時期に録音したものですか?

TP:いや。時期的に近くはあったけどね。これはたぶん、ハートブレイカーズが帰ってしまってから、ぼくとマイクが取り上げてたものだと思う。二人ともまだスタジオに居られる時間があって、"Waiting For Tonight" をやってみることにしたんだ。
 だから、ハートブレイカーズの曲というわけではなく、ぼくとマイクの作品なんだ。それから、ザ・バングルズ。

Q:バングルズのパートは素晴らしいですよ。

TP:ああ、彼女たちはとても良かったよ。

Q:シングルにも出来そうですが。

TP:そうするべきだったな。ラジオでよく流れただろう。ビデオとか作っていれば、さらにヒットしたんじゃないかな。
 でも、我ながらやり過ぎ感のある作品だなんだ。作り込み過ぎて、やりすぎてしまっている。あのころの数年は、ナマな感じに手を加える傾向があったから。
 この曲はぼくのお気に入りだ。今までの中でもね。

Q:ハーモニーが素晴らしい。

TP:うん、すごいね。この曲がとても好きだから、時々ライブでできたらなと思うんだ。

Q:やった事は無いのですか?

TP:いや、一度も無い。だって、バングルズと一緒じゃないから。でも、もしうまくアレンジして、いい形にすれば、できると思うよ。ともあれ、やってみたいな。お気に入りだから。

Q:バングルズがスタジオに来たとき、彼女たちが同時にしゃべるものだから、ものすごいカオス状態だったという記事を読みましたよ。

TP:(笑)ああ、女の子たちとやるっていうのは、ぼくらにとっては、変わった経験だった(笑)。
 バングルズのことを、お手軽ポップ・ミュージックみたいに考えている人も沢山居るらしいけど、でも、ぼくはそういうのが好きだったりする。彼女たちのサウンドはとても良いと思うよ。ママズ&パパズのようなしっかりしたサウンドを持っている。
 だから彼女たちと仕事ができて、とてもエキサイティングだった。嬉しかったよ。彼女たちがナチュラルに歌ったものが、あのアレンジになったんだ。あの子たちに歌わせて、ただ録音しただけ。頭を突き合わせて、あの素晴らしいパートを作り上げたんだ。

Q:ええ、メロディに対して、素晴らしい対旋律になっています。

TP:そうだろ。頭の中で思い浮かべたああいうものを、実際に体験するのは、本当に素晴らしい事だった。思ったように上手く行くこともあれば、行かない事もある。場合によっては、頭の中で最高な人選だと思っても、実際は上手く行かないこともある。
 でもこの曲は、上手く行った方の実例だ。本当によく仕上がったよ。

Q:この曲にはいくつか、素晴らしい詞がありますね。始まりの、"I went walking down the boulevard,past the skateboards and the beggars..." のところが好きです。ヴェニス・ビーチみたいな感じで。

TP:ヴェニス・ビーチなんだろ。

Q:[Full Moon Fever] のためにやろうとしていたのですか?

TP:この曲は [Full Moon Fever] セッションの最後の方に出来てきたのだけど、その時ジェフ(・リン)が居なかった。彼はイングランドに居てね。
 ぼくら(マイクと自分)はこの曲と、ララバイ(子守歌)調の "Alright For Now" を作った。それで、この2曲のどちらにしようかという選択になり、結局後者を選んだ。ああいう曲はやっていなかったからね。
 さらに次のアルバムを作る段階になると、ぼくはまた他の曲を作ってしまっていた。

Q:あなたの他の曲でも言える事ですが、この曲ではあなたがそれほど多くのコードを必要としないことを示していますね。コード進行を繰り返し、その上でメロディがどんどん展開して行きます。"Waiting For Tonight" ではF#マイナーで、それがとても良い感じです。

TP:そうだな。こういうのは、バディ・ホリーを聴いて学んだんだ。彼は決して揺らぐことのない、極めてシンプルなコード構造で、さらにあの素晴らしいメロディを作って行っている。
 彼の曲を聞き込んで読み取った事なんだけど、バディは、彼のやり方を、ミッキー&シルヴィアの "Love Is Strange" という曲にうまく当てはめている。聴けば、この曲がバディ・ホリーに与えた影響力の強さが分かるよ。もの凄い影響を与えたんだ。彼は"Love Is Strange" の本質をできうる限り引き出しているのだから。彼はコードを逆にして、入れ替えて、ひっくり返したりしてね。彼のメロディも、同様だな。彼はベーシックなコードで、多くのことを成し遂げている。

 コード二つだけを奏でるとしよう。そして忍耐力さえあれば、それだけのコードで、うまく運ぶメロディを見つけだすことが出来る。出だしから、コーラスまでさ。うまく録音までアレンジできれば、エンターテインメントの出来上がりだ。"Free Fallin'" は曲全体で、三つのコードしかない。それ以外にコードを知らなかったからじゃなくて、必要なコードがそれだけだったからさ。
 場合によっては、不必要なことまでやろうとしていないか、自分で自分を監視する必要がるんだ。

Q:あなたはそれが得意ですね。あなたは以前一度私に、もしコードが歌にフィットしなければ、その歌にふさわしくないコードなんだと言ってましたね。

TP:たぶん、その通りなんだ。

Q:歌を聴いた人々が印象づけられるのはそのコード進行ではなく、歌その物である ー 詞であり、メロディである。

TP:うん、ぼくの音楽は「単純だ」なんて記述を読むたびに、笑っちゃうよ。単純だと思うんだったら、やってみれば良いのさ。単純なんじゃない。多くのニュアンスを含んでいるんだ。光があり、陰がある。これは単純な事ではない。実際やってみると、すごくハードであることもたびたびある。
 もし、ブリッジを書いたところで、出だしやコーラスほどは上手く出来ていなければ、そのブリッジは曲にふさわしくないんだ。出だしはコーラスと同じように良くなければいけない。組み立てるように考えて行けば、すべてのセクションが等しく良くなければいけないだろう。
 何か書いてみて、ミドル・エイトが出来れば、何か他の部分と組み合わせてみる。それが上手く行けば、実に簡単な手法だ。でも、どうやっても上手く行かなきゃ、せっかく作った物も捨てるしかない。

Q:あなたの曲は他に比べて、シンプルだと思いますが。

TP:ほかはシンプルじゃ無いのかもね。最近楽器屋に行ってみたら、ある男がぼくにアピールしてきたんだ。ぼくらの曲の断片を弾いて見せて言うんだよ。「ちょっと、ほら、みてよ」でも、どれもこれも間違えているんだ。
 たしかに、和声の基本系は弾いてるんだけど。でも、ぼくらは色々なバリエーションを用いているから。例えば、Gひとつ取っても、ぼくは色々な展開形を使う。Gをそのまま弾く必要もないだろうから、そうは演奏していないんだ。
 ともあれ、その男は正しく弾いていると思っていたんだろうけど、そうでも無かったんだ(笑)。

 それに、コードに対してベースも動いている。そうやってコードからコードへの動きを作り出しているんだ。そうやって録音したものには、べらぼうなニュアンスの違いが含まれることになる。聞き取れる以上の物が鳴っているんだ。潜在意識レベルで作用している。
 何かを録音しようとすると、こう自分に問いかける。「ナントカさんが録音したナントカはこう聞こえるんだけど、これってアレンジの問題なんだろうか?」
 でも、結局は潜在意識レベルの作用であって、結局は「こんなん好きかも」みたいなものなんだ。ともあれ、そういうのが楽しいんだけどね。

Q:あなたの曲は、組立式で出来上がることもあるというのは、本当ですか?出だしのところだけですでに力強く、それが度々勢いづけになり、コーラスにはじけるような勢いで突入すると行った感じに。

TP:うん。人にはそれぞれ異なったやり方がある。ぼくがロイ・オービソンと曲を書いた時も、彼はまったく違う手法で書いていた。すごくユニークで、うっとりしちゃったよ。
 彼は組立がどうとか、全然気にしないんだ。書き始めに戻ったりもしない。彼にとってはメロディが全てだ。歌に合わせてコード付けに移るだろ。そうすると、ちょっとしたオペラみたいになる。聴いてみれば分かるけど、ぼくが魅入られてしまったのは、彼(オービソン)が最初のヴァースには戻らないところなんだ(笑)。
 そういう風に、誰にでもそれぞれのやり方があるものさ。

Q:(ボブ・)ディランと一緒に書いた時は、彼も組立方式を取っていたのですか?

TP:ああ、そうだと思う。彼は素敵なコード・パターンを思いつくと、それをどんどん上昇させたり、下降させたりするのが好きなんだと思うな。その周りにメロディをつけていくんだ。
 ともあれ、ぼくらが曲作りですることというのは、ほんのちょっとした事なんだ。

Q:アルバムには収録されず、[Anthology] に入っているもう一曲が、"Surrender" です。

TP:うん。こいつはかなり古い曲だ。

Q:1977年頃に書いたとか。

TP:その通り。1977年のショーは全て、この"Surrender" から幕を開けた。いつも最初の曲だったんだ。
 バグズが「アルバム6枚分は録音した」と言っているよ(笑)。ぼくらはアルバムを作る度に毎回、この曲にトライしてきたから。
 それで、[Anthology] を作るという話になった時、また新しい音源を求められた。だから("Surrender"を収録するのは)良いアイディアだと思った。[Anthology] の主旨に合っているし、今ならなんとかなるだろう。
 それで試してみたんだけど、これが上手く行った。ハウイがもの凄いんだよ。あのハイ・ハーモニー。何せ、ぼくらがまだ全然若くて、今よりもキーが高かったときに書いたのと、同じキーで歌っているんだから(笑)。ものすごい高さで歌っている。ともあれ、エラく上手くいったもんだ。

Q:Eメジャーで書かれていますが、これがギター・キーとしてベストだと思いますか?

TP:そうだな、(良い調は)色々あると思うよ。ギターにとって難しくなるように、フラットの調を使うこともある。カポ(カポタスト)も使うからね。ギターでなら、何でもできるよ。
(カポとは、ギター・ネックの任意の位置に取り付けて、ヘッドの位置を自由に変える装置。指使いを変えることなしに調を変えることができる。また、ギター・サウンドを明るくすることもある。)

Q:曲を書いているときに、カポを使うことはありますか?

TP:ギターの音色を変えたいときなんかに、時々使うね。どうなるのか見てみたいんだ。

Q:ギターのチューニングを変えることはありますか?

TP:変えたことはあるよ。ぼくらはよく、ドロップDを使ってきた。E弦をDに下げるんだ。それから、"Shadow Of A Doubt" ではオープンAを使っている。マイクがちょびっと、そんなことをするんだ。ぼくはだいたいストレート・チューニングか、オープン・チューニングだな。
 "Blue Sunday" では、一段階下げてある。ぼくのギターが全部、下がっているんだ。

Q:どうしてですか?

TP:(笑)そういうサウンドが良いと思ったからだよ。

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The Last DJ, 2002

Q:次のアルバム、[The Last DJ] の曲、"Joe" はレコード会社のCEOにかみついて、告発する曲ですね。

TP:すべての歌詞は真実さ。真実っていうのは、時としてキツいもんだ。
 ぼくはこの男を、興業主とも見なしている。ぼくが言いたかったのは、よく目にする「作り上げられた」ポップ・スターのことなんだ。いかに彼らが作り上げれていくか、ということもね。そして、テレビがそういうポップスターを送り出すわけだ。
 ああいう連中が、いかに市場の需要に合わせて、冷徹に作られていくか。とくに説明すべき事はないんだよ。ちょっとしたコツがあるだけなんだ。
 彼らは、ただ提供されただけのポップ・スターだ。ぼくにとっては、それでもかまわない。それは、それで良いんだろう。でもああいう連中を、ミュージシャンだとは見なして欲しくない。あれは違うよ。ミュージシャンではない。みんな、騙されているんだ。

 実際には、豊かな才能の持ち主がたくさん居る。でも、ほんのわずかの需要にはフィットしないから、見過ごされてきたんだ。
 なにもかもが、常にそうだとは思わないけど。ぼくにはそんな風にも見える。

 この曲で、そういうことを言ってみたかったんだ。実在の誰かに言及しているわけじゃない。(実在の人に対して)どうこうしようとは思わなかった。
 ただ、いかにしてそういうことが起きるのかを表現したかった。
 ぼくがもっと辛口だったら、(実在の人の名指しを)していたかな。まあ、実際ぼくは辛口なんだろうけど(笑)。

Q:素晴らしい歌詞がありますね。"She gets to be famous / I get to be rich"

TP:そこはぼくのお気に入りの所だ。"some angel whore who can learn a guitar lick / hey, thet's what I call music" ってところの一部だな(笑)。
 これは本当のことだ。まさにぼくらの目の前で起こっている。意味深な事を言おうとしたわけじゃない。ただおかしなことだと思ったのさ。ユーモアなんだよ。エンターテインメントだね。

Q:今では、多くの少女ポップスターたちが、この描写に該当しますね。

TP:ああ。彼女たちは市場の需要に応じて作り出されている。でも、実際のところはテレビなんかでみると、とても人気のある人も居るんだな。
 見たことあるけど、良いもんじゃなかった。ぼくは思った。「この子がピザ・ハットでプレイしたら、言われるんだろうな。『まことに申し訳ございません、でも、ここでの演奏はご遠慮ください。あなたがここで演奏しては、わたしどもはピザが売れません』って。」
 そんなところだろ(笑)。「お店でそんなことをされては、ピザが売れなくて困ります。お引き取りください」ってね。
 とにかく、あまりにも貧弱なもんで、開いた口がふさがらなかった。口をあんぐり開けて、ただただ呆然としていた。ロックもなにもあったもんじゃない。
 狂気の沙汰だよ。ありゃ、フェビアンだな。フェビアンよりたちが悪いか。

 ぼくらは、ぐるりと一周して、60年代の初頭ポップスターが「作られていた」ころに戻ってきてしまっている。
 みんな革ジャンからセーターにかえて、ロックよりも良い物を熱望しているとか言っていた。実際は、連中ロックでもないし、そのほかの何者でもなかった。
 本物のエンターテイナーであり、俳優でなきゃ。ぼくら、ああいう連中からは、何も学ばなかっただろう。またそのころに、揺れ戻ってしまったみたいなものだな。それが、人気のエンターテインメントってものなんだよ。

 みんながそれで良いのなら、良いけど。ぼくは好きじゃない。
 すごく良い人たちも、いると思う。あんな連中より、よほど良い人たちがね。
 でもそういう人たちは、ウケる顔とか髪型、スタイリストとかが居ないからって、芸能産業の一部需要にはフィットせず、見過ごされているんだ。
 だから、大きな変化が起きるか、もっとすてきな何かが出現するかして、この停滞を打ち壊してくれることを望むしかないんだ。

Q:それはあり得るでしょうか?

TP:いつだって、起こり得るだろう。つまりさ、60年代にビートルズが現れて、停滞を打ち壊しただろう。
 あんなことは他に、ニルヴァーナが突然あらわれて、偽物のヘアスプレー・バンドを失業せしめた時だけだったな。(???次の日は、小麦は刈り取られる前の日だった???翻訳不能)
 でも、ニルヴァーナは活動を継続できなかった。(カート・コベインには)荷が重く、彼を破滅させることになってしまった。
 だから、やっていけるだけのレベルっていうのは必要だと思うよ。人気者になるには、ピュアで誠実過ぎ(は良くない)ってこともあるからね。
 そうしたら、偽物の誠実っていう人も出てくるわけだけど(笑)。

Q:"The Last DJ" や、"Money becomes King", "Joe" などがあるからこそ、みんな "Dreamville" のような曲を恋しがるものですが。

TP:"Dreamville" は、ぼくが書いた中でも最高の一つだな。純粋さについての歌だ。

Q:この曲については、あなたがギターを買いに楽器屋へ行ったところから、始まっているそうですね。

TP:ぼくは純粋でね。ぼくには悪影響が及んでいないんだ。それって、とてもピュアなことだろう。でも、そういうのって、すっかり失われてしまっているんだ。
 この曲は大好きだよ。ジョン・ブリオン(ソングライター、アレンジャー、プロデューサー)と、オーケストレションを書いたんだ。ほかの全てもこなしたな。

 ぼくはロックンロールってやつが大好きなんだ。ぼくにとって、非常に意味深い。そしてぼく自身の物にしていったんだ。
 ロックがぼくの人生を変えた。ロックが人生の支えだ。これこそが、アメリカン・ドリームの権化だ。ぼくにとって不可能だったものを、可能にした。
 もしそうでなかったとしても、心からロックを愛したし、リスペクトした。いつもロックのことばかり考えている。情熱を傾けて思っているんだ。

 人はぼくを辛辣だなんて言うけど、そんなことないよ。ただ、ぼくは悲しいだけなんだ(笑)。
 ただ、悲しいだけだよ、あんな偉大ですてきな音楽が、殆どの人々に認められないなんてさ。そいう人たちが、ロックのすばらしさを発見するのは難しいだろうね。

 まぁ、構うもんか。全てが明日でおしまいになってしまっても、構いやしない。
 ただ、世の中には音楽のように、素晴らしいものがあるり、音楽にしろ、アートにしろ、その高潔さがリスペクトされてしかるべきだと思うと、悲しいんだよ。
 そういう葛藤は常にあるんだと思う。かといって、割合にしてみれば大したことはなく、地に埋もれているんだと思う。
 だから、いつの日か、そういう地に埋もれた物が見いだされ、違った見方をされる日が来るって、希望を持たないと。聴衆たちが、質の良さを求めるようになるってね。
 でも、(現状では)提供された物しかキャッチできない。それに(作る側も)何かを提供されなければ、取り上げることもない。

 それから、レコード会社にとっても、大ヒットを数多く出さないとか、需要がなさそなアーチストを売り出すのは、実入りが良くないんだろうな。
 完全に連中、ゲームをしているだけなんだ。しっかりとした視点を持つっている人や、高潔なものを求めるよりもね。確かに、そういう(高潔な)連中とつきあうのは、楽じゃないからな(笑)。

Q:"Like a Diamond" もまた、忘れ難い歌ですね。

TP:うん、この曲も好きだよ。とてもポジティブな曲だろ。このアルバムには、救いや希望があると思うんだ。それに、声に出して言うべき、ポジティブなものがある。
 でも、それを説明するには、(Joeのような)悪い奴のことにも触れなきゃならない(笑)。でも不幸にして、そのことばかりが、センセーショナルに喧伝されてしまったんだよね。そこばかりが注目された。

Q:"Blue Sunday" も好きです。歌詞の細部が良いですね。"Her backseat could have been a hotel / I slept for a thousand years / every now and then she'd laugh out loud for no reason / I pretended not to hear..."

TP:うん、一種のストーリー・ソングだな。短編映画みたいなものだよ。

Q:ストーリー・ソングを書くのは、楽しいですか?

TP:たまにはね。運が良ければだけど。思いつくのは希だよ。
 よく言われることだけど、[Hard Promises] の "Something Big" は、その手の曲だ。本当のちょっとした短編だよね。
 こういう歌で難しいのは、あまり多くの事を詰め込むほどの長さは無いっ、てことなんだ。だから、うまく詞が書ければしめたものさ。
 この曲には広い視野があるし、聞いた人の頭の中で、一行の歌詞が様々な意味合いを作り出すことができる。これって、映画一本を3分に押し込めるようなものだ。物語の全てを述べるよりも、ずっとずっと技術を要する。話術の問題だな。
 だから、ぼくは普段こういうのはあまりやろうとしない。でもいったん始めると、どんどん物語の道のりを進んで行くみたいで、楽しいんだ。

Q:(物語を)引っ張っていくと言うより、(物語に)ついていくような感覚でしょうか?

TP:たぶんね。ぼくの場合、物語が先行して、ぼくは文字通りついていって、文字に書き下ろすんだ。だから結末がどうなるかは分からないし、自分でも気づくまえに、おしまいの方からやってくることになるんだ。

Q:多くの作家が本を書くことについて、そう言っていますね。物語についていくのであって、どう終わるのか分からないと。

TP:そうだろうな。結末がどうなるのか分かっていて、書いたことなんて無いと思うよ。
 だから、結末が曖昧な感じになってしまうこともある。
 でも、歌においては、そういうものなんだろうね。物事をあまり決めつけたくはない物なんだ。ソングライティングにおいては、良い物はある程度の曖昧さを持っていると思う。リスナーが自分自身のイメージを作り出すことができるようにね。そういうのが好きだな。

Q:私は“The man who loves woman”という曲が好きですね。ウクレレで始まるのが、素敵です。たしか、ジョージ・ハリスンがウクレレを大のお気に入りにしていましたよね。

TP:そう。ぼくはこの曲を実際にジョージからもらったウクレレで書いている。コードが気に入っているんだ。ギターでは思いつかないような、素敵なコードが沢山浮かんできてね。ジョージがウクレレの弾き方を教えてくれたんだ。ぼくにクールなコードや展開形を教えてくれた。

Q:演奏は簡単ですか?

TP:そうだね。ギターをやっていれば、ウクレレを習うのはそんなに大変じゃない。要するにギターの上の四弦なわけだから。置き換えさえすれば良いんだ。でも、ギターの時とはまた違うコードや、経過音を自分で探し出さなきゃならない。
 ぼくは本当にウクレレが大好きだ。ウクレレを弾けば悲しい気持ちになんて絶対にならない(笑)。ぼくは何所に行くにも、小さなウクレレを持っていくんだ。

Q:ジョージはウクレレを四六時中弾いていたそうですね?

TP:そうなんだよ。本当に入れ込んで、惚れ抜いていたな。

Q:このアルバムの中でも、本当に素晴らしい曲の一つが、"Have Love Will Travel" です。三つのセクションに分かれた曲ですね。

TP:ああ、まぁ、略式のね。物語を最大限に引き延ばしたんだ。DJの再登場だね。
 元はマギーって名前の女の子が登場していたんだ。分かりにくいけど、その点がショーアップされているんだ。この曲全体は、彼女についてだからね。
 でも、結局はこの手法は使わなかったんだ(笑)。放り出しちゃってね。それで、マギーが誰かを知られないようにしようって自分に制限をかけた。彼女は登場しないんだから(笑)。
 彼女は、"Blue Sunday" に登場するような女の子だよ。彼女をよく説明するような曲がもう一つ、って事だったんだけど。でも、結局録音しなかった。あまり良いとは思えなかったからね。

 このアルバムに関しては、(歌詞に)凝りすぎの傾向があったから。結局はカットされたけど、書いてあった物はいくつかあったんだ。

Q:"Have Love Will Travel" には、美しいセカンド・セクションがありますね。"If I should lose you in the smoke..." 実に素晴らしい。

TP:うん、この曲の中でも良いところだね。ライブで演奏するのも好きだよ。最後の最後のヴァースがお気に入りだ。
 お客さんたちも大好きでね。"How about a cheer / for all those bad girls / and all the boys / play that rock 'n' roll / they love it like you love Jesus / it dose the same thing to their souls..." 大のお気に入りだ。

Q:"Can't stop the sun" も力強い曲ですね。マイクと一緒に書いた曲です。

TP:ほとんどマイクだよ。初めてのことだったけど、あいつが歌詞の一部まで書いてきたんだ。ほとんど全部できあがっていた。あいつがボーカル入りでぼくに持ってきた、レアな例だ。
 ぼくはいつもとは違う取り組み方をした。たぶん、歌詞の90パーセントは書き直したんじゃないかな。
 でも、タイトルはそのままにした。マイクは "Can't stop the sun from shinning"って節を持ってきていたからね。ぼくは、こいつはアルバムの最後に良いと思った。盛り上がりに良い曲だよ。

Q:マイクがタイトルも決めてくるというのは、珍しくありませんか?

TP:そうだね。マイクが "Can't stop the sun"って曲を名付けても、ぼくはそいつがぴったりだとは思っていなかった(笑)。それで、曲をこねくり回してみた。それでもあいつは構わないって言うから。
 とにかく、マイクがメロディとコードとか、全部書いた。だから、ほとんどマイクの曲なんだよ。

Q:曲ができあがったとき、あなたに達成感はありましたか?

TP:もちろん、大好きだよ。大好きな曲さ。

Q:そういう気持ちというのは、どれくらい持続するものですか?

TP:本当に良い曲なら、何年かはもつね。 そうだな、場合によっては、自分の曲をラジオで聴いて、自分でも信じられないような気持ちになることがあるよ。自分で言っちゃうんだ、なんて良い曲なんだろう、って(笑)。

 アルバムが一つ仕上がると、いつも気持ちが良いよ。長い時間をかけて作り上げた物が、ぼくよりも長生きをするんだ、って分かるからね。これまでの世界には存在せず、これからは存在し続けるものだ。
 それって、音楽として、そして何よりも作曲ということにとって、偉大なことだよ。ほんの数分前までは、存在していなかったものなんだからね。ぼくはこういう芸術性が好きだ。何かを創造すると、それはこの世に存在し、作った本人よりも長らえるんだ。

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epilogue

著者の覚え書き:
 この本が印刷所送りになろうとした時、私はトムから電話をもらった。彼はご機嫌だった。大成功のサマーツアーの最中であり、さらに来るソロ・アルバム [Highway Companion] のための数曲を録音してあったのだ。
 彼は、ジェフ・リン,マイク・キャンベルと作っていた音楽に心躍らせていた。彼はこの制作中の作品を聴かせようと、私を呼び寄せた。
 本の締め切りにまでは11時間しかなかったが、私は新曲を聞けるという機会を逃したくなかった。そこで私はマリブに向かい、数曲を聴くとトムにいくつかの質問をした。
                                        ― ポール・ゾロ

highway companion. 2005

Q:プロデューサーのジェフ・リンと、このアルバムを制作していたわけですね。とりあえず、[Highway Companion] をタイトルとした、新たなソロ・アルバムですが。全ての曲を書いてから録音を始めたのですか?それとも、セッションの間に書き進めたのですか?

TP:殆どは、録音の前に書いてあったんだと思うな。調子が良くて、80か90パーセントは事前にできていたんだと思う。"Dameged By Love" だけは、スタジオにいる間に書いたんじゃないかな。

Q:"Turn This Car Around" は素晴らしい始まりですね。パワフルな曲です。

TP:うん、まさに「はじまり」って感じだね。

Q:コーラスも凄いし、タイトルの使い方がいつもとは違います。書いているうちから、こうだったのですか?

TP:うまく収まっている曲の中でも、すてきな子の一人だよね。ぼくはまず歌い初めて、それからヴァースとコーラスができたんだと思う。
 それから、歌詞を書くのに多少時間をかけた。実際のところ、必要以上の詞をヴァース向けに書いていた。だから、ちょっと落ち着いて、詞を削らなきゃならなかった。そしたら素敵になった。
 これが、ぼくらが作った、最初のカップルの一つになった。ジェフがいったのを覚えているよ。「こんなの、聴いたことないよ」(笑)。だから嬉しかったね。彼はさらに言った。「本当に、そんな曲が入っている(頭の中の)袋なんて想像もつかない。こんなの、聴いたことないもの。」

Q:Eマイナーが格好良いのですが、複雑なコードから始まりますね。

TP:とても妙だよね。ジェフは、こいつが使われているのは見たことがないって。
 ぼくはこのコードが正確にはどういうのかは知らない。ほぼ、Eマイナー7thなんだろうけど、なにかほかにも混じっているな。(ギターを取り上げて、Eマイナー7thと、4thサスを一緒に弾く)この曲を弾き始めた日から、このコードが気に入っていたんだ。

Q:すべて、アコースティック・ギターで作ったのですか?

TP:うん、確か全部アコースティックで作ったと思う。

Q:アルバム全体を通じて、一定のテンポのテーマが何度も出てきますね。

TP:確かに。どうしてだろうね。潜在意識かな。無意識のうちにやっていたんだと思う。意識してやったんじゃないよ。使い古されて行っているのかも。
 いろいろやるのに、ものすごい時間をかけてきたって、気づき始めているんだよ。そして、ぼくは時間はものすごく大事だって分かる年齢になってきている。そのせいで、思い返すことが増えたのかも。これは特にそうしようとしてなった事じゃない。

Q:"Turn This Car Around" のマイクによるスライドギターは、物憂い感じで良いですね。

TP:信じられないだろう?あいつはほんと、信じられないよ。何の苦もなくやってのけるんだから。あのサウンドなんて普通に作り上げちゃう。
 マイクは、自分のギターをどう使うかに関しては、ものすごくクレバーなんだ。そうやって、かわった手触りを求めている。違ったアンプなんかも使うな。場合によっては、ステレオのアンプを使う。
 ある曲の時なんて、大きな部屋からアンプを出して、距離を作ってから、大音響を出したんだ。マイクは、ギター・サウンドに関しては天才だな。美しいサウンドをモノにできる。

 マイクは、ぼくらがスライド・ギターを多用しすぎだと感じている。でもぼくはあいつに、もっとやれって、けしかけていたんだ。スライドギターが、このアルバムを性格づけるからね。
 ぼくはアルバムを全体を通じた、共通のサウンドが欲しかったんだ。最近の色々なアルバムとは同化させたくなかった。そういうのは、もうやり終わっているんだから。
 ぼくはこのアルバムに、音色的に、一本の筋の通ったものを持たせたかった。だから、マイクが自然にやる以上のスライドをやるように、けしかけたのさ。
 そいつが大好きなんだ。スライドギターが、ぼくのもう一つの声になってくれた。

Q:このアルバムには、美しい音色的な特徴がありますね。

TP:それはジェフがやってくれた。

Q:でも全然、典型的なジェフ・リン・サウンドではありませんね。

TP:彼のこれまでの作品の中でも、もっとも異なった物じゃないかな。(聴いた人は)こいつがジェフ・リンに違いないとは思わないだろうな。
 彼の典型的な型を、押しつける必要がなかったんだよ。でも、ジェフはプロデューサーとして確実に前進していると思うな。ぼくが知る限り、これは彼の最高の仕事だと思うよ。

Q:彼のほかの作品に比べて、あきらかに(作り込みが)希薄ですね。

TP:ぼくはサウンドを小編成のコンボっぽくしたかったんだ。大がかりな作り込みはしたくなかった。小編成で演奏可能な感じにしたかった。5人だけで、できるようにね。
 それによって、音楽のなかに、たくさんのスペースを作ることになった。

Q:ジェフがベースを弾いているのですか?

TP:そう。彼は実に優秀なベースプレイヤーだよ。ベースがどれほど良いかって、あまり気づかないものだろう。(気づかれないようにするのが)ベースの仕事だからね、だからみんな注意を払わないんだ。

Q:(ベースが)すべての曲の足を、地につけているのですね。

TP:そうだな。まるで没頭したみたいにね。
 ベースに関して言えば、一音をどれぐらい延ばすかってことでさえ、再重要事項なんだ。ただ、(譜面通りに)一音だせば良いってわけじゃない。いかに延ばして、いかに切るか。
 その点に関しては、ジェフは天才だね。素晴らしかったよ。あるところでは、ベースのソロも最高だった。

Q:"Night Driver" のところですね。

TP:(笑)ジェフが言ってたよ。「ごめん、あんなつもりじゃなかったんだ。」それで、ぼくは言った。「いや、あれは残すよ。」

Q:ベースのソロがあって良かったですね。

TP:ああ、あんなの初めてだろう。

Q:すべての曲で、あなたがドラムを叩いているのですか?

TP:叩いた。できると思ったんだ。ぼくがステージでドラムをやってるのなんて、見たことないだろう。でも最近では、スタジオに豪華な機材とか、優秀なエンジニアが居てくれるから、いろんな冒涜行為も許してもらえるんだ(笑)。
 とにかく、ぼくがいろいろ切り回したわけだし。ジェフもぼくを励ましてくれた。最初は、必要に迫られていたわけじゃなかった。ただ、ぼくらのスタジオには、ドラマーが居なかっただけなんだよ。
 ともあれ、やってみることにした。すごく楽しんだよ。あれほど沢山やることになるとは、思っていなかった。でも、このプロジェクトでは突然、全部を自分でやってみようと思い立ったんだ。

 本物のドラマーが叩く方が、本当は良かったんだろうけど、ぼくはベストを尽くしたよ。楽しかったし。エンジニアが山ほどの冒涜行為を許容(フォロー)してくれたってことも言っておかないとね。
 つまり、エンジニアたちは、ぼくのミスを全て修正してくれたんだよ。だから、ライブでは絶対にやらない。

 ぼくはそれほど下手ではないけどね。すごく練習したし。レコードを作っている間中、ぼくはドラム・ルームに行って練習していた。まるで本職のドラマーになっちゃったみたいに、とにかく練習した。

Q:クリック・トラックもやりましたか?

TP:うん。

Q:最初にギターを録音するのですか?

TP:そう、ぼくらはギターから録音した。場合によっては、ベースから。それからドラムを入れる。

Q:ジェフがキーボードを弾いたのですか?

TP:ぼくらみんなで、ちょっとずつ弾いている。分割してね。ジェフはピアノのほとんどと、オルガンをちょっと。
 全員(録音ブースに)そろっている場合は、ぼくがキーボード。"Night Driver" の電子ピアノを弾いているのは、ぼくだ。ピアノに関しては、ジェフに一日の長があったけど、誰が良いアイディアを持ってきても構わなかった。
 ぼくらは全員で頭をつきあわせて、ピアノのパートを形作って行った。だから、誰でも弾けたんだよ(笑)。

Q:楽器のパートが全部仕上がる前に、ボーカルの録音をしたのですか?

TP:ボーカルはかなり早い段階で入れた。楽器パートを作り上げてしまってから、あとでボーカルを糊でくっつけるみたいのは、好きじゃないんだ。ボーカルを基本にして行く方が良いんだよ。
 だから、いつもリズム・ギターが出来ればすぐに、ボーカルを入れることにしている。

Q:ハーモニーはとても緻密ですね。そして、とても繊細にミックスされています。

TP:あれはジェフがとても上手くミックスしてくれたんだ。彼はああいうのが得意だよね。ぼくがハーモニーをミックスするよりも、上手くいく。
 場合によっては、ハーモニーを前に押し出したり、引っ込めたりした。ジェフとエンジニアは殆どの日に、ハーモニーのミックスをしていた。
 で、マイクとぼくは最後の何時間かだけ、ハーモニーのミックスに加わった。そのときにぼくら二人が、ジェフとエンジニアの聞いていなかった物をキャッチしたりすると、あらためて加えたりもした。

 ともあれ、ジェフはちょうど良い具合にハーモニーを配置するのが、上手なんだ。それに、ぼくは彼と一緒に歌うのも大好きだ。一緒に歌って、とても楽しかったよ。

Q:歌の中には、デモを作ったものとかもありましたか?

TP:"Big Weekend" に関しては作ってあったけど、ジェフには一度も聞かせていなかった。
 ギターで演奏して見せたんだ。いくつかぼくが作り始めていた部分があったから、最初からやり直すんじゃなくて、ぼくの作っものに、みんなで演奏を組み上げて仕上げた。
 "Squere One" がそうだね。ぼくはここ(トムのマリブの自宅)で作ったんだ。"This Old Town" も、ギターとボーカルはここで。それから、"Jack" もほとんどここで作ったな。それから、みんなで仕上げたんだ。

Q:"Square One" は美しい曲ですね。ドラム無しで、とても優しげです。

TP:おかしな歌だよね。ここのスタジオに、エンジニアと一緒にいたときに湧いてきたんだ。歌ができたから、座り込んで録音を始めた。
 でも、ヴァースの進行が気に入らなかった。それで、別にどうってことはないだろうから、すぐにヴァースのコードを変更した。別テイクを録音して、それで出来上がり。
 プロデューサーにとっては不運なことに、ぼくは知らず知らずのうちに、録音を作り上げてしまっていた。
 ギターとボーカルを一つのマイクで録ってしまっていた。だから、後になってこの二つを分離できなかった。それで、エンジニアがすべてを上手く収まるように編集する必要に迫られた。だから、ぼくはいくらか歌いなおした。ともおあれ、大部分はここで録音したものなんだ。

 (この曲は)一晩で書いてしまった。ずいぶん夜遅くだったけど、ギターをポツポツ弾いている内に、湧いてきた。そしてひとたびヴァースのコードが決まると、あとは全てが上手く収まっていった。

Q:"Square one, my slate is clear..." のところは、美しいコーラスですね。"Always had more days than bones" という詞が好きです。

TP:ああ。好きな人、多いんだよね。良い歌だよ。「救い」のような物を見いだしているんじゃないかな。そして、サイコロの一の目(ものごとの始まりの時点)に、戻ってくるんだ。
 それって、良いものだろう。再出発、一番簡単に言えばそうなるかな。

Q:"Night Driver" は忘れがたい出だしですね。"There's a shadow on the moon tonight / I swear I see your face up there with the stellites looking down from outer space..."

TP:ぼくはこのアルバムを、大雑把に見て、旅することや、ドライブなんかのアルバムだと見ているんだ。
 過去にもドライブに関する曲は書いたけどね。でも、違う雰囲気のものが作りたかったんだ。この歌に登場するドライバーは、頭の中でいろいろな事を考えている。それで、こんな気分になるんだ。「月にかかる影・・・」実際、自分でもそういう気分のことがあったからね。

 ぼくはラッキーだよ。このアルバムの歌を作るのに、そうそう苦労しなくて済んだのだから。ある日確認してみたら、10曲も出来ていた。自分でもこれには驚いた。
 書いた物が自分の頭の中にあっても、まともな物が書けたのかどうかは分からない。でも、ジェフの家に行ったら、実際に曲が出来ていたんだ。"Night driver" は、ぼくらが最初に録音した曲だ。思ったね。「ワァオ、ちゃんと出来てるじゃん」って。
 しかもとても自然に行ったんだ。「さぁ、何か録音すっか!」みたいにね。

 それでぼくらはマイクと一緒にここに来て、"Night Driver" の録音を始めた。だから、「じゃぁ、ここにテントでも張るか。うまく行くぜ」みたいなノリになって。それから、"Turn This Car Around" もやった。みんなが、ぼくにこう言ったのを覚えているよ。「ほかに何か曲ある?」
 それで、ぼくは答えた。「ええと、10曲はあると思うけど。」実際書けていたし。ぼくらはそれらを仕上げるだけだった。

Q:曲の歌詞が素晴らしいですね。いくつかは、メロディも美しいです。たとえば "Down south"のコーラスなどは、甘美なメロディです。

TP:この曲に関しては、二つの異なったコーラスを書いてあった。(採用しなかった)もう一つの方も、すごく良かったよ。でも、ちょっと長すぎた。言葉数の多い曲だったんだ。
 そのうちに、この長大なバージョンよりも、言葉数が少ないコーラスの方に、ピンと来るようになった。この別バージョンのコーラスが気に入って、すごく良かったんだ。

 でも、ぼくはこの曲に関してはちょっと置いておくことにした。とても良いとは思ったけど、完璧ではないと思ったからね。だから録音したいとは思わなかった。
 アルバム制作も半ばになってから、この(実際の)コーラスがモノになって、ぼくはすごく興奮してしまった。

Q:別バージョンのコーラスは、歌詞もメロディも違ったのですか?

TP:ああ。詞も曲も違った。基本的には同じ事を言っているんだけどね。でも、使っている言葉は違った。ぼくは他を試してみて、ものすごく上手く行った。"If I come to your door, let me sleep on your floor..." こっちの方が、イメージがよく浮かぶ。

 この曲がお気に入りって事は否定できないな。以前からの知り合いで、ウォーレン・ゼインズって人の本 [Dusty Springfield's Dusty in Menphis]という本を読んだんだ(ゼインズは1983年から89年までDelfuegosのメンバーだった。現在は、ロックの殿堂の副代表)。
 彼はこの本を、ダスティ・スプリングフィールドのクラシック・R&Bアルバム,[Dusty in Menphis] と一緒にぼくに送ってくれた。
 この本、実はアルバムについてかかれたのではなくて、南部ついてのものなんだ。南部はとてもロマンチックな所であると同時に、気味の悪い所でもある。未だに南部には、数多くの霊魂が住み着いているって思うだろう。

 とにかく、ぼくはゼインズの本を楽しんだ。そして、南部について考えさせられた。ぼくは何年か前に南部について書いたことがある。
 それで思った。「今度は何を書こう?今となっては、ずいぶん長い間南部から離れていないか?」ぼくは今、戻ってみたらどうだろうかと考えてみた。どんな事が頭に浮かぶだろう?そう考えてみると、事は簡単だった。

 曲が出来る前に、歌詞が全部できあがった。詞を書いているときに、曲が頭の中で鳴っていたんだと思うよ。それをギターで弾いて、それに合うコードを探す、それだけのことだった。
 メロディができるまでちょっと時間がかかったけど、とにかく出来てしまった。歌詞ありきの曲だったからね。
 ともあれ、それらの詞の全てに意味があった。だからコーラスが出来たときは、とてもうれしかった(笑)。この曲に関しては、今でもハッピーだね。
 ジェフは素晴らしい録音をしてくれたよ。それに、マイクがとても美しいく演奏をしてくれている。

Q:曲をうまくまとめる、良い循環リフがありますね。

TP:うん、マイクが自分のマグナトーンのアンプで作ったんだ。アンプの音に震えを加え、トレモロを作り出してね。でもそれ以上にヘンテコな音だよね。ぼくらはそんな風にして、録音をしていたんだ。
 マイクがこの必殺サウンドをモノにして、それをベースに録音していった。

Q:あなたの過去を掘り起こすような、美しい歌詞もありますね。過去の亡霊に巡り会うような感じの。"Sell the gamily headstones / drag a bag of drybones..." など・・・

TP:"Make good all my back loans..." "Live off Yankee winters..." うまくハマっているよ。ぼくのお気に入りは、"Spirits cross the dead fields / moosquitoes hit the windshields / all documents remain sealed..." こいつが書けたときは興奮したよ。

Q:私は "impress all the women / pretend I'm Samuel Clemens / wear seer-suckers and white lines" のところが好きです。

TP:笑えるよね。こいつを演奏したとき、サミュエル・クレメンズ(マーク・トウェイン)が何者か、知っている人がいなかったんだ。参ったね(笑)。若い連中ってのには。とにかく、彼はぼくのヒーローの一人なんだ。
 このすてきな詞が出来るのに、運もあった。これほど気持ちよく詞が書けることは、希だったんだ。これまでのぼくの作品中でも、トップ10に入るな。それくらい良くできている。
 これが作れて、幸せだよ。ずっとこの曲を作っていたいような気分になったよ。

Q:最初に歌詞がすべて書けていたというのは、興味深いですね。ほかに、使われなかった詞はあるのですか?

TP:ある。たくさん書いたから。推敲してああなった。切り貼りしたりしてね。とにかく、書いて、書きまくっていた。

Q:リズムも素敵ですね。

TP:韻を踏むのに良い感じなんだ。ぼくはあまり韻に関しては考えていなかったんだけど、書き上げてみたらそうなった。上手く行ったんだよな。だからその部分を一番重要なヴァースに使った。
 ともあれ、他にも詞はあったんだ。このこと(歌詞過多の解消方法)に関して、ぼくは知識豊富と言えるだろう。ぼくも学習してきて、原点回帰したようなものをテーマに割り当てたから、すべてが一気に解決したんだ(笑)。

 この曲は本当に大好きだよ。それまでに書いた曲のなかでも、抜きんでている。みんなには、こういう曲を見てほしいな。あのコーラスを書けて、本当にハッピーだったんだ。

Q:"Big Weekens" は楽しい曲ですね。物語のある歌で、ホテルとか、メイドへのチップを置いていくとか、ギターの荷造りをするとか、バーへ友達に会いに行くとか。

TP:ぼくのお気に入りの歌詞は、"I may shake your hand but I won'know your name / the joke in your language don't come out the same" のところ(笑)。

Q:何にインスパイアされたのですか?

TP:べつに変わったアイディアがあった訳じゃない。遊びで始めて、そのうち出来てきたんだ。ほとんどが言葉遊びだよ。
 思い返すと、今日は何をどうしようかなっていう共通のテーマに沿っている。誰かに会いに行こうとなれば、出かけていってビッグ・ウィークエンドになるだろう。
 この曲はちょっとしたお楽しみだね。この曲に、それ以上詰め込むのに疲れてしまって。「考え直すことも可能だけど、こだわらないのが一番だ」みたいな感じかな。まぁ、手紙の再送程度のテーマだよ。(訳者,真意をつかめず。手紙の再発送・・・?)

 こういう曲を書くのは素敵だよね。いかなるプレッシャーにもさらされないし、締め切りも無いんだから。ほんと、プレッシャーはなかった。自分の楽しみのために書いたんだ。
 ふと視線をあげると、そこらブイーンと飛んでるモノがあって、そういうのが良い曲になったりする。

Q:"Around the Roses" も素敵な曲です。

TP:メロディが良いね。メキシコで書いたんだ。
 あるホテルにチェックインしてね。英語が話せる人がいたけど、あまり上手くはなかった。ぼくがチェックインしたとき、その男が言った。「何かご要望がありましたら、お申し付けください。」
 ぼくは考えはじめ、ギターがすごく欲しいと思った。ぼくはコンシェルジェを呼んで、ギターが手にはいるかどうか尋ねた。そうしたら、彼は考え込んでしまった。ぼくは「高いものじゃなくて構わないんだ。まともな音さえすれば良いんだよ。」と言った。
 彼がどの程度理解できていたかは、分からない。その後、ぼくはしばらく乗馬に出かけた。それから帰ってきてみると、ギターがあった。
 ナイロン弦の素敵なスパニッシュ・ギターだった。今でも持っているよ。すごく気に入ったから、家に帰るときに持って行ったんだ。

 ぼくがフロントに頼む、そして誰かがギターを一つ調達してくるだなんて、おおごとだっただろうな。プエルト・ヴァラルタから30マイルは離れたところだったんだよ。
 だれかが車で町まで行って、買ってきてくれたんだろうな。それから、チューニングして。

 そういう訳で、ぼくはあそこに滞在している間に "Around The Roses" を書き、"Doun South" のコーラスを仕上げた。"Around the roses" のメロディに関しては、満足だったよ。

 それからぼくが帰って来ると、できあがった曲にジェフとマイクが飛びついた。
 ぼくはマイクがつけてくれた、ソロが大好きなんだ。ほんと、あいつがあれをプレイしたときは、参ったよ。あいつは一部、普通の6弦を弾き、あのスライドも弾いたんだからね。とても素敵だと思った。

 こいつ(Around the roses)はちょっと変な曲だな。普通じゃない。だれでもすぐに、引きつけられるっていう曲じゃないと思うんだ。
 でも、聞いている内にどんどん存在が増す曲じゃないかな。

Q:休暇の間も、ギターが欲しくなる、ってことなんですね。曲も書くのですか。

TP:テレビを見てるよりはマシだろ(笑)。素晴らしい休暇だったよ。部屋の外にハンモックを吊って、ギターを持って揺られながら曲を書いたりした。

Q:"Home" という曲の始まり方が好きです。"Left town in a hurry / blackmailed the judge and the jury..."

TP:そうだな、ぼくも好きな曲だ。他の曲ほどかどうかはともかくね。ジェフがすばらしい録音をしてくれた。

 この曲はアルバムから削除されるかもしれないけど、よく分からない。削除する唯一の理由は、アルバム全体の長さを自制しているから、ってことだけなんだけど。
 ぼくはみんなに、12曲だけ聞かせたいと思っている。12曲が限界だろう。
 自分のルールを破ることになるのかなぁ。実際、ぼくはどの曲も好きだからね。どれかの曲を削除するのは、辛いもんだよ。

Q:"Home" にはすごい歌詞がありますね。"Something everything's nothing at all" これは、あなたの作品の全体を貫くテーマでもありますね。

TP:しっかり心にとめておくべきだな。感じ取ることの出来るすべての事が、無になることもある。何が重要で、何がそうでないかをしっかり考えなければいけない。
 この曲は、これまで自分がそうしてきた、ってことなんだよ。自分がずっと表現しようとしてきたことは、これだと思う。

Q:それから、"Honey, your arms feel like home" というのはロマンチックですね。

TP:うん、ぼくらも全員そう思った。それが「家」ってもんだろう?愛している人と一緒なら、どこへ行っても家にいるような感じがする。それを人生において見いだすのは、重要なことだ。

Q:"Flirting with Time" はキャッチーなコーラスですね。古いモータウンのようです。

TP:キャッチー過ぎやしないかな(笑)。ジェフの為に演奏した時、彼が「こいつはひどくキャッチー過ぎるよ」と言うんじゃないかと心配だった。軽すぎると思ったんだよ。でもジェフもマイクも気に入って。

 この曲も、ヴァースから、コーラスがすぐにできあがった曲の一つだ。だから未だに、この曲についてはとんと確信が持てない。最後まで勘に頼っていたから。
 時というのものの重要性に気づくということが、テーマになっている。毎日を過ごしている時間というやつだね。ぼくが若い頃に書いていたのとは、違うタイプの曲だ。自分への戒めとしてかかれた手紙みたいなものかな。

Q:"Golden Rose" は、ボートについての美しい曲ですね。

TP:ああ、たぶん川舟の歌だな。前に見たことがあるんだ。このアルバム制作よりも前に書いていた。実際、ハートブレイカーズで録音もしたんだけど、思うとおりには行っていなかった。
 このセッションの間にこの曲の事を思い出して、ジェフに聞かせたら、録音したいって言うんだ。

 たしかに、小さな川舟についての歌だね。ボートで立ち往生してしまった男の話。船長は役立たずだし、その息子はもっと酷い(笑)。そういうわけで、この男は人を置き去りにしてしまう。

Q:コーラスが素敵ですね。

TP:ジェフとぼくがユニゾンで歌っている。一緒に歌うのはすごく楽しかったな。一つのマイクで、一緒に歌ったりして。すごく良いサウンドになる大きな部屋があったから、この部屋でやったんだ。素晴らしいサウンドになったよ。
 それから、レスリー・スピーカーを通したピアノの音を引き延ばし、エンディングに変わった音を加えた。
 ぼくは何度か演奏してみたけど、上手く行かなかった。それで、ジェフがああしたんだ。ほんと、ジェフは素敵なメロディをおしまいに持ってきてくれたと思うよ。

Q:"Ankle deep" は馬に関する歌ですね。

TP:こいつは、父親自慢の競走馬を盗んだ娘についての曲だ。ちょっとしたユーモアがあるね。

Q:彼女の言う、"Daddy, you've been a mother to me..." という詞が好きです。

TP:(笑)ああ、あれは上手い具合に行ったね。どっからどう引き出した詞かは分からないけど。ただ、頭に浮かんだから、その後は物語の成り行きに任せたんだ。
 前にも言ったけど、物語のある曲を書くのに、あれこれといった手続きは無いんだよ。だから、詞は節約して使わないとね。ともあれ、ぼくはこの詞がお気に入りだ。上手くいったし、笑える歌詞もある。
 この曲の女の子は農夫と逃げだし、彼らは女の子の父親から、自慢の競走馬を盗み出す。父親がどれほど裕福かが分かるだろう。一方、農夫は金持ちじゃない。
 "Found her hiding high in the family tree" って言う歌詞が好きだな。

Q:"Jack" クールですね。他の曲とは、ひと味違います。

TP:ああ、ちょっとしたロックン・ロールだな。この曲でドラムを叩くのは楽しかったよ。

Q:ドラムは凄いですね。特に繰り返しのところが。

TP:うん、あれを思いついたときは嬉しかった。ドラムを叩いて、ゴキゲンだったよ。このアルバムでは自分でドラムを叩いているのだけど、自分一人でかなりやってから、他の人にも仕上げで助けてもらった。

 ジェフがベースを弾いている。これと言って、深い意味のある曲じゃないよ。でも、こういう素敵なロックン・ロール・ソングがあるのも良いなと思ったんだ。歌っていても楽しいしね。メロディも良いし。
 ぼくはリード・ギターも弾いているんだ。
 実の所、あまり出来が良くなかったんだけど、連中(ジェフとマイク)がとっておいたんだ。こう言うんだよ。「いや、こいつは間違いないから、手は加えない。このまま残すんだ」って。

Q:"Damaged by love" は時間に関する、素敵な曲ですね。美しいコーラスが(複数)ありますし。

TP:この曲には、エバリー・ブラザーズっぽいものがあるね。また時間に関する曲だな。
 愛って言うのは妙なもんだよ。誰かを傷つけることも出来る一方で、同様にその傷を回復させるのだから。

 この曲の詞で2カ所、デイナが手伝ってくれている。最後のヴァースだ。ぼくはちょっと行き詰まっていてね。いつものようには運ばなかったから、彼女に言ったんだ。「なぁ、きみだったらここはどうする?どう言うんだろう?言いたいことは、はっきりしているのだけど、良い表現が浮かばないんだ。」
 そんなわけで、"In a crowd all alone / walking around in a song" っていうのは、彼女の詞なんだ。

"So young and damaged by love" ずっとそう思ってきた。両親だって、子供を傷つけることがある。その手のシリアスな曲なんだ。でも、とても美しい曲でもある。
 ぼくはこれをトレモロ・ギターを使って弾いた。基本的には、トレモロつきのエレキと、アコギなんだ。(音の層が)とても薄いけど、美しい曲さ。
 歌うのも好きだ。特にコーラスがね。お気に入りの一つだと思うな。

 アルバムの中では、最後の方に録音した。この手の曲が本当に大好きでね。みんなでアルバムの仕上げをしている頃に、家で書いた。
 最後に書いた曲で、ジェフに聞かせたら、「おいおい、どうやって作ったんだ?絶好調じゃないか。できるだけ急いで仕上げなきゃ。」と言った。それで、ぼくはその通りにした。

 これっておかしいよね。ぼくは曲をすべて書き終え、その段階から四、五ヶ月は経ってしまっている。それからずっと新たに曲は書いていない。
 だのに、暇になるとまた曲が頭に浮かんでくるんだ。でも制作の仕事は終了しているだろ。仕方がないから、また座り込んで、ほかの曲を書くことにする。次にスタジオ入りする機会のためにね。そのときの曲が、一つ切りってわけにはいかないからさ。
 ところが、今度は何も頭に浮かばないんだ。浮かばないって事は、まぁそういうものなんだって考えるしかない。

 でも、このアルバムの仕上げには、こういうちょっとした作品が良いんだろう。一貫した、ノリがあるだろうから。

Q:"This old town" に関してはどうですか?

TP:(アルバムの曲)すべての中では、中間的な感じに書かれている。
 こいつは、居たくもない所に居て、町が狭いと感じている誰かについての、ちょっとしてストーリー・ソングだ。多くの人が、住んでいる場所が気に入らないと、そんな風に言うのを、よく聞くよ。

Q:LAについて書いているのですか?

TP:いや、必ずしもそうではない。どの町にもあてはまるんだ。
 ブリッジが良いね。これも、ドラムを叩いていて楽しい曲だ。もうちょっと弾いちゃうべきだったかもね。いろいろ、刻んだり色々したけど。
(ドラマーとしては)あれが一番の録音じゃないかな。レコード1枚での話だけど。一番良かったと思うよ。

 この曲を、アルバムのどこに置くかは、まだはっきりしていないんだ。今のところは、最後にもってこようと思っているんだけど、それがパーフェクトなエンディングってわけでもなさそうだ。
 ぼくはこの曲のコードが好きだ。素敵な循環をしている。ああいうのが好きでね。ここでもやってみたんだ。ヴォーカルをまず録音して、さらにギターに歌、それを組み合わせて、ああいう風に落ち着いた。

Q:"Highway Companion" というタイトルはどこから来ているのですか?

TP:こいつは、ハイウェイを行くには、良い道連れ(コンパニオン)になるって、ふと思ったんだよ。旅行に持って行くのに良い本みたいにね。そういうのが好きなんだ。
 良いトラベリング・ミュージックだよ。旅に持って行けば、良い道連れになるだろう。
 このアルバムに関しては、とても誇りを感じている。自分の仕事に、とりわけ誇りを持つことのできる作品だ。
 みんなの耳に届いてくれると良いのだけど。何せ、最近のラジオでは、ロックンロールの露出が困難だろう。楽しんでもらえると思うのだけど。

 まだ、録音作業に戻って、もう一曲やりたいと思っている。今まさに、曲作りで苦しんでいるところなんだ。
 でも、時間内に仕上げられるかどうか分からない。やれることは分かっているんだけど、すべてが上手くまとまるかどうかがね。
 仕上げっていうのは、えらく頭の痛いことだよ。終わりにするのは、悪夢みたいなものなんだ。

Q:その程度のことは、いつものことですか?

TP:これほどのことは、ないね。でも、(この曲に関しては)あきらめたくないと思わせるものがあるんだ。ほんの少しでも、出来そうな事なんかが、きっと良いことだって、分かっているから。
 でも、メロディ的にも歌詞的にも、うまくまとめあげるための、一節か、二節がまだ見つからないんだ。そろそろ、疲れてきた所なんだ。

 それで、何日か休暇を取ることにした。それから戻ってきて、再開しようと思っている。上手く行けば、きちんとまとまるとよ思うんだ。

Q:その曲に、タイトルはありますか?

TP:いや、そこが難しいんだよね。帽子をどこに掛けておくべきやら(笑)。
 言いたいことははっきりしているんだけど、まだどう言えば良いのかが、分からないんだ。

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 acknowledgement / about the author / forword by tom petty / introduction
part one , life   part tow, songs
 1. dreamville tom petty & the heartbreakers
 2. california you're gonna get it
 3. anything that's rock 'n' roll damn the torpedoes
 4. tangles & torpedoes hard promises
 5. changing horses long after dark
 6. who got lucky southern accents
 7. don't come around here as much pack up the plantation :live!
 8. runaway trains let me up ( i've had enough)
 9. handle with care full moon fever
 10. into the great wide open into the great wide open
 11. somewhere you feel free greatest hits
 12. some days are diamonds wildflowers
 13. angel dream playback
 14. howie song and music from "she's the one"
 15. joe echo
anthology : through the years
the last dj
epilogue, highway companion


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PAUL ZOLLO / Conversations with Tom Petty / 2005



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