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「小さな本の数奇な運命」 ★★ 訳:望月紀子 原題:"AUTOBIOGRAFIA DI UN LIBRO" |
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2013/07/13
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竹内真「図書室のキリギリス」の中に登場していたことから読んだ一冊。 本書における主人公は、前代未聞、一冊の本です。 蔵書家に購入された一冊の本が、自分が最後にいた書店でのことを自ら語った物語、という趣向。 主人公は刊行されてから既に60年が経ち(と言っても、本としての人生は未だそんなに長くないと彼は言う)、もう幾度か古書店を巡った経験のある一冊の本。刊行されてからの読者は4人という。 しかし、最後の古書店で主人公たるこの本は重大な岐路に立たされています。ヴァカンスまでに売れなければ廃棄処分というのがその運命。 古書店の棚で自分を買ってくれる人を待ち望みながら、過去が回想されます。初版本としての誇らしい気持ち、初めて女性に手に取ってもらった時のワクワクするような気分、そして現在、自分に手を伸ばして手に取ってもらいたいという切ない気持ち。 本に対する想いをその逆側から描かれているようで、面映ゆいような、嬉しいような、そして楽しい気分が味わえます。 モノを主人公にした忘れ難い作品に吉村昭「少女架刑」(「星への旅」に収録)がありますが、その主人公が恬淡としていたのに対し、本書主人公はまだ伝えたいことがある、まだSMSなどに負けちゃいられないと血気盛んなところが嬉しい。 |