1998年11月

クロスファイア(宮部みゆき) リトル・ボーイ・ブルー(エドワード・バンカー)
魔性の子(小野不由美) ナイフが町に降ってくる(西澤保彦)
水の眠り 灰の夢(桐野夏生) フローリアの「告白」(ヨースタイン・ゴンデル)
炎都(柴田よしき) 虚しき楽園(カール・ハイアセン)
らせん(鈴木光司) 旅涯ての地(坂東眞砂子)
禍都(柴田よしき) ループ(鈴木光司)
長い雨(ピーター・ガドル) パラサイト・イヴ(瀬名秀明)
レッド・マーズ(キム・スタンリー・ロビンスン) 楽園(鈴木光司)
黄泉津比良坂 血祭りの館(藤木稟) 二進法の犬(花村萬月)
エサウ (フィリップ・カー) 光射す海(鈴木光司)
水の通う回路(松岡圭祐)
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クロスファイア

著者宮部みゆき
出版(判型)カッパ・ノベルス
出版年月1998.10
ISBN(価格)(上)4-334-07313-1(\819)【amazon】【bk1
(下)4-334-07314-X(\819)【amazon】【bk1
評価★★★★★

鳩笛草」に収録されている「燔祭」の続編。未読の方は先に「鳩笛草」を読むことをお勧めします。エネルギーを発射して、対象物を超高温で焼くことができる超能力、念力放火能力。その力を持つ淳子は、日々貯えられるエネルギーを、廃工場の貯水池で放射していた。ところがそこへ、3人の人間が入ってきて死体に見える人間を捨てていこうとする。怒りに燃えた淳子は放射しようとしていたエネルギーを、彼らに向かって使おうとした。

証拠を残さずに、同じ人間を「処刑」することの出来る能力を持ってしまった人間の哀しいお話です。あまりの寂しさに涙が出ました。能力を持ってしまったのは自分の所為ではないのに、それの所為で疎まれたり、怖がられたりする主人公があまりにかわいそう。彼女の考え方もかなり強引ではあると思うのですが、周りの人間がもっとわかってあげたら、彼女もこんな風に力を使わずに済んだのではと思ってしまいました。
この話は「鳩笛草」の中のお話の続編なのですが、あの「鳩笛草」自体がこの話を書くための土台だったのでは、と思えてしまいます。おすすめです。

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リトル・ボーイ・ブルー

著者エドワード・バンカー
出版(判型)ソニー・マガジンズ
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-7897-1318-0(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★

アレックスは、両親のもとを離れて施設を転々としている。瞬間湯沸器の彼は、どこの施設でも周りとうまくやっていくことができず、最後には追い出される始末。彼の行きついた先は・・・

これは純粋に好き嫌いの問題だと思いますが(私はどの感想も好き嫌いで書いていますが)、私はこういう本を読むと「だから何」と言いたくなってしまうのです。事実をただ追うだけなら何も小説と銘打たなくてもいいんじゃないかと思います。「スリーパーズ」が結構面白かったと思った私は、帯の「スリーパーズ以上」という文句に惹かれて買ったのですが、うーんどうでしょう。スリーパーズの方がドラマ性もありましたし、人間の面白さもあったと思うのですが。
すぐ怒り出すアレックスの話はそれなりに面白かったので★は3つにしましたが、人には勧められません。

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魔性の子

著者小野不由美
出版(判型)新潮文庫
出版年月1991.9
ISBN(価格)4-10-124021-3(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

教育実習のために母校の高校を再び訪れた広瀬は、自分の受けもったクラスに変わった子がいるのに気づく。幼いころに神隠しに会ったと言われる彼は、触れると祟られると同級生から恐れられている。自分の同類を見つけた気分でいた広瀬は彼に接近を図るが。

先週載せた「十二国記シリーズ」の原形です。正確に言うと、「風の海 迷宮の岸」につながるお話。こちらは一般書に納められているだけあって、文章の感じも全然違いますが、面白かったです。「十二国記」を知って読むのと、これだけを読むのとでは全然イメージが変わってしまうような気もするのですが、ますます「十二国記」の続きが楽しみです。

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ナイフが町に降ってくる

著者西澤保彦
出版(判型)ノン・ノベル
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-396-20643-7(\829)【amazon】【bk1
評価★★★★

いつもいろいろと仕掛けを考えている西澤さんの今回の仕掛けは、納得できない事が起きると意志とは関係なく時間を止めてしまう人と、それに巻き込まれて「時間牢」に閉じ込められた女子高生のお話。

いろいろと仮説を考えて、それを否定して、また仮説を考えてという試行錯誤的な話もなかなかでしたが、破天荒な女子高生と、それを見ておろおろする「超能力者」のドタバタが結構笑えました。そうでしかありえないと思いつつも、最後の部分がちょっと納得できないこともありましたが、まあ笑えたので許してあげましょう。でもいろいろ仕掛けを持ち出すのなら、やっぱり「おー納得」という最後を期待したいですよね。

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水の眠り 灰の夢

著者桐野夏生
出版(判型)文春文庫
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-16-760202-4(\590)【amazon】【bk1
評価★★★

昭和38年。オリンピックに沸き、高度経済成長を迎えた東京で、爆破事件が相次いで起こっていた。週刊誌のトップ屋村野は、たまたま乗った地下鉄でその事件に遭遇。事件を調べているうちに全然違う事件に巻き込まれることに。

ストーリー自体は平凡で、ちょっと古臭い感じなのですが、この高度経済成長期の東京という舞台と、主人公の週刊誌の記者たちのなんとも言えない哀しい人間関係かよかった。最後の終わり方も私好みでした。
私は東京オリンピックも、高度経済成長期も歴史の中でしか知らない世代ですが、この頃はよかったんだと言っていた大学教授がいまして、なんとなく羨ましいですね。

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フローリアの「告白」

著者ヨースタイン・ゴンデル
出版(判型)NHK出版
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-14-080397-5(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

僕は、南米の古本屋で箱に入った古い手紙の束を見つけた。ちょっと読んでみると、女性の手紙でラテン語らしい。しかもその手紙の宛名は、聖アウグスティヌスだった。彼は信仰のためにある女性を捨てたと彼の「告白」に書かれているが、この手紙はその女性から宛てられたものなのだろうか。

珍しく薄い本をあまりに装丁がかわいいので買ってしまいました。装丁はかわいいですけど、内容は最愛の恋人が、信仰のために自分の元を離れてしまったための絶望的な「告白」。いのちは短いのに、何故自分の思うままに生きないのか、と「禁欲」の檻に嵌まってしまっている聖アウグスティヌスの生き方(あるいは「告白」)を批判する手紙です。フローリアの訴えはいちいちもっともで、共感できるものでした。聖アウグスティヌスは、神学者ということくらいしか知りませんでしたが、これを読むとなんとなくもっと身近な人物のように感じます。
ゴンデルは、この手紙を本当にあったものと言っているようですが、本当なのでしょうか。

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炎都

著者柴田よしき
出版(判型)トクマ・ノベルス
出版年月1997.2
ISBN(価格)4-19-850367-2(\874)【amazon】【bk1
評価★★★

木梨香流は、京都の土木事務所に勤める技術員。ある時いつものように測量に出かけて、地下水が異常に減っていることに気づく。同時にあちこちから井戸水が枯れたという情報が。原因不明に首をかしげる香流たちだが、それは大災厄の予兆だった。

かなり笑えます。コンピュータを見てそれを欲しがる天狗に、イモリと間違えられて怒るヤモリ。1千年前の封印が解けて起きる大災厄のお話ですが、もう少し緊迫感があるほうがよかったかも。前も柴田さんの本に対して言った気がするのですが、「マンガちっく」なんです。題材も面白いですし、内容も私は好きなのですが、なんか嘘臭いというか(^^;。この本続いているそうなので、続きに期待。

■入手情報:徳間文庫(2000.11)

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虚しき楽園

著者カール・ハイアセン
出版(判型)扶桑社ミステリー
出版年月1998.10
ISBN(価格)(上)4-594-02587-0(\648)【amazon】【bk1
(下)4-594-02588-9(\629)【amazon】【bk1
評価★★★★★

フロリダにハネムーンに来たラム夫妻。ところがそこへ今世紀最大と呼ばれるハリケーンが襲来。マックスはその様子をみて大喜び、ビデオをテレビ局に売りつけようと、嬉々として被災地を回る。あきれたボニーは彼と別行動を取っている内に、マックスと離れ離れに・・・

面白い!何が面白いって、やっぱり奇人変人の登場人物でしょう。髑髏をコレクションする飛行機事故の生還者に今はホームレスの元知事。彼らがボニーと共に大活躍です。なんだか複雑なストーリーに見えて、実は勧善懲悪の単純な内容であるところも気に入りましたね。かなりあくの強い本なので、万人受けはしないと思うのですが、わたしはお気に入りです。
表紙の挿絵も★★★★★です。(^^)

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らせん

著者鈴木光司
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1997.12
ISBN(価格)4-04-188003-3(\648)【amazon】【bk1
評価★★★★

監察医の安藤は、偶然友人の遺体を解剖することになる。単なる心筋梗塞に思えたその遺体は、良く調べるとあるウィルスに感染していることが判明した。彼は一体どこからこのウィルスをもらったのだろうか。彼の行動を調べるうちに、安藤はあるビデオの存在を知ることになる。

それだけで美しく完結していた「リング」を、あえてぶった切って「らせん」にしたその大胆さに敬意を表して★★★★にしました。今回もこわーいシーンは沢山ありましたが、微妙に科学的な説明を入れたせいで、逆に嘘臭くなってしまい、それほど怖がれなかった気もします。ただエレベーターのシーンは私も実生活で時々怖く思うところなので、やっぱり怖かったですね。いろいろありますが、面白かったといえる作品だったと思います。
「リング」にとって「らせん」は不必要ですが、「らせん」にとって「リング」は必要不可欠ですので、先に「リング」を読んだ方いいと思います。

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旅涯ての地

著者坂東眞砂子
出版(判型)角川書店
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-04-873114-9(\1900)【amazon】【bk1
評価★★★★

舞台は13世紀のイタリア。奴隷として東の涯ての国から西のヴェネツィアへ連れてこられた夏桂。主人であるポーロ家の人々が探していたイコナを偶然手に入れたことによって、彼はさらに西の涯へと旅をすることになる。

最初の1章はなかなか進みませんでしたが、気がついたら嵌まっていて、読み終わってました。なるほどこの第3章を書きたいためにわざわざ東の国の奴隷を主人公にしたんだなあ、と思いました。人は死んだらどこへ行くのか。その答えを求め、心の安らぎを得ようとして四苦八苦する人間たちの哀しい物語です。いいお話でした。キリスト教圏の人間ではなく、しかもこれといった信仰を持たない私としては、こういう話はとても面白いです。夏桂の意見の方が現実的な気がするのですが、宗教って難しいものですね。「神にすがるほど弱く、神を信じるほど強い」という言葉が、私にはとても印象的でした。最近なんだかこの手の話をやたらと読んでいる気がするのですが、世紀末だからでしょうか。


■入手情報: 角川文庫(2001.6)

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禍都

著者柴田よしき
出版(判型)トクマノベルス
出版年月1997.8
ISBN(価格)4-19-850387-7(\952)【amazon】【bk1
評価★★★★

前作で京都が大災害を被ってから10ヶ月。再建に忙しい京都で、木梨香流は地質調査会社で忙しい日々を送っている。そんなとき、ある建設現場の地中に球形の物体が埋まっていることが解る。一体なんだろうと思っている間に、施主がそれを壊してしまおうとするが。

楽しめる本だと思います。キャラクターがいいですね。今回は生まれ変わった珠星に振り回される十文字君がよかったです。相変わらずインターネットで遊ぶ三善天狗も健在です。時々どうしても自分と合わないセリフがあるのですが、それさえ気にしなければ面白かったです。まだ続くようですが、この後は一体どうするのでしょう。もう京都には壊すものが無いような気がするのですが・・・(^^)。

■入手情報: 徳間文庫(2001.8)

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ループ

著者鈴木光司
出版(判型)角川書店
出版年月1998.1
ISBN(価格)4-04-873095-9(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

なるほどーこういう風になるんですね。これについてあらすじを書く必要はないと思います。帯の「すべての答えはここにある」で充分ではないでしょうか。「知らぬが仏」という諺がこれほどぴったり来るなあと思った本はありません。(^^)
あとがきに著者が書いていらっしゃいますが、この3部作は最初からこういう構想で作られたわけではないようですね。最初からこの最後を考えて書いていれば、もっと傑作になった気がして惜しい感じがします。私はこの結末は受け入れられるようです。少なくとも、「
らせん」で終わってしまうよりは、こちらのほうが肯けます。こういうこと(って指示語で書くとわけがわからなくなりますが、ネタバレなので書けません。ごめんなさい)って割合多くの人が考えているのでしょうか。私も漠然と考えたことがあります。本当にありそうですよね。これ。

どこかで読んだことあるエピソードが出てくるなあ、と思ったら参考文献に「複雑系とは何か」があがっていました(<面白いですよ、これ)。私は「ジュラシック・パーク」を読んだときに、ちょっとこの理論に興味を持って「複雑系とは何か」を読んだだけなので全然知らないのですが、「ループ」に出てくるようなかなり高度な実験って本当に行われているのでしょうか。現在どの辺りまで明らかにされているものなのでしょう。この「永遠の謎」に答えが出たとき、人類がどうする(なる)のか楽しみというか、怖いというか・・・です。


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長い雨

著者ピーター・ガドル
出版(判型)ハヤカワ文庫
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-15-100129-8(\780)【amazon】【bk1
評価★★★★

弁護士のジェイスンは、妻との離婚を期に自分の故郷に帰ってきていた。失意の日々を送っていた彼は、あるときふと思い立って放置されていた葡萄園の再建にのりだす。ワインが作れるほどの収穫もあり、妻も息子も戻ってきて順風満帆に見えた人生が、ある事故をきっかけに崩壊を始める。

良心と家族との安寧との間で葛藤するダメ男のお話。なかなかよかった。私はこういう最後が意外に好きです。家族を守るためにしたことが、結局家庭を崩壊させていくきっかけになってしまうこの弁護士がちょっとかわいそう。良心の呵責に耐え兼ねて、結局赦しを得ようとしてしまう弱い人間なのですが、これだけひどい目に合えば、もう充分なのではないでしょうか。

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パラサイト・イヴ

著者瀬名秀明
出版(判型)角川ホラー文庫
出版年月1996.12
ISBN(価格)4-04-340501-4(\780)【amazon】【bk1
評価★★★★

薬学部で研究をする永島の最愛の妻が交通事故で脳死状態となった。腎臓バンクへの登録をしていたために、腎臓を提供することになったが、その時彼は彼女の肝臓をもらい培養することを決意する。ところがその培養は、思わぬ結果をもたらすはめに。

結構気味の悪い記述もあるのですが、総じてこの本はホラーっていうのかなと疑問に思いました。多分全体に渡って、どこまでも科学的かつ専門的な話が根底に書かれていて、あまり嘘っぽいイメージがなかったからかもしれません。中学の時に習った「ミトコンドリア」にこんな謎があったなんて、そちらの方に驚きました。この世に科学で説明できないことはないような気がする現代でも、まだまだ解っていないことって多いものですね。
内容的にはまあまあかなという感じです。というのも、そのミトコンドリアの話は面白かったのですが、この本ってミトコンドリアの説明じゃないですよね。あくまでエンタテイメントなんですよね。その点ちょっと盛り上がりに欠けたという気がしてしまいます。でもちょっとPSの「パラサイト・イヴ」をやってみたくなったかも(^^)。この著者の他の本も読んでみようとは思いました。

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レッド・マーズ

著者キム・スタンリー・ロビンスン
出版(判型)東京創元社
出版年月1998.8
ISBN(価格)(上)4-488-70702-5(\840)【amazon】【bk1
(下)4-488-70703-3(\840)【amazon】【bk1
評価★★★

2026年、人類はとうとう火星へと移住を開始した。最初の100人はあらゆる分野でのノーベル賞受賞者など精鋭の科学者たち。彼らは宇宙船での長い旅の末、火星へと降り立った。ところが彼らの歴史と、独立心が思わぬところで波乱を起こす。

これはSFというのでしょうか。>SFファンの皆様。もう既に火星への移住というのは、かなり現実性を帯びた夢であるために、火星の話でもなんとなくSFではないような気がします。今、火星への有人飛行を阻んでいるのは予算だけという状況の中で、SFもこうしてどんどん「現実的」な話となっていくのでしょうか。
内容はまあまあでした。火星へ移住した少数精鋭の科学者たちは、地球の古い考え方を捨て、火星で全く新しい「生活」なり「常識」なりを作っていこうとするのですが、なかなかそうもいかず・・・というなんとなく哀しいお話でした。ちょっと長すぎという気もするのですが、解説を読むと3部作になっている模様で、これからの展開に期待ですね。

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楽園

著者鈴木光司
出版(判型)新潮文庫
出版年月1996.1
ISBN(価格)4-10-143811-0(\476)【amazon】【bk1
評価★★★★

砂漠に囲まれたモンゴル。太古の昔に、そこで出会い夫婦となった男女が、他部族の襲撃により離れ離れとなってしまった。絶対にまた会うと信じて、男は彼女を追いかける。

きれいなお話でした。私はこういう話が大好きです。内容的にはいかにものファンタジーなのですが、文章が面白く楽しめました。ものすごく長い時代を経て、結局男は妻だった女性に会えるのでしょうか。おすすめです。

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黄泉津比良坂 血祭りの館

著者藤木稟
出版(判型)トクマ・ノベルス
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-19-850432-6(\1000)【amazon】【bk1
評価

この本、なんと上下巻なのだそうです。私は教えられるまで全然知りませんでした。というわけで評価は解決編が出てから。
都からも離れ、獣や魍魎が跋扈するような山間の村に、一軒の洋館風の屋敷があった。奇妙な意匠に飾られたその館はには、国でもかなり権力を持つ一家・天主家が住んでいた。その天主家の死体に彩られた歴史から、周りの村人はその館を「血祭りの館」と呼んでいる。

この人の話は、どことなく読んだ話と似ている所為で、いろいろな作家に比べられていますが、今回も懐かしい感じの小説です。怖い伝説、奇妙な館に住む一本ネジのずれた住人、そして殺人が起こり・・・というものすごくありがちなパターンなのですが、最近この手の本をあまり読まないので楽しめました。ここまで謎を出されると、自分の頭で考えない私としては、はやく解決編が読みたいぞというイライラ感に苛まれます。続編は99年3月刊行されました。
(→「
黄泉津比良坂 暗夜行路」に続く)

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二進法の犬

著者花村萬月
出版(判型)カッパ・ノベルス
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-334-07316-6(\1238)【amazon】【bk1
評価★★★★

鷲津は、パソコンや家庭教師をして糊口をしのいでいる。駅の張り紙を見て電話をしてきた女子高生、乾倫子の家庭教師を引きうけることになったが、彼女の家は武闘派として知られるヤクザだった。

なんか、萬月にしては珍しい主人公だった気がします。京大を出て、賭博を卒論に選びながら、博打をしたことがない主人公。どこにでもいる男です。その男が、白黒しかない世界で、組員を率いる博徒と出会い・・・という話。読んだ後かなり疲れるのですが、面白かったーと思える本でした。人間のずるい部分をひたすら炙り出したような暗い小説ですが、それでいて、全体のストーリーはとっても純粋なラブストーリーです。
最後のシーンは印象的。読み終わった後、扉の著者の言葉を読むと、涙がでます。
「あなたは、愛を全うできるか。そして、あなたは撃てるか」
この本を読んだ方、あなたは、撃つことができますか。

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エサウ

著者フィリップ・カー
出版(判型)徳間書店
出版年月1998.10
ISBN(価格)4-19-860928-4(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

世界的登山家ジャック・ファーニスは、登攀が禁止されているマチャプチャレに無許可で挑戦した。ところが岸壁を登っている最中に、雪崩に遭い、滑落。奇跡的に助かったジャックは、落ちた洞穴で頭骨を発見する。それは、人類の歴史を大きく変えるものだった。

なるほど、帯にある通りスピルバーグですね(^^)。次々に襲ってくる困難と、驚くべき発見。良く考えるとかなり御都合主義的ではあるのですが、読んでいるときは結構ハラハラドキドキのおもしろ本でした。がーっと読むのにおすすめの1冊。萬月で疲れた私にはなかなか楽しめました。

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光射す海

著者鈴木光司
出版(判型)新潮文庫
出版年月1996.6
ISBN(価格)4-10-143812-9(\476)【amazon】【bk1
評価★★★★

入水自殺を図った女性が、浜松の精神病院に送られてきた。自殺のショックからか、その女性は記憶を失い他人とコミュニケーションを取ることができない。彼女の担当医師であり、その病院の副院長でもある望月は、彼女の過去が全く分からないことに困惑し、過去を探ろうとする。

鈴木光司をホラー作家だと思っていた私は、「楽園」とこの本を読んで、それは早とちりだったと反省いたしました。きれいな話を書く作家さんですね。今回は、なぜその女性は自殺したのか、が焦点となる小説。後ろのあらすじにはミステリーと書いてありますが、あんまりミステリーっぽくはありません。さて彼女は記憶を取り戻すことができるのでしょうか。

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水の通う回路

著者松岡圭祐
出版(判型)幻冬社
出版年月1998.11
ISBN(価格)4-87728-265-3(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

子供が「黒いコートの男」の幻覚を見る事件が相次いだ。彼らの共通点は、前日発売になった超人気ゲームソフト「アクセラIV」で遊んだこと。何度もテストを繰り返して、そのようなことが無いようにしているはずなのに、何故。日本のディズニーと言われているその販売元フォレストは、必死に原因を追求する。

最初、「ディール・メイカー」のような企業と企業の熾烈な争いという感じなのかと思ったら、ちょっと違いました。あくまで自分のフィールドで小説を書く作家さんのようです。でもちょっと結末が安易な気がします。章の名前にも「偽善者」って出てきますけど、偽善的な感じがしました。それに、本当にこういうことって起こり得るのでしょうか。作家自身が専門家だそうなので、もちろん素人が口を挟む筋合いはないのでしょうが、ホントなの?って思わせてしまうところが残念でした。読みやすい文章でしたし、結構面白かったのでもう少しストーリーにひねりが欲しかったかもしれません。そのあたりは、単純に好みの問題もあると思いますけれども。

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