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 見上げるアパートは、ほんの3月振りだけれど懐かしかった。
「KK」
 ぽつりとその名前を口にすれば、甘く苦い感傷が沸き上がる。来るな、と言われた事。必ず戻る、と言った事。今すぐ行ってやれ、と背中を押してくれた神様。
 よしっ、と小さく気合いを入れるとマコトはアパートの階段を一歩ずつ登っていった。KKの部屋の扉を恐る恐る回す。
「相変わらず、不用心なんだからさ……」
 音もなく開くドアに眉を寄せながら、マコトは中を覗き込んだ。吊り電灯が仄暗く部屋を照らしている。卓袱台の上にグラス、片方はここでさっきまで飲んでいた神様の分だろう。それとよく分からないが何やら強そうな酒のボトル、これは殆ど空だ。そして卓袱台の向こう、壁によりかかって部屋の主がいる。
「……Kさん」
 マコトは小さく声を掛けたが、KKは微動だにしない。耳をすませば微かな寝息が聞こえる。マコトは傍らに膝を突いた。
「風邪引くよ」
 囁くマコトの声にも、全く目覚める様子はない。マコトは溜息をついた。グラスと空き瓶を流しに持っていき、そっと卓袱台を片付ける。それから足音を忍ばせて押し入れを開けて布団を出した。
「Kさん」
 もう一度囁いても反応は無い。酒臭い顔を覗き込めば、心無しかやつれたようだ。マコトは起こさないように注意しながらKKの体を布団の上に運んだ。
(無理を上塗りしてそれが剥げてるって言うか)
 MZDの飄々とした形容が耳に蘇る。引きずられても起きない程泥酔しているKKを、マコトは初めて見た。部屋の中も今片付けた卓袱台と、今敷いた布団の他は全くものの気配が無い。こざっぱり、というよりはむしろ引っ越し前日の態だ。どこか寒々しい。
「ん……」
 KKが微かに呻いて寝返りを打った。起きるか、と思って見ていると再び寝息を吐く。マコトはKKの目に被っている髪を静かに掻きあげた。そのまま髪を撫でてやると、微かにKKの唇が動く。
 気の所為かもしれないが、マコト、と口にしたように見えた。思わずマコトは唇を噛んだ。
「ごめんね」
 ぽつりと、マコトが呟く。KKの雰囲気が、部屋の様子が、何もかもが寒々しく、同じだけ痛々しい。神経を張り続けて、MZDの言葉を借りれば「意地と強がりの貯金が尽きかけてる」のが目に見える程になっているKK。
(あんなになるまで放っておいたらいけねぇぜ?)
 ごく微量に怒気の混じったMZDの声を思い出し、マコトは苦笑した。こんなKKを見たら、確かにMZDは怒るだろう。慰める為に自分の持つ手段の全てを使おうともするだろう。
「ごめんね、Kさん」
 予想がつかなかった訳じゃないのに、勝手に元気でいてくれると思っていた自分の見通しが恨めしい。KKの髪を弄びつつ、マコトは決心を固めた。自分の器量が足りなかろうが、KKが心配しようがもう構わない。この人を、放って帰れない。
「僕はここに、いるからね」
 もう一度KKの頭を撫でると、マコトは再び押し入れを開けた。久し振りに見る客用布団をKKの隣に敷き、その中へ潜り込む。
「おやすみ」
 話は、明日この人が起きてからだ。マコトは電気を消し、目を閉じた。


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 残り全部を書き上げてから一気に上げよう、と思っていたら、随分と間が空いてしまいました。すみません。それでは、よろしければ最後までおつき合い下さい。(05/03/19up)

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