K203.日本の地球温暖化量、再評価2020


著者:近藤純正
日本の地球温暖化量について、以前の評価2007年(34地点)と再評価2018年 (31地点)の続きとして新地点(銚子、沖永良部、与那国島)を追加し、 34地点の一覧表を作成した。気温の観測・統計方法が時代によって変更されて きたことで生じる不連続データを補正し、さらに、日だまり効果と都市化影響 による昇温量を補正した。ただし、都市化影響による昇温量の大きい地点は 34地点には含まれていない。

日本平均の地球温暖化量には太陽黒点数変動と同じ約10年周期と、大規模火山 噴火・海洋変動に伴う30~40年の周期的変化が混在する ため、100年間当たりの気温上昇率は期間の選び方によって大きく変わり、0.68℃ (1881~1960年)、0.55℃(1881~1980年)、0.60℃(1881~2000年)、 0.77℃(1881~2019年)となる。 (完成:2020年7月30日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2020年7月16日:素案の作成
2020年7月30日:細部に微細な加筆

    目次
        203.1 はじめに    
        203.2 温暖化の評価方法(概要)
        203.3  気温データの接続方法
        203.4 全国34地点の数値データ
        203.5  気温の長期変化
        まとめ
        文献
        付録 全国34地点データ(エクセル)            


203.1 はじめに

1990年のころ、日本の100年間当たりの気温上昇率は1.1℃として公表されていた。 この評価に疑問を抱いたことが筆者の地球温暖化量の正しい評価を行うことに なった動機である。都市にある多くの測候所は、町外れに設置されていたが、 時代とともに周辺の田畑は住宅地などに変わり、都市化の影響で気温が上昇 している。そうした環境変化に伴う補正もせずに、観測データを並べただけで 地球温暖化量を評価しており、正しくないと思った。

筆者は1997年3月末の定年退職後、全国各地の気象観測所 を巡回、資料集めを開始することになる。僻地へも行かねばならないので 数10kmを歩くことも可能でなければならない。

筆者は1988年に急性心筋梗塞で心臓の開胸手術をしており、1日に2~3km なら歩けるが、それ以上は心的・肉体的に困難な状況であった。定年後は、 体力をつけるために東海道の歩き旅が1回に数kmから10kmまで可能になり、 しだいに自信がつき相模湾沿岸を1日に最大50km、平塚から城ケ島まで、 そして伊豆半島の石廊崎まで数日間かけて歩いた。さらに、四国遍路の連続 歩き旅も実行した。

そして2004年10月から全国の気象観測所を巡回、資料集めを開始した。 最初の訪問は、明治時代の1902年に最低気温-41℃を記録した旭川である (「写真の記録」の「33.旭川の都市化と 気温上昇」)。

日本の最北から最南、東端から西端まで訪ねた。当初は、田舎に設置されている 観測所(現在のアメダス)のデータを利用する予定であったが、アメダスは移転 が多いことと、周辺の観測環境が一般に悪い、データの不揃いなどがあり、 途中で気象官署(気象台と、旧測候所)のデータを利用することに変更した。

一部の観測所では、昔の気温が摂氏でなく華氏で表記されており換算をした。 観測所職員に昔の写真も見せてもらい、古い記録原簿・統計原簿などから データを数日かけて手写しした。もちろん、気象庁図書室に保管されている 中央気象台年報・月報やその他の資料も調べた。

気象庁ホームページには、例えば室戸岬は1920年からの記録しか掲載されて いないが、室戸岬や金華山の灯台では露場気温が観測されていた。それらの 記録は、その後の気象官署(旧測候所)のデータと接続させた。

観測地点数の少ない時代1881~1892年については、少数地点による長期変動 の傾向は日本平均の傾向とよく似ていることから、少数地点の平均気温と それ以後の時代の日本平均の気温が連続するように接続した (近藤、2012、表2.3)。

現在の日平均気温は毎正時24回の観測値の平均値とされているが、 古い記録原簿・統計原簿を調べると、1日の観測時刻と観測回数が時代により、 また観測所ごとに違っている。こうした観測・統計方法の違いによる年平均気温 に対して補正を行った。また、日だまり効果や都市化による昇温量も補正した。

本論では、前回の「K173.日本の地球温暖化量、再評価 2018年」の31地点に新しく3地点(銚子、沖永良部、与那国島)を加え 34地点について再評価した。利用の便利さを考慮して、ごく最近の気温観測値 と一致させてある。そのため、昔の気温の値そのものは、観測値より0.4℃程度 高めの観測所が多いが、観測環境の変化が微小な寿都や宮古は0.1℃程度低めに なっている。ただし、都市化による昇温量の大きい地点は34地点に含まれて いない。このことは、これまでに行ってきた解析・補正の結果であり、以下で 述べる解析の結果でもある。


203.2 温暖化量の評価方法(概要)

気温データの補正方法の詳細は近藤(2012)、または 「K48.日本の都市における熱汚染量の経年変化」 「K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量」 「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」に説明されているので、 以下では概要を述べる。

百葉箱内観測値の補正
1970年代半ばまで気温は百葉箱内の水銀温度計で観測されていた。百葉箱は 自然通風式で、微風晴天の日中は1℃程度高めに観測される。1970年代に順次、 百葉箱は使われなくなり通風式気温計に変更になった。両者の比較が札幌から 石垣島までの12地点で15年間行われた。その資料を解析した結果、

年平均気温の差(=百葉箱内気温-通風筒内気温)=0.10±0.06℃

を得た。したがって、百葉箱内の観測時代の年平均気温観測値は0.1℃低く 補正する。

観測回数の変更による補正
現在の観測時刻は毎正時24回観測の平均値を日平均気温としている。 時代によって観測時刻と観測回数が変更されている。気温の日変化の平均値は 単純な正弦関数と異なるので、等間隔で観測した3回観測でも4回観測でも平均値は 24回平均値と異なる。

同じデータを使って24回平均と3回平均、4回平均を比較してみると、差(誤差) は経度(太陽南中時刻)の関数となる。その大きさは気温日較差(内陸か 沿岸・島)の関数でもある。24回観測に比べて3回観測(6時、14時、22時) では0.1~0.3℃低めに、4回観測(3時、9時、15時、21時)では逆に0.1~0.2℃ 高めに観測される。これを補正量として昔の3回時代・観測所と4回時代・観測所 は補正した。

いっぽう、6回観測と8回観測について24回観測と比較してみると、

6回観測の補正量=+0.006℃±0.018℃
8回観測の補正量=-0.002±0.009℃

である。それゆえ、6回時代・観測所と8回時代・観測所のデータは補正しない。

参考:日界による最低気温の違い 1964年以後、現在の1日の区切り(日界)は24時であるが、昔は9時、10時、 22時の時代があった。同じデータを用いて比べてみると、最低気温の年平均値 について、例えば9時日界では全国平均で0.35℃(小さい観測所で0.2、大きい 観測所で0.7℃)ほど24時日界が低温である。模式的説明は近藤(2009)、 または「身近な気象」の
「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」の図42.5に説明されている。

日だまり効果の補正
観測所の周辺に建物が建てられる、あるいは周辺の樹木が成長すると観測露場の 風速が低下し、空気の鉛直混合が弱くなって熱の拡散が少なくなる。 その結果、日中の気温は高め、夜間は低めに観測されるようになる。日中の気温 上昇量が夜間の下降量よりも大きく、年平均気温が高くなる。これを筆者は 「日だまり効果」と呼ぶことにした。

各地気象観測所の移転や環境変化によって起きる年平均気温の上昇量を評価して みると、その期間内の年平均風速の減少率と比例関係にあることがわかった。 40%の風速減少に対する気温上昇量は0.2~0.3℃であるが、実際には多くの場合、 都市化の影響も加わり、平均的に0.6℃前後の上昇量となる。

「K173.日本の地球温暖化量、再評価2018」 の図173.1は、2007年以前のデータを用いて評価した気温上昇量(=都市昇温量 +日だまり効果昇温量)と風速増加率の関係である。

日だまり効果については「K121.空間広さと気温-日だまり 効果のまとめ」に要約してあり、詳細はSugawara & Kondo(2019)に示され ている。


203.3 気温データの接続方法

観測環境の変化に伴う接続
観測露場の周辺環境、すなわち空間広さ(=気温計から周辺地物までの 距離 / 周辺地物の高さ) が大きく変わると日だまり効果が増加する、あるいは周辺数 km 範囲の都市化 影響による昇温量が大きくなった場合、その観測所データの利用は中止し、 近隣の環境変化の少ない観測所(観測環境ほぼ一定が続いている観測所) の気温データと接続させる。観測所は原則として、地域気象観測所のうち頭に 「特別」のつく観測所(気象台、旧測候所)を選ぶ。

データ接続の例を図203.1に示した。房総半島の勝浦測候所は無人化されて 観測環境の保全が難しくなったのに対し、銚子は都市化影響による昇温量は 1990年以後一定値(=0.26℃)が続いているので、2008年以後は銚子に接続 させる。

勝浦・銚子の接続
図203.1 勝浦の気温(黒印)と銚子の気温(赤印)を接続させるときの 説明図。


1990~2007年の平均気温は、勝浦で15.91℃、銚子で15.61℃(銚子が0.26℃低温) である。したがって2007年以前の勝浦の気温に-0.26℃を加えた値を銚子に接続 させた。

以前の解析では、南西諸島の観測地点として石垣島の1地点しか選んでいなかった ので、屋久島と石垣島のほぼ中間にある沖永良部島を追加する。1974-1989年の 屋久島と石垣島の平均気温をずらして沖永良部島の平均気温と一致するように 接続した。すなわち、1989年までは屋久島・石垣島の平均気温に+0.63℃加算 した値、1990年以後は沖永良部島の観測値とした。

また、石垣島では都市化影響が現れ出したので、1990以後は日本最西端の 与那国島と南大東の2観測所に接続させた。
南大東の観測所は浅い盆地状の地形にあり、石垣島の観測所と比べて気温日変化 が少し異なる。しかし、ここでは年平均気温の長期変化(地球温暖化量)を 見ることが目的であり、年平均値が連続するように接続した。

このような方法によって100年以上前の1893年以後の各観測所の気温データも 接続してきた。表203.2では1990以後の接続がわかるように赤数値(℃)で 示してある。

古い時代1881~1892年とそれ以後の接続
日本における近代的な気象観測は1872年(明治5年)に函館で、1875年(明治8年) に東京で始まり、時代とともに観測所数が増え、昭和初期にかけて全国各地で 観測が行われるようになった。古い時代の少数地点の気温データも有効活用する (近藤、2012)。

表203.1は、以前に求めてあった古い時代1881~1892年の少数地点から評価した 日本平均気温(赤数値)と1893年~1910年の日本平均気温(黒数値)を接続 させた数値表である。1893年以後の日本平均気温は、現在の34観測所の一部を 他の観測所に将来変更する場合、黒数値は僅かながら変わる可能性がある。 そのときは、赤数値も変えるが、いつでも、

「赤数値の平均値」-「黒数値の平均値」=0.11℃

になるように接続する。

表203.1 1881~1910年の日本平均の気温表、ただし、気温値そのものは 最近の値に接続するようにずらした値になっている。
1881-1892年データ


203.4 全国34地点の数値データ

本論でいう「地球温暖化量」とは、次節の式(1)で定義するように、 都市化や日だまり効果を含まない年平均気温(℃)の上昇量である。
表203.2は34地点における1893年~2019年の地球温暖化量。赤数値は時代の途中で 変更・接続した新観測所のデータである。ただし、古い時代の接続ではなく、 赤数値は「再評価2018」以後に行った変更・接続である。

この34地点データのエクセルファイルは本文の最後の付録 に掲載してある。エクセルファイルをコピーして利用することができる。

利用の際はデータセット名を ”KON2020”とした上、 本ホームページ
http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kenkyu/ke203.html
を引用してご利用ください。


表203.2(a)1893~2019年の地球温暖化量一覧表(都市化+日だまり効果を 含まない年平均気温(℃)、1部目(データ名:KON2020)。
一覧表、1部目


表203.2(b)続き、2部目。
一覧表、2部目


表203.2(c)続き、3部目。
一覧表、3部目


表203.2(d)続き、4部目。
一覧表、4部目


203.5 気温の長期変化

地球温暖化量は次式で定義する。

気温上昇量=地球温暖化量+都市化による気温上昇量+日だまり効果昇温量  ・・・(1)

以下で示す気温は、都市化影響や日だまり効果を除いた地球温暖化量に関わる 気温である。そのため、昔の気温の数値は観測値と一致せず、ずらした値になって いる。

図203.2は再評価によって得た日本平均の気温の長期変化である。 100年間当たりの気温上昇率は、

   0.77℃/100y、(1881~2019年の139年間) ・・・・(2)

であり、2007年まで解析した前回の評価0.067℃/100y(1881~2007年、127年間) よりも大きい。

気温の長期変化
図203.2 日本平均の気温の長期変動(34地点平均)。都市化や日だまり 効果を含まない気温である。


下の表203.3に示すように、100年間当たりの気温上昇率は期間の選び方によって 大きく変わる。上記の図から分かるように、1980年代に起きた極端な低温年が 1990年以後に起きていないからである。そのほか、気温の長期変化には、太陽 黒点数の約10年周期と、大規模火山噴火・海洋変動に伴う30~40年の周期的変化 が混在するからである(近藤、2012)。

表203.3 期間の取り方と100年当たりの気温上昇率の違い。
100年当たり気温上昇率の表


図203.2に示した5年移動平均のプロットに注目すると、2020年ころの顕著な気温 変動のピークは太陽黒点数の極小期に対応している。1890年の極小期にもピーク がある。 1920~1960年の期間は極大期に気温変動のピークがある。このように、 太陽黒点数と気温の約10年周期変動は時々、位相が逆転する(近藤、2012)。

まとめ

日本の地球温暖化量について、最初の評価2007年(34地点)と再評価2018年 (31地点)の続きとして新地点(銚子、沖永良部、与那国島)を追加し、 34地点の一覧表を作成した。気温の観測・統計方法の時代による変更や、 日だまり効果と都市化影響による昇温量を補正した値である。

今回の1881~2019年期間の日本平均の100年当たりの地球温暖化率は0.77℃/100y となった。地球温暖化量には太陽黒点数と同じ約10年周期と、大規模火山噴火・ 海洋変動に伴う30~40年の周期的変化が混在するため、100年間当たりの気温上昇量 は期間の選び方によって大きく変わる(表203.3)。

今後のデータ管理
気象庁の気象観測所では、数年ごとに露場の観測環境についてのデータ (メタデータ)が記録されている。

表203.2に示した、ある観測所Aについて全方位の観測露場の空間広さ(=周辺地物 までの距離/地物の高さ)に顕著な変化が起きた場合、観測所Aの気温と周辺 観測所数カ所の平均気温との差を20年間以上について図示・比較すれば、気温差 にも変化が見られるはずである。

そうした場合には、観測所Aの代替観測所Bを見つけて気温データを接続させる (図203.1を参照)。注意として、気温変動にはごくローカルな変動もあるので、 数年間の短期間の比較だけで代替観測所Bを決めてはならない。観測所は原則 として、地域気象観測所のうち頭に「特別」のつく特別地域気象観測所 (気象台、旧測候所)を選ぶ。

データの利用
地上1.5m高度で観測される気温は、周辺地物の影響を受けやすく 「日だまり効果」によって平均気温が高めに観測される。露場の周辺環境は 時代によって変化しやすい。これに対して、高い塔の上で観測される気温は 広域の気温を代表する(近藤・菅原、2018)。

高い塔の上で気温観測する新設の「地球温暖化観測所」ができたとき、表203.2に 掲載されている周辺数カ所の観測所における気温の長期変動の傾向と同じに なっているかどうかを調べ、新設の観測所の適否を決める。適否の判断は、 少なくとも10年以上、20年間について調べればわかる。ここで、適否とは、 観測が正常に行われているか否かのことを意味する。

なお、「高い塔の上で観測される気温は広域の気温を代表する」ことは、 「K195.気候変化と地球温暖化観測所(講演)」 の付録(観測高度が高いほど地物の影響を受けない理論的考察)で説明されている。


文献

近藤純正、2009:気温観測の補正と正しい地球温暖化量.アリーナ(中部大学)、 第7号、144-161.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、 224号、25-56.

近藤純正・菅原広史、2018:東京都心部を代表する気温。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke165.html(2018年9月2日閲覧).

Sugawara, H. and J. Kondo, 2019: Microscale warming due to poor ventilation at surface observation stations. J. Atmos. and Oceanic Tech., 36, 1237-1254.


付録 全国34地点データ(エクセル)

表203.2には34地点における1893年~2019年の地球温暖化量(都市化や日だまり効果 を含まない年平均気温℃)を示した。この データを利用するとき、数値のコピーができるようにエクセルファイルから 作った数値表を掲載した。

クリックして次の 「全国34地点データ(数値表)」を参照し、プラウザの「戻る」を 押してもどってください。
全国34地点データ(数値表)




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