M53.気候観測を応援する会-発足

著者:近藤純正
地球温暖化など気候変動を正しく知ることは重要である。気象庁・地元気象台は、気象観測所 を維持・管理しているものの、長期的な気候資料のより正確な解析といった観点からは観測所敷地外 の周辺環境の維持管理が十分におこなわれていない状況にある。それゆえ資料解析・観測の専門家や 一般住民からなるボランティア組織「気候観測を応援する会」によって、気候の観測所を管理する 地元気象台を積極的に応援したい。 (完成:2010年11月18日)

本ホームページに掲載の内容は著作物であるので、 引用・利用に際しては”近藤純正ホームページ”からの引用であることを 明記のこと。
内容の要点は新聞に掲載された。それは「所感」の 「17.”観測精神”生かす工夫を」に掲載してある。


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工事中 (更新記録)
2010年11月10日:ほぼ完成
2010年11月18日:微細な変更、完成


     目次
            <目的><組織><内容>
      53.1 はしがき
      53.2 気象観測の2つの目的
       <防災目的>、<気候監視の目的>
      53.3 気候観測に応援が必要な理由
      53.4 対象とする気候観測所

      53.5 ボランティア組織に入ってほしい人
      53.6 地元気象台の連絡先と環境維持の留意事項       
      53.7 気候観測を応援する会のメンバーと連絡先


<目的>
本会は、気候観測所の観測環境に注意し、観測環境の悪化を防ぎ長期にわたり均質で良好な 気象データが得られるよう、気象庁の観測体制を積極的に応援することを目的とする。

<組織>
主に専門家で組織する全国的な「専門家メンバー」と、気候観測所が設置されている地点の周辺 住民で組織する「地区メンバー」から成り、両メンバーは互いの情報を共有する。全国的メンバーは 主にEメールによって情報交換する。地区メンバーはEメールのほか電話等によって情報交換する。 メンバーはいずれも観測の重要性を理解する有志である。

<内容>
専門家メンバーは、気候観測所の近くに旅行した場合、ついでに無理のない範囲で観測所を見学し、 環境悪化になっていないか判断し、担当する気象台職員に有益なコメントを提供する。必要に応じて、 市民講座等により教育・普及活動を行う。
地区メンバーは、数か月ごとの頻度で気候観測所を見回り、環境状況を地方気象台及び本会に 報告する。必要に応じて、地方自冶体・土地所有者及び地方気象台と相談して環境整備の作業を 応援する。

53.1 はしがき

筆者は2004年以来、協力者とともに気象観測所の現地調査を行い、観測環境の悪化と改善策について、 気象庁と各地気象台に報告してきた。しかし気象庁は組織が大きく、迅速な行動が取りにくい状況に あった。

こうしたとき、アメダスの京田辺観測所(京都府)の気温を観測する通風筒につる性の草が絡んで いたという問題が2010年9月6日に新聞・テレビで一斉に報道され、気象庁では全国の観測所を対象 として観測環境の緊急点検を実施した。その結果、気温については京田辺観測所の1か所、雨量に ついては鳩山観測所(埼玉県)など6か所において、不適当な環境が観測データに影響していたもの と判断された。この京田辺問題から、気象観測が国民の大きな関心ごととなった。

アメダス観測所では敷地内の雑草を防ぐために、現在は防草シートが敷かれているところもある。 それ以前に、気象庁では、2種類のシートを地面に敷いて実験し、筆者が実験結果に関する相談を 受けたことがある。その際に筆者は、「地面から1.5~2m程度の高さで観測する気温はアメダス 敷地内(30平方メートル程度)のシートの種類にほとんど影響されず、敷地外の状態に大きく支配 されるので、試験地を実際に見てみないと、正しいコメントができない」と答えたが、残念ながら その時は見学が実現しなかった。

例えば、敷地外に生えたつる性の植物でも、絡みつく所を探すかのように2~3か月のうちに 数メートルも伸びて、場所によっては雨量計や気温の通風筒に絡みつき、測定値に影響を与える。

注意:気象データをさまざまな目的で使用する際には、観測データの特性(観測値の代表性等) を意識しなければならない。観測環境の変化が影響した例としては、観測所のすぐ近くに1本の 桜があり、風速が年々弱まっていたが枝を切ると急に回復し、また数年かかって風速の減少が続いた が、桜の根元から伐採すると回復し、風速の急上昇と気温の急下降がよく対応していたこと、などが ある。

データを解析していると、疑問な値に気付くことがあり、周辺も含めて観測環境の変化による場合、 観測所のメモを調べる、あるいは現地へ行き住民に聞いてみることで原因を推定できる場合が多い。

53.2 気象観測の2つの目的

<防災目的>
集中豪雨・洪水・山崩れなど短期的な防災を目的とする気象観測は全国に約1300か所のアメダス 観測所で行われている。アメダス観測所の前身の観測所は古いものでは明治時代から1970年代まで、 主に地域住民のボランティアによって続けられてきた。観測データは観測所敷地内のみならず敷地外 の環境変化に影響される。そこで敷地外も含めた環境管理は地域住民の協力を得てはどうか。

昔のようにボランティアを一人が長く努めれば、経験を積んでいくことができる。もちろん、観測環 境の監視と草刈りなどはボランティアが行うとしても観測所の管理は地元気象台が責任を持たねばなら ない。

アメダス観測所の敷地面積は30平方メートル(5m×6m)程度と狭く、観測値は敷地外の環境変化 に敏感なので、気温の観測精度(観測値の代表性)は0.5℃程度と見なさなければならない。

<気候監視の目的>
気象観測のさらなる目的として、近年は地球温暖化などの気候監視の目的が注目されている。 地球温暖化は100年間につきわずか0.7℃ほどの気温上昇なので、10年間で0.1℃の変化を検出できる 程度の高精度で長期間にわたって観測しなければならぬ。

この観測は旧測候所、現在は無人となった 約100か所の特別地域気象観測所のうち観測環境が比較的よい約20か所がその役割を担うべきである。 無人となった特別地域気象観測所における観測露場の面積は概ね600平方メートル(20m×30m)が 基準とされている。この約20か所を「気候観測所」と名付け観測環境を維持管理していくため、 地元気象台を応援していきたい。

53.3 気候観測に応援が必要な理由

気象庁の限られた人員と予算で行う観測所の維持管理では、気候の観測所という観点からは十分に 目が行きとどいていない場合があるように思える。筆者がこの数年間、全国の気象観測所を視察し 観測資料を調べたところ、周辺環境の悪化にともない観測データに影響が出ていると考えられるにも かかわらず、十分な対応がとられていないと思われる状況が複数見受けられた。

その一例を取り上げよう。岡山県内陸の津山観測所では40年余前に植樹した桜200本ほどが成長し、 そのうち観測所のすぐ西側と南側の20本ほどが観測に影響するようになり、2000年頃の年平均風速は 1960年代に比べて 2/3 に減少し、年間の強風日数は平均51日から2日ほどに減少している。樹木が 伸びてくれば、防風林の原理で風速が弱まることは必然のことと思われるが、気象台ではその状況に 長年対応できずにいた。

以前、気象庁では「観測精神(測候精神)」という言葉が引き継がれていたと聞く。第4代中央気象 台長(現在の気象庁長官に相当)の岡田武松(1874~1956)によるとされる「観測精神(測候精神)」 が生まれた時代背景として、明治から大正時代にかけて、気象台の給料は低くて有能な人材が定着 しなかったこと、研究的ムードが薄かったこと、地方の測候所の大部分は県営で技術水準が一定しな かったことなどがある。観測精神(測候精神)に含まれる真の意味は、正しい観測こそが基本中の 基本であり、観測値は何を表しているかに注意すること、定められた仕事はきちんと行うこと、 一人ひとりが研究心を持つことである。

例えば風速観測値は周辺の樹木の影響を受けていないか、測器の不具合によるものではないか、 絶えず注意を払う心掛けが大切である。

この観測精神(測候精神)は現代でも生かされるべきだと考える。

当時に比べれば、現在は研究や技術が飛躍的に進歩したが、その一方で基礎的な知識を得る機会が 少なくなったのではないかという気がする。気象庁には有能な人材が多く在籍し、最近はコンピュー タによる計算や衛星データを利用した解析などに多くの力が投入されているものの、地上気象観測 そのものの基本に立ち返ることが少なくなっているのではないかと危惧している。

例えば、青森県深浦観測所における風速の長期変化を調べてみると、年平均風速は1970年のころに 比べて2005年ごろは34%の減少、年間の強風日数は1960年代の100日間から2000年前後には13日間に 減少していることがわかった。現地を視察する前に気象台に詳しいデータを送り、風速減少の原因 を尋ねたところ「原因については不明」との回答であったが、現地を見学してみると松などの樹木が 風を止めるほど繁茂していた。さらに年配の住民に昔からの観測所の周辺環境の変化を聞くことで、 風が弱くなった原因を推定することができた。

「気候観測を応援する会」は、こうした気象庁の観測体制を積極的に応援することを目的とする ものである。

53.4 対象とする気候観測所

筆者は気候観測所の観測環境を改善維持するために、岡山県津山観測所や青森県深浦観測所において、 こうした活動をすでに試行している。

今後は高知県室戸岬観測所、岩手県宮古観測所、北海道の寿都観測所と浦河観測所、沖縄県の 与那国島観測所と西表島観測所、鹿児島県屋久島観測所へと地点数を増やしていく。

これら地点で「気候観測を応援する会」がうまく機能するようになれば、観測環境はやや劣るが 内陸の栃木県日光観測所と長野県飯田観測所、海岸域の北海道根室観測所、宮城県石巻観測所、 千葉県勝浦観測所、静岡県御前崎観測所と石廊崎観測所、新潟県相川観測所、富山県伏木観測所、 和歌山県潮岬観測所、兵庫県洲本観測所、愛媛県宇和島観測所、高知県清水観測所、鳥取県境観測所、 島根県浜田観測所、長崎県平戸観測所への活動の拡大を考えている。

その他、観測環境はやや劣るが有人の気候観測所として地方気象台では網走、稚内、室蘭、南大東島 があり、測候所では名瀬がある。

53.5 ボランティア組織に入ってほしい人

筆者は2004年から現在まで、数名の研究者の協力を得て気象観測所の現地調査や市民講座、各地の 大学や気象台において講演・セミナーを行ってきた。今回は30名ほどの専門家を中心として 「気候観測を応援する会」を立ち上げ、今後は気候観測所の地元住民の有志を追加していきたい。

次の項目のうち、1つ以上の条件を備えボランティア精神で活動できる方を歓迎する。ボランティア とは、無理をしないで活動できることを指す。

(1)100年程度の長期気候データ(非均質データ)の解析に素養のある者
(2)気象の観測・理論に優れた者で気象台職員に有益なコメントを提供できる者
(3)旅行の際には、ついでに無理なく気候観測所の環境を見学できる者
(4)地域組織(市町村や町会)や気象台と連絡ができる地区活動のリーダー
(5)Eメール等によりメンバー間の連絡ができる者
(6)その他、上記メンバーに協力できる者

53.6 地元気象台の連絡先と環境維持の留意事項

地元気象台の連絡先
気象庁は、京田辺の問題を契機に自治体を始め地域の協力を得ることも考えているようであり、 筆者にも気がついた点があれば観測所を管理している地元気象台
(http://www.jma.go.jp/jma/kishou/link/link2.htmlに住所と電話が掲示されている)
に連絡してくれるようにお話があった。

環境維持の留意事項
通常の気象観測の目的は、ごく狭い範囲の微気象を知ることではなく、広域を代表する気象を知る ために行われるものである。そのために気象観測所の条件は、“日当たりと風通 しがよい”ことである。この条件のもと環境維持に努める。

次は、観測所の環境維持について留意すべき事項である。

(1)露場内の雑草が30cmほどに伸びていれば、1か月も経つと雨量計に被さる、あるいは、 つる性の植物なら温度計の通風筒に絡まる恐れがあるので早めに刈り取る。

(2)露場外でも、雑草・雑木が伸びると露場内の風を弱め、観測値に影響を及ぼすようになる。 露場のすぐ外側にある雑草・雑木の成長の観測への影響について土地所有者の理解と協力が得られ るように努力する。

(3)つる性の植物は露場のフェンスに絡んで風止めとなるので、根こそぎ引き抜く。

(4)露場面から見上げたとき、風上側の樹木が伸びて、距離の1/10以上(目安)の高さを超えると 観測値に影響を及ぼすようになるので、早めに対処するように所有者に理解を求める。風下側も風が 通り抜ける状態に保たれなければならない。

(5)周辺の環境に変化がないかどうか、年配の住民に尋ねることにしよう。観測所から100m以内 の範囲(目安)が周辺環境として重要である。

(6)建物等が露場の近くにあっても、建物の大きさ等に変化がなければ、環境変化ではない。

(7)観測所敷地外の環境整備については、所有者等から理解と協力が得られるよう努力する。

良質の気候観測データは、地域住民のみならず国民の貴重な財産であり、世界の人々にも役立つもの でもある。

53.7 「気候観測を応援する会」のメンバーと連絡先

「気候観測を応援する会」のメンバー(30名)
本会は次のメンバーで発足し、順次、地域住民の有志を加えていく予定である。

北海道: 亀田貴雄(北見工業大学准教授)、渡辺 力(北海道大学教授)、本谷義信(元北海道大学 助教授)、廣田知良(北海道農業研究センターチーム長)、根本 学(同 研究員)・・・・5名

東北地方: 力石國男(弘前大学名誉教授)、石田祐宣(弘前大学助教)、本谷 研(秋田大学准教授)、 山崎 剛(東北大学准教授)・・・・4名

関東地方: 大門禎広(気象予報士、栃木県)、三枝信子(国立環境研究所 室長)、桑形恒男 (農業環境技術研究所上席研究員)、西森基貴(同 主任研究員)、吉本真由美(同 主任研究員)、 福岡峰彦(同 任期付研究員)、松島 大(千葉工業大学准教授)、山岸米二郎(元気象庁観測部長、 気象研所長)、徐 健青(海洋研究開発機構主任研究員)、菅原広史(防衛大学校准教授)、内藤玄一 (防衛大学校名誉教授)、原田 朗(元気象庁観測部長、気象研究所長)、近藤純正 (東北大学名誉教授)・・・・13名

中部地方: 安成哲三(名古屋大学教授)、甲斐憲次(同 教授)・・・・2名

中国・四国: 廣幡泰治(気象予報士、岡山県)、木村玲二(鳥取大学准教授)、村上雅博 (高知工科大学教授)、森 牧人(高知大学准教授)・・・・4名

九州: 伊藤久徳(九州大学教授)、丸山篤志(九州沖縄農業研究センター主任研究員)・・・・2名

「気候観測を応援する会」への連絡先
当会への連絡は、次の者へお願いします。
正:近藤純正(東北大学名誉教授)
副:桑形恒男(農業環境技術研究所上席研究員)
副:松島 大(千葉工業大学准教授)



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