1998年06月

真・天狼星5(栗本薫) 誰かが見ている(メアリ・H・クラーク)
覆面作家の愛の歌(北村薫) 感傷の終り(スティーヴン・グリーンリーフ)
囚われて(メアリー・モリス) 眠れぬイヴのために(ジェフリー・ディーヴァー)
覆面作家の夢の家(北村薫) ブラック・ダリア(ジェームズ・エルロイ)
共犯証言(スティーヴン・グリーンリーフ) 真・天狼星6(栗本薫)
ビッグ・ノーウェア(ジェームズ・エルロイ) 佐保神の別れ(井上明久)
旅の終わりの音楽(エリック・フォスネス・ハンセン)
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真・天狼星5

著者栗本薫
出版(判型)講談社
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-06-209143-7(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★

真・天狼星4」の続き。長い話も、もうあと一歩。来月の決着に向けて、最後の証拠固めというところでしょうか。伊集院大介は、すでに2人のエルミア王女殺しの犯人が分かっているらしいし、「トーキョー・ヴァンパイア事件」の犯人の姿もチラチラと見え始めてきています。うーん、この話にどういう決着を付けるのか、今月の刊行が楽しみです。(→「真・天狼星6」に続く)

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誰かが見ている

著者メアリ・H・クラーク
出版(判型)新潮文庫
出版年月1997.4
ISBN(価格)4-10-216601-7(\552)【amazon】【bk1
評価★★★★

2年半前に最愛の妻を亡くしたスティーヴ。犯人は捕まり、あと少しで死刑に処せられようとしている。ところが、今度は恋人と息子が誘拐された。犯人は何故彼らを狙ったのか。スティーヴは、恋人と息子を取り戻すことができるのか。
最初は、死刑問題を中心に置いた話なのかと思ったのですが、社会派的なところはあまり感じられず、テンポの良いサスペンス物でした。死刑問題というのは、結構いろいろな本で取り上げられていますが、この本ではそれを中心にせず、あくまでエンターティメントとしたところに好感が持てました。特に、爆発時間や処刑時間が迫ってからの後半は、ドキドキしながら読めて大満足です。そうそう、この本は、ホームページ読者の方からおすすめいただいた本でした。ありがとうございました(^_^)。

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覆面作家の愛の歌

著者北村薫
出版(判型)角川文庫
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-04-343202-X(\514)【amazon】【bk1
評価★★★★

覆面作家は二人いる」に続く、覆面作家の千秋さんと、担当編集者岡部良介の活躍するシリーズ第2弾。「覆面作家のお茶の会」「覆面作家と溶ける男」「覆面作家の愛の歌」の3編が収録されています。
このシリーズは、会話が面白いですね。岡部のすっとぼけぶりとか、人格が内と外とで入れ替わる千秋さんとか。すっかりお気に入りです。今までなんで読んでいなかったのだろうと後悔しました。「円紫師匠とわたし」のシリーズも好きですが、こちらのほうが、もう少し躍動感のあるシリーズだと思います。
良介の双子の兄で、お茶を焙じるのが趣味の刑事、優介のファンのわたしとしては、優介が活躍する「覆面作家と溶ける男」がお気に入り。「覆面作家の愛の歌」では、ちょっと先が気になる展開に(^_^)。続きも買ってこようと思っています。

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感傷の終り

著者スティーヴン・グリーンリーフ
出版(判型)ハヤカワ・ポケットミステリ
出版年月1983.8
ISBN(価格)4-15-001417-5(\1100)【amazon】【bk1
評価★★★

タナーシリーズ第2弾。今回の依頼人は、大富豪のマックス・コトル。死の床についているコトルは、10年以上も会っていない息子に会いたいと、タナーに捜索を依頼する。ところが、マックスが急死。依頼人を失ったタナーは、友人からの別の依頼で、行方不明の新聞記者を探しだすが、その途中で、コトルの息子の影が・・・。
1作目、「
致命傷」から読み始めたタナーシリーズですが、今回のはちょっと社会派的な作品のように思いました。ストーリーは面白かったのですが、ちょっと派手さに欠けるというか。もう少しすっきりした終わり方のほうが、私は好きですね。しかし、タナーの皮肉っぽいセリフは相変わらず好調で、楽しませてもらいました。まだまだ2作目。これから、どういう感じになるのか、楽しみです。

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囚われて

著者メアリー・モリス
出版(判型)文藝春秋
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-16-317710-8(\2286)【amazon】【bk1
評価★★★

旅行ガイドを書いている主人公は、ガイド改訂のために「島(ラ・イスラ)」を訪れる。ところが、税関で引き止められ、出航地へ送還準備が整うまで、ホテルに軟禁されるはめに。なぜ彼女は囚われたのか。また無事に彼女は本国へ帰ることができるのか。
この本は、本の装丁に惹かれて買ったのですが、なかなかよかったです。自省的な文章が、光あふれる外と、それゆえに影が色濃くなっている内を際立たせ、「家に帰りたい」と思う主人公の気持ちが良く現れていると思います。読み進めるうちに、彼女の回想からなぜ彼女は軟禁されるはめになったのかがだんだんと解ってきます。南の開放的な感じの島が、突如外に出ることのできない牢獄のように見えてきて、なんともいえない恐怖感を誘うところなんか、よかったですね。

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眠れぬイヴのために

著者ジェフリー・ディーヴァー
出版(判型)早川書房
出版年月1998.5
ISBN(価格)(上)4-15-079553-3(\680)【amazon】【bk1
(下)4-15-079554-1(\680)【amazon】【bk1
評価★★★★★

インディアン・リープ事件の犯人として、精神病院を転々としているマイケル・ルーベック。彼は、ある嵐の近付く晩に病院を脱走、自分が精神病院に拘束されることになった裁判で、証人となった教師リズのところへ向かうが・・・。
リズの夫、借金だらけの賞金稼ぎ、そしてマイケルを無事連れ戻したい主治医コーラー達に追いかけられながら、執拗にリズの元へ向かおうとするマイケルという図式の面白さもさることながら、単なる復讐劇に終わらせないところなどさすが、といった感があります。ハリソン・フォード主演の映画、「逃亡者」のようなスピード感も楽しめますし、一方でインディアン・リープ事件というものが、一体どういうものだったのかが次第に明かされていくところなど、ミステリーというかサスペンスというか、そうした楽しみ方もできる作品。最後がちょっと甘いかなとも思ったのですが、それでも面白かったです。

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覆面作家の夢の家

著者北村薫
出版(判型)角川書店
出版年月1997.1
ISBN(価格)4-04-873025-8(\1300)【amazon】【bk1
評価★★★★

覆面作家・新妻千秋と担当の岡部良介が活躍するこのシリーズも、この本で完結のようです。寂しいですね。
短編3編が収録されています。私はやっぱり最後の「覆面作家の夢の家」が良かったです。ここで終わりというのは、まあ肯けるというか。もう仕方がないですね。こういう終わり方しかなかったような気がします。
今回は、私が密かに(?)ファンだった岡部の双子の兄で、お茶を焙じるのが趣味の刑事・優介があまり出てこなかったのが、残念。このシリーズは、また忘れた頃に読み返すと面白いかなあ、と思えるシリーズでした。

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ブラック・ダリア

著者ジェームズ・エルロイ
出版(判型)文春文庫
出版年月1994.3
ISBN(価格)4-16-725404-2(\705)【amazon】【bk1
評価★★★★★

暗黒のLA4部作の第1作目。4部作は、ここから読み始めたほうがよいようです。
ロサンゼルスの町角で、女性の惨殺死体が発見された。<ブラック・ダリア>と命名された彼女は、女優を目指している娼婦だった。過去に傷をもつ元ボクサーの刑事、バッキー・ブライチャートと、そのパートナーで元ボクサーのリー・ブランチャートは、L.A.を震撼させたその事件へとのめりこんでゆくが。
<ブラック・ダリア>事件というのは、実在の事件だそうです。この話は、迷宮入りとなったその事件を忠実に再現して、ある解決をつけるというものなのですが、その話よりも、その事件を通じて見せる、周りの人間模様のほうが、本筋であるように思いました。不器用な愛しかたしかできないバッキーの波乱にとんだ数年。悪く言うと短気で単細胞、良く言うと正義感の強いバッキーに、私は強く惹かれました。最後も良い終わりかたです。主人公に入れ込んだ読者を失望させないラスト。超おすすめです。

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共犯証言

著者スティーヴン・グリーンリーフ
出版(判型)ハヤカワ・ポケットミステリ
出版年月1983.11
ISBN(価格)4-15-001423-X(\1200)【amazon】【bk1
評価★★★★

私立探偵タナーシリーズ第3作目。今回は、田舎町の検事が依頼人。ひき逃げの犯人として、地元の暗黒界のボス、トニー・フルートを起訴する予定だったのだが、決定的な目撃証言をするはずだった女性が失踪。タナーに探して欲しいというもの。ところが、このひき逃げ事件、ただのひき逃げではなかった。
女性を見つけるまでに、さまざまな邪魔を受けたりするタナー。単なる失踪人探しかと思ったのですが、その女性が見つかってからが、見所です。裁判の部分とか、面白かったですね。この人の本は、意外な犯人を狙っているように思うのですが、今回のは、結構意外な犯人に納得できました。ちょっと雰囲気が変わってきたように思うのですが、どうでしょう。4作目も楽しみです。

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真・天狼星6

著者栗本薫
出版(判型)講談社
出版年月1998.6
ISBN(価格)4-06-209204-2(\1500)【amazon】【bk1
評価★★★

真・天狼星5」の続き。本当に長かったこの話も、大団円へむけてまっしぐら。前作でとうとう姿を現した「ゾディアック」の主宰者、一気にスターになったアキラ、そして「天狼星」以来の伊集院大介の宿敵、シリウスとオールスター(?)総出演の6巻目は、まあありがちな結末とは言えるのですが、栗本さんの筆力のすごさに一気読みしてしまいました。この人の文章は本当に読みやすいですね。★★★ではありますが、天狼星ファンとしては、面白かったとおもいます。

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ビッグ・ノーウェア

著者ジェームズ・エルロイ
出版(判型)文藝春秋
出版年月1993.11
ISBN(価格)(上)4-16-314380-7(\2190)【amazon】【bk1
(下)4-16-314390-4(\2190)【amazon】【bk1
評価★★★★

暗黒のLA4部作の第2作目。
今回の中心人物は、過去に傷を持つ市警の警官と、保安官、そして元悪徳警官で、今はミッキー・コーエンと組む男。惨殺事件と、アカ狩りを話の軸にして、この3人が無茶をしてくれます。
エルロイの本は、なんといっても人物の魅力にあると思うのですが、今回もワルながら純粋な3人に魅せられました。「
ブラック・ダリア」と比べてしまうと、ちょっと物足りない気もするのですが、それでも後半部分のバズ・ミークスの無茶な行動とか、本当に格好良かったです。
最後まで読んで、「L.A.コンフィデンシャル」で、良く分からなかった部分が、ああ、そういうことだったのか、と判明。やっぱりこの4部作は最初から読むことをおすすめします。こうして読んできて、もう一度「L.A.」を読もうかなあという気分になりました。

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佐保神の別れ

著者井上明久
出版(判型)河出書房新社
出版年月1998.6
ISBN(価格)4-309-01223-X(\1800)【amazon】【bk1
評価★★★★

この本、あらすじを書くのが難しいですね。ミステリとして読むと、ちょっと拍子抜けかもしれません。確かに殺人事件があったりもするのですが、それよりも人間の運命とか、感情とかそういうものが中心となっている小説のような気がします。
会話とかが、ちょっとぎこちない感じもするのですが、それに慣れてしまえば、結構面白く読めました。「ニーチェを超えた」と公言する男、20年ぶりに会った友人、そしてその友人に紹介された美しい女性、という全然違った出会いの話が、一気に収束するところなんかはすごいですね。「運命的な出会い」がテーマなのでしょうか。最後がちょっと哀しいかなあ、と思いました。

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旅の終わりの音楽

著者エリック・フォスネス・ハンセン
出版(判型)新潮社
出版年月1998.5
ISBN(価格)4-10-590002-1(\2700)【amazon】【bk1
評価★★★★

タイタニック号に乗り合わせた7人の楽団員たち。沈没のときも演奏をしていたことで有名な彼らは、何を思って演奏していたのか。またタイタニックに乗るまでにどんな人生を歩んできたのか。
伝説の船タイタニック号の沈没までの史実をもとに、完全なフィクションの人物の生涯を描いた作品。どちらかというと、人物中心のお話で、楽しめました。全然違うところで、全然違う生き方をしてきた人達が、なんの運命かタイタニックで一緒に演奏することになり、タイタニックと運命を共にするという悲しい話でもあるのですが、よかったですね。タイタニックの進行の合間に、楽団員それぞれの過去が語られるという形式で、580ページという厚さながら、あっという間に読めてしまいました。

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