K225.日本の地球温暖化、再解析2022


著者:近藤純正
気温観測値に含まれる都市化や「日だまり効果」の影響、および観測法が時代に よって変更されたことによる誤差を補正して日本の平均気温の長期変化「日本の 地球温暖化」を定量的に求めた。平均気温の上昇率は時代とともに増加しており、 1900年以前の平均気温に比べて2020年までの気温上昇量は1.1±0.1℃である。

都市化の影響による誤差などを補正しない簡便な方法による日本の地球温暖化 (気象庁公表値)は誤差が大きく、1898~2021年の気温上昇率は1.42倍に、 1930~2021年の気温上昇率は1.59倍になっている。

補正をしない簡便な方法でも、都市化の影響を除くために、浜松から石廊崎へ、 高知から室戸岬へ、石垣島から大東島へ気温を接続する方法も用いれば、日本の 地球温暖化は誤差10%以内の精度で求めることができる。この場合、4観測所 (寿都、宮古、石廊崎、大東島)では測風塔にも温度計を取り付けて観測すれば、 より確実な結果がえられる。
(完成:2022年1月27日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2022年1月11日:素原稿
2022年1月26日:査読後に掲載
2022年1月27日:微細部分を修正

    目次
        まえがき
        1 長期143年間の気温変化の特徴(1879~2021年)
        2 高精度解析による気温変化(補正28地点)
    3 補正なしの簡便な方法による気温変化     
      3.1 気象庁公表値(継続15地点)
      3.2 継続3地点
      3.3 継続2地点+接続4地点
        まとめ
        文献
        付録
      付録1 長期143年間(接続3地点)のデータ
      付録2 各種補正の28地点データ
      付録3 継続2地点+接続4地点のデータ                


謝辞
次の方々から頂いたコメントを改稿に役立てることができた。ここに深く 感謝いたします。(称号・敬称略、査読順)。内藤玄一、廣幡泰治、高瀬邦夫、 田家 康、本谷 研。


まえがき

気温の観測値には自然変動のほか、二酸化炭素など温室効果ガスの増加による 地球温暖化、さらに気象観測所周辺の都市化など環境変化による気温上昇が含 まれている。以下、地球温暖化量(温室効果が強まることによる気温上昇量) を簡単に「温暖化」とする。

本稿では日本の正しい地球温暖化を求めることと、観測地点の 選び方によって温暖化に含まれる誤差の違いを知ることである。

いま国際的には、気温上昇を産業革命前の1.5℃以内に、あるいは2℃以内に 抑えることが問題になっている。1.5℃か2℃かの違い(33%の違い)によって、 異常気象の発生頻度に大きな違いがあると議論されている。それゆえ、温暖化 評価の許容誤差は10%程度と考えてよい。

(1)明治維新の近代化改革の時代、1869年(明治2年)の函館五稜郭の戦いが 終わって間もなく、日本の近代的気象観測は函館で1872年(明治5年)に開始 された。続く1875年には東京で、1878年には長崎で開始された。これら3地点 の年平均気温が揃うのは1879年から2021年までの143年間である。これら3地点 の周辺はその後、時代とともに都市化されてきた。

気温に及ぼす都市化の影響を除くために、函館は寿都へ、東京は勝浦へさらに 石廊崎へ、長崎は室戸岬へ、それぞれ接続させるために気温観測値の不連続を 修正することによって143年間の気温変化を知ることができる。これは長期143年 の地球温暖化の近似値として次の第1節で示される。

(2)精確な地球温暖化を知るには、1日の観測回数や測器が時代によって 変更されたことによる誤差を補正しなければならない。現在は、毎正時24回 観測の平均値を日平均気温としているが、昔は時代と観測所によって3回、4回、 6回、8回と変更されてきた。気温は地方時を基準にした日変化するのに対し、 観測は日本標準時に一斉に行なわれるため、年平均気温は24回観測に比べて 3回観測(6時、14時、22時)では0.1~0.3℃低めに観測され経度の関数となる。 4回観測(3時、9時、15時、21時)では逆に0.1~0.2℃高めに観測される。 6回観測と8回観測では、年平均気温に含まれる誤差は微小である(近藤、2012)。

気温センサは百葉箱の中に設置されていたが、1970年代半ば以後はファンモータ で外気を吸引する通風筒の中に設置されるようになった。百葉箱内では通風筒内 に比べて年平均気温は0.10±0.06℃高く観測される(近藤、2012)。

多くの気象観測所は街外れの風通しのよい広い場所に設置されたが、時代とともに 周辺に住宅などが増え都市化の影響を受けるようになり、さらに観測露場周辺の 樹木が成長することで風通しが悪くなり「日だまり効果」によって年平均気温が 高めに観測されるようになった。これらの詳細は近藤(2012)、 Sugawara and Kondo(2019)、「K39.気温の日だまり効果 の補正(2)」「K48.日本の都市における熱汚染量 の経年変化」「K121.空間広さと気温―日だまり 効果のまとめ」「K174.都市化による都市の昇温量、 再評価2018」「K218.地球温暖化量の観測」 に示されている。

観測方法の変更、都市化や日だまり効果による誤差を補正して求めた精確な 気温変化は第2節で示される。

(3)一般に科学では、データの統計・解析は上記のように諸々の補正を行なう のだが、暫定値やおおまかな目安であるとして、それら補正を行なわない人たち もいるようだ。

気象庁公表の日本の平均気温の長期変化は1898年から継続して観測が行なわれて きた継続15地点のデータをもとに作成されたものである。 「日本の気候の変化」

この公表値には、上記の諸々の補正は施されておらず、特に15地点には、都市化 の影響の大きい山形、境、浜田、彦根、宮崎、多度津などが含まれている。

そこで、これら継続15地点から都市化の影響の小さい継続3地点(寿都、石巻、 名瀬)を選んだときの気温上昇率は許容誤差10%以下になるか否かを知りたい。 また、少数の観測所の未補正データを用いる場合でも、どのような組み合わせを すれば比較的よい精度で気温上昇率が得られるかを知りたい。この問題は第3節 で検討する。


備考:都市化の影響
都市化の影響とは、人間活動による気温等の観測データへの影響 のことであり、気温に対しては平均気温が高くなる。その主な要因は、ビルや 舗装道路が増えることで、植生地の多い田園地域に比べて蒸発散量(=蒸発量+ 蒸散量)が少なくなることによる。蒸発散に費やされる気化の潜熱が少なく なる分、その熱が地温を上昇させて気温が高くなる。日本の91都市の都市化に よる年平均気温の上昇量が求められており、年平均気温の上昇量は半径5km内 の都市化率に大きく依存する(近藤、2012)( 「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」)。

おおまかには、都市化による平均気温の上昇量は都市人口と年平均風速によって 分類することもできる(「M59.都市気候」)。 同じ関係は、「7.都市気温上昇と風速の関係」の 図7.16に示されている。

その後の50都市について、都市化による昇温量は 「K209.猛暑日・熱帯夜と都市化・地球温暖化との関係」の図209.2と図209.3 に示してある。 2019年時点におけ昇温量は1920年を基準として札幌では1.1℃、仙台では1.3℃、 東京では 2.0℃、名古屋と京都では1.5℃、大阪では1.1℃、広島と福岡では1.5℃ である。


用語の定義
継続地点:気象観測所がほぼ一定の場所に継続して存続する場合を 継続地点と呼ぶ。気象庁発表の「日本の平均気温の変化」の図は、継続15地点 のデータにより作成されたものである。

接続地点: 観測所が同じ市内・地域にあっても環境の違う場所に移転 したときは気温に不連続(ズレ)が生じる。この場合の気温のズレは移転前後 の10年~40年にわたり他の観測所との比較から知ることができ、ズレがゼロに なるように修正することにより気温を連続させる。そのほか、観測所の周辺が 都市化されてきた場合、他の観測環境の良い観測所を選び、両地点の比較から 気温のズレを求め、ズレをゼロに修正することによって気温を連続させる。 気温を連続させる例は後掲の図1に示されている。


1 長期143年間の気温変化の特徴(1879~2021年)

もっとも古くから気象観測が行なわれてきた函館、東京、長崎の3地点のデータ を用いて気温の長期変化を求めたいが、これら3地点は時代とともに都市化されて きた。そのため、気温に及ぼす都市化の影響を除くために、函館は寿都へ、 東京は勝浦へさらに石廊崎へ、長崎は室戸岬へ、それぞれ接続させるために気温 観測値の不連続(ズレ)を修正する。

図1は函館から寿都への接続の方法を示したものである。寿都は1888年からの 年平均気温があり、1888年~1912年の24年間を比較すると、函館の平均気温= 8.29℃に対し、寿都の平均気温=7.98℃、函館が+0.31℃高温である。 したがって函館の1879~1887年の気温から0.31℃引き算した値を寿都の1888年 以降の気温に接続させた。

気温の接続に際して、両地点で比較する期間が十分に長いことと、両地点の 気温の年々変動が高い相関関係にあることが重要である。図1に示すように、 比較する期間は24年間で気温の年々変動の相関関係が十分に高いことがわかる。 図1は函館と寿都の接続であるが、他の接続でも同様に、相関関係が高いこと を確認して接続した。

接続説明図・函館寿都
図1 函館と寿都の年平均気温の経年変化から、両地点の気温のズレを 修正する説明図。


次に、東京から勝浦、さらに石廊崎への接続を説明する。勝浦は1906年から 年平均気温があり、石廊崎は1940年から年平均気温がある。1906~1921年の 16年間を比較すると、東京が勝浦に比べて1.45℃低い。1940~1980年の41年間 を比較すると勝浦は石廊崎に比べて0.95℃低い。したがって、これら3地点を 接続するには、東京の1876年~1905年の気温に+2.40℃(=1.45℃+0.95℃) を加え、勝浦の1906~1939年の気温に+0.95℃を加えて石廊崎の1940年以後に 気温を接続させた。

最後に、長崎から室戸岬への接続を説明する。長崎は1879年から年平均気温は あるが、1897年と1898年の間に気温の不連続があるので、佐賀の1891~1920の 気温を用いてこの不連続を修正する。その修正の結果と室戸岬を接続させる ために、長崎と室戸岬の1921~1950年の31年間を比較すれば長崎は室戸岬に 比べて0.51℃低温である。以上をまとめると長崎の1879~1897年の気温から 0.08℃(=0.59-0.51℃)を引き算し、長崎の1898~1920年の気温に+0.51℃ を加えて室戸岬の1921年以後の気温に接続させた。

以上、接続3地点の気温の数値表は付録1に示してある。

図2は接続3地点平均の長期143年間(1879~2021年)の気温変化である。 赤破線は直線近似したときの気温、青線は5年移動平均、黒曲線は143年間全体 をなめらかな曲線(多項式)で結んだ関係である。黒曲線によれば、気温 上昇率は1900年ころ(1880~1930年)に0.1℃/100年~0.2℃/100年であったが、 時代とともに増加し1960年以後(1960~2020年)は1℃/60年=1.66℃/100年に なった。

図2に示したなめらかな曲線(多項式近似)によれば、1900年以前の平均気温 =13.4℃、2020年の平均気温=14.5℃、したがってこの間の平均気温の 上昇量は1.1℃である。産業革命前から2020年までの日本における平均気温の 上昇量は1.1±0.1℃と見なしてよいだろう。

3地点による143年間気温
図2 接続3地点のデータをもとに描いた143年間の気温変化(1879~2021年)。 赤破線は直線近似、黒曲線は全期間143年間の傾向をなめらかな曲線(多項式) で描いた関係。


この節のまとめ:
① 気温上昇率は1900年前後の1880~1930年には0.1/100年~0.2℃/100年で あったが、時代とともに増加し1960~2020年には1.66℃/100年になった。
② 1900年以前から2020年までの平均気温の上昇量は1.1±0.1℃である。


2 高精度解析による気温変化(補正28地点)

この節では、「まえがき」の(2)で述べたように、測器・観測方法の変更による 誤差と都市化や日だまり効果による誤差の補正を行なって得た精確な地球温暖化 を示す。ただし、「K203.日本の地球温暖化量、 再評価2020」では、勝浦の気温について2008年以後は銚子に接続したが、 その後の調べでは、接続しなくてもよいことがわかったので、2008年以後も勝浦 の気温を継続して使用することにした。

なお、補正28地点の気温一覧表は付録2に示してある。 この補正28地点から得られる気温上昇率を「基準値」として、他の気温上昇率 と比較する。

図3は高精度解析による(諸々の誤差の補正済みの)日本の気温変化である。黒破線 は直線近似で124年間(1898~2021年)の気温上昇率=0.89℃/100年である。 図中の左端のプロットは1898年(起点)であり、次節で示す気象庁公表の 「日本の平均気温の変化」の図と比較するために起点を合せたものである。

気温長期変化28地点
図3 気温の長期変動(28地点平均)。諸々の誤差の補正済みで都市化や日だまり 効果の影響を含まない気温である。黒破線は直線近似(気温上昇率= 0.89℃/100年)、青線は5年移動平均である。


図4は124年間(1898~2021年)の各地点における気温上昇率の緯度分布である。 高緯度ほど気温上昇率が大きい傾向にあるが、プロットにはバラツキがあるので 明確ではない。今後の長期にわたる観測から得られる傾向に注意しよう。

なお、「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」 の図173.4(11年周期変化の変動幅)と付録4の図174.11(気温ジャンプの幅) に示したように、気温は太陽黒点数周期の11年周期の変動と高い相関関係があり、 また大規模火山噴火や三陸沖で1945/46年に起きた海洋変動にともなう30~40年 といった頻度で起こる気温ジャンプがある。それらの変動幅は高緯度ほど大きい。 それゆえ、図4に示す気温上昇率の緯度分布は、期間の選び方によって少し 異なることに注意すること。

気温上昇率緯度分布
図4 気温上昇率(1898~2021年)の緯度分布。


この節のまとめ:
③ 諸補正を行なって求めた124年間(1898~2021年)平均の日本の気温上昇率は 0.89℃/100年である。
④ 124年間(1898~2021年)平均の気温上昇率は高緯度ほど大きい傾向にある。


3 補正なしの簡便な方法による気温変化

「まえがき」の(3)で述べたように、最近は観測データに含まれる誤差の補正を 行なわない簡便な方法を用いる人たちもいる。そこで本節では、簡便な方法による 結果がどの程度の誤差を含むかについて検討する。また、簡便な方法でも継続地点 と接続地点をどのように組み合わせれば許容誤差の範囲内で日本の地球温暖化を 知ることができるかについても検討する。

その検討の結果を最初に示しておこう。表1は前節までの結果と本節で得られる 結果のまとめである。5通りの方法のうち、左列から右列へ気温上昇率に含まれる 誤差の大きいものから小さい順番に並べてある。補正なしの簡便な方法 「継続15地点」と「継続3地点」では気温上昇率を許容誤差10%以内の精度で求 めることはできないが、「継続2+接続4地点」の組み合わせなら誤差10%以内 である。

表1 観測所の選び方(継続地点、接続地点)や諸補正の有無による長期的 な気温上昇率の一覧表。「長期143年」は第1節、「補正28地点」は第2節で 説明した。「継続15地点」「継続3地点」「継続2+接続4地点」は第3節で説明する。 表中の(%)は「補正28地点」の気温上昇率(基準値)に対する割合である。
気温上昇率一覧表


3.1 気象庁公表値(継続15地点)
気象庁公表値では網走、根室、・・・・多度津、名瀬、石垣島の継続15地点の データをもとにつくられている。図5はそれと同じ継続15地点から求めた平均の 気温変化である。

気温上昇率15地点
図5 継続15地点のデータから求めた日本平均の気温変化(気象庁公表値と 同じ)。黒破線は直線近似(気温上昇率=1.26℃/100年)、青線は5年移動平均 である。


124年間(1898~2021年)平均の気温上昇率は1.26℃/100年で補正28地点(基準値) の142%、92年間(1930~2021年)平均の気温上昇率は1.61℃/100年で基準値の 159%となる。この大きな誤差は、主に都市化の影響によるものである。

3.2 継続3地点
気象庁の用いている継続15地点のうち、都市化や日だまり効果の影響の小さい 観測所のみ継続3地点(寿都、石巻、名瀬)のデータを用いた図は省略するが、 124年間(1898~2021年)平均の気温上昇率は0.99℃/100年で補正28地点 (基準値)の111%となり、92年間(1930~2021年)平均の気温上昇率は 1.21℃/100年で基準値の120%となる(表1)。

3.3 継続2地点+接続4地点
各種補正なしの継続地点だけでは許容誤差10%以内で地球温暖化は求めることが できないので、環境変化の少ない観測所も用いることにしたい。どのような組み 合わせをすれば比較的よい精度で気温上昇率が得られるか検討してみよう。

寿都と名瀬の継続2地点のほかに、宮古から宮古、浜松から石廊崎、高知から 室戸岬、石垣島から大東島への接続4地点の組み合わせの簡便な方法ならば 比較的によい近似で日本の地球温暖化を知ることができることを説明しよう。 なお、前掲の図1で気温の接続方法について説明したように、石垣島と大東島 の距離は大きいが、緯度が大きく違わないことで、両地点の年平均気温の年々変動 はよく似ており相関関係は高い。

接続4地点は次のようにして接続時のズレを修正した。宮古は近距離の移転 により1938年と1939年の間に気温のズレがあり、石巻との比較によりズレを 修正する。宮古は1884年から、石巻は1888年からデータがあるので1888~1960年 を比較すると、宮古の1938年以前は1939年以後に比べて+0.10℃の高温、 したがって宮古1884~1938年の気温から0.1℃を引き算して1939年以後に接続する。

浜松は1883年から、石廊崎は1940年からデータがある。1940~1961年を比較すると 浜松が0.90℃低い。ゆえに浜松の1883~1939年の気温に+0.9℃を加えて、 1940年以後の石廊崎の気温に接続する。

高知は1886年から、室戸岬は1921年からデータがある。1921~1942年を比較する と高知の気温が0.45℃低い。ゆえに、高知の1886~1920年の気温に+0.45℃を 加えて、1921年以後の室戸岬の気温に接続する。(最近の高知は周辺が都市化 されて、2000~2021年平均では高知が室戸岬より逆に0.51℃高温となった。 つまり高知の都市化による昇温は0.96℃である。)

石垣島は1897年から、大東島は1947年からデータがある。1947~1957年を比較 すると、石垣島の気温が+0.73℃高い。したがって石垣島の1897~1946年の気温 から0.73℃を引き算して1947年以後の大東島の気温に接続する。

以上の6地点の気温数値データは付録3に示してある。

図6はこれら継続2地点と接続4地点、合計6地点平均の気温変化である。 124年間(1898~2021年)平均の気温上昇率は0.90℃/100年で補正28地点 (基準値)の101%、92年間(1930~2021年)平均の気温上昇率は 1.08℃/100年 で基準値の107%となる(表1)。つまり、未補正の簡便な方法でも、この組み 合わせをすれば日本の地球温暖化は許容誤差10%以内の精度で知ることができる。

気温上昇率2継続+4接続
図6 継続2地点と接続4地点、合計6地点のデータから求めた日本平均の 気温変化。黒破線は直線近似(気温上昇率=0.90℃/100年)、青線は5年移動 平均である。


この節のまとめ:
⑤ 諸補正を行なわない簡便な方法で求めれば、気象庁公表値と同じ継続15地点に よる気温上昇率は大きな誤差を含む。124年間(1898~2021年)平均の気温上昇 率は1.26℃/100年で補正28地点(基準値)の142%、92年間(1930~2021年) 平均の気温上昇率は1.61℃/100年で基準値の159%となる。継続15地点のうち、 都市化や日だまり効果の影響の小さい継続3地点(寿都、石巻、名瀬)の気温を 用いた場合でも誤差は許容誤差10%以上となる。

⑥ 継続2地点と接続4地点の組み合わせをすれば(図6)、日本の地球温暖化は 許容誤差10%以内で知ることができる。それゆえ、諸補正を行なわない簡便な 方法によって日本の温暖化を公表する場合は、この組み合わせを気象庁に薦めたい。


まとめ

気温観測値に含まれる都市化や日だまり効果の影響、および観測方法の変更による 誤差を補正して日本の平均気温の長期変化「日本の地球温暖化」を求めた。 また、観測地点の選び方や統計の方法によって温暖化に含まれる誤差を見積もった。

(1) 長期的な気温上昇率は1900年ころ0.1/100年~0.2℃/100年であったが、 時代とともに増加し1960年以後は1.66℃/100年になった。

(2)1900年以前の平均気温から2020年までの平均気温の上昇量は1.1±0.1℃である。

(2) 諸補正を行なって求めた124年間(1898~2021年)の精確な日本の気温 上昇率は0.89℃/100年である。

(4)124年間(1898~2021年)の気温上昇率は高緯度ほど大きい傾向にある。

(5)諸補正を行なわない簡便な方法で日本の地球温暖化を求める場合、例えば 気象庁公表値と同じ継続15地点を用いれば大きな誤差を含む。124年間 (1898~2021年)平均の気温上昇率は1.26℃/100年となり補正28地点(基準値) の142%、92年間(1930~2021年)平均の気温上昇率は1.61℃/100年となり 基準値の159%となる。継続15地点のうち、都市化や日だまり効果の影響の 小さい継続3地点(寿都、石巻、名瀬)の気温を用いた場合でも誤差は許容 誤差10%以上となる。

(6)継続2地点と接続4地点の組み合わせをすれば(図6)、日本の地球温暖化は 許容誤差10%以内で知ることができる。それゆえ、諸補正を行なわない簡便な 方法によって気象庁が日本の温暖化を公表するには、この「継続2地点+接続4地点」 の利用を薦めたい。この場合、6地点のうちの4地点(寿都、宮古、石廊崎、大東島) では、測風塔にも温度計を取り付けて観測すれば、より確実な結果が得られる (「所感21.地球温暖化の議論、まずは精確な 気温観測を」)。

測風塔での観測によって10年以上の長期の気温上昇率を精確に知るには、 全国の北海道から南西諸島までの3地点以上の観測データが必要である。

あとがき
気温観測に及ぼす都市化や日だまり効果の影響は日本だけの問題ではない。 アメリカでは、気候変動の精確な観測を目的として、樹木や建物などの直接的な 影響を受けない、つまり広い場所にある観測所からなる「米国気候基準ネット ワークUSCRN」(United States Climate Reference Network) USCRN の運用を2005年1月から開始している(Diamond et al. 2013)。

すでに筆者が紹介したことであるが(近藤、2021)、アメリカ地球物理学連合誌 JGRに掲載された「中国北部地域の地上風速がしだいに弱くなっている」現象は、 筆者の考えでは観測所周辺が都市化され、日本の状況と同じであることを示して いる。また、日本では観測を中止したが、世界では継続されている小型蒸発計に よる蒸発量が世界的に減少傾向にある(Brutsaert and Parlange, 1998)。 これは、蒸発計や気温計を設置してある観測露場の風速が弱くなってきた ことによる。風速の弱化は露場の空間広さが狭くなり、いわゆる「日だまり効果」 によるものである。この問題が動機となり、筆者は蒸発計蒸発量と露場風速の 関係を(近藤、2000)「地表面に近い大気の科学」の図5.9に示した。 ただし、この図は大型蒸発計に対する関係であるが、小型蒸発計でも傾向は同じで ある。


文献

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学.東京大学出版会、324pp.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.

近藤純正、2021:観測の誤差から真実を見るー地球温暖化観測所の設立に向けて. 天気、68、37-44.

Brutsaert, W., and M. Parlange, 1998: Hydrologic cycle explains the evaporation paradox. Nature, 396, 30.

Diamond, H.J., T.R. Karl, M.A. Palecki, C.B. Baker, J.E. Bell, R.D. Leeper, D.R. Easterling, J.H. Lawrimore, T.P. Meyers, M.R. Helfert, G. Goodge, and P.W. Thorne, 2013: U.S. Climate Reference Network after one decade of operations: status and assessment. Bull. Amer. Meteor. Soc., 94, 485-498.

Sugawara, H, and J. Kondo, 2019: Microscale warming due to poor ventilation at urface observation stations. J. Atmos. and Oceanic Tech., 36, 1237-1254.


付録1 長期143年間(接続3地点)のデータ

付表1 接続3地点の気温
長期143年間3地点気温


付表1(続き)、ただし1960年以後は省略してある。 
長期143年気温、続き

付録2 各種補正の28地点データ

各種の補正を行なった28地点の気温データ一覧表は次に示した。

クリックして次の 「各種補正の28地点データ」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
各種補正の28地点データの表



付録3 継続2地点+接続4地点のデータ

付表3 継続2地点+接続4地点の気温
継続2+接続4気温


付表3(続き)、ただし1953年以後は省略してある。
継続2+接続4気温、続き



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