さ迷い歩き 「量子の森」 (5)-4
= 朝永振一郎 量子力学 =

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    大  目  次

  内  容      内   容  
00
 
朝永振一郎と量子力学 
                1st P
2013.01.16
   第U巻      
07
Schrodinger波動方程式
               Prev.P
2013.03.11
  第T巻  
01 エネルギー量子の発見 省略 08 Schrodinger函数の物理的意味       2013.03.20
02 光の粒子性 省略 09 量子力学的状態 Next.P 2013.04.29
03 前期量子力学 省略 10 多粒子系と波動場 Next.P 2013.05.15
04 原子の殻状構造 省略      
05 マトリックス力学の誕生 省略       
  第U巻        第V巻      
06 物質の波動論 (1) 1st P   2013.01.16 11 角運動量とスピン 6th.P  2013.06.12
06 物質の波動論 (2) 2nd.P  2013.02.06   第U部 摂動論、観測の理論  省略 
         第V部 ベクトル空間  省略 
             


08章 Schrodinger函数の物理的意味  2013年03月20日

  08章 : 目  次
§52 Schrodinger函数とde Broglie波  §58 任意の物理量に対する確率 
§53 座標の確率 §59 物理量の期待値
(1)  1粒子問題の場合 (1)  期待値
(2)  一般の場合 (2)  期待値の時間的変化、波束の運動
(3)  定常状態とSchrodinger函数 (3)  平均からのばらつき 
§54 時間を含んだSchrodinger方程式 (4)  不確定性関係
(1)  1粒子問題の場合 (5)  共立性
(2)  一般の場合 (6)  共立する物理量に対する確率 
(3)  確率の保存 (7)  縮退の或る物理量に対する確率  
§55 エネルギーの確率 (8)  状態の確率
(1)  1粒子問題の場合 §60 確率の時間的変化と遷移の確率  
(2)  一般の場合 (1)  物理量の値に対する確率の時間的変化
(3)  連続した固有値の場合  (2)  外場による原子の遷移
§56 運動量に対する確率 (3)  原子と光の場との相互作用による遷移
§57 固有状態   §61 回折と干渉
(1)  状態概念の精密化     
(2)  力学量と演算子    
(3)  固有状態    
(4)  例.角運動量の固有状態    


§52 Schrodinger函数とde Broglie波  2013年02月17日

 最初に、Heisenbergのマトリックス力学、de Broglieの波動論とSchrodingerの理論(粒子像)との違いをまとめてくれています。少し長くなりますが、そのまま引用します。 「de Broglieの波動論は、マトリックス力学の解法を容易にする方法を見出す手がかりを与えたばかりでなく、Heisenbergのもともとの考えでは与えられなかった物理的結論を理論から引き出す手がかりともなった。もともとのマトリックス力学は、電子系のエネルギー準位と、遷移の確率を与えることは出来たが、電子の空間的な行動については何も言うことはできなかった。電子の座標は抽象的なマトリックスになってしまって、それが空間でどう動くかなどは、運動方程式の解が得られても全くわからない。従って、陰極線がポテンシャルの場でどう散乱されるかとか、結晶を通るときどういう干渉像が現れるかとかいうような問題に理論は何の答えも与えないようにみえる。」

 「一方、この種の問題にde Broglieの波動論は直ちに答えを与える。それには、与えられたポテンシャルのもとで電子波がどう伝わるかを、その波動場の方程式によってしらべれてみればよい。波動函数の絶対値の2乗が物質の密度を与えるから、そうして方程式を解いた波動函数から、陰極線が散乱するとき、どの方向には、どれだけやってくるか、結晶を通過するとき、どの方向には強くやって来るか、どの方向にはやって来ないとか、それが規則正しい縞模様になっているとか、そういうことを計算によって示すことができる。そういう問題の典型的な例は§46で与えられた散乱の問題である。」

 「ところが、マトリックス力学に於いてもScrodinger方程式というものが現れて来た。今までこの方程式は、概念的にはマトリックス方程式(49.6)を代用するという純数学的な手段と考えるべきであったが、1粒子問題の場合、かつ座標qとして粒子の位置の座標を用いるなら、それがde Broglie場の方程式と同じ形になったことは、それが重要な物理的意味をも持つものであることを暗示している。即ち、de Broglie波が物質の空間的な行動をよく説明してくれたことからみて、それと同じ形の方程式をみたすところのSchrodinger函数も粒子の空間的行動を何らかの意味で与えるものではあるまいか。」 

 これが、本章の進むべき指針ということになります。しかし、本章はSchrodinger方程式や函数を、数学的に厳密に議論しています。私には数学的にほとんど付いていけない部分がたくさんでてきます。「量子の森」の泥沼に入り込むような気持ちです。

                                      2013年3月20日

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§53 座標の確率  2013年03月20日

 (1)1粒子問題の場合 

 まず、問題提起です。「de Broglieの理論において波動函数の絶対値の2乗は物質の密度を与えた。そしてその解釈はいろいろな事実によって妥当と考えられている。§40や§41で示したように波束はNewton力学に従って動くし、また§46に示したように、荷電粒子の散乱については、この解釈に従って実際にRutherfordの公式が得られた。しかしながら、われわれのSchrodinger函数に対して、de Broglie波と同じ解釈をそのままに用いることは出来ない。de Broglieの波動函数の絶対値の2乗は空間内にひろがった物質密度を与える。しかし、実験によれば物質はいつも粒子として見出されるのであって、われわれが今とりあげている1粒子問題において、その1個の粒子(例えば1個の電子)の密度分布がそんなに空間にひろがって見出されることは決してない。言いかえれば、1個の電子は空間のどこか1ヶ所にあればその質量や電荷が全部そこにあるのであって、そこ以外の他の場所にも質量や電荷がわかれて分布するなどということは決して実験的には見出されない。電子は不可分の粒子である。」

 de Broglie波の場合から暗示されるところの物理的意味をSchrodinger函数に与え、しかも、その函数が空間にひろがっているという事実と電子の不可分性とを矛盾しないようにするために、次のような統計的解釈をSchrodinger函数φ(xyz)に与えるのだそうです。

 空間の場所(xyz)の近くのdxdydzという微小体積中に粒子が位置する
ことの相対的確率:
  P(xyz)dxdydz = |φ(xyz)|2乗dxdydz        (53.1)

 相対確率ではなく絶対確率を得たいなら、次のようにSchrodinger函数を1に規格化します。

 規格化
   ∫|φ(xyz)|2乗dxdydz = 1              (53.2')

 このように定義すると、次のように言うことができるそうです。すなわち、「1に規格化されたSchrodinger函数をφ(x,y,z)としたとき、|φ(x,y,z)|2乗は、粒子が空間の(x,y,z)なる場所に位置することの絶対確率密度を与える。」 Schrodinger函数φ(x,y,z)をこのように粒子の位置の確率を与えるものであるとすると、粒子の空間的行動に関する問題を量子力学においても論ずることが出来るようになるということです。

 粒子の散乱の問題の解法について次のように述べています。「計算の手つづきはde Broglieの波動論と全く同じであるが、物理的な解釈は全く異なっている。即ち、一方では物質の密度が実際に空間にひろがった波動であると考えるのに、一方ではあくまで粒子と考え、Schrodinger函数は単に粒子の統計的な行動を定めているものと考える。従って、量子論的な考えによれば、粒子の空間的行動について理論が答えを与えても、それは1個の粒子の1回限りの行動によっては実験の結果としては現れるものではない。即ち理論の結論するところは1個の粒子を用いる実験を非常に多数回くりかえしたときにおいて始めてわれわれに認められることである。実際の実験では多数の粒子があとからあとから流れてきて現象をくりかえしていくので、事実上はこの種の実験のくりかえしが行われているものとみてよく、従ってこのときは、この確率が実際に空間内の粒子の個数の分布となって観測されることになるのである。こうして、たくさんの粒子の流れをCoulombの場において散乱させると、量子論においても、波動論と同じ角分布が得られ、それは§46で示したようにRutherfordの公式に従うものである。」

 さらに、水素原子の電子について、de Brogileの波動論とSchrodingerの理論の解釈の違いが述べられていますが、省略します。最後に朝永は、マトリックス力学との関連で次のように述べています。 「Schrodinger函数に上のような意味を与えると、量子力学の内容は、もともとのHeisenbergの考えたようなさびしいものではないことになる。粒子の座標が単なる抽象的なマトリックスになってしまって、粒子の空間的行動について理論は何もいえないというマトリックス力学の哲学はあまりにもラジカルであったことになる。こうして、粒子の散乱というような問題にも量子力学は答えることが出来るということは誠によろこばしいことである。」

 ふーむ。このあたりの話は定性的なので、少しは理解できますね。

 (2)一般の場合

 1粒子の場合の相対的確率、絶対確率(密度)の一般化については省略しますが、後で式が参照されるので、確率と規格化の式だけ掲げておきます。

 座標がq1,q2,・・・なる値の近くのdq1dq2なる範囲の値をとっていることの
一般的な相対的確率:
   P(q1q2・・・)dq1dq2・・・ = |φ(q1q2・・・)|2乗dq1dq2・・・     (53.3)

  規格化
   ∫・・・∫|φ(q1q2・・・)|2乗dq1dq2・・・ = 1             (53.4)


 (3)定常状態とSchrodinger函数


 Schrodinger函数に対して、上のような確率解釈を与える場合、その前提として次のような仮定が行われているとのことです。すなわち、Schrodinger函数は、次のShrodinger方程式の固有解であるということです。

  H{(h/2πi)∂/∂q,q)}φ(q) - Wφ(q) = 0          (53.5)

 このとき固有値の値が即ち量子的に可能な定常状態のエネルギーの値を与えます。

 朝永は、確率密度を次のように定義しなおしています。 「(53.5)の一つの固有解φ(q)をとったとき、|φ(q)|2乗とは、その固有解が属しているところの固有値Wをエネルギーとしてもつような定常状態において、座標の確率を与えるものである。もっと分かりやすく言うと、次のように言うことが出来る。(53.5)のn番目の固有函数をφnとするなら、|φ(q)|2乗とは、エネルギーがWnであるような定常状態においての確率密度である。」

 「以上のことをまとめて次のように言っておこう。Schrodinger函数は、夫々一つの定常状態に関係しており、そして、それらは夫々の定常状態での座標の値の確率密度を定めるものである。こうして、各定常状態には夫々Schrodinger函数が属しているので、われわれは、エネルギーがWnなる定常状態という代わりに、Schrodinger函数がφn(q)であるような定常状態といういいかたをすることが出来る。」なんとなくイメージは湧くのですが、すっきりと理解できたとは言いがたいです。

                                      2013年3月20日

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§54 時間を含んだSchrodinger方程式  2013年03月20日

 粒子の空間的行動や、またもっと一般的な粒子の座標空間での行動が統計的に得られることになったので、これらの考えを更に一般化します。

 (1)1粒子問題の場合 

 今までは確率密度は時間を全く含んでいませんでした。従って時間的に変化する現象をどう取り扱うかの答えは全く与えられていません。時間的に変化する問題を取り扱うためには、量子力学的状態というものをもっと一般化し、今までのSchrodinger函数以外にそれらの重ね合わせをも実現可能な状態として許さなければならないそうです。そして、このときその重ね合わせはde Broglieの理論における波束の運動と同じように時間の経過に従って変化していかなければならないということです。

 まず、(49.62)のSchrodinger方程式を、以前単色波のde Broglie波の方程式(39.2)から、単色でない波の方程式(39.8)移った移り方をそのままもってきて、次のような一般的な方程式を得ることが出来るのだそうです。でも、私にはどうしてこうなるのかはわかりません。

一般的な時間を含むSchrodinger方程式:
  H {(h/2πi)∂/∂x, (h/2πi)∂/∂y, (h/2πi)∂/∂z }Ψ (xyzt)
                     + (h/2πi)∂Ψ(xyzt)/∂t = 0   (54.1)
 なお、元のSchrodinger方程式は次のとおりである。
  △φ + (8π2乗m/h2乗){ W - V(xyz) }φ = 0      (49.62)

 そうすると、この新しい方程式は、一般的なde Broglie波の方程式(39.8)と全く同じであり、したがって一般的なSchrodinger函数φの確率分布は、de Broglie波における波束の移動と全く同じになるということです。朝永は次のようにまとめています。 「われわれが量子力学にもちこむべき一般化を具体的に述べると次のようになる。それは次の要請を導入することである。即ち、力学系の量子論的な状態は、(49.62)を満足するようなφ(xyz)によって表現されるものだけではなく、単色でない波動、即ち、いろいろなφn(xyz)の、任意の重ね合わせによって表現されるようなより一般的なものが許される。前者は、系の定常状態を与えるが、後者はもっと一般的な状態であって、時間的に変化するような問題を取り扱うとき必要なものである。そのとき問題となる時間的変化は、この一般的なSchrodinger函数が時間とともに(54.1)に従って変化するということで与えられる。そして、力学系がこの状態にあるとき、t という時刻に粒子がx、y、zに位置を占めることの確率密度が、次式によって与えられる。」

 確率密度:
  P(xyzt) = |Ψ(xyzt)|2乗             (54.2)
 規格化は
  ∫|Ψ(xyzt)|2乗dxdydz = 1           (54.3)

 うーん。この辺の理論展開がよく理解できません。そもそも、単色のde Broglie波と単色でないde Broglie波の本質的な意味を今まで理解しないでここまで来ているところが問題のようです。そのため、時間を含む、含まないの理論展開が理解できないのかと思います。いつか、もう一度de Broglie波に立ち返って復習してみたいと思います。

 朝永は更に重要なことを述べているので、そのまま引用します。 「このようにして、もともとのSchrodinger方程式は、マトリックス力学の基本方程式を簡単に解く単なる数学的手段として導入されたものであったが、de Broglie波の理論に導かれてそれに物理的意味が与えられ、更に上のような一般化を受けた結果、それはその基本方程式そのものよりもはるかに基本的なものであることになった。」

 「ここで、われわれは量子論的な状態を上のように一般化したが、そうして一般化された状態の概念は、Bohrの古い考えでの量子状態よりはるかに一般的なものであることに注意しておこう。Bohrによれば、量子論では古い力学で考えられる状態のうち、特殊なもの(∫
circle pdq = nhをみたすもの)だけが量子的に可能であると考えられた。その状態で系は一定のエネルギーを持っていて、しかもその状態は定常である。一方、上のように一般化された量子状態では、その中にBohrの意味での定常状態も含むが、それ以外にもっと一般のものが含まれている。Bohr理論が遷移というような時間的に変化を記述するのに全く無力であったのは、その理論で考える状態概念があまりにせますぎたからである。われわれが上に行ったような一般化を状態概念に対して行っておくと、それは空間内での確率分布が時の経過とともにどう変化するかというような、波束の運動に対する問題のみならず、一つの定常状態から他の定常状態への遷移というような、非空間的な確率変化の問題をも記述することが可能になって、Bohrの理論の論じなかった遷移に関する問題を取扱うことが可能になるのである。」 いやー難しいですね。Feynmanの量子力学では”状態”の話が具体的な例を用いて出てきましたが、こちらの議論の進め方は原理的、数学的なので、よく本質が理解できません。難しい・・・

 (2)一般の場合

 再び一般の場合の話ですが、ここでは重要な式だけを掲載することにします。

 一般的な時間を含むSchrodinger方程式:
   H {(h/2πi)∂/∂q, q }Ψ(q,t) + (h/2πi)∂Ψ(q,t)/∂t = 0   (54.5)
 なお、元のSchrodinger方程式は次のとおりである。
   H {(h/2πi)∂/∂q, q }φ(q) - Wφ(q) = 0            (54.4)
 一般的な確率密度:
   P(q1q2・・・,t ) = |Ψ(q1q2・・・,t )|2乗             (54.6)
 規格化は
   ∫∫・・・∫|Ψ(q1q2・・・,t )|2乗dq1dq2・・・ = 1        (54.7)


 (3)確率の保存

 この節からは数学の式のオンパレードとなり、私にはすべてついていくことが困難です。また式も難しくて、ここで表現することも困難です。そのため、重要と思われるポイントについてだけ記述します。

 まず、全確率が時間が経っても不変でなくてはならないという保存則とその確率が保存するための必要十分条件を掲げます。

 確率の保存則:
   d/dt ∫∫・・・∫P(q1q2・・・,t )dq1dq2・・・ = 0          
 確率が保存するための必要十分条件:

   ∫∫・・・∫Ψ*H { (h/2πi)∂/∂q, q }Ψdq1dq2・・・ 
     = ∫∫・・・∫〔H { (h/2πi)∂/∂q, q }Ψ〕*Ψdq1dq2・・・  (49.35)

 次はエルミト的演算子の定義です。ただし、私はこの”エルミト演算子”や”エルミトマトリックス”がよく理解できていません。

 一般に座標q1q2・・・の函数にほどこす1次演算子Aがあったときに、
f(q1q2・・・)とg(q1q2・・・)とを(適当な境界条件と連続条件ををみたす)
任意の二つの函数としたとき
   ∫・・・∫f*A g dq1dq2・・・ = ∫・・・∫(Af)*g dq1dq2・・・    (54.11)
が成り立つようなAをエルミト的な演算子であるという。

 この述語を用いれば、上の結論は、次のようにいうことができるのだそうです。とほほ・・・私にはすっきりしません。

 確率が保存するためには、演算子H { (h/2πi)∂/∂q, q } --以下
Hamilton演算子とよぶ--がエルミト的であればよい。
 Hamilton演算子がエルミト的であることは、同時に(54.4)の固有値が
実数であること、かつ、愛顧となる個誘致に属する固有函数が直交す
ることを保証してくれる。

 この節はこれで閉じさせてもらいます。

                                      2013年3月20日

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§55 エネルギーの確率  2013年03月27日

 非定常的な問題を取り扱うためには、単色なSchrodinger函数だけでは不十分なため、それらの重ね合わせも考慮しなければならないそうです。そこで、一般的な状態として、次のような函数を考えます。
  Ψ(qt) = A1(t)φ1(q) + A2(t)φ2(q)        (55.1)
 ただし、φ1、φ2は1に規格化された、次の狭い意味でのSchrodinger方程式の固有解とします。
  H { (h/2πi)∂/∂q, q }φ(q) - Wφ(q)= 0     (55.2)
 また、φ1(q)およびφ2(q)の属する固有値をそれぞれW1,W2とします。

 このとき、Ψ(qt)は時間の固有函数として、次のSchrodinger方程式をみたさなければなりません。
  H { (h/2πi)∂/∂q, q }Ψ(q,t) + (h/2πi)∂Ψ(q,t)/∂t = 0    (54.5)
 そうすると、A1(t)およびA2(t)は夫々次の形をしていなければならないということです(こういうところもわからないなー)。
  A1(t) = a1・exp { (h/2πi) W1t }   
  A2(t) = a2・exp { (h/2πi) W2t }   
 ただし、Ψ(q,t)は1に規格化されているものとします( |a1|2乗 + |a2|2乗 = |A1|2乗 + |A2|2乗 = 1 )。

 以上の前提のもとで、(55.1)のような一般的な状態とは物理的にいって何を意味するかを考察します。

 (1)1粒子問題の場合 

 Schrodingerの粒子像では、固有函数φ1はその粒子がW1なるエネルギーを持っている状態を意味し、φ2はその粒子がW2なるエネルギーを持っている状態を意味します。そのため、(55.1)のΨは、この二つの定常状態が何らかの意味で共存しているものと考えられます。しかしと朝永は言います。 「電磁波や太鼓の膜に二つの固有振動が重なって存在することは可能であっても、一つの粒子に二つのエネルギーW1とW2とを同時にもつことはできない。というのは1個の粒子のエネルギーを測定してみると、その値は必ず可能なエネルギー準位のどれか一つであって、それが二つのエネルギー準位にまたがっているなどということは出来ない。」

 「(55.1)のΨは、いわばエネルギー的にひろがった状態である(即ちエネルギーの値がW1とW2との両方にまたがっている)。しかるに、エネルギーを測定してみると、粒子はきちんと決まったエネルギーを持っていて、そんなにひろがったエネルギーを持つことはない。この二つの事柄を調和させるには、(55.1)の係数A1とA2とに対して統計的な解釈をすればよい。」 ということで、次のような仮定がおかれます。

仮定1) 力学系の状態が(55.1)のように夫々W1及びW2なるエネルギーの
固有函数の重ね合わせの形をしている場合には、その状態に於いて系の
エネルギーがW1であることの確率が|A1|2乗で与えられ、W2であることの
確率が|A2|2乗で与えられる。

 この仮定を一般化すると次のようになるということです。まず、一般的なSchrodinger函数は次の形で表わされるます。
  Ψ(x,y,z,t) = 馬An(t)φn(x,y,z,t)       (55.4)
  An(t) = an・exp{-(2πi/h)Wn t }
 そして、Ψ(x,y,z,t)が直交系φn(x,y,z,t)に展開されたときの展開係数An(t)について、次の仮定を導入するそうです。

仮定2) 展開係数の絶対値の2乗|An(t)|2乗は、そのΨ(x,y,z,t)なる状態
に於いて系のエネルギーが(tなる時刻に於いて)Wnであることの確率を与
える。

 こうすると、次のような結論が得られます。
  ∫|Ψ(x,y,z,t)| 2乗dxdydz = 馬 |An| 2乗 =1       (55.3')

 次に縮退のある場合が議論されますが、記号が表現できないこともあるので、省略します。。

 (2)一般の場合 

 一般の場合の話は省略します。

 (3)連続した固有値の場合

 連続した固有値の場合も省略します。

                                         2013年3月27日

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§56 運動量に対する確率  2013年03月27日

 座標やエネルギー以外にも、測定できる物理量がありますが、その一つである運動量を考察します。しかし、内容がFourier積分などの式が出てきて、ここで表現するのは難しいです。また私自身Fourier級数や展開はよくわかっていません。ということで、ここでも省略とさせてもらいます。

                                      2013年3月27日

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§57 固有状態  2013年03月28日

 (1)状態概念の精緻化 

 この節は、本論の”固有状態”に入る前のちょっとした準備的な注意だそうです。朝永は以下のように述べています(Schrodinger方程式(54.5)が随所に出てくるので、ここで掲載しておきます)。

 一般的な時間を含むSchrodinger方程式:
   H {(h/2πi)∂/∂q, q }Ψ(q,t) + (h/2πi)∂Ψ(q,t)/∂t = 0   (54.5)

 「われわれは今まで量子的な状態ということばをしばしば用いたが、今までこの状態ということばで意味するところがややあいまいであった。ここでこのことばの意味を少し精密に註釈しなければならない。通常の力学においても状態ということばを用いるのに、或いは運動学的な意味で用いたり、または力学的な意味で用いたり、いろいろな用いかたをしている。・・・省略」

 「量子力学においても事情は同様である。量子力学的な状態はSchrodinger函数で表現される点で通常の力学の状態とは非常に異なる概念ではあるが、その状態概念においても上に論じたと同様に二種の考えかたのあることに注意しなければならない。われわれのSchrodinger函数Ψ(q,t)は時間を含んだSchrodinger方程式(54.5)に従って変化していくが、このとき状態ということばを運動学的に解するなら、このことを次のように考えてよい。即ち、系の量子力学的状態は時々刻々変化していくので、その変化を示すものが tを含んだSchrodinger方程式(54.5)である。またもし状態ということばを力学的に解するなら、この tを含んだ方程式の解一つ一つに対応した状態が一つ一つきまるのである。この後の立場では函数Ψ(q,t)のqとtとに関係する仕方が状態を表現するのであるに対し、前の立場ではΨ(q,t)のqに関係する仕方が状態を表現するのであって、変数 tは、その状態が何時の状態であるかを指示するものである。」

 「この二つの考え方はどちらも夫々の利点があるが、通常は状態を運動学的に解するのが便利である。即ち状態は瞬間毎に決定されるものであり、それが一つの瞬間から他の瞬間へと移るにつれて変化していくという考え方である。この考え方ではScorodinger函数Ψ(q,t)の中の変数qだけが状態を表現するときに重要なのであって、時刻 tは状態を表現する役目よりも、ただそれが何時の状態を意味するかを示すパラメータにすぎない。従ってΨの中の変数 tはしばしば書くことを略すことが多い。」 以上をまとめると、次のようになるということです。

 われわれの意味での状態は、各瞬間において座標qの函数であるところ
のSchorodinger函数Ψ(q)によって表現されるものであって、その状態は
瞬間から瞬間へと変化しており、その変化は、Ψ(q)なる函数が時間がた
つとともに(54.5)に従って変化するという事実によって定められるのである。

 Feynman物理学では、最初から確率振幅や状態ヴェクトルという概念を導入して量子状態の具体的説明があり、さらにそれらを記述するのにDirackの発明したプラケット記号<|>を用いています。最初にFeynman物理学を読んだときは、”えーっ!これは何?”と驚いたものですが、最近になって確率振幅とはどうやらSchrodinger函数(波動函数)と対応しているらしいということが薄々わかってきました。従って、朝永がここで説明している”状態”は、確率振幅や状態ヴェクトルのことと思って読んでいって間違いないのかなと思っています。

 (2)力学量と演算子 

 前章では、物理量は1次演算子に対応付けられることを知りましたが、ここでは角運動量について考察することになります。即ち、角運動量のx,y,z成分をLx、Ly、Lzとすると、それは次のような演算子に対応しています。どうしてそうなるのか私には理解できませんが。

  Lx = y(h/2πi)∂/∂z - z(h/2πi)∂/∂y    (57.1)
  Ly = z(h/2πi)∂/∂x - x(h/2πi)∂/∂z
  Lz = x(h/2πi)∂/∂y - y(h/2πi)∂/∂x

 その理由は、角運動量の成分が次のように定義されているからということです。もちろん、(57.1)は、角運動量の物理的性質が量子力学的にみたしていることを確かめる必要があります。

  Lx = y・pz - z・py    (57.1')
  Ly = z・px - x・pz
  Lz = x・py - y・px

 力学量はそれぞれ演算子が対応しているので、その力学量と演算子との関係は密接なので、力学量とそれに対応する演算子とを同一物であるような言い方をしても誤りは起こらないということです。でも、演算子を表現する記号には”^”のようなものをつけて、識別して欲しいなと思っています(Feynman物理学では、分けています)。

 (3)固有状態 

 まず、固有状態の定義です。

 固有状態:
  いろいろな状態の中には、ある力学量が確実にある値を持っているよ
うなものが存在する。このような状態をその力学量の固有状態と名づける。
或いは、ある力学量の固有状態においてはその力学量が確定していると
いってもよい。

 このように定義すると、次にいろいろな力学量について、その固有状態を表現するSchrodinger函数はどうやって与えられるかが問題となるそうで、朝永は次のように述べています。 「その力学量に対応する演算子をΩと書くことにする。この力学量は一般に座標と運動量との何らかの函数であろう。そこでその函数をΩ(p,q)とするなら、その演算子はΩ{(h/2πi)∂/q ,q }なる演算子である。例えばもしその量がエネルギーであるならこの演算子としてH{(h/2πi)∂/q ,q} をもってくればよいし、それが角運動量のときは(57.1)をもってくればよい。そのとき
  Ω{(h/2πi)∂/q ,q }φ(q) - Ωφ(q) = 0           (57.5)
なる方程式を考える。通常あらわれる力学量の場合には、これが微分方程式になることが多い。Schrodinger方程式(57.2)はその一例であって、これは問題の力学量がエネルギーの場合である。このとき(57.5)についてSchrodinger方程式の場合と同様に固有値問題が考えられる。即ち、この方程式が与えられた境界条件を満足し、かつ恒等的に0でないような解φ(q)を持つためにωはある特別な値をとらねばならなぬ。その値を演算子Ωの固有値と名づけ、そのときの解φ(q)をその固有値に属するΩの固有函数と名づける。」

 こで、次のような基本的な仮定を導入するということです。

 仮定1 系のSchrodinger函数が丁度Ωなる演算子の、固有値ωに属
するところの固有函数になっているときには、その状態においてΩなる
力学量は確実にωなる値を持っている。

 次に、Schrodinger方程式と固有値、固有函数に関する数学的関係について述べられています。

 Ωが実数的な力学量であり、従ってそのマトリックスがエルミト的である
場合には演算子Ωはやはりエルミト的であり、そのときは固有値ωは必
ず実数であり、そして相異なる固有値に属する固有函数は互いに直交
する。更に、固有函数の全体は完全系を作り、それを用いて任意の函数
を展開することができる。このとき、qの変域が無限大なら、固有値はとび
とびのこともあり、また連続したある範囲の値をとることもある。そして、と
びとびの固有値に属する固有函数は、その絶対値の2乗をqにつき積分し
たものは収斂し、連続した固有値に属する固有函数の場合には、それは
収斂しない。何れの場合にしても、固有函数を適当に規格化することが
できる。詳しくいうなら、とびとびの固有値に属する固有函数は1に規格化
することが出来るし、連続した固有値に属する固有函数は、例えば固有
値ωにつき規格化することが出来る。

 重要な考え方が書かれていますが、残念ながら私には数学的にはきちんと理解できません。イメージ的にぼんやりとわかりかけているといったところでしょうか。私は、大学教養課程で物理学のための数学や函数論を学んではいるのですが、当時はさっぱりわかりませんでした(それでも単位は取れるのですよね)。今となっては、再度勉強する時間も能力もありませんので、これ以上の理解は望めません。最後に、次のような重要な仮定が述べられています。

 仮定2 力学量の量子的に可能な値はそれの固有値だけであって、固
有値以外の値をその力学量が持つことは決してない。


 (4)例.角運動量の固有状態 

 ようやく角運動量に入ってきました。ここまでどうにかやってきたという感慨と、また分けが分からなくなるなるのかという恐れとが入り混じった複雑な気持ちです。かといって、量子力学の後半にとっては重要な概念ですので、はしょるわけにはいきません。レッツ・ゴーです。1個の粒子からなる力学系で、(57.1)(以下に再掲します)で定義される力学量、すなわち角運動量を考えます。

  Lx = y(h/2πi)∂/∂z - z(h/2πi)∂/∂y    (57.1)
  Ly = z(h/2πi)∂/∂x - x(h/2πi)∂/∂z
  Lz = x(h/2πi)∂/∂y - y(h/2πi)∂/∂x

 まずz成分Lzを考察します。微分方程式は次のようになります。
   〔{ (h/2πi)(x∂/∂y - y∂/∂x } - λz〕φ(x,y,z) = 0    (57.8)
この固有値λzと固有函数φ(x,y,z)を求めます。ところで、この微分方程式はxyz座標より極座標(rθψ)を用いるほうが容易になります。
   { (h/2πi)∂/∂ψ - λz }φ = 0    (57.8')
すると、この解は次のようになるそうです(私にはすぐにはわかりませんが)
   φ = f(r,θ)exp{ (2πi/h)λzψ}

 ψが0から2πに変るとき、函数φは連続でなければならないので、固有値は次のような値しか取り得ないことが分かります。
   λz = (h/2π)m   m = 0,+-1,+-2・・・     (57.10)
また、このときの固有函数は次のとおりです。
   φ = f(r,θ)exp(imψ)              (57.11)

 ここで注意すべきことは、f(r,θ)は全く任意なので、この固有値には無限にたくさんの固有函数が属していることになるということです。そして、朝永は次のように結論しています。 「角運動量のz成分はh/2πの0、又は正負の整数倍だけである。これはBohr理論以来おなじみのことであるが、われわれの今の理論ではBohrの理論におけるより更に一般的な提言であることを忘れてはならない。即ち、Bohrの理論では、考えられていた状態は定常状態だけであったが、われわれの今の考えでは、もっとひろく、非定常な状態においても角運動量のz成分は決してh/2πの整数倍(0も含めて)以外とらないものと考えるのである。」 ふーん。素晴らしいですね。

 次は、角運動量の長さ(の2乗)について考えます。ところが、私には角運動量の長さとかその2乗というその物理的意味がよくわかっていません。それでも進みます。次の力学量の固有値、固有函数を求めます。
   L2乗 = Lx2乗 + Ly2乗 + Lz2乗        (57.13)

 ここでも極座標(rθψ)を用いるのが便利だそうです。そして極座標を用いたL2乗の演算子および微分方程式が記述されますが(§42水素原子の問題に出てきた方程式と類似しています)、表記が大変難しいので省略させてもらい、結果だけを記述します。

 L2乗の固有値Λ2乗は次のようになります。
   Λ2乗 = (h/2π)2乗・l(l + 1),   l = 0,1,2・・・・    (57.17)
このとき、mは-l から+l まで、2l + 1 個の整数を取ります。すなわち、
   -l =< m =< l                         (57.18)
そして、その各々に対して固有函数は次のようになるそうです。
   φ(r,θ,ψ) = R(r)Pml(cosθ)exp(imψ)      (57.19)

 以上をまとめると次のようになります。角運動量の大きさΛの2乗(Λ2乗)は(h/2π)2乗の l(l + 1)倍なる飛びとびの値だけをとることができます。そしてそれ(Λ2乗)が(h/2π)2乗・ l(l + 1)であるような固有状態はただ一つだけではなく、互いに直交する(2l + 1)個の函数で表現されるような(2l + 1)個のものがあるということです。そして、その各々は -lから lまで変る整数mによって配列されます。また、添字mをもっている固有函数が角度ψについてexp(imψ)なる形をしていることは、(57.19)が更にLzの固有函数になっていることを意味しているそうです。言い換えると、(57.19)のφで表現されるところの(2l +1)個の固有状態は、夫々Lzの固有状態でもあることになります。

 最後に、上で導入した仮定から直ちに得られる結論が述べられています。

 Ωの固有状態は同時にΩの任意の整多項式F(Ω)の固有状態であり、
その状態においてΩのとる値がωであるなら、F(Ω)のとる値は確実に
F(ω)である。

 この結論の整多項式をもう少し一般化する議論が続きますが、もうさっぱりわからないので、ここで本章は終わりとします。よく理解していないことを適当に書き下ろしていくのはしんどいですね。

                                      2013年3月28日

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§58 任意の物理量に対する確率  2013年04月03日

 またまた数学的な話が続きます。すなわち、前節で学んだ座標や運動量、エネルギー以外の任意の物理量について、その値の確率を計算する数学的方法が述べられます。ある物理量Ωとして、次の方程式を考えます。
   (Ω - ω)φ = 0        (58.1)
この方程式の固有値ωに属する固有函数をφωとします。このとき、問題は、系の状態を表現するSchrodinger函数がこんな固有函数ではなく一般的な函数Ψであったとき、その量Ωはどう考えるべきかということだそうです。といわれても、この問題設定が私にはそもそもよくわかりません。数学的には、座標や運動量、エネルギーでやったようなやり方の一般化として処理できるのだそうです。しかし、ここで展開している議論は難しいので、省略しますが、量子力学における重要な概念である相対的確率密度の定義のみ掲げておきます。

 系の状態:
  Ψ = 買ヨ(Aωφω) + ∫A(ω)φωdω          (58.2)
 このときの展開係数:
  Aω = ∫Ψφω*dq 、 A(ω) = ∫Ψφω*dq      (58.3)

 このとき、Ωがωなる値をもつことの相対的確率は次のようになるのだそうです。

 相対的確率密度:
 ・ωが飛び飛びの固有値である場合
   Pω = |Aω|2乗 = |∫Ψφω*dq |2乗         (58.5)、(58.6)
 ・ωが連続的な固有値である場合
   P(ω) = |A(ω)|2乗 = |∫Ψφω*dq |2乗      (58.5')、(58.6')


                                      2013年4月3日

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§59 物理量の期待値  2013年04月04日

 ここでは、前節の一般的な方法から直ちに得られる二、三の事実を紹介しています。

 (1)期待値

 物理量Ωの期待値(或いは平均値)を通常の確率論に従って次のように定義します。
   <Ω> = 狽oω・ω      (59.1)  
     ここで、Pωは絶対的確率で、狽oω = 1 とする。
或いは
   <Ω> = 狽oω・ω + ∫P(ω)ωdω      (59.1')

 途中の計算を省略しますが、Ψなる状態におけるΩなる量のもつ期待値は次式で与えられるということです。

  <Ω> = ∫Ψ*(q)ΩΨ(q)dq      (59.4)
     ただし、このときΨ(q)は1に規格化されているものとする 


 (2)期待値の時間的変化、波束の運動

 Ψ(q)は一般的に時間とともに変化します。Ψの時間的変化は、次のSchrodinger方程式に従います。
   ∂Ψ/∂t = -(2πi/h)HΨ

 途中の計算は省略しますが、次の重要な関係が得られます。

  d/dt<Ω> = (2πi/h)<(HΩ - ΩH)>         (59.6)

 Ωが座標qまたは運動量pであるときは、次式が得られるそうです。

  d/dt<q> = (2πi/h)<(Hq - qH)> = <∂H/∂p>     (59.7)、(59.8)
  d/dt<p> = (2πi/h)<(Hp - pH)> = - <∂H/∂q>

 この関係式は、古典力学の正準方程式と極めて類似した形をしているとのことです。朝永は、ここでの結論と波束の中心の運動との関係を次のように述べています。「波束の大きさ程度の空間内では力の場が一定とみなしてよいようにゆるやかな変化をするときにはde Broglieの波動論では波束の中心が古典力学に従って運動することを示した。そのときの論証をそのままに用いて、1粒子問題でかつqが(xyz)であるときには、波束における座標の統計的な意味での中心が古典力学に従って動くことが証明される。しかし上に得た(59.8)から、もっと一般的にこのことが成立することがわかる。即ち、1粒子問題と限らず、またqやpが任意の正準座標と運動量であった時、その統計的な意味での値の中心、とりもなおさずその期待値は、近似的には古典力学の法則と同じ法則で時間的に変化することが期待される。」 解析力学を知らない私には、「ふーん、そうなのか」といったレベルで終わってしまいます。

 次に、(59.6)から出てくる大切な結果が述べられています。すなわち、「ある物理量Ωがあったとき、演算子Ωとハミルトン演算子Hとが可換であるときは
   HΩ = ΩH          (59.9)
であり、従ってこういう場合には<Ω>が時間的に変化しないことである。このような場合には期待値<Ω>が時間的に変化しないのみならずΩに対する確率Pωも時間的に変化しないことが導き出される。」

 (3)平均からのばらつき

 私は確率論をしっかりと理解していないので、”ばらつき(期待値からのずれ)”についても理解するのが非常に困難です。ここでの”ばらつき”の意味は、”時間的に平均値の上下にどうゆらぐか”ということではなく、”観測のたびに得られる値の平均値の上下のばらつき”ということですので、注意してください。またしても、数学的に展開することは難しいので、結論だけをまとめて述べます。

 まず、ばらつきの度合いを示す量を(ΔΩ)2乗とすると、次の式が成り立ちます。
   (ΔΩ)2乗 = <(Ω - <Ω>)2乗>       (59.11)
または
   (ΔΩ)2乗 = <Ω2乗> - <Ω>2乗      (59.11')
なお、ΔΩを、今考えている状態の不確定度と名づけるということです。

 続いて、波束についてばらつきが議論されていますが、式だけを書いておきます。
   <q> = q0        (59.13)
   <Δq>2乗 = <q2乗> - q02乗 = δ2乗/2        (59.14)

   <p> = p0        (59.16)
   <Δp>2乗 = <p2乗> - p02乗 = (h/2π)2乗・(1/2δ2乗)    (59.17)

 この後、座標と運動量に対する確率密度(P(q)、P(p))の式が導出されますが、複雑な式なので省略します。

 (4)不確定性関係

 説明は省略しますが、任意のΨについて次のような関係が得られそうです。

 不確定性関係:
  ΔqΔp >= (1/2)(h/2π)           (59.27)
 自由度が多いとき
  (Δqs)(Δps') >= δss'(1/2)(h/2π)    (59.27')



 この関係式は、超有名なHeisenbergの不確定性原理といわれるものですが、何故かここでは単に”不確定性関係”とだけなっており、Heisenbergの名前が冠せられていません。朝永は次のように解説しています。 「この(59.27)、あるいは(59.27')の関係を不確定性関係とよび、これは量子力学の物理的解釈に於いて極めて重要な関係である。この関係は古典力学では決して存在しなかった量子力学特有のものであって、古典力学では座標と運動量とが同時に確定した値をもつことは常に可能であると考えられたのに対し、量子力学ではそれが不可能であることを示している。しかし、この関係の真の意味を読者が理解するには、まだ早すぎる。というのは、われわれは系の量子的な状態とか、ある状態で物理量がある値を持つということの新の意味についてまだあまり深い考察を行っていないからである。それについては次の章で述べるであろう。」 ということで、次章にご期待を!

 上の関係を一般化した関係式を記しておきます。
   (ΔΩ1)(ΔΩ2) >= (1/2)<i (Ω1Ω2 - Ω2Ω1)>    (59.28)
もしΩ1とΩ2との演算子が交換可能(すなわち、Ω1Ω2 - Ω2Ω1 = 0  (59.29))であるなら、この関係式は次のようになります。
   (ΔΩ1)(ΔΩ2) >= 0

 (5)共立性

 本節では、(4)の最後の式について、ΔΩ1とΔΩ2とを同時に0にするようなΨが実際に存在することを示すということです。言い換えると、同時にΔΩ1とΔΩ2との固有函数であるようなΨが存在することを示すともいえるのだそうです。物理的意味がさっぱりわかりません。

 上の問題を式で表わすと、次式を同時にみたすようなΨが存在するということです。
   Ω1Ψ - ω1Ψ = 0          (59.30)
   Ω2Ψ - ω2Ψ = 0
 
 ここでは、難しい数学的論証が行われていますが、私にはすべてを理解することができません。まとめられている結論だけを述べます。 「以上のようにして、二つの物理量が交換可能である場合には、同時にその二つのものの固有函数であるようなΨが存在する。而してこのようなΨによって表現される状態においては、この二つの物理量は同時に確実に夫々の値を持つことができる。」 「以上二つの物理量Ω1とΩ2とを考えたが、一般にいくつかの物理量Ω1、Ω2、・・・があったとき、このどの二つをとってもそれの演算子の固有函数であるようなΨが存在する。そして、このようなΨで表現された状態においては、これらの物理量のすべてが同時に確実にそれぞれの値をもつことができる。」
 
 このように、いくつかの物理量が同時に確実に値を持っている場合、「それらの量が共立している」というのだそうです。したがって、「互いに交換可能な演算子をもっているような物理量は共立することができる」、あるいは、「同時にこれらの量のすべてに対して固有状態であるような状態が存在しえる」ということになるそうです。そして、このような状態をΩ1、Ω2、・・・の同時的固有状態と名づけるそうです。

 ほとんど、さっぱりわかりませんが、共立する物理量の例として水素原子での状態について取り上げています。そこでは水素原子のエネルギーの固有函数としてΨが得られましたが(式(42.24))、このΨは同時に角運動量のz成分Lzおよび角運動量の大きさの2乗(L2乗 = Lx2乗 + Ly2乗 + Lz2乗)の固有状態でもあることを学んでいます(確かに学びました)。従って、このΨで表現される状態は、H、Lz、L2乗同時的固有状態とよぶということです。このとき、次の式が成立しているそうです。
   HLz - LzH = 0          (59.37)
   HL2乗 - L2乗H = 0
   L2乗Lz - LzL2乗 = 0

はあ、疲れてきました。上の式の物理的イメージが全然湧いてきません。このぼんくら頭め!!

 (6)共立する物理量に対する確率

 数学の証明のオンパレードなので省略します。

 (7)縮退のある物理量に対する確率

 ますます複雑な数学の証明があるので省略しますが、最後に朝永のまとめ(問題提起?)がありますので、そのまま掲載します。 「終りに、たがいに共立しない量について、一方がある与えられた値をもち、かつ他方がまた与えられた或る値を持つことの確率をどうして計算するかという問題が残っている−−と読者は思うであろう。例えば「状態Ψに於いて粒子の座標がx0なる値をも持ち、かつその運動量がp0なる値を持つことの確率」を計算するにはどうするかという問題である。しかし量子力学では、その種の確率は考えられない概念であって、従ってそれを計算する方法は何もない。「粒子の座標がx0なる値を持ち、かつその運動量がp0なる値を持つ」ことの確率が何故考えられないものかという理由は次の章で明らかになるなる筈であるが、一口にいうと、「座標がx0なる値を持ち、かつその運動量がp0なる値を持つ」という一見明瞭にみえる文章それ自身、量子力学では慎重に検討しなければならないことであって、その結果、今までわれわれが無反省に用いてきた用語「値を持つ」ということの意味を常識的に解することが出来ないことになり、従って上のような確率は考えることのできない概念だということになる。」 ということだそうです。難しい!難しい!となげくばかりですね。「値を持つ」という言葉を吟味しなければならないのだそうです。

 (8)状態の確率

 再び量子的な状態(の確率)という量子力学の重要概念が現れてきました(前に§57で取り上げています)。前節で、「Ψという状態において力学量Ωがωなる値を持つことの確率が、ΨをΩの固有函数φωによって展開したときの展開係数から求めることができる」と学びました(著者がそういうのですから、恐らくそうなのでしょう)。他方、「Ωがωなる値を持つのはまさにこのφωなる函数で表現される状態に於いてである。」ともいえるそうです。それで、状態の確率を次のように定義するのだそうです。

 状態の確率:
 系が状態Ψにあったときには、それは部分的に状態φωにあるので
あって、そのとき系がφωなる状態にあることの確率は展開係数Aωの
絶対値の2乗で与えられる。
   P = |∫Ψφω*dq|2乗             (59.45)
 ただし、φωは規格化されているものとする。

 ここで、確率に関する仮定を一般化すると以下のようになるそうです。

 系が状態Ψにあるときに、一般にそれは部分的に他の状態Ψ'にも
あるのであって、このとき系がΨ'なる状態にあることの確率は
   P = |∫ΨΨ'*dq|2乗             (59.46)
によって与えられる。ただし、Ψ'は規格化されているものとする。

 朝永は、ここで量子的な状態について注意を与えています。そのまま記述します。 「ここで行った一般化は、Ψ'が何か物理量の固有函数であってもなくても同様なことが成立すると考えるところにある。しかし、或いは考え方をかえて、どんなΨ'をとってきても、それが固有函数のどれか一つになっているような物理量が存在するという仮定を導入したと考えてもよい。そうすれば(59.45)は(59.46)の特別な場合に外ならぬことになる。そもそも系がどんな状態にあるかを知ることができるのは、何らかの物理量を測定しての上である。従って(59.46)のような確率を実験的に求めるためには、何らかの量の測定によって系がΨ'なる状態にあることが結論されることを予想してのことである。それには、Ψ'が何らかの物理量Ωの固有函数の一つであって、測定においてその固有値ωが得られたことによって、その状態が実際Ψ'にあるという結論が下されるのでなければならない。」 ・・・・・・・・

 更に続けます。 「この一般的な言いかたにおいて、量子的な状態の一つの特徴がとらえられている。それは、一つの量子的な状態は部分的にまた他の状態にあることのできるようなものであるという事実である。このとき部分的にということばが出たが、その本当の意味を理解するには次の章を待たねばならない。ただここではその意味が常識的なものと全く異なっていることに注意しておこう。」

 この「部分的に」ということばの意味について、さらに具体的な話が続きますが、長くなるので省略します。次章が待ち遠しいですね??

                                      2013年4月4日

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§60 確率の時間的変化と遷移の確率  2013年04月24日

 今までは、ある状態に力学系があったときに、ある力学量がその固有値のどれかの値を持つことの確率を計算する方法が述べられてきましたが、ここではこの種の確率とは異なる遷移の確率について議論されます。

 (1)物理量の値に対する確率の時間的変化

 前小節(2)では、物理量の期待値の時間的変化を求めていますが、ここでは更に進んで、期待値ではなく、物理量の値に対する確率そのものの時間的変化について考察することになります。問題の確率は次のように定義されるとのことです。
   Ψ = 馬Aωφω    (60.1)
   Pω = |Aω|2乗     (60.2)
この状態Ψは、次のSchrodinger方程式に従って変化するそうです。
   HΨ + (h/2πi)∂Ψ/∂t = 0     (60.3)

 したがって、問題はAω或いはPωの時間的変化を与える公式を求めるということだそうです。この議論は大変難しく、数式も複雑なため省略しますが、まず確率保存の法則を表わす公式を掲げます。
   d/dt(狽oω) = 0    (60.8)
これは、§54で議論した確率保存の一般化にあたるそうです。続いて物理量Ωがハミルトン函数Hと交換可能なときは、Ωなる力学量が保存されるという話がありますが、私にはついていけませんでした。

 (2)外場による原子の遷移

 具体例として一つの原子を考えます。この原子がある時刻においてn0番目の定常状態にあったとします。これはHamilton函数Hのn0番目の固有値に属する固有状態にあるとも言えるそうです。このときこの原子が外界とのあらゆる交渉を断たれて何ものとも作用しないなら、永久にこのエネルギーの値をもちつづけることになるそうです。すなわち、このとき原子は決して他の状態に遷移しないといえるそうです。

 ところが、いま外界から何らかの作用があったとすると、話は変わってくるそうです。最も簡単な例として、外から何か任意に時間と共に変化する場V(t)を原子に働かせた場合を考えます。そうすると、系のHamilton函数は原子単独の場合のHだけでなく、外場との相互作用のエネルギーV(t)がそれにつけ加わることになります。そしてPn(t)が時間と共にどのように変化するかを表わす遷移の確率を表わす公式を求めるわけですが、数学的展開が難しいのでまたまた省略します。公式そのものも長いので、ここでは掲載を断念します。朝永は次のように述べています。 「しかしそれらの具体的な計算は長くなるので後に個々の問題に於いて行うことにして、ここではただ遷移の確率なるものを理論の中に含ませるには、別に新しい確率に関する仮定を導入する必要はなく、前節までに導入したいくつかの仮定に加えるに、状態函数Ψの時間変化を定めるSchrodinger方程式(54.5)があれば十分であることを上のようにして示しただけで満足しておこう。」???

 (3)原子と光の場との相互作用による遷移

 以上の考察で、原子に何かの力を働かせると、ある確立で遷移が起こることがわかりました。しかし、実際の原子は、外から何ら力を働かさないでも自然に光を放出して遷移を行います。それは、原子に何の外力も働かさないでも、原子は孤立して存在するものでなく、光の場と相互に作用しあっているからなのだそうです。したがって、力学系は決して原子単独なものではなく、光の場を含むものでなければならなく、Hamilton函数は次のようにしなければならないそうです。
   H = H原子 + H電磁場 + V      (60.21)

 H電磁場とは、光の場だけがあったときのHamilton函数で、光の場を記述する正準な座標と運動量で与えられるということです。Vは原子と光の場との相互作用を表わします。しかし、この問題に立ち入るには、その前に光の場の量子力学をやらなければならないそうで、これは次の巻で議論されるそうです。そこで結果だけを記述しておきます。

 「原子が光を出して遷移する確率は、Heisenbergのマトリックス力学では天下り的に仮定されたが、今度は前節までの一般論の結論として原子の電気能率のマトリックス要素によって計算されることが導き出される。このとき電気能率のマトリックス要素があらわれたのは、原子と電磁場との相互作用のエネルギー、即ち(60.21)のVが原子の電気能率に比例していることによるのである。そして公式(60.20)をみると、その中で
   exp{ (2πi/h)(En - En0)t } Vn0 
なるものが一役をしているが、これは§51(51.11')でみたように、VのHeisenbergマトリックスに外ならない。更にこのとき、エネルギーhνがEn - E0と異なるような光子の射出される確率は実質的に0であること、従って放出される光の振動数は ν = (En0 - En)/hなるBohrの条件で与えられることも理論の当然の結論として導き出される。こうして古い量子力学では天下り的に仮定されたことが、すべて前節までの仮定から一歩一歩導き出されることが明らかになるのである。」

 いやー、すごいことですね。導出する理論はよく理解できませんが、ある仮定の下で数学的にいろんな結論が導き出されるとは、後で学ぶものにとっては容易な部分もありますが、天才的物理学者が必死になって導き出したのですね。いやー、すばらしい。

                                      2013年4月24日

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§61 回折と干渉  2013年04月24日

 いよいよ本章の最後の節となりました。ここでは、確率の時間的変化の例として、粒子の空間的行動を量子力学に従って計算する簡単(?)かつ具体的な例が取り上げられます。すなわち、前期量子力学で問題となったスリットによる回折とYoungの干渉実験です。これらの現象は何れもde Broglieの波動論からは当然期待されることですが、また粒子論から出発しても、Schrodinger方程式とde Broglie波の方程式が同じ形をしているので、同様に予想されるということです。そこで、ここでは直接それらの方程式を解いて確かめることになります。

 ここでは、実験を行うときの実際の状況とは少し異なりますが、2次元の波束の時間的変化をしらべることによって、これら回折や干渉に相当した結論が量子力学的に導かれることが示されます。2次元の波束を表わすSchrodinger函数として次のようなものが使われます。
   Ψ(x,y,z) = (1/π1/2乗δ)exp{ -(x2乗 + y2乗)/2δ2乗 }・exp{ (2πi/h)py・x }
                                             (61.1)
 そして、問題のSchrodinger方程式は次のとおりです。
   { (h2乗/8π2乗m)(∂2/∂x2 + ∂2/∂y2) - (h/2πi)(∂/∂t)}Ψ(xyt) = 0
                                             (61.2)

 以下、この方程式を近似で解くのですが、当然式は超複雑で、なぞるのがやっとというところです。とてもここで表記できる式ではありません。ということで、ここではすべて省略しますが、朝永の結論だけを記します。 「こうしてYoungの実験が量子力学においても結論されることがわかった。−−但しそれは通常の波動論と異なって、一回の実験についてではなく、何回もくりかえした実験についての統計的な結論としてであることは何度ものべた通りである−−。」

 これでようやく「第8章 Schrodinger函数の物理的意味」が終わりました。長かったですね。もう最初の部分を忘れてきています。内容も複雑かつ長い式などが出てきて、頭が混乱しっぱなしでした。それでも、その混乱の中から、Schrodingerの方程式と函数の意味がおぼろげながらも少しわかってきたような感じもします。というのも、ブルーバックスなどの簡単な量子力学の解説本を読み返してみると、今までとは違った感じで、ああこのことを言っているのかなどと理解が出来るようになってきました。少しは進歩しているのかな?それにしても、本当にしんどいですね。次の章にも突き進む予定ですが、うーん、どうなるやら。気持ちは半分やめたいといったところですが。・・・・

                                      2013年4月24日


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