1 一種の家出
…ノブの機嫌が悪く(1月〜2月前半くらいまでのこの時期、受験があって気が立っているから)、一緒にいると毎日けんかしてしまいそうなので、旅行に出かけることにする。
どこに行くのか決めないまま、家を飛び出した。
はぁぁ。2月22日、昼下がり。金沢から帰ってきた次の日のことである。…ノブには言わなかったが、25日に友達の出産のお祝いに行かねばならぬので、24日の夜に帰宅することになるであろう。
さて、2泊3日、どうしようか…?
実は気になるところがあって、手にはJAF MATE(日本自動車連盟が毎月発行している小雑誌。JAFの会員になると、いらなくても勝手に送りつけられてくる)をしっかりと握りしめている。
今月号に『ほっとする 房総温泉めぐり』なるページが存在し、その中の養老温泉の項目が結構気になったのだ(多分、この半年くらいの間に、ここで特集された温泉をしらみ潰しに行くんじゃないかな?)。
早速ケータイで養老渓谷にある「旅館
新川」に電話してみる。
一世「今日、これからなんですけど、お部屋空いてますか?」
女将「はい。空いてますよぉ。」
…しかしまぁ、電車で行こうと思ったら、ものすごぉく不便なところである。電車が1時間に1本以下の所なのだ。
千葉駅16:53発の内房線に乗って、五井駅で下車。そこから小湊鉄道に乗って、終点養老渓谷駅(18:29着)へ。駅に降り立ったとき、辺りはもう真っ暗だった。
降りてすぐ中野行きのバスに乗る(電車の発着とリンクしているバスが、朝1本、夕方1本しかない。日に数本しか走っていない、裏びれたバスである)。
かづよ「スイマセン。このバス『及川』に止まりますか?」
運転手「止まりますよ。(私の出で立ちを見て)…どこに泊まるの?」
かづよ「旅館 新川というところなんですけど…」
運転手「あぁ、あそこにねぇ。旅館のすぐ近くに止まるから大丈夫だよ。」
…言った瞬間にバスは扉を閉めて発車した。
客は他に誰もいない。完全な貸し切りである。
外は電灯など殆ど灯っておらず、辺り一面漆黒の闇である。
道は完全に舗装しきられていないのか、バスは激しく傾きつつも(揺れる、などという生易しいものではない)猛スピードで九十九折りを下っていく。
…こわい。しかも、かなり怖い…。
女将の言うことによると「4つ目のバス停ですから」。…しかし、走れど走れどアナウンスは一向に鳴る気配がない。
まぁ、あれだけ聞いたんだから、分かっているんだろうなぁ…と、いぶかっていたところでバスが止まる。
運転手「着いたよぉ。」
…まるでタクシーのようである。
250円払って、更に(こちらが聞く前に)新川までの行き方を教えてくれた。
運ちゃんの言うとおり、歩いて3分で「新川」に着く。
綺麗すぎず、汚すぎず、いわゆる普通の旅館。
この辺りには10軒ほどの温泉宿が点在する。バスで来た道中に比べ、信号のある交差点もあるし、わりに大きな道路も走っているし、温泉街としてまぁまぁ栄えているらしい。
仲居さんによると、新緑と紅葉のシーズンになると、すごく混んで、養老渓谷の遊歩道は「原宿のような人混みになるのよぉ!」…絶対ウソだと思う(だいたい、混雑した原宿に行ったことがあるのだろうか?)。まぁしかし、すごぉく混む、ということはよく分かった。
夕食は、小鉢、生ハムサラダ、刺身、ステーキ、天ぷら、ごはん、香の物、みそ汁。
なかなか豪勢である。ステーキはばかにしていたら、やわらかくて結構美味しかった。
ふむふむ。
さて、お楽しみのお風呂の時間である。
ここは露天風呂と、戦中の防空壕を広げて作った洞窟風呂と2つの風呂が自慢の宿である。
私は洞窟風呂に入りたくてここまで来たのだ。双方とも、男女別風呂。
地下に降りていく階段から石造りで、かなり期待がもてそう。
風呂の前にサンダルが脱ぎ捨てられていないところを見ると、どうやら貸し切りのようである。
しめしめ。
開けてびっくり!
…別に大したことないや。ただ、半地下の所に1畳半くらいの湯船があるだけ。
泉質は低張性アルカリ性温泉。炭酸水素カルシウムが溶けている冷泉。
暖め直して供給しているのだろう。湯温はやや高め(多分42℃)。
水の色は茶褐色(濁ってはいない。鉄サビを水に溶かしたような色)。
入ると、かなりピリピリする。ソーダ水の中に身体をつけ込んだような感じ。い゙〜てててて。なめると、なんか臭くて美味しくない(一応飲めるらしいが)。
でも、上がってもなかなか身体が冷めなかった。
私はすごぉぉい冷え性なので、こんなに体がぽかぽかのまま眠れたのは幸せだった。ふふふ。
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