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【メニエール】

■治療-参考(内リンパ嚢開放術について)

ある時、Net上で内リンパ嚢開放術の話題でもりあがる傾向のあった時、管理人があるめまい専門医さんからいただいたメールを内リンパ嚢開放術の部分をまとめて再編集したものです。

内リンパ嚢開放術についてその1(経緯)
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内リンパ嚢手術自体は1927年にPortmanにより開発されたものでその歴史自体は古く、手術手技の基本的なものはほぼ確立されているといってよいと思います。現在の方法はその改良であり、手術方法にも色々な工夫が行なわれてきました。

たとえば、内リンパ嚢を髄液側に開放するか、乳突腔側に開放するか、開放したあとそれが閉じないようにするために何をいれるか(ゼルフィルム、テフロン、静脈、etc)そこに何を投与するか(マイトマイシン、高濃度ステロイド)といったことが術者により違うということです。実際、手術手技自体はそんなに難しくないために耳の手術を行なっている病院ならたいていのところで可能で決して特殊な方法ではありません。

内リンパ嚢手術は古くから行なわれており、その結果、内リンパ嚢手術はさかんに行なわれるようになっていました。しかし、1981年デンマークのトムセンらが内リンパ嚢手術の効果をプラセボである乳様突起削開術(耳の周りの骨だけを削り内リンパ嚢には手をつけない)と比べて効果に変わりがないという論文を発表してから内リンパ嚢手術に対する批判が高まり、これ以後内リンパ嚢手術は少なくなっていきました。この背景には、内リンパ嚢手術を行なってもめまいが治らない症例があること、聴力が悪化する例があること、手術に変わってゲンタマイシン鼓室内注入療法が出てきたことなどがあげられます。しかし、最近になって内リンパ嚢手術の再評価が行なわれ、少なくとも短期間(6年間くらい?)の成績では内リンパ嚢手術の効果があること、手術法の改良により聴力が保たれるようになってきたことなどから、ある一定の症例には手術の効果が認められるという風に変わってきています。
(たとえば、手術のときに高濃度ステロイドを内リンパ嚢の周りに投与するという方法は聴力も改善しようと手術に工夫を加えており、私自身は評価しています。その成績に関しては現在検証中であり今のところまあまあだがびっくりするようなものでもないというところが正直なところと思います。)

それゆえ、現在、内リンパ嚢手術を積極的に行なう先生が少ないのは内リンパ嚢手術ができないのではなく、内リンパ嚢手術の有効性に疑問があって、やっていないというのが現状です。

いずれにせよ、患者さんが希望されれば同じことは他の施設でもできますのであまり心配されることはないと思います。ゆんこさんもご存知のN先生も内リンパ嚢の手術はうまいですよ。同じことは問題なくできます。

いずれにしても、手術で100%直ることはないので自分にあった治療法を病気の段階に合わせて採用することが大事だと思います。比較的積極的に手術を行なっている病院でも手術を最初から行なうことは決してありません。

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内リンパ嚢開放術についてその2
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内リンパ嚢開放術は決して特殊な方法ではありません。メニエール病の治療における位置づけは薬物療法で無効なもの(治療を行なっているにも関わらずめまい発作がおさまらないで日常生活に支障をきたす)に対して行なうというものです。実際、内リンパ嚢手術による合併症は非常に少ないもので、比較的安全な手術です。脳に対する障害などは殆ど考えなくてよいと思います。

私が言いたかったことは内リンパ嚢手術が、特定の先生だけが行なえる特殊な手術ではないこと(ただし、すべての耳鼻科医ができる手術でもありませんが)、めまいの制御率がかなり高い(70〜90%、報告により差があり)ものの聴力に関してはめまいのようには良くならないこと(ただし、悪くなることは少ない)ことで、手術を決して否定するものではありません。メニエール病治療で手術が必要な人は必ずいます。手術無しですべてのメニエール病患者を治すことはできま
せん。

実際、私自身としても保存的療法(薬物療法、カウンセリング、メニエット)で制御できない場合には患者さんが手術をしてもかまわないといえば内リンパ嚢手術、手術を希望されない場合にはゲンタマイシン鼓室内注入を進めると思います。ただし、現在のところ前庭神経切断術は最終手段と思っています。

メニエール病の治療に関してはめまい発作を止めることが第一ですが聴力も大事です。難治性のメニエール病の患者さんの治療で手術なしで治療が可能ならそれが一番だと思いますが、手術のほうが患者さんにとって良いことがあることも事実で、これが一番という治療法は残念ながらありません。一番いけないことは手術をすればすべて良くなるという風な雰囲気が生まれることでそれだけは避けたいと思います。

手術に当たっては患者の年齢(年齢が高い人はフラフラが残りやすい)、糖尿病、心臓病など合併症の有無(手術自体というより、全身麻酔をかけれるか、術後の直りがどうかなどにかかわります)を参考にして決定しますが、一番大事なことは自分の現在の病態をメニエール病のことを十分に理解している医師と良く話し合うことです(ただし、その医師を見つけるのが難しいのですが)。