竹内 真作品のページ No.2



11.イン・ザ・ルーツ

12.図書室のキリギリス

13.ぱらっぱフーガ

14.ディスリスペクトの迎撃

15.ホラベンチャー!

16.図書室のピーナッツ

17.廃墟戦隊ラフレンジャー

18.図書室のバシラドール


【作家歴】、粗忽拳銃、カレーライフ、風に桜の舞う道で、じーさん武勇伝、真夏の島の夢、自転車少年記、ワンダー・ドッグ、ビールボーイズ、シチュエーションパズルの攻防、文化祭オクロック

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11.

●「イン・ザ・ルーツ」● ★★☆


イン・ザ・ルーツ画像

2011年03月
双葉社刊
(1800円+税)

2014年03月
双葉文庫化



2011/04/10



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サニー・多々良という芸名をもつ、プロミュージシャンである祖父の三四郎。
ある日、高校生から小学生という3人の孫に一人ずつ根付を選ばせ、自分の形見だと言って与えます。それが1998年のこと。
そして、各々の根付に潜む物語を見つけることが、3人に与えた宿題だという。その直後三四郎は一人でヴェガスに旅立ち、それがそのまま家族と三四郎の別れとなります。
本書は、3人の孫たちの3年後、7年後、12年後を描き、彼らが各々貰った根付に潜む物語と祖父たちが送った人生を解き明かしていく、というストーリィ。

最初は、祖父を敬愛する孫たちの家族物語&成長物語という風。
そんな思いで読み始めたのですが、徐々にそんな単純な物語ではないこと、そして予想以上に底深い物語であることに気づくようになります。
折に触れ、
“根付”とはどういった小道具であるかが、3人がそれぞれ偶然出会った形で説明されていきます。
 ※根付の薀蓄も、本ストーリィの楽しい部分です。
3人が子供から大人へと成長していく段階だからこそ、根付が抱える物語に各々思いを馳せ、そして同時に彼らの自分探し、自分のこれからの道探しにも関わっていく、というストーリィ。

本物語には謎かけがいっぱいあります。
まず、何のために祖父は孫たちに根付を与えたのか、さらに何故宿題まで与えたのか。その思いはどこにあるのか。
竜宮城、骸骨と人物、ふくら雀という3つの根付に秘められた物語とは、どのようなものなのか。
祖父のサニー・多々良とはどういうミュージシャンだったのか。
そして、孫たちは各々どんな道を歩むのか。
歩・進・望という3人の孫たちは、結局十年余りを通じてそれらを解き明かしていくことになるのですが、その結果3人が得たものとは何なのか。

本書はある意味、そんな本書の読み処を読み手が解き明かしていく作品でもあります。
派手さこそありませんが、実に巧みで、実に滋味ある家族物語。お薦めです。

1998年秋・小さな三つの形見/2001年夏・博物館と居候/2005年春・フクラとヤッコ/2010年冬・竜宮城と真犯人/2010年秋・タイムマシンの音色

        

12.

「図書室のキリギリス」 ★★


図書室のキリギリス画像

2013年06月
双葉社刊
(1600円+税)

2015年09月
双葉文庫化



2013/07/11



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県立高校の図書室を舞台にした、本にまつわる思いや出来事、本に関するささやかなミステリ話を散りばめた、心優しい物語。
主人公は離婚してバツイチとなり、友人の勧めで学校司書(任期付職員)として採用された高良詩織
そして本書に登場するのは、悪戯っ子のような校長、面倒な雑務は詩織にお任せの司書教諭の英語教師、詩織を囲む図書委員の面々とその他様々な生徒たち。

(題名のキリギリスは「アリとキリギリス」から。主人公が自らをキリギリスに擬えてのこと)

ミステリといっても、そう言われなければミステリとは感じないまま読んでしまっても不思議ない程のささやかなもの。
本好きの人なら、ミステリより、次々と詩織と生徒たちの間で話題に上る本、物語の方に惹かれてしまうに違いありません。
とくに、生徒たちと詩織がやりとりする中、生徒たちが次第に本への興味を募らせていく様子が手に取るように感じ取れるところが、楽しい限りです。
なお、ミステリという意味では
「小さな本のリタ・ヘイワース」の章が抜群に面白い。ちなみにリタ・ヘイワースは1940年代に人気絶頂だったハリウッド女優ですが、この章の題名はスティーヴン・キング作品のもじり。

図書室が舞台ですから、勿論様々な本の紹介、本関連のエピソード話もあって十分楽しい。私の知らなかった本についての紹介話も多く、それこそ、です。
本ストーリィの最後、詩織も生徒たちも一歩前進、というところがまた良い。
高校の図書室からささやかな風が、本の楽しさ、本のミステリという匂いを乗せて吹き渡ってくる作品。本好きの方は是非!

図書室のキリギリス/本の町のティンカー・ベル/小さな本のリタ・ヘイワース/読書会のブックマーカー/図書室のバトンリレー

※本書に登場する本の中で私の既読本には次のようなものがありました。
オー・ヘンリー「賢者の贈りもの」、モンゴメリ「ストーリー・ガール」、太田光「マボロシの鳥
※本書読書後に読んだ本
ケルバーケル「小さな本の数奇な運命」、ヒルディック「こちらマガーク探偵団

    

13.

「ぱらっぱフーガ」 ★★☆


はらっぱフーガ

2015年03月
双葉社刊
(1600円+税)

2018年01月
双葉文庫化



2015/04/15



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中学校で同じ吹奏楽部だった恋人同士、亀井風香宇佐見有人に誘われ、全国レベルの実力をもつ吹奏楽部のある旺華高校を受験して見事合格しますが、あぁ何と!有人が不合格。
否応なく有人は滑り止めだった
私立羽修館学園高等部に入学しますが、吹奏楽部がないと知り大騒ぎ。さっそく吹奏楽同好会を立ち上げ、部員募集の為積極的に行動し始めますが・・・。

風香、有人ともアルトサックス奏者、高校でも同じ吹奏楽部で一緒に頑張ろうと約束していたのに、風香は名門吹奏楽部、有人は吹奏楽部の無い高校で素人たちを集めての吹奏楽同好会と、2人は別れ別れになるだけでなく於かれた状況も雲泥の差。
普通であれば、状況からくる気持ちの擦れ違いから破綻してしまっても不思議ないところと思いますが、本ストーリィはそうならないところが嬉しい。
片やハイレベルな吹奏楽を目指す道、片や仲間たちと一緒に演奏する楽しさを分かち合う道、どちらが上とか正統とかいうことなく、それぞれに目指す道があって良いのだ、ということを本ストーリィは我々に教えてくれます。

そればかりでなく、本書においては、有人たちの羽修館吹奏楽同好会の活動がすこぶる楽しい。有人やその仲間たちと一緒に笑い出したくなってしまうくらいです。
同好会立ち上げのための有人の無鉄砲な行動といい、メンバーである
透田大が先頭に立って学校外にまでどんどん行動を広げていく姿は痛快、爽快と言うに尽きます。
部活動に熱心に取り組む風香たちの姿も勿論高校生らしい貴重なものですが、有人や透田たちの果敢な行動からは、子供たちがもつ可能性の無限さを目の辺りに見る思いです。
 ※映画「スウィングガールズ」を彷彿させる処もあり。

表紙絵から、吹奏楽部を舞台にしただけの単なる学園青春ストーリィと思っていたのですが、流石は竹内真さん、その切れ味のよさを久々に味わった気分です。 是非お薦め!


プロローグ・合格発表と入学手続/一年一学期・爆音練習と奇襲作戦/一年夏・宝探しと応援曲/一年二学期・条例案と定期公演/一年三学期・アンサンブルと初ステージ/二年一学期・CMTと新人指導/二年夏・ランダンプレとミストーン/二年二学期・ペナルティーとラストステージ

          

14.
「ディスリスペクトの迎撃 ★


ディスリスペクトの迎撃

2016年01月
東京創元社刊
(700円+税)



2016/02/22



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銀座のさる文壇バー“ミューズ”が舞台。アルバイトバーテンダーの了を語り手に、ミステリ小説の大家というべきベテラン作家=辻堂珊瑚朗を謎解き役に据えた安楽椅子探偵もの連作短篇集、シチュエーションパズルの攻防に続く第2弾

竹内真さんは最初の頃からのファンなのですけれど、本連作短篇集については前作同様、イマイチ物足りず。
基本は日常ミステリ、安楽椅子探偵という設定の所為もあり、緊迫感や切実感が薄いからでしょう。
なお、今回はサンゴ先生の作品「海無し県殺人事件」を原作とするTVドラマ<平田佐平次の謎解き紀行シリーズ>を巡って次々と事件というか挑戦が湧き起ります。それらがインターネット絡みである処が現代的らしい。
登場人物は主役の
辻堂珊瑚朗、そのライバル作家にして毒舌を交わし合う悪友でもある藤沢敬五、了の叔母であるミューズのミーコママに、きらびやかなホステス嬢のお姉さんたち(古株のミリ、若いルミ、ミク)、TVプロデューサーの加茂等々。

「チェスセットの暗号」:藤沢先生が注文した木彫りのチェスセットに仕組まれたメッセージの解読に挑む篇。
「ファンサイトの挑戦状」:TVシリーズ2回目の脚本予想がネット上に公開されてしまう。頭を抱える加茂プロデューサーをどう救うのか。
「トラブルメーカーの出題」:TVドラマのロケ現場(琵琶湖)で、本書中例外とも言える殺人事件が発生。犯人は?
「ポー・トースターの誘拐」:ドラマ台本が何と誘拐され、身代金は犯人による出題の謎解き。
「ディスリスペクトの迎撃」:クイズ番組「ドラマ対決! 出題ミステリー」を巡って皆が賑やか。

チェスセットの暗号/ファンサイトの挑戦状/トラブルメーカーの出題/ポー・トースターの誘拐/ディスリスペクトの迎撃

          

15.
「ホラベンチャー! ★★


ホラベンチャー!

2016年03月
双葉社刊
(1600円+税)



2016/04/30



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大学卒業後務めた食品系商社の早期退職勧告を受けて退職してしまった洞山真作30歳、法事で集まった親族一同の前でついベンチャー起業の予定とホラを吹いてしまい・・・・。

嘘から出た真、そこから本当に真作のベンチャー立ち上げ物語が展開されていきます。
経緯からして軽い起業滑稽譚と思いきや、どうしてどうして本格的なビジネスストーリィ。仲間を集めてアイデア、準備、試行から本格的スタート、その後の急転・挫折とそれだけでもそれなりに読み応えある展開です。
しかし、本書は単純な一面的ストーリィには終わりません。
というのは主人公の真作もその一員である
洞山(ほらやま)家、故郷の白笹ではそこそこ知られたホラ吹きの家系。
真作を主人公とした現代ストーリィに並行して、江戸時代に洞山の名を頂戴して藩主から苗字帯刀を許された
太一郎から始まる代々の昔話が語られるのですが、どんな秘密が隠されているのかといった興味をかき立てられて、これもまた面白い。
そんな現在と過去の物語が最後、どのような形で結びつくのやら。まるで推理小説の謎解きを待つような気分です。

本ストーリィのミソは、事業計画を立てるのはホラを吹くのと一緒、そう考えれば成否の心配などそっちのけで動き出せる、ホラ吹けば皆が楽しくなる、というところでしょう。

まぁ都合良過ぎる展開もありますが、ベンチャー起業とはホラを吹くのと同様という一言は、慧眼と言って良いのではないでしょうか。
題名の印象とは異なる手堅さのある一方で、昔話・ホラ吹きといった物語の面白さも味わわせてくれるストーリィ。
本書を機に竹内真ファンが増えてくれると嬉しいかぎりです。


1.草ベンチャーと山比べ/2.人工知能と襲撃作戦/3.同時多発街コンと丸裸手拭い達人/4.闇の奥の虹色

   

16.

「図書室のピーナッツ ★★


図書室のピーナッツ

2017年03月
双葉社刊

(1600円+税)

2020年02月
双葉文庫



2017/04/14



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県立高校の図書室を舞台、そこに任期付職員の学校司書として採用された高良詩織を主人公とした、図書室のキリギリスに続くシリーズ第2弾。

前作はちょっぴりミステリといったストーリィでしたが、本作は“レファレンス”がテーマ。
図書室に集まる生徒たちから詩織がいろいろと質問を受け、詩織自身で市立図書館へ出向き調べてみたり、生徒たちに自分で調べてみようと課題を与えたり、資格をもっていない“なんちゃって司書”ではあるものの、生徒と一緒に成長しようとする詩織の姿が描かれます。
そうした経緯から、通信大学に入学して司書の資格を取るための勉強を始めたことも、詩織の成長の一歩と言って良いでしょう。

そんな展開から前作に比較すると地味な印象を受けますが、課題となった本についていろいろ掘り下げていく辺りはむしろ深みのあるストーリィになっています。ただ、私がそれらの本を全く知らず、あるいは読んだことがなかったため、興奮する面白さという処まではいかなかったのがちと残念。
※なお、題名の
「ピーナッツ」は、私がてっきりそうと思い込んでいた落花生ではなく、スヌーピーの方でした。

物に込められた思いを感じることが出来るという、ささやかな超能力を持っている詩織、本ストーリィでその能力が関わるという展開はありませんでしたが、詩織の身に降って湧いたロマンスには関わっているようです。

高校の図書室という場所、詩織の周りに集まる生徒たちと詩織が醸し出している柔らかで楽し気な雰囲気、そんな空気が羨ましくなるくらい素敵です。好いなぁ。
今後の展開が楽しみです。


1.サンタクロースの証明/2.ハイブリットの小原庄助/3.ロゼッタストーンの伝言板/4.ピーナッツの書架整理

       

17.

「廃墟戦隊ラフレンジャー ★★


廃墟戦隊ラフレンジャー

2018年09月
双葉社刊

(1600円+税)



2018/10/11



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題名、表紙絵からすぐ分かるのは、特撮アクションものTV“スーパー戦隊”のモジリだということ。

大学の演劇サークル
“ラフプレイ”がまず出発点。
新たに入部した新入生たち、5人ずつ2組に分けられ、主人公が属する組では、男子4人・女子1人という構成になったこと、スーパー戦隊ものが大好きなメンバーがいたことから、ヒーローものをやろうということで意見がまとまり、結成されたのが
“寸劇戦隊ラフレンジャー”という次第。

ストーリィは、2003年から始まる大学演劇サークル当時の、ラフレンジャーを演じて面白く楽しかった学生時代の回想と、その10年後である2017年現在を交互に綴るという構成。

10年後、社会人となった5人の状況は様々です。芳しいと言える状態では必ずしもない、というのが内4人の状況。
そのうちの2人が偶然に再会したことから、かつての仲間が最終的に結集、再度ラフレンジャー結成を試みますが、所詮お遊びにつもりに過ぎなかったことが、一転して、とんだ現実のヒーロー活動に変化してしまいます・・・。

お互いに役どおり、
「ブルー」「イエロー」「レッド」「ピンク」「グリーン」と呼び合うようになった、という5人の学生時代がとにかく楽しそうで、十分盛り上がったという印象。
そして10年を経て再会しても、お互いに当時の呼び名を呼び合うことによって、当時の仲間関係がすぐにまた繋がっていく、という辺りは実に心憎い。

一人一人、それぞれ異なった個性が楽しい。だからこその5人戦隊なのでしょう。それに加えて、もう一人のメンバーという設定も、決して閉鎖的ではない、自己満足ではない、という広がりが感じられて嬉しい。

子供の頃の心情を今も忘れないでいる大人たちにとっての、青春&再青春ストーリィ。
竹内さん、実にオツなストーリィを書いてくれましたねー。そこが竹内真さんの魅力、と言いたい。

※10年前と現在、いろいろな道具が進歩しています。その比較を味わうのも、楽しき哉


1.ラフレンジャー、集合!/2.ラフレンジャー、疾走!/3.ラフレンジャー、変容!/4.ラフレンジャー、本番!/5.ラフレンジャー、挑戦!/最終幕.ラフレンジャー、告白!

        

18.

「図書室のバシラドール ★★


図書室のバシラドール

2020年03月
双葉社

(1700円+税)



2020/05/05



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県立高校の図書室を舞台、そこに任期付職員の学校司書として勤務している高良詩織を主人公とするハートフル・ブックストーリー第3弾。
冒頭、司書資格を取るために受講している通信教育で義務付けられているスクーリングに、詩織が通うところから始まります。
 
なお、本作題名の
「バシラドール」とは何ぞや? 
ネット検索しても判りませんでしたが、
スタインベック「チャーリーとの旅」という作品の中で生み出した造語、<目的地に急ぐより旅そのものを楽しむ人>のことだそうです。

「夏休みのバシラドール」
2年生の
大隈広里、一週間も連絡がついていないとその父親から学校へ相談ごと。自転車での一人旅ではないかと思われるが、行き先も期間も全く不明。
それを知った図書室常連の生徒たちが、大隈の行動を突き止めようとSNSで情報収集。インスタで発見した写真を基に行き先を推測しようとするのですが・・・。
旅行好きにはたまらなく楽しく、かつ羨ましくなる篇。

「文化祭のビブリオバトル」
2年生の大木葵が図書室ノートに「ビブリオバトルをやろう!」と書き込み。文化祭での開催を目指し予行練習等々。
本好きにとっては楽しい限りですね、本トーク!

「来年度のマジックシード」
図書室ノートの書き込みを巡り、3年生徒と大隈が喧嘩。
司書として仲裁の道はないかと考えた詩織、新人教師の
安永桃瀬先生に諮り、“メディアリテラシー”をテーマにランチ講演会を企画します。
当篇、安永先生の
「走れ、メロス」評に痛快な面白さあり。

※ビブリオバトルに興味を持たれた方、
山本弘「BISビブリオバトル部」シリーズも是非どうぞ。

1.夏休みのバシラドール/2.文化祭のビブリオバトル/3.来年度のマジックシード

   

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