1998年04月

塗仏の宴 宴の支度(京極夏彦) 監禁(ジェフリー・ディーヴァー)
今はもうない(森博嗣) 盲目の予言者(ローレンス・ブロック)
五輪の薔薇(チャールズ・パリサー) 密告(真保裕一)
イエスの遺伝子(マイクル・コーディ) 朝霧(北村薫)
グランド・ミステリー(奥泉光) 六の宮の姫君(北村薫)
ストレート・チェイサー(西澤保彦)
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塗仏の宴 宴の支度

著者京極夏彦
出版(判型)講談社ノベルズ
出版年月1998.3
ISBN(価格)4-06-182002-8(\1200)【amazon】【bk1
評価

やっと出ました、「塗仏の宴」。とうとう前編後編の2分冊になってしまいましたね。しかも同時発売じゃない(T_T)。後編の発売まで待てないです。途中までなので、を付けるのはやめました。解決編を読んでから、評価したいと思います。
今回のテーマは、「封印された記憶あるいは幻の山村」でしょうか。ちょっと「
眠り姫」を思い出したりしました。今回は、”謎”がかなりはっきりしていて、読みやすかったように思います。これにどういう解決が付くのか、ものすごく楽しみです。
京極堂も健在なら、榎さんも120%活躍しています。木場修も関口君ももちろん登場。私が密かに応援している益田君も、ちょっと出てきます(^_^)。6つのパートに分かれており、過去のキャラクター総出演といった感じです。後編は7月刊行という噂ですが、内容は覚えていられるのでしょうか。それまでに、もう一度読まねば。(→「塗仏の宴-宴の始末-」に続く)

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監禁

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)早川書房
出版年月1998.2
ISBN(価格)4-15-208139-2(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★

十字架に磔にするために、17歳の少女ミーガンを誘拐監禁するアーロン。一方、ミーガンの父で、弁護士のテイトは、別れた妻と共に娘を探し始める。テイトは、娘を助けることができるのか。
ものすごい生々しい描写で、かなり怖い部分もありましたが、全体的にはストーリーも、人物も○。お話としては、「
静寂の叫び」のほうが上のように思えますが、人物の面白さでは、こちらに軍配を上げたいです。
「静寂の叫び」もそうでしたが、ちょっと残酷というか、暴力シーンが多いというか。この本も、そういうのが嫌いな人はやめておいたほうが無難でしょう。そのためには3つかな。

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今はもうない

著者森博嗣
出版(判型)講談社ノベルズ
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-06-182016-8(\880)【amazon】【bk1
評価★★★★

犀川助教授と萌絵ちゃんのシリーズ第8作。もう8作目なんですね。早いなあ。この作品は、ちょっと番外編ぽい感じです。
今回は、嵐の山荘でおきた密室殺人。なんですが、私はこの話はミステリーというより、恋愛小説だと思いますね。読んだ方はどう思われましたか?私はある仕掛けに騙されたので、かなり面白かったです。この話はシリーズで読んでいないと、面白くないでしょう。前の7作を先に読むことをおすすめします。

■入手情報: 講談社文庫(2001.3)

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盲目の予言者

著者ローレンス・ブロック
出版(判型)二見書房
出版年月1998.2
ISBN(価格)4-576-98024-6(\2100)【amazon】【bk1
評価★★★

バーテンダーのガスリーは、「歩け」という不思議な天啓を受けて、ひとり東へと歩き出す。ただ歩くガスリーに、次々と仲間が。彼らは次第に大集団となっていくが・・・。一方女性を快楽的に殺すマーク。すでにここ8年で50人以上を殺害、さらに犠牲者を増やしている。集団と殺人鬼が交わったとき、一体どうなるのでしょうか。
かなり不思議な話です。ただ歩くだけの話を、ここまでのストーリーに仕立て上げた著者の力量はすごいと思いますが、結局何が言いたいのか、さっぱりわからないのです。文章は面白い部類に入るので、読んで損はないように思いますが、ちょっとハードカバーで買うほどのものかなあ、という気がしました。
私には、この大集団が、単なるカルト集団にしか思えないのですが、読んだ方、どうですか?

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五輪の薔薇

著者チャールズ・パリサー
出版(判型)早川書房
出版年月1998.3
ISBN(価格)(上)4-15-208146-5(\4000)【amazon】【bk1
(下)4-15-208147-3(\4000)【amazon】【bk1
評価★★★★★

この本、長いのです。約1200ページ。しかしこの長さを全然感じませんでした。もちろん寝ながら読むには重かったのですが(^_^)。
舞台は19世紀初頭のイギリス。イギリスの田舎で母親と平和に暮らしていたジョン。ところが、その平和な暮らしは、見せかけのものだった、というところから話は始まります。母が教えてくれないジョンの出生の秘密、彼らを狙う「敵」、そして消えた遺言書。そこに、原題にもなっている五点図形(Quincunx)をかたどった薔薇の意匠の謎がからんできます。あらゆる登場人物が、何らかの関わりをもつため、絶対気をぬけません。「敵」に殺されそうになったり、監禁されたりしながらも、脱走、逃亡を繰り返すジョンの冒険にもワクワクしました。
そうしたエンターテイメントの要素が楽しめるのはもちろんですが、「正義」とか「権利」とかに対する冷めた見方や、19世紀の下級階層の悲惨な暮らしの描写などは、単なるエンターテイメントとは言い切れない部分とも言えるのでしょうか。特に、ジョンが経験するどん底の暮らしは、本当にぞっとさせられるものがありました。
訳者のあとがきを読んで、そういう見方もあるのかーと思ってしまった私は、もう一度読めってことかな(^_^)。

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密告

著者真保裕一
出版(判型)講談社
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-06-209108-9(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

「小役人シリーズ」。今回は、警察官です。元射撃選手だった萱野は、オリンピック候補になりながらも、今は生活安全の総務で黙々と書類仕事をする毎日。そんなとき、同じく射撃選手だった先輩で上司の矢木沢が、賄賂を受け取っていると密告され、謹慎となる。過去のある事件から、密告者ではないかと疑われる萱野。その汚名(?)を晴らすべく、捜査にのりだす。
途中、かつての恋人のためにここまでやるか、と思ったりもしたのですが、最後のシーンでそうしたことが気にならなくなりました。うーん。恋愛小説ですね、これも。真保さん自身、「小役人シリーズ」は地味とおっしゃっていたように思うのですが、今回は案外派手なんではないでしょうか。
どうでもいいですけど、矢木沢が八木沢になってるところありましたよ>講談社さん(^_^)。私は、誤植に気づかない方なのですが、さすがに主要登場人物の名前が間違ってるとね。

■入手情報: 講談社文庫

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イエスの遺伝子

著者マイクル・コーディ
出版(判型)徳間書店
出版年月1998.3
ISBN(価格)4-19-860827-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

西暦2002年。遺伝子学者のカーターは、遺伝子をスキャンする装置「ジーン・スコープ」により、娘が決定的な遺伝的欠陥を持っていることを知る。娘の命はあと1年。しかし、彼女の病気の治療法は、いまだ発見されていない。カーターは、娘を救うために、新しい遺伝子治療法を模索するが。

バイオテクノロジーと宗教という一見相反したものを、見事に結び付けた力作です。様々な宗教上の奇跡を科学的に解明していくところなどは、京極堂(参照:京極夏彦)が、「この世に不思議なことなど何もないのだよ」と言っているのが聞こえてくるよう(笑)。もちろん、バイオテクノロジーの話ではあるのですが、単なる遺伝子治療の話にしなかったところが、この作者のすごいところだと思います。最後、この治療法をどうするか、というところがちょっと甘いように思えるのですが、それでも十分読み応えありのおすすめ作品です。

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朝霧

著者北村薫
出版(判型)創元社
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-488-01280-9(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★

今になって、「六の宮の姫君」の感想を書いていないことに気づきました。ごめんなさい。せっかくなので、もう一度読んで来週書きます(^_^)。
というわけで、この本は「円紫師匠と私シリーズ」の第5作目にあたります。前回で卒論を書き上げ、もう大学を卒業する「わたし」。「山眠る」では、卒論提出から3月までの中途半端な時期に知った、本屋でのある秘密の話。「走り来るもの」では、就職したみさき書房での仕事で出会った人が書いた終わりのない話の謎。そして「朝霧」は、祖父の日記にみつけた判じ物の謎。の3篇が入っています。
私は「走り来るもの」がよかったなあ。源氏物語の紫の上に対する考え方が面白かった。源氏物語が読みたくなりました。この人の本を読むと、文学作品が読みたくなりますね。
終わりのない話の結末は、さて、どうなるでしょう。私も考えてみたのですが、ものの見事はずれました。あともうひとつ、「女か虎か」、あなたならどっちを教えますか?

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グランド・ミステリー

著者奥泉光
出版(判型)角川書店
出版年月1998.3
ISBN(価格)4-04-873089-4(\2400)【amazon】【bk1
評価★★

この話は、あらすじが書けません。最初はこうかなと思っていた話が、どんどんずれていって、なんだか壊れた関口くん(注:京極夏彦参照)のようになっていくのです。舞台は、第二次世界大戦なのですが、そこで起きた大尉自殺事件と、最初にほのめかされる「夕霧」爆破事件との関わりが、物語の中心となっていくのかと思っていたのですね。ところがどうもそうではない。最後まで読むと、やっぱりそれが中心なのですが、どうも3章あたりから、途中何か抜けているのではないか、と思われる個所が何度も出てきて、何がなんだか分からなくなりました。「第1の書物」とか「第2の書物」とか、唐突に出てきて、結構中心に座ってしまうんです。
もしかすると、そこに深遠な意味が隠されているのかもしれないのですが、私にはどうもいただけなかったです。最初から国会答弁を聞いているような文章で、大変読みにくかったのですが、それに慣れたとたん、第3章ですからねー。最初は結構面白いと思ったのですが、どうも全体の流れがよくわからないのが難点。読んだ方、どう思われますか?

■入手情報: 角川文庫(2001.4)

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六の宮の姫君

著者北村薫
出版(判型)創元社
出版年月1992.4
ISBN(価格)4-488-01259-0(\1400)【amazon】【bk1
評価★★★★★

先週の予告どおり、もう一度読みました。もう一度読んでよかったー(^_^)。この本のよさが再確認された気がします。
「円紫師匠とわたしシリーズ」第4作目。「秋の花」に続く長篇2作目です。大学4年になったわたしは、卒論のテーマに「芥川」を選びます。またあの蘊蓄が出てくるわけですが、今回のは本当によい。この本は、「人間関係」がひとつのテーマでもあると思うのですが、中でも特に芥川と菊池の「人間関係」にはほろりとさせられました。
この本を読んで思い出したことがあるんです。大学3年のときに、わたしは今の職場でバイトをしていたのですが、その仕事が「個人文庫作成」だったのです。その旧蔵者自身文壇で有名な方で、堀辰雄の名刺やら、大江健三郎のサイン入り贈呈本やら、遠藤周作の暑中見舞いやらと掘り出し物(笑)がたくさんあったのですが、その中に菊池寛にあてた芥川のサイン本があったのでした。あのときは「なんでこんなものがここにあるんだろう」と思っただけだったのですが、この本を読んで、もう一度あの本が見たくなりました。探してみようかなあ。

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ストレート・チェイサー

著者西澤保彦
出版(判型)カッパ・ノベルズ
出版年月1998.4
ISBN(価格)4-334-07284-4(\800)【amazon】【bk1
評価★★★★

西澤さん、またやってくれました。後味のよさ、道具の怪しさ(^_^)、そしてミステリ度、どれをとっても水準以上の作品。ちゃんと扉にまで仕掛けがあるという念の入りようには、本当に感心してしまいました。
最後の真相の披露のとき、あちこちに複線が張られているのに驚きました。犯人はこの人かなあと思っていたのですが、そんなに単純じゃない。かなり満足しました。

■入手情報: 光文社文庫(2001.3)

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