7. 都市気温上昇と風速の関係

	著者:近藤純正
		研究課題
		7.1 地球温暖化と都市温暖化
		7.2 研究の目的
		7.3 気温データの解析
		7.4 風速観測高度の統一化
		7.5 各都市の気温経年変化のグラフ

		7.6 粗度、風速、都市気温上昇量の一覧表
		7.7 都市気温上昇量と風速の関係
		まとめ(気象・大気環境観測所のありかた)
		文献
質疑・応答 Q&A は次章「8. 温暖化問題 Q&A」に掲載してあります。

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地球温暖化とは別に、都市では道路舗装の増加、植生地の減少、人工熱の増加 など、いわゆる都市化によって気温が上昇している。別の章(*注)で 述べたように、風が弱い晴天夜間には、都市域の放射冷却は郊外に比べて 弱いので、都市域に形成される夜間のヒートアイランドは顕著になることが 示された。 特に積雪地では、この夜間のヒートアイランドが目立つようになる。 このことから、都市温暖化(都市気温上昇)は風速によっても変わると 考えられる。そこで、この章では年平均気温の経年変化のデータを解析して 都市温暖化と都市の大きさとの関係のほか、風速との関係に注目してみよう。 (2004年12月22日完成)

*注: 本ホームページの「身近な気象」の 「8. 都市化と放射冷却」の章を参照。



研究課題

日本の数地点について毎月の月平均気温の経年変化のグラフを描き、 都市気温上昇量が季節によってどうなっているかを調べよ。また、同様に 月最低気温と月最高気温についても調べよ。
クリックして「研究課題に対するヒント」 (気象観測資料の入手方法)を参照し、プラウザの「戻る」を押して もどってください。
研究課題に対するヒント


7.1 地球温暖化と都市温暖化

大気中の二酸化炭素など、いわゆる温室効果気体が近年増加しており、 地上付近の平均気温がこの100年間に0.6~0.8℃の割合で 上昇していることが指摘されている。いわゆる地球温暖化は気象学的にも 社会・政治的にも大きな問題となってきている。

しかしながら、気象観測所(気象台、測候所)の多くは都市に設置されて いて、気温の観測値には都市化の影響が含まれている。地球温暖化による と言われてきた気温上昇量(0.6~0.8℃)の大部分は都市化による もので、田舎観測所のデータを解析してみると、気温上昇量は100年間に 0.2℃程度であることがわかった。 このことは本ホームページの「研究の指針」の第4章 「4. 温暖化は進んでいるか」で述べた。

ただし、0.2℃の大きさは、日本の8箇所のデータによるもので、世界の データについても解析を進めている段階なので、暫定的な数値である。

都市化の気温に及ぼす影響の大きさは、従来は都市人口の関数として考えら れてきたが、日本の古い「宿場」のような形(道路を挟んで両側に人家が 並んだ形)の、小都市(村落)であっても日だまり効果 によって平均気温が上昇することがわかった(上記の第4章の4.7節の後半 部分において、例として説明した滋賀県今津についての図4.13)。 日だまり効果とは、観測所周辺の風が人家等に よって弱められ、地温と気温が高くなる現象であり、このホームページで はじめて導入した新用語である。

今後の地球温暖化のデータ解析を進めるに際して、都市化の影響の少ない 気象観測所を選ばなければならないが、都市から離れて、通風のよい 理想的な田舎観測所は地点数が限られ、しかも観測の継続年数が短いという 問題がある。

こうした問題に対して、都市温暖化による気温上昇量が何によって決まるか を調べておきたい。この章では、風速と観測所近傍の風通しの状態(周囲が 開けているかどうか)に注意する。なお、風速は風速計の設置高度と周辺の地表面 粗度によって大きく変化することを考慮に入れる。そうした風速として 統一高度50mにおける値を用いる。

「研究の指針」の第4章「4. 温暖化は進んでいるか」 では、日本の中・小都市10箇所の気温上昇量を求めた。 本章では新しく15の都市を追加して解析する。 それらをまとめると、人口200~800万人の巨大都市(東京、横浜、大阪、 名古屋)と人口97~180万人の大都市(札幌、京都、広島、福岡、仙台)、 人口25~65万人の中都市(熊本、浜松、長野、旭川、高知、秋田、宮崎、 那覇、山形)、人口10~12万人の小都市(宮城県石巻、長野県飯田、 滋賀県彦根)、及び人口0.4~3.5万人の町(北海道根室、滋賀県今津、 滋賀県虎姫、北海道寿都)、合計25の都市についての解析である。

7.2 研究の目的

(1)年平均気温の経年変化の資料から、都市温暖化量(都市気温上昇量) と風速の関係を明らかにし、都市に形成されるヒートアイランドの強さの 全体的な傾向を掴む。地表面状態の改変がもたらす都市温暖化の季節変化・ 昼夜による違いを調べる際の研究指針としたい。

(2)都市規模が同程度であっても、気象台など観測所の位置と周辺環境 によって、都市気温上昇量が異なる場合の原因を探る。そうして、今後の 都市環境のありかたを考えるときの参考資料としたい。

(3)地球温暖化の実態を把握するために、どのような気象観測所 について解析すべきか、その際の参考資料としたい。

(4)気象観測所の設置は当初、天気予報と気象災害の防止・軽減を目的 としたものであったと思われるが、最近では大気環境の監視モニターとして の重要性が高まってきた。特に気候変動の問題では、長期にわたる観測が 必要である。こうした場合、今後の気象観測所の理想的な条件は 何かを探りたい。

7.3 気温データの解析

地球温暖化について、2通りの解析法がある。本研究は今後の「直接比較法」 の地点数を増やすための準備(研究の目的(3))でもあるので、今回は 「簡易法」による解析を行なう。

直接比較法
地球温暖化量と都市温暖化量(都市気温上昇量)の両方について知るために、 「研究の指針」の第4章(「4. 温暖化は進んでいるか」 では、日本の中都市に設置されている気象台・測候所と、都市の影響が ほとんどないと考えられる田舎観測所(昔の区内観測所、アメダス、 農業気象観測所)のデータを比較した。

簡易法
CD-ROMに納められている「気象庁年報」(編集:気象庁、発行:(財)気象 業務支援センター)から各気象官署の年平均気温の経年変化を解析する。 気温データには地球温暖化量(100年間につき0.2℃程度の上昇)が含まれて いること、さらに「4.温暖化は進んでいるか」の章で調べた地点における 気温経年変化に含まれる50年以下の地域トレンドも参考にする。 そうして、100年余の長期気温経年変化から都市化による気温上昇量を算定 する。

100年間当たりの気温上昇量として、最後の図表にまとめる。 都市温暖化量(都市気温上昇量)の推定誤差は±0.2℃/100年程度である。

7.4 風速観測高度の統一化

気象台、測候所、アメダス観測所などにおける風速の観測高度は一定では ない。さらに、各観測所では周辺環境の変化に合わせて、観測高度を変更 している。例として大阪管区気象台では、観測高度が 1910年9月1日に16.5mに、1933年7月1日に19.4mに、 1968年8月1日には53mに、1993年2月1日には94.2mに、 1999年2月24日には風向風速計のみを大阪城域内の大阪市立博物館屋上に 移転し、22.9mに変更されている。

このような変更があることと、各観測所で不統一なので、この章では 高度を50mに統一し、統一高度における風速(U50m) を用いる。

風速計の設置高度zAにおける風速の観測値をUA、 その観測所周辺の地表面粗度をz0とすると、高度50m (z50m=zB)の風速U50mは次式から 計算することができる(地表面に近い大気の科学、p.106、式3.9;水環境の 気象学、p.123-124)。

U50m=UA×ln(zB/z0)/ ln(zA/z0

日本の気象官署とアメダス全地点について、1985年時点における 風速計の設置高度zAと地表面粗度z0は文献 (桑形・近藤、1990;1991;桑形・近藤・中園、1991)に掲載されている。 これら文献には風向の8方位についての粗度と、全方位平均の粗度がある。 全方位平均の粗度が計算されていない地点(おもにアメダス)については 8方位の粗度の対数を平均して平均粗度とした。

日本の都市は1990年前後から急速に高層ビルが建つようになり、それに応じて 風速計の設置高度も変更されている。しかし、本研究では統一高度50mにおける 見かけ上の風速を推定することが目的なので、1985年におけるzA、 UA、z0を用いて、各都市の年平均風速を推定する。 風速の観測値UAは、原則として1985年前後5年間の平均値を 用いる。

なお、滋賀県今津と虎姫についてはアメダス以前の区内観測所が市街域にあ ったので、現在のアメダス地点における1985年前後の平均風速と1985年の粗度 を用いて上空50mの年平均風速を推定した。今津(人口=1.4万人)と 虎姫(人口=0.6万人)は小さな町であり、高層ビルはない。したがって、 この風速は市街域上空50mの風速に近似的に等しいとみなされるので、 この値と観測所が市街域にあったときの都市気温上昇量との関係を調べる。

7.5 各都市の気温経年変化のグラフ

地球温暖化による気温上昇(100年間に0.2℃前後)を 差し引いた都市温暖化量を都市気温上昇量と定義する。 図示する順序は北海道から始まり沖縄県那覇市までである。なお、 次の(1)~(4)に注意して以下の図を眺めることにしよう。

(1)仙台(図7.4)については、観測開始が遅く1927年以後のデータしか ないので、1940年以前については宮城県石巻の年平均気温に0.2℃を加えた 値を+印記号でプロットしてある。

(2)横浜(図7.6)では1922~1924年に気温が不連続的に約0.8℃低下したのは、 1923年9月1日に起きた関東大震災後の火災に よって住宅等が消失したためであろうか。

(3)広島(図7.11)では1987~1988年に気温が不連続的に約1℃上昇した のは、海岸近くにあった観測所が市街中心部に移転 したことによる。広島市内には多数の川が流れている。

(4)日本の都市の多くでは、都市気温上昇量は戦後の復興と近代化が 始まる1950年ころから大きくなっている。

以下に示す各観測所(気象台、測候所)の 年平均気温の経年変化のグラフは気象庁編集の「気象庁年報2003年度版」 CD-ROMに記載されたデータをもとに作成したものである。
札幌の気温経年変化
図7.1 札幌における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

寿都の気温経年変化
図7.2 北海道寿都における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

秋田の気温経年変化
図7.3 秋田における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

仙台の気温経年変化
図7.4 仙台における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

東京の気温経年変化
図7.5 東京における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

横浜の気温経年変化
図7.6 横浜における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

飯田の気温経年変化
図7.7 長野県飯田における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

名古屋の気温経年変化
図7.8 名古屋における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

京都の気温経年変化
図7.9 京都における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

大阪の気温経年変化
図7.10 大阪における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

広島の気温経年変化
図7.11 広島における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

福岡の気温経年変化
図7.12 福岡における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

熊本の気温経年変化
図7.13 熊本における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

宮崎の気温経年変化
図7.14 宮崎における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化の傾向

那覇の気温経年変化
図7.15 沖縄県那覇における年平均気温の経年変化、赤色の実線は長期変化 の傾向

7.6 粗度、風速、都市気温上昇量の一覧表

前節のグラフから読み取った都市気温上昇量と、「4.温暖化は進んで いるか」の章で求めてあった同資料を表7.1にまとめ、同時に各気象観測所 に関する風速や地表面粗度なども示した。

気象台など観測所周辺の粗度は、観測所の緯度・経度と 国土地理院による土地利用区分をもとに計算で求めた値である(水環境の気象 学、p.123-p.124)。しかし、気象庁の示す観測所の緯度・経度が0.1分 単位による不正確性のために、多少の誤差が生じる。例えば彦根地方気象台に ついて現地視察をしてみると、気象台は琵琶湖沿岸線から内陸へ入った所に ある。

粗度の計算では、観測所から西北西と北北西の方位を湖沼ないし 海浜と判断し、その方位の粗度=0.001mとしてあるが(桑形・近藤、1991)、 現地視察ではほとんどが住宅地であったので、残り6方位の粗度の平均値 (0.5m)を使用することとした。

表7.1 都市気温上昇を調べた観測所にかかわる都市の人口(1995年)、風速計の 設置高度と周辺の地表面の平均粗度(1985年時点の値)、観測風速の年平均値 (1985年前後の平均値)、高度50mにおける年平均風速、及び都市気温上昇 量(*印は将来、直接比較法による解析によって修正される可能性がある)。

観測所名 人口 風速計高度 粗度 観測風速 高度50mの風速 都市気温上昇
     万人   m   m    m/s        m/s     ℃/100年
東 京     797     74.6     0.96     3.5       3.18          2.3*
横 浜     331     19.6     0.59     3.4       4.32          1.4*
大 阪     261     53.0     1.11     3.4       3.34          2.4*
名古屋     215     18.0     0.98     2.9       3.92          1.5*

札 幌     176     19.9     0.93     2.4       3.12          2.1*
京 都     165     16.2     1.28     1.7       2.45          2.4*
広 島     111     50.3     0.66     2.7       2.70          1.5*
福 岡     102     24.5     0.84     3.0       3.67          1.8*
仙 台      97     52.1     1.08     3.4       3.36          0.8*

熊 本      65     14.8     0.84     2.0       2.85          1.3*
浜 松      56     13.8     1.05     3.4       5.09          0.7
長 野      36     19.1     0.87     2.5       3.28          1.0
旭 川      36     14.7     1.03     1.8       2.63          1.8
高 知      32     15.4     0.83     1.8       2.53          0.7*
秋 田    31     23.4     0.60     4.0       4.83          1.2*
宮 崎      30     21.2     0.72     2.8       3.51          0.8* 
那 覇      30     39.1     0.34     4.6       4.84          0.8*
山 形      25     13.9     1.25     1.7       2.60          1.4

石 巻      12     15.1     0.92     2.8       4.00          0.4
飯 田      11     12.7     0.68     1.7       2.78          0.9
彦 根      10     17.5     0.50     2.6       3.36          0.8

根 室      3.5    11.7     0.70     4.1       6.21          0.2
今 津      1.4     6.5     0.16     2.1       3.26          0.9
虎 姫      0.6     6.5     0.25     2.0       3.25          0.5
寿 都      0.4    10.5     0.02     5.9       7.37          0.3*
アメダスに関する「地域気象観測所一覧表」(編集:気象庁、発行: 気象業務支援センター)を参考にして現地視察を行なったとき、緯度・経度が 0.1分単位のため、探すのに苦労したことがある。こうした位置情報は秒単位 まで明記して欲しい。こうした正確さは気象台職員にとっても必要ではないか。

7.7 都市気温上昇量と風速の関係

表7.1に掲げた資料から、都市気温上昇量と高度50mの年平均風速との関係を 図7.16に図示した。
気温上昇と風速との関係
図7.16 都市気温上昇量と高度50mの年平均風速との関係、記号は都市の人口 (1995年)によって分類

巨大都市・大都市、中都市、小都市・町のクループごとに描いた一点鎖線、 破線、実線はそれぞれ風速に逆比例する曲線である。高度50mの年平均風速 が4m/sの場合について比較すると、100年間あたりの都市気温上昇量は 巨大都市・大都市では約1.5℃、中都市では約0.8℃、 小都市・町では約0.5℃である。

それぞれの曲線から大きくはずれる地点は大都市では広島と仙台、中都市 では高知と秋田である。

仙台管区気象台は①都市の中心部からやや離れた ところにあり、②近くに榴ヶ岡公園がある。③観測露場周辺は大きな道路も あって比較的に開けており、 露場付近の風が強いと考えられる。気象台周辺は都市化が進んではいるが、 他の都市と比べたとき、これらの条件①②③が気温上昇を小さめにしている のではあるまいか。

広島の都市気温上昇量(1.5℃/100年)は、 観測所が海岸近くの江波山(えばやま)公園から都市中心部の合同庁舎に移転(1988年1月1日) した後のデータに重点をおいて算定した値である。

つまり、移転がなかったとして、移転前の気温経年変化の傾向を移転後の 2000年まで外挿してみると都市気温上昇量は0.5/100年程度(0.7-0.2=0.5、 0.2℃は都市の影響のない田舎観測所における温暖化量)である。これに移転 前後のジャンプ=1.0℃を加えると1.5℃/100年となる。これを移転後の データに重点をおいて算定した広島の都市気温上昇量とした。

図7.11で明らかなように、広島では移転前の都市気温上昇量が小さい のは、観測所が都市中心部から離れた海岸近くの公園にあったことと、 広島市内には多数の川が流れていることによるためであろうか。
広島の鳥瞰図
図7.17 広島湾上空20kmから北を眺めた広島市街周辺の鳥瞰図。 この鳥瞰図は国土地理院発行の数値地図、および DAN杉本氏作成の「カシミール」を使用して作成した。

広島地方気象台防災業務課の馬屋原繁さん(水害対策気象官)に電話で伺って みた。「・・・・他の大都市に比べて広島の都市気温上昇が小さいのは、 現在の気象台が広島城の近くにあり、その公園の影響でしょうか?」と尋ねる と、「その影響というよりは、気象台の周辺は他都市に比べてゆとりがある。 広島は太田川の中洲に発展してきたところで、地盤の関係で超高層ビル群は 造り難い。比較的ゆとりのある都市構造となっているからではないで しょうか”と、答えていただいた。つまり、観測露場周辺は風の通りがよい。 これは仙台管区気象台と似ている。私は広島に行ったことはあるが、こういう 目で観てこなかったので、いずれまた訪ねてみたい。

戦争中のアメリカ軍の空襲により、観測中断となった気象官署もあった。 ところが、広島は原子爆弾によって被災した にもかかわらず欠測がないことに、私は不思議に思っていた。 しばらく経ってから、広島地方気象台に勤務していた北 勲の報告 「測候時報」(1971年版)と、柳田邦男のドキュメンタリー「空白の天気図」 (新潮文庫、1981年)を読んでその謎が解けた。

1945年8月6日午前8時15分、原子爆弾が広島に投下され、死者・行方不明 は20数万人もでた。爆心地より南南西3.6kmに位置した広島気象台にも、 恐ろしい閃光が見舞い、その直後の猛烈な爆風によって熱傷・骨折・ガラス 傷などの重軽傷者が台員の約半数にも達した。RC3階建ての建物の窓ガラス の鉄製サッシはへし曲がり、飛散したガラス破片が壁面などに突き刺さって いた。ところが気象測器はほとんど破損しなかったという。露場が建物の南側 にあり、コンクリート建てが閃光と爆風を遮蔽したのであろう。 職員の多くが負傷し、肉親などを亡くしたため、欠勤者も多くなった。 こんな中、気象観測は1回も欠測なく続けることができたという。

それから1ヶ月余の9月17日、枕崎台風が来襲し、 広島県内だけでも死者・行方不明が2,012名という稀な大被害が生じている。 原子爆弾と枕崎台風による市民の被災状況の詳細について、いまごろになって、 はじめて私は上記の記録書とドキュメンタリーから知ることができた。 原子爆弾による原爆症ー当時は原爆症だとはだれも知らなかった症状ー で苦しむ人々、助け合う人々、気象資料を電報で送るのに苦労したこと、 被爆直後に降った黒い大雨の聞き取り調査のことなど、心が打たれる。

さて、話をもとにもどそう。
高知の都市気温上昇量は中都市の平均的な破線 よりも下方に離れてプロットされている。高知地方気象台庁舎は合同庁舎に 移転したが、観測露場は市街地から離れた以前からの住宅地にある。 最近になって、観測露場の周辺は再開発され、住宅団地に縦横の広い道路が つくられ、露場に接した南側には小公園が整備中(2004年現在)である。

秋田は逆に、破線よりも上方にプロットされて いる。この原因は気象台の位置を地図で見るかぎり不明である。近い将来、 現地視察を行い、この原因を探ってみたい。

秋田に関しての追記(2006/04/30)
その1. 秋田大学の本谷 研 博士からの知らせによれば、秋田地方気象台の敷地 は盛り土で少し高くなっており西側に大きな建物はないが、駐車場 がある。舗装面と自動車の廃熱の影響を受けて最高気温が上がりやすく なっている可能性がある。

その2. 中都市の秋田は旭川と同様に積雪域であり、近年、道路などの除雪が 除雪機で徹底的に行われるようになり、年最低気温(極値)の上昇傾向が著し い(「研究の指針」の「K10. 都市化の判定基準」 の章の図10.17参照)。これらの影響が年平均気温にも上昇傾向を もたらしている可能性がある。

まとめ

(1)年平均気温の経年変化の資料から、都市温暖化量(都市気温上昇量) と風速の関係を調べた。高度50mの年平均風速が4m/sの場合について 比較すると、100年間あたりの都市気温上昇量は 巨大都市・大都市では約1.5℃、中都市では約0.8℃、小都市・町では 約0.5℃である。年平均風速が2~7m/sの範囲では、都市気温上昇 量は年平均風速にほぼ逆比例している。

(2)高度50mにおける風速が同じとした場合、同程度の規模の都市であって も、気象観測所において観測された都市気温上昇量は異なる。近くに公園や 河川などがあり、さらに観測露場の風通しがよいような観測所では都市気温 上昇量が小さい傾向にある。

(3)地球温暖化の実態を把握するために選定する気象観測所は、 周辺が開け、日だまりができないような場所が望ましい。一般的に風速が 強めの観測所が適している。もちろんのこと、長期にわたる周辺環境の 変化が著しくない場所でなければならない。

(4)天気予報と気象災害の防止・軽減を目的した観測所は、上記(3)の 目的に合わない場合もある。

気象・大気環境観測所のありかた:
風速は開けた場所で、近くに邪魔をする立木や建築物がないことが望ましい。 しかし、吹きさらしになるような場所では、強風時は雨量計の捕捉率が 悪く、特に降雪に対する捕捉率は小さい(近藤・徐、1996、図1; 水環境の気象学、p.51)。 それゆえ、風速計と雨量計(積雪計)は互いに近傍に設置する必要は ない。風向風速観測所と雨量観測所を分離することも提案したい。

風速計の設置場所の近くに樹木が伸びて、風速観測の邪魔になるような アメダス観測所が少なからず存在する。このことを指摘すると、気象庁関係者 によれば、そのような場合には現場を見回る職員が樹木を切ること になっているらしい。しかし、現実には原則どうりにはなっていない。

こうした現実からすると、天気予報・災害の防止・軽減を目的とする観測所と 環境・気候変動監視観測所は、今後分離し、それぞれにふさわしい管理を していくことが望ましい。

(A)気候変動・大気環境観測所
広域の気候変動と大気環境の長期監視モニターとしての観測所は、日本には 10~20箇所程度の数でよいと思う。その観測所には、それにふさわしい特別の 名称をつけて、特別な管理を行なう。例えば、風致地区では 2階建て以上は禁止で建蔽率の制限があるように、特別観測所の露場 の面積はいくら以上とし、周辺何100m以内には適切な条件をつける。 最近では、環境問題に対する社会的関心も高まってきているので、理解が 得やすくなったのではなかろうか。

特別観測所は新しく設置するのではなく、現在の気象庁や農林水産省、 あるいは地方自治体等が管轄しているものの中から適当なものを指定しては どうか。

(B) 天気予報用地上観測所
この観測所のデータは、例えば天気図作成用に利用する。 各県に1~3箇所の観測所(測候所など)を指定する。例えば旧広島地方 気象台は広島県の沿岸部を代表する観測所となる。

(C) 地域気象観測所
現在のアメダスを含み、都市中心部の合同庁舎などに移転した現在の気象 官署もアメダスの性格をもつ。そうしたとき、都市中心部にあるアメダスは 住民多数の実感にあった気象を表すものとなる。

最近、気象観測所庁舎(気象台、測候所)と観測露場は、様々な理由から 合同庁舎に移転するものが多い。気象観測所は一般官署とは異なる目的・役 割りをもつので、”時代の流れ”というような意味不明確な言葉に流され ないようにしよう。

文献

北 勲、1971:終戦年の広島地方気象台.測候時報、38、10-16.

近藤純正(編著)、1994:水環境の気象学―地表面の水収支・熱収支―. 朝倉書店、pp.350.

近藤純正、2000:地表面に近い大気の科学―理解と応用―. 東京大学出版会、pp.324.

近藤純正・徐 健青、1996:中国北西部における積雪の裸地面熱・水収支に 及ぼす影響.雪氷、58、303-316.

桑形恒男・近藤純正、1990:東北南部から中部地方までのアメダス地点 における地表面粗度の推定.天気、37、197-201.

桑形恒男・近藤純正、1991:西日本アメダス地点における地表面粗度の推定. 天気、38、491-494.

近藤純正・桑形恒男・中園 信、1991:地域代表風速の推定法. 自然災害科学、10、171-185.

柳田邦男、1981:空白の天気図.新潮文庫、2750、pp.443.

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