K174. 都市化による都市の昇温量、再評価2018


著者:近藤純正
日本の代表的な43都市について都市化による昇温量(都市化昇温量)を評価した。 評価の方法は、観測・統計方法の時代による変更で生じたデータを補正し、 日本各地域の地球温暖化量からのずれを都市化昇温量とした。

本論では10大都市のほか、移転によって大きな不連続が生じた岡山、都市再開発 が行われた高知、都市として近年発展中のつくば、夏の最高気温が異常高温を 示す熊谷、その他の中・小都市について評価した。戦前を基準のゼロとしたとき、 2017年時点における都市化昇温量は大都市で1.5℃前後、中都市で1.0℃前後、 小都市で0.5℃前後である。

東京は関東大震災(1923年)以後の100年間の気温上昇量は2.8℃であり、 そのうちの都市化昇温量2.0℃は地球温暖化量0.8℃の2.5倍である。

大阪の年平均気温が2005年ころから0.1~0.2℃低下している。露場周辺の樹木 が成長し日陰効果の現れと考えられる。これは、東京の露場がビル街の大手町 から森林内の北の丸露場に移転し年平均気温が0.62℃低下したことと共通する 現象である。
(完成:2018年9月28日予定)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2018年9月17日:素案の作成
2018年9月20日:「都市化昇温量」の定義と「気温較差」の定義を明確にする


    目次
        174.1 はじめに
        174.2 都市化昇温量の評価方法      
        174.3 10大都市の都市化昇温量
           札幌、仙台、東京大手町、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡
        174.4 移転や再開発都市の都市化昇温量(高知、岡山、つくば)
        174.5 その他の中・小都市の都市化昇温量
        174.6 43都市の都市化昇温量一覧表(2017年時点と東京大手町の気温)
        まとめ
        参考文献
        付録
           (1)大阪の年平気温の低下と気温較差の増加
           (2)低木・高木の異なる影響                  


174.1 はじめに

最近は地球温暖化のほか、都市化による昇温(都市化昇温量)が問題になってきた。 これら昇温量を系統的に明らかにした研究は見当たらない。

筆者は以前に観測・統計方法の時代による変更を補正して、2007年までの気温 データを解析し、日本の地球温暖化量と都市化昇温量(都市の熱汚染量)を評価 した(近藤、2012)。

前報では、その後の2017年までの10年間データを追加し、日本平均と各地域平均の 地球温暖化量を再評価した(「K173.日本の地球温 暖化量、再評価2018」)。

本論では、それをもとに代表的な43都市について都市化昇温量(日だまり効果 昇温量含む)の再評価を行う。


174.2 温暖化量の評価方法

都市化による昇温量(都市化昇温量)は、気温上昇量のうち、地球温暖化量を 差し引いた昇温量である。

気温の観測方法と統計方法は時代によって変更されてきた。そのため、補正が 必要である。補正方法の詳細は近藤(2012)、または 「K48. 日本の年における熱汚染量の経年変化」「K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量」 に説明されている。また、前報でも要点を述べた (「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」)。

要点は次のとおりである。

(a)測器の変更
1970年代半ば以前の気温観測は百葉箱内の水銀温度計で行われたが、以後は ファンモータを備えた通風筒内の白金抵抗線気温計に変更された。その結果、

年平均気温の差(=百葉箱内気温-通風筒内気温)=0.10±0.06℃

を得た。したがって、百葉箱内の観測時代の年平均気温観測値は0.1℃低く補正する。

(b)統計方法の変更
現在の観測時刻は毎正時24回観測の平均値を日平均気温としている。時代と観測所 によって観測時刻と観測回数が変更されている。24回観測に比べて3回観測 (6時、14時、22時)では0.1~0.3℃低めに、4回観測(3時、9時、15時、21時) では逆に0.1~0.2℃高めに観測される。補正量は太陽南中時刻(観測所の経度) と気温日較差の関数となる。昔の3回時代・観測所と4回時代・観測所は補正した。

(c)日だまり効果昇温量
観測露場の周辺に建物が建てられる、あるいは周辺に樹木が成長すると露場の 風速が弱まり、空気の鉛直混合が弱くなって熱の拡散が少なくなる。その結果、 日中の気温は高め、夜間は低めに観測されるようになる。日中の気温上昇量が 夜間の下降量よりも大きく、年平均気温が高くなる。これを筆者は「日だまり効果」 と呼ぶことにした。

定義
気温観測値に上述の補正を行った「気温」を解析する。
これまでの報告では、定義に曖昧な部分があり混乱するので、以下のとおり整理して おく。

「K41.都市の温暖化量、全国91都市」「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」の定義式から 次式が成り立つ。

都市化昇温量(都市温暖化量)
=気温上昇量(温暖化量)-地球温暖化量(バックグラウンド温暖化量)・・・(A1)

ここで、
都市化昇温量=都市昇温量+日だまり効果昇温量・・・・・(A2)

(「日だまり効果昇温量」は「都市化昇温量」に含める。)

さらに、以下の2つの式が成り立つため、 「気温」=基準年の気温+気温上昇量・・・・・・・・・(A3)
バックグラウンド気温=基準年の気温+地球温暖化量・・・・(A4)

都市化昇温量=「気温」ーバックグラウンド気温・・・・・(A5)

となる。


参考:「K41.都市の温暖化量、全国91都市」 では、次式が定義されている。

温暖化量=(バックグラウンド温暖化量)+(都市温暖化量)

ところが、「日本の地球温暖化量、再評価2018」 では、次式が定義されている。

気温上昇量=地球温暖化量+都市昇温量+日だまり効果昇温量・・・・(1)
地球温暖化量(バックグラウンド温暖化量)

(定義をそのつど変えて、混乱させたことをお詫びしたい)



都市化昇温量は人工的熱消費量の増加や、地表面が舗装され蒸発散量が減少する ことで生じる地温・気温の上昇のほか、建築物などによって観測露場の風速が 減少して生じる「日だまり効果昇温量」を含む。

仮に、都市観測所が風通しのよい広い芝地に設置されていれば、「日だまり効果 昇温量」はゼロとなる。たとえば、東京都心の観測所が新宿御苑のイギリス風景 庭園の広芝地か、明治神宮境内北部の宝物殿前の広芝地、あるいは少し狭いが 北の丸公園の池端の広芝地に設置されていれば「日だまり効果昇温」は無視 できる(「K165.都心部を代表する気温」)。

式(1)の右辺第2項は対象とする都市が含まれる地域平均の地球温暖化量を用いる。 ただし、31地点の各観測所群を北から順番に次のように並べたとき、
(1)寿都、根室、網走、稚内、浦河、室蘭
(2)宮古、深浦、石巻、大船渡(金華山)、 山形、日光、相川、伏木、高田(長野)
(3)飯田、石廊崎、御前崎、敦賀(彦根)、潮岬
(4)室戸岬、津山、多度津
(5)境、屋久島、清水、平戸、浜田、宇和島、枕崎
(6)南大東島(石垣島)
(赤文字は新しい代替観測所、カッコ内は旧観測所:前報を参照 「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」)、

地域ごとの6グループは、次のとおりである。
北海道( 6地点):(1)の全6地点
東北 (11地点):(1)の浦河、室蘭の2地点と(2)の全9地点
東日本( 9地点):(2)の日光、相川、伏木、高田の4地点と(3)の全5地点
中部 (10地点):(2)の伏木、高田の2地点と(3)の全5地点と(4)の全3地点
西日本(15地点):(3)の全5地点と(4)の全3地点と(5)の全7地点
沖縄(1地点):(6)の全1地点

(d)気温の接続と不連続
観測所が移転したときや概略100m以内の環境が大きく変化したとき、気温は 不連続になる。

移転の距離が短く周辺環境が似た場合は、複数の周辺観測所の数年間の気温と 比較してデータを接続させる。しかし、移転距離が大きく周辺環境が大きく 変わった場合や、都市再開発が行われたような場合は、気温データは「不連続」 として用いる。


174.3 10大都市の都市化昇温量

札幌から福岡までの10大都市の都市化昇温量の経年変化を図示する。都市化 昇温量がゼロであったとする基準年は戦前とする。東京と横浜は関東大震災 (1923年)で広範囲が焼失し、その後復興が始まったので基準年は大震災前 とする。

図174.1は札幌の都市化昇温量の経年変化である。小さい丸印は式(1)で求めた 年々値である。年々値の変動が大きい理由は、右辺第1項、第2項の年々変動が 大きいことによる。それゆえ、それらを滑らかに描いた赤線が実質的な都市化 昇温量とみなす。

第二次世界大戦で広範囲が焼失し、1945年の終戦から復興が始まり、それまでの 街の造りが新しくなるにつれて都市化昇温量が大きくなった。とくに1980年代に 大きく変わったことが図に現れている。

札幌
図174.1 都市化昇温量の経年変化(札幌、基準年=1915~1940年)


図174.2は仙台の都市化昇温量の経年変化である。戦後の1950~1960年代に急上昇して いる。 ほかに注目すべきは、ごく最近の2005年頃から再び急上昇が始まったことである。 仙台では、JR仙台駅の東側が都市再開発され、ごく最近、気象台の西側から仙台駅 にかけて古い町並みの再開発にともなって、道路の幅員が拡大され、その周辺に マンションなど高層ビルが多数建設されている。駅の東側は見違えるようになった。 その影響が都市化昇温量の増加として現れている。

仙台
図174.2 都市化昇温量の経年変化(仙台、基準年=1915~1940年)


図174.3は東京大手町の都市化昇温量の経年変化である。東京都心部の観測露場 は2014年12月2日に大手町から北の丸公園の森林内の風通しがやや不良な現在地 に移転になり、年平均気温は0.62℃下降した。その主な理由として、風通しが 悪くなり晴天日中の最高気温は高くなったが、最低気温がより低くなったこと による。

旧大手町露場における気温観測は正式移転後も続けられた。その比較から0.62℃ が求められた(「K165.東京都心部を代表する気温」)。 2015年以後のプロットは北の丸露場における気温観測値に+0.62℃を加えた値を 大手町の気温としてある。

図によれば、関東大震災(1923年)の後、焼失した東京都心部は急速に近代化 された。その結果、約0.5℃の昇温があったが、第二次世界大戦で再び焼け野原 となったが再復興が進む。1964年の東京オリンピックと東海道新幹線の開業開始 の前後、1955~1973年の高度経済成長時代に都市化がいっそう進んだ。

急激な都市化昇温時代は1980年の頃で終わった。2000年ころから現在までは都市 化昇温量=2.0℃、ほぼ一定で続いている。

東京大手町
図174.3 都市化昇温量の経年変化(東京大手町、基準年=1910~1925年)


次の図174.4は横浜の都市化昇温量の経年変化である。横浜も東京と同様に関東 大震災で広範囲が焼失した(「写真の記録」の 「39.関東大震災と横浜の気温」)。

横浜の特徴は、1960年代に都市化昇温が急激に大きくなった後も、上昇傾向が 続き、2017年時点の都市化昇温量は1.5℃を超えた状態にある。

横浜地方気象台は「港の見える丘公園」にあり、風向が東北東~南のとき海からの 風となる。東京湾の海水温度も人工排熱の影響を受けた都市排水(浄化水含む) と河川水によって昇温しており、海からの風も都市化の影響を受けた高温風と なっているはずである。

横浜
図174.4 都市化昇温量の経年変化(横浜、基準年=1910~1925年)


図174.5は名古屋の都市化昇温量の経年変化である。他の都市と異なる点は、 1980年前後と2008年前後に急上昇が現れていることである。

名古屋
図174.5 都市化昇温量の経年変化(名古屋、基準年=1915~1940年)


続く図174.6は京都の都市化昇温量の経年変化である。京都は第二次世界大戦の 戦災を受けなかった都市として知られている。戦前の1930年ころから都市化 昇温量は増加しており、1950~1960年は増加せずにほぼ一定が続いたが、 高度経済成長時代の初期1960年代に急上昇し、それ以後の50年間はほぼ一定の 小さい上昇率で上昇している。

京都
図174.6 都市化昇温量の経年変化(京都、基準年=1915~1940年)


図174.7は大阪について示している。特徴は1950年ころから1980年までほぼ一定 の上昇率で増加したのち、ごく最近では他都市と異なり下降傾向が表れている。 その原因として推定されることは、観測露場周辺の樹木が成長し木陰が増えて 森林内の特徴が現れ始めたのかもしれない。以前に筆者は大阪の露場を見学した とき気になったことが出てきたようだ。

すなわち、東京の北の丸露場で見られる特徴の一部に相当する。ビル街に比べて 東京の北の丸露場の年平均気温の低下量=0.62℃に対し、大阪の露場では0.1~0.2℃ 程度である。現在の大阪の露場では、20m×20m範囲内には樹木群はない。 都市内の気象観測露場の50m×50m以内には樹高5m以上の樹木群は 無いことが望ましい(空間広さは5以上に相当する。10以上ならほぼ理想的)。

この樹木が気温観測に及ぼす影響について、詳細は付録に示した。

大阪
図174.7 都市化昇温量の経年変化(大阪、基準年=1915~1940年)


図174.8は神戸の都市化昇温量の経年変化である。山の手に設置されていた神戸 地方気象台(旧神戸海洋気象台)は1995年の阪神・淡路大震災後、1999年9月に 現在の海岸近くへ移転した。

都市化昇温量は1960年ころから1999年まで上昇し0.6℃ほどになっており、 山の手にあったため小さい上昇量であった。しかし、移転に ともない不連続的に1.2℃まで上昇し、現在までほぼ一定の状態が続いている。

神戸
図174.8 都市化昇温量の経年変化(神戸、基準年=1915~1940年)


図174.9は広島について示した。広島地方気象台は海岸近く、2つの川に挟まれた 江波山公園脇(現中区江波南)にあったが1988年に都市部に移転し、都市化 昇温量は不連続的に1.5℃に上昇した。その後現在までほぼ一定の状態が続いて いる。

広島
図174.9 都市化昇温量の経年変化(広島、基準年=1915~1940年)


図174.10は福岡について示している。都市化昇温量は1950年ころから上昇を 続けており、現在は1.5℃になっている。

福岡
図174.10 都市化昇温量の経年変化(福岡、基準年=1915~1940年)


現時点2017年について10大都市をまとめると、札幌は1.0℃で小さく、東京大手町 は2.0で大きく、その他は1.5℃前後である。これら昇温量の大きさは気象台の 設置されている周辺5~10km範囲の昇温量であり、混みあった市街地ではこれ 以上の大きさであると考えられる。

「K157.日だまり効果、アーケード街と並木道の気温(まとめ)」 によれば、晴天日中の観測であるが、道幅50m以上の道路上に比べて 道幅4mでは道路上の気温は1.0~1.5℃高温である。夜間は逆に狭い道路上では 低温になり、差し引き日平均気温は高温となる。

ただし、ビルなどで日陰が多い道路・地区では林内気温の特徴が現れる (「K157.日だまり効果、アーケード街と並木道の気温 (まとめ)」の図157.3を参照)。

曇天・雨天を含めた年平均気温は、日当たりのよい道幅4mの道路上で0.2℃程度の 高温になると推定される。


174.4 移転や再開発都市の都市化昇温量(高知、岡山、つくば)

この節では、観測所周辺が再開発された都市(高知)、あるいはごく最近の移転によって 観測環境が大きく変化した都市(岡山)、近年の都市化が進んだ都市(つくば)に ついて調べた。

図174.11は高知の都市化昇温量の経年変化である。以前の高知地方気象台の 周辺には田畑が広がっていたが、しだいに2階建住宅が密集するようになり 露場の風通しが悪化し、都市化昇温量は増加した。2001~2004年に周辺の都市 再開発が大規模に行われ、JR高知駅北側一帯は見違えるように変化した。 詳細は「写真の記録」の 「53.高知と室戸岬の観測所」に示されて いる。

図174.11に示されるように、都市化昇温量は不連続的に0.8℃から1.2℃に大きく なったが、現在は1.0~1.1℃に落ち着きつつある。

高知
図174.11 都市化昇温量の経年変化(高知、基準年=1915~1940年)


参考:都市再開発直後の気温上昇と公園のフェンス
図174.11において、都市再開発が行われた直後、縦軸(都市化昇温量)が現在の 1.0℃ ~1.1℃より大きめの1.2~1.3℃である。再開発によって高知地方気象台の敷地の 西部分が高知市の江ノ口西公園として整備された。その公園の子供用サッカー練習場 と観測露場の間に背の高いフェンスが張られ、蔓が植栽された。蔓が繁茂し、 高知で卓越する西風が遮られ露場の平均気温の上昇が予測された(日だまり効果に よる昇温)。

この件に関し、筆者は地域の町内会長とも相談した。さらに気象庁で話し、高知地方 気象台を経て高知市役所へと伝えられ、蔓は移植された。そうして高知新聞にも掲載 してもらった。その結果として、その後の縦軸が小さくなったと思われる。 これは「所感」の「11.気象観測と住民の協力」 に掲載してある。

同様に、岡山県の津山市や青森県深浦町では、市長・町長・教育長、町内会長や住民 の理解・協力により、観測所周辺の桜の木20本の伐採、多数の松の枝落しなど観測 環境の改善が行われた。



続く図174.12は岡山についての図である。1982年の移転にともない、気温は 合同庁舎ビルに接した狭いビル脇で観測されるようになり、都市化昇温量は 0.5℃から1.5℃以上に不連続的に大きくなった。この時代の1.5℃以上の数値は 不適切観測とみなしてよく、都市を代表していない。

2015年の観測露場の移転によって岡山の都市化昇温量は1.1~1.2℃ほどに下がった。 下がった値は岡山を代表する都市化昇温量とみなしてよいだろう。

岡山
図174.12 都市化昇温量の経年変化(岡山、基準年=1915~1940年)


次の図174.13はつくば(館野高層気象台)の都市化昇温量の経年変化である。 館野高層気象台は平坦地で多くの森林が散在する谷田部町にあった。現在は 市町村合併でつくば市になった。東京都内の研究所の多くが「つくば学園都市」 に移転(気象研究所は1980年に杉並区高円寺から移転)、1985年の万博開催など があり、都市化が急速に進む、現在も都市化進行中である。 それが都市化昇温量の増加として現れている。

つくばの経年変化には、1945年~1965年に縦軸(都市化昇温量)が大きくなっている。 これは、観測露場周辺の100m以内の環境変化によるものと考えられる。 露場の移転に関する文書・図面・写真など調べれば、わかることだが、筆者は 現時点では調べていない。 筆者は1950年代後半の館野高層気象台と周辺のことは記憶にあるが、その後に見学した とき当時の面影はなかった。

つくば
図174.13 都市化昇温量の経年変化(つくば、基準年=1915~1940年)


都市化昇温量は気象学・気候学のみならず、社会科学の観点からも利用すること ができよう。


174.5 その他の中・小都市の都市化昇温量

最高気温の最近の記録を振り返ってみると、熊谷では、2007年8月16日に、 40.9℃の最高気温が岐阜県多治見アメダスと同時に観測された。その後、2013年 8月12日に高知県四万十市江川崎で41.0℃、2018年7月23日に熊谷で41.1℃が観測 された。こうしたことから、熊谷の夏は暑い都市として有名になった。

2007年の40.9℃の多治見の記録は、観測露場が狭いことによって約1℃も高く 観測されたものである(「身近な気象」の 「M65.多治見のヒートアイランド観測」)。

熊谷の40.9℃について 「K82.熊谷の2007年夏の最高気温40.9℃」「K84.観測露場内の気温分布-熊谷」に示すように、 晴天日中の通常の風向・南東寄りの風の場合に比べて北寄りの場合は庁舎によって 風が遮られて「日だまり効果」によって0.4℃ほど高めに観測される。40.9℃記録 の当日の時間帯は、稀にしか吹かない北風が吹いたことによる異常高温と推定 される。2018年7月23日の新記録41.1℃も北寄りの風のときに起きた。

この節に示す図から、熊谷は都市化が進んでおり、それによって最高気温が観測 されやすくなっていることを理解しよう。

図174.14は熊谷の都市化昇温量の経年変化である。1950年ころからほぼ一定の 上昇率で都市化昇温量が大きくなっている。それゆえ、今後も最高気温が更新 されていく可能性がある。

年平均の都市化昇温量は2017年の時点で1.2℃である。すなわち、周辺の田舎 に比べて曇天・雨天を含む年平均気温が1.2℃高温である。したがって、 熊谷の標高(30m)よりも100m高い広い平坦地で風通しがよく地被状態が特殊 でない田舎であれば、年平均気温は約2℃低いことになる。

熊谷
図174.14 都市化昇温量の経年変化(熊谷、基準年=1915~1940年)


参考:熊谷の郊外で観測した気温
熊谷地方気象台(標高=30m)の北東14kmの上中条にある沼地(40m×40m、 標高=25m)において高精度気温計を用いて2016年7月から10月まで10分毎に 気温を観測した(7月は24.55℃、8月は25.89℃、9月は23.30℃、10月は17.01℃)。 気象台の10分毎気温と比較した結果、平均気温の差(=気象台気温-沼地の気温) は7月に0.99℃、8月に1.27℃、9月に1.03℃、10月に1.09℃、この4カ月間の差の 平均値=1.09℃であった。沼地の周辺は樹林・竹林、田畑、住宅、食堂などの ある街はずれである。


次の図174.15は函館についての図である。函館地方気象台(旧函館海洋気象台) は海岸近くにあったが、1940年に海岸から3km余のやや内陸に移転した。 函館では1980年の前に都市化昇温量が急激に大きくなり2000年以後の現在まで ほぼ一定の約0.8℃が続いている。

函館
図174.15 都市化昇温量の経年変化(函館、基準年=1915~1940年)


図174.16は那覇の図である。都市化昇温量は1960~2000年までほぼ一定の上昇率 で大きくなったが、それ以後は0.75℃前後のほぼ一定値が続いている。

那覇
図174.16 都市化昇温量の経年変化(那覇、基準年=1915~1940年)


174.6 43都市の都市化昇温量一覧表(2017年時点)と東京 大手町の気温

本論で取り上げた都市のほか、前報( 「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」)で解析した都市と前報で 図示した都市を含めた、最近の2017年時点における都市化昇温量を表174.1に まとめた。

表の上段に示した10大都市の値は1.1℃~2.0℃の範囲にあり、平均的に1.5℃前後 である。中段に示した中都市では1.0℃前後、下段に示した小都市では0.5℃前後 である。

なお、2007年までの資料で評価した91都市の都市化昇温量は近藤(2012)および 「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」 に示してある。

表174.1 2017年時点における43都市の都市化昇温量
基準年:都市化昇温量=0とした年代
現在年:2017年、ただしごく最近の都市化昇温量がほぼ一定の場合はその期間
都市化昇温量:気温から地域の地球温暖化量を差し引いたぶん (日だまり効果を含む)(単位は℃)
43都市一覧表


図174.17は東京大手町の年平均気温(1910~1925年の平均気温=0とした基準) の1910年以後の経年変化である。縦軸は地球温暖化量と都市化昇温量の両方を 含む気温である。図174.3で説明したように、2015年以後のプロットは北の丸露場 における気温観測値に+0.62℃を加えた値を大手町の気温としてある。

東京大手町、気温
図174.17 東京大手町の年平均気温(1910~1925年をゼロの基準とした気温) の経年変化。


1917年から2017年までの100年間の気温上昇量=2.8℃である。そのうちの地球 温暖化量(東日本9地点平均)=0.8℃、都市化昇温量=2.0である。つまり、 2.8℃の29%が地球温暖化、残りの71%が都市化昇温量である。東京都心部の 都市化昇温量は地球温暖化量の2.5倍である。


まとめ

日本の代表的な43都市について都市化による昇温量(都市化昇温量)を評価した。 評価の方法は、観測・統計方法の時代による変更で生じたデータを補正し、 日本各地域の地球温暖化量からのずれを都市化昇温量とした。

以前の報告では、91の大・中・小都市について2000年までの昇温量を評価して あった。本論では、10大都市のほか、移転によって大きな不連続が生じた岡山と 都市再開発が行われた高知、都市として近年大きく発展中のつくば、 夏の最高気温が異常値を示す熊谷、さらに函館と那覇、その他の中・小都市に ついて評価した。戦前を基準のゼロとしたとき、2017年時点における都市化 昇温量は大都市で1.5℃前後、中都市で1.0℃前後、小都市で0.5℃前後である。

東京は関東大震災(1923年)以後、都市化が進み震災前を基準とすれば、 すべてを含む気温上昇量は2.8℃であり、そのうちの29%は地球温暖化量、 残りの71%が都市化昇温量である。すなわち、東京都心部の都市化昇温量は 地球温暖化量の2.5倍の大きさである。

大阪の年平均気温が2005年ころから0.1~0.2℃低下傾向にある。露場周辺の 樹木が成長し日陰効果の現れと考えられる。これは、東京の露場がビル街の 大手町から森林内、しかも風通し不良の北の丸露場に移転し年平均気温が0.62℃ 低下したことと共通する現象である。

なお、樹木の気温観測に及ぼす影響について、付録に詳しく説明した。


参考文献(主な論文のみ)

近藤純正、2012:日本の年における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、224号、 25-56.

近藤純正、2009:日本の都市における熱汚染量の経年変化。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke48.html(2018年9月10日閲覧).

近藤純正・内藤玄一、2014:気温観測に及ぼす樹木の加熱効果―実測。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke83.html(2018年9月10日閲覧).

近藤純正・菅原広史・内藤玄一・萩原信介、2016:自然教育園の林内気温。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke125.html(2018年9月10日閲覧).

近藤純正・角谷清隆・近藤昌子、2017:日だまり効果、アーケード街と並木道の 気温(まとめ)。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke157.html(2018年9月10日閲覧).

近藤純正、2018:日本の地球温暖化量、再評価2018。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke173.html(2018年9月10日閲覧).

近藤純正・菅原広史、2018:東京都心部を代表する気温。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke165.html(2018年9月2日閲覧).



付録 樹木の気温観測に及ぼす影響

気温観測の露場周辺に樹木があり、成長すると気温観測に様々な影響を及ぼす ようになる。大阪の露場周辺には樹木が多く、成長し気温観測に影響を及ぼし始め たと考えられるので、まず、観測事実を(1)で、一般的な概要を(2)で説明する。

(1)大阪の年平均気温の低下と気温較差の増加
本文中の図174.7では、大阪の都市化昇温量が2000年ころから低下傾向にある ことを示した。これを別データから確認するために、年平均気温について大阪 周辺の4アメダスと大阪を比較した。

図174.18は年平均気温の差(大阪-他地点)の経年変化である。どの地点を基準に しても気温差は低下する傾向にある。赤丸印は4点平均との差であり、2000年から 2017年の期間に約0.2℃の低下である。

大阪と4アメダスの差
図174.18 大阪と周辺アメダスの年平均気温の差。赤丸印は4アメダス平均との 差である。


「身近な気象」の「M59.都市気候」 の図59.3で示したように、一般に都市化が進むと最低気温は下がり難くなり 気温較差は小さくなる。

図174.19は気温較差(=毎日の最高気温の年平均値-毎日の最低気温の年平均値 =気温日較差の年平均値) の経年変化について大阪と神戸の比較である。神戸(赤丸印)が年とともに低下傾向を 示すのと反対に大阪(青丸印)は増加傾向になっている。

大阪と神戸の気温較差
図174.19 大阪と神戸の気温較差(気温日較差の年平均値)の経年変化、 大阪と神戸の比較。


図174.20は1950年以後について示した東京の気温較差の経年変化である。 大手町露場では、1950年から2014年までに約8.5℃から約7℃まで約1.5℃も 低下している。ただし、この図では、観測・統計方法の変更による違いは補正 していない。未補正による誤差(概略0.3℃程度)があるとしても、気温較差 は大きく低下している。この低下傾向は都市化が進んだことによる。

ところが、露場が2014年12月2日に大手町から北の丸公園の森林内の開空間へ 移転されると、2015年以後の気温較差は1℃余も増加して約8.2℃となった。 1℃余が露場周辺の樹木による気温較差に及ぼす影響である。

東京の年較差
図174.20 東京の気温較差(気温日較差の年平均値)の経年変化、ただし、 観測・統計方法の変更による違いは未補正。


大阪の露場は森林内の開空間ではないが、周辺に植えられた樹木の成長が気温 観測に影響を及ぼし始めたと考えられる。2017年現在、年平均気温が0.1~0.2℃ ほど下がっている。

都市に設置されている都市観測所は、市街地を代表する気温・風速などの地域 代表値を観測することが目的であり、樹木の影響を小さくするよう関係機関・関係者 の理解・協力を得て観測環境を良好に保つよう管理していきたい。


(2)低木・高木の異なる影響
気温などの観測露場の周辺に樹木群がある場合や森林公園内の開空間に露場が設置されて いる場合(例:北の丸露場)、露場の風速が弱められて日中の気温は高く、 夜間は低く観測される。差し引き日中の昇温が大きく日平均・年平均気温は 「日だまり効果」よって高く観測される。

これとは別に樹体による加熱・冷却作用もある。樹木があると、晴天日中に 加熱された樹冠部は大気に顕熱を放出し、周辺では気温は高温に観測される。 葉面は地表土壌層に比べて熱容量が小さく、貯熱効果がほぼ無視できるので、 大気の地面加熱よりも早く加熱され、効率よく大気は加熱される。

夜間は、樹冠層の葉面で放射冷却された冷気は沈降して地面付近に冷気層が 形成される。盆地内の冷気湖の形成に似ている。

樹木・森林の気温観測に及ぼす影響はシリーズ研究「日だまり効果の基礎研究」の 「K55.日だまり効果に試験地と観測方法」「K84.観測露場内の気温分布―熊谷」で示した。 さらに、シリーズ研究「森林内の気温」の 「K101.森林公園内の気温―北の丸公園と自然教育園」「K118.北の丸露場における夜間の気温鉛直分布」 で示した。

これらを要約すると、次のようにまとめることができる。

低木(例:生垣など)
樹木の加熱効果について分かりやすい実験が 「K83.気温観測に及ぼす樹木の加熱効果―実測」に示されている。

気温計が生垣内に設置されている場合、日中は太陽エネルギーを受けた葉面・小枝 からの顕熱によって暖められた空気、その空気の気温は高めに観測される。 夜間は逆に気温は低めに観測される。日中の気温上昇が夜間の気温下降量より 大きいので日平均・年平均気温は高めに観測される。

群馬県の舘林アメダス(2018年6月13日以前)や岐阜県の多治見アメダスは晴天 日中の最高気温が高めに観測される。これは、生垣の加熱効果と日だまり効果 を受けた結果である。

高木(例:森林公園内の開空間)
林内では、日中の太陽エネルギーが樹冠部で吸収され、林床は日陰となり 低温となる (「K125.自然教育園の林内気温、3月~10月」 の図13)。開空間では林内からの移流の影響を受ける。また、開空間の地表面は日射が 吸収され高温となる。こうした過程の兼ね合いで観測気温が変わる。

日だまり効果による昇温もある。これらの気温観測に及ぼす影響は、風通しを 決める樹木の粗密度と関係してくる。木漏れ日率(気温観測点の周囲20m範囲内、 概略、直径40m範囲内に日射が当たる割合)などによって観測される気温 は違ってくる。

樹木の気温観測に及ぼす影響は単純ではないが、よく理解して観測環境を 良好に保っていこう。

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