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がんを明るく生きる-前立腺癌の末期から生還した伊藤勇のサイトのホーム

末期癌より生還した伊藤勇への相談の手紙とその返信

その25
夫が癌の痛みに苦しんでいます。痛みだけでも取ってあげたい

Fさんより
初めまして。実は主人が1年前に、胃ガンの告知を受けてこの1年元気に過ごしていたのですが、肝臓への転移が見られ、腹水もたまり、かなりの痛みに苦しんでいます。

何とか伊藤さんのように気持ちを明るく持たせてあげたいのですが、本人もかなり体力を消耗し、食欲もなく、柔らがない痛みに気力も消耗しています。伊藤さんは、どのように痛みが取れていったのでしょうか?
また、気持ちの切り替えは、本人しかできません。どのように助言してあげればいいのでしょうか?

先生方からは、もうどうすることもできないことを何度と無く告げられました。本当にどうにもならないのでしょうか?二人の幼い子を残していくことほど悔しいことはないと思います。痛みだけでも取ってあげられると良いのですが・・・

その25
伊藤勇 より

Fさんへ
ご主人に心からお見舞い申し上げます。
胃がんから肝臓へ転移、腹水や、痛みに苦しんで居られるご主人を傍で看病されているあなたのご心情を察すると、胸が詰まる思いです。

私も、痛みや、腹水には苦しみました。痛みは我慢出来ません。体力も消耗します。先ず、疼痛緩和を優先しました。お便りを拝見する限りでは、相当厳しい病状であると思われます。

私の最悪時は、モルヒネ以外に緩和方法無しとの結論で、私も了承しました。
モルヒネは麻薬ですので、幻覚、錯乱症状は付き物です。また薬の効き方にも個人差があって、その人の感受性で痛みの度合いも違って来るので、体質、性格などで個々に使い分けながらのホスピス療法です。また、使ってみなければ解らないという薬でもあります。

私のモルヒネ使用の経緯をお話しますと、通常1錠を6時間置く所を、もう一時間、もう一時間と、我慢して、我慢して間隔を延ばしつつ、次の痛みがやって来た時は、モルヒネより弱い疼痛緩和剤にし、温熱療法を併用したり、色々先生と相談しながら試みました。

モルヒネ服用は、せいぜい3〜4ヶ月が限度とされていますので、上記のような事を繰り返しながら、とにかく、薬の量を増やさない様に努め、何とかモルヒネから逃れる事が出来ました。幻覚も多少ありましたが、聞いていた程ひどいものではなく、どちらかと言うと、副作用は少なかった方だと思います。

私は、現在でも、心臓手術による後遺症で、膠原病や、心房細動、腹水も溜まっており、HPにもありますように、何度か危篤状態にもなりました。

しかし、この間、私は決して諦めず、自分の病気なのだから、医者でも薬でもない、自分で絶対治してみせる!という固い意志で、もちろん、先生や薬の助けを借りながら「否定も拡大もせず」に、事実をそのまま素直に受け入れて、治る事を常にイメージして、その日が来るまで日々明るく笑顔で過ごす姿勢で生きて来ましたし、これからもこの信念は変わりません。

あなたの場合、患者ご本人の意識を待つしかないといういら立ちや焦りはあるでしょうし、あなたも、ご主人も幼いお子様を抱えてさぞかしと、お察し申し上げます。

今は、苦しい真っ最中のご主人ですから、冷静な判断や、決断が出来ないでしょうから、あなたは、しっかりして、「もうどうにもならない」と何度も宣告されたご主人の身体の痛みだけでも、早く緩和する方法を先生に相談して下さい。
痛みが和らげば、ご主人も、あなたも平静な心で会話が出来るようになるでしょうから、食べたいものなどを聞いて叶えてあげたり、会って見たい人、やって置きたい事、言っておきたい事などが聞き出せると思います。

モルヒネが効かない場合には、眠薬の処方や、人工呼吸器の装着となるでしょうが、これは、意識レベルを下げますので、痛みは少なくなるでしょうが、もうろうとした意識の中で、果たしてちゃんとした会話が出来るかが考えられます。

私は、何度か経験したICU(緊急治療室)では、綺麗な花畑で、亡き妻が川の向こう側から手招きをする姿に、思わず飛び立とうとした瞬間に、現世に呼び戻されたという臨死体験もしました。人口呼吸器や、眠薬は、興奮状態は治まりますが、上記の様な幻覚も現われます。
先生と、納得行くまで話し合いをされて決断をして下さい。

また、私が最悪時に思った事は、もうこれで、私の人生は幕引きか・・・と覚悟した時、ふと、このまま病院のベッドで死を迎えるより、例え一時間でも10分でも、我が家へ行って見たい、今まで長年住んだ我が家をもう一度、この目で見届け、見納めとしたい、と思いました。

他の患者さんの例でもその様な話は聞きますので、幼いお子様に、ご自分の家で逢わせてあげるのも出来たらやらせてあげたいと私は思います。残された時間が僅かであるという切羽詰った状況下で、お若いあなたが一身に背負って居られるお姿を想像すると、痛々しく思います。

妻として、母として、しっかりと、強い覚悟で望まれん事を願っております。

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