カンバセーション・ウィズ・トム・ペティ 2005年 トム・ペティ (完訳) Page 1 2 3 4 5 6
Contents:(目次のタイトルをクリックすると、その箇所に飛びます)
=========================================
Part
Two / Songs
Pack Up the Plantation : Live! 1986
Q:"Pack up the Plantation: Live!" はあなたにとって最初の編集版で、五つのカバー曲が含まれていますね。
"Needle and Pins"(スティーヴィー・ニックスとのデュエット),"Don't Bring Me Down", "Shout", "Stories We Could Tell" それに、あの素晴らしいカバーバージョンの "So You Want to be a Rock 'n' Roll Star" をやっています。
TP:そう、ライブ録音したんだ。マイクがアレンジで "Eight Mile High" のような効果を出している。ロジャー・マッグインが、ぼくらのアレンジをコピーしてプレイしているのを見たときは、とりわけ嬉しかったな(笑)。
Q:マッグインはザ・バーズについて、もしあなたが居なかったら、バーズは忘れ去られていただろうと言っていました。
TP:ぼくにもそう言った。実際そうなのかどうかは知らないけど、でも彼らは、ぼくが人々にバーズの事を思い出させたと考えているらしい。
Q:"It'll All Work Out" はお気に入りの曲だと言っていましたね。「長く聴き継がれる曲だ」と。
TP:長く聴き継がれる曲だよ。今でもそうであり続けていると思う。本当に好きな曲の一つだ。
奇妙なことに、録音したのは全部マイクで、でも書いたのはぼくなんだ。あのころ、ぼくは結婚生活の危機にあった。最初の結婚生活の危機だった。別居中だったんだ。あとで和解したんだけど。
そんなわけで、自分の手には余る色々なことがあったんだ。ぼくは "It'll All Work Out" を作って、歌をカセットに入れておいた。それからそいつをマイクの家に持っていって、あいつにカセットをやったんだ。マイクは自宅にスタジオを持っていてね。それでマイクに言ったんだ。
「こいつをレコードにしてくれるか?」(笑)
「俺には時間がないし、気持ちに余裕がない。でも、この曲はすごく良いと思うんだ。」
それで、マイクにこの曲を預けたんだ。
そして次に、本来のレコーディングセッションでマイクに会ったら、ちゃんと録音してあった。すっかりバックを仕上げてあったから、ぼくがヴォーカルを加えて、組み合わせた。
前にも、後にも、あんなやり方をしたことは無い。
Q:イントロのアコースティックギターが美しいですね。
TP:日本の琴を弾いているんだよ。ロックでそうそう聴くもんじゃない。でもマイクはこいつをうまくイントロに入れ込んだ。
ともあれ、ぼくはまったく演奏していない。ぼくらの中では、マイクだけが弾いているんじゃなかな。
=========================================
Let Me Up (I've Had Enough). 1987
Q:[Let Me Up (I've Had Enough)] は1987年のアルバムです。このタイトルはどこから来ているのですか?
TP:スタンだよ。どういう経緯かは覚えていないけど、"Let me up, I've had enough." っていうのは、スタンの言葉なんだ。そいつで、ぼくが歌を作った。
Q:あなたはローリング・ストーン誌で、[Let Me Up] について、「一番の特徴は、このアルバムでは、ハートブレイカーズの5人しか録音していないってことだ。何においても、外部の人は一人も加わっていない。ほとんどは即興的だった。こういう感じがとても好きだ。真に素晴らしいロックンロールっていうのは、こういうことだ。」と、コメントしていますね。
TP:うん、かなり正確な表現だな。プロデューサーも居なかったんだ。ぼくとマイクでやったから。やってみたいことをやってみた。
ぼくらは、ボブ(・ディラン)とツアーをしていた。そのツアーの中休みの間に作ったんじゃないかな。このレコードの何曲かはアドリブだよ。"The Damage You've Done" なんかは、完璧にアドリブだ。"The Damage You've Done"のカントリー・バージョンは、ボックスセット(Playback)で聴けるよ。あれが最初のテイクだったんだ。ジョージ・ジョーンズみたいな感じだったな。
そして、まさに次のテイクが、アルバムに収録された。ただ、ぼくが違うリズムで始めてみて、そこにバンドが加わっていった。さらにぼくがアドリブで歌を入れてみた。ジャジャーン。出来上がり。お疲れさまでした、レコード一つ出来上がり。
これをあと2曲でやっている。ぼくの頭からアドリブで出たものだ。"Think About Me" と、"How Many More Days" って曲だ。完璧なアドリブ。四つカウントして、さて、何が起こるかな。かなり大胆なやりかた。勘を頼りにしている。もう一度やれと言われても無理。
とにかく、それをやってのけた。バンドの準備を整えて、サウンドチェックして、さぁ、やってみよう。ほかにこれと言ったアイディアはなかった。とにかく歌い始めて、どうなるのかを見たんだ。
Q:"Jammin'Me" はいつものやり方とは違って、ディランやマイクと一緒に書き、時事ネタを盛り込んでいますね。あなたの多くの曲は時を選ばないものですが。 この曲には「エディ・マーフィー」や、「ヴァネッサ・レッドグレイヴ」、「ジョー・ピスコポ」などが登場します。
TP:エディ・マーフィーのヴァースは全部ボブだよ。これはちょっと恥ずかしいんだよね。エディー・マーフィーをテレビで見るたびに参っちゃうから。
べつにぼくには、エディ・マーフィーやヴァネッサ・レッドグレイヴに何の文句もないんだよ(笑)。ただ、(ディランは)メディアの巨大な力や、いっぺんにありとあらゆるものを潰してしまう力について語っていると思うんだ。
時代は変わり、もはやテレビに4チャンネルしかなった時代ではない。変化、これこそが彼が書こうとした内容のエッセンスだと思う。
ぼくらは一緒に、サンセット・マーキス・ホテルで最初のヴァージョンを書いた。その日だけで何曲か書いたな。"I Got My Mind Made Up" って曲も書いた。彼(ディラン)のアルバムの一つ、[Knocked Out Loaded] に収録されている。ぼくがあの録音のプロデュースをしたんじゃないかな。ぼくらも [Let Me Up] 収録バージョンとして録音はしていたけど、採用しなかったんだ。ボックスセット(Playback)に入っている。
ともあれ、ぼくらは数曲書いて、"Jammin'Me" の歌詞だけを採用し、曲はマイクと一緒に完全に作り直した。できあがったものをボブに送ってこれで良いかどうか訊いてみたら、
「もちろん、良いよ」と言われた。それが彼と相談した唯一の追加事項だった(笑)。
Q:メロディは完全に変えてしまったのですか?
TP:うん。メロディと、和声構成とかは、変えてしまった。マイクにコードと、曲の構成アイディアがあって、ぼくがメロディを作り、ぼくとボブが一緒に書いた歌詞をつけた。上手く行ったよ。とても良くできたから、シングルとして発表した。
Q:ボブと歌詞を書くとき、あなたが詞を変えるようなことはあるのですか?
TP:お察しの通り、あるよ。ぼくらは、必要以上に大量の詞を書いた。ウィルベリーズでもそうだった。
あれほどの偉大な人と一緒に一緒ができるなんて、大変な名誉だ。同時に、名誉である以上に楽しかったよ。ボブは歌詞作りが得意なんだから。
だから、ある分野が非常に得意な人と仕事をする機会があれば、それはとても良い経験になるんだ。
Q:あまり使わないキーについて話しましたが、あなたとマイクが一緒に書いた "Runaway Train" のキーはその、あまり使わないF#ですね。あなたがお気に入りの曲ではないと言っていたのは知っていますが、素晴らしい曲だと思いますよ。
TP:最近、ラジオで聴いたよ。良かった。嬉しい驚きだった。頭で思いこんでいたのとは違っていたんだ。だから聴き直してみると、好きだったりする。
Q:[Echo] がそうであるように、いくつかのアルバムは、後になって聴いてみると、そのアルバムについての思いが変わっていると言っていましたね。
TP:うーん、ふだんはそういうアルバムは聴かないんだ。作ってからすぐはね。再生してみようとはしないんだ。だから、ラジオから流れてくるのを聴くだけになる。
でもデイナはそういうアルバムをかけるのが好きでね。[Echo] に関しては、デイナがぼくに聴かせることになった。
だから、時が経ってからアルバムを聴き直してみると、再評価するみたいなことはある。
どういう流れのアルバムだったのかや、どういう曲だったのかを忘れてしまっているから。そもそも、ぼくらはずいぶん色々と大量にやっているし。仕上げたものとは、距離をとってしまうんだ。まぁ、ライブでやらない限りはだけど。
とにかく、録音したにしても、聞き返さない限りはどういうものだったのかを覚えていない。そして、いつもラジオから流れてきて、聴き直すことになる。
Q:あなたは一曲のうちに二つのコードのみを使うことについて語っていましたね。"The Damage You've Done" は基本的にG, Fで出来ています。たった二つのコードですが、メロディはその中で上昇,下降して行きます。
TP:即興だよ。ブリッジもそうじゃないかな。やるべき事と言ったら、ぼくが「G!」とか叫ぶこと。すると、みんなGに行く。Fとなれば、F。それからテープを聞き返してみて、指示で出来上がったものを取り出す。
とにかく、演奏している間は、ぼくが「Aマイナー!」とか言えば、Aマイナーを演奏するって具合だった。ユニットにしては実に正確にやってのけたよ。コードを叫べば、そのとおりバンドがコードを変えるんだから(笑)。
まぁ、そういう具合に出来た曲なんだ(笑)。
このレコードにおけるもう一面は、マイクがしっかり手を掛けたものになっている。
そういうのは、しっかり作り込まれていて、がっちりとした構成で、もっとシリアスな感じの録音になっている。"Runaway Train" みたいにね。
Q:マイクと一緒に書いた曲にはもう一つ、"My Life / Your World" がありますね。
TP:ああ、あの見過ごされそうなあれね。かなり良い曲だよ。あれに関しては、良い歌詞があったんだ。"They came out have with a dog on a chain / came and took my little brother away..."こいつはお気に入りだ。
マイクの良くできたコードパターンの曲でもある。
Q:すばらしい一節がありますね。"His generation never even got a name."
TP:ぼくより7歳下の、弟のことを念頭に置いていたんだ。彼の世代は、これと言った呼び名が無かった。「エックスジェネレーション」でも何でもない。すっかり忘れられていたんだ(笑)。あの世代は60年代の後に来て、これという名では呼ばれなかった。
Q:"Think about Me" についてはいかがですか?
TP:この曲も、始まりからだんだん良くしていって、出来あがった曲だな。
かなり早いうちから、最初に立ち戻って、ほかのコードを探さなきゃならなかったし、ちょっと放って置かれてもいた。エンジニアの手が回らなかったから。ぼくが演奏し始めたらエンジニアはテープを回したけど、置いておかれたんだ。
それで後になって存在に気づいて、編集したんだろうな。とにかく、完璧なアドリブなんだよ。ぼくがまたコードを叫んでね。
Q:笑える歌詞がありますが。
TP:うん。どこから湧いたのやら、神のみぞ知る。別に真面目な意味はなくて、単にロックンロールだってだけ。
Q:"All Mixed Up"は、手拍子と笑い声から始まりますね。
TP:(笑)確かに。これも軽い気持ちで作った曲だよ。マイクと一緒に書いたんだ。
Q:ブリッジが語りになっていますが、あまり多く使う手法ではありませんよね。
TP:うん。キャッチーなコーラスだったね。
Q:"Self-made Man"に関しては、ジョニー・キャッシュを配したB級映画みたいなものだと言っていましたね。
TP:(大笑)まったくそのとおりさ、うん。後々になって、ぼくはキャッシュにこの曲をやってもらおうとしたけど、彼にはメジャー7のコードが上手くこなせなかった(笑)。
Q:彼にはオシャレ過ぎましたか?
TP:たぶんね。彼はただ、「これは歌えないよ。私の声がうまく合わない。ほかのコードにできないか?」って言っていた。
ぼくはこのサウンドにほかのコードを当てられなかった。とにかく、ぼくはずっと彼にこの曲を歌ってほしかった。彼もこの曲を気に入ってくれていたから、ほとんど実現しかかっていたんだけどね。実際、やりたがっていたし。
ただ、メジャー7コードだけが克服できなかった。
Q:"Ain't Love Strange"はいかがですか?
TP:これは、自宅のエレクトリック・ピアノで弾いたんだ。これはぼくが経験した、ロマンスの不安感とかの曲だ。"Make you string barbed wire / around you little piece of ground..."
Q:この曲を書いた頃、あなたの人生における混乱期でもあったわけですね。
TP:あのころの人生ってのは、確かにかなり興味深いものだったね。今でも興味深いものであり続けているけど。
とにかく、ぼくにとってはあの頃、「今朝はどこで目覚めたんだっけ?」みたいな時期だった(笑)。人生にはそういう時期がある。
Q:"How Many More Days" はいかがですか?
TP:これはアドリブだった。完全にアドリブだよ。悪い曲じゃない。
ぼくらの衣装係の子、リンダ(・バージャー)を、ぼくらはクィーニーって呼んでる。誰も知らないだろうけど、ぼくらとは80年代の最初のころから一緒にやっている。
彼女がいつもこの曲をリクエストするんだ。ぼくらは毎回大笑いさ。うまく演奏できやしないって分かっているからね(笑)。いつもライブでアンコール前に、ホールとかで待っていると、クィーニーがやってきて、「"How Many More Days"!"How Many More Days"やって!」って言うんだ(笑)。でも絶対にやらないからね。
どういう訳なんだろうな。とにかく、彼女はぼくらがこの曲をかなりイカレちゃってるってとらえていると思ってるんだ。
=========================================
Full Moon Fever,
1989
Q:さて、1989年にリリースした、[Full Moon Fever]
です。ジェフ・リンと、"Free Fallin'"
を書きかましたよね?
TP:そうだな。あれが、一緒に曲を書いた最初だと思う。まさに、顔と顔を突きあわせて書いたんだ。ジェフがやってきたのだけど、その時、ぼくはバグズが買った、小さなエレクトリック・キーボードを持っていた。それを買ったことについて、ぼくはバグズに文句を言っていた。「どうして、そんなものでお金を無駄にするんだ?こんなもの、弾いたこと無いぞ。」
するとバグズは言った。「まぁ、家に置いておきなよ。これで1曲書けば、元が取れる。」
それで、ぼくは「うん、分かった」と答えた。それで、ジェフが来たときに、その小さなキーボードを持っていたんだ。そこで、ぼくはそいつで演奏を始めた。そしてあのリフが浮かんだんだ。"Free
Fallin'"
になる、あの短いコードパターンだ。でも、まだリフに数音乗せただけだった。
ジェフが顔を上げて言った。「わぁ、それ良いね。最後のコードを弾きっぱなしにしたら、どうなるだろう?」
ぼくがそうしてみると、素敵な循環コードになった。ぼくはジェフを笑顔にしてやりたくて、アドリブで言葉を入れた。そう、"She's
a good girl / loves mama / loves Jesus / and America
too."ってね。そうしたらジェフが微笑んでくれたので、更に続けた。コーラスのところをちょっとやってみたけど、どう歌えばよいのかが分からない。するとジェフが(英国アクセントで)"free
fallin'" ぼくもそれをやってみたけど、"free fallin'"がうまく旋律にフィットしない。それで、ただ free..." とやって、次に
"free fallin'"
と歌ってみた。するとジェフは勢いづいて言った。「良いぞ、凄い!」でも、さらに声を1オクターブ上げるて歌えば、コーラスになる。ドーン!"Free
Fallin'"の出来上がり。興奮したね。この曲が大好きだ。
ジェフが家に帰ると、ぼくはしばらく座って、残りのヴァースを仕上げた。マルホランドのところとか、彼女の名前を空に書くところだ。またジェフが翌日来ると、それを聴かせた。そしたら、「おいおい、すっかり曲を仕上げちゃったな。あり得ないよ、最高だ。」まぁ、こうして出来上がったんだ。多分、ぼくの曲の中では一番有名な曲の作り方だね。
それ以来、ぼくに会った人が
"Free fallim'"
とを口ずさんだり、どこかで聴いたりしない日はないよ。あの曲はぼく自身と同義語みたいなものだからね。でも、本当の所、作ったのはぼくの人生中、30分程度なんだよ(笑)。
Q:ジェフと、"I
won't back down" も書きましたね。
TP:あの曲を書いたのは、"Free Fallin"
をミキシングしている最中だった。隣の部屋で書いていたんだ。実際、ガラスばりのコントロール・ルームで、ミキシング作業をしているのが見えたからね。ピアノのあった隣の部屋に行って、アイディアを出したんだ。本当に興奮したよ。もうすぐにでも新しい曲を録音したくて、ミキシングに集中していられなかった。
ジェフの仕上げは、まさに神業だった。どえらい事だったね。その後のぼくの仕事に、もの凄いインパクトを加える事になった。
「ジェフだったらどうするだろう?」って、いつも思うんだ。
いつもジェフにはもの凄く感服している。ぼくらが、ボブ・ディランとイギリスにいたとき、ジェフと少しだけ会ったことがあった。ジョージ・ハリスンと一緒に来ていたんだ。ぼくらがバーミンガムでライブをしたとき、ジェフが現れた。それからぼくらは1週間、ロンドンに滞在した。ジェフとジョージは、午後になると何度も来ていたよ。それから、ギグの後遅くまでつるんでいた。それで、ぼくはジョージやジェフとあっという間に仲良くなった。素敵な時期だったよ。
スタジオでのジェフは、正真正銘の天才だ。めちゃくちゃ凄い。彼は、とても難しいことを、あっという間に、簡単そうにやってのけてしまう。良いテイクをモノにするようにね。ジェフの手に掛かると、いとも簡単にできてしまう。ぼくにたくさんの事を教えてくれた。歌唱や、ハーモニー、それにアレンジの色々なこと。何もかもをだね。
Q:あなたに歌唱を教えることなど、出来るものですか?
TP:ジェフは言っていたよ。「そこが、ベストなサウンドだ。こっちも凄く良い。こっちはイマイチだな。」とかってね。的確に指摘して、言葉で表現するのは、難しいものだ。でも、ジェフはすばらしい物の見方が出来る。彼は座っていながら、すべてを見通している。レコードを聴いただけで、易々と導いてくれるんだ。
難しい局面に来た時とか
― レコード作りって、時々どうしようもなく行き詰まることがあるんだけど、"Full moon fever"
の時は、何もかもが簡単に行った。
Q:曲を書くこともですか?
TP:書くこともだ。速攻で、苦もなく、気付かないうちに書けてしまった。おや、出来てるぞ!
"Free fallin'" と、"Yer so bad"
を録音した後、家に帰ったときのことを思い出すよ。あの2曲がカセットに入っていて、2時間ぐらい演奏し通しだった。何回も何回も、バスルームの床に座り込んだりしながら。なんとういうか、ワァオ!なんか凄い事になった!もう大興奮だった。
Q:マイクと書く場合は、テープに吹き込みますよね。でも、ジェフと書く場合は、顔を突きあわせて書くのですね。
TP:そうだったな。アコースティック・ギターを持って、顔を合わせながら一緒に書いた。
Q:セッションは、誰が引っ張ったのですか?
TP:ぼくら両方で。どんな場合でもね。ぼくらは大親友なんだ。一緒に、たくさん笑った。演奏を始めると、ぼくらのうちどちらかが言うんだ。「良いじゃん、良いじゃん!」そして「よし、こいつをやってみることにしよう」となる。ぼくは全ての歌詞を書いた。
ジェフは詞に関しては関わりたがらなかったな。「きみが歌うのだから、きみが好きなように歌詞を書けば良いよ」って言っていた。だからそうしたんだ。
こんな具合さ。歌を歌うとするだろう、自分で自分の詞を書くのが良いから、それは後回しにしてでも、自信を持ってやること。他の人がどうしようがね。ジェフは仕上げるために、本当に良くやってくれた。完璧な仕上がりだった。
Q.:マイクはあなたがI
won’t back
downを書いたときの事を、よく記憶しているようです。あなたは詞が完全には仕上がらず、とりあえずピアノで完成させたとか。そして、マイク、ジェフ、ジョージ・ハリスンとハーモニー・ヴォーカルを仕上げましたね。
TP:そう。ジョージがまたLAに戻ってきていてね。よく一緒に居たんだ。本当に打ち解けて、つるんでいた。彼の家族も一緒だったから、ぼくらとの二つの家族は、益々親密に。それで、ジョージは時々レコーディング・セッションにも顔を出して、ぼくらと一緒に歌う事になった。
ぼくがピアノ。ジェフがメロディ。―それからぼくがメイン・リフをやって、まさに共同作業で仕上げた。しかし、歌詞が一箇所出来ていない。There
ain’t no easy way outのところなんだけど、その時、そうは出来ていなかった。それでぼくはI’m standing on the edge of
the worldと歌っていた(笑)。
それでいざ録音してみようとすると、ジョージがこう言うんだ。
「一体なんだい、そりゃ。I’m
standing on the edge of the world,
だって?それよりは、もうちょっと良くなるんじゃない?」(笑)
それでぼくはThere ain’t no
easy way
outにしてみたんだけど、やや安直だと思った。ところがジョージは、
「何とも口で言いようのない詞だ。」と言うのさ。ぼくは何とも言いようもない詞なんて書けて、凄く嬉しかった。この曲にインスパイアされた人が大勢現れる事になる歌になったのだから。
この曲がどれほど、様々な人の人生における助けになったか、これまでに手紙を通してとか、直接会ったりして、たくさん聴いてきた。人生における大きな障害を、この曲がどれほど乗り越えさせてくれたかってね。本当に嬉しいよ。
この曲を聴いて、集中治療室からでて来れた女の子の話も、新聞で読んだことがある。彼女のお気に入りの曲だったんだ。
妊娠中絶合法化について、賛成だった医者で、殺された人がいて、人々が彼のために集会を開いた。その時、パール・ジャムのエディ・ヴェダーが、電話してきて言った。「今夜、"I
won't back down"
を歌うつもりなんだけど、構わないかどうか、確かめたくて。」ぼくは答えた。「構わないよ、歌は歌われるためにあるのだから。」あとでパール・ジャムのバージョンを聴いたけど、とても良かった。
(1993年3月10日、フロリダ州ペンサコーラの診療所の外で、マイケル・グリフィンが、ドクター・デイヴィッド・ガンを殺害した。パール・ジャムは1994年3月9日、ペンサコーラ・シビック・センターで行われた「ロック・ザ・チョイス・イベント」に出演し、ドクター・ガンを記念して、"I
won't back down"
を演奏した。)
ずいぶんいろいろな別バージョンを聴いたことがあるよ。教会の聖歌で聴いた事もある。ぼくの弟は、フットボールの試合で、マーチング・バンドの曲になっているのを聴いたと言っていた。まるでダンスの曲になっているみたいな、ゴスペルのレコードも聴いたな。
最初にこの曲を書いたとき、思ったんだ。「これはイマイチだろうな。直接的すぎる。隠喩もないし、裏に隠れた意味とかもない。」とにかく表現が率直で。でも、この率直さが、たくさんの人をインスパイアしたのだと思う。ぼくの歌の中では、よく知られている物の一つだね。ライブでは必ず演奏しなければならないよ。さもないとみんなガッカリするから。とにかく、この曲を作れて、本当に嬉しいよ。
Q:"Love
is a long road"
は、マイクと作った曲ですね。彼は、この曲はオートバイにインスパイアされていると言っていました。
TP:それは知らなかったな。書いたときのことは覚えている。マイクは採用したヴァージョンにほぼ近いトラックを作っていた。でもリズムが違った。ドラムがかなり刻んでいたんだ。それに少し混沌としていたな。
まず、ぼくらはジェフ抜きで録音を始めた。彼は、一,二週間イギリスに行っていたから。彼がアメリカに戻ってくると、ぼくらの録音をすっきりさせてくれた。あんな事が出来る人こそが、ジェフだね。ジム・ケルトナーがドラムを叩いている。でも基本、音楽的にはマイクのアイディアなんだ。ぼくは全てのメロディと、歌詞を作った。それからぼくら三人全員で、アレンジを加えた。とても上手く行った。今でもよくプレイするよ。
Q:"Runnin' down a dream"
は、マイクやジェフと作ったのですか?
TP:実際は、マイクがあの下降リフを作ったんだ。
Q:あの曲の動力源ですね。
TP:うん。マイクはあのリフを作っていたけど、テンポの設定が違った。ブロークン・ビートみたいな感じで、もっとゆっくりだった。ぼくはこのノリが大好きだったので、座り込んでギターを引き、あれやこれやと実験してみた。そして、ストレート・ビートで、とても速くすれば、良くなるという結論になった。
それでジェフが家に来たとき、そういう風に聴かせると、彼は言った。「それ良いぞ。このリフにはそれしか無いな。」(笑)
また座り込み、いくつかのコードが加わり、ジェフが輪郭を決めた。まだ歌詞はなかった。ぼくはコードのオイシイ所をもらったんだ。ジェフはコーラスですごく助けてくれた。ブリッジは全部ぼく一人で作ったと記憶している。そうやってぼんやりとだけど輪郭を作り、ハミングでテープに録音した。ぼくはその後の週末、二日間の午後を使って、この曲に取り組んだ。そうやって出来た物に、ぼくは完璧には納得していなかった。低い音域で歌っていたからね。それでジェフやマイクに言ったんだ。「キーを変えた方が良いかな?」ジェフが言った。「いやいやいやいや、完璧だよ。こうするのが一番だ。」
デル・シャノンが、身近に居たな。あのときちょっと、ぼくらと付き合いがあったんだ。だから、あの歌詞を入れたんだよ。"Me
and Del were singing 'Little
Runaway'"ってね。あれはぼくが彼の為に入れ込んだのさ。とても喜んでくれたよ。すてきな笑顔をぼくにくれたんだ。"Little Runaway"
は全てのコンセプトに合っているし。
この曲で、ぼくにとって一番驚異的であり、いまだにそうであり続けている事は、マイクのソロだ。マイクが弾いているやつさ。あのときは、ぼくとマイク、ジェフの他には誰も居なかった。マイクがエンジニアを務めていた。ぼくらはマイクの家の、ちっちゃなスタジオに居た。四人がぎりぎりで入れる程度で、もっと居たら、他の人はガレージに居なきゃならない。車も出さないとね。
マイクは頭を下げ、ただ座り込んでいた。そしてピンと来たのか、演奏を始めた。そしてあの凄まじいソロを弾いたんだ。でも、まるでその姿は石像のようだった。マイクは瞬きもしなければ、動きもしなかった。そしてぼくらには背を向けていた。ジェフがマイクの肩あたりを見て、そしてぼくの方に振り向き、こんな顔をして言ったよ。「本当にあれ、弾いてる?」
たったのワン・テイクだった。それだけでマイクはあのもの凄いソロを弾いた。
Q:この歌は四分以上。他の多くの曲よりも長いですね。
TP:マイクが弾きつづけたからだよ。だから、ぼくはフェイド・アウトとか、編集とかをしたくなかったんだ。とにかくマイクのプレイは良かったからね。
Q:"Yer
so bad" はおかしな歌詞ですね。"My sister got lucky / married a yuppie / took him for all he
was worth..."
TP:ブラック・ユーモアだよ。ぼくは "Not me baby"
のところで行き詰まって、うまく形にできないでいた。。そうしたらジェフが言った。「Eマイナーを入れてみなよ。」それでそうしてみたら、全てがうまく行ったんだ。
Q:このアルバムの中で、もっとも忘れがたい歌の一つが、Eマイナーの
"Face in the crowd"
です。ジェフと書いたんですね。美しい曲です。
TP:よくそう言われるね。少し前にメキシコに行ったとき、男性のフライト・アテンダントが居た。彼はあまりよく英語が話せなかった。彼がやって来て言うんだ。(メキシカンっぽく)「あ、トム・ペティ!大勢の中にその顔が!(Face
in the crowd)」(笑)"A fafe inthe
crowd!"ってね。彼の中で、はまったんだろうな。
この歌は好きだよ。実に優しい歌だ。良い感じの感傷もあって。シンプルだし。とてもシンプルだ。複雑さがどこにもない。Eマイナー、C、D、Aマイナーセブン。
Q:(Full
moon
feverは)私が最初に買ったCDの一つです。何度も何度も聞きました。(コンパクト・ディスクは1983年、シカゴのコンシューマー・エレクトロニクス・ショーで初めて紹介された。音楽ファンたちは、レコードやカセットから、この新しい媒体に切り替えるのに、数年かかった。)
TP:このCDの中間に、入っているね。「CDリスナーのみなさん、こんにちは。レコードやカセットで聞いている人が、立ち上がるなり、座るなりしてひっくり返す、アルバムの中間点に来ました。そういうリスナーのみなさんのために、サイド2を始める前に、すこし待ってあげましょう。」うん、あの頃、CDはおおごとになっていた。
Q:LPに対して、CDで作品を出すことは好きですか?
TP:LPのジャケットが懐かしいよ。LPから得るものの、大きな部分を占めていたからね。聞くときに、しっかり手にしていただろう。あれ自体がアートだった。それが失われてしまった。
Q:CDにもジャケットはありますが。
TP:でもちっちゃ過ぎないかい?あんまりにもちっぽけで、
書いてある文字を読むのに、目が疲れちゃうよ。あの大きなジャケットが恋しいな。レコードを作ったときに、LPも制作されるのは嬉しいよ。楽しみが増えるだろう。
Q:今でもLPを聴きますか?
TP:聴くよ。しょっちゅう。違うだろう。始まりがあって、折り返し、第二幕とあるんだもの。あれが懐かしい。片面で約20分が測れるし。だから、20分掛ける2をどうしようか、計画することもできる。今じゃそんなこと、考えないよな。時間は無限ときている。だからぼくらが望む通りの、贅沢な時間を、アルバムに出来るようになったと思うんだ。長すぎるほどさ。Echoなんて長すぎると思う。いくつかの曲は引き延ばされてる。座って聴くとして、70分は集中し続けるには無理がある。
Q:"Depending
on you"
という歌はあなた自身で作った曲ですね。
TP:作っていて楽しかったよ。演奏するべきだな。コンサートでやっていないんだ。
[Full
monn fever]のサウンドは全て出来が良い。つまり、このアルバムのサウンドそのものー
運が良ければ、魔法が起こるし、魔力のようなサウンドが聞ける。このアルバムはまさにそれを持っている。すこし怖いくらいだ。あんなこと、もう一度できるだろうか?それほど魔力的なサウンドで、いったいどうやったのかも分からない。
でも、どうやったかなんて、どうでも良くなってしまう。ぼくらがポジティブなエネルギーを注いだからだろうね。とにかく、このアルバムには、極上のサウンドがあるよ。
Q:マイク(キャンベル)の小さなホーム・スタジオに集まっての、録音は素晴らしい出来でしたね。マジックとでも言うべきでしょうか。
TP:そうに違いない。ぼくやジェフの人生にとっても、一番輝いていた時期だと思う。ぼくの人生最高の時さ。ウィルベリーズに、Full
moon
fever…。ちょっと努力しただけで、音楽は沸いてきた。深い、深い友情であり、笑顔があふれていた。そう、ジェフと、ぼくとジョージの間のね。周りのみんなもそうだろう。
先週、オリヴィアがここ(トムの自宅)に来てたんだ。ウィルベリーズの映像上映会をしてくれたんだ。バグズが録った沢山のビデオを見せてくれたんだよ。ジョージはずっとバグズに録画させていたんだ。ぼくは知らなかった。ちょっとはあるとは思っていたけど。ところが、ぼくらがコントロール・ルームを離れたり、スタジオの準備してた時、ジョージはバグズにカメラを渡して、回させていた。ジョージ自身が録ったのもけっこうある。
ともあれ、とにかく楽しかった。あの時のぼくらほどの楽しげな連中なんて、見たこと無いだろうさ。本当に見所の多い映像だった。
どの映像を見ても、ボブがスタジオにいるのがなかった。ぼくらが曲を書いている映像があった。ちょうど、ボブが手の中の紙に何か書いたところだ。それでボブが言うんだ。
「もう一回やり直し。“Is”が多すぎるや。」(笑)「Isだらけ!」そう言って、ボブは歌詞を消してしまった。でもさ、ああ…まったく!凄かった。素晴らしかった!何て素晴らしい友情!幸せな時っていうのは、あれのことさ。
Q:"Apartment
song" は、ずいぶん昔に作られたものですが、このアルバムに入っていますね。
TP:"Southern Accents"
の時に作ったまま、眠らせていた。いろんな曲をさっさと作っていたので、ジェフが言った。「何か放ってある曲はないの?」それで言ったんだ。「ああ、1曲あるな。」スティーヴィー(・ニックス)と二人だけでデモを作っていた。そのデモに関しては、それしかしていなっかた。ジェフは上手にレコードに入れてくれたよ。
Q:二番目のコーラスの後、ギターとドラムが違うリズムに切り替わるのが、素敵ですね。
TP:うん、ぼくら流のバディー・ホリーだね。
Q:"Alright
for now"
は優しげで、可愛らしいララバイですね。
TP:うん。ぼくの子供たちのことを頭に置いて、夜遅くに作った。これの時は、ジェフが居なかった。居なかったので、マイクとぼくで作ったんだ。オーバーダブとか全てを二人でね。
Q:美しいフィンガーピッキングのアコースティックギターですね。
TP:ライブで録音したよ。二人っきりで一緒に、ライブ録音したのさ。
Q:"A
mind with a heart of its own" はいかがですか?
TP:ジェフとぼくはコニー・フランシスが "My heart has
a mind of its own"
を歌っているのを聴いたんだ。二人ともそれぞれの車に乗って、スタジオに向かっていのだけど。よく、オールディーズを流すAMを聴いていたんだ。
ぼくは車から降りると、なぁ、「あのコニー・フランシス聴いたか?」すると、ジェフが言った。「ああ、ちょうど聴いてきたところだよ。ああいうのを、別の歌い方でしたらどうかな?まったく別のやり方でさ。」
それで、ぼくは思い返してみた。それで、翌日、ボ・ディドリー風のリズムに乗せて、アイディアを持ち込んだ。すると全員でこの曲にうち込んでしまった。ぼくが詞を作っていなかったところは、アドリブだ。"I've
been all around the world / I've been over to your house / You've been over
sometimes to my house / I've slept in your tree house / My middle name is
Earl"(笑)これは良かったな。実際、ぼくのミドル・ネームはアールだもの。しかも完璧に"World"って言葉に落ち着いている。それでぼくらはそのままにする事にした。
Q:時として、歌というのは場所さえ間違えなければ、あるべきものに落ち着くものですね。
TP:ああ、この曲の場合がそうだね。2番までは出来ていたけれど、3番が浮かんでこなかった。そうしたらジェフが言ったんだ。「とりあえず、いつものようにやってみなよ。」それで3番が(アドリブ)で出て来たとき、それを当てはめることにした。
Q:"Zombie
zoo"は、夕食の席でモーホーク族のパンクから聴いた名前だそうですが。
TP:うん、あれはジェフとジョージ、ぼくがロイ・オービソンにバンド(トラベリング・ウィルベリーズ)に入ってほしいとお願いしに、アナハイムへ行ったときの事だ。
あの時、
[Full moon fever] の作業中だった。ぼくらは目にしたものを色々と、メモしていた。覚えているのは、ある看板にあった「毎日が審判の日 Every
day is judgment day」という言葉だ。それは後に、ウィルベリーズの "End of the line"
になった。
ぼくらは帰り道でレストランに入った。そこで、パンクっぽい連中がぼくらに気づいて、近づいてきた。それでぼくが尋ねた。「どこから来たの?どこでプレイしてる?」すると、彼らが答えた。「ザ・ゾンビ・ズー」 速攻、メモした!(笑)
こいつは実にお気楽な曲だよ。まったくナンセンスでさ。特にこれと言った主張も無し。お楽しみのためだけ。"Zombie
Zoo"
って何だそりゃ。ジェフが反対しなくても、この曲はアルバムに入れる気はなかった。単に録音しただけで。でも、入ってるね。
=========================================
Into the great wide open, 1991
Q:1991年の[Into the
great wide open]には、名曲 "Learning to fly"
が入っていますね。
TP:ぼくらの曲の中でも、もっとも人気のある曲のひとつだ。いまでも映画に使わせてほしいと度々頼まれるし、みんなコンサートでも聴きたがる。みんな抱きしめるようにして聴いているよ。
Q:以前、パイロットが「飛ぶことは簡単だ、でも降りるのが難しいところだ。」と言うのを聞いたと述べていましたね。
TP:その通り。あれがインスピレーションだった。そこからもらったんだ。ジェフとぼくで一緒に作った。最初はぼく一人で始めて色々やってみたけど、ジェフが加わって、コードなどで手助けしてくれた。最終的に、二人で仕上げた。
今でもこの歌が好きだ。演奏するのも好きだし。この歌について、様々なメールをもらうよ。色々な人がインスパイアされたとか、人生の方向を得たとか、手紙をよこしてくれる。この歌を作ったことを、誇りに思うよ。録音のサウンドも良く、シングルにもなった。
Q:ジェフと二人で取りかかり、素早く事が進みましたか?
TP:ああ、ぼくらは夜にこれを書いたのだと思う。歌詞のほとんどを書いてあったから、すぐに出来たし、メロディも頭にあった。ぼくはこのアイディアを出し、その夜じゅう、二人で座り込んで取り組んだ。でも、一日か二日にしても、まずまず早くできたと思う。
ぼくの頭には、短いメロディがあって、それをジェフに聞かせた。それでジェフが言った。「よし、それに何が上手くフィットするか、試してみよう。」それで、ジェフがコードの大部分をやってくれた。
Q:"Into the great wide open"
という曲は、マイク・キャンベルの素晴らしいスライド・ギターで幕を開けますね。ジョージ・ハリスンにインスパイアされたようなサウンドですが。
TP:そう。まったくその通り。ジョージは本当にマイクがプレイするのが大好きだった。あの二人は、互いのスライド・ギターに賞賛を贈りあっていたよ。あの曲には良いギター・トラックが沢山あるね。特にマイクが12弦を弾いているのが良い。あれが、アルバムにもう一味加えてくれた。
Q:この曲は、アルバムのために最初に書かれた曲の一つですか?
TP:そうだね。
Q:「とてもおかしくて、同時に真実の歌」と呼んでいますね。
TP:(笑)物語になっているいるからね。ストーリーがある。幾つかの真実を含んでいると思うよ。ある意味、お気楽だ。ブラック・ユーモアも含んでいる。
この曲のビデオは素晴らしいよ。歌と同じくらい出来が良いと思う。歌とビデオの両方が良くできている、希な例だろう。実際、ビデオに合わせて曲を引き延ばさなければならなかった。ビデオは7分あったんだ。ずいぶん沢山撮影したし、それを切りたくもなかった。それで、ぼくらはスタジオに戻って、歌をビデオに合わせるために、編集とミックスをやり直した(笑)。
Q:鍵となるのは、"the
sky was the limit"
ですね。
TP:ああ、カリフォルニアに出てくる時に、感じる感覚なんだよ。そういう人にはピンと来るし、そうでもない人も居る。
Q:自然にあの物語が出来てしまったのですか?それとも意図して書き進めたのですか?
TP:書いていたら、ああなった。あの話がどこからわいたのかは分からないよ。コードを弾いていたら、あのちょっとしたお話がわいてきた。しばらく頭の中で考えて、もう少しはっきりさせた。
うまく書けたので、ジェフに聞かせた。それでジェフが手助けをして、もう少しアイディアを追加したんだ。あの循環コードとかね(コードを口ずさむ)。ジェフのアイディアなんだ。それを挿入して、幾つかコードの変更も加えた。ちょっとエキゾチックな感じをメロディの下に加えたりして。
まぁ、それでもぼくは自分で、だいたい作り上げていた。ジェフが加わる前にね。
Q:[Into
the great wide open] に入っていた "Two gunslingers" が、ヒットはしなかったものの、2000年10月31日発売の[The
Anthology]に入っていて、嬉しかったです。
TP:あの[Anthology]
アルバムね。あのレコードには、あまり意義を見いだしていなかった。でも、出さなきゃいけない契約だったから。
そこでぼくらは、自分たちのお気に入りをピックアップする事にした。ずいぶん沢山入れられたよ。レコード会社はすべてのヒット曲を入れるつもりだった。2枚組だったから、色々と選べた。だからお気に入りを収録したんだ。
Q:つまり、"Two
gunslimgers"
はあなたのお気に入りというわけですか?
TP:もちろんさ。
Q:私も好きです。
TP:大好きだよ。仕上げた時には誇りに思った。
Q:おかしな歌であると同時に、意味深いですね。
TP:うん、良くできた反戦の歌だ。
Q:書いたときのことを覚えていますか?
TP:覚えているよ。この曲を書いたところに、絵があったんだ。ジム・レナハンがぼくにくれたポスターでね。
ジムは映画狂なんだ。ぼくらがゲインズビルに居たとき、ジムはいつも映画の話ばかりしていた。そうすると、ぼくはダメ映画を持ち出して、話を混ぜ返してしまう。たとえば、「『復讐の拳銃
Hostile
guns』(1967年)なんてどうよ。」ってね(笑)。まったく最悪なウェスタンだよ。タイトルなんて笑っちゃうし。ジムは『市民ケーン』の話をしているのに、ぼくは『復讐の拳銃』だもん。彼は辟易しただろうな。
それから何年もしてから、ジムは『復讐の拳銃』のポスターを手に入れて、ぼくに送りつけてきた。あげるって言うんだ。部屋の壁に貼ってある。この歌の種は、そのガンマンのポスターだったと思うよ。
Q:"The
dark of the
sun"についてはいかがですか?
TP:チャンスがあればライブで演奏したい曲だね。やったことがないんだ。あのアルバムのなかで紛れてしまったんだな。沢山の歌が入っているからね。良くできた小品だよ。何年も聞いていなかったな。聞いていれば好きだったろうな。
Q:あなたはアルバムのすべてが好きだと思っていますが。デイナに、車の中に置いておいてもらわないと。
TP:(笑)最後にこのアルバムを聞いたとき、ぼくはホテルかどこかに居たんだ。サンタ・バーバラかな。休暇中だったんだ。ホテルの部屋には、CDプレイヤーと、スタンダード・ナンバーのCDが備え付けられていた。モントヴァーニとか、ジョニー・マジスとかね。
さらに、ぼくのCDがあった。それが
[Into the great wide open]
だった。ぼくはこれをセットして、聴いてみた。それが、一番最近、アルバムを聴いた時だ。
Q:楽しみましたか?
TP:うん、"The
Dark in the sun"
は楽しんだよ。大部分、楽しんだと言うべきかな。普段、ぼくはやや辛口批評だから。でも、驚くほど良かったよ。
Q:"The dark of the
sun" には素晴らしい歌詞がありますね。"I saw you sail across the river /underneath Orion's sword
/ in your eyes there was a freedom / I had never known
before..."
TP:星座。オリオン座は、ぼくが空を見上げて、すぐに見つけることのできる、数少ない星座の一つだ。星の輝く空からの歌ってところかな。
Q:All or
Nothingという歌は、強力なメロディを持っています。
TP:マイクが書いたんだ。いかにもマイクらしい曲だな。あまり手を加えないで済んだと思うよ。
Q:これもまた、イントロに素晴らしいスライドが。
TP:マイクは本当に上手なスライド・ギタリストだよ。ジョージはマイクの事を、もっとも偉大なスライド・ギタリストだと思っていた。ジョージはよく、ぼくに言った物だった。
「(スライド・ギターに)ライ・クーダーありき。そしてマイク・キャンベルありき…」ジョージは本当にマイクのスライドを愛していた。
ただの楽器演奏とは、また違うんだ。音符通りなだけじゃないからね。むしろ歌声のようなんだ。
ビブラートに関しても、金属なり、ガラスなりを使って、どうにかしてあの音を出そうとするだろ。ぼくもやってみたけど、ダメだった。
Q:容易ではありませんね。
TP:ああ、容易じゃない。努力の賜物だよ。一生懸命に練習しないと。
でも、マイクにとってはごく普通のことなんだ。完璧なビブラートに、完璧な音程。音程は大事だ。ほとんど歌うようだね。音符を正しくとらえて、キープするんだ。
とにかく、あいつは最高のプレイヤーだよ。ぼくの全人生にわたる付き合いだけど、いまだにあいつのプレイに驚いている。マイクのことを知りすぎているくらい知っているけど、まだ驚いちゃうんだ。
マイクにはなんでも頼める。なにをお願いしても、やってくれるからね。しかも結果はそれ以上だ。マイクができなかった事なんて、記憶にないな。何でもできるし、予想よりも良いものをやってのけてくれる。最初にイメージしたものよりも、良いもので返してきてくれるんだ。まったく、偉大なるミュージシャンさ。
Q:ベンモントも同様ですね。彼にできないことなど無さそうです。
TP:ベンモントにも、同じように言ったことがあるよ。あいつにアイディアを渡せば、これまたより良いものになって返してくれる。そんなわけで、あの二人がぼくをゴキゲンにしてくれるのさ。
ぼくらはお互いに大事に思っている。ぼくら三人による、山ほどのコラボレーションがあるんだ。それが、レコード作りの大部分を占めているている。音楽を作るために、メロディやその組み合わせで、協力する。そうしてサウンドを作り上げるんだ。
Q:"All or nothin'" を、"Out in the cold"
の代わりに、ラジオで流してほしいのですよね。
TP:こっちの方が良いからさ。うやむやってことがあるのさ。ここ数年、思い続けていたんだ。"Out
in the cold”はそれほど良くないってね。でも、"Out in the
cold”はラジオでよく流れてて、イラついていた。強烈なビートがあるから、よく流れるんだろうと思った。
でも、最近この曲をリハして、プレイした時、本当に気に入ることができたよ。
Q:でも、絶対にヒットするはずの曲が、シングルになるチャンスに恵まれない時など、フラストレーションは感じませんか?
TP:"Learning
to fly"と、"Into the great wide open" のシングル2曲が、かなり流れたケースとかだね。それから、"Out un the
cold"がFMでかかった。ぼくはみんなに、このアルバムの様々な面を聴いてほしかったんだ。色々と違った種類の音楽があるんだよ。
だから思うんだ。「ああ、この曲飛ばしちゃうのかよ」って。
でもまぁ、実際は些細なことさ。だからと言って、ぼくの世界がメチャメチャにされる訳でも何でもないから。1枚のアルバムで、一体何曲流れるだろう?だいたいは1曲程度だ。だから結局は、1曲だけでも感謝するべきなんだよ。
Q:"Out
in the cold"
はジェフと書きましたね。しかし、この曲に完璧には満足していないとか?
TP:苦労したんだ。歌詞でちょっとね。うまく行かなくて苦しみ始めると、いつもはどうやっているのかが不思議に思えてくる。ライブでやったときに思い返したのだけど、改めて歌詞に驚いたし、気に入ったよ。歌うのも好きだ。
Q:素敵な対位法的なハーモニーですね。
TP:うん、ジェフのアイディアだ。普通と違うよね。彼がやってきて、このアイディアを出してきた。それで、色々と変更になった。長調を短調にとかね。でも、ジェフはすすめて行った。彼の基本的なアイディアだった。
結局、ロックン・ロールに落ち着いた。大事件ではないけど、とにかく良くできたロックンロール・ソングだよ。
Q:これも、マイクの演奏はすばらしいですね。
TP:あいつは、いつでも凄いからね。いつも一歩先を行っている。終わりのところでマイクがプレイしていた様子を覚えているよ。ぼくらをやたらと驚愕させた。うわぁ!どうやってるわけ?!
Q:マイクがあのような凄い事をスタジオでやっているのは、楽しいでしょうね。
TP:まったくだ。あんな奴と一緒に取り組む事が出来るなんて、ラッキーさ。(ちょっと間を取って)凄いバンドだよな。マイクの役割は小さくはない。本当に最高さ。
Q:このアルバムの中で、私のお気に入りの一つが、"All
the wrong reasons"
です。音楽は美しいですし、歌詞も素晴らしいですね。
TP:ベンモントがこの曲が好きなんだ。この曲をやろうぜって、しょっちゅう言ってくる。
作ったときの事を覚えている。インスパイアされたんだ。子供を通して知り合いだった家族が居てね。ものすごくお金持ちで、なにもかも満ち足りていた。でかい車に家。そして突然、経済状況が悪化し、お金を失ってしまった。そして身辺整理をして、立ち去らなければならなくなった。それが、この曲の元ネタなんだと思う。"the
big house went up for sale / they were on their way my mornig."
夜逃げだったからな。消え失せてしまった。世界の頂点からの失踪さ。
あれは湾岸戦争の時期で、父の方のブッシュが大統領だった。ぼくは色々と、何らかの良くない理由で、物事が進んでいると感じていた。ずいぶん大胆なとらえ方だけど、ぼくはただ、アメリカそのものが、道徳的な意味で、生きるにはチープな所に変容しつつあると考えたんだ。ものの価値観が変わっていた。カルチャーは虚飾的で、空虚なものになり果てていた。
あるいは、何も変わっていないようでもある。でも変化は感じるものなんだ。湾岸戦争は、このアルバムの裏に多大なインスピレーションとして存在している。"The
rocks might melt and the sea may burn"("Learning to
fly")というのは、(原油流出による)海上火災を見たところからきているんだ。
それこそがあの時代の反映だった。戦争があり、いやな感じが腹の底にたまっている。ぼくはポジティブなアルバムが作りたかった。でも、同時にあの変化も反映させたかった。新たな年代を迎える時期だった。いま、起こっていることについて、何かコメントしておきたかったんだ。「ぼくらは大いなる、広い、開けたところへ向かっている。」
Q:一緒に歌えるような、美しい曲や、メロディのことを話していましたね。"All
the wrong reasons" は正にそれです。素晴らしく美しいメロディですね。
TP:あの曲は、大したメロディを含んでいるね。"Free
Fallin'"
みたいなものだな。コードはシンプルなスリー・コードで、それを何度も何度も繰り返す。雰囲気的にはそうではないけど。
マイクがオープニングのリフで、ブズーキを弾いていたのを覚えているよ。ギリシャの楽器だ。始まりきっかけは、ブズーキと同じくらい、素敵なギターだ。それがきちっとした音色を出している。あいつがやりそうな事だよ。マイクは変な楽器を持ち出してきて、うまく融合させてしまう。うん、そうさ、凄いアルバムだよ。
ベンモントがうまく掴んでくれれば、ライブで演奏するだろうな。
Q:ベンモントに確認するべきですね。
TP:(笑)ボブ・ディランの本を読んだときは、大爆笑したよ。
ベンモントが、あの曲をやろう、この曲をやろうって、ボブにわぁわぁ言うところさ(笑)。お気の毒に。ベンモントはお目付け役をしていてくれるから。あいつがぼくらを真面目なままに、居させるんだ。
Q:"Too
good to be ture"
はいかがですか?
TP:好きな歌だよ。みんなはどうだか知らないけど、前回のギグで、ぼくらはわざと変わったことをする曲を探していて、この曲になったんだ。本当に好きな曲さ。音階旋律だね。一つか二つのコードを繰り返しているんだ。
ぼくは歌詞で、女の子を想定するのが好きだ。彼女の思いを巡らしている。最後は盛り上がるね。この歌の最後、彼女は往来に座り込んで、考えているんだ。"You
don't know what it means to be free / it's too good to be true."
これをモノにできたのはラッキーだったな(笑)。うまく出来たよ。好きな歌だ。
Q:クールなコードでの仮終止がありますね。あのコードは、いまだに掴めないのですが。そして再び始まり、本当に素敵なソロが来ます。
TP:あれはぼくのミステリー・コードなんだ。ジェフが言っていたよ。「そんなコードの存在、知らなかった。」(笑)
ぼくがまともなミュージシャンだったら、あれはやらなかったと思うよ。でも思いついたモノが、サウンドを良くするのであれば使うさ。ギターで出来る限りの、コード・バリエーションを使うんだ。ぼくには独自のやり方があって、そのコードを表現する。ぼくらのような事をやろうとするなら、これは重要なことだ。ぼくの曲を演奏する人がいるけど、コードを正しく表現し切れてはいない。表現こそが全てなんだ。
あのコードが思いついたときのことを覚えている。たしか、前もって準備してあったコードではなかった。「おや、こいつはディミニッシュの11thのようなものだな。」みたいなノリで。でも(和声的に)正しいサウンドではなかった。ともあれ、ぼくはそいつをそのままにしておいた。良いノイズであれば、それこそぼくが求めていたものだ。
実を言うと、全てのコードの名前をちゃんと知っているわけではないんだ。9thが何であるかも、分かっていないし。勉強して、少しはましになっているけど。7ths,
6thsなら分かっている。でも、11thsだの、ディミニッシュだのになると、名前も定かじゃない。分かっているのは、良いサウンドのためにどう指で押さえるかで、実際そうしている。
キーボードでも同じ事。時々、間違えて偶然のコードを押さえたりする。でもそれが良かったりして、採用するんだ。こういう音楽は楽しいよ。手が触った所で、何かを作り上げるのさ。楽しい偶然もある。あのコードはそういう楽しい偶然の産物だよ。
Q:ベンモントはそういうコードを、掴み切れていますか?
TP:うん。あいつに掴めない物なんて無いもの。
Q:"You
and me will meet again" という、信念に関する歌を、一人で作りましたね。美しいイメージが含まれています。"A red-winged
hawk is circling / The blacktop stretches out for
days..."
TP:ぼくらが住んでいるエンシーノの、木々の繁る丘のことだ。大きな樫の木がたくさんあってね。ロサンゼルスのどまんなかだけど、田舎みたいなところだ。鷹を見ることも出来る。実際、ぼくは鷹がダイブしたり、また舞い上がったりするのを見た。
そして、思いも寄らず、しの光景を自分の中で描写していることに気づくんだ。鷹が輪を描いて飛ぶ様のように、単純なことだ。あとになって、ふっと心の中で思い返し、何かの例えに使いたくなる。
歌を作る事は、とても楽しいよ。もしくは、作家でも良い。自分の身の周りのことを、特別なことに仕上げる作業なんだ。機会はいくらでもそこらに浮いている。網で捕らえるように、やることはいくらも掴むことができる。
誰かが「行き詰まってしまったから書けない」と言ったとしよう。深く息をして、辺りを見回せば、すぐそばに何か書くべきものがあるというのが、真実なんだ。とにかく前へ進むには、自信を持つこと。
Q:"Makin'
some noise"
まで来ました。マイクやジェフと書いた曲ですね。素敵なリフです。
TP:マイクのリフだよ。ほとんどマイクの曲だ。ぼくは旋律と歌詞を書き、ジェフが加わってヴァースのパターンを作った。マイクが素材を持ってきたのだけど、これは凄いなと思ったよ。それでみんなで頭を寄せあって、書き上げた。この曲は大好きだよ。ライブで演奏しても良いし。楽しみに満ちているね。
あの音を出すのに、マイクは少し変わったチューニングを使うんだ。あのリフのために、いつもよりは少し低めのチューニングをしているんじゃないかな。
この曲を書いているときに、自分が渓谷に居るというイメージがわいたんだ。渓谷では、向こう側でする音がよく聞こえる。時々、谷向こうでの会話が、手に取るように分かる事があるんだ。
ぼくはギターを弾いていて、突然、渓谷の向こう側の誰かが弾いているギターの音を聞き取る。そうしてこの二者が一緒に何か演奏したら、面白いだろうなと思った。それで、最後のヴァースにこのイメージをくっつけたんだ。
Q:"Built
to last"
は、ジェフと書きましたね。古いモータウン・ビートのような、クールなグルーヴがあります。
TP:こいつは少し苦労した物の一つだ。スタジオで書いたものでもある。どっからどうわいてきたのかは分からない。あのビートに落ち着くまで、いくつかのヴァージョンを試した。
このアルバムの仕事の、最後の方だった。おしまいの時期だよ。どうして覚えているかって言うと、この曲を終えてから、安堵のため息をついたからさ。本当に好きな曲かどうかは、分からないな。
Q:グレイトフル・デッドが同じタイトルの曲を作っていたという事で、さんざん言われたというのは、本当ですか?
TP:そうなんだ。こういう事は時々起こる。何か思いついて、考えてみると、そいつはほかの誰かが最初にやっていると気づくからね。それで苦労しないようにしないと。
一番困るのは、書いてしまってから、それが誰か他の人の曲だって、気づくこと。月に2回はそんな事があるよ。何かを作っているときに、それは他の何かからの引用だと気づいたら、もうあきらめるしかない。世の中には沢山の言葉や音があるのに、たびたび人のテリトリーを侵すことがあるんだ。
Q:何年もたってから、自分で使っているメロディが、他の人の物であることに気づいたことはありますか?
TP:ある。そうなったら、あきらめる。
Q:あきらめるか、変更するか?
TP:うーん、いつもやめてしまうな。もう一度やり直し。一音や二音変えても、頭の中では依然として、他人の曲が流れているからね。
いつの時代でも、ソングライターは同様の問題を抱えていると思うよ。何か曲を演奏しても、それがベートーヴェンだったり、ビートルズだったりする事に気づく。オープン・チューニングをやると、だいたいキース・リチャーズがやってしまっているというセオリーがあると思うな(笑)。彼が最初にできることをやり切ってしまっているんだ。
Q:(キース・リチャーズは)ユニークな5弦オープン・チューニングを用いていますね。
TP:凄いよね。彼が本物のソングライターとして言及されることはあまりないけど、でもさ、本当に優秀なソングライターなんだぜ。マジで、最高にすげぇライターだ。プレイヤーとしても、全てにおいて優れている。
とにかく、言ったように、オープン・チューニングでギターで何かしても、全ては結局、彼が最初にやっていることを思い知ることになるんだ。
Q:ジャガーとリチャーズは、あなたとマイクとは対照的なのが面白いですね。あの二人は全てを一緒に書くのに対し、あなたはほとんど一人で書き、一部だけをマイクと書きます。
TP:それは人間関係の成り立ちの違いだよ。ぼくはずっとライターだった。マイクが書き始めた時、まだそれほど数はこなしていなかった。あいつが何かヘンテコな物を持ち込めば、ぼくは「まぁいっか」で済ます。
マイクが曲をくれる時のやりかたは、いつもテープなんだ。それで、ぼくは試してみて、モノにする。
同じ部屋に籠もって、一緒に書いてみたこともあるんだ。でも、ふたりとも気に入らなかったな。ぼくはなんだか落ち着かなかった。ああいう風に、誰かと一緒だと自分の地図通りに動くことができないんだ(笑)。
あいつの「作ったもの」と一緒なら、この作品をどう持っていくかをあらかじめ見定めて、地図通りに行く事ができると思うよ。前にも言ったけど、マイクが考えてきたモノは、多くがこれからコーラスに入るぞ、ってやつなんだ。でもぼくらが一緒に同じ部屋に入ると、そういうのがピタリと止んでしまう。だから、そういう行き詰まりが無いのであれば、ぼくにとってはあいつの「作ったもの」で仕事をする方が良い。
それがうまく発展させる方法なんだ。だからぼくらは、その方法を貫いてる。出来上がったときには、いつも二人の気持ちが一致するんだけどね。ぼくは自分で仕上げてきたものをマイクに聞かせて、そこからまた、どうすれば上手く行くか、だめになるか相談するんだ。
いつも、そのやり方がぼくにはハッピーだし、ぼくがそうするのを、マイクも好きなんだ。
Q:彼はあなたの仕上げには、大方満足していますか?
TP:うん。いつも喜んでくれている。
Q:あなはがマイクに、どう曲を聞かせるのですか?
TP:色々だよ。ちょっとしたデモを作るとか、ギターで弾いてみせるとか。状況による。たとえば、ぼくが(マイクの作ったものの)コードを変えたとしたら、あいつの録音にのせて歌うことはできないし。だから聞かせるために、ピアノやギターを弾いて見せるんだ。
Q:マイクの曲にあなたがつけた歌詞内容について、彼は何かコメントしますか?
TP:するよ。何度もね。時間がたってからも、さらに。マイク自身が気に入るようなものを、選り抜くんだ。
でも、あいつもぼくと同じ思考回路に沿っているし。結局ぼくが歌うことになるから。だから、歌詞を書くのはぼく、それで良いんだ。
他の人が書いた歌詞で歌うのって、出来ないんだ。そういう歌詞の裏にあるものとか、全てに自信をもって歌うのなんて、とても難しい。自分で書けば、歌に出てくるキャラクターを分かっているだろ。
だからマイクは、歌詞に関してぼくのやりたいようにさせてくれるんだ。
=========================================
greatest hits. 1993
Q:ファンたちが愛している曲の一つが、"Mary Jane's last dance" です。1993年の [Greatest hits]
に入っていますが、実際は、一部を数年前に作っていたそうですね。
TP:[Full moon fever]
セッションの期間に、書いたんだ。コード以外は全てね。歌詞とか、その他ほとんどのものが、グルグル回っているのが、出来ていた。リック(・ルービン)のためにこれのテープを聞かせたら、とても気に入ってくれた。それで、ぼくにコードを書くように提案した。それで、[Wildflowers]
セッションの期間に、仕上げてみた。だから、ヴァースとコーラスを作る間には、5年の年月の隔たりがあるんだ。
Q:Mary
Janeは、マリファナ(marijuana)に関連していますか?
TP:大麻について書いたとは思ってないよ。ただ、女の子の名前を考えていただけさ。大麻の歌を作るなんて、想像もできない。わざわざ歌にするほどの事じゃないよ(笑)。
=========================================
Wildflowers, 1994
Q:次にくるのが、1994年の [Wildflowers]
ですね。タイトル・ソングの "Wildflowers"
は実に優しげなアコースティック・ナンバーです。とても甘美なアルバムの幕開けですね。
TP:神に誓っていえるけど、"go"っていう詞は、アドリブなんだ。
ぼくはテープを回して、自分のアコースティック・ギターを弾き、息を吸い込むと、最初から最後まで通して歌いきった。それから改めて聞いてみると、「ワァオ、こんなことしたっけ?」
聞き入ってみて、歌詞は変えないことにした。すべてがあの場で決まった。ひょいっと頭に浮かんだんだ。
Q:この曲の演出も素敵ですね。ドラムス抜きで、とても穏やかです。
TP:とても可愛らしい曲だよ。良い制作方針だったね。頭の中で、はっきり描いていたんだ。だからぼくは、このアルバムの音楽が好きなんだ。この音楽を聞いたときに、心の中が晴れやかになる、純粋さがあるんだ。
この録音の演出は、ぼくを圧倒している。それまでのすべてにおいて、最高の出来だって、自分でも分かるほど素晴らしい仕上がりだ。それらを高レベルで、トライしている。
そしてぼくらは、結果に満足している。リック・ルービンとマイク、ぼくの三人だ。三人とも、とにかくよく働いたからね。このレコードのために2年間も働いていた。週に5日働いて、って意味だけど。本当に、ものすごく集中していた。休みはほんの少ししかなかった。
本当に良いものを作ろうって、心に決めていた。そして素晴らしく成功した。ぼくらは、自分たちがしたことに夢中だった。
そして、リック・ルービンという新たな友情を得ることになった。彼のアルバムでもあるんだよ。彼も、ぼくら二人並みの出血だったからね(笑)。ものすごく入れ込んでいた。
このアルバムは、2枚組になる予定だった。そしてぼくらは、本当に偉大な物を作り上げるんだ、って決心していた。そういうものにしたかった。
実際、そのレベルには達したと思う。なぜなら、曲がこれからも変わらないであろうと思われたからだ。みんな、このアルバムを買い、聴き続けてくれるだろうと思っている。時代を選ばないクォリティの物を作ったんだ。
だから、売り上げも好調だとなって、とても気持ちが良かった。場合によっては、せっかく打ち込んで作ったものでも、あまり売れないってこともあるからね。
でも、この作品はうまく行った。すばらしい結果をもたらしてくれた。大歓迎されたんだ。ああ、なんて素晴らしいことなんだろう。
Q:あなたのアルバムの中では、これがお気に入りだという人を、何人も知っていますよ。
TP:分かるな。これは間違いなく、ぼくの活動後半における最高傑作だ。本当に気に入っている。
Q:"You
don't know how it feels"
の、膨らんでくるようにして、曲が始まる感じが好きです。
TP:うん、あれはマイクがやったんだ。マグナトーンのアンプじゃないかな。あいつがあのイントロの膨らみを表現したんだ。
あんまり格好良いから、ぼくらはあれを取っておいた。特に予定した訳じゃなくて、偶然の産物なんだ。
Q:素晴らしい曲ですね。私はこの歌詞が好きです。"Turn
the radio loud / I'm too alone to be
proud"
TP:(笑)ははは、落ち込んでるこの男のことね。冒険とは無縁の(笑)。
Q:"Time to move on"
についてはいかがですか?
TP:何日か前に、デイナとぼくはこの曲をラジオで聴いたんだ。サンタ・モニカから帰る車でね。
ぼくは歌詞を忘れてしまっていたんだけど、とてもおかしな所があった。"Nauseous
adrenaline / Like breaking up a
dogfight"(笑)。あれは良かったな。あの歌詞を曲にうまく取り込むのは、すごく大変だった(笑)。でも、とてもうまく行った。
Q:"You
wreck me" はマイクの曲を元にしています。"Wreck" という言葉にたどりつくまで、長い時間がかかったそうですね。
TP:"you
ROCK me"
だったんだ。仮りに歌う用に、そうしていたけど、こいつは採用すまいと思っていた。誰だって良いとは思わないもの。
でも、メロディにあわせて何かは歌わなきゃならないから、"You
ROCK me, baby" ってことにしておいた。
すべての詞が意味ある物になるには、なんとしても "ROCK"は
"WRECK"に変わらなきゃならなかった。ほかのところは、全部書けていたからね。
自分では仕上がるのにどうしてこれほどの時間がかかるのか、分かっていなかった。突然、電球に明かりがともり、やっと分かった。「そうか、WRECKだ」ってね。
ぼくらはずいぶん時間をかけていたけれど、この曲のレコーディングは、全体の中でもかなり後の方になっていた。ぼく自身が、歌詞ができていると思っていなかったから。
やっと歌詞ができあがると、すべてがうまく収まって、録音は楽にできた。
スティーヴ・フェローニが、本当に極上のプレイをしているね。ライブ録音したんだ。
そう、いつショーで演奏しても素晴らしい一曲だよ。とても上手くいく。(苦労を反映して)とても良くできた曲だ。テンポの速いロックンロールの歌を作るっていうのが、一番難しい。
Q:そうなんですか?
TP:そうさ。ものすごく難しい。何かを書こうとしても、速いロックンロールには、なりにくいんだ。気がつくと、マイナー・コードを使った、よりテンポの緩い曲を書いてしまっているものなんだ。
アップ・テンポのロックンロールを書き上げて、良く出来るっていうのは、そう、最高って感じだ。
Q:マイクによる、オリジナルのコンセプトは変更しましたか?
TP:いいや、ぜんぜん。あいつが、コードもアレンジメントも、こと細かく作り込んでいたんじゃないかな。ぼくがしたのは、メロディと歌詞だけ。
Q:(笑)だけ、ですか。
TP:(笑)そうだよ。ぼくらは、この曲がうまく仕上がって、うれしかったね。しかし、とにかく時間がかかった。
それぞれの曲が落ち着くまでは、この曲の録音にはとりかからなかった。
Q:"Its'
good to be king"
は素晴らしいメロディと、おかしな歌詞ですね。
TP:今までにぼくが書いた曲の中でも、お気に入りの一つだ。"Excuse me if I /
have some place in my mind / where I go time to time..."
大好きだね。すべての歌詞が気に入っている。
実に良くできたと思うよ。この曲には満足している。これは本当さ。自分の作品でも最高の一つだと思っている。特筆すべき作品だ。
Q:エンディングが良いですね。オーケストラがコードを変えつつ、盛り上げ続けています。
TP:うん、最後の音を膨らますっていうあれは、マイケル・ケイマンのアイディアだ。素晴らしい考えだって思ったね。これまた、才能豊かな、いろいろな人が作り上げた曲の一つだよ。
曲の断片が出来たら、そういう人たちの所に持っていって、彼らはぼくのやりたいことを理解してくれる。そうなったら、本当に上手く行くよ。
なんでもかんでも、そう上手く行くわけじゃない。でもこの場合は、椅子に座ったまま(人の手に委ねて)「うわ、こいつはすごいや」と思ったケースだった。
それから、ベンモントがとてもシンプルなピアノを弾いている(4音を口ずさむ)。それが曲を良くしているんだ。うん、本当に満足しているよ。
Q:"Only
a broken heart" はいかがですか?
TP:"It's only a broken heart
(たかが傷心)"ってフレーズが好きだな。人類としては、重大ってことになっている病気なんかを、適当にほっぽり出すみたいでさ。「たかが癌」とか言うみたいにね。
かわいい曲だよ。同時にちょっとほろ苦い。
Q:"Honey
Bee"
はこれまたロックですね。おかしなつぶやきから始まります。そして、ドラムが入る前に、とてもひずんだギターのサウンドがあります。
TP:ああ、あれはぼくがギターを鳴らしているんだ。ブルースをベースにした曲だね。コードが上昇し続けて、這いあがるところのアイディアがあったんだ。
面白かった。シリアスになることから、解放されることを示しているんだ。
曲のいくつかはものすごく深く掘り下げていたから、少しは頭の中をすっきりさせるような物が良いなと思っていたんだ。ちょっと、ロックをやろうぜ。あまり構えないでさ、ってね。
そういうわけで、"Honey
Bee"がそうなった。この曲も、多くの人がライブで聴きたがる曲だ。"Honey bee"
のリクエストを、たくさんもらうよ。みんな大好きなんだな。
Q:とてもおかしな歌詞がありますよね。"She give me her monkey
hand and a Rambler sedan / I'm the king of Milwaukee / Her juju beads are so
nice / She kissed my third cousin twice / I'm the king of
Pomona..."
TP:(笑)どっからわいたんだろうね? "I'm the king of
Pomona"なんて、どっから思いついたか見当がつかない。でも、こうでなきゃと思った。訳の分からない感じにしたかったんだ。だれにでも、ぼくがあまり真面目じゃないって、分かるだろう。
とにかく、ただ楽しんでいただけなんだ。"Kiss
my third cousin twice..."っていうのも、変な詞だな(笑)。
Q:"Don't fade on me"
はマイクと書きましたが、とても出来の良い、壮観なメロディですね。
TP:うん、あいつがぼくにあのチューニングを聴かせたんだ。マイクが書いていたのは、コーラスのコードだけじゃなかったかな。
セッションをしていた時期のある夜、あいつがギターをどうやっているのかを、ぼくに教えてくれた。思ったね、「なんてこった、こいつは気に入ったぞ」って。そしたらマイクが言った。「簡単なことだよ。こうすりゃ良いんだ。」それで、ぼくは家に帰ると歌をつけた。
それを持って(スタジオに)戻ると、マイクが言った。
「うーん、実際は俺が書いたってわけじゃないな。」だからぼくはこう返した。「え、お前が書いたんだよ。あの弾き方の所さ。お前が教えてくれなきゃ、俺はやり方も分からなかったよ。」
とにかくぼくは書き上げて、録音した。ギター2本と、ヴォーカルだけ。ものすごく控え目だよね。ドロップDチューニングで、本当にマイクとぼくだけが弾いている。
Q:この曲に関しては、コードに乗せるのではなく、マイクが弾いて見せたコードとコードの間に歌っているというのが、興味深いですね。
TP:うん、あのコードが作り出す響きが大好きなんだ。あれにインスパイアされて歌が出来た。マイクはメロディもなにも出来ていなかったんじゃないかな。ただ、コードパターンだけが出来ていたんだ。
録音するとき、あいつは本当に上手く演奏している。あの短いソロなんて、ただ、ただ素晴らしい。
Q:2本だけのアコースティックも素晴らしいサウンドです。
TP:うん、二人でかなり練習したよ。時々演奏するし。いろんなパッセージを入れたりして。
これはセッションの最後まで、毎日トライしていた曲だった。だからよく取り上げて、たくさん練習したんだよ。
Q:"Hard
on me"
もまた、とても美しいメロディです。二つのブリッジを持つ構成も、クールです。
TP:ああ、そうだね。リック・ルービンのお気に入りなんだ。ぼくらは二人とも、この曲がこのアルバムのヒット曲にならなくて、少し残念だった。二人とも、こいつが誰もがアルバムの中からお気に入りに挙げる曲だと思っていたから。でもそうはならなかった。
ともあれ、リックはこの曲が大好きだった。アルバムの中でも、一番最初の書いた曲なんだよ。最初に作ったのは、"It's
all I can do to keep that little girl smiling / and keep my faith
alive..."だったと思う。
Q:"Cabin down below"
に関してはいかがですか?
TP:ブルースとロカビリーのミックス。これも、一連の流れの中で、息抜きになった曲なんだ。ちょっとナンセンスなのをやってみようってね。オーケー、ちょっとここで、パーティといこう。
Q:でも、曲自体はナンセンスというわけではありませんね。
TP:うん、良くできているよ。でもお気楽ではあった。たくさんのアドリブがあって、それに磨きをかけたんじゃないかな。アドリブの骨組みから、作り上げていったんだ。
Q:力強い曲の一つ、"House
in the woods" に関連しているように見えますよ。
TP:うん、たしかに関連している。"House in the woods"
も大好きだよ。良いコード進行をしている。
Q:ええ、そうですね。コーラスではなく、タイトルがヴァースに含まれています。
TP:金管楽器とペダルスチールで組み上げていったんだ。その織りなす感じが好きだね。
ぼくには、あのダーティな感じのギターに、ペダル・スチールをクリアーに合わせれば上手く行くっていう直感があった。
最初は、ギターのねじれがどうなるか、心配だった。それで、「駄目だな、これは俺が思っていたのとは違うよ。」と思った。
でもリックとマイクが、「いや、これで良いんだ。こいつにクリアなサウンドを合わせれば良いんだ。バリトンサックスを6本をユニゾンで入れるんだ。」と言った。
それであの本当に美しい最終的な仕上がりへと方向転換した。ほとんど気づかないような所に、ホーンをミックスしたんだ。まるで織物のようにね。
Q:"To
find a friend" は、物語のある歌ですね。"In the middl of his life / he left his wife / and
ran off to be bad..."
という詞で始まります。
TP:(笑)男がおかしくなって、まわりが引いちゃうのって、好きなんだ。家族が突然、暴君みたいな別人に変貌してしまうとかね。怖いことだよ。
Q:To find a
friendでは、リンゴがドラムを叩いていますね。
TP:そう、リンゴのプレイは大好きだ。彼はわざわざやってきて、少しレコーディングに参加してくれたんだ。
Q:以前は勿論ジョージ・ハリスンと、そしてリンゴともプレイしたわけですね。ビートル二人があなたの曲を演奏してくれるというのは、どんな感じでしたか?
TP:あれほどの才能のミュージシャンたちと一緒にやるのは、贅沢なことだ。それにリンゴときたら、一日中、完璧に叩く事が出来るんだ。そりゃあもう、なんて言ったって凄いことさ!だろう?本物の天才ミュージシャンたちと仕事が出来るだなんて、ぼくは本当に幸運だ。どうしてこんなにも最高のミュージシャンと出会うことが出来るのか、自分でも全然分からない。
リンゴが来てくれたことは、とても名誉な事だった。彼に指示すべき事なんて殆どなかった。それにリンゴの方も、演奏はいつでも大歓迎だった。本当に素晴らしい仕事をしてくれたよ。この曲のフィーリングもとても上手く行った。最近のドラマーは、ああいう感覚が分かっていないんだよね。でも、リンゴはその音楽をどうすれば良いのか、分かっている。リンゴは微妙なニュアンスをしっかり演奏に反映するんだ。今までに出合った中でも、最高にお気に入りのドラマーの一人だな。
ぼくが思うに、リンゴっていうのは信じられないほど創造的なドラマーなんだと思うよ。情感豊かなんだ。リンゴが歌うように叩く事を知っていたけど、それは本当だった。それに完璧に叩く。
ぼくはこの曲をドラムなしでデモ録音していた。ぼくらはドラムはどうしようかと考えていた。そして、ぼくはこの曲のドラマーこそがリンゴだと思った。リンゴとは随分前からの知り合いだったからね。それで、彼に電話して頼んだんだ。そうしたらリンゴは親切にもわざわざ来て、叩いてくれた。
ぼくらはこの曲を、三人だけで録音した。ぼくがアコギ、リンゴのドラム、それからマイクのベースだ。それから、演奏しながら同時に録音している。ベンモントの短いソロ・パートだけを、後でオーバーダビングしている。
Q:"And the days went by / like paper in the wind /
everything changed / and then changed again / it's hard to find a friend"
のところは、美しいコーラスです。
TP:あの時が、そんな感じだったんだ。そこらへんから作り出したんだな。ぼくは本当に絶好調だっ、って言ったとおりだろう。大して苦労せずにアイディアが浮かんで、曲が出来た。
そうさ、あのアルバムがそういう感じなんだ。みんなが聴いているものは、まさに豪華ななシロモノで、まさにそれをぼくが作り上げたんだ。最高の人材と、本物の集中力をもってすれば、最高のアルバムを作ることが出来る。
Q:"A
higher
place"に関してはどうですか?ベンモントがオルガンとピアノ、(ヴァーコの)オーケストロンを弾いています。そういう曲ですが。
TP:オーケストロンは、プラスチックのディスクをセットして使う、古いキーボードで、力強い音がする。キーボードを叩くと、プラスチック・ディスクが作動して、叩いたものを記録する。それがまた、叩いたキーの音の通り再生するんだ。
ふわっとした音だろう。ものすごくふわふわしている。このオーケストロンでやってみた中で、使えたのは1テイクだけだった。そのたった1テイクが、調和して、上手く行った。
後にも先にも、あんなことはなかった。あんな風になるとは、夢にも思わなかった。ぼくらが、「ワァオ!」なんて言っていたのを覚えているよ。
ベンモントが最初に弾いたのが、あのすごいプレイだった。それ以降は、それ以上のものはとれなかった。それ以上望むべくもなかったんだ。
Q:"A
higher place"
のハーモニーはすべてあなたですか。
TP:時々やるからね。すごい高音域だったけど、やってみたら、上手く行った。時々、完璧なブレンドを目指して、自分でハーモニーをつけることがある。
Q:アルバムは、"Crawling
back to you" と、"Wake up time" という、二つの最高傑作で幕を閉じます。"Crawling back to you"
は、音楽的にも、詩的にいも、驚異的な出来ですね。
TP:こいつはすぐに出来た作品なんだ。45分で書き上げてしまった。あれが湧き出るのに、なんと言うこともなかった。入れ込まなくても、もう歌が出来てしまっていることが、分かっていた。
ぼくはこの曲を四分の四拍子にしようとしていたけど、上手く行っていなかった。どこにアクセントをおけばよいのか分からなかったんだ。だから、ぼくらは夜通し録音してみても上手く行かず、かなりフラストレーションがたまっていた。
最後の最後に、見向きもしなかったやりかたをやってみた。それまで一度も試していなかったけど。ひとたび演奏を始めてみると、ぼくらはすぐに納得して、こいつで行こうということになった。それが録音したバージョンだ。
フェローニがあのビートを刻むと、ジャジャーン!まさにこれだ。とにかく、あれを試してみなかったら、一生あのフィーリングを掴めなかっただろう。
これが、スタジオにライブ・グループを備えることの長所だよね。バンド抜きでは、けっして上手くは行かなかったよ。
この曲はフィーリングを掴むのには苦労する曲だった。でも、ひとたび掴んでしまえば、本当に、本当に歌いやすくて、歌詞に説得力のある作品なんだ。
Q:素晴らしい歌詞がみられますね。なかでも、私のお気に入りは、"I'm so tired of
being tired / as sure as night will follow day / most things that I worry about
/ never happen anyway"
のところです。
TP:これまで書いた中でも、ぼくのお気に入りでもあるよ。真実の響きがある。
ぼくのいとこが、この詞をくれたんだ。
彼女が、このフレーズの乗っている本を、送ってくれたことがある。ぼくがその本を開くと、ちょうど
"Most thing I worry about never happen anyway" ってところが目に入った。
Q:"The Indian
shooting out the light"
の後だからこそ、その箇所が映えますね。具体的なイメージに、さらに抽象的な反映がでています。
TP:良い手だろう。あまり具体的すぎると、そこから抜け出したくなる。
いまや、物事は狭まってしまっているだろ。そのままではいたくないんだ。だから詞に味付けをして、もういちどモノにする。何かを、縛り付けないようにするんだ。
そうすると良い取り合わせが出来て、思い通りになる。この曲は、そういうやり方が本当に上手く行った、一つの実例だな。
Q:最後に、"Wake
up time" です。レコードの最後を飾るには、痛切な曲ですね。作り込みが浅めの曲ですが ー
あなたがピアノのボーカル、マイクがベース、フェローニが穏やかなドラム、それからオーケストラだけです。
TP:うん、ぼくはギターで作曲して、そいつを録音した。完全に満足した訳じゃなかったけど、とても良かったよ。
そうしたら、リックが言った。「ピアノを入れてみたらどうだ?」それで、ぼくは思った。「ああ、そっか。ピアノはやってなかったな。」
それで、ピアノをどう弾けば良いか、イメージを作るために、ちょっと時間がかかった。ぼくは、録音でしっかり使うには、それほどピアノが上手じゃないからね。
ぼくが練習をすると、リックが言った。「オーケー、きみのピアノを入れて録音しよう。」ぼくは言った。「ベンが居るだろ。」
それで、ベンモントにやってもらってみた。そうしたら、みんな思ったんだな。「違うなぁ、ベンは上手すぎる。ああいう、上手すぎるのが欲しいんじゃないんだ。お前が弾いているみたいのが良いんだ。すごくシンプルだろ。」
それで、ぼくがピアノを弾くことになり、それにドラム、マイクのベースを加えた。マイクはコントロール・ルームに座って、ベースを弾いたんだ。
それにしてもさ、歌のリストの最後にきたわけだよね。この歌が、まさに、ぼくの最高傑作の一つなんだよ。
この曲を、デニー・コーデルの前で、彼が亡くなる少し前に聴かせることが出来て良かったよ。デニーとは、しばらく会っていなかったんだ。彼がスタジオにやってきて、このアルバムを聴き、"Wake
up time"
の所にきたとき、本当に夢中になってしまった。
そしてこう言った。「なぁ、TP。こればかりは、ほか誰にも作れやしないぞ。これこそ、お前さんだ。ほかの誰にもなし得ないことをやってのけたんだ、満足だろうな。」
たしかに、ぼくもそう思った。デニーは正しかった。だからとても気分が良かったし、我が師から、満点を貰ったことも嬉しかった。デニーが、ぼくに曲作りを教えてくれたんだ。
長い時間がかかったけど、ついに彼に認めてもらえたということは、ぼくにとって意味深いことだった。
Q:この曲は、あなたがこれまでに書いた中でも、実にメロディが美しいですね。"a
long way from home"
のhomeの延ばし方が好きです。音楽と詞が完璧にマッチしています。
TP:前回のツアーで、またプレイしたんだ。数回だけだけどね。アリーナで演奏するには、デリケートすぎる曲だと思っていたんだ。
それで何年かしてから考え直したんだけど、ギター1本でやれば良いんだな。ぼくとギター1本で、事は済む。それで、そういう風にやってみた。大部分は、ぼくとギターだけでね。
上手く行ったよ。こういうのは、アリーナでも有効なんだ。たった一つの楽器で、お客さんを集中させることが出来るからね。
それから、バンドが加わってくると、ものすごいインパクトになった。それで、上手く行ったというわけ。
ともあれ、この曲には大満足さ。とても意味深いものになった。
Q:曲のタイトルを、歌うかわりに語る感じが、感動的ですね。あなたがそうしている唯一の曲だと思いますが。
TP:どうしてああしたのかは、分からないけど。でも、歌うよりは語る方が良さそうだったからね。
いろいろ、あれこれとたくさん書けば、"Wake
up time"
みたいにしたくなることもあるさ(笑)。そのうち上手く行く。
(努力を)持続させるのも、十分なインスピレーションになるよ。あの手の物は、またやってみたいから、継続してみるつもりだ。
Q:あのアルバムのなかでは、後の方に書いた曲ですか?
TP:いや、かなり早い時期だった。"It's
good to be King"
と同時期に書いたんだと思う。
Q:そのときは、この曲がアルバムの締めくくりになると認識していましたか?
TP:そうなるだろうと思っていた。はじめっからそう認識していたかどうかは分からないけど、とにかく締めくくりになるだろうと思っていた。
だから、この曲に向けて仕事をしていたことになるな。これが最後にくるべきだったんだ。2枚組の最後にね。そういうものを温存しておけるっていうのは、良いよ。仕事の終わりが見えるからね。
Q:最初からアルバムのタイトルは
[Wildflowers]
だったのですか?
TP:タイトルを考え始めた初期から、それが良いなと思っていたんだ。あの曲を書いてから、考えたんだ。「うん、こいつがきっとタイトルになるな。これが代表曲になれる。」
それから、エンジニアのジム・スコットが来て言った。「この曲が、アルバムの始まりには良いね。」どうこのアルバムを始めるか、考えていたところだからね。ジムは言ったんだ。「"Wildflowers"
が始まりには良いだろう」って。
それで、ぼくは実際この曲で始めたらどうだろうかって、考えた。
アコースティック・ソング。乗っていけるだろうか?でも、すぐにぼくは上手く行くだろうと考えた。特に途中でオーケストラが入ってくるだろう、これですべてオーケーだ、ってね。
=========================================
========================================================
PAUL
ZOLLO / Conversations with Tom Petty / 2005
→ トップへ →フレームが表示されない場合はこちら