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「……怒ってるんだからね、俺は」 「マコト?」 「俺、Kさんが俺の事守ってくれようと思ってたのは知ってるし、実際俺体育苦手だったし足手纏いになって俺の所為でKさんが危なかったりしたら嫌だからさ、だからあの時承諾したんだけど!」 ざくざくとすごい勢いで長ネギをみじん切りにしていく。 「なら、何の問題も」 ないじゃないかと言おうとしたKKに、マコトがキッと向き直る。包丁は手に持ったままだ。 「あるから言ってるんだね、Kさん?」 口元が笑顔なだけに、笑っていない目に一層の迫力が増す。KKが一瞬怯んだ。 「それが何よ、そんなにやつれた顔して、ボトル開けて転がってるって、何!」 今度は卵を手際よくボウルに割り、がしゃがしゃとかき混ぜる。 「Kさんがボロボロなんじゃね、本末転倒なんだよ、俺にとっては!」 かき混ぜた卵の中にネギを投入し、塩胡椒をさらさらと入れるとマコトはひと息ついた。流しの下からサラダ油を引っぱり出し、コンロの横にどん、と叩き付ける。 「もう1つの理由は……わざわざ言わなくてもわかってるよね、KKサン?」 マコトはにっこり笑っている。それはもう見事な迫力、としか言い様のない笑顔で笑っている。KKは完全に気を飲まれていた。 「い……いや、なにがなんだか…」 KKの答えに、マコトの体の輪郭から陽炎のように怒りが立ち上るのが見えた、気がした。 「………神様、来たでしょ」 俯き加減のマコトが発する低く、ゆっくりとした声は一見穏やかだが、その奥に何があるか位、いくらKKでも分かる。 「……来たな。」 ついでにディープキッスもかまされた。とはさすがにKKも言わない。 「で、俺ゆうべ神様から聞いたんだけど」何を、とはこの場合聞くのも愚問であろう。 「何で無抵抗でキスされてんのかな?」 「別に無抵抗って、訳じゃ」 KKの答えを聞いてマコトはふっと息を抜き、フライパンをコンロにかけて火をつけた。 「俺には触らせてくれもしなかったくせに」 勢いを下げてぼそりと呟くマコトは、怒ると言うより拗ねて見える。不機嫌な顔のまま、マコトは熱して油を引いたフライパンに卵液を流し込んだ。かき回して皿に移す、ふわふわのネギ入り炒り卵のできあがり。 「ま、とにかく食べてよ」 皿を手に、少しバツが悪そうにマコトが言う。 「あ、あぁ」 返事をして皿を受け取り、卓袱台の前に座って、KKはふと口を開いた。 「もしかして、妬いてるの……か?」 言い終わらない内にKKはその答えを知った。目の前に腰を下ろしたマコトの体から再び陽炎のような何かが吹き上がっているのが見える。憤怒のみとは言い切れない、どこか恥ずかしそうな赤い顔で、マコトは唇を噛み締めた。 「悪い?」 KKはできるだけ無表情に、呟いた。 「妬くような事でもないだろう。たかがキスじゃねぇか。」 だん、とマコトが卓袱台に拳を叩き付ける。 「そういう問題じゃないよ!」 KKを見上げるマコトの目には、涙が溜っている。 「どうして、どうしてKさんはそう自分の体とか命とか粗雑にするのさ!!」 ぼろぼろと涙をこぼすマコトを前にKKは戸惑った。気の利いた言葉ひとつ見つからない。マコトの頬へ手を延ばせば払われてしまう。 「……マコト」 ようやくKKが声を出せた時にはマコトは卓袱台の上に突っ伏して本格的に泣いていた。 「すまん」 KKが言うと、マコトはびくりと肩を震わせた。 「俺が、悪かった。」 ゆっくり、言葉の意味を噛み締めるように言うKKに、マコトが恐る恐る腕の中から顔を上げた。何か言おうとする声は、まだ整わない息の中、途中で途切れて意味を為さない。KKはマコトの頭へ手を伸ばし、再び言う。 「俺が、悪かった。だから」言いながら、KKの手はマコトの頭をぎこちなく撫でた。 「泣くな。謝るから」 マコトの涙が引き、息が整うまでKKはマコトの頭を撫で続けた。 「少し、落ち着いたか?」 KKが言うとマコトは鼻をすすって頷いた。 「じゃぁ、その」KKは一瞬躊躇い、ふと笑う。「……食べていいか、これ」 マコトは笑顔で、頷いた。 KKは箸を手に軽く一礼して味噌汁に口をつける。ご飯、炒り卵、と箸を伸ばすKKにマコトはくすりと笑うと自分も箸を取り、味噌汁を一口すするなり椀を置いた。 「……Kさん、ごめん。ちょっと味噌入れ過ぎた」 「そうか?」 次いでマコトは卵を取って食べ、溜息をついた。 「ごめん、こっちは胡椒入り過ぎ……」 「そうでもないと思うがな」 KKはもくもくと卵を取って食べている。 「Kさん、もしかして昨日相当飲んでる?」 「さぁ……どれだけ飲んだか、自分でもさっぱり」 マコトは殆ど空で転がってた瓶を振り返った。 「あれ、もしかして1人で……?」 「MZDも飲んだ。あいつが持ってきたんだから」 マコトは夕べのMZDを思い出した。酒の匂いなんて殆どしなかった。確かにMZDは酒には強かろうが、KKを酔い潰すつもりであればペースはわざと落としているはずで、と言う事は。 「Kさん、頭痛くない?」 「いや、別に。少し水分抜けてる気はするが」 恐る恐る聞くマコトに対し、KKは平然と味噌汁をすすっている。 「気分、悪く無い?本当大丈夫?無理しなくていいよ?」 「……別に、無理なんかしていない」 KKは僅かに目を伏せて、続けた。 「折角お前が作ったんじゃねぇか」 マコトは目を丸くしてKKを見る。KKは居心地悪そうにマコトの視線を見上げ、また目を逸らす。 照れているようである。 (うわぁ) マコトは目の前の人を、改めてかわいらしいと思った。 同時に嬉しく思う。マコトがここにいることを、喜んでくれているのがわかるからだ。どう言われようがKKの隣へ戻る、と決めていても、やはり好ましい反応を見るとほっとする。 改めて絶縁を言い渡されることは、恐らく無い。 「ねぇ、KK?」 マコトの声に、KKは視線を上げる。 「また来て、いいかな。今度はもっと美味しいの作るから」 KKは少し考えていたが、こくりと首を縦に振った。 「楽しみに、している」 ぼそりと言うKKの言葉に、マコトは口元が緩むのを抑え切れない。 この上なく、幸せだった。 −−−−−−−−− |