薪で走る汽車に乗り、かなり走ったはずなのに、前の駅や景色が再び見えてきたりして不安だった。広大なブラジルの鉄道事情、半世紀前の旅だ。
「鉄道を敷設したときにね、政治家は英国の建設業者とレールの長さで契約しやがった。だから都合のいいように駅も作り、くねくねと蛇みたいに長い鉄道になっちゃって……」
と、あとでそれを知ったが、売り絵かついでの行商はつらくて悲しかった。
あまりにも広すぎるこの国で、日本が絶望的に遠くなっていった。
「この辺に首都を作るんだって」
ブラジリアという新首都に決まったというその辺りは、呆然とするような草原というか、荒野でしかなかった。この広大な国のど真ん中に? 鉄道もないし、あっても薪で走るあの汽車じゃあ、気が遠くなる場所だ。
「いやあ、それほどノンキな国ではない。いきなり空路での首都になるんだよ」
二十年後に再訪すると、ブラジリアは立派にできていて、サンパウロからの空路は当たり前。
さらにその十数年後の再訪は、日本からの空路も加速し、半世紀前に貨物船でパナマ運河を越えて行った長旅がうそのように、地球は狭くなった。
近ごろ流行の、安価な外国旅行ツアーで、世界を見たという人の話題は空しい。
「ラテン・アメリカ回ってきたわ。サンパウロもリオヘも行ったわよ……」
「懐かしいなあ! で、サンパウロはどうだった?」
「それほどの所じゃなかったわね……」
「どういう所へ行ったの?」
「空港から夕方ホテルについてえ、翌朝早く次のリオ行きだったからあ……でも世界のこれはという所には、だいたい行っちゃったわあ。今度はどこにしようかなあ……」
世界をあまり峡くしないで! 広くしょう!
JR山手線で一周し、東京をほとんど見たよ、ではしらける。伊能忠敬になって世界を見たい。
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