北村 薫作品のページ No.3



21.街の灯

22.語り女たち

23.ミステリ十二か月

24.ニッポン硬貨の謎−エラリー・クィーン最後の事件−

25.北村薫のミステリー館

26.紙魚家崩壊

27.ひとがた流し

28.玻璃の天

29.1950年のバックトス

30.北村薫のミステリびっくり箱


【作家歴】、空飛ぶ馬、夜の蝉、秋の花、覆面作家は二人いる、六の宮の姫君、冬のオペラ、スキップ、覆面作家の愛の歌、覆面作家の夢の家、ターン

→ 北村薫作品のページ No.1


朝霧、謎のギャラリー、謎のギャラリー特別室、謎のギャラリー特別室2、謎のギャラリー特別室3、謎のギャラリー最後の部屋、月の砂漠をさばさばと、盤上の敵、リセット、北村薫の本格ミステリ・ライブラリー、詩歌の待ち伏せ(上)、詩歌の待ち伏せ(下)

→ 北村薫作品のページ No.2


北村薫の創作表現講義、野球の国のアリス、鷺と雪、元気でいてよR2-D2、いとま申して、飲めば都、八月の六日間、慶應本科と折口信夫
、太宰治の辞書、中野のお父さん

 → 北村薫作品のページ No.4


遠い唇、ヴェネツィア便り、小萩のかんざし、中野のお父さんは謎を解くか

 → 北村薫作品のページ No.5

  


            

21.

●「街の灯」● ★☆


街の灯画像

2003年01月
文芸春秋刊

(1762円+税)

2006年05月
文春文庫化



2003/02/04

昭和初期という時代設定が、まず珍しい。そのうえ、探偵役となるのは、士族の令嬢・花村英子と、そのお付き女性運転手・別宮みつ子、というコンビ。
北村さんらしい日常ミステリのジャンルですが、何といっても妙味は、時代背景および探偵役の設定でしょう。

現在にはない、士族、上流階級という舞台は、私にとって三島由紀夫作品以来のものという、懐かしさがあります。その上流社会を中心に据えたストーリィですから、雰囲気も穏やか、オブラートに包まれたような心地良さがあります。
そうした設定の故、探偵役2人の行動はかなり制約されており、謎解きより、主役2人自身のストーリィの方に興味惹かれます。とくに、サッカレー「虚栄の市の主人公の名前をとって、英子から“ベッキーさん”と呼ばれる、別宮の人物造形。
別宮自身、どんな経歴の持主なのか、その点からして謎めいたものがあります。
本書にはそんなミステリ要素以外に、英子が社会見聞を広めていくという、成長ストーリィ要素があります。その部分において、別宮は英子に対する導き手という役割を担っているようです。
ただし、本書3篇では、別宮という人物はまだ抽象的で、その人物的魅力が十分発揮されているとは言えません。新シリーズとして、今後の展開を楽しみとすべきでしょう。
なお、秋葉原駅の高架線開通、服部時計店の時計台等、当時の目新しい出来事を見聞きするという、タイムトラベル的な楽しさも本書にはあります。

虚栄の市/銀座八丁/街の灯 〔付録〕北村薫論/スペシャル・インタビュー

      

22.

●「語り女たち」● ★☆


語り女たち画像

2004年04月
新潮社刊

(1600円+税)

2007年04月
新潮文庫化



2004/05/09

海辺の街に小部屋を借りて、潮騒の響く窓辺の寝椅子に横になりながら、訪れた客の話を聞こうという。
そのために語り女を募集し、訪れてきた女たちが物語る17話に耳を傾ける、というのが本短篇集の趣向。
17の物語の多くは、日常的なことでありながら、時に幻想的な、時に不思議な異空間に聞き手を誘い出します。

語られる物語を耳で聞くことの心地良さ。−子供の頃寝る前に読んでもらった物語のことを私は思い出しますし、北村さんは小さい頃にラジオをよく聞いた、といいます。
本書の魅力は、各々のストーリィ内容にあるのではなく、耳で聞く物語の楽しさを読んで味わう、というところにあります。

本書を読んでみれば、北村さんの「物語の懐かしい故郷に帰り、その山裾や川べりや辻を歩くつもりで書いた」という言葉に納得がいきます。
語り手は男性であってはダメ、女性でなくては、という故に本書は「語り女たち」。それは当然のことでしょう。
「緑の虫」「歩く駱駝」「眠れる森」「水虎」「梅の木」の5篇がとくに印象的。

緑の虫/文字/わたしではない/違う話/歩く駱駝/四角い世界/闇缶詰/笑顔/海の上のボサノヴァ/体/眠れる森/夏の日々/ラスク様/手品/Ambarvalia(あむばるわりあ)/水虎/梅の木

  

23.

●「ミステリ十二か月」● ★☆


ミステリ十二か月画像

2004年10月
中央公論新社

(1800円+税)



2004/11/25

本格推理ものを話題に喫茶店で友人と話し込む、というに似た楽しさを感じる一冊。
本書は2003年読売新聞に1年間連載された「北村薫のミステリーの小部屋」を改題して単行本にまとめたもので、その部分が本書4部構成の第一部。北村さんのお薦め本格推理小説がずらりラインアップされています。
第2部は、第1部の版画挿絵の作者・大野隆司さんとの対談。第1部各篇に付されているイラストにどんな意味があるのだろうと不思議に感じていましたが、それが明らかにされるのがこの対談です。第一部の「十二か月」をもう一度楽しめるという面白さあり。これは嬉しい。
第3部は第1部執筆の背景談。第4部の有栖川さんとの対談は、この2人ならこうなるだろうという通りの内容。

大学生の頃に黄金期の本格推理に熱中していたので、E・クィーン、ヴァン・ダイン、F・W・クロフツ、D・カーら海外の大物作家の名前は懐かしい。その反面初期の国内本格推理はまるで読んでいないので、ふむふむ。
その黄金期を過ぎると知らない作家、知らない作品ばかり。中には気をそそられる作品もありますが、再びあの本格推理の世界に戻るにはちと心の準備が必要です。
チェスタトン“ブラウン神父”ものは、本格推理の中にあってやはり異色。E・クィーンらの後に読むと風変わりな味わいがありました。ルパンものは子供向きと言われてしまうと確かにそのとおりなのですが、最初に「813」を読んだ時にはやはり驚愕したものです。
また、私としては法廷推理ものの第一人者、E・S・ガードナーの名前が出てこないのが残念ですけれど、“本格”にこだわるとあの作品は亜流になってしまうのだろうなァ。

ミステリ十二か月/絵解き謎解き対談(大野隆司)/本棚から出てきた話/「全身本格」対談(有栖川有栖)

 

24.

●「ニッポン硬貨の謎−エラリー・クィーン最後の事件−」● ★☆


ニッポン硬貨の謎画像

2005年06月
東京創元社刊

(1700円+税)

2009年04月
創元推理文庫化



2005/07/17



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本格推理小説の巨匠エラリー・クィーン生誕百年を記念しての出版の由。
EQの遺稿が新たに発見されたというのが出だし。その作品こそが、本書「ニッポン硬貨の謎」
1977年フレデリック・ダネイの来日を、作家でもあり名探偵でもあるエラリー・クィーンが来日したことに置き換え、エラリーがその時に遭遇した連続幼児殺害事件を、ミステリ研究会に所属する女子大生・小町奈々子と共に解決するというストーリィ。

EQファンにして北村薫ファンであってこそ楽しめるパスティーシュ(模倣作)でしょう。
全体を通して、エラリーによるヘンな日本像・日本人像が描かれます。まぁ、これは割とよく使われる手で面白がって読んでいればいい部分。
前半で注目されるのは、奈々子の意見として開陳される「シャム双子の謎」論。実際に北村さんが過去に書かれたEQ論なのだそうです。
私も学生時代にはEQを随分と愛読しましたが、さすがにそこまで思い巡らしたことはなかったです。そこは流石に北村薫さんならではのことなのでしょう。
ファンの集いで奈々子が上記の意見を披露したことが縁となって、奈々子がエラリーの東京見物を案内することになります。そして2人が遭遇するのが、連続幼児殺害事件。これが後半の注目部分。
そして、奈々子がバイト先の書店で遭遇した、50円玉20枚を千円札に交換してくれという客。その間に関連性はあるのか?

事件とその解決自体はあまり納得できるものではないのですが、経過がEQらしいと言えばEQらしい。
たとえパスティーシュであっても、EQファンとして、久しぶりにEQに再会できたことは楽しいこと。
北村さんも読み手も、それなりに楽しめれば良いのではないかという一冊です。
なお、戸川安宣「あらずもがなのあとがき」は、思わぬ拾い物。鮎川哲也賞誕生のエピソードとか、奈々子のモデルが若竹七海さんだったと語られており、興味尽きません。

※外国人が誤解したまま日本を描いたというパロディの傑作は、小林信彦「ちはやふる奥の細道」

 

25.

●「北村薫のミステリー館」● 


北村薫のミステリー館画像

2005年10月
新潮文庫刊

(705円+税)



2005/11/01

本書は謎のギャラリーに続くアンソロジーということなのですが、もうひとつ興が涌きませんでした。
読み始めて暫くの印象が読み進んでいくうえでの全て。結局あまり面白くないという当初印象を払拭できないまま読了。
それなのに、最後に収録されている北村さんと宮部みゆきさんの対談では、宮部さんが面白い、面白いと喜んでいる。
何でなのかなぁ〜、どこか自分がオカシイのかとちと落ち込む気分にさせられます。

海外もののミステリー、SFとなると、どうもモード設定が必要であるようなのです。そのモード・スイッチが入っていないと、そもそも面白いかどうかを感じ取る感度が働いていないみたい。ただ、言い訳になるかもしれませんが、海外ものの古典的推理小説って、謎解きだけに主眼が絞られていて、ストーリィ運びがつまらないような気がしているのですが、どうでしょう。その点国内ものの「わたしの本」はストーリィ自体に面白味があるのですけれど、ミステリとしてはちょっと弱い。
北村さんと宮部さんが面白がっているのに私にはそう感じられないという違いには、もうひとつ要因があると思うのです。それは、北村さんと宮部さんが「小説を書く側の人」であること。つまり、“書く人”からすると描き方、トリックにとても面白い要素があるのではないか。しかし、読むだけの側からみるとそれ程面白いと思うものではない、ということ。
「謎のギャラリー」収録作品と違って、本書収録の作品はそんな細部に面白さのある作品が選ばれているように思います。
収録作品では、ヘンリ・セシル「告げ口」(「メルトン先生の犯罪学演習」)緑川聖司さんの「わたしの本」(「晴れた日は図書館へいこう」)だけが既読作品。
なお、「滝」からは三島由紀夫「奔馬」を連想させられました。

(こちらからどうぞ) きいろとピンク/夜枕合戦・枕の中の行軍
(こわいものみたさの間) 犬/虎/紳士/クレイヴァリング教授の新発見/息子
(ミステリーの大広間) 告げ口/二世の契り/フレイザー夫人の消失/二十三号室の謎/わたしの本/盗作の裏側
(不思議な書庫) 神かくし/「少量法律助言者」/本が怒った話
(言葉の密室) 契恋・桃夭楽/滝/バトン・トゥラワー
(対談) 宮部みゆき

            

26.

●「紙魚家(しみけ)崩壊−九つの謎−」● ★☆


紙魚家崩壊画像

2003年03月
講談社刊

(1500円+税)

2009年03月
講談社ノベルス

2010年03月
講談社文庫化


2006/04/15


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心して味わい深さを噛み締めないと楽しむことのできないミステリ短篇集。

読み出した最初のうちは、一篇一篇の趣きは異なるし、どこに面白味があるのか捉え難いし、何とまとまりのない短篇集かと思ったのです。
ところが途中、ちょっと待てよと思い、じっくり噛み締めてみると、味わい深さがじわーっと染み出てくるのです。
所詮は読む人の好き好きによるものでしょうけれど、ここまでストーリィの仕立て、趣きに凝ってしまうのは正解なのかどうか。私としてはむしろ、単純明快な気持ち良さを北村さんに求めている傾向があります。
そうはいっても、北村さんの趣向が判ってみれば、そこはそれ、その味わいを楽しませてもらいました。
冒頭の「溶けていく」はちょっとホラー仕立て。
表題作の「紙魚家崩壊」とそれに続く「死と密室」には、北村さんこだわりの名探偵像と助手像を用いた篇。この2篇は冬のオペラに通じる趣向があります。
「白い朝」は、“私と円紫師匠”路線に似た日常ミステリ。
そのユーモア故に私が好きなのは「おにぎり、ぎりぎり」です。

本書で圧巻なのは、最後の「注釈おとぎばなし」
あのカチカチ山の童話を推理小説仕立てにした一篇ですが、うさぎが女探偵兼保険調査員となって“おばあさん殺害事件”の真相を暴きます。こうした新解釈を古典に当てはめるストーリィ、私は大好きです。

溶けていく/紙魚家崩壊/死と密室/白い朝/サイコロ、コロコロ/おにぎり、ぎりぎり/蝶/俺の席/注釈おとぎばなし

           

27.

●「ひとがた流し」● ★★


ひとがた流し画像

2006年07月
朝日新聞社刊

(1600円+税)

2009年05月
新潮文庫化



2006/08/09



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久々に北村作品の良さを満喫した作品。
ただし本書は、北村作品らしからぬ作品でもあります。
まずミステリやタイムスリップの要素・仕掛けがどこにもありません。そのため、頁を繰っていて北村作品を読んでいるという思いをあまり感じませんでした。
強いていれば、サラッとした優しい物語という点が北村さんらしいところ、と言えるでしょうか。そうした点で本書は、北村薫作品として画期的、新境地を開いた作品と言えます。

本書は、3人の女性たちの友情を中心にした長篇小説です。
まずひとりは石川千波トムさんという愛称で呼ばれる独身の女性アナウンサー。次いで水沢牧子。作家で早くに離婚して今は高校生の娘さきとずっと2人暮し。そして日高美々。大学生の娘・と再婚相手の写真家・との3人暮らし。
千波と牧子は小学生の頃から、後から美々が加わって3人は大学以来の気心知れた友人同士。しかも現在は近い距離に3人とも暮らしているという状況。
この3人の気持ちの通じ合った様子がとても快い、素敵です。押しつけず遠慮せず、お互いに相手の気持ちをよく理解しあっているからこそでしょう。千波と牧子がお互いにひとり身であることも大きい。亭主持ちだったらこうもいかないというのは当然のことでしょう。美々にしても離婚を経験しているし、現在の亭主である類が写真家という自由業であることも大きい。

ストーリィは千波に癌が発見され、命残り少ないことを宣告されたことが主となります。牧子と美々は月並みな慰めの言葉など口にしないし、また千波も2人に嘆きを言うことなく凛ととした姿を保っています。儀礼的な言葉を挟む余地がない程、お互いをまるで自分のこととして考えることができるからでしょう。
私としては、千波に憧れ続けてきた同僚の年下男性を美々が呼び出し、論理的に千波への気持ちを問い質していく場面が圧巻。
それは、千波自身さえ考えもしなかった千波の奥底に潜む願いを叶えるものだったことでしょう。そこまで2人が千波のこと理解しているということが凄い。
女性同士の繋がりを描いたといっても唯川恵「恋せども、愛せどものような濃密感はなく、サラッとした印象があります。北村さんは本書において「登場人物の流すものとしては<涙>という言葉も使うまいと思った」そうです。だからこその印象でしょう。
登場人物皆に共通して、毅然とした礼儀正しさを感じます。それも本作品が気持ち良い理由のひとつ。

※なお、牧子の娘さきは月の砂漠をさばさばとさきちゃんのようです。

    

28.

●「玻璃(はり)の天」● ★☆


玻璃の天画像

2007年04月
文芸春秋刊

(1190円+税)

2009年09月
文春文庫化



2007/05/28



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街の灯以来漸く刊行された、士族令嬢・花村英子&お付き女性運転手・別宮みつ子(ベッキーさん)のコンビによる日常ミステリシリーズ、第2巻! この第2巻まで長かったぁ〜。

シリーズものというとつい“私と円紫師匠”シリーズと比較してしまうのですが、面白さや主人公の成長物語という点では同シリーズに及ばないものの、本シリーズにはそれ以上に凝った仕掛けが幾つも施されています。その点が本シリーズの特徴、持ち味と言うべきでしょう。
ひとつは、忘れられゆく昭和の時代、それも戦前の時代を舞台にしているところ。主人公の英子がよく出かける当時の銀座の姿が文面から蘇ってくる部分、今ではもう感じられない華やかな雰囲気に陶然とする思いがあります。
そして、英子が別宮に言う“ベッキーさん”という呼び名。サッカレー「虚栄の市の女主人公ベッキー・シャープがその出所ですが、ベッキー・シャープと別宮の人物像はまるで異なります。それにもかかわらずこの名前をつけたのは、これまた現在忘れ去られがちな「虚栄の市」への関心をもう一度取り戻そうという試みではあるまいか。

さらに、戦前の昭和における帝国主義、戦争肯定論への批判が顔を覗かせます。「幻の橋」ではいみじくも英子の口を借りて、人が自然に抱いていただろう疑問とそれを圧殺するような時代の雰囲気が描かれます。
そんな社会的背景が描かれる一方、「想夫恋」ではウェブスターあしながおぢさんパッティのことが語られます。ま和歌を使った暗号まで登場。こうした部分があるからこそ、本好きにとって北村さんの作品は楽しい。

探偵役は前作同様、英子だったりベッキーさんだったりと交互。英子が主人公でベッキーさんがアドバイス役という構図も変わりません。
その不思議めいた女性運転手ベッキーさんの謎、「玻璃の天」では少し明らかになります。
しかし、英子は15歳位の年代にしては人間が出来過ぎだよなぁと思いますし、謎が少し明らかになってもベッキーさんはややスーパーウーマン過ぎるという思いが残ります。(※「玻璃」とはガラス、本書ではステンドガラスのこと)
本書は、あの昭和の時代の雰囲気を満喫してこそ楽しめるミステリシリーズです。

幻の橋/想夫恋/玻璃の天

  

29.

●「1950年のバックトス Twenty-three Stories 」● ★★


1950年のバックトス画像

2007年08月
新潮社刊

(1500円+税)

2010年06月
新潮文庫化



2007/09/05



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1995年から2007年まで、様々な雑誌等に掲載された23篇を集めた短篇集。
 250頁くらいの一冊に23篇ですから、一篇あたりがどれだけ短いストーリィか判るというもの。
各々あっさりとした味わいですが、それがまとまって一冊になると楽しみは大きい。様々な趣向のストーリィが詰め合わせられ、北村薫ワールドを楽しめること間違いなし、です。

最初は怖い話が多い。ただしホラーという程のことはなく、ちょっと怖い程度。その中にもどこか温かみがあって、さらりとした感じが、北村薫さんらしいところでしょう。
「万華鏡」は作家の元に万華鏡を携えた女性が突然訪ねてきて、作家が創造した作中人物と付き合いたいと許しを請う。ぞくぞくっとする怖さより、本好きなればいいじゃないかと歓迎したくなるようなオチある話。

その後はコミカルな話が続きます。その中でもダジャレが加わった篇、私には大いに嬉しい。
中では、落語家が語るという設定の「真夜中のダッフルコート」、ダジャレ好きな女性編集者が生真面目な夫に最後にしてやられる「洒落小町」が楽しい。
次いで、北村さんの仕掛けが楽しい篇。会ったこともないM*** 嬢に恋したと広言していた紳士が実際にあってさらに惚れこんでしまったという「眼」がお見事。この M***嬢に恋する気持ち、判るなぁ。
洒落っ気たっぷりの「百合子姫・怪奇毒吐き女」は気持ち好く笑える一篇。少年2人の語りからなる構成が好いです。

最後はほんのりとした温かみある、好い話。
中でも表題作である「1950年のバックトス」は絶品です。50年ぶりにお祖母ちゃん同士が偶然に再会する話なのですが、この一篇だけでも本書を読む甲斐があります。お薦め!

百物語/万華鏡/雁の便り/包丁/真夜中のダッフルコート/昔町/恐怖映画/洒落小町/凱旋/眼/秋/手を冷やす/かるかや/雪が降って来ました/百合子姫・怪奇毒吐き女/ふっくらと/大きなチョコレート/石段・大きな木の下で/アモンチラードの指輪/小正月/1950年のバックトス/林檎の香/ほたてステーキと鰻

    

30.  

●「北村薫のミステリびっくり箱」● ★★


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2007年11月
角川書店刊

(2000円+税)

2010年09月
角川文庫化



2007/12/31



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めでたく60周年を迎えた<日本推理作家協会>、その前身である<探偵作家クラブ>、さらなる前身の江戸川乱歩主催<土曜会>時代の古い会報を見ると、当時の推理作家たちがいろいろな催しをやっていたことが判るのだそうです。
プロ棋士や甲賀忍術の継承者を呼んだり、ウソ発見器を試してみたり等々と。
そこで当時行なわれた催しを基にしたテーマ毎、推理作家仲間とその道のプロをゲストに招いての鼎談、計8回を収録したのが本書です。

対談というのは楽しいものですが、テーマが自分に興味あることですとさらに楽しい。
私としては中でも、現代の女探偵である大徳直美さんを招いての「女探偵」、慶應義塾大学推理小説同好会OBのお2人を招いての「映画」が面白かったです。特に4人から話に出た小国英雄脚本、市川雷蔵、嵯峨美智子主演の「女狐風呂」という時代版推理もの、観たくなりますねぇ。

なお、本書では鼎談も楽しいですが、付録のCDが貴重。
最初の「びっくり箱殺人事件」横溝正史原作、江戸川乱歩、城昌幸山田風太郎ら当時の推理作家らが演じて昭和24年12月30日の夜に放送されたラジオドラマとのこと。本当にレア、ものだそうです。
また、作家・甲賀三郎朗読によるラジオドラマ、「荒野」。予め読んで承知していたにもかかわらず、「結婚式の後、すぐ呪われたる新婚の旅にのぼった・・・」には、たまげました。
映像が当たり前の現代、耳で聞いて場面を想像してみるというラジオドラマ、新鮮でした。

将棋(逢坂剛&高橋和)/忍者(馳星周&川上仁一)/嘘発見器(北方謙三&今村義正・萩原伸咲)/手品(綾辻行人&ヒロ・サカイ)/女探偵(加納朋子&大徳直美)/声(宮部みゆき&戸川安宣)/映画(山口雅也&小山正・濱中利信)/落語(逢坂剛&立川志の輔)
※付録<秘蔵音源CD>:ラジオドラマ「びっくり箱殺人事件」昭和24年NHKラジオ放送/江戸川乱歩インタヴュー/江戸川乱歩歌唱「城ヶ島の雨」/甲賀三郎自作朗読「荒野」(抄)

   

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