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がんを明るく生きる-前立腺癌の末期から生還した伊藤勇のサイトのホーム

末期癌より生還した伊藤勇への相談の手紙とその返信

その10
水を飲むのもやっとの母です。ホスピスへの転院を勧められました。

Hさんより
私の母の事ではじめてお便りします。
昨年11月に大腸がんの手術をし、今年5月肝臓に転移があることがわかりました。6月から抗がん剤の投与をはじめましたが、副作用でしょうか食欲減退、倦怠感などの症状が出て元気がなくなり抗がん剤を終了しました。今現在入退院を繰り返してます。

CT検査をしたところ癌が思った以上に大きくなっていて(一番大きいので10cmぐらいだということです。)医者からホスピスの転院をすすめられました。
最近の母は水を飲むのもやっとで食べ物はほとんど口に出来ません。肝臓の腫瘍が胃を圧迫してる様子で、胃痛もあります。何とか痛みを取って食事が出来る事を望みます。

その後伊藤様はお元気で過ごされてますか‥生きて患者さんはじめその家族に勇気をください。ありがとうございました。

その10
伊藤勇 より

Hさんへ
お母さんに心からお見舞い申上げます。
昨年11月に手術を受けられ、半年後に肝臓への転移。その後の必死の治療にもかかわらず、お母さんの今のご容態を見ると体験者の私には、その苦しさたるや如何ばかりかと十分に理解できます。

肝臓の腫瘍が胃を圧迫しているので、痛みはもちろんの事、熱もあるでしょうし食欲どころではないでしょうね。この体力では、手術も無理でしょう。先生は、その都度、対症療法で何とかその場をしのいで行くという方法を採って行く中で、家族にはそれとなく終末期である事を告げ、ホスピスへの転院を勧められたのだと思います。

私が、お便りを拝見した限りでも相当厳しい現実を迎えられたように感じております。ホスピスの話があると一般的にはすぐに「死」というイメージで拒否反応が現れがちですが、患者さんの痛み、苦しみを取って、穏やかな心で過ごせる事を何よりも最優先させる病棟です。

先生から色々説明は受けられたと思いますが、まだ不明瞭な点や、不安感があなたの中におありなら、そのままにせず、納得いくまで先生の説明を受けまた、事前に見学をする事も充分可能です。

ここは、あなたが厳しい現実を直視して、お母さんを苦しみから早く解放してあげる決断をされる段階だと私は正直に思いました。ホスピスに入って、その人に合った温かいケアを充分受け、時々外泊したり自由に過ごしている知人も多くおられます。

さて、今食べ物も殆ど受け付けない、水を摂るのもやっとのお母さんですが、その苦しみの体験を何度か味わった私は、果物、例えばメロンを食べてみたいと思ったら、実際には食べられなくても、その汁をちょっと口に含ませてもらっただけでメロンを充分味わった感触が得られたのです。
アイスクリームの舌に感じる冷たい感触も、とても気持が良かったのです。食べなくては体力が無くなるという焦りは捨てて、今、気持ちいい事を色々試して行く事で心は安定します。

いつかは別れの時が必ず来ます。
あなたはここで、しっかり覚悟され、落ち着いて、お母さんが心安らかに旅立たれるよう看護してあげて下さい。

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