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『フラッシュバック』

 ぽつりと、KKの唇から寝言が漏れた。そのまま寝苦しそうに眉を寄せ、寝返りを打つ。覗き込む人がいたのなら、伏せたKKの顔が泣くように歪んでいるのが見えただろう。
 やがて、KKはびくりと体を震わせて目を開けた。
「……くそ」
 いまいましそうに舌打ちし、時計で時刻を確認してからKKは再び布団にくるまって寝返りを打った。

 マコトと絶縁してふた月。鳴らない電話も、変化の無い1人の部屋も、特に予定のない手帳も、元の暮らしに戻っただけで、その日々にもとうに慣れたはずなのに。
「何で、今更」
 KKは不満げに一人ごちた。ここ1週間だろうか、頻繁に夢を見る。なんて事のない日常の景色の中に、不意にマコトが現れる、そんな夢。あまりに自然で、何が起こる訳でもない淡々とした、夢の中である事を忘れる夢。
 自分で捨てたはずの、忘れる事にしたはずの、無い事に慣れたはずのものを、目が覚めると同時に強く意識してしまう、後味の悪い夢。
「……」
 KKは唇の端をギリ、と噛んだ。認める訳にはいかない。訳も無く捨てたのではないそれを、今更拾いに戻れない。元も子も無くなってしまう。
 KKは目をきつく閉じた。目を閉じても、その影が見えなくなる訳では無いのだけれど。

 気が抜ける程柔らかい笑顔、自分を呼ぶ暖かい声。

 失うのが怖くて手放したものを、恋しいなんて言えない。

 口から漏れそうになる声をKKは奥歯で堪えた。その言葉が音になってしまえば、精一杯張っているものが崩れてしまう、そんな気がする。
 KKの、固く閉じた目頭に薄く涙が滲んだ。抑えている言葉の代りに涙の粒がこぼれる。
「冗談じゃ、ねぇ」
 沸き上がるものを打ち消すようにKKは声を出した。ぐい、と手荒に目元を拭って乱暴に寝返りを打つ。
 呼ぶ術を自ら捨てた、たった3音節に過ぎない名前を、その名の主を、いつまで断てば記憶から抜く事ができるのだろう。

 KKはほう、と息を吐いた。耐えようと歯を食いしばり、無意識に縋るものを探せば、いつも同じ事へ辿り着く。
 あの時、KKが絶縁を告げた時、マコトは泣きながら言った。
 諦めない、必ず迎えに来る、と。
 二度と会わないと誓いつつ、どこかでその時を待ち望む自分がいる。その矛盾がひどく情けない。KKの目から再びぼろりと涙が落ちた。
「──ッ、」
 KKは目元を再び拭う。中毒、と言う言葉がKKの頭に浮かび上がった。先行きを考えれば断たなくてはいけないもの、抗し難く甘美な故に、断つには強固な精神力を要するもの。

 いつになれば楽になれるのか、どこまで耐えればマコトに会う前の自分に戻れるのか。気にもならなくなるまで自分の神経は耐えられるのだろうか。KKにはその答えすら掴めない。KKは力無く頭を振った。脳裏に浮かぶマコトの面影はあくまで優しく、笑んでいる。抑えても、消えない。
 会いたい。
 KKの口元に渋く苦く、自嘲の形が浮かんだ。夜の闇はまだ明けない。


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 こばの特技ネタその1痴話喧嘩。これいつ書いたんだっけ……。えーと、続きます。長篇と言えるかはともかく短編ではありません。とりあえずまずは残りのファイルをHTML化して、最後を締める作業が残ってます。気に入られたら気楽に待って下さい。(04/07/7up)

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