M63.都市の熱汚染を知っていますか?(概要)

著者:近藤純正
都市の熱汚染とは、都市化によって気温が上昇することをいう。二酸化炭素など温室効果気体の 増加による気温上昇「地球温暖化」と、それと異なる原因の都市化による気温上昇「熱汚染」が 重なり、夏の暑さで熱中症による死者が年間数百人にもなり、気候災害が起きはじめた。 「地球温暖化」も「熱汚染」も、人為的な原因による深刻な社会問題である。 (完成:2011年8月16日)

これは、気象サイエンスカフェ(主催:日本気象学会、日本気象予報士会)(日時:2011年8月30日 (火)19時~21時、会場:明治大学駿河台キャンパス「カフェパンセ」)における講演「都市の 熱汚染を知っていますか?-温暖化の観測と都市気候の変化を語るー」の概要である。
詳細は他の章に説明されており、リンクできる。

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。


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   目次
          はしがき
          63.1 地球温暖化の観測
          63.2 都市気候の変化
          63.3 都市昇温「熱汚染」の緩和策
          63.4 第2の地球温暖化問題
          64.5 気象観測はだれのものか?


はしがき

汚染とは、有毒物質・放射性物質などによって、汚されることである。公害による大気汚染は 人為的に排出された微粒子・ガス状物質が生物・人間に害を与えるようになった。都市では、 エネルギー消費が増え、土地の大規模な改変が行われた。その結果、気温が上昇している。 これを熱汚染と呼ぶ。

熱汚染は、地球温暖化と異なる原因による気温上昇である。都市では、冬季の最低気温が下がりに くくなり、昔は死滅していた病害虫が越冬するようになった。二酸化炭素の人為的な排出量の増加に よる気温上昇「地球温暖化」と、都市化による気温上昇「熱汚染」が重なり、最近で は夏の熱中症による死者は年間数百人、重症は数千人、軽傷は数万人となり、すでに気候災害が起き 始めた。

気候変動「地球温暖化」の実態を知りたいが、多くの観測所は周辺環境が悪化し、正しい観測が できず、将来予測も十分にできない。観測環境の維持・管理に限らず、何ごとも国に 任せるのでは なく、私たちに可能なことは行動する社会を目指したい。

63.1 地球温暖化の観測

熱汚染量を知るには、都市化の影響を受けていないバックグラウンド温暖化量を求めなければなら ない。

都市化の影響を受けていない田舎に設置されている観測所のデータからバックグラウンド 温暖化量が求められると思うかもしれないが、現実には、田舎の観測所といえども諸々の誤差を含んで いることが分かってきた。

気象観測は時代によって観測方法、統計方法や測器が変更され、さらに観測所の周辺環境も変化して きた。最近は観測所の無人化にともない観測環境が悪化している。これらを考慮・補正して、日本の 正しい地球温暖化量(バックグラウンド温暖化量)を求めると100年間当たり0.67℃で上昇している。

数十年ごとに気温ジャンプをともない、約10年周期の太陽黒点数と相関関係がある。これらジャンプの 幅と変動幅は高緯度ほど大きい。ジャンプは1887年、1913年、1946年、1988年に起きている。最後の 1988年の気温ジャンプは大きく、北海道~東北地方では0.8~1.2℃の上昇であり、このジャンプ 以降で気候が大きく変わったといえる。

100年間当たりの気温上昇量、0.67℃は気温の観測誤差に匹敵する大きさであり、データ解析は難しい ことがわかる。今回はじめて諸々の誤差を補正することによって、日本における正しい地球温暖化量 を知ることができた。

詳細:
「研究の指針」の「K45. 気温観測の補正と正しい地球温暖化 量」に説明されている。

63.2 都市気候の変化

都市の観測所で実際に観測される気温は、バックグラウンド温暖化量と熱汚染量が重なっているので、 これらを分離することで、全国91都市の熱汚染量を知ることができた。

都市の熱汚染量は地球温暖化量よりも大きく、特に夜の気温が下がりにくくなった。

気温の上昇にともない、相対湿度が低くなり、霧がほとんど見られなくなった。大気汚染は戦後の 経済高度成長とともに急激に悪化したが、公害防止策により減少する傾向だが、高止まりで推移 している。

詳細:
(1)91都市の熱汚染量は「研究の指針」の 「K41. 都市の温暖化量、全国91都市」に掲載。
(2)詳しい解析と、相対湿度は「研究の指針」の 「K48. 日本の都市における熱汚染量の経年変化」に掲載。
(3)霧日数、大気汚染、風速、および気温の諸要素への感度については「身近な気象」の 「M59. 都市気候」に掲載。

63.3 都市昇温「熱汚染」の緩和策

熱汚染の緩和策として、(1)河川の効果、(2)緑化の効果、(3)太陽光を反射させる効果、 (4)散水の効果、(5)緑のカーテンの効果などについて議論する。

講演会では参加者に、緑地、舗装、人工熱、ビルの高層化、都市反射率、大気汚染、コンクリートが 増えたこと、下水道の整備による効果が気温の上昇・下降にどのように影響するかを考えていただき、 議論する。

詳細:
「身近な気象」の「M61. 都市昇温の緩和策」に掲載されている。

63.4 第2の地球温暖化問題

ここでは大陸移動や氷河期など長期間ではなく、100~200年間ほどの短い期間の気候変化を考えて いる。この短い期間に人類はこれまでにない急激な早さで多量のエネルギーを消費するようになり、 さらに地球の表面を砂漠化、森林破壊、海洋汚染している。その結果、人為的な原因によって気候が 大きく変わり始めた。

気候変化の原因として3つがある。
①地球の平均温度は、地球が取り込む太陽放射量と地球が放つ 長波放射のバランスで決まり、反射率1%の増加で平均温度が0.9℃下降する。砂漠化、森林破壊、 海洋汚染など大規模な地表面の改変が、気候変化をもたらす。

②温室効果気体により下層大気は高温になり、現在の気候が成り立っている。温室効果気体の急激な 増加による温度上昇が「地球温暖化問題」である。

③消費するエネルギーが増加すると、最終的に長波放射のエネルギー(目に見えない)となって 宇宙に放出されなければならない。そのために地球の温度が上昇する。これを「第2の温暖化問題」 と名付けた。エネルギー消費の少ない社会を目指したい。

詳細:
(1)第2の温暖化問題の命名は、「身近な気象」の 「M43. 原子力エネルギーと熱汚染(対談)」に掲載。
(2)地球の温度の決まり方は、「身近な気象」の 「7. 地球温暖化の話(講演)」に掲載。

63.5 気象観測は誰のものか?

気象観測には2つの目的がある。(1)集中豪雨豪雪・洪水・強風・異常高温低温など短期的な防災 目的と、(2)温暖化など長期的な気候監視の目的のために観測が行われている。

後者では、精度の高い観測が要求される。そのためには、観測所敷地内のみならず、ごく近傍の周辺 環境が維持管理されなければならない。しかし、気象庁では予算・人員の削減もあり、気象観測所の 環境の維持管理が不十分になってきている。観測が不正確となれば、私たち国民にとって不幸である。

観測環境の維持管理には、国民の協力が必要となってきた。私たちに可能なことは行動する社会を目指 したい。最近では、道ばたに人が倒れていても無視して通りすぎる無関心な者がいるようになった。 こうした社会でよいのだろうか。観測所が草で覆われていれば、気象庁・気象台に電話の一本でよい ので知らせるようにしよう。

一部気象台職員のこれまでの態度は改めて欲しい。観測機器の近くに樹木が成長して観測の邪魔に なり、データに異常が現れていることを何度教えても、「影響していない」と無視する職員もいた。 基礎知識の不足は補い、国民のための気象観測を行っているという使命感をもって働いて欲しい。

2010年秋に「気候観測を応援する会」が発足し、気象庁の観測体制を積極的に応援している。 ボランティアの活動は、具体的には、観測所に関心を持つことである。そして、旅行のついでに 気候観測所(全国に約20ヶ所)を見学してくることである。

詳細:
「気候観測を応援する会」:
(1)契機については「所感」の「17.”観測精神”生かす工夫を」 を参照。
(2)発足については「身近な気象」の「M53. 気候観測を応援する会ー 発足」に掲載。
(3)現状については「気候観測応援会」の 「A08. 気象庁長官と面談、2011年7月22日」に掲載。

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