K157. 日だまり効果、アーケード街と並木道の気温(まとめ)


著者:近藤純正・角谷清隆・近藤昌子
これは新しいによ観点による地上気温に関する研究である。 仙台市街の道路、並木道、アーケード街で気温観測を行い、これまでの各地に おける観測を含めてまとめた。

仙台管区気象台の観測露場では、南側にある東西路の並木が着葉する5月中旬以後、 南寄りの風が吹く晴天日中は「日だまり効果」によって気温は平均0.55℃上昇 する。これは各地における「日だまり効果」 による気温上昇量と空間広さの 関係と矛盾しない。

晴天日中の並木道「定禅寺通」(道幅=46m、日射透過率=14%)の気温は、 広い芝地の気温に比べてわずかに低く (気温差=-0.31℃)、各地森林に おける日射透過率と気温差の関係と矛盾しない。

3つのアーケード街(クリスロード、おおまち、一番町一番街)では、 アーケードとビル間の隙間の大・小によって気温の特徴が大きく異なる。 クリスロードではビル間の隙間がほとんどなく、気温は2℃ほど高温であるが、 外部気温が27~28℃以上になると商店街のエアコン冷房により逆に涼しくなる。 一番町一番街(道幅15m)では、アーケードの天井が高く多数の隙間から風が入りやすく、 晴天日中の気温は並木道「定禅寺通」に比べて0.8℃ほど高温になり、 一般の道幅15mの市街路の気温と大差はない。おおまちはクリスロードと一番町一番街 の中間の特徴を示す。

一般の市街路では、晴天日中の気温は道幅が狭くなるほど高温になる。 広い芝地を基準とした「気温差」と「道路幅の対数」の関係は近似的に直線 で表される。これは、これまでに得られている「気温差」と「空間広さの対数差」 の直線関係と同じである。(完成:2017年11月20日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

トップページへ 研究指針の目次


更新の記録
2017年11月9日:素案の作成
2017年11月12日:所々に説明文を加筆
2017年11月25日:仙台市街路の位置関係の説明、その他の説明を加筆


    目次
        157.1 はじめに
        157.2 観測        
        157.3 通風筒に及ぼす放射影響の補正
        157.4 日だまり効果、まとめ
        157.5  並木道の気温(正午前後)
            (a) 広芝地基準の気温差
            (b) 市街路との気温差
            (c) 林内の日射透過率と気温差、まとめ
        157.6 気温差と道路幅の関係、まとめ             
        157.7  アーケード街の気温(正午前後)  
        157.8 気温の日変化(アーケード街、並木道)

        まとめ
        参考文献
        付録1 気温の連続記録
             (a) 9月24日~9月29日
             (b) 10月22日~10月26日    
        付録2 正午前後の気温観測一覧表
             (c) 気象台基準(9月24日~9月29日の分)
             (d) 定禅寺通基準(9月24日~10月26日の分)                  


研究協力者・機関(敬称略)
仙台市青葉区役所
仙台市宮城野区役所
クリスロード商店街振興組合
おおまち商店街振興組合
一番町一番街商店振興組合

気温観測データ
仙台管区気象台の1分毎気温データは気象庁観測部提供によるものである。


157.1 はじめに

本研究は日本の地球温暖化量を正しく評価する目的から始まったものである。 観測所の環境が悪化すると「日だまり効果」によって平均気温が上昇する (近藤、2012)。観測環境の記録方法や、環境変化に伴う気温観測値の補正方法 を確立するために、観測環境と風速・気温との関係を調べてきた。

気象観測所の多くは都市にあり、周辺環境は時代とともに変化していく。 本研究は、「K148.市街気温の高精度観測、平塚」「K149.市街気温の高精度観測、仙台(1)」「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」「K152.市街気温の高精度観測、仙台(3.七夕見物人の影響)」 の続報 であり、また、これまでの研究のまとめでもある。

都市気候は今後、地球温暖化と都市化による昇温が加わり、高温化していく。 とくに夏期の昇温を緩和する都市環境が求められる。快適な都市環境は、 どのように設計すべきか、本研究の結果は並木道や公園の整備・管理に役立て られよう。

従来の多数の研究は、放射影響による誤差が0.4~1℃程度の通風式気温計、あるいは 最大誤差5℃の非通風式(自然通風式)気温計によって観測されてきた。 それゆえ、都市気象・森林気象・局地気象に関する多くの研究結果は、 あまり信用できないと考えている。


備考:気温計・放射計・風速計は同じ原理
気温計、放射計、風速計(熱線風速計)は同じ原理に基づいて作られており、 いずれも感部の温度から気温、あるいは放射量、あるいは風速を測る測器である。 放射影響の大きい気温計を用いた場合、観測者本人は気温を測っているつもりでも、 実際には放射量あるいは風速を測っている場合が多い。

その例が「身近な気象」の「M64.多治見の ヒートアイランド:準備観測」の図64.14に示されている。 この図は快晴時の記録で誤差は2℃前後あり、これは日射量の大きさを 表している。横軸=40分頃と50分頃には誤差が3℃以上になったのは、この時間帯 は風速が弱くなったときである。つまり、この図の時間変動は風速変動の 記録である。


本研究は、従来の研究結果にとらわれることなく、新しい観点から行う ものである。


157.2 観測

気温計
最近、気温観測用の高精度通風筒が市販化された ( 「K126.高精度通風式気温計の市販化」; 「K146.高精度気温観測用の横型通風筒」)。

本観測では、その原型となった軽量の手製品を用いる。

「K148.市街気温の高精度観測-平塚」で 示したように、 高精度の通風式気温計を自転車のハンドルの軸に固定した伸縮棒 の先端に取り付ける。 自転車で観測区間100~400mをゆっくり移動し、2~4 時間かけて10~20往復する。 地上高度1.8m程度の気温を観測する。身体から の放熱の影響を受けないよう に注意する。気温の記録は1分間間隔である。

観測を行う道路は前報「K152.市街気温の高精度 観測、 仙台(3.七夕見物人の影響」の図152.1と表152.1に示した。

観測区間の代表気温を観測する際、移動観測上の注意点も前報で示した。

6月以降の観測では、並木道「定禅寺通」とアーケード街「クリスロード」を新しい 固定観測点(昼夜連続観測)とした。

8月27日~9月1日の観測ではアーケード街「おおまち商店街」、10月22日~26日 の観測ではアーケード街「一番町一番街」にも固定観測点を設けた。


備考:仙台市街路の位置
JR仙台駅西口の北西約300mから西に延びる東西路の中央通りのアーケード街 「クリスロード」がある。「クリスロード」は全長340m、東端は愛宕上杉通、 西端は 東二番町通である。道幅50mの東二番町通を挟んで西側にあるアーケード 街 「おおまち」は全長200m、西端は南北のアーケード街「一番町一番街」 (全長290m)である。「一番町一番街」の北端は東西路の広瀬通である。
広瀬通から北約400mに東西路の並木道「定禅寺通」がある。

その広瀬通を東へ約1kmにJR線路、さらに200mの東から「二十人町西」の東西路 である。JR線路から東約1kmに仙台管区気象台がある。気象台観測露場の南側の 東西路を挟んで榴岡(つつじがおか)公園がある。

並木道「定禅寺通」の北700mに東西路の「作並街道」がある。

以上が本論で示す主な観測点・観測道路であるが、これまでの報告ではその他に 東二番町通、晩翠通、青葉通、広瀬通、勾当台公園、西公園が含まれる。 これらすべての観測点・観測道路は南北1.5km、東西3kmの範囲に含まれる。 詳細は前報の「K152.市街気温の高精度観測、仙台(3.七夕 見物人の影響)」に説明されている。



基準気温と気温差の定義
仙台では、気象台の南側にある榴岡(つつじがおか)公園の広い芝地の気温を 基準とした場合の気温差は次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー榴岡気温・・・・・(広芝地基準:榴岡公園基準)

並木の有無の効果を表すときは、定禅寺通を基準として次式で定義する。

◎ 気温差=気温ー定禅寺通気温・・・・・(定禅寺通基準)

気象台の気温を基準とするときは、各観測地点の気温差を次式で定義する。

◎ 気温差=気温-気象台補正気温・・・・・(気象台基準)

気象台補正気温とは、観測値に放射影響の誤差を次式により補正した値である。 正午前後の平均気温の解析では、N (=0~1)を毎時の日照率として、

気象台補正気温=観測値-0.1℃-(放射影響による誤差)・・・(式1)
放射影響による誤差(℃)=-0.1398×N2+0.4223×N+0.0749・・・(式2)

式1の右辺第2項の0.1℃は、気象台の気温計に及ぼす放射影響による誤差とは別に、 高精度気温計に比べて相対的に0.1℃ほど高めに観測されることを意味している。 詳細は「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」 の付録1を参照のこと。

備考:南東寄りの風のときの、榴岡公園および仙台管区気象台の気温
南東寄りの風のとき、榴岡公園の広芝地および仙台管区気象台の気温は、市街中心部 に比べて低温に観測される。 これは榴岡公園と仙台管区気象台が岡の上にあるため である。解析に際して注意が 必要である 。詳細は、 「K150.市街気温の高精度観測、仙台(2)」の付録2を参照のこと。

観測一覧表は付録に示してある。


157.3 日だまり効果、まとめ

仙台管区気象台の観測露場の環境は、都市観測所としては良いほうだが、 南側の東西路に植えられた落葉樹が成長してきた。そのため、5月中旬以後の 晴天日の卓越風向(南~南東の風)のとき、露場の風が弱められて 「日だまり効果」によって、気温が高めに観測される。
風速が弱くなると地表面付近の熱拡散が弱められるので地上気温は高くなる のである。この現象を「日だまり効果」と名づけた。

表157.1は南寄りの風が吹く快晴日中に気象台(狭空間)と榴岡公園の広い芝地 (広空間)で観測された一覧表である。これまでの研究によれば、日だまり効果 による昇温量は空間広さの対数差に比例する。詳細は、 「K121.空間広さと気温―“日だまり効果”のまとめ」に説明されている。 それゆえ、この表には空間広さの対数差も示してある。


表157.1 南寄りの風が吹く快晴日中の気温観測一覧表。
南寄り風一覧表

この結果によれば、気象台の日だまり効果による気温上昇量(気温差)は、 少し上空の一般風が弱いとき大きくなる傾向にある(「K121.空間 広さの気温―“日だまり効果”のまとめ」の図121.16、図126.17を参照)。


気温差と風速の理論的関係
「水環境の気象学」6章の式(6.102)によれば、地表面温度の日変化振幅A1は放射量 (日射量と長波放射量)の日変化振幅 R1 に比例し、「係数+風速U」に逆比例する。 したがって風速が大きくなるにしたがって、日変化振幅 A1 はある一定値に漸近 することになる。

広い芝地の基準点でも、風の弱い空間広さの小さい観測点でも、この傾向は同じで あり、また、地上気温も地表面温度の変化傾向に類似するので、気温の日変化振幅 も近似的に風速の逆数に比例することになる。観測結果は理論的予想と矛盾しない。



また、日だまり効果による気温上昇量は高温の夏期に小さくなる傾向にある。 その理由は次のとおりである。

日射量が大きくなる4月以降について考えると、やや低温の季節には葉面が吸収 した太陽エネルギーの大部分は 顕熱に変換されて風下の大気を昇温させるが、 高温の季節になると、蒸散の潜熱に費やされる分が多くなり顕熱に変換される 割合が小さく風下大気の昇温は 小さくなる。いわゆるボーエン比の気温依存性の 原理によるのである。 「K123.東京都心部の森林(自然教育園) における熱収支解析」 の図123.1と図123.9を参照。

図157.1には上記の4回平均の気温差(0.55℃:緑三角印)を他所における結果と ともにプロットしてある。赤線で示すように生垣内や樹木のすぐ風下では葉面に よる加熱効果のため、気温差は大きい。その理由は、日中を想定すると、 樹木の無い空間の地上気温はおもに地表面からの顕熱によって決まるのに対し、 樹木がすぐ近くにある空間では、 日射が当たる樹冠部の葉面からの顕熱による 大気の直接的な加熱が加わり、気温差はいっそう大きくなるからである。

樹木の風下における気温上昇についての直接的な観測例は、 「K121.空間広さと気温―“日だまり効果”のまとめ」の図121.8~図121.11 に 示してある。

日だまり効果、日中
図157.1 空間広さの差(対数差)と気温差の関係(晴天日中)。
赤線:生垣、または風上のすぐ近くに樹木のある空間における関係、
黒破線:連続する芝地・草地内、または四方が建物で囲まれた空間における関係、
大印:多数回の平均値(平塚生垣平均は5~8回、北の丸露場は7回、仙台平均は 4回の平均)。


図157.2は晴天夜間の気温差と空間広さの対数差との関係である。黒線は生垣で 囲まれた空間における関係、緑線は樹木の冷却効果を直接的に受けていない 空間における関係である。夜間は日中と違って気温差はマイナスであり、狭い 空間ほど放射冷却が大きく気温は低下する。

日だまり効果、夜間
図157.2 空間広さの差(対数差)と気温差の関係(晴天夜間)。
「K121.空間広さと気温―“日だまり効果”のまとめ」 の図121.15に同じ、中丸印は3回観測の平均値、大丸印は7回観測の平均値である。


なお、上掲の図157.1と図157.2の「首都大」印のプロットは、和田・泉・松山・近藤 (2016)による首都大学東京のグラウンドで観測されたものである。

図157.1と図157.2のプロットのバラツキは、主に風速の違いによるものである。 詳細は「K121. 空間広さと気温―“日だまり効果”のまとめ」 に示されている。


157.4 並木道の気温(正午前後)

道幅46mの定禅寺通には4列のケヤキ並木があり、中央には遊歩道その両側に植栽 がある。太陽南中時ころの日射量の透過率は14%であり東京の明治神宮、 北の丸公園、新宿御苑、自然教育園などのやや密な森林と同程度の透過率である。

(a) 広芝地基準の気温差
前記したように、仙台管区気象台は南寄りの風のときは日だまり効果による気温 上昇が0.5℃前後ある。いっぽう西寄りの風のときは空間広さが大きく、榴岡公園 の広芝地と同様に気温観測値は仙台市街地を代表する。

表157.2は西寄りの風が吹く晴天時の気温差であり、 「K152.市街気温の高精度観測、仙台(3.七夕見物人の影響」の表152.2と 表152.3からの抜粋である。


表157.2 西寄りの風が吹く晴天の正午前後の時間帯における広芝地(気象台、 榴岡公園)と定禅寺通の気温差。
定禅寺通の気温差、広芝地基準

この表によれば、並木道「定禅寺通」の晴天正午前後の気温は仙台市街の広域を 代表する広い芝地に比べて0.31℃ほど低温である。なお、正午前後とは、日最高 気温が出現する時間帯である。

(b) 市街路との気温差
4列並木の定禅寺通と樹木の影響が無視できる舗装道路の気温を調べるために、 作並街道(道路幅=27m、観測区間=150m)と二十人町西(道路幅=46m、 有効幅=70m、観測区間=400m)について自転車による繰り返し往復移動観測 を行った。

二十人町西は最近になって区画整理・開発された新しい道路で、道路の両側には 広い駐車場が多数ある。そのため、風通りに関わる道路の実効幅=70m程度と みなすのが適当である。

表157.3の観測一覧によれば、定禅寺通を基準とする気温差の平均値は二十人町西 で0.27℃、作並街道で0.86℃である。


表157.3 定禅寺通を基準とした気温差表。
二十人町西と作並街道の気温差

道路幅の対数と気温差は近似的に直線関係で表されることが平塚市街における 観測から分かっている( 「K148.市街気温の高精度観測、平塚」 の図148.18)。

その関係を利用して樹木ナシの46m道路の気温差を見積もってみよう。
log1070=1.845, log1027=1.431, log1046 =1.663 によって、樹木ナシとしたときの定禅寺通の気温差は二十人町西の気温差 (0.27℃)と作並街道の気温差(0.86℃)の平均値にほぼ等しく、

樹木ナシの定禅寺通と樹木アリの定禅寺通の気温差=0.56℃

と推定される。つまり、0.56℃は道幅46mの舗装道路における樹木の有無による 気温の差(樹木の日除け効果)である。

前項(a)で求めた広芝地を基準とした定禅寺通の気温差は-0.31℃であるので、 芝地と舗装の違いは0.25℃(=0.56-0.31)と推定される。すなわち、幅46mの 長い芝地を舗装すると、晴天日中の気温は0.25℃程度上昇することになる。


参考:南寄りの風のときの大手町露場の気温
観測地点の地上風速と気温は、ともに空間広さ(X/h)に依存する。ここに、 Xは建物・樹木から観測点までの水平距離、hは建物・樹木の高さである (「K121.空間広さと気温-“日だまり効果”のまとめ」 の図121.12と説明を参照のこと)。

東京の旧大手町露場では、南寄りの風のとき空間広さは8.7で、新宿御苑その他の 広芝地の空間広さ5.7~11.5に匹敵する。そのため、晴天日中の南寄りの風のときは 日だまり効果による気温上昇は無視してよい。しかし、露場の南側は舗装されており、 加熱された舗装の影響を受ける。観測によれば( 「K116.東京都心部の代表気温-大手町露場の代表性(完結報)」の表116.3) 、新宿御苑その他の広芝地との気温差は、

大手町露場の気温差=0.30℃±0.16℃(26回の平均)

であり、上記の0.25℃にほぼ等しいことがわかる。
これら気温差は、芝地を舗装したときの地上気温の上昇量である。



(c) 林内の日射透過率と気温差、まとめ
図157.3は、これまでに得られている各地の森林公園の日射透過率と気温差の関係に、 定禅寺通での観測と千村湧水林(「K156.里山の気温分布」) の結果を追加したものである。縦軸の気温差がプラスは広芝地に比べて高温、 マイナスは低温を表す。

道幅46mの定禅寺通の関係(下図の大きい黒丸印)は、各地の森林で得た関係と 矛盾していない。つまり森林でも並木道でも同じ関係が成り立っている。

林内の日射透過率と気温差
図157.3 林内の日射透過率と気温差の関係(快晴または日射の強い薄曇りの日中)、 「K115.新宿御苑の気温水平分布(2)」の図115.3に加筆。
縦軸は広芝地を基準とした気温差である。
小さい黒丸と黒破線:見通し良好林、
小さい赤四角と赤実線:見通し不良林。
下図の大きい黒丸印は定禅寺通(4回平均:-0.31℃)、青塗りの大きい菱形印は大雨後の 晴天日(2015年7月19日)における明治神宮の森(4か所平均:-2.0℃)、 青塗りの大きい四角印は秦野市千村における2017年9月晴天日平均の湿った湧水源 (透過率=5.2%、気温差=-3.42℃)と湧水林内の動物観察点(透過率=2.2%、 気温差=-2.53℃)の2点を示す(「K156.里山の気温分布」 の付表156.2)。


なお、下図にプロットされた青塗りの大印は大雨後の晴天日、および湧水のある 湿潤土壌の密な森林内の冷気が溜まりやすい窪地における気温差である。 林床の土壌水分が多くなると熱慣性(「熱伝導率×比熱×密度」の平方根)が大きく、 晴天日中でも林床面温度と林内気温の上昇が緩慢となり、林外の気温との差が 大きくなる。

連続降雨(11日間の総雨量=145mm)の後、密な森林では晴天になっても 林内の気温上昇が小さいことは自然教育園でも見られ、平常状態にもどるには 4日間ほどかかる(近藤・菅原・内藤・萩原、2016)。


参考:快適な都市環境とは?
この応用として、猛暑の夏の森林公園内をより涼しくするには、池を作ればよい ことになる。しかし、林内を湿地化すると蚊が発生しやすくなるので、注意 しなければならない。
日中の都市気温を低下させるには、風通りをよく(熱交換を強くなるように)する ことである。そうすれば、都市地表面からの熱放出が多くなり地上気温は低くなる。 しかし、その熱は風下地域に運ばれ、風下地域は高温になる。
一般に、改変して何かを良くすれば、そのぶん悪影響があることを忘れては ならない。


157.5 気温差と道路幅の関係、まとめ

街路樹の大気加熱がほとんど無視できるとみなされる作並街道(道幅=27m)と 二十人町西(有効道幅=70m)において、晴天日中に気温を観測した。平塚の観測 結果とともに表157.4に示した。それを図157.4にプロットした。


表157.4 晴天時の広芝地を基準とした道路上の気温差一覧表(道路走向と市街上空 の風向が不一致のとき)。
広芝地基準の道路の気温差観測表


広芝地基準の気温差と道幅の関係
図157.4 晴天日中の道路走向と市街上空の風向が不一致のときの道幅と気温差の 関係。「K148.市街気温の高精度観測、平塚」の 図148.18に仙台の結果(黒丸印)を加筆(道路面の太陽直射面積>50%のみプロット)。


図157.4によれば、気温差と道路幅の対数は近似的に直線関係で表される。 狭い道路ほど風が入りにくく、気温が上昇する。道幅の1桁の違いによる気温差 は約1℃であり、図157.1の黒破線の関係、すなわち四方が建物で囲まれた空間や 連続する芝地・草地内における関係と同じである。



備考:市街路の空間広さの定義
長い流路チャンネル構造の市街路では、上空の風向によらず風は道路走向の向きに 吹く。一般の気象観測露場や公園広場の空間と異なり、自動車通行も多く、 空間広さの測量が現実的に難しいこともあり、当分の間、道幅 X を空間広さの 代わりに用いている。

備考:流路チャンネル構造における地上風向
静岡地方気象台の露場は、気象台庁舎と南側の住宅街に挟まれた、東西に延びる 流路チャンネル構造になっている。そのため、測風塔上の風向によらず露場での 風向は東または西のみとなる( 「K61.露場風速の解析ー静岡」の図61.4の上段を参照)。



157.6 アーケード街の気温(正午前後)

仙台では豪華な七夕飾りを行うために天井の高いアーケードがある。本研究では、 ビル間の隙間がほとんど無い「クリスロード」、少しの隙間のある「おおまち」、 アーケードが高くて天井と商店との間から風が入りやすい「一番町一番街」の3つにいて 気温の特徴を比較する。

表157.5はアーケードの高さや日射透過率などの一覧表である。クリスロードの 天井材は白濁の半透明板、おおまちの天井材は日射を通しにくく、一番町一番街の 天井材は透明板で作られている。透明板では晴天日には青空も見えるが、それを 支える支柱や旗など飾りも多く、太陽南中時ころの路面上の日射の透過率は25% である。

以下で示されるように、アーケード街の気温を大きく支配するのは透過率という よりは、隙間風の入りやすさの度合いによる。


表157.5 仙台のアーケード街の寸法と路面上の日射透過率一覧。
アーケードの詳細


図157.5は、風の入り難いクリスロード、中間のおおまち、風の入りやすい一番町 一番街の順番に気温差と定禅寺通の気温の関係を示してある。縦軸は定禅寺通を 基準としたときの気温差である、プラスは定禅寺通より高温であることを表す。

3つのアーケードを比べたとき、クリスロードでは気温差がもっとも大きく+2℃前後 であるが、夏期高温時には商店街のエアコン冷房によって気温差は低下し、 30℃程度の日は-2℃ほどとなり涼しい。気温差がプラスからマイナスに変わるのは 定禅寺通の気温が27~28℃のときである。

なお、上図にプロットされた8/30, 8/31は8/29(8月29日)から気温が急下降し、 風が入り難いアーケードの実効的な熱慣性が現れ気温差が大きくなっている。 詳細は「K152.市街気温の高精度観測、仙台(3.七夕見物人の 影響)」を参照のこと。

ド
図157.5 正午前後のアーケード街の気温差(定禅寺通基準)と定禅寺通の気温との関係。
上:クリスロード
中:おおまち
下:一番町一番街


風の入りやすい一番町一番街(下図)では、晴天日の気温差(定禅寺基準)の平均値は 0.84℃である。0.84℃は透過率14%の定禅寺通との気温差(定禅寺基準)である。 前記したように定禅寺通の気温差(広芝地基準)=-0.31℃であるので、 一番町の気温は広芝地より0.53℃高温である。

一番町は道幅=15mである。気温差と道路幅の関係(図157.4)によれば、 道幅15mの気温差≒0.7℃であり上記0.53℃にほぼ等しい。つまり、ビル間の 隙間が多いとき、アーケードの天井が気温に及ぼす温・冷効果は小さいといえる。


参考:平塚市紅谷町(道幅=15m、両側歩道のみアーケード)の気温差
平塚での観測「K148.市街気温の高精度観測、平塚」 の表148.2によれば、紅谷町の気温差の平均値=0.61℃である(4月4日と17日の平均)。 上記の0.53℃にほぼ等しいことがわかる。したがって、風の入りやすいアーケードは 雨日の通行人に対して雨除け装置であり、温・冷効果は小さい。



157.7 気温の日変化(アーケード街、並木道)

前節では、おもに日最高気温の起きる時間帯の正午前後の気温について調べた。 本節では昼夜にわたる気温の日変化について調べてみよう。

アーケード街の気温差の特徴は外部気温の高・低によって異なるので、気象台の 日平均気温<20℃の日と高温日の2017年8月29日の2グループを分けて考察する。

図157.6は気象台の日平均気温<20℃の8日間を平均した気温の日変化である。 定禅寺通と気象台の気温は全時間帯にわたり±0.5℃以内の違いであるが、 アーケード街「クリスロード」は昼夜にわたり高温に保たれ、特に夕刻の18時前後 の気温差は3℃ほどになる。

それは、クリスロードでは風が入り難く、外部との熱交換が少なく(実効的熱交換 速度が小さく)気温変化に位相の遅れができるためである。

この図では気象台の気温に及ぼす放射影響の誤差は未補正で、定禅寺通の日中の 気温差はほぼゼロに表されている。しかし、日中について0.3℃前後の補正を行えば、 正午前後の気温差はマイナス0.3℃程度となる。そうすれば、並木道「定禅寺通」の 気温差は正午前後にマイナス、夕方以後はプラスになることがわかる。 つまり、気象台に比べて並木道は風通りが相対的に悪く気温変化に位相遅れが生じる。

20℃以下のときの気温日変化
図157.6 気象台の日平均気温<20℃の日の気温日変化、ただし、気象台の気温に 及ぼす放射影響の誤差は未補正である。
2017年6月19日~21日、8月31日、9月28日、10月23~25日の8日間平均
上:気象台を基準とした気温差
下:クリスロード、定禅寺通、気象台の気温


図157.7は高温日の気温日変化である、ただし前後20分間の移動平均値をプロット してある。前図に比べて短周期変動がみられるのは、8月29日の1日分だけの気温 であり、場所が離れた3地点であり短周期変動がずれて現れている。

短周期変動を別にして、全体としての傾向は、クリスロードは定禅寺通や気象台 に比べて気温日較差が小さく、日中はエアコン冷房によって3℃ほども涼しい。 しかし、夜間は商店が閉まり冷房効果は薄れるが、位相遅れによって高温に保 たれる。

  高温日の気温日変化
図157.7 高温日(2017年8月29日)の気温日変化(下図)と気象台基準の 気温差(上図)。ただし、気象台の気温に及ぼす放射影響の誤差は未補正である。  


まとめ

これまでの他所で得られた結果も含めてまとめる。

地上気温は風通しの良否、つまり空間広さの大小、市街路では道幅の大小に依存する。 狭いほど日中の気温は上昇、夜間は下降する。林内では風通しが良ければ気温下降量 は日射透過率に依存し0~1℃の範囲内である(日陰の効果)。

◎日だまり効果
(1)仙台管区気象台の観測露場では、南側にある東西道路の並木が着葉する季節 (5月中旬以後)、南寄りの風が吹く晴天日中は「日だまり効果」によって気温は 平均0.55℃上昇する。これまでに得られた各地における「日だまり効果」 による気温上昇量と空間広さの関係と矛盾しない。

(2)晴天日中の日だまり効果:日だまり効果による昇温量は空間広さが小さいほど 大きい。昇温量は近似的に空間広さの対数差に比例する。生垣など樹木の直接的 加熱が影響する場所では、そうでない場合に比べて約2倍の昇温量がある(図157.1)。

(3)晴天夜間の放射冷却:夜間は日中とは逆に、狭い空間ほど気温が低下する。 また、樹木による冷却が直接的に影響する樹木のすぐ風下や生垣で囲まれた所では、 そうでない建物で囲まれた所などと比べて気温は2倍ほど低下する(図157.2)。

◎並木道
(4)広い芝地の気温との比較:並木道「定禅寺通」(道幅=46m)の晴天日中の 気温は広い芝地の気温に比べてわずかに低く (気温差=-0.31℃:広芝地基準)、 これまでに得られている森林における日射透過率と気温差の関係と矛盾しない。

(5)舗装道路における樹木の効果:街路樹の影響がほとんど無視できる作並街道 および二十人町西の気温と比較した結果、樹木ナシの定禅寺通と樹木アリの 定禅寺通の気温差=0.56℃と推定される。つまり、0.56℃は道幅46mの舗装道路 における樹木の有無による気温の差(舗装路における並木の日陰効果)である。

◎芝地と舗装の違い
(6)芝地を舗装したときの気温上昇:前項の(4)で求めた広芝地を基準とした 定禅寺通の気温差は-0.31℃であるので、芝地と舗装の違いは0.25℃(=0.56-0.31) と推定される。すなわち、幅46mの長い芝地を舗装すると、晴天日中の気温は 0.25℃程度上昇する(道路の舗装による気温上昇効果)。

東京の旧大手町露場では、南寄りの風のときの空間広さは8.7と大きく、 新宿御苑その他の広芝地の空間広さに匹敵する。そのため、南寄りの風のときは 日だまり効果による気温上昇は無視してよいが、露場の南側は舗装されており、 舗装の影響を受ける。新宿御苑その他の広芝地との気温差は、0.30℃±0.16℃( 26回の平均)であり、上記の0.25℃にほぼ等しいことがわかる。

具体的に要約すれば、西寄りの風のときの仙台管区気象台の露場と南寄りの 風のときの旧大手町露場が比較できる。前者では長い芝地上の気温を、後者では 長い舗装上の気温を観測している。両者の違いは0.25℃ないし0.30℃である。
仙台管区気象台の露場は西寄りの風のときの芝面上の吹走距離は長いが、旧大手町 露場は芝は植えられているものの芝面上の吹走距離は短く、実質的には舗装面上の 気温を観測している。

◎アーケード街
アーケード街の気温は路面上の日射透過率によって異なるが、アーケードの隙間の 多少が気温に大きく影響する。クリスロードはビル間の隙間がほとんど無い アーケード街である。

(7)低温時と高温時の違い:気温が20℃前後のとき、クリスロードの正午前後の 気温は、気象台や並木道「定禅寺通」に比べて約2℃ほど高温であるが、 気温が高くなると商店街のエアコン冷房によって、気象台の気温より低くなる。 例えば、気象台の気温が30℃の高温日には約2℃ほど涼しくなる。
なお、正午前後の気温とは日最高気温が出現する時間帯の気温である。

(8)曇・雨天日と晴天日の違い:クリスロードでは曇・雨天日は晴天日に比べて 0.5℃ほど低温になる。晴天日の正午前後は、 アーケード街に入る日射量が 80 W/mほど大きいことによる。

(9)七夕初日の2017年8月6日は日曜日で正午過ぎには晴天となり、 大勢の 見物客があり、普段の晴天日に比べて1℃ほど上昇した。2日目の7日は日照ゼロの 曇りで人出も若干減り、普段の曇・雨天日に比べて0.4℃程度の上昇となった。 これらの平均0.7℃の気温上昇量は人出の発熱量(概算 110 W/m) によるものとみなされる。

(10)一番町一番街はアーケードと商店の間にある多数の隙間から風が入りやすく 気温差は小さく、アーケード無しの同じ道幅15mの市街道路の気温差と大きな 違いはない。

(11)隙間が少しのおおまちは、クリスロードと一番町一番街の中間の特徴を示す。

◎一般の市街地道路
(12)道幅との関係:晴天日中の気温は道幅が狭くなるほど高温になる。 広い芝地を基準とした「気温差」と「道路幅の対数」は近似的に直線関係で 表される。これまでに得られている「気温差」と「空間広さの対数差」 が近似的に 直線関係であることと同じである。



参考文献

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学ー地表面の水収支・熱収支ー. 朝倉書店、pp.350.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.

近藤純正・菅原広史・内藤玄一・萩原信介、2016:自然教育園の林内気温 (3月~10月).自然教育園報告、第47号、1-22.

和田範雄・泉岳樹・松山洋・近藤純正、2016:観測地点の「空間広さ」と「平均 気温」の関係ー4重構造放射除け通風筒を用いた高精度観測ー.天気、63、 13-22.



付録1 気温の連続記録

昼夜にわたる連続記録を図157.8(9月24日~9月29日)と図157.9(10月22日~10月26日) に示した。各下図は気温、各上図は定禅寺通基準の気温差である。ただし、気象台 の気温に及ぼす放射影響の誤差は未補正である。

他の期間についての連続記録はこれまでの報告に示してある( 「K152.市街気温の高精度観測、仙台(3.七夕見物人の影響)」)。

(a) 9月24日~9月29日
アーケード街「クリスロード」(赤印)は昼夜にかかわらず気象台よりも高温で ある。 前報でも示したように、気温が27~28℃以上になると、 クリスロードの 気温差(上図の赤丸印)はマイナスの値になる。

なお、この図では二十人町西の気温と気温差は24日、25日、29日の正午前後しか 示していない。

9月24日~9月29日
図157.8 昼夜連続記録の気温(9月24日~9月29日)。
横軸の24日0時、・・・・の位置は24日0時、・・・・を表す。
気象台のプロット:気温観測用通風筒に及ぼす放射影響誤差未補正。
上:定禅寺通基準の気温差、1時間ごとの平均値
下:前後10分間(合計20分間)の移動平均気温

 
(b) 10月22日~10月26日
図157.9には、アーケード街「一番町一番街」における連続記録である。

10月22日~10月26日
図157.9 昼夜連続記録の気温(10月22日~10月26日)。
横軸の10月22日、・・・の位置は22日0時、・・・・を表す。
気象台のプロット:気温観測用通風筒に及ぼす放射影響誤差未補正 。
上:定禅寺通基準の気温差、1時間ごとの平均値
下:前後10分間(合計20分間)の移動平均気温

 
付録2 正午前後の観測一覧表

これまでの一覧表は前報「K152.市街気温の高精度観測、 仙台(3.七夕見物人の影響」の表152.2~表152.4に示した。それ以後の一覧表 を以下に示す。


表157.6 気象台基準(9月24日~10月26日の分)
基準点気温観測値:気象台の観測値
基準点気温補正値:式1の補正式による気象台の補正気温
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
表9月24-26日

表157.7 定禅寺通基準(9月24日~10月26日の分)
観測点が気象台の欄、 観測点気温:気象台の観測値
観測点が気象台の欄、 観測点気温補正値:式1の補正式による気象台の補正気温
気象台風向・風速:測風塔高度52.6mにおける風向・風速
表10月22日ー26日

トップページへ 研究指針の目次