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また夢を、見た。 出てけ、二度と来るなと叩き出したはずの男が自分の傍らにいる夢。綺麗な顔に気の抜けるような柔らかい笑顔を浮かべ、甘い声で話し掛ける。 どうせ、また夢だ。目が覚めればまたこの部屋に1人と知りながら、つい引き止めようと腕を伸ばす。それが起きた後で後悔を増す原因になったとしても。 「マコト」 名前を呼んだ。忘れると誓ったはずの相手を、三月経って未だ夢に見る自分の女々しさが鬱陶しい。 好きだった。 この男が惜し気なく繰り返し言う「愛してる」という言葉とは違うような気がするけれど、大事だった。もし自分の裏稼業の所為で面倒に巻き込んだら、巻き込むだけでなく失ってしまったら、と考えるだけでぞっとする程には大切だった。 だから、「もし」の起こる前に離れてしまおうと思った。 だから悔いは、残してはいけない。辛くても、耐える他に無い。夢でも十分幸せだ。本当の事なんて、碌な事はないんだから。 夢の中のマコトは、おっとりと笑って言った。 「僕はここに、いるからね」 随分、自分を甘やかした夢だと感じた。 まだ半分夢の中のKKは、布団の中で寝返りを打った。カーテン越しの光は外の天気を感じさせる。きっといい天気だ。味噌汁の匂いがふわりと鼻先をかすめていく。いつになく幸せな心地で鼻面を布団に埋めて、ふとKKは我に返った。 (……昨日、いつ布団敷いた?) じわり、と意識が覚醒すると同時に記憶が戻ってくる。MZDがいきなりやってきて、追い返すのも何だから一緒に酒を飲んだ。何だか説教されたような気がする。ついでにキスもされたが、それだけで帰っていった。その後所在なく飲み続けて、多分そのまま意識が飛んだと思う。布団なんか敷いてる余裕は無いはずで。それにさっきからの味噌汁と米の炊きあがる匂いは、気の所為ではないらしい。 KKは恐る恐る布団から顔を上げた。流しの前に立っている背中は見覚えのある緑のジャケット、肩まで伸びた茶色の長髪がかかっている。 まさか、とKKは目を閉じた。まさか、マコトがいるはずが無い。最近は特に忙しくて2時間睡眠もざらだと聞いた男が、まさかここで飯を作っているはずが無い。KKは自分の正気を疑った。 布団の中でパニックに陥っているKKの耳に、マコトの声が降ってくる。 「あ、Kさん起きたー?顔洗っておいでよ、ご飯もう少しでできるし」 KKが布団を被ったままでいると、頭の横まで足音が近付いてくる。 「起きてるんでしょ?ていうかそろそろ起きて。」 覗き込むマコトと、目が合った。マコトは夢と同じふわりとした笑顔を浮かべる。 「おはよ」 「……。」 KKは目を見開き、口を開いた。経緯から考えれば怒鳴りつけてすぐさま叩き出さなければならないが、そも何でここにいるのかと問いたいし、そして認めたくはないけれどほんの少し嬉しかった。 どれから言いたいのかまとまらず、口を開いたり閉じたりするKKにマコトは再び笑いかける。 「ご飯できるからさ、顔でも洗ってきなって。聞こえてる?」 KKは上の空でこくりと頷き、まだ自分の目を信じられない思いで台所に戻っていくマコトの背を見た。 「……マコト?」 KKが呟くとマコトは振り返る。 「味噌汁は大根と油揚げにしたからね、Kさん好きだったでしょ?」 「ん……あぁ」 そう言えば何が好き、という事を考えたのも久し振りだ、とKKは思った。久し振りで、普通過ぎて、却って現実感が伴わない。洗面台へ行く途中に掛けてあるカレンダーを思わず確認するが、日付が遡っている訳もない。顔を洗い、はっきりと目は覚めてもまだ台所の物音は消えない。 戻ってくると卓袱台の上には既にご飯と味噌汁が2人前湯気を立てていて、マコトは冷蔵庫の前へしゃがんでいた。卵とネギを手に立ち上がる。 「座っててよ、すぐできるからさ」 「マコト」KKは疑問を口にした。「何で、ここにいる?」 マコトの表情が曇った。答えずにKKに背を向け、俎板へネギを乗せた。 −−−−−−−−− |