ハッピーエンドレス

     

     ごあいさつ         長尾みのる


 いやあ、歳をとりますと、頭の中の引き出しから、多種多様のガラクタが出てくるんです。
 長い人生の垢ですかね、引き出しの奥に取り残された小さな自分史のごみでしょうか。
  ガタピシ開けると、面白いの、懐かしいの、くだらないの、嫌いなの、とキリなしです。
 空っぽの引き出しにも何か入っているはず。でも都合悪い事は忘れてしまえる年寄りの役得があります。
 若いころ、いや子ども時分に聞いた年寄りの独言ふうの一言も、いまの自分にはお宝です。

 子どものころ、近所の老人は江戸の生まれ、「ご維新の時にゃあ」なんて娘時代を物語り、「西洋式の婦人服を縫ったのは私が最初だったのよ」がご自慢でした。

 銭湯の湯船で「ガキのころ、薩摩屋敷が燃えるのを見てたまげたもんだ」と大声で聞かせる爺さんもいたし、牛乳屋のおじさんは、辛い兵隊時代の日露戦争体験談が楽しそうでした。おじさんちはミルクホールもやっていて、シベリアというケーキも出していました。

 何気なく見聞きした遥かな過去のガラクタ知識が頭の中に溜まっていて、歳を重ねるたびに思い浮かべりゃ、そのガラクタも頭のオモチャになる楽しい材料というわけです。妙なもんで、その苦楽大小ひっくるめ、ま、人生面白かった! とケロリと言えるようにもなりました。
 歳を重ねると、頭の中に溜まった苦楽大小のゴチャゴチャも心のお宝なんですね。
 そんなわけで、幸福無限の人生「ハッピーエンドレス」出発となった次第です。老いも若きも、紳士も淑女も、どうぞ一緒にお旅立ちあれ。

長尾みのる(イラストレーター)

    月刊「望星」連載(2003年〜)より。


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