17.”観測精神”生かす工夫を
―アメダスの管理―


これは、朝日新聞2010年11月11日付朝刊の「私の視点」に掲載された
「”観測精神”生かす工夫を」の内容と同じです。

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著者:東北大学名誉教授 近藤 純正(こんどう じゅんせい)

記録的な猛暑だったこの夏、気象観測で残念なことがあった。京都府京田辺市のアメダス観測所が 計測した気温39.9度という9月の国内観測史上最高記録が取り消された。つる性の草が通風筒に 絡んでいたのだ。

気象庁が全国の観測所を点検した結果、気温については京田辺の1カ所で、雨量は京田辺を含む 6カ所で、不適切な環境が観測データに影響したと判断された。

私はこの7年間、全国の観測所を調べ、観測環境の悪化を見てきた。気象観測は二つの目的があり、 それぞれについて、正しい観測をするための提案をしたい。

まず、気象観測は短期的な防災を目的とし、現在は約1300カ所のアメダス観測所で実施されて いる。アメダスの前身の観測所の管理は古いものでは明治時代から1970年代まで、主に地域住民 のボランティアによって続けられてきた。

観測データは観測所の敷地内だけでなく敷地外の環境変化にも影響される。そこで敷地外も含む 環境管理について地域住民の協力を得てはどうか。ただし、観測環境の確認や草刈りなどは ボランティアにお願いするにしても、観測所の機器管理は地元気象台が責任を持たなければいけない。

そして、気象観測のさらなる目的は地球温暖化などの気候監視である。温暖化は100年間で 0.7度ほどの気温上昇に過ぎず、高精度の観測が必要だ。かつて人による観測を基礎とした旧測候所は、 現在は自動観測機器を設置してほぼ無人化され、特別地域気象観測所となっている。約100カ所の この観測所のうち、環境が比較的良好なものが約20カ所ある。それらに「気候観測所」の役割を 担わせてはどうか。

観測所の環境維持は気象台の職員だけでは無理だ。機器を置けば観測できるという過信がなかったか。 かつて中央気象台(現気象庁)を長年率いた岡田武松(1874~1956年)は「観測精神 (測候精神)」を唱えた。正しい観測を基本とし、計器に表れない気象・環境要素もメモし、 観測値は何を表しているかに注意する。一人ひとりが研究心を持つ。無人の遠隔観測の現代でも、 この精神は生かされるべきだ。

私は、観測の知識を持つ専門家や住民の協力によって、無人化された観測所の環境に注意し、 気象台を支援するボランティア組織「気候観測を応援する会」づくりを始めている。大学教授や 研究所の研究者、気象庁OB、気象予報士ら30人ほどの賛同を得て気象庁も注目しているようだ。

今後は観測所の地元にも呼びかけてメンバーを増やし、情報交換するなどして観測環境の維持に 努めたい。岡山県の津山観測所や青森県の深浦観測所でこうした活動が進んでおり、高知県の 室戸岬観測所でも計画が立ち上がっている。この取り組みを広げ、長く続けていくことが重要だろう。  

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