六十年周期に人は飽きや疲れや節目を感じて……。
「新しい! と思ったとき、それはもう古い。それ
がアヴァン・ギャルドなんだ」
O画伯の口調は激しく続いた。
太平洋戦争も終わり、日本人は空腹も満たされ、平和になるや、いろいろな欲望もわいて芸術にも目覚めた。当時学生だった私もその一人だ。
東京下町の焼け残りビルの一室を無料で借り、芸術を目指す若者数人で講演料をかき集めて、憧れの画家、岡本太郎を招いて話を聞いた。
「既成の芸術をまず否定せよ! それが新しい芸術だ!」彼のアヴァン・ギャルド論は、戦前の平和な感覚ゼロの若者たちにはチンプンカンプンだが「パリ育ちの芸術家は違うなあ」と、刺激的な魅力を感じたものだ。
焼け跡からゼロでの出発には、何でも新しい感覚が必要だった。
新しさを追い続けて半世紀が過ぎた。
半世紀超えれば還暦だ。暦がえりとも言うが、六十年周期に人は飽きや疲れや節目を感じて、ふと過去を眺めたりもするようだ。
そこで「昔はよかった!」という懐古趣味の「お宝拝見」的流行現象にもなる。新しさから古さへの逃避だ。
遠く十一、二世紀ごろのロマネスク様式建築や、十九世紀ナポレオン遠征疲れのころに流行した服飾も「古代ローマ・ギリシャ時代はよかっただろうなあ」と、遥かな古代を懐かしんでの、古代コピー・スタイルだった。二十一世紀に入っても無限追求は続く。
戦後からの続きで、もう新しさ追求に飽き、老若ともに疲れてきた。
古きよき時代を懐かしむ還暦派と、アヴァン・ギャルド的進撃派が同時進行しているようだ。較差の拡がりは、ま、仕方ないか?と、どちらにせよ疲れる現代だ。
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