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がんを明るく生きる-前立腺癌の末期から生還した伊藤勇のサイトのホーム

末期癌より生還した伊藤勇への相談の手紙とその返信

その1
余命1ヶ月痛みに耐える父。大好きな父を看取る自信がありません

Sさんより
私の父は50歳。肝細胞癌からリンパ節に転移してしまいました。肝臓癌からリンパ節への転移は稀らしく、進行がとても早いという事でした。頑張ろうとしている父の気力を奪っているものは、リンパ節に転移した癌。神経に触っているようで、入院してから4ヶ月間父は痛みと戦っています。今は、静脈からモルヒネの点滴をしています。「痛みさえなければ何クソ!って思えるのに・・」と父はいいます。

当初の余命は3ヶ月。現時点では1ヶ月と言われました。腹水でお腹はパンパンです。胸にも溜まってきました。入院してから、口から食事を取っていません。ずっと点滴です。それでも諦めのつかない私は現在入院している病院からカルテやMRIを借りて、弟と二人でセカンドオピニオンを受けに行きました。

そこでも余命は長くはないと言われました。覚悟はしていたものの、号泣してしまいました。モルヒネのせいで寝ている時は意識がもうろうとしていますが、起きている時は気丈な父の姿がまだそこにはあります。父に余命の事は話していませんが、自分ですでに分かっているようです。

痛みがなければ家に帰りたいと言う父。でも、耐え難い痛みに恐怖感があり病院にいるしか出来ない。そんな父を見ていると辛いのです。父のことが大好きなんです!父の最期を看取る自信がありません。母も父を一途に愛してきました。その母を支えるのは私達姉弟なのに、その私が現実と向き合う事が出来ません。どうすればいいのか分かりません。

その1
伊藤勇 より

Sさんへ
お便り拝見しました。お父さんは、今ほんとうに辛いだろうなと私も心からその苦痛は理解できます。そして、あなたを始め、ご家族のご心痛は如何ばかりかと読みながら思わず涙がこぼれました。心からお見舞いを申し上げます。

腹水は辛いです。まして、胸にへも溜まって来ては痛いのはもちろん、息は苦しい、食欲などもちろん出て来ません。思い切ってセカンドオピニオンを選択されたことは、私は良かったと思います。そこで、改めて一ヶ月の余命宣告を受けられたということは、一刻の猶予もないということ。治る望みは万に一つだと、早く気持を切り換えなければいけないという、ご家族への宣告でもある訳です。その短い時間にいずれ訪れる別れに対して心の準備をしなさいとか、身の回りの整理をして置きなさいとの心積りを促しての宣告と受け止めるようにして頂きたい。

ご本人もご自分の身体の状況が切迫していることは当然認識されておられると私も感じます。苦痛への恐怖と、孤独感は言いようもなく、体験者として胸が詰まります。現実を受け止められないあなた達のお気持は解かりますが、お父さんは今、それ以上に寂しい所で、必死に闘っておられるのです。苦しみながら、これから一人で逝かなければならない、それは解かっていても、せめて、それまででも誰かそばにいて欲しいのです。

あと、一ヶ月、何を置いても、お父さんの傍にいてあげて下さい。先生とも相談して、疼痛緩和の処置をされて、痛い、苦しい、から少しでも解放される時間が出来ることを考えてあげて下さい。誰にでも訪れる辛く悲しい別れの形は様々です。一瞬の間の別れもあります。お父さんに充分感謝の言葉を伝え、お父さんの子供であったことへの礼を尽くして看病に専心して下さい。お父さんが気にかけておられるであろうお母さんの事など、心配を和らげ、安心して旅立たれるように、あなたの気持をしっかりとした態度でお示しになってお父さんを安心させて上げて下さい。

パニックの渦中に居るあなたに、ちょっときついお返事だとは思いますが、労わりの気持を込めてお返事させて頂きました。 お身体に気をつけてね。

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