逢坂 剛(おうさか・ごう)作品のページ


1943年東京都生、中央大学法学部卒。広告代理店の博報堂勤務。80年「暗殺者グラナダに死す」にて第19回オール讀物推理小説新人賞、87年「カディスの赤い星」にて第96回直木賞、第40回日本推理作家協会賞、第5回日本冒険小説協会大賞を受賞。97年より作家専業。

 
1.
相棒に気をつけろ

2.配達される女

3.恩はあだで返せ

4.おれたちの街

5.平蔵の首

 


   

1.

●「相棒に気をつけろ」● 


相棒に気をつけろ画像

2001年08月
新潮社刊
(1500円+税)

2004年09月
新潮文庫化

 
2001/09/09

逢坂剛さんの作品を読むのは、本書が初めてです。
本格的エンターテイメント小説の書き手である逢坂さんの中で、本書は珍しく軽い短篇集、というのは重々承知していましたけれど、それにしてもなぁ...という印象。

登場するのは“世間師”の男女2人。ちなみに、世間師とは「世慣れて悪賢い人」という意味のようです。
元々ナンデモアリの仕事をしていた主人公が、ひょんなことから知り合ったのが、“経営コンサルタント”を名乗る四面堂遥という食わせ者の女。太り気味であるものの、グラマーかつ美人。お陰で、小悪党相手に演じることになった詐欺ゲームの数々、という短篇集です。
ただ、相手の騙し方という面では、主人公一人での「いそがしい世間師」の方が巧妙で面白い。肝心の四面堂遥と組んだ方はおよそ時代がかっていて、ちょっと稚拙。また、四面堂遥の印象も、キレもの女性というより場末の姐御といった風で、あまり魅力を感じないなぁ。
「ヤクザの香典はパクるわ、地上げ屋の眼前でストリップショウを企むわ、...」、いずれも帯文句程のことはなかったです。

いそがしい世間師/痩せる女/弦の嘆き/八里の寝床/弔いはおれがする

    

2.

●「配達される女」● ★★


配達される女画像

2000年08月
集英社刊

(1700円+税)

2004年04月
集英社文庫化

 

2008/07/15

 

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刑事ものスラップスティック・コメディ、“御茶ノ水署”シリーズ、第2弾。
心ならずも第3弾から逆に読むことになってしまいました。

恩はあだで返せにて絶妙のスパイスとなっていた紅一点、五本松小百合巡査部長が御茶ノ水署に異動してくる、の巻。
斉木斉(ひとし)警部補梢田威(たけし)巡査長というコンビだけだった御茶ノ水署生活安全課保安ニ係は、五本松巡査部長の転入により3人となります。
その五本松、小柄で30歳過ぎの地味な女刑事、という印象にもかかわらず、ふたを開けると大違い。返事をまともにしないタクシー運転手の背もたれをいきなり右脚で蹴っ飛ばすことくらいはほんの序の口。
五本松、新たな同僚となった梢田には最初から自分の本性を明らかにするのですが、その途方もなさに梢田は口をあんぐり開けて驚き呆れるばかり。それが冒頭の「悩み多き人生」
斉木が惚れ込んだ、古書店のバイト女性、松本ユリ。その「豊かな髪を牡ライオンのたてがみのように振り立て」てやけに化粧の濃い「けばい女」が、何と五本松の世を忍ぶ姿だったとは!
そればかりか、刑事だというのに悪い奴を闇討ちして、ボコボコにのしてその上麻薬不法所持の罪まで着せてしまうというのですから、底抜けに破天荒。
梢田とともに呆れていたら、もっと驚かされたのが「配達される女」で明らかになった、松本ユリ=五本松?のご乱行。
この“ジキルとハイド”というか、“必殺仕置人”というべきかという五本松小百合の度外れなキャラクターが、抜群の面白さです。
ただし、梢田の存在があってこそ、それが際立つというもの。

悩み多き人生/縄張り荒らし/配達される女/苦いお別れ/秘めたる情事/犬の好きな女

  

3.

●「恩はあだで返せ」● ★☆


恩はあだで返せ画像

2004年05月
集英社刊
(1600円+税)

2007年04月
集英社文庫化

 

2008/07/14

 

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刑事ものスラップスティック・コメディ、“御茶ノ水署”シリーズ、第3弾。
ふと読もうかという気になり図書館の書架を探したところ、残っていたのは本シリーズで本書だけ。そんな訳でいきなり3冊目から読むことになりました。

元小学校の同級生ながら、今は御茶ノ水警察署生活安全課で上司と部下の関係になっている斉木斉警部補梢田威巡査長のコンビが、笑いを撒き散らしながら珍事件解決に活躍するという、シリーズもの。
2人が所属するのは生活安全課ですから、凶悪な犯罪とも殺人事件とも無関係。関わるのは管内の些細なゴタゴタばかり。
それなのにコメディになり得るのは、斉木の身勝手さと、それにいつも振り回されている観のある梢田のズッケコぶり、人の好さでしょう。
しかし、この2人だけでは締まったストーリィにはなりません。そこを救っていてスパイスの効いたステップスティック・コメディになっているのは、同僚に五本松小百合巡査部長という極めて有能な女性刑事が控えているから。
斉木&梢田という凸凹コンビの迷走振りを、最後にたしなめて警察の仕事の枠内に穏当に収めるというのが五本松の役どころ。
この五本松小百合の決着のつけ方が愉快です。

軽く楽しく読める、ユーモラス警察小説。ちょっと疲れた時の気分転換にはぴったりです。

本書ストーリィは、
・斉木&梢田抜かしで進められているのは何の捜査?
・がらくた市で斉木が買った汚い茶碗をめぐって何故騒動が?
・デリヘル捜査で何故梢田が損をする羽目に?
・斉木の義理だという先輩刑事への手伝いはどこか胡散臭い?
・梢田が騙されたのは、五本松?それとも梢田への復讐?

木魚のつぶやき/欠けた古茶碗/気のイイ女/恩はあだで返せ/五本松の当惑

     

4.

●「おれたちの街」● 


おれたちの街画像

2008年06月
集英社刊
(1600円+税)

 

2008/09/08

 

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刑事ものスラップスティック・コメディ、“御茶ノ水署”シリーズ、第4弾。

今回は、御茶ノ水警察署に実地研修ということで配属された、警察庁の新人キャリア警察官、立花信之介(警部補)が斉木、梢田、五本松の3人に加わります。
斉木斉梢田威というデコボココンビに陰のヒーロー的存在の五本松小百合、というトライアングル構図がその分薄まってしまうのが残念ですが、目立たずとも五本松は地味にちゃんと2人を救い上げています。
さて新人の立花は?というと、デコボココンビが突出しているというだけなのか、中心線より五本松寄り。身長高くがっしりとした身体つきで、新人キャリア官僚と言いながらなかなか頼りになる存在です。

相変わらず斉木は身勝手、その反対に梢田は人が好過ぎるというのか間が抜けているというのか、悪党に簡単に手玉に取られたうえ、易々と逃げられてしまう。
何ともはや間の抜けた警官たちがいるものだと思っても、そこはそれコメディなのだから仕方ないのだ、と言われればそれ以上言うことも無し。

本書でちょっと緊張感を孕むのは、最後の「拳銃買います」。梢田危うしのところをチームワークで救うところは流石。このチーム、良い所もちゃんとあるのだなと感じさせられるストーリィ。

おれたちの街/オンブにダッコ/ジャネイロの娘/拳銃買います

         

5.

●「平蔵の首」● ★☆


平蔵の首画像

2012年03月
文芸春秋刊

(1500円+税)

  

2012/04/05

  

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“平蔵”とくれば、時代小説ファンなら“鬼平”、故池波正太郎が生んだ時代小説ヒーローの一人、火付盗賊改方長官=長谷川平蔵を置いて他にいません。
本書では、
逢坂版平蔵が登場。池波正太郎没後20周年企画から生まれた新シリーズとのこと。
元々長谷川平蔵は実在の人物。ですから池波さん以外の作家が自作の主人公に用いても何ら不思議はないのですが、そこはそれ。長谷川平蔵が主人公となれば、どうしても池波版平蔵と比較せずにはいられません。
その本書の感想はどうなのかというと、う〜ん・・・・・。余り面白いとは思えないんですよねぇ・・・。
時代小説として面白いかどうかというより、私と逢坂さんの相性の問題なのかもしれません。

池波版平蔵はカラッと明るく、男気のあるキャラクターに設定されていて、ストーリィもその根底に人間というものの面白さが置かれている訳ですが、逢坂版平蔵はかなり異なります。
前半のおいて強く感じたことは、やたら策を弄しているなぁ、ということ。
逢坂版平蔵、人に自分の顔を見られるのが好きではないらしく(かなり偏執的な性格を感じます)、部下に自分の身代わりをさせたり、思いもよらぬ人物に自ら扮したりすること、度々。
策を弄し過ぎるとストーリィはかえって面白くなくなる、というのが私の考えなのですけれど、本作品、そんな感じ。
それでも読み進めば、それなりに馴染む、というところはあります。

逢坂版平蔵とはいえ火盗改長官であることは同一ですから、盗賊や手先(密偵)も登場すれば、火盗改の配下が潜入捜査もします。そこは池波版と変わりはありません。
ただし、人間の面白さを描くというより、火盗改側と盗賊側の駆け引きを描くことに終始しているという印象です。
駆け引きの勝負という点は、ハードボイルド、サスペンスの世界。そこはやはり逢坂版平蔵ということなのでしょう。

平蔵の顔/平蔵の首/お役者菊松/繭玉おりん/風雷小僧/野火止

    


  

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