「諫早湾干拓水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策および農地造成に関する質問主意書」

衆議院議員 小 沢 和 秋


 小沢和秋衆院議員は二〇〇〇年十一月三十日に、「諫早湾干拓水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策および農地造成に関する質問主意書」を綿貫民輔衆議員議長へ提出。二〇〇一年一月二十三日、森喜朗内閣総理大臣より答弁書(内閣衆質一五〇第六二号)が送られてきました。以下その全文を紹介します。


○小沢和秋衆院議員
 十月十三日に「諫早湾水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策に関する質問主意書」を提出し、十一月十四日に答弁書を受領した。しかし、以下に述べるとおり、事実に則していないきわめて不十分な答弁といわざるをえない。
 よって、次の事項について再度質問する。

@有明海の漁獲量の変化をどう認識しているのか(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 答弁書別表一で主要魚介類の推移を示しているが、これでは有明海全体の魚介類の推移はつかめない。質問主意書で例にあげたにもかかわらず、アゲマキ、シタビラメ、コノシロ等の推移が示されていないし、有明海では他にもボラ、アナゴ等数多くの種類の魚介類の水揚げがある。しかし、同表ではわずかに七項目が示されているにすぎない。また、統計年も一九九八年(平成十年)で終わっているし、漁獲量も有明海沿岸四県の合計を示したものと思われる。しかし、これでは試験堤防着工以後ここ十数年間の水揚げ高の変動はもちろん、諫早湾干拓潮受堤防閉め切り後の劇的変化は全く明らかになっていない。あくまでも漁獲量に著しい変化がみられないというのであれば、実態を正確に示した資料に基づいて答弁すべきである。漁獲量は政府にその気があれば直近の月まで把握できる。最新の資料を含め、過去十五年間の有明海の県別、漁協別の主要十五種以上の漁獲量の推移を示した上で、漁獲量の変化についてどう認識しているか明確に答えられたい。

漁獲量の推移については総じて減少傾向だが、潮受堤防締め切りの前後で著しい変化は見られない(首相)

●森喜朗内閣総理大臣 
 農林水産省においては、統計法(昭和二十二年法律第十八号)に基づく指定統計調査として海面漁業生産統計調査を実施しているが、これは、漁業協同組合別でなく、漁業に係る社会経済活動の共通性に基づいて農林水産大臣が設定した漁業地区(以下単に「漁業地区」という。)別に調査を実施しているところであり、お尋ねの趣旨の過去十五年間の有明海の県別及び漁業地区別の主要十五種の漁獲量の推移は、別表一のとおりである。なお、漁業地区と漁業協同組合との対応については、別表二のとおりである。
 過去十五年間の有明海の漁獲量の推移については、魚種や地域により増減の傾向に違いはあるものの、昭和六十年以降の期間でとらえた場合、総じて減少傾向にあると見られるが、平成九年四月の潮受堤防締切りの前後でその傾向に著しい変化は見られない。

A長崎・佐賀の漁協ではタイラギの水揚げが皆無、調査と補償を(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 調整池の水質を検討する「諫早湾干拓調整池等水質委員会」(農水省九州農政局設置)が十一月十六日に福岡市で開かれ、事業完成時点での「水質再予測」を今年度中に行うとのことだが、水質汚染は漁業被害という目に見える形で現実に進んでいるのであり、完成時点などといっている場合ではない。長崎県小長井漁協での一時は年間約五億円もあったタイラギの水揚げは皆無で、アサリも全滅に近い。佐賀県大浦漁協のタイラギの水揚げも一九九五年に約二〇〇トンあったものが昨年は皆無である。廃業してしまった漁家もある。干拓事業に際して諫早とその周辺漁協はわずかな補償金しか受け取っていない。第三者による水質調査、底質調査等漁業への影響を解明する調査を行い結果を明らかにすることと、被害状況を反映させた補償を改めて行うのが当然ではないか。

改めて漁業補償を行う考えはない(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 農林水産省九州農政局においては、国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)の実施に当たり、環境監視が適切かつ円滑に実施されるよう長崎県に設置された学識経験者で構成される諫早湾干拓地域環境調査委員会の助言、指導を踏まえつつ、潮受堤防の内外で環境モニタリングを定期的に実施している。これまでの結果によると、潮受堤防の締切りの前後で、周辺海域の水質、底質等において明確な変化が認められないことから、潮受堤防の締切りが漁業に対して影響を及ぼしているとは判断できない。このため、改めて漁業補償を行う考えはないが、引き続き、環境モニタリング等を実施することにより、水質、底質等の状況を注意深く監視するとともに、関係漁業者に対してその結果を説明してまいりたい。

B干拓事業の影響は水質にも現れている、影響を受ける全関係者の意見聴取を(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 「国営土地改良事業等再評価実施要領」に基づく再評価の際、意見聴取を行う関係団体の範囲に長崎県以外の有明海沿岸各県や漁協等を含める考えはないとのことだが、事業の影響は土地だけでなく水質にも現れている。潮流は県境には関係なく循環しており、水産被害は諫早湾を越えて広範囲に広がっている。土地改良法に固執して逃げるのではなく、影響を受ける関係者すべての意見を聴取するのが行政の当然の責務ではないか。

法に規定されていない者から意見を聴取することは考えていない(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 本事業を含めた国営土地改良事業の再評価は、事業の長期性にかんがみ、その効率的な執行及び透明性を確保する観点から実施しているものであり、その結果を踏まえ、必要に応じて土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)に基づく土地改良事業計画の変更を行うこととしている。したがって、国営土地改良事業の再評価の際、意見を聴取すべき関係団体の範囲については、同法において国営土地改良事業の土地改良事業計画の変更の際に農林水産大臣が直接的又は間接的に協議しなければならない相手方を勘案して運用することとしているものであり、同法に規定されていない者から意見を聴取することは考えていない。

C潮受堤防排水門の開閉操作をほぼ毎日行っている、水質の悪化を示すもの(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 周辺漁協からの求めにより、潮受堤防排水門の開閉操作をほぼ毎日行うようになった。これは調整池内の水質が予想外に悪化したため、頻繁に排水せざるをえなくなったとしか考えられない。このこと自体が、調整池の水質が良好に保たれているという宣伝が破綻したことを示すものではないか。

毎日の排水は、海水との速やかな混和のため(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 淡水化が進行している調整池について、そこから排水される淡水と諫早湾内の海水とのより速やかな混和が図られるよう一回当たりの排水量を減少させるために、諫早湾周辺の漁業協同組合等からの要望も踏まえ、試験的に、小潮のため排水できない日を除く毎日、潮受堤防排水門からの排水を行っている。 
なお、二についてで述べたとおり、潮受堤防を締め切り、調整池からの排水を開始した後の周辺海域の水質、底質等は、その前のそれらと明確な差異が認められない。

D昨年の集中豪雨被害で「水害がなくなる」という宣伝は破たん(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 干拓事業が防災機能を高めるともされてきた。しかし、昨年七月に起こった集中豪雨の際には死者一名、多数の床下・床上浸水の被害が出て、諫早市内の九割の世帯に避難勧告が出された。その後、建設省があわてて既設堤防側のクリークの大幅拡張としゅんせつ工事を行い、本明川ダム建設工事も計画されている。このことも、調整池をつくれば諫早市の水害はなくなるという宣伝が破綻していることの証明ではないか。

集中豪雨被害は防災機能の対象区域外の地点で発生したもの(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 平成十一年七月二十三日の大雨は、最大時間雨量が百一ミリメートル(気象庁地域気象観測所諫早観測所)という記録的なものであり、この大雨により、調整池の背後地の一部の家屋で浸水被害が生じたが、背後地において浸水被害が生じるか否かは、降雨の強度及び分布、地域における排水能力、排水先の河川等の水位変化等により総合的に決まるものである。同日の大雨に関しては、調整池の水位を低く保った結果、河川、排水路等から調整池への排水が速やかに行われ、調整池の機能は適正に発揮されたと考えている。なお、この大雨による死者一名の人的被害は、調整池に流下する河川の流域外の地点、すなわち本事業により発揮される防災機能の対象区域外の地点で発生したものである。
 また、平成十一年七月二十三日の大雨以降、建設省(平成十三年一月六日以降は国土交通省)においては、既設堤防側の背後地においてクリーク拡張工事は行っておらず、本明川の河川区域において実施しているしゅんせつ工事、ダム建設等の河川事業については、本明川水系工事実施基本計画(平成十二年十二月十九日以降は本明川水系河川整備基本方針)に基づき昭和四十四年度から計画的に実施しているものである。

E汚染された調整池の水では耕作に利用できないのではないか(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 干拓事業によってかんがい用水が確保された優良農地が造成されるというが、かんがい用水は具体的にどのような方法で確保されるのか。汚染された調整池の水では耕作に利用できないと考えられるがどうか。

調整池の水はかんがい用水として利用できる(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 干拓地のかんがい用水については、全量を淡水化された調整池に依存することとしている。
 調整池は、現在工事中であるが、工事完了後の水質の汚濁源については、内部堤防の完成による干陸部や底泥からの溶出等の減少、調整池の水際での水生植物の繁茂等による巻き上げの減少のほか、調整池流域における生活排水処理施設の整備等水質保全対策の一層の進ちょくによる流入の減少が見込まれることから、工事完了後において、調整池の水をかんがい用水として利用できると考えている。

F干陸による干拓地域で塩害が起こらないという保障はどこにあるのか(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 調整池の絶対高はマイナス一メートル、農地の最低位の絶対高はマイナス三メートルだが、このような土地でなぜ塩害が起こらないのか。今後も地下への海水の浸透が続くことは避けられないと考えられる。また、実証栽培を行ったのはまだ小江干拓地だけで、ここは干陸でない埋め立て地である。埋め立て地だけの実証結果で、干陸による干拓地域で塩害が起こらないという保障はどこにあるのか、明らかにされたい。

干拓地地下に海水が浸透することはない(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 調整池は、現在淡水化が進行しており、工事完了後は、中央干拓地は淡水化された調整池に囲まれることとなることから、干拓地地下に海水が浸透することはない。また、干陸した中央干拓地の土壌中の塩分を除去するため、小江干拓地内の試験ほ場に設置したかんがい施設及び暗きょ排水施設と同等の能力を有する施設を設置するとともに、土壌改良も同様に行い、塩害の発生防止に努めることとしている。

G耕作地の造成より、今ある耕作地の消失に歯止めをかけることが焦眉の課題(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 干拓事業によってつくり出される耕作地(畑)は、計画では千三百二十六ヘクタールになっている。一方、農水省の統計資料によると一九八九年から一九九九年までの十年間に、長崎県内で消失した畑の面積は二千九百ヘクタール(一九八九年の二万八千二百ヘクタールが、一九九九年に二万五千三百ヘクタール)である。この変化の理由についてどう認識し、今後どう推移していくと考えているか。これ以上新たに耕作地を造成しなくても、今ある耕作地の消失に歯止めをかけることが現実的かつ有効で、焦眉の課題と考えられるがどうか。

畑地面積は今後も減少傾向だが、大規模で平坦な優良農地を造成することも重要(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 農林水産省が公表している「耕地及び作付面積統計」によれば、平成十一年の長崎県の畑地面積は、宅地転用や耕作放棄等の増加により、平成元年の約三万五千九百ヘクタールから約七千ヘクタール減少し、約二万八千九百ヘクタールとなっており、長崎県によれば、畑地面積は今後とも減少傾向が続くと見込まれている。
 こうした状況の中で、国としては、中山間地域等直接支払制度の実施等により耕作放棄の抑制や耕作放棄地の再活用を一層進めることとしているが、平坦な農地が乏しい長崎県において生産性の高い農業を実現するためには、大規模で平坦な優良農地を造成することも重要なことであると考えている。

H干拓地の高い地価と農作物の暴落で、農家経営は成り立たない(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 干拓が完成した後の土地価格は、十アール当たり七十万円と提示されている。夫婦の労働力が主体の農家一戸で仮に十ヘクタールを耕作するとして、この価格で購入すれば七千万円となる。農水省の統計調査によると、長崎県の一九九九年の農家一戸当たりの所得は四百七十三万五千円である(農業百三万五千円、農業外三百七十万円)。全国統計でも、五ヘクタール以上の露地野菜農家の同年度の平均耕作地面積は約十三ヘクタール、平均農業所得は十アール当たり約十万四千円、一戸当たり平均所得は約八百五十三万円である。「諫早湾干拓営農構想検討委員会」で示されたモデルでは、バレイショ・タマネギ・ニンジンの組み合わせで、農業所得は年間三千三百万円が示されている。全国平均から考えても、現在の農作物の生産者価格の暴落も勘案すれば、このモデルはとても現実的なものとは考えられない。ここに入植しても農業経営は全く成り立たないのではないか。

干拓地における営農は十分成り立つ(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 本事業の営農計画等についての意見を集約するために長崎県に設置された諫早湾干拓営農構想検討委員会においては、長崎県の農業振興計画や県内の労働力、労働時間、農産物価格、機械・施設装備等を示した「長崎県農林業基準技術」を基に諫早干拓営農モデルを試算しており、このうち、御指摘の「バレイショ・タマネギ・ニンジン」の組み合わせによるモデルの経営内容は、別表三のとおりである。このモデルは、長崎県の大規模経営に対応した営農の技術の実態に基づくものであり、干拓地における営農は十分成り立つものと考えている。
 なお、長崎県においては、本事業により造成される干拓地で早期に安定的な営農が可能となるよう支援策の検討を進めているところである。

I新しい造成地での営農希望者数は(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 いったいどれだけの人が、新しい造成地で営農しようとしているのか。その正確な動向を把握して干拓事業を進めているのか。来年度に諫早周辺の農家に対し、アンケート・面接を行って営農の動向を調べるというが、結果としてどのくらい入植希望者がいれば、この干拓事業が成り立つと考えているのか。また、入植者の見込みが少なければ、どうするつもりなのか明らかにされたい。

二百二十八戸で営農することを想定(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 農林水産省九州農政局においては、平成九年度から三年間にわたって諫早湾周辺地域の農家及び九州各県の農業生産法人に対し、干拓地での営農の意向調査を行ったが、その結果を踏まえ、平成十一年十二月に国営諫早湾土地改良事業変更計画を決定したところであり、その中では、干拓地に入植九十五戸、増反百三十三戸の合計二百二十八戸で営農することを想定している。
 なお、この意向調査結果では、営農意欲の高い畑作や畜産の農家等から干拓地の農地面積を上回る農地利用の要望があるほか、関係行政機関へも直接干拓地利用の希望が寄せられていることから、干拓地は農地として有効に利用されるものと考えている。

J干拓事業は即刻中止すべき、有明海の漁業回復へすみやかに潮受堤防を開け(小沢)

○小沢和秋衆院議員
 これ以上の漁場破壊、環境破壊は絶対に許されない。事業中止はすでに国民的世論となっている。環境破壊により周辺漁民を苦しめ、優良農地造成の保証も入植者の見通しもない干拓事業は即刻中止すべきである。少なくとも有明海の漁業を元の状態に戻すために、すみやかに潮受堤防を開くことを改めて強く求めるがどうか。

本事業を中止し、水門を開放することは考えていない(首相)

●森喜朗内閣総理大臣
 本事業は、平坦な農地が乏しい長崎県において、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、高潮、洪水、常時の排水不良等に対する防災機能の強化を図るものであり、地元から事業の促進を強く求められていることから、本事業を中止し、水門を開放することは考えていない。今後とも漁場を含めた周辺環境にも十分配慮しつつ、本事業の着実な推進に努めることとしている。

1より 抜粋 佐賀 県の主要15種漁獲量の推移( 単位 トン)
昭.60 61 62 63 平.元 2 3 4
コノシロ 1,177 1,477 2,169 2,235 1,925 1,737 1,870 1,597
シタビラメ 145 363 304 232 241 206 207 204
二べ・グチ類 177 222 196 178 185 159 168 177
アナゴ類                
マダイ                
ボラ 163 177 130 132 119 126 164 187
スズキ類 149 106 73 125 82 76 81 72
クルマエビ 89 62 63 42 41 41 55 40
ガザミ類 717 450 371 311 266 326 313 243
アサリ類 517 1,494 889 662 824 396 335 359
サルボウ 3,723 4,706 7,618 10,591 12,383 15,105 12,329 11,504
タイラギ 745 2,129 1,899 990 754 2,482 2,976 1,398
アゲマキ 426 644 655 777 523 330 85 0
コウイカ類 4 4 5 4 8 8 9 7
タコ類 84 77 62 93 97 106 111 92
 
5 6 7 8 9 10 11  
コノシロ 1,655 1,670 1,699 1,462 1,284 1,233 795
シタビラメ 180 163 155 162 153 152 148
二べ・グチ類 141 171 131 143 117 91 90
アナゴ類     6 21 26 27 26
マダイ     2        
ボラ 147 186 194 331 167 135 134
スズキ類 61 70 57 78 38 36 34
クルマエビ 41 37 56 58 39 36 31
ガザミ類 257 231 161 191 179 186 159
アサリ類 398 597 3,275 429 96 64 112
サルボウ 14,253 14,390 11,496 13,349 11,408 7,466 8,171
タイラギ 397 134 343 2,245 1,792 553 79
アゲマキ 1 0 0 0      
コウイカ類 5 3 8 12 8 8 8
タコ類 83 91 79 82 76 60 63

 


諫早湾水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策に関する質問主意書

衆議院議員 小沢和秋

 国民の大きな批判を無視して諫早湾の水門が閉め切られてから約三年半が経過した。当初、この事業は周辺の水域にはほとんど影響を与えないかのような説明が繰り返されてきたが、諫早湾が閉め切られて以降、明らかにその影響と見られる変化が特に有明海における漁業の水揚げ高に見られるようになっている。
 そもそも有明海は、干満の差が六メートル以上もあり、独特の干潟や粘土質のために希少な底生動物をはじめ特徴ある魚介類を育んでおり、周辺漁民は潜水漁業や海苔養殖などで生計を立てている。しかるに、私が現地を調査したところ長崎県境にある佐賀県太良町大浦の漁業関係者は、「諫早湾が閉め切られてから、潮の流れが変わった」「調整池に貯められている海水が河川から排出される汚水と混ざり、ヘドロのような泥水となって悪臭を放っていてこれが時折水門から放出されるため、魚介類が育ちにくくなっている」「諫早湾が閉め切られる前には、産卵のために数多くの魚が集まってきていたが、今では魚が寄りつかなくなった」「タイラギ(貝柱を食用とする貝)がようやく育ち始めたかと思っていると、海底でヘドロが貝を覆ってしまい、酸欠状態となるため育たない」「四代続けて潜水漁業をやってきたが、これでは後継者がいなくなってしまう」等と切実な声をあげ、水門の開放をつよく要望していた。
 現に同漁港の水揚げ高をみると、クルマエビは一九九〇年の四一トンから九八年の三六トンに減少、竹崎カニの名で知られるガザミは九〇年の三二六トンから九八年の一八六トンに激減、アゲマキ貝は九〇年の五〇〇トンに対し九五年以降は〇トンと皆無の有様である。シタビラメやスズキ、コノシロなども同様に減少している。
 これは、古くから「魚介類の宝庫」であった有明海の由々しき現況を示すものであり、見過ごしておける問題ではない。「宝の海」とよばれる有明海の漁業の今後の振興をはかっていくために政府の善処をつよく求めるものである。
 そこで、次の事項について質問する。

一、有明海沿岸における漁業の現況、特にこの一〇年間の水揚げ高の変動及び諫早湾水門閉め切り後の状況の変化をどのように把握しているか。変化の原因をどう考えるか。

二、九州農政局が昨年度から行っている有明海域調査は、どのような調査を実施しているのか、結果から何がわかっているのか。具体的に示されたい。

三、有明海における海域調査の場所を増やし、引き続き状況の変化がわかるよう緻密な調査をするべきと考えるが、政府はどう考えるか。また、生態系の変化についても詳しく調査をするべきと考えるが、どうか。

四、有明海における各種魚介類の水揚げ高の急減に対し、水産庁は同海域における漁業振興のためにどのような施策をとるのか。

五、諫早湾干拓地造成事業の再の際、関係団体として有明海沿岸各県や漁業協同組合などの意見も聴取すべきと考えるが、どうか。

六、大浦、小長井、島原などの漁民は現在の段階で諫早湾の水門を開放すれば、およそ三年で有明海はもとのようによみがえると訴えている。有明海の漁業振興と環境保全、わが国の食料自給率の向上のためにも無謀な諫早湾干拓事業は中止し、水門を開放すべきと考えるが、どうか。

 右質問する。

衆議院議員小沢和秋君提出諫早湾水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策に関する質問に対する答弁書

内閣衆質一五○第一三号

平成十二年十一月十四日
内閣総理大臣 森  喜朗

衆議院議長 綿貫民輔 殿

 衆議院議員小沢和秋君提出諫早湾水門閉め切りによる沿岸漁業への被害対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

一について
  有明海における平成元年から平成十年までの十年間の主要魚介類の漁獲量の推移は、別表一のとおりであり、総じて平成九年四月の潮受堤防の締切りの前後でその漁獲量に著しい変化は見られない。

二について
  農林水産省九州農政局においては、農地の排水対策の効果を左右する干潟について、その発達予測のための基礎データを入手するために、平成十一年度から二年間の予定で、有明海の流況、底質等の調査(以下「本調査」という。)を実施しているところである。
  本調査の調査項目及び平成十一年度の調査結果の概要は別表二のとおりであるが、現在、九州農政局においては、引き続き平成十二年度の調査を実施中であり、その調査結果を待って、最終的な調査結果の取りまとめ及び分析を行っていくこととしている。

三について
  本調査は、二についてで述べたとおり、干潟の発達予測のための基礎データを入手するためのものであり、その実施に当たっては、有明海の海象について専門的知見を必要とすることから、当該知見を有する学識経験者から成る助言者会議の助言を踏まえて調査地点及び調査項目を設定しており、現在、それらについて追加することは考えていない。
  なお、平成十三年度以降の調査の実施については、本調査の最終的な取りまとめ及び分析を踏まえて検討してまいりたい。

四について
  有明海における主要魚介類の漁獲量の推移は、一についてで述べたとおり、総じて著しい変化は見られない。
  なお、有明海は全国有数の沿岸漁場であり、水産庁においてこれまでも沿岸漁場整備開発事業等により漁場の整備や養殖業の推進等に努めてきたところであり、引き続きこれらの施策を実施して漁業振興を図ってまいる考えである。

五について
  お尋ねの「諫早湾干拓地造成事業」は、国営諫早湾土地改良事業(以下「本事業」という。)を指すものと考えられるが、本事業を含めた国営土地改良事業については、事業の効率的な執行及び透明性を確保する観点から、「国営土地改良事業等再評価実施要領」(平成十年三月二十七日付け農林水産省構造改善局長、畜産局長通知)に基づき、事業実施主体である国が定期的に再評価を行うこととしており、その際、関係団体の意見を聴取すべきこととしている。ここで、関係団体の範囲については、土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)において国営土地改良事業の土地改良事業計画の変更の際に農林水産大臣が直接的又は間接的に協議しなければならない相手方を勘案して運用することとしており、本事業について関係団体とは、同法に基づき本事業の事業計画の決定及び変更の際に協議を行った長崎県、諫早市、森山町、高来町、吾妻町及び愛野町であって、長崎県以外の有明海沿岸各県や漁業協同組合等は含まれておらず、これらの者から意見を聴取することは考えていない。

六について
  本事業は、平坦な農地が乏しい長崎県において、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、高潮、洪水、常時の排水不良等に対する防災機能の強化を図るものであり、地元から事業の促進を強く求められていることから、本事業を中止し、水門を開放することは考えていない。今後とも漁場を含めた周辺環境にも十分配慮しつつ、本事業の着実な推進に努めることとしている。


熊本県八代海の赤潮被害の救済に関する質問書

衆議院議員 小沢和秋

 去る七月七日に熊本県八代海に発生した赤潮は、同県天草郡・御所浦町、竜ケ岳町、新和町、本渡市、大矢野町、字土郡三角町、芦北郡・芦北町などの養殖業に甚大な被害をもたらしている。被害総額は、県の発表によれば四十億円余にものぼっており、過去最大の被害となっている。
 特に、養殖業が町の基幹産業となっている御所浦町では、養殖業の六十・三%が被害を受け、被害額は二十七億円と県全体の被害額の六十八%を占め、潰滅的な打撃となっている。同町は昨年の十八号台風で、養殖用のいかだが多数破壊されるなどの被害を受け、激甚災害に措定されていた上に、今回の赤潮被害を重ねて受け、その結果、養殖業者は立ち直ることの出来ない事態に追い込まれている。特にトラフグの養殖は、ホルマリンの使用が禁止されたためブリやカンパチ・シマアジなどに切り換え、八月に出荷予定であったこれらの魚が被害にあったため、今後の収入が全く見込めないこととなった。
 私は八月二十八日に同町に赴き、実情をつぶさに視察・聴取してきた。ある業者は『昨年の台風で大被害を受け、融資も限度枠いっぱい借りている。その上に今回の赤潮の被害で、これ以上の融資が受けられるのか心配だ。新たな融資が受けられねば首をくくらなければならない』と訴えられた。
 また、町長は『今回の被害で町の税収が四割も落ち込むことが予想され、養殖業が立ち直れるかどうかに町の存亡がかかっている』と深刻な危惧を表明されている。
 第一次産業が全国的に衰退している状況のもとで、魚の養殖業は農業と比較しても後継者が多く、御所浦町では七割の業者に後継者がいると言われている。
このような後継青年がいま直面している苦難を乗り越え、夢をもって今後も養殖業に従事していけるように果断な援助措置が必要であると考えるものである。
 よって、以下の通り質問するので、真意をお組み取りの上、文書でご回答戴くようお願いする。

@国、及び水産庁に対して、熊本県からはどのような報告や援助の要請が出されているのか、これに対して、水産庁はどのように対処しているのか。

A被害を受けた養殖業者は、稚魚の購入代、出荷できるまでの運転資金などを緊急に必要としている。共済加入者への給付金の支払いが迅速に行われるよう、関係機関を指導すべきだと考えるかどうか。

B貴庁の説明によれば、災害を受けた場合、農林漁業金融公庫の「沿岸漁業経営安定資金」の融資を受けられることになっているが、この融資制度の概要と、追加融資を受けられるのかどうか、その場合の要件をお聞きしたい。

C前記の災害融資以外にも三種の制度融資があり、これらが活用できるとのことであるが、小規模の単位漁協などでは融資の専任担当者も置けず、資料等も充分備わっているとは言えない状況にある。そこで、三種の制度融資の概要をご教示戴きたい。また、これらの融資制度の周知について特段の措置が必要だと考えるがどうか。

Dすでに借りている融資の限度枠の拡大、据置期間や償還期間の延長が必要であると考えるが、どのようにお考えか。また、新規及び追施融資を受けるにしても担保不足で不可能ということも考えられるので、信用保証協会に特別枠を設けるなどの指導をすべきと考えるがどうか。

E被害を受けた漁業者の窮状を少しでも打開するためには、他の制度も積極的に活用することが重要であると考える。水産庁として労働省へ雇用調整助成金、雇用保険の支給、厚生省へ生活福祉資金の貸付けなどを働きかけるつもりはあるか。

F赤潮による斃魚の撤去費用などは市町村におおきな負担となっている。これらの費用の支出に対しては、「特別交付金」の重点配分が望まれるが、検討されたい。

G最後に、赤潮の発生予防などの研究が重要と考えるが、現在の対策の概要をご教示戴きたい。また、昨年(九九年)五月に成立・施行された「持続的養殖生産確保法」の概要とともに、熊本県八代海沿岸漁協による「漁場改善計画」策定の進捗状況をお知らせ戴きたい。

水産庁からの回答(概要)

@赤潮発生以来、適宜、県より報告を受け、八月二十三日付けで被害状況の確定として魚類の死亡尾数二百九十万一千尾、被害金額三十九億八千三百万円との報告があった。
水産庁では、被害養殖業者に対して、低利の制度資金の融通を行うとともに、既貸付金の償還猶予等が図られるよう関係機関に要請。九月二十七日、熊本県などが制度資金への利子補給を決めた。漁業共済についても、漁業共済組合などへ迅速な損害査定と共済金の早期支払いを要請した。

A国としても、現地に担当者を派遣し、被害状況の把握に努め、漁業共済組合など関係者へ適切な対応をとるよう指導した。
 共済金については、九月は二億三千万円(本渡市漁協及び御所浦漁協の確定分)を支払い、十月に二千万円の支払予定で、以後見込まれる数千万円についても、損害額が確定し次第、速やかに共済金が支払われるように指導する。

B当該資金の融資は、一つの災害に対して一度の融資を行うものであるが、同一の災害でなければ貸付限度額までの追加融資は可能である。(融資の概要は略)

Cこれらの資金については、貸付条件の改定時に、都道府県及び漁協系統等の関係者を集めた説明会を行っており、その周知に努めているところである。熊本県の制度資金の利子補給などの説明のときに(漁連など)、国の融資についても説明があると考えている。(融資の概要は略)

D漁業近代化資金の貸付限度額について、熊本県からは、不足が生じているとは聞いていない。償還期限、据置期間の延長を行わなくても対応可能と考える。融資の限度枠(漁業近代化資金)の拡大については、県から要請があり特段の事情があれば、法人部分について一億八千万円から三億六千万円への貸付限度額の引き上げは可能。
 また、被害を受けた魚類養殖業者に対する資金の円滑な融通が図られるよう、県基金協会及び農林漁業信用基金に対して、適切に指導して参る。特別枠を設けて一律に保証引受をすることは、信用保証業務の健全な運営に支障を来すこととなり、適当ではない。

Eこれらの措置については、制度の中で適切に措置されており、両省に対する働きかけを行うことは考えていない。

F特別交付税の配分については、地方公共団体の状況に応じて自治省及び熊本県が検討を行うものと認識している。過去にこういう例はないが、先日、小沢議員から要請を受けたこともあり、自治省へ要望は伝えた。

G水産庁では、赤潮研究を試験研究の重要な課題の一つとして捉えており、赤潮被害防止を図るため、大学、都道府県等とも緊密な連携を図りながら、赤潮の発生機構の解明、発生予察技術の開発、適切な防除技術の開発、漁場環境監視体制の強化及ぴ都道府県の技術者を対象とした技術向上支援に取り組み、赤潮による漁業被害の軽減に努めているところである。
 「持続的養殖生産確保法」は養殖業の発展と水産物の安定供給に資することを目的として施行され、その概要は
(1)持続的な養殖生産の確保を図るための基本方針
(2)漁協等による漁場改善計画の作成
(3)我が国に未定着の疾病のまん延防止
(4)魚類防疫員による立入検査
等から構成されている。
 熊本県下八代海沿岸域における漁場改蕃計画策定の進捗状況については、以下のとおりである。
 熊本県としては、本法に基づく漁場改善計画への取り組みとして、各漁協が当該計画を円滑に作成するための「漁場改著計画指導指針」を平成12年度中を目途に策定することとしており、現在は養殖漁場の環境調査を実施し、漁場環境の現状把握を行っているところであると聞いている。
 従って、八代海沿岸漁協における「漁場改善計画」の作成及び認定は、上記「海場改善計画指導指針」が策定された後、平成13年度から順次取り組む予定であると聞き及んでいる。


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