素朴な養老魂

 そんなこんなで滝から1.7キロほど歩いたところで遊歩道を離脱。
 行きよろしく、急な階段をぜぇぜぇ言いながら登り切り、渓谷から一般道へ。


 帰る途中、「幻の滝入り口→」…と、いう怪しい看板を見つける。

 まだはぁはぁいっている私に向かって、垣根越しにわんわんと吠え盛る犬。
 立ちつくしていたら、3匹の子犬が、きゃんきゃん言いながら飛び出してきた。どうやら、垣根の向こうにいるのは、この子たちのママらしい。

 子犬に続いて、おばさんが出てくる。
 「折角ここまで来たんだから、幻の滝も見てってよ。」

 どぉやらただ(無料)らしいので、いぶかりながらも見に行ってみる。入り口を入ると意外に広く、テラスのようなものがもうけられ、40人くらいはそこで座って軽食を楽しめるようになっている。どうやら繁盛期だけ(?)軽食屋をやっているらしい。

「ズームイン朝で紹介された草餅」という、おそろしく色あせた紙がべたべたとあちこちに貼ってある。

 それだけでなく、広口瓶に漬けられた、自家製のお酒・ジュースがあちこちに配置されている。
 …もしかしたら、美味しいのかもしれないけど、理科実験室にあるホルマリン漬けを彷彿とさせて、とても(私は)飲む気になれなかった。


 そんな怪しげな空間を抜けた先に広がる景色は、絶景であった。

 真下に滝が見え、滝壺はプライベートビーチのような溜まりを作っている。
 テラスから、滝壺に降りることが出来るようになっていて(足腰を鍛えてないとつらい落差だ)、夏に来て泳ぎたいなぁ、と思った。

 その滝は、養老渓谷を流れる川に直接注いでおらず、この軽食屋を通ってしか見に行くことが出来ない。だからこそ付加価値をつける意味でも「幻の滝」なんてつけたのだろう。

 おばさんにお礼を言って幻の滝を後にする。


 後は旅館に向かって1本道を歩くのみ、だ。
 辺りは耳が痛くなるほどの静けさに満ちている。時折通る車の音に、妙にほっとしてしまう。


 だらだら歩いていたら、1匹の犬がどこからともなくやってきて、私の前を、てってって…と、軽快に歩いていく。

 私は丁度淋しくなっていたこともあり、その犬(白と黒のブチ犬。その模様があまりにもホルスタインっぽいので、私は「ホル」と名付けた。首輪をしているので、どうやら飼い犬のようである)の後を急いで追うことにした。

 ホルはあちこちでおしっこをしている。
 いちいち砂をかけているので、大きい方かなぁ?と思ってのぞき込むと(当然いやな顔をされる)、毎回おしっこ。…どぉやら、きれい好きの犬のようである。

 道中(2.5キロくらい一緒に歩いた)、あまりにもおしっこをするのでホルに聞いてみた。「おまえ、どんな膀胱してるわけ?!」

 ホルはふんっと鼻を鳴らして、またてってって…、と小走りに走っていく。
「ホルぅ〜、待ってぇぇ〜」と、言って追いかけるが、つれない様子。嫌われたもんである。ちぇ。


 そうこうしているうちに、「新川」に着いた。ホルは旅館のすぐ近くまでついてきたが、おしっこをまき散らしながら(と、いうのはホルの名誉を汚しているなぁ。相変わらずあちこちにマーキングをしながら、ということにしておこう)どこかへ行ってしまった。


 「ただいまぁ…」と、言うと、おっさんが出てきた。

ダンナ「どぉだった?結構早かったね。」
かづよ「そぉですか?楽しかったですよ。…ところで、何か食べるものはありますか?」
ダンナ「ない。」(かなりきっぱり。)
 …時間は14:00を回っている。歩いたせいもあって結構お腹が空いてしまった。

ダンナ「隣が食堂だから、聞いてみな。暖簾締まってても、やってることあるから。」

 …かなりのボロ屋だったので乗り気はしなかったのだが、仕方なく聞きに行ってみる。
 暖簾をしまっていたこともあって、主はいるけど、すげなく「準備中です」と、断られる。

 すごすごと戻ってその旨をダンナに伝えると、「ちぇっ。商売っ気ねぇな…」なんて、悪態ついている。おぃおぃ、隣と仲良くしなさいよ。

 ダンナに近くのコンビニもどきを紹介されて、そこでピザまんと、パンを買ってきて部屋でもそもそと食べた。
 …何だかなぁ…。
 旅館に来て、食べ物の持ち込みを推奨されたのは生まれて初めてのことである。


 食べ終えて、お風呂に入って(その間、ダンナはゴルフの練習を熱心にやっていた)ブラックアウト。

 起きたら18:00の夕飯の時間になっていた。

 夕飯は昨日のステーキがウナギのたれ焼きにスライドしたくらいの感じ。
 昨日のステーキ同様、このウナギも結構イケる。肉厚でやわらかく、骨が全くなかった。スバラシイ。


 食べ終わってから、洞窟風呂へ。

 あまりにもJAF MATEに載っている写真と違うので、人がいないのをいいことに男湯の方も覗いてみた。

 「……。」
 明らかに男湯の方が造りがいい。半分露天になっていて、広く、これは入る価値がある感じ。
 ここの宿は、お風呂の交代をしないので、私は男湯の方に絶対入ることが出来ない。悔しいなぁ。


 思い切って男湯の方に入ってやろうかとも思ったが、一人だと意外に根性なくって(ヘタレ…)、やめました(笑)。

 あとは、くったりして、寝ちゃっておしまい。明日へ続く。

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