ON→OFFへ…

 3/12 4:10。長岡の朝はまだ暗く、冷たく湿っている。
 外は雨。
 先日から体調を崩していたせいで、今日の日中はひたすらごろごろして過ごしてしまい、こんな時間だというのにどうにも眠れなくなってしまった。


 3/11 23:09新宿発、ムーンライトえちご 村上行き。
 この電車は、他の路線が運休になる真夜中に、貨物列車の合間を縫うようにして夜通し走る列車である。
 乗客の殆どは車中で1泊を過ごすのだが、この電車はいわゆる寝台列車ではない。
 プラネタリウムの如く(プラネタリウム!)椅子が大きくリクライニングするのだ(でも、渋谷の五島プラネタリウムの椅子の方が寝心地はいい)。全席指定(自由席はない、ということ)。

 乗ってしばらくすると車掌が切符を見にやって来る。
 密航者(密行者?)を取り締まるためだ。

 …ところがどうして、これが結構いるのだ。


 今でこそ私たちは、近所のかなり対応の悪い、小さな旅行代理店で往復のチケットを取ってから旅に出ているが、昔はぜぇんぜんそんなこと考えてなかった。
 行きたくなったら本当にふらっと新宿駅に行ってしまって、初乗り代金の切符と夜食用弁当しか持たぬまま、ムーンライトに乗り込んだ。

 電車の扉を入ってすぐ右側に、飲み物の自動販売機と、喫煙者用の2人掛けの簡易的な椅子がある。
 そこにガラ悪く、どっかと座って、おもむろに弁当を広げる。
 食べ始めて程なくすると(たいてい)イヤな顔をして車掌が目の前に立ちはだかる。

「切符見せてください。」

 当然そんなものは持っていない。(一応)すまなそうに持っていないことを告げる。
 車掌さんはやれやれという感じで切符を切ってくれ(ファミレスのウェイトレスが持っているような機械でピッピっと作ってくれるのだ)、「高崎を過ぎたら、空いている席に座っていいですよ」と、言い残して去っていく。

 …それが、ムーンライトにおける「密航」。
 年中行事になっていたとはいえ、これは意外にドキドキした。


 去年くらいまでムーンライトに乗る人は、酔っぱらったオヤジがぱらぱらいるくらいだったのに(座席の半分くらいしか埋まっていなかった。しかし毎度のように車掌は「本日、お座席は満席となっております」と言う。ウソつけ!しかもその数人のオヤジが異様に酒臭い。イビキもすごい。「オヤジ電車」というのがぴったりくるような電車だった)、ここんとこ若い人の姿が目立つようになり、席もほぼ満席(もちろん車掌は自信を持ってそう告げている)になるようになった。

 密航者は今でも結構いるようだが、やりづらくなっていることは確かだろう(これじゃまるで「密航のススメ」だなぁ…)。

 赤羽を過ぎ、大宮に行く間くらいに、この「切符拝見」が来る。車掌は切符を確認した後、車両を出ていく時にスイッチを落としていく。
 蛍光灯の明るさが半分になり、これを合図に多くの人が眠りにつく。

 パチン。
 私はこの音が好きだ。

 ON→OFFへ。明確に切り替わる儀式のようなものである。
 オヤスミナサイ…。

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