北村 薫作品のページ No.2



11.朝霧

12謎のギャラリー謎のギャラリー特別室 ※アンソロジー

13謎のギャラリー特別室2 ※アンソロジー

14謎のギャラリー特別室3・謎のギャラリー最後の部屋 ※アンソロジー

15月の砂漠をさばさばと

16盤上の敵

17リセット

18北村薫の本格ミステリ・ライブラリー ※アンソロジー

19.歌の待ち伏せ(上)

20詩歌の待ち伏せ(下)


【作家歴】、空飛ぶ馬、夜の蝉、秋の花、覆面作家は二人いる、六の宮の姫君、冬のオペラ、スキップ、覆面作家の愛の歌、覆面作家の夢の家、ターン

→ 北村薫作品のページ No.1


街の灯、語り女たち、ミステリ十二か月、ニッポン硬貨の謎、北村薫のミステリー館、紙魚家崩壊、ひとがた流し、玻璃の天、1950年のバックトス、北村薫のミステリびっくり箱

→ 北村薫作品のページ No.3


北村薫の創作表現講義、野球の国のアリス、鷺と雪、元気でいてよR2-D2、いとま申して、飲めば都、八月の六日間、慶應本科と折口信夫
、太宰治の辞書、中野のお父さん

 → 北村薫作品のページ No.4


遠い唇、ヴェネツィア便り、小萩のかんざし、中野のお父さんは謎を解くか、中野のお父さんと五つの謎

 → 北村薫作品のページ No.5

   


  

11.

●「朝 霧」● ★★


朝霧画像

1998年04月
東京創元社刊

(1400円+税)

2004年04月
創元推理文庫



1998/04/26

「私」と円紫師匠シリーズ第5冊目。
前4冊を 通じて「私」はずっと女子大生でしたが、本書一冊の中で卒論を書き、卒業して就職し、更に3年程経過と、 時間の進み方がエラク早い。読み初めに、さすがの本シリーズもややマンネリ化したのではと思っていたら、 次にはこのシリーズも終わってしまうのか、という懸念に至る。そこを、作者は最後の「朝霧」の中でちゃんと 続きがあることを示唆してくれるから嬉しい。
要は作者の術中に完全にはまっている、ということなのです。思えば、推理もの短編集として読んでしまうものの、このシリーズはれっきとした「私」の成長物語。

本書の3篇、短編とはいいながら、そのひとつにはいろいろな話が詰め込まれています、信じがたい程。何の関係もないと思って読み進んでいくと、最後の謎明かしではちゃんとチェーンのようにつなぎ合っていることが読者にわかり、こちらはだらしなくもスッと腑に落ちてしまう。そこが北村作品の巧さであり、魅力だろうと思います。「私」の成長物語という伏線がしっかりしているから、何の揺るぎも無い、といった感じです。
「山眠る」は、俳句が鍵になっていて、ちょっと難しい構成。
「走り来るもの」
は、一番すっきりとしたストーリィで、いかにも親しみ易い。また、結末に心温まる思い。
「朝霧」
は、「私」の祖父の日記にある謎。落語と忠臣蔵が鍵。
1・3作は門外漢には辛いところで、自分の知識の貧困さが情けなくなります。

山眠る/走り来るもの/朝霧

   

12.

●「謎のギャラリー」● ★★


謎のギャラリー画像

1998年07月
マガジン
ハウス刊

(1400円+税)

1998/08/29

北村さんと編集者の対話方式で進む名著名作探訪。
古今東西のミステリが紹介されていくわけですが、こうした好きな作品を語るエッセイは、読んでいて本当に楽しいです。
編集者との対話も、北村さんらしい軽妙洒脱なもの。
話題に上る作家・作品の多くは私の知らないものでしたが、トウェインチェーホフ「レベッカ」などは懐かしいところです。知らない作品であっても、さわりを聞くだけでゾクゾクするような面白さを感じてしまいます。
終盤に至ると、北村さんが何故“私と円紫師匠”シリーズのような日常ミステリを書き出したか、その訳の感じられる部分もあります。
紹介された作品のうち、現在入手困難な作品を収録したのが「謎のギャラリー特別室」。読む前からワクワクします。

1.リドル・ストーリー/2.中国公案小説と日本最初の本格ミステリ/3.こわい話/4.賭け事、あるいはゲーム/5.恋について/6.謎解き物語について

  

●「謎のギャラリー・特別室」● ★★


謎のギャラリー特別室画像

1998年07月
マガジン
ハウス刊

(1400円+税)

1998/08/30

いろいろな話がつまっています。
お腹を抱えて笑ってしまう話から、ゾクゾクッとする話、薄気味悪い話から、ミステリまで。
「謎のギャラリー」を読んでいなかったら、どのような基準で集めたのか見当もつかないことでしょう。上記本を読んだからこそ楽しめる話もあれば、正直言って知らないままに読んでみたかった、という話もあります。私としては、最初と最後の話が一番お気に入りです。
いずれにせよ、上記本を読んでこそ楽しめるアンソロジーです。

1.都井邦彦「遊びの時間は終わらない」/2.里見ク「俄あれ」/3.梅崎春生「猫の話」 /4.別役実「なにもないねこ」/5.南伸坊「チャイナ・ファンタジー」3作/6.ヘンリー・カットナー「ねずみ狩り」/7.クレイグ・ライス「煙の環」/8.ジョン・コリア「ナツメグの味」/9.樹下太郎「やさしいお願い」/10.阪田寛夫「歌の作りかた」/11.フランソワ・コッペ「獅子の爪」/12.マージャリー・アラン「エリナーの肖像」

  
 
※ 「謎のギャラリー」各冊は、2002年2月、新たに加筆・追加・再編集され、新潮文庫化

  

13.

●「謎のギャラリー・特別室2」● 


謎のギャラリー特別室2画像

1998年11月
マガジン
ハウス刊

(1400円+税)

1998/12/08

前回は「ギャラリー」における北村さんの語りで興味が募り、「特別室」で実際に味わうという、組み合わせの妙がありました。 本書は追加版のため、その楽しさは味わえません。したがって、前回ほどの面白みを感じなかったのも仕方ないところ かなと思います。
今回の特色はクリフハンガーもの2作、「死者のポケットの中には」「二十六階の恐怖」。もっとも舞台は都会の摩天楼です。
この2作は全く対照的な内容なのですが、私はとくに前者が気に入りました。こういう趣の作品は大好きです。
もう一作、異色なラブ・ロマンスと言えるのが、「狐になった夫人」。なんとも感想を言い表し難い作品です。主人公に感情移入するところも多分にありますし、無視できないロマンスの味わいもあります。うまく言い表すのは、正直言って私の手に余ります。読んでみてくださいと言う他ありません。

1.ゴフスタイン「私のノアの箱舟」/2.ソログープ「光と影」/3.フィニイ「死者のポケットの中には」/4.ホーニグ「二十六階の恐怖」/5.山下明生「親指魚」/6.オサリバン「お父ちゃん似」/7.ガーネット「狐になった夫人」

  

14.

●「謎のギャラリー・特別室3」● ★★


謎のギャラリー特別室3画像

1999年05月
マガジン
ハウス刊

(1400円+税)

1999/06/01

本書では、何と言っても乙一夏と花火と私の死体が圧巻! 1996年の集英社第6回ジャンプ小説・NF大賞受賞作。作者はこの時高校生だった、というから驚きです。でも、そんな若い人だからこそ書けた、というようなみずみずしさが感じられます。
この作品は、最初に読んだ時、次にどんな展開になるのか予想もつかない、という感じでした。次に読み直してみると、主人公たちの事件の受け留め方の不思議さを、強く感じるようになりました。最後まで次の展開を予想させない手腕は、なかなかのものです。
ストーリィの構想は、吉村昭「少女架刑」に似ています。作品の味わいは其々異なりますが、この際、是非吉村作品も読んでみて頂きたいと思います。面白さがより一層膨らむような気がします。
もうひとつ楽しめた作品は「これが人生だ」。こんなことがあるから人生は楽しい!、そんな心弾むような楽しさがあります。

1.宇野千代「大人の絵本」/2.乙一「夏と花火と私の死体」/3.ヘンドリクス「定期巡視」/4.古銭信二「猫じゃ猫じゃ」/5.ジャクスン「これが人生だ」

  

●「謎のギャラリー・最後の部屋」● ★★


謎のギャラリー最後の部屋画像

1999年05月
マガジン
ハウス刊

(1400円+税)


1999/06/02

本書では頁数の半分以上を「真田風雲録」が占めています。それもその筈、今回続刊についての北村側条件がこの作品を収録することに在ったということです。
題名からいうとミステリとは畑違いのようですが、読み進むとそんなことはお構いなしに面白く読める作品です。
しかも、小説ではなく戯曲仕立。歴史時代小説というとそれなりに緊迫感のあるのが普通ですが、むしろコミカルな雰囲気があります。
幸村、真田十勇士の面々に、大坂城内における軍議の場面等々。その辺に本作品の魅力です。
時代歴史分野の戯曲というと、井上ひさし「イヌの仇討」を思い出します。この作品も喜劇的な感じがありました。時代ものをコミカルに描くには、戯曲という形式が向いているのかもしれません。
「謎のギャラリー」終幕にふさわしい作品だったと思います。

1.林房雄「四つの文字」/2.ミューヘイム「埃だらけの抽斗」/3.西村玲子「かくれんぼう」/4.城昌幸「絶壁」/5.福田善之「真田風雲録」

   

15.

●「月の砂漠をさばさばと」(絵・おーなり由子) ★★


月の砂漠をさばさばと画像

1999年08月
新潮社刊

(1400円+税)

2002年07月
新潮文庫化
(514円+税)


1999/09/05

9歳のさきちゃんとお母さんの毎日を描く、大人の童話のような本です。
2人はまるで友達のように仲の良い母娘。そんな2人の日常生活におけるやり取りを聞いていると、とても楽しい気持ちになります。
表題になっている“月の砂漠”の歌も、お母さんにかかるとユーモラスな歌に変わってしまい、忘れ難い思いがします。
また、「ダオベロマン」や、さきちゃんの学校での隣席・ムナカタ君とさきちゃんのお母さんの連絡帳ごっこも、なかなかに楽しい。
北村さんらしい優しさに溢れた本ですが、といって子供向けの本ではなく、やはり大人向けの本なのでしょう。
でも、この本の楽しさは、絵を担当したおーなり由子さんあってのこと。絵だけ見ていても、とても楽しいのですから。おーなり由子さんのおかげで、素敵な本ができあがりました。
この楽しさを味わえる心を失いたくない、そんな気持ちになります。

くまの名前/聞きまちがい/ダオベロマン/こわい話/さそりの井戸/ヘビノボラズのおばあさん/さばのみそ煮/川の蛇口/ふわふわの綿菓子/連絡帳/猫が飼いたい/善行賞のリボン

  

16.

●「盤上の敵」● 


盤上の敵画像

1999年09月
講談社刊

(1600円+税)

2001年11月
新書版化
2002年10月
講談社文庫化


1999/09/15

主人公・末永純一が自宅に戻ろうとすると、散弾銃を持った強盗殺人犯人が妻の友貴子を人質に立てこもっていた、というのが事件の本格的幕開け。
ストーリィは、主人公が警察に頼らず、自らの策略で犯人から妻を救い出そうとするものです。さながら、主人公が犯人をチェスの罠に落とし込もうとするかのように。
主人公は白のキング、友貴子は白のクイーンに見立てられ、章も
「駒の配置」「序盤戦」「中盤戦」「終盤戦」等となぞえられてい ます。
ゲームの対戦は主人公vs犯人のようですが、私には作者vs読者のように思えます。本作品の楽しみは、この北村さんの仕掛けにある、と言って良いでしょう。
ただ、上記の仕掛けがある一方で、ストーリィそのものにはいつもの北村さんとは違うものが感じられます。希望、明るさ、そしてつつましいユーモア、そうしたものが欠けているのです。ちょっと違和感を覚えます。

本作品は主人公の現在の行動と友貴子の回想が交互に織りなし、それが最後に交錯して初めて事件の全体像が見える、そんな凝ったストーリィ構成。
しかし、そのストーリィの面から読後私には腑に落ちない気持ちが残りました。

  

17.

●「リセット」● ★★


リセット画像

2001年01月
新潮社刊

(1800円+税)

2003年07月
新潮文庫化



2001/01/20

時と人の三部作”最終作。

待ちに待った最終作。けれども読み始めて戸惑いを感じたのも事実です。過去の2作が現代ストーリィだったのに対し、本書は太平洋戦争の頃、昭和30年代と過去の時代を舞台にしています。
登場人物の描き方は、北村さんらしい細やかなもので好ましくはありますが、何故今更、という疑問が浮かびます。
本作品は三部構成。第一部は、神戸の芦屋に住む女学生・水原真澄を主人公に、戦前・戦中を背景として彼女の淡い恋が描かれます。
第二部は、病院に横たわる村上和彦が、昭和30年代、自分が小学生だった頃の思い出を語ります。水原真澄という人に不思議な恋をしたこと。昭和30年代という時代が、懐かしく思い出される一方で、一人で暮す真澄のせつなさが、胸を打ちます。
しかし、静かで切ない物語ではあっても、これでは平凡ですし、“時と人”という主題はどこにあるのか、という思いが常にありました。それを一気に振り払うのは、僅か50頁程の第三部。
一気にストーリィは緊縮し、時間を超えてひとつの流れに収斂します。そして、一転、本書は三部作の最後を飾るに相応しい物語へと姿を変えます。(北村さん、お見事!)
何と言っても、最後の僅かな部分がすべての鍵。それは、本書を読む人だけが味わえる嬉しさでしょう。

奇しくも本ストーリィは、恩田陸「ライオンハート」と共通する部分があります。でも、小説としては全く別もの、という印象。読み比べてみるのも一興だと思います。

  

18.

●「北村薫の本格ミステリ・ライブラリー」● 


北村薫の本格ミステリ・ライブラリー画像

2001年08月
角川文庫刊

(619円+税)



2001/09/18

収録されているストーリィの面白さという点では、謎のギャラリー・特別室の方がずっと楽しめます。
ただ、本アンソロジーの趣向は「ギャラリー」と異なり、こんなミステリもあるんですよ、本格的な“謎”はこんな風に楽しめるんですよ、というのが狙いのようです。

本書は、今ではなかなか読めない作品を中心に収録しているとのこと。西條八十さん自身のミステリ、翻訳ものが収録されているのも、それ故でしょう。
冒頭の“密室三連弾”“田中潤司語る”はそれなりに楽しめます。それにしても、「酔いどれ弁護士」2篇は16歳の少年が書いた作品というのですから驚きです。また、「夢遊病者」は、僅か1頁程度の小説ですが、ハッとさせる面白さがあります。
絶品なのは、最後の「ジェニミー・クリケット事件」。北村さんが本アンソロジーをやるうえで収録を条件にしたそうですが、徐々に増していく緊迫感が凄い、読み応えがあります。

T 懐かしの本格ミステリ−密室三連弾+1
 1.酔いどれ弁護士(2篇+1) 2.ガラスの橋 3.やぶへび
U 田中潤司語る−昭和30年代本格ミステリ事情
V これは知らないでしょう−日本編
 1.ケーキ箱 2.ライツヴァル殺人事件
W 西條八十の世界
 1.花束の秘密 2.倫敦の話 3.客 4.夢遊病者
X 本格について考える
 1.森の石松 2.わが身にほんとうにおこったこと 3.あいびき
Y ジェニミー・クリケット事件(アメリカ版)
※ あとがき代わりのミステリ対談 vs有栖川有栖

※本書と併せて「有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」をお薦めします。

     

19.

●「詩歌の待ち伏せ(上)」● ★★


詩歌の待ち伏せ(上)画像

2002年06月
文芸春秋刊

(1238円+税)

2006年02月
文春文庫化

2020年07月
ちくま文庫
(3冊合本)

2002/06/30

これまでの北村薫作品からすると、意外な感に打たれるのがこの一冊。
とはいえ、愛書家である北村さんを思えば、本来何の不思議もないことなのでしょう。
 
本書は、北村さんがふと巡りあった詩歌の数々を、思い出をこめて語ったエッセイ集。「オール讀物」に2000年2月〜2001年8月まで掲載されたものです。
私にとって、詩は苦手です。せっかちな性分と、想像力に欠けている所為だと自分では思っています。けれども、本書を読んでいると、気持ちが静かに落ち着いていくようです。
気軽に、普段着の気持ちで詩歌を楽しむ、そんな北村さんの姿勢に影響された所為かもしれません。

本書中では、親子の関係をうたった、「悲しみ」(石垣りん)、「れ」(豊田敏久・3歳)、「いたそうね」(岡山孝介・小4)が印象に残りました。

    

20.

●「詩歌の待ち伏せ(下)」● 


詩歌の待ち伏せ(下)画像

2003年10月
文芸春秋刊

(1238円+税)

2006年03月
文春文庫化

2020年07月
ちくま文庫
(3冊合本)

2003/12/02

下巻に収録されたのは、「オール讀物」に2001年9月〜2003年1月まで掲載された分。
相変わらず詩歌に対する北村さんの造詣の深さ、それと対照的に自らの感応力の貧しさを思わざる得ない一冊です。

率直に言って、詩そのものとなると理解が及ばないのですが、“言葉”の使い方に関する部分となれば文句なく楽しい。
 
冒頭に登場する土井晩翠「星落秋風五丈原」は、三国志の蜀・諸葛亮孔明を謳ったもので、最近に北方謙三「三国志を読んだだけに胸に響きます。
そのうえ、「風更けて」という表現に関する諸々のこと。その表現が過去に使われていないかを探し、新古今和歌集・藤原定家にまで飛ぶとなると、言葉のゆかしい使い方の魅力を今更のように感じます。
また、チャンドラー「長い別れ」に出てくる洒落た一言は、アロオクールの「別れの唄」を原典としていて、チャンドラーの前にアガサ・クリスティも使っていたと知ることもまた楽しい。

とかく気ぜわしい現代小説を読む中、一服の清涼剤とも言いたい一冊です。

  

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