1997年01月

枯れ蔵(永井するみ) 行きずりの街(志水辰夫)
詩的私的ジャック(森博嗣) 死者は黄泉が得る(西澤保彦)
不夜城(馳星周) 深夜の弁明(清水義範)
コンピュータの熱い罠(岡嶋二人) すべてがFになる(森博嗣)
さまよえる脳髄(逢坂剛)
<<前の月へ次の月へ>>

枯れ蔵

著者永井するみ
出版(判型)新潮社
出版年月1997.1
ISBN(価格)4-10-602748-8(\1600)【amazon】【bk1
評価★★★★

第1回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作品。農業を主題とするミステリー。新潮ミステリー倶楽部は、かなりレベルの高いことでも定評がありますが、この作品も十分堪能できました。冷害で米の買い占めが行われたのは結構記憶に新しいですが、これも強い農薬耐性をもつウンカが大発生することから始まります。農業が全面的に内容に関連する話というのもとっても目新しく、登場人物も魅力的で、一気に読んでしまいました。最後に選評がついているのですが、本にした作品は受賞後手を加えたもののようです。次作を期待しています。

■入手情報:新潮文庫(2000.2)

先頭へ

行きずりの街

著者志水辰夫
出版(判型)新潮社
出版年月1990.12
ISBN(価格)4-10-602724-0(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

東京から追い出され田舎に帰った塾教師が、行方不明の教え子を探しに東京へ戻って来てかつての敵と再開するというハードボイルドとしては、いかにもという設定ながら最後までドキドキしてしまうストーリーで満足。特に「不夜城」を読んだあとだったので、すごく安心できるお話でした。

■入手情報:新潮文庫(1994.1)

先頭へ

詩的私的ジャック

著者森博嗣
出版(判型)講談社
出版年月1997.1
ISBN(価格)4-06-181941-0(\880)【amazon】【bk1
評価★★★

著者自身がホームページでイージーリーディングな作品とおっしゃっているように、今までになく読みやすい作品でした。私としては「すべてがFになる」の衝撃がやはり大きく、あの作品を最初に持っていったのは(本当は「F」が4作目だったようです)講談社の勝利だとおもうのですが、お話としてはこういう感じのが好きですね。森さんの作品は、登場人物の会話が好きなのですが、他の方はどうなのでしょうか。賛否両論でしょうが、萌絵さんという女の子はすごい素直な(ある意味で幼い)ひとですよね。犀川さんという人もかなりひねくれた(ある意味で純粋な)人なので、きっと彼女とぴったりじゃないですか。(と勝手な意見)本当はどう思っているのでしょうね、彼は。私は犀川助教授は慎重なんじゃなくて、ずるいだけだと思うのですが、みなさんどうでしょうか。

■入手情報:講談社文庫(1999.11)

先頭へ

死者は黄泉が得る

著者西澤保彦
出版(判型)講談社
出版年月1997.1
ISBN(価格)4-06-181949-6(\780)【amazon】【bk1
評価★★★

これは本当に死者を蘇生するお話。相変わらずおもしろい装置を考え出す天才、西澤さん。これもまたすごい。その装置を使ってしか考えられないおもしろい謎をよく考えられると思います。最後もまた、おーって感じなのですが、人格転移の殺人よりその装置の必然性がよく分からないのが、残念な気がしました。

■入手情報: 講談社文庫(2001.2)

先頭へ

不夜城

著者馳星周
出版(判型)角川書店
出版年月1996.8
ISBN(価格)4-04-872983-7(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★★

すごいですね、「不夜城」人気は。馳さんという方は小説では新人というのですから、この人気はすごいと思います。最後まで気の抜けない作品。このミスに、「最後の場面を変えて欲しいという要求があった」という談話が載っていましたが、この話はこの最後の場面がなくては、全体の緊迫感が出なかったような気がします。私も彼女の行動は理解できちゃうんですよね。自分以外は皆他人という、絶対人を信用しない人間てきっといると思うんですよ。そういう二人が偶然であってしまったら、緊張した関係をつづけるか、どちらかが騙されるかの二つしかないように思います。読み終わったあとの寂寥感がなんとも言えませんでした。

■入手情報:角川文庫(1998.4)

先頭へ

深夜の弁明

著者清水義範
出版(判型)講談社
出版年月1992.1
ISBN(価格)4-06-185073-3(\480)【amazon】【bk1
評価★★★★★

この本は電車で読んではいけません。笑いがこらえられないからです。めちゃめちゃ面白いです。特に「三流コピーライター養成講座」で、私は窒息しそうになりました。このごろあんまり笑ってないなと思う貴方、是非この本で試して見てください。抱腹絶倒間違いなし。

先頭へ

コンピュータの熱い罠

著者岡嶋二人
出版(判型)光文社
出版年月1990.2
ISBN(価格)4-334-71093-X(\480)【amazon】【bk1
評価★★★★

コンピュータ結婚相談所のコンピュータにある罠が仕掛けられます。結構町角でこういう相談所ってありますけど、こんなことがあったら怖いですねえ。どんな罠かここで書いてしまうとネタバレになってしまうので、書きませんが怖いです。それをオペレータが追うというお話です。最近コンピュータ関連のミステリなども増えてきましたが、この本が世に出たのはもう10年前の1986年。岡嶋さん(と言ってしまってよいのだろうか。二人なのに。)の先見の明がうかがえます。「007」や「ルパン」、果ては「あぶない刑事」までコンピュータが重要な役割を果たす世の中になっても、こうしたコンピュータ犯罪はぜんぜん減ってない、むしろ増えているように思うのは私だけ?

先頭へ

すべてがFになる

著者森博嗣
出版(判型)講談社
出版年月1996.4
ISBN(価格)4-06-181901-1(\880)【amazon】【bk1
評価★★★★★

工学部助教授が書かれた本だけあって、密室といっても単なる密室とはわけがちがいます。日本経済新聞に経済用語のルビや解説が無いように、注釈もルビもなくコンピュータ用語が飛び交います。舞台も古い洋館でもなく嵐の山荘でもなく、孤島の研究所というところが洒落ているではないですか。もちろん普通の研究所ではありません。ああいう研究所があったら、私も行ってみたいです。わたしとしては、密室のなぞ解きよりも、Fが何であったかに結構衝撃を覚えました。さてFとは何でしょう。

■入手情報:講談社文庫(1998.12)

先頭へ

さまよえる脳髄

著者逢坂剛
出版(判型)新潮文庫
出版年月1992.1
ISBN(価格)4-10-119512-9(\520)【amazon】【bk1
評価★★★★

脳や精神に少なから傷のある3人の男と彼らにかかわる精神科の女医さんのお話。ミステリとしてはかなり異色だとおもいます。どちらかというとサイコサスペンス的。心理学や脳関連に興味のある方などにおすすめです。私の高校で階段から落ちて記憶を無くしてしまった子がいるのですが、脳って本当に不思議ですね。もうひとりラグビーの試合中に怪我をして、その日1日の記憶を無くしてしまった男の子もいました。こう考えると、記憶喪失(もしくは記憶障害)というのはあんまり珍しいことではないのでしょうか。記憶って脳の中でどんな風にしまわれているのでしょう。階段から落ちた子も、ラグビーの男の子も結局戻らない記憶があったようです。特に階段から落ちた子は、部分的に欠落している事があったと聞きました。頭のなかにコンピュータのようにフォルダがあってそれぞれにファイルとして分類されているのでしょうか。話がそれてしまいました。ちなみにこの本は記憶喪失の話ではありません。しかし、脳の不思議さを考えさせられる作品でした。

先頭へ