K173. 日本の地球温暖化量、再評価2018


著者:近藤純正
日本の地球温暖化量を再評価した。以前に、観測・統計方法が時代によって変更 されたことで生じる不連続データを補正し、さらに、日だまり効果による 昇温量を補正した34観測所のデータを用いて日本の地球温暖化量を評価してあった。 その後の2017年までの10年間データを追加して31観測所のデータを用いて再評価 した。

この10年間に観測所環境が大きく変わった地点(水戸、勝浦、洲本)は含めず、 近傍に代替観測所があれば変更してデータを接続した(金華山は1992年から 大船渡へ、長野は2000年から高田へ、彦根は2000年から敦賀へ、石垣島は1990年 から南大東島へ)。

日本平均の地球温暖化量は100年間当たり0.73℃/100yの上昇であり (1881年~2017年、137年間)、前回2007年の評価0.67℃/100y(1881年~2007年、 127年間)よりも大きくなった。それは、最近30年間に極端な低温年が起きて いないからである。

気温の上昇傾向に混ざって、約10年の周期的変動がある。また、1980年代に似た 低温凶作時代が30~40年ごとに起きている。

地球温暖化量および数十年ごとに起きる気温ジャンプの気温上昇量は低緯度で小さく、 高緯度(北海道)になるほど大きくなる。

今後、次世代を担う人々が気象庁の協力を得て10年ないし20年ごとに観測所環境 の変化を調べ、データの接続を工夫し、地球温暖化量の再評価を続けていくことを 希望する。
(完成:2018年10月16日)

本ホームページに掲載の内容は著作物である。 内容(新しい結果や方法、アイデアなど)の参考・利用 に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを明記のこと。

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更新の記録
2018年9月7日:素案の作成
2018年9月8日:付録2の図と表を追加
2018年9月18日:「バックグラウンド気温」の説明など加筆
2018年9月22日:付録3を追加
2018年9月23日:付録3の図を緯度分布の図に変更
2018年9月29日:付録4を追加
2018年9月30日:付録4にジャンプの説明を加筆
2018年10月16日:173.3節の「準備解析」に「接続上の注意」を加筆


    目次
        173.1 はじめに
        173.2 温暖化量の評価方法      
        173.3 全国平均と各地域平均、数値データ
        173.4 経年変化のグラフと地域による違い
        173.5 温暖化評価の継続観測所と中止観測所
        まとめ
        参考文献
        付録1 前報の2007年までの評価、数値データ
        付録2 3地点(寿都、宮古、室戸岬)の地球温暖化量
        付録3 地球温暖化による気温上昇率の緯度分布
        付録4 気温ジャンプの大きさの緯度分布                 


173.1 はじめに

「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」が1987年に発足し、地球温暖化 問題がクローズアップされるようになり、日本の地球温暖化量の評価が 多くの人々に知られるようになった。 1990年代のころ、100年間当たりの気温上昇率は1.1℃/100y 程度として公表され ていた。

この評価に疑問を抱いたのが筆者の地球温暖化量の正しい評価を行うことになった 動機である。

筆者は1997年3月末に定年引退し、時間的に余裕ができたので、全国各地の気象 観測所を巡回、資料集めを開始することになる。僻地へも行かねばならないので 数10kmを歩くことも可能でなければならない。

しかしながら、筆者は1988年に急性心筋梗塞で心臓の開胸手術をしており、 1日に2~3kmなら歩けるが、それ以上は心的・肉体的に困難な状況であった。 定年後は、体力をつけるために東海道の歩き旅が1回に数kmから10kmまで 可能になり、しだいに自信がつき相模湾沿岸を1日に最大50km、平塚から 城ケ島まで、そして伊豆半島の石廊崎まで数日を歩いた。これで昔の人並みに 歩く自信がつき、四国遍路の連続歩き旅を途中まで実行した。

そして2004年10月に旭川から全国の気象観測所を巡回、資料集めを開始した (「写真の記録」の「33.旭川の都市化と気温 上昇」)。

日本の最北から最南まで、東端から西端までの旅。当初は、田舎に設置されている 観測所(現在のアメダス)のデータを利用する予定であったが、アメダスは 移転が多いことと、周辺の観測環境が一般に悪い、データの不揃いなどがあり、 途中で気象官署(気象台、旧測候所)のデータを利用することに変更した。

一部の観測所では、昔の気温が摂氏でなく華氏で表記されており換算もした。 観測所職員に昔の写真も見せていただき、古い記録原簿・統計原簿などから データを数日かけて手写しする。もちろん、気象庁図書室に保管されている 中央気象台年報・月報やその他の報告書も調べ、最近ではインターネットで 公表されているデータを利用した。


173.2 温暖化量の評価方法

気温データの補正方法の詳細は近藤(2012)、または 「K48. 日本の年における熱汚染量の経年変化」「K45.気温観測の補正と正しい地球温暖化量」 に説明されている。以下では概要を述べる。

百葉箱内観測値の補正
1970年代半ばまで気温は百葉箱内の水銀温度計で観測されていた。百葉箱は 自然通風で、微風晴天の日中は1℃程度高めに観測される。1970年代に順次、 百葉箱は使われなくなり通風式気温計に変更になった。両者の比較が札幌から 石垣島までの12地点で15年間行われた。その資料を解析した結果、

年平均気温の差(=百葉箱内気温-通風筒内気温)=0.10±0.06℃

を得た。したがって、百葉箱内の観測時代の年平均気温観測値は0.1℃低く補正する。

なお、観測方法の変更についての詳細は「K23.観測法変更に よる気温の不連続」に示してある。

観測回数の変更による補正
現在の観測時刻は毎正時24回観測の平均値を日平均気温としている。時代によって 観測時刻と観測回数が変更されている。気温の日変化の平均値は正弦関数と 異なるので、等間隔で観測した3回観測でも4回観測でも平均値は24回平均値 と違う。

同じデータを使って24回平均と3回平均、4回平均を比較してみると、差(誤差) は経度(太陽南中時刻)の関数となる。その大きさは気温日較差(内陸か沿岸・島) の関数でもある。24回観測に比べて3回観測(6時、14時、22時)では 0.1~0.3℃低めに、4回観測(3時、9時、15時、21時)では逆に0.1~0.2℃高めに 観測される。これを補正量として昔の3回時代・観測所と4回時代・観測所は補正した。

いっぽう、6回観測と8回観測について24回観測と比較してみると、

6回観測の補正量=+0.006℃±0.018℃
8回観測の補正量=-0.002±0.009℃

である。それゆえ、6回時代・観測所と8回時代・観測所のデータは補正しない。

参考:日界による最低気温の平均値の違い
1964年以後、現在の1日の区切り(日界)は24時であるが、昔は9時、10時、 22時の時代があった。同じデータを用いて比べてみると、最低気温の年平均値 について、例えば9時日界では全国平均で0.35℃(0.2~0.7℃)ほど24時日界が 低温である。模式的説明は近藤(2009)、または「身近な気象」の 「M42.正しく知ろう地球温暖化(講演)」 の図42.5に説明されている。

日だまり効果の補正
観測所の周辺に建物が建てられる、あるいは周辺に樹木が成長すると観測露場の 風速が弱まり、空気の鉛直混合が弱くなって熱の拡散が少なくなる。 その結果、日中の気温は高め、夜間は低めに観測されるようになる。日中の気温 上昇量が夜間の下降量よりも大きく、年平均気温が高くなる。これを筆者は 「日だまり効果」と呼ぶことにした。

各地気象台の移転や環境変化によって起きる年平均気温の上昇量を評価してみると、 その期間内の年平均風速の減少率と比例関係にあることがわかった。 40%の風速減少に対する気温上昇量は0.2~0.3℃であるが、実際には多くの場合、 都市化の影響も加わり、平均的に0.6℃前後の上昇量となる。

図173.1は2007年以前のデータ(主に1990年以前、一部に2000年以前、2007年以前も 含む)を用いて評価した気温上昇量 (=都市昇温量+日だまり効果昇温量)と風速増加率の関係である。

風速変化率と日だまり効果
図173.1 日だまり効果による年平均気温の上昇量(縦軸)とその期間の年平均 風速の増加率(横軸)の関係、ただし都市化の影響も含む。 「K39.気温の日だまり効果の補正(2)」の表39.1を 図示したものである。


備考1:日だまり効果による昇温量の小さかった観測所
概略1990年までに観測環境の変化で生じた日だまり効果による昇温量(現実には、 同時に都市化による昇温も含む)が小さく、0.2℃以下の観測所は 網代、勝浦、平戸であり、0.1℃以下の観測所は日光、深浦、室蘭、宇和島 であった。寿都、宮古、室戸岬の3観測所はゼロとした。
その後で勝浦の日だまり効果による昇温量は大きくなったので、本論では 温暖化評価の観測所から勝浦は除外することになる。

将来の補正方法を観測所環境の測量等による変化から見いだす目的で、日だまり 効果のシリーズ研究を行い、「K55.日だまり効果の試験地と 観測方法」「K84.観測露場内の気温分布-熊谷」 に掲載した。それらは「K121.空間広さと気温-日だまり 効果のまとめ」に要約した。さらに、菅原広史教授とともに研究を続けている。

本来ならば、理想に近い気象観測所が全国各地に20~30地点ほどあれば、 日だまり効果を補正せずとも地球温暖化量は求められるのだが、現実には 理想に近い観測所は寿都、宮古、室戸岬の3地点しかない。地球温暖化量は 地域・緯度によって異なるので、これをもとに都市化の影響を調べる場合などは、 3地点では不十分である。

広い芝広場をもつ理想に近い観測所のほか、周辺が都市化された観測所であっても その環境(年平均風速の長期変化などからわかる)がほぼ一定に保たれる期間が 10年~20年以上継続すれば、その期間の気温観測値も利用することが望ましい。 今後は、それらを10~20年ごとに接続しながら、日本の地球温暖化量を評価 していかねばならない。

こうして地球温暖化量について高精度の評価が得られれば、それを基準にして 各都市の都市化による昇温量を評価することが可能となる。続報で報告する 都市化による昇温量のうち、例えば東京では関東大震災(1923年)前の1917年から 2017年までの気温上昇量は2.8℃であり、その100年間の都市化昇温量(2.0℃)は 地球温暖化量(0.8℃)の2.5倍である。

続報の詳細は「K174.都市化による都市の昇温量、 再評価2018」に掲載される。

昇温量を正しく評価し、熱中症防止対策や快適な都市設計に役立てたい。


173.3 全国平均と各地域平均、数値データ

用語の解説
観測方法の変更による補正を行ったあとの気温データを解析したとき、ある期間 の気温上昇量は次式で表される。

気温上昇量=地球温暖化量+都市昇温量+日だまり効果昇温量 ・・・・・(1)

右辺第1項の地球温暖化量(バックグラウンド温暖化量)は、実際に観測された 気温上昇量(観測法・統計の時代による変化の補正ずみ)から、都市化による 昇温量と日だまり効果による昇温量を引いた、気温の上昇量として定義され、 数年から数十年の周期的な気候変動も含めている。


なお、寿都、宮古、室戸岬の3地点については、「都市化による昇温量と 日だまり効果による昇温量」はゼロである。この3地点以外の地点について、 「都市化による昇温量と日だまり効果による昇温量」の補正が全体として正しく 行われたことは、付録2で示す3地点による100年間当たりの地球温暖化 による昇温率0.73℃/100y(137年間)が31地点から求めた式(2)の結果と 一致することから確認できる。



第2項と第3項は多くの観測所で含み、都市観測所では第2項と第3項を分離する ことは普通には難しいが、可能である。例えば、計画をたてた特別観測を 行えば可能である(近藤・菅原、2018: 「K165.東京都心部を代表する気温」)。

第2項の都市昇温量は、人工的熱消費量の増加や、ビルの密集化や地表面が 舗装され蒸発散量が減少することで地温・気温の上昇によるものである。 都市内の広大な芝地に観測所が設置されていない限り、現実には建築物など によって観測露場の風速が減少して日だまり効果による昇温が生じる。

住宅などの建築物や舗装道路などが少ない田舎の観測所では主に第3項を含む。 観測露場周辺の樹木が成長することで、風通しが悪化して日だまり効果による 昇温が生じる。

準備解析
前回求めた、2007年までのデータから評価した34地点の地球温暖化量がある (本論の付録に再掲)。準備解析として、それに以後のデータをそのまま追加する。 近藤(2012)の表2.5に示した各地域グループ(北海道、東北、関東・越後、 中部・近畿、西日本)の地球温暖化量(その論文ではバックグラウンド温暖化量 と記載)を基準に34地点の都市化による昇温量の経年変化を調べる。

そうして、後掲の図173.5~173.8と同様な図を作成する。最近10~30年間の 「都市昇温量+日だまり効果昇温量」がほぼ一定で安定している観測所 (例:飯田)は今後も地球温暖化量評価観測所として利用し、そうでなく 昇温量が年々大きくなっている観測所(例:水戸、勝浦、長野、彦根)は今後の 温暖化評価観測所として利用しないことにする(中止観測所)。 中止観測所の近傍の観測所について上記と同様に、最近の「都市昇温量+ 日だまり効果昇温量」がほぼ一定で安定している観測所(例:大船渡、高田、 敦賀、南大東島)を中止観測所の代替観測所として地球温暖化量を接続させる。

接続の方法として、新しい代替観測所の年平均気温がそのまま使えるように するため、以前の古い中止観測所の年平均気温を補正する。すなわち、新しい代替 観測所と中止観測所の11年間の平均気温を比較し、その気温差を以前の観測所 データに加えた。

〇金華山と大船渡は1981~1991年を比較・接続し1992年から大船渡を用いる。
 1991年までの金華山の年平均気温に(-0.68℃)を加えて接続した。
〇長野と高田は1995~2005年を比較・接続し2000年から高田を用いる。
 1999年までの長野の年平均気温に(+1.77℃)を加えて接続した。
〇彦根と敦賀は1995~2005年を比較・接続し2000年から敦賀を用いる。
 1999年までの彦根の年平均気温に(+0.66℃)を加えて接続した。
〇石垣島と南大東島は1985~1995年を比較・接続し1990年から南大東島を用いる。
 1989年までの石垣島の年平均気温に(-0.88℃)を加えて接続した。

接続上の注意:(1)長野を高田へ、彦根を敦賀へ接続させたが、 それぞれの積雪量など違い、いわゆる気候区が異なる。しかし、両地点間の距離は それぞれ70km、50kmであり、年平均気温の経年変化の傾向に大きな違いはない。
(2)2地点の気温を接続する際に11年間を比較した理由は、11年周期の気候変動 があるため、11年間の平均気温が一致するように一方の観測所(金華山、長野、彦根、 石垣島)の気温をずらせて、他方の観測所(大船渡、高田、敦賀、南大東島) の気温につながるようにしてある。その結果、接続によって不連続は生じていない。
(3)上記の4組について接続の年が異なるのは、データの入手が困難になった 問題(金華山)や、都市化影響・日だまり効果による昇温傾向などが地点ごとに 異なるためであり、期間を統一することはできないからである。


周辺に代替観測所が見つからない水戸、勝浦、洲本の3観測所は利用を中止した。 その結果、評価に利用する観測所は3地点少なくなり合計31地点となった。

このようにして31観測所の2017年までの地球温暖化量を再評価した。31観測所は、
(1)寿都、根室、網走、稚内、浦河、室蘭
(2)宮古、深浦、石巻、大船渡、山形、日光、相川、 伏木、高田
(3)飯田、石廊崎、御前崎、敦賀、潮岬
(4)室戸岬、津山、多度津
(5)境、屋久島、清水、平戸、浜田、宇和島、枕崎
(6)南大東島

である。赤文字は新しい代替観測所である。

31観測所の平均は全国とする。続報の都市化による「都市昇温量」を評価する際に 必要となる地域ごとの5グループに分ける。
全国 (31地点):(1)~(6)の全地点
北海道( 6地点):(1)の全6地点
東北 (11地点):(1)の浦河、室蘭の2地点と(2)の全9地点
東日本( 9地点):(2)の日光、相川、伏木、高田の4地点と(3)の全5地点
中部 (10地点):(2)の伏木、高田の2地点と(3)の全5地点と(4)の全3地点
西日本(15地点):(3)の全5地点と(4)の全3地点と(5)の全7地点

備考2:中止観測所の復活の可能性
地球温暖化量の評価に利用してきた観測所を中止とした場合でも、将来、周辺 環境が変化せず20年以上にわたり落ち着いてきた場合は、復活させる。 そうして、どの時代でも20~30観測所のデータから地球温暖化量を評価できる ようにしておく。

備考3:2グループに同じ観測所を用いること
東北のグループに北海道の浦河、室蘭を含めてあるのは、地域のバランスを 考慮するほか、グループ境界の幅を広くするためである。 東日本、中部、西日本のグループにも同じ理由で用いてある。


地球温暖化量、再評価2018
今回設定した31観測所の地球温暖化量をもとに、準備解析と同様に最近の 「都市昇温量+日だまり効果昇温量」がほぼ一定で安定しているかどうかを 図示によって調べ、安定していることを確認した。すなわち31観測所について、 最近の「都市昇温量+日だまり効果昇温量」がほぼ一定で安定しており、 温暖化評価に用いる観測所とする。

得られた数値データを表173.1、表173.2(A, B の2部)、表173.3(A, B, C, Dの 4部) に掲載した。

なお参考のために、以前に評価した2007年までの34地点の一覧表は付録1に掲載 してある。

備考4:接続後のデータ
「都市昇温量+日だまり効果昇温量」について、昔はゼロで最近はプラスに なったが、最近の気温データを低く補正する代わりに昔の気温を上げることに よって、最近のデータがそのまま使えるようにしてある。

表173.1 1881年~1910年の全国31地点平均のバックグラウンド気温 (基準年の気温+地球温暖化量)の経年変化。黒数値で記載の 1893以後は表173.2にも掲載してある。今後の10年~20年後の再評価の時点で 観測所を変更する場合は、この表173.1は利用する。
1881~1910年の全国平均気温

表173.2(A) 1893年以後の全国および地域ごとのバックグラウンド気温 の経年変化(都市化+日だまり効果昇温量を含まない)。
地域ごと平均値その1


表173.2(B) 表173.2の続き(2部目)。
地域ごと平均値その2


表173.3(A) 1893年~2017年のバックグラウンド気温の経年変化。
赤数値は代替観測所のデータ、それ以前は11年間の平均値が一致するように 接続してある。
各点温暖化量その1


表173.3(B) 表173.3の続き、2部目
各点温暖化量その2


表173.3(C) 表173.3の続き、3部目
各点温暖化量その3


表173.3(D) 表173.3の続き、4部目
各点温暖化量その4


173.4 経年変化のグラフと地域による違い

図173.2は再評価によって得た日本平均のバックグラウンド気温(基準年の気温+ 地球温暖化量)の経年変化である。 100年間当たりの気温上昇率は、

   0.73℃/100y、(1881~2017年の137年間) ・・・・(2)

であり、前報の評価0.67℃/100y(1881~2007年、127年間)よりも大きい。 大きくなった理由は、図から分かるように、1980年代に起きた極端な低温年が 1990年以後に起きていないからである。

前報でも述べたように、図をよく見ると、気温の上昇傾向に混ざって、約10年の 周期的変動がある。また、1980年代に似た低温凶作時代が30~40年ごとに起き ている。

日本平均の温暖化量
図173.2 1881年~2017年の日本平均のバックグラウンド気温(基準年の気温+ 地球温暖化量)の経年変化、1881年~2017年(137年間)。


備考5:3地点による地球温暖化量
観測方法の変更によるずれ(誤差)は補正するが、日だまり効果による 昇温量ゼロとした3地点(寿都、宮古、室戸岬)の地球温暖化量の経年変化を描き、 100年間当たりの気温上昇率を求めると0.73℃/100y となる。これは上記の図173.2 で得た同じ気温上昇率である(付録2)。


次に、地域ごとの違いを見てみよう。図173.3は北海道と西日本の地球温暖化量 の比較である。大きな傾向は同じであるが、数年の周期的変化の変動幅は北海道 で大きい。前報で述べたように1913年、1946年、1988年の気温ジャンプは高緯度 (北海道)ほど大きい。

30~40年ごとの気温ジャンプに注目し、ジャンプ間の気温変化を破線の直線で 示した。ジャンプの後で気温は下降傾向が多かったが、1988年ジャンプ 後は各地域とも気温は上昇傾向となった。

地域間の違いを詳しく見るために、各地域間の気温差の経年変化を図173.4に 示した。

北海道と西日本の比較
図173.3 北海道(上)と西日本(下)のバックグラウンド気温(基準年の気温+ 地球温暖化量)の経年変化の比較。


4地域の差の比較
図173.4 地域間のバックグラウンド気温の差の経年変化。


図173.4の一番上に描いた黒破線は東北と北海道の差であり、約10年の周期的変動 が顕著に出ている。下方に描いた中部と東日本の差、および西日本と中部の差は 小さく、経度による周期的変動の違いは小さい。つまり、約10年周期の変動 は主に緯度の関数と考えてよい。

備考6:地域ごとの気温上昇率の違い
各地域でデータの揃った1893年~1917年(125年間)の地球温暖化量による 100年間当たりの気温上昇率を比較すると、次のとおりである。

全国・・・・・0.82℃/100y、 1893~2017年

北海道・・・・0.94℃/100y、 1893~2017年
東北・・・・・0.86℃/100y、 1893~2017年
東日本・・・・0.77℃/100y、 1893~2017年
中部・・・・・0.76℃/100y、 1893~2017年
西日本・・・・0.77℃/100y、 1893~2017年

なお、気温上昇率の緯度分布は付録3に示した。

備考7:期間の取り方による気温上昇率の違い
全国の気温上昇率0.82℃/100y(1893~2017年、125年間)は前記の 1881年~2017年(137年間)の全国の気温上昇率0.73℃/100y と異なる。 また、1925年~2017年(93年間)では0.95℃/100y、1980年~2017年(38年間) では2.68℃/100y となる。 このように、期間の取り方によって気温の上昇率は大きく異なることに注意する こと。約10年や30~40年程度の短期間変動を含まないように、 地球温暖化量の評価は少なくとも100年以上の期間を選ばなければならない。



173.5 温暖化評価の継続観測所と中止観測所

この節では、代表的な観測所について、前掲の式(1)で定義した右辺の第2項と 第3項の和(都市昇温量+日だまり効果昇温量)の経年変化を見てみよう。 図173.5~173.8は、新しく今回評価した地球温暖化量をもとにして作成した。

図173.5は例として示した飯田の都市化による昇温量(都市昇温量+日だまり効果 昇温量)の経年変化である。前報で日だまり効果などを補正して地球温暖化量を 評価して以来、その後の縦軸に表す昇温量がほぼ一定で続いている。それゆえ、 飯田は引き続き地球温暖化量を評価する観測所として継続する。

飯田
図173.5 都市化による昇温量(日だまり効果も含む)の経年変化、飯田。


次に、例として示す図173.6~図173.8(水戸、長野、彦根)では、縦軸に 表す昇温量がその後も一定でなく上昇を続けている。これは、周辺に建築物など 増えて観測環境が変化していることを表すものである。

それゆえ、これらは中止観測所とした。そのうちの長野と彦根は 近隣に代替観測所(高田、敦賀)が見つかったので、気温データを接続させた のである(前記の準備解析を参照)。

水戸
図173.6 都市化による昇温量(日だまり効果も含む)の経年変化、水戸。


長野
図173.7 都市化による昇温量(日だまり効果も含む)の経年変化、長野。


彦根
図173.8 都市化による昇温量(日だまり効果も含む)の経年変化、彦根。


このように、今後10~20年ごとに観測所の環境変化に注意する。気象庁が メタデータとして測量している(1)露場から見た周辺地物の仰角の変化のほか、 (2)年平均風速の変化、(3)都市化昇温+日だまり効果昇温の変化、 などを総合して環境変化について検討し、地球温暖化量の再評価を継続していく。


まとめ

以前に、観測・統計方法が時代によって変更されてきたことで生じる不連続データ を補正し、さらに、日だまり効果による昇温量を補正して2007年までの34観測所 のデータを用いて日本の地球温暖化量を評価してあった。その後の2017年までの 10年間データを追加して31観測所のデータを用いて日本の地球温暖化量を再評価 した。

この10年間に観測所環境が大きく変わった地点(水戸、勝浦、洲本)は含めず、 近傍に代替観測所があれば変更してデータを接続した(金華山は1992年から 大船渡へ、長野は2000年から高田へ、彦根は2000年から敦賀へ、石垣島は1990年 から南大東島へ)。

データの接続に際して、最近の気温観測値がそのまま使えるように、以前の データを補正する。その結果、昔の気温は観測値と違ってくることを認識して おかねばならない。地球温暖化量の上昇率が増加しているか否かを判断すること を目的としているからである。

日本平均の地球温暖化量は100年間当たり0.73℃/100yの上昇であり (1881年~2017年、137年間)、前回2007年の評価0.67℃/100y (1881年~2007年、127年間)よりも大きくなった。それは、最近30年間に 極端な低温年が起きていないからである。

なお、この気温上昇率0.73℃/100y は日だまり効果による昇温量=ゼロとした 3地点(寿都、宮古、室戸岬)のみで評価した気温上昇率と同じである(付録2)。

気温の上昇傾向に混ざって、約10年の周期的変動がある。約10年の周期的変動 は経度による違いは見いだせないが、高緯度(北海道)ほど大きい。 また、1980年代に似た低温凶作時代が30~40年ごとに起きている。

備考6で示したように、日本の地球温暖化量は高緯度ほど大きい。確認のために、 データの揃った1893年~2017年の125年間について100年間当たりの気温上昇率の緯度 分布を調べた。気温上昇率は緯度24°~35°の南日本で0.7~0.8℃/100y に対し、 緯度42°~46°の北海道で0.9~1.0℃/100y と大きく、高緯度ほど大きい(付録3)。

近藤(2012)が示したように、30年~40年ごとに気温が1~2年のうちに急激に 上昇する「気温ジャンプ」がある。今回解析した31地点について調べると、 気温上昇量は低緯度で小さく高緯度(北海道)では約2倍の大きさである(付録4)。

今後、次世代を担う人々が気象庁の協力を得て10年ないし20年ごとに観測所環境の変化 を調べ、データの接続を工夫しながら、地球温暖化量の再評価を続けていくこと を希望する。

データの接続で注意しておきたいことがある。長期観測データには欠測期間もある。 欠測期間がある場合など、データを切り捨てていては、その時代の気象庁先輩 たちの努力を生かすことができない。昔の記録を見ると、現代では想像もできない ような台風時の命がけの観測などが含まれている。工夫して貴重なデータを 有効に活用していきたい。

特記事項
研究など有効利用のために本人からの申出があれば、表173.1~表173.3および 付録の表のエクセル・ファイルをお送りすることは可能です。利用の際は、 本ホームページからの引用であることを明記してください。


あとがき
筆者は1997年春に大学を定年退官するとき、記念として「一仕事二十年」(pp.116) を著した。
一つの仕事を成し遂げるまでに20年ほどかかることを感じたからである。 その20年間に論文100編ほどを積み重ねが必要であった。本論および続報を含む 仕事も定年後の20年を要した。

謝辞:
本ホームページの所々に「協力者」として記載してあるほかに、 「気候観測応援会」のメンバー97名、明記していない方々を含めて、 200名以上の方々から協力を得た。
なお、「気候観測応援会」は当初30名から発足した(「身近な気象」の 「M53.気候観測を応援する会ー発足」)。 現在は97名である。


参考文献

藤田敏夫、1984:還流パターンの変動に及ぼす火山爆発の影響. 気候変動 研究集会報告集、Ⅳ-6.

Kondo, J.,1988: Volcanic eruptions, cool summers, and famines in the northeastern part of Japan. J. Climate, 1, 775-788.

近藤純正、2006:観測法変更による気温の不連続。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke23.html(2018年9月2日閲覧).

近藤純正、2009a:日だまり効果の補正(2)。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke39.html(2018年9月2日閲覧).

近藤純正、2009b:気温観測の補正と正しい地球温暖化量.アリーナ(中部大学)、 第7号、144-161.

近藤純正、2012:日本の都市における熱汚染量の経年変化.気象研究ノート、224号、 25-56.

近藤純正、2015:日だまり効果のまとめ。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke121.html(2018年9月2日閲覧).

近藤純正・菅原広史、2018:東京都心部を代表する気温。
http:/www.asahi-net.or.jp/~kondu/kenkyu/ke165.html(2018年9月2日閲覧).

山崎幸雄・上野英克・近藤純正、1989:東北地方太平洋沿岸域の大気と海洋の 相互作用の長期変動.天気、36、689-695.




付録1

前報の近藤(2012)に掲載した表2.3(バックグラウンド温暖化量一覧表、 2007年までの34地点)を再掲しておく。

付録の表 前回の2007年までの評価、数値データ
日本の34地点のバックグラウンド気温一覧表(2007年までの気温補正データによる)。
「K48. 日本の都市における熱汚染量の経年変化」 の表3に同じ。
バックグラウンド温暖化量一覧表01

バックグラウンド温暖化量一覧表02

バックグラウンド温暖化量一覧表03

バックグラウンド温暖化量一覧表04


付録2

日だまり効果による昇温量ゼロの3地点(寿都、宮古、室戸岬;ただし観測方法 の時代による違いは補正)のみによる平均の地球温暖化量を求めた。

寿都については、1888~1910年の札幌の気温と比較し平均値が一致する ように「札幌の気温+1.03℃」により札幌の1887年までの気温を補正・接続した。
宮古については、1884~1890年の函館の気温と比較し平均値が一致する ように「函館の気温+2.08℃」により函館の1883年までの気温を補正・接続した。
室戸岬については、1893~1910年の潮岬の気温と比較し平均値が一致する ように「潮岬の気温-0.52℃」により潮岬の1892年までの気温を補正・接続した。
注意:ここに潮岬とは、付録1の表に掲載の潮岬の気温データである。 その潮岬の1912年以前のデータは和歌山のデータに接続させてある。

接続上の注意: 本文の173.3節の「準備解析」の「接続上の注意」で 説明したように、2地点の気温の接続に際して不連続が生じないように、数年間の 気温の比較を行い、その気温差を接続前の観測所の気温に加えるなどいわゆる 接続処理を行った。

図173.9(上図)は1881~2017年、3地点平均の137年間の経年変化である。 100年間当たりの気温上昇率=0.73℃/100y であり、図173.2に示した気温上昇率 と同じであり、10年~30年程度のこまかな変動もよく似ている。

いっぽう、下図に示した3地点別々に描いた経年変化では、地域による違いが顕著に 現れている。

3地点平均の温暖化量
図173.9 1881年~2017年の3地点(寿都、宮古、室戸岬)の地球温暖化量、 1881年~2017年(137年間)。
上:3地点平均、下:3地点別々の変化。


3地点の数値データ(全3ページ:A, B, C)を以下に掲載した。

表173.4(A) 寿都、宮古、室戸岬のバックグラウンド気温、1部目
3地点温暖化量その1


表173.4(B) 寿都、宮古、室戸岬のバックグラウンド気温、2部目
3地点温暖化量その2


表173.4(C) 寿都、宮古、室戸岬のバックグラウンド気温、3部目
3地点温暖化量その3


付録3 地球温暖化による気温上昇率の緯度分布

備考6で示したように、地球温暖化は高緯度ほど大きい。確認のために、 データの揃った1893年~2017年の125年間について100年間当たりの気温上昇率の緯度 分布を図173.10に示した。

小さい丸印プロットは31地点の地点ごと、大きい四角印は地域グループごとの 気温上昇率である。破線は緯度分布の傾向である。

上昇率は緯度24°~35°の南日本で0.7~0.8℃/100y に対し、緯度42°~46°の 北海道で0.9~1.0℃/100y と大きい。

温暖化率緯度分布
図173.10 地球温暖化による100年間当たりに気温上昇率の緯度分布、 1893年~2017年(125年間)。小丸:地点ごと、四角印:地域グループごと。


付録4 気温ジャンプの大きさの緯度分布

気温の長期変動の中に約10年の変動と30年~40年ごとに気温がジャンプすることを 以前に示した(近藤、2012)。そのうちのデータが揃った1893年以後の1913年ジャンプ、 1946年ジャンプ、1988年ジャンプについて、気温上昇量と緯度との関係を調べた。

気温ジャンプにともなう気温上昇量は次の方法で決める。
まず、31地点の各地点について気温の5年移動平均値を計算し、それに基づいて、
1913年ジャンプは1910年~1920年の期間中の最高値と最低値の差、
1946年ジャンプは1940年~1950年の期間中の最高値と最低値の差、
1988年ジャンプは1980年~1990年の期間中の最高値と最低値の差、
をそれぞれの気温上昇量とする。

各ジャンプについて、気温上昇量と緯度との関係を図11に示した。図によれば、 気温ジャンプによる気温上昇量は低緯度で0.5℃前後であるのに対し、高緯度 (北海道)では1℃前後となり約2倍の大きさである。

ジャンプの緯度分布
図173.11 気温ジャンプによる気温上昇量の緯度分布。
上:1913年ジャンプ
中:1946年ジャンプ
下:1988年ジャンプ


気温ジャンプはなぜ生じたか?
近藤(2012)によれば、1881年から2017年までの137年間の期間に 気温ジャンプは4回(1887年、1913年、1946年、1988年)あった。1946年ジャンプ以外の 3回は、ジャンプの数年前から10年余前に世界的な大規模火山噴火が頻発している。

すなわち、
1887年ジャンプの前:1875年、1883年の大噴火、
1913年ジャンプの前:1902年、1907年、1912年の大噴火、
1988年ジャンプの前:1980年、1982年の大噴火、
である(Kondo、1988)。

世界的な大規模火山噴火があると、気温低下が生じる地域と気温上昇が生じる 地域があり、平均すると世界の平均気温は0.1℃~0.2℃程度低下する。特に日本は 世界的に特殊な地域で、低下する傾向が顕著に現れる。東北地方が特に低温となる (Kondo, 1988)。

気温低下ののち、気温はゆるやかに回復するのではなく、「ジャンプ」という 不連続的な回復の物理過程が存在すると考えられる。 統計期間が137年程度で短いので断言できないが、地球温暖化という緩やかな 気温上昇の過程では、顕著な気温下降「ダウン」は存在せず、「ジャンプ」だけが 卓越している(近藤、2012)。

1946年ジャンプの前には世界的な大規模火山大噴火は無かったが、ジャンプ前に気圧配置 の場が大きく異なり日本付近の平均的な風向と風速がずれていた。すなわち、 南北循環インデックスが1946年に大きく変わった(藤田、1984)。 また、山崎ほか1989)によれば、三角測量の原理を使って1910年~1985年 の77年間について、地上気圧の分布から地衡風の風向・風速を計算すると、 ジャンプの前は地衡風が約1m/sも強く、海面が大気へ失う熱フラックス全量の 年平均値が16W/m2 も変化している。

風の場の大きな変化と同時に、三陸沖の海水温度の低温時代が続いていたが ジャンプと同時に海水温度の平均値は1.4℃も上昇している(Kondo, 1988)。

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