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いらっしゃいませぇ、と言う店員の声にマコトは入り口へ目を向けた。待ち合わせた相手を見つけ、手を振って合図する。ここはKKの家へ行ってくるから仕事が終わったらここで待ってろ、とMZDがマコトに指定した居酒屋である。 「待たせたな、ちっと手間取っちまった」 「ううん、そんな事は」 注文を聞きに来た店員にMZDがメニューを広げてビールを頼む。 「それで、さ……どうだった?KK。元気?」 店員がいなくなるのを待ちかねてマコトが切り出すと、MZDはサングラスの下で目を伏せた。 「よくねぇな。あまり、つーかかなりひでぇ」 さらりと言って、MZDは運ばれた中ジョッキに口をつける。マコトは俯いた。 「……そっか、大丈夫……かな」 マコトの手の中、薄くなったカクテルの氷が揺れる。 「何があったかは聞かねぇけどよ、あんなになるまで放っておいたらいけねぇぜ?」 大事なんだろ?と付け加えるMZDに、マコトは寂し気な笑みを返した。 「……放っておきたかった訳じゃないんだけどね」 マコトは、自分に二度と関わるなと言い出した時のKKを思い出す。KKは頑固だ。そして傷付きやすい脆さも抱えている。あの日、KKが告げた別れは固い決意に満ちあふれていた。生半可な事では撤回させるどころか、こじらせる一方になるとマコトの直感は告げていた。必ず迎えに行くと一方的な約束を置いてきたのは、マコトの精一杯の意思表示である。 「ひとつ、聞くぜ?」 MZDはジョッキを置いた。カクテルから顔を上げたマコトの目を正面から見据えた。いつになく真面目な表情にマコトは座り直して襟を正し、微笑んだ。 「何なりと?」 「なぁに、そんな気張るようなこっちゃねぇよ」 MZDは喉の奥でくくっと笑った。 「ただ、俺がこれから喋る事を、お前がどうするつもりなのかを聞いておこうと思ってな」 「……」 「あいつのプライバシーは尊重してやりてぇからな。場合によっちゃお前からあいつを取上げにゃぁならん」 マコトは目を伏せた。KKとの約束を破る口実をMZDの口から欲しがっている自分を、少し卑怯だと思った。 「僕の胸に止めておきますよ。……例え、Kさんを取り上げられても。」 「誓うか?──俺によ」 MZDは皮肉っぽい笑いを強めた。 「えぇ、文字通り神かけて」 真顔でマコトは言い、神様は喉でひと笑いした。さってどこから話したもんか、と腕を組んでMZDは顎を撫でる。MZDが相談を持ちかけるように振り向く影も、同じように顎を撫でている姿がどこかおかしい。 「あーのよ、お前さんKKの性格をちょっと言ってみな」 マコトはきょとんと目を見開いた。 「惚気は無しで、あいつの長所と短所。ほれ、見えてねぇとは言わせないぜ?」 「Kさん、ねぇ……」 きびきびと動く体やガンシューティングを1コインクリアして得意そうな顔、ほめると途端に仏頂面になる癖、不機嫌そうに見えるけどそれはただの照れだったり、KKの姿はマコトの脳裏にいくらでも思い描ける。 「優しい、よね。それにシャイで。すっごく意地っ張りで頑固だけど」 ふむ、とMZDは帽子を脱いで髪を掻きあげた。 「んじゃちょっと想像してみ。意地と強がりの貯金が尽きかけてるあいつ」 マコトは絶句した。 「………あの、意地の貯蓄だけで蔵が立つような、Kさんが?」 MZDは重々しく頷いた。 「全くいつも通りですー、て言いたいらしいんだけどな。無理を上塗りしてそれが剥げてるって言うか」 口の塞がらないマコトを前に、MZDは続ける。 「妙に細かい事気にする割には人が玄関開けてもぼーっと窓の外見てるしよ、行動のバランスが取れてねぇんだ。」 裏稼業の関係上、KKは外の気配に敏感である。人の気配のする玄関に背を向けているなんて事は、まずあり得ない。 「あなたの気のせいじゃ、なくて?Kさんどっか体でも悪いの?」 「あれじゃ体壊すのも時間の問題だな」 頷いてジョッキをあおったMZDは、ふと困ったように首筋を掻いた。 「あのよ、何言っても怒らねぇか?」 「怒りそうな事、したんですか?」 バツが悪そうなMZDの後ろで影が肩をすくめ、MZDの頬を引っ張る。だから言わんこっちゃない、と言ったようだった。 「いやね、あいつがあんまり傷心で人恋しいですって顔してみせるからよ」 うっすらいやな予感がした。KKが無理に強がっている姿の、抱き締めたくなる程の痛々しさはマコトにも覚えがある。まして今マコトの目の前にいるのはラブ&ピースが信条のMZDである。 『博愛』の一言がこれ程似合う男もいないのだ。色々な意味で。 「つい、煽っちまってなー。今フリーなら俺と遊ばねぇかって」 遊ぶ、の意味を2度反芻し、マコトはテーブルの上にうつ伏した。様子見を頼むべき人選を過ったかもしれない。 「まさか乗ってくるなんて思わなかったからよ。あ、でも安心しろ?キスまでだから!」 フォローのつもりらしい一言で、うつ伏せたマコトの背後に余計黒雲がかかる。 「マ……コト?」 ちょいちょい、とテーブルの向いから恐る恐るMZDがマコトを突ついた。全く反応を返さないマコトにMZDは影と顔を見合わせ、思いきって口を開く。 「まさかたぁ思うが、お前あれだけ通って口説いてまだしてない……とか、言わねぇよな?」 びくり、とマコトの肩が震え、声だけが返ってきた。 「………するどころか、手も碌に繋げてない……」 実は好きだと言ってもらった事すらないのである。KKのガードの固さをマコトはつぶさに思い出した。 「もしかして、ほんとに嫌われてたのかなぁ、俺……」 「いや、それは無い」 泣きそうになったマコトにMZDがきっぱりと言い放つ。 「しっかりしろよ色男。俺にだって解るとこだぜ?」 マコトは半べその顔を上げた。 「嫌いな相手をキスしてる真っ最中に呼ぶかってんだ、馬鹿」 言葉が接げずに黙るマコトの額をMZDがこつりと弾く。 「何やってんだよ、とっととKKんとこ行きやがれ」 マコトは目を瞬かせた。 「いや……だって、今日はもう遅いし約束も」 「聞いててわかんねぇのか?」 MZDの影はマコトの頬を掴んで目を合わさせる。 「普段ガードの固い奴が、ちょっと誘っただけで首を縦に振っちまうんだぞ?危ねぇじゃねぇか。あいつ狙いはお前だけじゃないの、知ってんだろうに」 MZDの言葉につれて顔を引き締めるマコトの手がゆらり、と伝票を握った。しかし次の瞬間伝票はあっさりと影を介してMZDの手に移っている。 「いい。今日の分は俺が持つ。ほら早く行け」 意図が掴み切れなくてきょとんとするマコトに、MZDは眉を寄せた。 「いーから行け、遊び半分であいつのお初を貰っちまうとこだったんだ。ま、これで了見しな」 ぺこり、とマコトは頭を下げた。 「あんな顔、金輪際させんじゃねぇぞ」 背中に店員の挨拶と神様の声を聞きながら、マコトは店から走り出た。 −−−−−−−−−
今の所結構なペースで更新しているのは書き溜めた分をじみじみとHTMLに落としているからです。出し渋りとも作業がとろいとも言います。
やっとこ後半に入って来まして、少しやれやれと息つきつつ。(04/07/11up) NEXT:1234567 BACK |