さ迷い歩き 「量子の森」 (5)-6
= 朝永振一郎 量子力学 =

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    大  目  次

  内  容      内   容  
00 朝永振一郎と量子力学 1stP 2013.01.16    第U巻      
  第T巻   07 Schrodinger波動方程式 3rd.P 2013.03.11
01 エネルギー量子の発見 省略 08
Schrodinger函数の物理的意味
                  
4th.p    
2013.03.20
02 光の粒子性 省略
03 前期量子力学 省略 09 量子力学的状態  Prev.p  2013.04.29
04 原子の殻状構造 省略 10 多粒子系と波動場 Prev.p  2013.05.15
05 マトリックス力学の誕生 省略       
  第U巻        第V巻      
06 物質の波動論 (1) 1st P   2013.01.16 11 角運動量とスピン  2013.06.12
06 物質の波動論 (2) 2nd.P  2013.02.06   第U部 摂動論、観測の理論  省略 
         第V部 ベクトル空間  省略 
             


 朝永量子力学は、第T巻、第U巻で終わっており、第V巻の執筆中に著者は逝去されました。しかし、著者は第V巻の準備をされており、筑波大学における朝永記念行事の一環として、本巻が編集され、刊行されました。そのため、本巻は「量子力学V」というタイトルではなく、「角運動量とスピン」というタイトルなっています。そして、内容は第T部角運動量とスピン、第U部摂動論、観測の理論、第V部ベクトル空間の3部に分かれています。しかし、第T部の角運動量とスピンは第U巻の最後の77節を継いで、78節から始まっています。そのため、ここでは、第V部を第11章とみなして、記述しています。
 また、第U部の摂動論は波動函数を求める近似法であり、第V部のベクトル空間はヒルベルト空間の数学的展開です。私にはとても歯が立たないので(第U巻も歯が立たないのは同じなのですが)省略し、朝永量子力学を終了したいと思います。


11章 角運動量とスピン  2013年06月12日

  11章 : 目  次
§78 はじめに  §84 Pauliの禁制原理の導入 
§79 角運動量の成分間の交換関係 (1)  2個の電子の場合におけるPauliの原理
§80 交換関係から可能な固有値を導くこと (2)  対称性の分類
§81 角運動量のベクトルの合成 (3)  対称指標
(1)  予備的な注意  (4)  対称指標と多重性 
(2)  合成系の固有函数を作ること験  (5)
 3個またはそれ以上の電子の場合における
                    Pauliの原理
(3)  まとめ
§82 電子のスピン §85
軌道エネルギーと見かけ上の電子の
       場合におけるPauliの原理
(1)  1個の電子の場合
(2)  2個またはそれ以上の個数の電子の場合 (1)  定性的な考察
§83 スピン角運動量と軌道角運動量の合成 (2)  半定量的考察−2個の電子の場合
(1)  一般的考察 (3)  半定量的な考察−多数の電子の場合
(2)  アルカリの二重項 (4)  対称指標と対称度および反対称度
(3)  アルカリ二重項のZeeman効果  (5)  場の量子化と対象演算子O 
       




§78 はじめに  2013年06月12日

 いよいよ大詰めに入ってきました。書き始める前に第V巻を再読してみましたが、もちろんよく理解できないところばかりでした。冒頭に書いたように、第U部摂動論と観測の理論および第V部ベクトル空間は数学のお話で、私の数学能力ではまったく理解できませんでした。それなら、本章の角運動量とスピンは理解できたのかというと、これもお粗末なものです。それでも、角運動量とスピンを書かなくて、「量子の森」をさ迷い歩いたと言うこともできません。それで、とにかく前に進んでみようと考えた次第です。最後のお付き合い?をお願いします。

 まずは、朝永の「はじめに」に耳を傾けたいと思います。 「前章のはじめに述べたように、電子のスピンを理論の中に組入れるやりかたについて、われわれは今まで何も述べなかった。電子のスピンを考えることは、原子のスペクトル線の多重性を説明するために必要とされてきた。すなわち、原子内のそれぞれの電子がx、yおよびzという三つの自由度だけで記述されるとすれば、それらの電子の状態は、いずれも三つの量子数n、およびmで定まるはずであるのに、スペクトルの多重性からは、ここの電子の状態は四つの量子数n、 、mおよびμで決定されることが要求されてくる。このような理由から、電子にはx、y、zの自由どのほかに第四の自由度が必要となり、しかもこの自由度は電子のスピンであるという考えが生まれてきた。」

 本節では、まず、スピンの考えで多重性がどういうふうに説明されたかをおさらいします。まず、角運動量を次のように整理します。
1)スピン角運動量:
 スピン角運動量の大きさ:     (1/2)(h/2π)
 スピンの全角運動量:       (h/2π) (各スピン角運動量のベクトル和)
 スピン角運動量の方向量子化: の大きさ||、すなわちsは、電子の個数が偶数で
                     あるか奇数であるかにしたがって、整数かまたは半
                     整数の値をとる
2)軌道角運動量:
 軌道角運動量の大きさ:     (h/2π)
 軌道の全角運動量:        (h/2π) (各軌道角運動量のベクトル和)
 軌道角運動量の方向量子化:  の大きさ| |、すなわち は整数になる
   
3)全角運動量:
 全角運動量の大きさ:      (h/2π)
 全角運動量:            (h/2π) (スピン全角運動量と軌道全角運動量のベ
                    クトル和)
 全角運動量の方向量子化:  の大きさ||、すなわち は、電子の個数が偶数である
                    か奇数であるかにしたがって、整数かまたは半整数
                    の値をとる

 ここで、sとl が与えられたとき、jのとりうる可能な値および可能な値の個数は次式のようになります。
  | - s|=< =< l + s         (78.1)
  r = 2 + 1   l =< s の場合     (78.2)
  r = 2s + 1   l >= s の場合

 そして、エネルギー準位の多重性が次のように述べられます。 「さて原子のエネルギー準位のおよその値は、量子数nと とを与えることによって定まる。しかし軌道角運動量とスピンとの間に存在する小さな磁気的相互作用によって、これには小さな補正が加わってくる。そしてこの磁気的エネルギーの大きさは に対するの向きに関係する。このように考えると、nと とで定められるエネルギー順位はの間の磁気的相互作用によって互いに近接したrこの準位に分かれることになる。そしてこのr個の準位には(78.1)の範囲にある可能なjの値が一つ一つ対応している。結論をいえば、エネルギー準位はnと とに関係するだけでなく、さらに にも関係することになる。これがすなわちエネルギー準位の多重性にほかならない。原子を記述する量子数として、ここにn、 およびjが得られたが、全角運動量自身、ちょうどスピンを考えなかったとき がそうであったように、方向量子化され、そのz成分は単位間隔の値だけをとるであろうから、 のz成分μが第四の量子数としてあらわれてくる。このμはz方向に磁場をかけたときの原子の異常Zeeman効果に一役を演ずる。」

 続いて、方向量子化について、次のような注意があります。 「上の考察でわれわれはしばしば「方向量子化によって」という言いかたをした。その意味をきちんと述べると、それは次のようになる。「二つの角運動量ベクトルを合成するとき、合成されたベクトルの大きさの最大値は、二つのベクトルが同じ方向を向くときに得られ、最小値はそれらが逆方向を向くときに得られ、この二つの値の間の単位間隔の値、かつそれだけが合成ベクトルの可能な値である」。言いかえれば二つの角運動量1と2を合成するとき、合成ベクトル1 + 2の大きさ|1 + 2|の可能な値は|1 + 2|, |1 + 2| + 1,・・・, 1 + 2 -1, 1 + 2である。われわれの問題は量子力学的にこのことがどう導出されるかということである。」

 さあ、再び「量子の森」に深く入り込んでいきましょう。

                                      2013年6月12日

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§79 角運動量の成分間の交換関係  2013年06月19日

 第U巻の§57において、1個の粒子の角運動量について議論があり、次のようなことを学びました。

1)h/2πを単位として、角運動量のx、y、z成分はいずれも整数値だけしかとれない
2)角運動量ベクトルの大きさの2乗は、(h/2π)2乗を単位とすると、 +1)(ただし は整数)なる値だけしかとれない

 このとき、この結論を導くために用いた方法は、次のようであったとのことです。
1)粒子の角運動量のx、y、z成分を、古典力学からの類推で、次のように定義する。
  Lx = ypz - zpy      (79.1)
  Ly = zpx - xpz
  Lz = xpy - ypx

2)Lzの固有値を次の微分方程式を解いて求める。
  (h/2πi)(x∂/∂y - y∂/∂x)φ(xyz) - λzφ(xyz) = 0   (79.3)
 ここで、px、py、pzについて、次のような量子力学的置き換えをやっている。
  px = (h/2πi)∂/∂x、 py = (h/2πi)∂/∂y、 pz = (h/2πi)∂/∂z

 ここでは、朝永は次のように問題を述べています。 「微分方程式を用いる方法は1個の粒子に対しては便利であった。しかし、角運動量の性質を一般の場合にしらべるにはきわめて不便である。その理由は、粒子数が増加すると微分方程式はどんどん複雑になってくることである。さらに、スピン角運動量に対しては微分方程式の方法はまったく適用できない。」

 さらに続きます。 「角運動量成分の固有値がh/2π単位で整数、あるいは半整数の値をとるといった事実、その大きさの2乗が整数、あるいは半整数 を用いて +1)なる形になるといった事実、また前節で述べた角運動量の合成に関する規則は、考えられている力学系の構造に無関係に一般に成立しているという実験的知見からみて、力学系が1個の粒子から成っているか、多数の粒子から成っているかとか、その粒子がスピンを持っているとかいないとか、そういう力学系の構造に無関係に各運動量なる物理量に内在する性質だけから、上に述べたような性質は導かれるに違いない。」

 ということで、角運動量の成分間に内在する性質、すなわち角運動量の成分の間の交換関係だけから、角運動量の性質や合成規則を導き出すことができるということのようです。私が第V巻を最初に読んだとき、”角運動量”という用語が、軌道角運動量なのかスピン角運動量なのか、あるいは全角運動量なのか、何がなんだかさっぱりわからず混乱していました。また、角運動量の量子数を表す記号も” ”や”s”、”m”などあちこちに出てきて、どれが何を意味しているのかさっぱりわからず、混乱してしまいました。今回よく読んでみると、角運動量を、そういった力学系の構造とは無関係に、一般的な角運動量の性質を調べようということだったのがようやくわかりました。とはいうものの、それでも頭の中の混乱は収まってはいませんが・・・

 まず、角運動量の交換関係から調べます。最初に1個の粒子の軌道角運動量について議論します。単位をh/2πi にとって表わした軌道角運動量を とすると、そのx、y、z成分は次のように成ります。
  x = (h/2π)(ypz - zpy)      (79.1')
  y = (h/2π)(zpx - xpz)
  z = (h/2π)(xpy - ypx)
 途中計算を省略しますが、交換関係は次のようになります。

 角運動量のx、y、z成分の交換関係
   xy - yx = iz            (79.4)
   z - zy = ix
   zx - xz = i

 次に、角運動量の2乗の交換関係を求めます。
  2乗 = x2乗 + y2乗 + z2乗    (79.5)
 この交換関係は、次のようになるとのことです。

 角運動量の大きさの2乗の交換関係
   2x - 2乗 = 0          (79.6)
   2y - 2乗 = 0
   2z - 2乗 = 0

 次にたくさんの粒子の場合を考えます。第1粒子の角運動量を1、第2粒子のそれを2・・・とし、それらの全角運動量を とします。
   = 1 + 2+・・・+ N          (79.7)
ここで、ある粒子の角運動量は他のすべての粒子の角運動量と可換であることに注意すると、全角運動量 に対しても、1粒子の場合と同様に(79.4)および(79.6)とまったく同じ形の交換関係が成立するのだそうです。

 朝永は、次のようにまとめてくれます。 「以上、われわれは粒子の軌道角運動量について論じた。得られた結果は粒子の個数に無関係に(79.4)および(79.6)であった。そこで、この同じ形の交換関係がスピン角運動量に対しても、あるいはさらに一般に力学系の構造の如何を問わず、成り立っていると仮定することはきわめて自然であろう。事実(79.4)と(79.6)の関係は数学的にいうと、三次元空間における回転の幾何学と密接に結びついているのである。しかしこの議論はやや高級な数学を必要とするので、ここでは立ち入らない。

 蛇足ですが、Feynman量子力学では、座標の回転の話がかなり細かく説明されています。このあたりが”高級数学”と関係しているのかなとふと思いました。

                                      2013年6月19日

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§80 交換関係から可能な固有値を導くこと  2013年06月20日

 §57の微分方程式(57.8)、(57.15)を解くことによって、角運動量 の2乗の固有値と角運動量のz成分zの固有値が、次のように求められました。

 角運動量 の2乗の固有値 =   +1)
 角運動量のz成分zの固有値
                  = m(= -l 、-l +1、-l +2、・・・、l -2、l -1、l

 この節では、交換関係(79.4)からこの結論を導き出します。この方法はDiracによって考案されたとのことです。数学的にたいへん難しく、数式の記述も難しく、したがって理解が困難です。結論だけを以下に記します。

角運動量の一般的性質
 1) は整数又は半整数である
 2) が与えられたとき、可能なmの値は-l 、-l +1、-l +2、・・・、l -2、
   l -1、l なる2+1)個の値である
 3) が整数値であるか、半整数値であるかによってmも整数値、あるいは
   半整数値をとる

 ここで、次のような注意点があります。上に見出した可能なの値が実際にあらわれるか否かということは個々の力学系の構造によって決まるのだそうです。実際に軌道角運動量の場合には、 は整数であって、半整数にはならないし、1個のスピン角運動量 は1/2であって、決して他の値をとることはないということです。

 導出過程を省略してしまったので、本節は簡単に終わってしまいました。申し訳ありません。

                                      2013年6月20日

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§81 角運動量ベクトルの合成  2013年06月20日

 この節では、角運動量ベクトルの合成規則が導き出されますが、複雑な数学が展開されます。したがって、ほとんど内容を記述することもできません。各小節の概要だけを記述します。

 (1)予備的な注意

 ここでは、まず二つの力学系を考えます。ただし、一方の力学系に属するすべての物理量は、他方の力学系に属するすべての物理量と可換であるとします。どうして”可換”が必要か、私には物理的意味がわかりません。

 第1の力学系の角運動量を1、第2の力学系の角運動量を2として、合成系の角運動量 = 1 + 2 と表わします。そして、第1の力学系の固有値問題および第2の力学系の固有値問題は、解かれているとするとのことです(方程式は難しいので記しません)。そうすると、問題は12乗についての固有値1(1+1)に属し、22乗についての固有値2(2+1)に属するところの、12乗、22乗、2乗およびzの同時的固有関数φlm(q1q2)を求めることになるそうです(方程式はやはり記しません)。

 この後に、(12乗、22乗、1z、2z)が決まった値をもっている固有状態と、(12乗、22乗、 2乗、z)が決まった値をもっている固有状態の話がありますが、詳細すぎるので省略します。そして、議論を進めて、(12乗、22乗、 2乗、z)の固有状態に対応する同時的固有関数が求まります。またまた、導出の展開が省略されるので、意味がよく分からないかもしれません。すみません。

 (2)合成系の固有函数を作ること

 朝永は次のように述べて、議論をさらに進めます。 「われわれは、(81.7)の積関数の一次結合をうまく作れば、 2乗とzの同時的固有関数が得られることを知った。この一次結合を見出す一般的な情報は§59(5)で述べてあるが、われわれの問題を扱うにはもっと簡単な方法がある。」 ところが、とんでもない!簡単な方法どころか、そこで展開されている数学の式をなぞることは、さらに泥沼に入り込むようなものです。全くのお手上げ状態で、深入りすると泥沼から再び浮上することもできなくなってしまいます。ということで、最後の結論だけを記します。

 それぞれ大きさ1 と2 をもつ二つの角運動量1 と2 とを合成して を作ると、合成角運動量 の大きさ は、
1 =< 2 のときには
 l = 1+2、1+2- 1、1+2- 2、・・・、2-1+ 1、2-1 のどれかであり、
2 =< 1 のときには
 l = 1+2、1+2- 1、1+2- 2、・・・、1-2+ 1、1-2 のどれかである。
そして、合成角運動量のz成分z は、上の の値のおのおのについて、
 m = - 、- +1 、- +2、・・・、 -1、
の(2l + 1)個の値のどれかである。

 (3)まとめ

 朝永は、以上の考察から、次の3つの結論を引き出しています。
a)いくつかの整数値の角運動量があったとき、合成角運動量の大きさは整数値となる。
b)いくつかの角運動量があったとき、その中に含まれた半整数値角運動量の個数が0または偶数であるなら、合成角運動量の大きさは整数値となる。
c)いくつかの角運動量があったとき、その中に含まれた半整数値角運動量の個数が奇数であるときは、合成角運動量の大きさは半整数値となる。

 そして、電子のスピンについて、次のように結論付けています。 「電子のスピンが、それを何らかの回転体と考えることでは説明できないという事実は、電子のスピンを通常の力学でもちいれ正準座標と運動量とで記述できないことを意味する。しかし、角運動量の重要な性質は各運動量成分の間の交換関係だけから導かれることを、われわれは上に学んだ。したがって、電子のスピンが正準座標と運動量とで記述できなくても、それを取り扱うことは可能である。」
 
 ふーん。電子のスピンは本当に奥深いですね。わかったようで、さっぱりわかりません。それでもこれだけ試行錯誤していると、何となく言われていることの意味合いが少しわかってきたような気持ちになってきます。

                                      2013年6月20日

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§82 電子のスピン  2013年06月26日

 この節では、電子のスピンについて、スピン・マトリックスなどの複雑な数学が展開されます。したがって、ほとんど内容を記述することもできません。各小節の概要だけを記述します。

 (1)1個の電子の場合

 §79で、角運動量なる物理量の性質は力学系の構造には関係せず、一般に成立することが述べられました。したがって、電子のスピン角運動量も、h/2πを単位として、次の交換関係が成り立ちます。

 電子のスピン角運動量のx、y、z成分の交換関係
   xy - yx = isz            (82.1)
   z - zy = ix
   zx - xz = i

 また、電子のスピン角運動量の2乗については、次のような関係が成り立ちます。ただし、電子のスピン角運動量の大きさは、h/2πを単位として1/2です。

 電子のスピン角運動量 の2乗について
   2乗 = x2乗 + y2乗+ z2乗 = (1/2)(1/2 +1)
    (82.2)

 ここで、朝永の説明がありますので、記述します。 「この関係式の右辺にあるものは単に2乗の固有値をあらわすのではなく、2乗という演算子そのものをあらわしていることに注意する。くわしくいえば、2乗なる演算子をスピン自由度についてのどんなSchrodinger関数にほどこしても、結果はその関数に3/4を乗じたものになる、ということを意味する。このことは、スピン角運動量の大きさが1/2以外の値をとるような状態は存在しない、という事実によるものである。」 さらに続きます。 「ここで§80に与えた一般論をわれわれの場合に適用する。特に、それをx、y、zの固有値を定めるのに用いる。そうするとただちにx、yおよびzの固有値はいずれも1/2と-1/2であるということがわかる。スピン角運動量の三つの成分、x、y、zは互いに交換可能ではないから、それらの同時的固有関数は存在しない。しかしそのどれか一つ、例えばzをとりその固有関数の完全系が得られるなら、他の成分、x、yの固有関数はいずれもzの固有関数の展開の形であらわすことができる。もっと一般に、後にわかるようにスピン自由度の任意の状態はzの固有関数の展開の形であらわされる。」

 スピン変数の次の性質は直ちに導かれるそうです。
   x2乗 + y2乗 + z2乗 = 1/4        (82.3)
この結果、sz2乗なる演算子を、スピン自由度についてのどんなSchrodinger関数にほどこしても、このSchrodinger関数が常にszの固有関数に展開されることから明らかなように、結果はその関数に1/4を乗じたものになるそうです。

 この後の議論の展開には深入りしませんが、超有名なPauliのスピン・マトリックスだけは記しておきます(変な縦棒の記号を使っていますが、行列を表しているとみてください)。

 Pauliのスピン・マトリックス
  σx = | 0 1 |  σy = | 0 -i |  σz = | 1 0 |       (82.16)
      | 1 0 | 、    | i  0 | 、    | 0 -1 |  


 (2)2個またはそれ以上の個数の電子の場合

 この小節では、いくつかの電子があったときに、おのおのの電子のスピン角運動量を合成するとどうなるかが説明されています。すなわち、N個の電子のスピンを1、2、・・・Nとすると、合成された全スピンは次のように表わされます。
   = 1 + 2 +・・・+ N           
あるいは、
  x = 1x + 2x +・・・+ Nx         (82.23)
  y = 1y + 2y +・・・+ Ny
  z = 1z + 2z +・・・+ Nz

 このとき、2乗およびzの固有値と固有関数を求めることが、本小節の問題となります。しかし、置換演算子や多電子系の固有関数の対称性など理解できないことがたくさんあり、かつ数学の展開が難しく、数式の表記も困難なので、以下は省略します。

                                      2013年6月26日

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§83 スピン角運動量と軌道角運動量の合成  2013年06月26日

 朝永は次のようにおっしゃっています。 「以上学んだところで、エネルギー準位の多重項構造の議論をするための準備が整った。」 ぬぬぬぬ・・・ 私は全く準備は整っていません。どうしたらよいのでしょう。えーい!とりあえず、このまま匍匐前進だ!

 (1)一般的考察

 まずは、復習です。§81で、角運動量の合成に関する一般論がありましたが、そこで、量子数 は次式で与えられる整数あるいは半整数をとります。
  | - | =< =< +          (83.1)
したがって、可能な の値の個数をrとすると、rは次のようになります。
  r = 2 + 1  ( =< の場合)    (83.2)
    2s + 1  ( >= の場合)

 第T巻の§29では、次のようなことを学びました(そうです)。電子はそのスピン方向に次式のような固有磁気能率をもちます。
  μe = eh/4πmc           (83.3)

 以下は、朝永のエネルギー準位の多重性の説明です。 「この磁気能率と電子の軌道運動によって生ずる仮想的な内部磁場との相互作用によって、μeの存在を無視して得られたエネルギー準位は、実際はr 個の準位に分かれているはずである。このとき、問題の相互作用エネルギーは、内部磁場に対する固有磁気能率の方向によって、言いかえれば、の間の角度によって異なるであろうから、準位は に対するの可能な向きの個数だけに分裂するのである。このとき問題の相互作用をスピン-軌道相互作用と名づけ、簡単のために-相互作用とよび、そのエネルギーをエネルギーとよぶ。 このとき準位の分裂をひきおこすエネルギーは磁気的な起源のものであるから、電子と原子核との間の、あるいは電子どうしの間のCoulombエネルギーにくらべると非常に小さい。したがって原子のエネルギー準位は第一近似においてはnと だけで定まり、スピン-軌道相互作用のもたらすエネルギー準位の分裂は小さなものにすぎない。これが原子のエネルギー準位の多重性の説明である。」

 エネルギーはベクトルの相互作用の向きのほかに、電子の軌道の大きさや形に関係するとのことです。したがって、原子の軌道運動の形態ごとに異なり、また原子が異なるごとに異なるということになるそうです。それで、原子の全エネルギーを次のようにするということです。
  H = H0 + K()           (83.4)
   H0:原子のHamilton関数の軌道部分であり、それの固有値W0はエネルギー
     準位の第一近似を与え、nと のような軌道量子数の関数である
   K:軌道座標や軌道角運動量の複雑な関数であるが、これを近似的には常数
     とみなしてもよい。その値は(eh/4πmc)2乗/ra2乗の程度の大きさである
     このもnや のような軌道量子数だけに関係する

 このようなl ・sエネルギーを仮定すると、次のようなことがいえるそうです。 「このエネルギーは 2乗、 2乗、2乗と交換する。このことはHamilton関数(83.4)が 2乗、 2乗、2乗と交換することを意味し、したがってわれわれは原子のエネルギー準位を および他の軌道量子数で指定しうることを意味する。」

 次に(l ・s)を求めます。j = l + s から、次式が得られます。
   () = (1/2)( 2乗 - 2乗 - 2乗)       (83.5)
ところで、 2乗、 2乗、2乗は次のようにあらわされます。
    2乗 = ( + 1)            (83.6)
    2乗 = ( + 1)
   2乗 = ( + 1)
したがって、ただちに次式が得られます。
   () = (1/2){ ( + 1) - ( + 1) - ( + 1) }    (83.5')

 これから、」次の式が得られます。
   W = W0 + (1/2)K{ ( + 1) - ( + 1) - ( + 1) }   (83.4') 
    ただし、ここでKはj には関係しない
この公式(83.4')から一つの多重項の中の相隣る準位間の関係(Landeの間隔規則)が得られます。
   Wj-1 - Wj = K( + 1)         (83.7)
この公式は一つの多重項の中の量子数 + 1の準位と量子数j の準位との間隔の満たすべき規則であり、実験的に検証されているとのことです。

 ふーん。ここの小節は少し数式も追えたし、ほんのちょっぴりスピンのイメージをつかめたような感じもします。

 (2)アルカリの二重項

 朝永は冒頭で次のように述べています。 {最も簡単な例としてアルカリ類の二重項を取り扱ってみる。アルカリ原子はただ1個の光る原子しかもっていないので、その取り扱いは特に簡単である。」 ということを安易に信じてはいけません。本小節もとても難しい数学の展開があります。やむを得ず省略とします。


 (3)アルカリ二重項のZeeman効果

 本小節では、正常Zeeman効果や異常Zeeman効果、それにLandeのg因子など重要な話が述べられていますが、やはり数学が難しいので省略とさせていただきます。

                                      2013年6月26日

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§84 Pauliの禁制原理の導入  2013年07月02日

 まず、朝永はPauliの原理の量子力学的意味を述べています。 「この節ではスピンについて行った今までの考察とPauliの禁制原理を結びつけると、どういう結論に導かれるかを述べようと思う。ちょっと考えると、§81、82において電子のスピンについて学んだことがらはPauliの原理と独立なことがらであって、それを結びつけて特に新しい事実が生まれるようには思われない。たしかに「一つの状態に一つ以上の電子が存在することはできない」という形に表現された古い形のPauli原理ならば、その通りであろう。しかし量子力学においてPauliの原理は「電子からなる系のSchrodinger関数は電子の座標について反対称でなければならぬ」というように、より深い意味をもつ。」

 「一方、われわれは§82において、二つの電子のスピンが同方向を向くときには、そのSchrodinger関数はスピン座標に関して対称であり、スピンが逆方向を向くときには、それはスピン座標に関して反対称であることを学んだ。この事実からスピンの向きとSchrodinger関数の対称性の間に、ある密接な関係が存在することになり、スピンとPauli原理とが古典論では考えられなかったような関連をもつことになるのである。」

 うーん。高尚な理論が今まで展開されていたことが、ここのまとめで少し意味合いがわかりました。でも、難しい話ですね。そもそも、対称・非対称などということが物理的にどういうことなのかさっぱりわかりません。ぶつぶつ・・・

 (1)2個の電子の場合におけるPauliの原理

 すぐに、数学の展開が始まりますので、ここは省略します。

 (2)対称性の分類

 ここでは、3個あるいはそれ以上の電子の場合に取りくむ前に必要な数学的準備があります。”中間的対称”とか、”こしとり”作業などわけのわからない数学の話がでてきて、益々混迷の沼に入り込みます。これはもちろん避けなければなりません。

 (3)対称指標

 「対称性をいくつかの種類に分類したいとき、それをさらに細分することがもはや不可能であるというとき、それは完全な分類であるということができよう。このような完全な分類を行うためには、かなり複雑な数学が必要になってくる。しかし、後でわかるように電子に関する問題をあつかう場合には、幸いなことにそのような完全な分類にまで立ち入る必要はない。」と、冒頭に朝永は言っています。しかし、しかし、以下の数学的展開が容易なはずはありません。Diracの演算子Oなどが導入され、数学的展開がさっぱりわかりません。よって省略です。

 (4)対称指標と多重性

 朝永の冒頭の説明を記述しておきます。 「われわれは§82においてスピン演算子とスピン関数にほどこされる置換演算子の間に密接な関係があることを学んだ。この事実からスピン関数の対称性を論ずる場合には、前の小節で導入した演算子Oの代りに、それをスピン演算子であらわしたものを用いることができ、その結果スピン固有関数の対称性と、その状態の多重性との間に密接な関係をつけうることがわかる。」もちろん意味はさっぱりわかりません。以下省略です。

 (5)3個またはそれ以上のの電子の場合におけるPauliの原理

 「これまでの長い準備を終わって、いよいよPauliの禁制原理を理論の中に持ち込み、どんな結論が得られるか」が述べられます。 でも、ここでの重要な結論を表記することができません。

 これで、第84章を終わります。ほとんど何も書くことができませんでした。あしからず。

                                      2013年7月2日

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§85 軌道エネルギーと見かけ上のスピン-スピン相互作用  
                          2013年07月04日


 朝永は、冒頭で「数学的長い前節を終わって、これから物理に立ちもどろう。」と述べています。しかし、数学的展開がよくわからなく、また数式の記述も困難なため、以下の説明がすんなりと理解できるはずはありません。それでも、とりあえず進まざるを得ません。

 (1)定性的な考察

 ここでは、原子核とN個の電子からなる原子について、電子と原子核および電子の間の相互作用(電気的なCoulomb力)がある場合、量子数nと をもっていて、異なるスピン量子数をもつスペクトル項の間の準位間隔が定性的に説明されているようです。しかし、省略します。

 (2)半定量的考察−2個の電子の場合

 ここまでくると、もう記述できるような内容はありません。以前にあれこれと省略したつけが現れてきており、その結果文章をまとめることも困難になってきました。困りましたね!

 (3)半定量的考察−多数の電子の場合

 2個の電子のケースがだめなら、当然多数の電子の場合はお手上げです。すみません。

 (4)対称指標と対称度および反対称度

 本章を終わるにあたっての補足説明がありますが、省略です。

 (5)場の量子化と対称演算子O

 ここでは、朝永は次のように述べています。 「§77においてde broglieの場に対して(77.1)のような反交換関係を導入すれば、それはFermi粒子の集まりを記述するということを述べた。しかし§77では粒子のスピンを考えに入れていないので、ここでその点を細くし、かつ、それに関連してあらわれる二、三の点を指摘しよう。」 やはり説明は不可能なので省略とします。

                                      2013年7月4日


*終わりに当たって*

 「量子の森」でとうとうへたばってしまいました。予想通り、第V巻のスピンに歯が立ちませんでした。もちろん、私の数学的、物理的能力の問題が一番なのですが、複雑な数式の表現ができなかったことも痛手でした。まあ、そもそも私が無謀にも「量子の森」に入っていったことがまちがいなのかもしれません。もうこれで、「量子力学」について何か書くことはないと思います。ただ、本当の当初の目的であった、「電磁気学」あるいは「電磁波と物性」については、遣り残しの思いがあるので、チャレンジしてみようと思っています。

 それでは、最後までお付き合いしていただいた方々(そんな人がいるとは思っていませんが)に、感謝を申し上げて、閉じさせていただきます。


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