さ迷い歩き 「量子の森」 (5)-1
= 朝永振一郎 量子力学 =

あなたは  番目の訪問者です。
                       => Next Page

                               => 「量子の森」Top Pageへ戻る
                             => わんだふる山中湖(Close)

 ”さ迷い歩き「量子の森」”の「ファインマン物理学X:量子力学」に続いて、第4弾「朝永振一郎 量子力学」を始めます。当初の予想通り、ファインマン物理学の理解には相当の努力を強いられ、最後はへとへとに疲れてしまいました。そこで、昨年末からしばらく充電期間をとり頭を休めていましたが、ようやく再度挑戦しようという思いが湧きあがってきたところです。私にはまだまだ量子力学の真髄に少しでも近づきたいという思いが残っているようです。最後の力を振り絞って、この朝永量子力学に挑戦してみようと思っています。また、分かったこと、分からなかったこと、不思議に思ったことなど、気ままに書きなぐってみようと思いますので、ご興味のある方は是非お付き合いください。

                                              2013年1月16日
    大  目  次

  内  容      内   容  
00 朝永振一郎と量子力学 2013.01.16    第U巻      
  第T巻   07 Schrodinger波動方程式 3rd.P 2013.03.11
01 エネルギー量子の発見 省略 08
Schrodinger函数の物理的意味
                4th.P
2013.03.20
 
02 光の粒子性 省略
03 前期量子力学 省略 09 量子力学的状態 5th.P  2013.04.29
04 原子の殻状構造 省略 10 多粒子系と波動場 5th.P  2013.05.15
05 マトリックス力学の誕生 省略       
  第U巻        第V巻      
06 物質の波動論 (1)   2013.01.16 11 角運動量とスピン 6th.P  2013.06.12
06 物質の波動論 (2) Next.P   2013.02.06   第U部 摂動論、観測の理論  省略 
         第V部 ベクトル空間  省略 
             


00.朝永振一郎と量子力学 2013年01月16日

 私の感じでは、朝永振一郎の名前、業績は、湯川秀樹のそれに比べて、世間的には印象がやや弱いのかなと思っています。どちらもノーベル賞を受賞していますが、湯川は日本人初のノーベル物理学賞受賞者として、一般の人も業績の内容はともかく、名前だけは皆記憶の中に入っているのではないでしょうか。私も中学か高校の時にはノーベル賞受賞者として名前を教わったように思います。しかし、朝永の名前は私にはインパクトがなかったようです。ノーベル物理学賞を受賞した1965年は、私が大学に入学した年ですが、物理学に特別興味もなかったせいか、あまり記憶にはありません。

 ところが、大学の研究室に入って物性物理学に関係するようになると、量子力学の知識がどうしても必要になりました。私自身は電子工学系(電子物理学専攻)の学生だったので、物理学の基礎、ましてや量子力学に関する知識はまったくありませんでした。おそらく研究室のだれかから、量子力学を学ぶには朝永振一郎の「量子力学」がよいと勧められたのでしょう。当時は専門書を買うのをためらうほど貧乏な学生であった私にとっては、朝永量子力学の書籍2巻はとても高価(第T巻は\800、第U巻は\900、現在はそれぞれ\6,000くらいしますが)でしたが、えいやっと決断をして書籍(第T巻とU巻)を購入、独学で「量子力学」の勉強を始めました。しかし、当たり前と言えば当たり前、読んでもさっぱりわかりません。第T巻前半の前期量子力学のあたりまでは何とかついていけるのですが、数学を駆使したマトリックス力学や波動力学(物質波)が出てくると、たちまちちんぷんかんぷんになってしまいます。ましてや、シュレーディンガー方程式が出てくる頃には、心身ともに疲れ果てて、最後は沈殿してしまうといった状態でした。

 それでも、量子力学の理論の発展とその体系の”美しさ”に当時感動を覚えたことは、研究をあきらめて就職した後もずっと記憶に残っており、いつかはあの量子力学を学んで、少しでもその真髄に近づきたいものと思い続けていました。そして、定年を迎えて若干時間の余裕が出てきたところで、ファインマンの「ファインマン物理学」に出会い、まずそちらの”量子力学(第X巻)”を勉強することにしました(その経緯と学習内容については、昨年「さまよい歩き 量子の森(3)」としてまとめました)。当初は、続いて「ファインマン物理学」の”電磁波と物性(第W巻)”に進もうと考えていたのですが、私にとってはこの先もそう長くないし、頭が少し回転しているうちに少しでも量子力学の真髄に近づこうと考え直し、長年の課題であった「朝永量子力学」に挑戦することに決めた次第です。

 前置きが長くなりましたが、「朝永量子力学」について簡単に述べてみます。こちらの書籍は、「ファインマン量子力学」とは似ても似つかないくらい形式も内容も違っています。そもそも語りかける対象が異なるということもあるのでしょうが、「ファインマン量子力学」は、歴史的記述は一切省略し、量子力学の基本的考え方にダイレクトに突き進んで、量子力学の世界がいかに現実の常識と異なっているのかを意識させ、量子力学の世界を説明しようとしています。他方、「朝永量子力学」は、前期量子力学から基本的に歴史的順序に従いながら、数学を駆使して量子力学の考え方を丁寧に説明しています。どちらも初心者にとっては理解が困難なのですが、前者は難しい数式がないので、障壁は低いような感じもします。それに比べ、後者は難しい数式と物理の概念がこれでもかというように次から次へと現れてきますので、最後まで読もうと思っても、さっぱりわからなくなり、挫折してしまいます。朝永の本書の目的、考え方が、第T巻の「序文」に出ていますので、それを紹介しておきます(抜粋)。

 「本書はあまり急がないで量子論を勉強しようとする初学者のために書かれたものである。量子力学を知るのに今さらPlanckの発見から始める必要は少しもないが、PlanckからBohrを経てHeisenberg、de Bloglie、Schrodingerにいたる量子力学の幼年時代を現在の立場で取り扱った適当な書物がないので、本当に量子の概念をつかもうとする若い研究者はしばしば困難を感ずることが少なくない。従って、この書物が、初歩的な学生のみならず、一応量子力学の知識を持っているこれらの研究者の役にも立てば幸いである。」

 「著者はこの書物において、出来上がった量子力学を読者に紹介するよりもむしろそれが如何にしてつくられたかを示そうと努めた。理論物理学者の仕事を大別して二つにわけることが出来る。一つは出来上がった理論を未だ理論的に解決されていない問題に適用して現象の由来を明らかにすることであり、今一つは新しい理論を作り上げることである。この後の仕事は、第一の仕事に劣らず重要であるが、その場合研究者を導くのに過去においてそういう仕事が如何にして行われたかという例が非常に役立つであろう。この点で量子力学の出来上がる経験は最も教訓的である。なぜなら、ここではいろいろな型の学者がいろいろな思考方法を用いて自然から提出された謎を解いて行く道が最も豊富に示されているからである。本書はこうして一応歴史的な形をとって記述されたが、決して科学史の書物ではない。従って歴史的には多くの時代錯誤と歪曲とが含まれている。著者は勝手に、上の目的に最も適合するように素材の組替を行い、多くの天才たちの考え方の秘密や問題のたて方を明らか示そうと努めた。」

 「いろいろな問題を取り扱うに当たって、著者は出来るだけ物理的な核心をえぐり出すように努力したので、数学的な厳密さや、一般性を犠牲にした。これらの点を要求する読者は他の適当な書物によられることを希望する。このことはまた出来るだけ初歩の学生にも理解できるようにやさしくかつ直感的な記述を行うためにも必要であった。初歩の学生が理解できるようにといっても、本書は読者に対して一応の数学、解析力学及び電磁気学の知識を予想せざるを得なかった。こういう初歩の読者に対して付録が少しでも役立てば幸いであるが、この付録はかなり気まぐれにつけられているので、将来版を改める機会があれば、読者の注文によって、ある付録はとり去り、更にある付録をおぎなうことにしよう。」

 ということで、朝永量子力学は、数学や解析力学、電磁気学の能力のない私にとってかなり難解な内容です。もう3、4回読んではいるのですがいつも挫折しています。今回も「量子の森」に入って迷い込むのは目に見えていますが、ここは最後と思って、再挑戦してみようと思っています。なお、私の限られた人生の時間を考えて、第T巻の”前期量子力学”の部分は省略し、第U巻の”物質の波動論(de Brogli波)”から始めたいと思います。また、本書は複雑な数式がたくさん出てくるのですが、このホームページで数式を正確に表現することは不可能です。よって、うまくいくかどうかわかりませんが、数式の詳細には立ち入ることは避けながら、論理のつながりをなぞるような形で書き進めたいと思っています。

                                              2013年1月16日

                   => Top(目次)へ


06章 物質の波動論 (1) 2013年01月16日

  06章 : 目  次

§36 波動場と量子像 §43 波動方程式の固有値及び固有函数
§37 de Broglie-Einstein の関係 (1)  固有値と固有函数
§38 Davison-Germer の実験 (2)  直交定理
§39 de Broglie 波に対する波動方程式 (3)  展開定理
§40 de Broglie 波に属する物質密度と
 エネルギー密度
(4)  波動函数の形と質点運動との関係
§44 連続した固有値の場合の直交、展開定理
§41 簡単な例 §45 トンネル効果 
 (1)  自由空間中のde Broglie波 §46 物質波の散乱
 (2)  箱の中に閉じ込められたde Broglie波 (1)  入射波と散乱波
 (3)  Hookeの法則に従う場の中でのde Broglie波 (2)  散乱波に対する方程式を解くこと
§42 水素原子の問題 (3)  散乱波の遠方での形
(1)  波動方程式を解くこと (4)  散乱の断面積
(2)  振動の形 (5)  Rutherford の公式
(3)  密度分布 §47 波動量子化の必要
(4)  自由空間の球面波    
       


§36 波動場と量子像  2013年01月16日

 まずは冒頭に、朝永の第U巻をスタートさせるに当たっての思いが語られていますので、以下に記します。「BohrからHeisenbergにいたる長い話の間、我々は波動と粒子との問題をしばらく忘れていたようである。Bohrの理論の不満足な点は、Heisenbergのマトリックス力学によって一部取り除くことが出来、原子が或る定常状態から他の定常状態へ遷移を行うことの確率や、そのとき射出される光の強度や偏りを計算する方法が精密な数学的規則として与えられた。しかしなお残っている問題は、そのとき光は波動として射出されるのだろうか、粒子として射出されるのだろうかと問題である。Heisenbergの考えによれば、原子の内部では電子の軌道運動を因果的に決定するという形の力学法則が問題となるのでなく、原子の統計的な行動を支配しかつ量子的な振動数で振動する遷移成分なるものに対する法則が問題となっている。こうして法則が統計的であるので、一つひとつの遷移の際に射出される光の性質については、彼の理論は何も言わない。ただ言いえることは、多くの原子の集まりがあったとき、多くの原子が多くの遷移を行ったとき射出される光の総体に関することがらである。そうして、それを求めるには、遷移成分をもって振動する双極子を仮定し、それが古いMaxwellの理林に従って光の波を射出するものと考え、その波の強度と偏りとを計算すればよいと言うのである。理論が光について与える解答がこういう統計的なものであるから、ここの遷移過程において光が粒子として振舞っているか、波として振舞っているかの答えは何も与えられない。」

 「更に、Heisenbergのマトリックス力学は、古い力学に代るべき理論と考えるにはまだ何物かが不足している。即ち、この理論によって、原子系の定常状態におけるエネルギーの値や、遷移確率やが計算されたけれども、これらの問題と同様に基本的な他の問題、例えば電子の流れが原子核によってどう散乱されるかと言うような問題を取り扱うべき方法が全く不明である。このような点で量子力学を更に完全なものにするためには、Bohrの対応原理を出発点とする理論とは全く別の考え方による導きが必要であった。その導きの一つは、電子に対して波動像が可能であると言うことの発見である。後にだんだん述べて行くが、電子の波動像による理論が発展したことによって、マトリックス力学の数学的形式が一般化し、それを解釈する新しい手がかりが得られたのである。これだけの前置きをしておいて、本論に進もう。」

 現在の本書の立ち位置がおわかりでしょうか。Heisenberugのマトリックス力学を受けて、de Broglieの物質波動論に入っていくということです(歴史的には、de Broglieの物質波動論が2年ほど早く発表されています)。光は干渉や回折を行うという点では波動と考えられますが、他方光電効果やコンプトン効果では光は粒子のような振る舞いをします。それならば、今まで電子は当然のこととして粒子と考えられてきたが、電子を波動と考えることによってある種の現象が説明できるようになるのではないかと考えることもできるということです。

 ということで、まず、光の屈折についての考察があります。すなわち、幾何光学においては、Fermart(フェルマー)の原理から光の路すじを導きますが、保存力のもとでの質点の運動を考え、最小作用の法則からその質点の経路を求めることも出来ます。この結果、力学の法則は幾何光学の法則と全く同様な形に表すことが出来るということです。朝永は次のように述べています。 「光については波動論を発展させることが出来て、幾何光学の法則は、その波動伝播法則からある近似をもって導き出されたのであった。そう考えると、我々の質点に対しても波動論を発展させることが可能であり、そうすれば、力学の法則は、この波動伝播の法則からある近似をもって導き出されるに違いない。このとき、こうした理論の中で質点の全エネルギーEが、光の場合の色に相当した役目を演ずることになるだろう。」

 続いて、具体的な例として、Newtonの光の量子論から、幾何光学の法則(光の屈折率)を導出し、また光の波動論からも幾何光学の法則を導出し、その類似性を考察します。朝永は次のように述べます。 「以上の考察から、光の進行を一方は粒子的な像によって、一方は波動的な像によって説明するとき、同一の現象がどんな違った見方で表象されるかが明らかになった。・・粒子像において粒子の運動量の現れたところに、波動像では波長の逆数が現れる。更に、単色光の全進路にわたって一定の値を保つものとして、粒子像ではその全エネルギーEが、波動像ではその振動数νが現れる。こうして、粒子像において、一定のエネルギーを持った粒子の運動量が場所によって異なった値を持つのは、空間の場所の函数としてのポテンシャルVが存在する結果であり、波動像において、一定の振動数を持った波の波長が場所によって異なった値をとるのは、その位相速度が空間の場所毎に異なった値をとるからである。この位相速度がある場所でどんな値をとるかは、その場所に存在する媒質の性質によって決定される。」

 ただし、このような考え方は、あくまで幾何光学的現象の範囲内の話であって、その範囲を超えて光の干渉や回折を粒子像によって説明することは困難であり、光電効果やCompton効果を光の波動像によって理解することはできないということです。そして次のような考えが持ち上がってきます。 「以上光についてのべた事柄を、光以外のものについて一般化することは出来ないだろうか。即ち、電子流の進行というようなものを波動的立場によって取り扱うことは意味のないことであろうか。そうすれば、光が粒子的な性質を持ちながら干渉や回折を示すことはなかろうか。光の進行がこれら波動特有の現象によって幾何光学の法則から外れるように、電子の運動も干渉や回折によってNewton力学の法則から外れて、奇妙な振る舞いをすることはないであろうか。光の行動が幾何光学の法則から外れるのは、その光の波長程度の小さな空間が問題となったときであるように、原子の内部というような小さな場所を問題とするとき電子がNewton力学に従わないことも、こういう観点からみれば当然予期されることではなかろうか。」

 このような考え方に立って、通常の力学に対して「波動力学」が成立するのではないかと考えられ、そしてこの考えが、de Broglieの考え方(物質の波動場)の出発点となっているのだそうです。

                                              2013年1月16日

                   => Top(目次)へ


§37 de Broglie-Einstein の関係  2013年01月21日

 前節において、単色の光線は、波動論と粒子論では次のように表現されることが分かりました。
  @波動論: ある一定の振動数νを持ち、空間の場所場所でその媒質によって定められる或る波長λを持った波である
  A粒子論: それはある一定の全エネルギーEを持ち、空間の場所場所でその場所のポテンシャルに関係する運動量pを持った粒子の流れである
 そこで、粒子論では、波動論の光線がどんなエネルギーEを持ち、どんな運動量を持った粒子の流れと理解すべきかが問題となります。この点に関して、すでにEinsteinが結論していた次の関係を用いることが出来るはずと考えます。
  E = hν
  p = h/λ
 de Broglieは、電子の波動論を進めるに当たって、このEinsteinの関係を基礎的な仮定としました。すなわち、エネルギーEを持ち、運動量pをもつ粒子(電子)の流れは、Einsteinの関係で与えられる振動数νと波長λとをもつ波動の伝播と考えたということです。この場合、波の伝播の方向は、もちろん粒子の流れの方向と考えます。そして、波の位相速度を計算しています。

 さらに、粒子論における粒子の質量mや粒子に働く力のポテンシャルVは、波動論においては意味がないとして、以下のような記号で置き換えています。
  m = h
  V = hβ
 当初、このβの意味が分からず、どうして数式が異なるのかなと思って混乱しましたが、朝永は波動論を論じているときは粒子像にもとづく表象は使うべきではないと考えていたことがようやくわかりました。ある意味では当然ですが、他の書籍ではあまり厳密に扱われていないように思っています。

 de Bloglieは、Einsteinの関係が成立していれば、Bohrの量子条件∫pdq = nh が極めて単純に波動論の立場から理解されることを発見しました。そして、水素原子の内部で円形軌道をえがく電子モデルによってそれを証明しています。朝永は次のように述べています。 「この考えによれば、Bohrの理論にあらわれた量子数とは、考えている波動系の固有振動の番号に外ならぬということになり、それは即ちその波の節から1を引いたものに外ならない。こういう観点に立つならば、原子内に於いて電子が力学の法則に従わないのは、波動性が現れる結果であって、Bohrの量子条件とは電子の波動性の外ならぬことになる。」

                                              2013年1月21日

                   => Top(目次)へ


§38 Davison-Germer の実験  2013年01月21日

 de Broglieの物質波動論の発表前に、DavisonとGermer が波動性の現れるのは原子内だけの現象だけではなく、ニッケルのような金属に陰極線(電子の流れ)を当てたときににも現れることを発見しました。すなわち、ニッケルの結晶に散乱された電子線の方向分布が特徴のある凹凸の存在を示すことを発見し、それをElsasserが電子の波動性によるものであると主張し、de Broglieの考えを裏付けるものと考えました。更にDavisonは散乱から計算された波の波長と運動量の間に、前節で述べたEinsteinの関係が実際に成り立つことを確かめました。

 朝永は次のように述べています。 「こうして、電子線の干渉効果が実験的に認められたが、一度この種の実験が行われてみると、ThomsonやKikuchiの得たような干渉の写真はX線によるLaueの写真よりもはるかに容易にとることが出来ることが分かった。どうしてこの現象が今まで見つからなかったかといぶかしく思われるぐらいである。この発見の後、電子線はX線と同様に、場合によってはそれ以上に具合のよい方法として、物質の結晶構造をうかがう手段として用いられるようになった。」

                                              2013年1月21日

                   => Top(目次)へ


§39 de Broglie 波に対する波動方程式  2013年01月21日

 本節において、電子の波動論を進めていくうえに必須のde Broglie波に対する波動方程式を求めます。ただし、de Broglieが彼の論文でこのような波動方程式の導出をやったのかはわかりません。まず、de Broglie波はただ一つのスカラー函数Ψで記述されると仮定します。このΨは波動函数とよばれます。また、差し当たっては単色の(即ち一定の振動数νを持った)de Broglie波Ψの満たすべき方程式を求めますが、それは次のようになるということです。

 単色のde Broglie波(1):
   ΔΨ + (8π2乗m)/(h2乗){ E - V(x,y,z) }Ψ = 0     (39.2)

 この方程式は、Schrodingerが発見した方程式だそうで、一般に”Schrodinger方程式”とよばれているものだそうです。ただし、この名前は後で使うので、本書では混乱を避けるため”de Broiglie波に対する波動方程式”、あるいは”de Broiglie場の波動方程式”とよぶようにするのだそうです。§49-(5)において、一般形式のSchrodinger波動方程式がでてきます。

 更に、前節でも述べたように、この方程式(39.2)には粒子論から借りてきた量mやE、Vが含まれているので、次のようにβ、νで書き換えた式を、de Broglie波に対する基本方程式(波動方程式)として使うということです。

 単色のde Broglie波(2):
   ΔΨ + (8π2乗){ ν - β(x,y,z) }Ψ = 0     (39.3)

 次に、問題をもっと一般的にして、重ね合わせの原理を用いて単色でない波(いろいろな波長を含む波)の満足すべき波動方程式を求めます。この考察の中で、de Broglie波の波動方程式が時間について1階の微分方程式か、あるいは2階の微分方程式かの検討が行われます。しかし、私にはその議論の進め方、内容はよくわかりませんでした。結論としては、de Broglie波の満足すべき波動方程式は時間について1階であるとしなければならないと結論されます。それは次のように表わされます。

 単色でないde Broglie波:
   ΔΨ + 4πi(∂Ψ/∂t) - (8π2乗)β(x,y,z) Ψ = 0      (39.8)

 注意すべきことは、この方程式の中に虚数単位 i が含まれていることです。従って、de Broglie波は本質的に複素数的なΨで記述されなければならないということです。なお、(39.8)の形の方程式では、βが時間を含んでいても成立するものだそうです。

                                              2013年1月21日

                   => Top(目次)へ


§40 de Broglie波に属する物質密度とエネルギー密度  2013年01月21日

 朝永は、本節の冒頭で次のように述べています。 「Maxwellの理論に於いて、電磁波はエネルギーや運動量を持っているものと考えられている。即ち、電磁波の存在するところの空間には、その電磁波に属するエネルギーや運動量が分布しているものと考えられている。この電磁波に属するエネルギーや運動量は、その波長を記述する量の2次の表式によって与えられ、かつ、エネルギーや運動量の保存の法則がMaxwellの方程式から保証されるような形をしている。」

 「そこで我々はde Broglie波に於いても、その波の存在する空間にエネルギーや運動量が分布しているものと期待すべきである。更に、de Broglie波は物質(例えば電子)の存在を表わすものと考えられるから、その波の存在する空間に物質が分布しているものと考えられるべきである(このときこの物質は粒子でなく連続体と考えるべきことは言うまでもない)。電磁波の場合からの類推によって、これらのものの密度は波動関数Ψにつき2次の形をしており、かつその保存則が波動方程式(39.8)によって保証されるようなものであろう。但し、これらの密度は実数値を持つべきであるのに、Ψは一般に複素数であるから、これら密度を表わす式の中にΨの他にΨ*の現れることを許さねばならない。」

 以上の考え方から、以下のようなde Broglie波に属する質量密度、エネルギー密度、全質量、全エネルギーが導き出されます(ρとUにそれぞれ質量密度、エネルギー密度という意味を与えたのはSchrodingerとのことです)。

 質量密度:   ρ = Ψ*Ψ
 エネルギー   U = (1/8π2乗m) { ∇Ψ*・Ψ + 8π2乗βΨ*Ψ }     (40.12)
   密度:
 全質量:     M = ∫Ψ*Ψdv
 全エネルギー:  
           E = (1/8π2乗m)∫{ ∇Ψ*・Ψ + 8π2乗βΨ*Ψ } dv   (40.13)

 ρを質量密度、Uをエネルギー密度と考える根拠は、次の点にあるからだそうです。即ち、「いまde Broglie波が空間のある狭い領域だけで0と異なる値をもっているような場合を考える。そういう場合、物質はその場所だけに分布しているものと考えられるが、波の伝播法則に従えばそういう場所はだんだん移動していくはずである。このとき経験と合うためには、この物質移動の様子は近似的にNewton力学の法則にしたがっていなければならない。ところで我々はDe Broglie波に属する物質密度を上のように定義すると、これが事実そうなっていることを証明することができる。」

 ということで、物質分布の重心の運動を考察して、Newton力学の運動方程式に対応する次のような式が導き出されます。

 物質分布の重心の運動方程式:  d2<>/dt2 = -(1/m)∇V(<>)    (40.19)

 更に考察を進め、de Broglie波の運動量密度と運動方程式も導いています。

 運動量密度: G = (1/4πi) { Ψ*∇Ψ - ∇Ψ*・Ψ }      (40.20)
 運動方程式: md<>/dt = ∫dv/∫ρdρ            (40.22)

 すごいですね。こんな所にde Broglie波と古典力学(Newton力学)との対応が出てくるのですね。次の節では、以上のde Broglie波についての”簡単な例”が3つ取り上げられて、詳しく説明されます。ご期待ください。

                                              2013年1月21日

                   => Top(目次)へ


§41 簡単な例  2013年01月24日

 本章では、実際の簡単な問題について、次のde Broglie波の波動方程式(単色波でない)を解いて、論じます。でも、”簡単な例”と言われますが、そんなことはなく、とても難解です。
   ΔΨ + 4πi(∂Ψ/∂t) - (8π2乗)β(x,y,z) Ψ = 0   (39.8)

 ここではβが時間を含まない場合を取り上げています。そうすると、与えられた力学系についてde Broglie波の固有振動を求めることが第一の問題になるということです。それは、任意の振動が常にいくつかの固有振動の重ね合わせとして得られるはずだからということです。ここで、固有振動の定義があります。

 固有振動は、空間のすべての点で波動方程式を満足し、もし空間に境界があれば、
物理的考察から与えられた境界条件をそこで満足し、かつ一定の振動数を持って短
週期的に振動する振動のことである。ただし我々のde Broglie波の場合は、時間につ
き波動函数がexp(-2πiνt) のように変化するという意味である。

 上に、空間のすべての点で波動方程式を満足している、とありますが、それから出てくる結論として、もしβ(x,y,z)なる函数が空間のいたる所で有限であれば(不連続であってもかまわない)、波動関数Ψとその1階の導函数は連続でなければならないという結論が出てくるとのことです。 

 以上の前置きのもとで、以下の3つの簡単な例が説明されます。
(1)自由空間中でのde Broglie波
(2)箱の中に閉じ込められているde Broglie波
(3)Hooke(フック)の法則に従うde Broglie波
 *物理的に興味の或る最も簡単な力学系である水素原子の問題は、これらの説明の後、次節42で論ぜられます。

 (1)自由空間中でのde Broglie波

 ここではすべての数式を追って説明はできませんので、論議の進め方を中心に記述します。
 de Broglie波の固有振動は時間につきexp(2πiνt)の形をしていなければならないので、次のような波動関数で書くものとします。
   Ψ(xyzt) = Φ(xyz)exp(2πiνt)      (41.1)
 このΦ(xyz)は時間に無関係でかつ単色波に対する次の波動方程式(式(39.3)においてβ=0としたもの)を満足する必要があります。

  ΔΨ + (8π2乗)νΨ = 0          (41.2)

 この式の解として、次の平面進行波の特殊解が得られます。
   Ψ = A(kxkykz)exp{ i(kx・x + ky・y + kz・z ) }       (41.4)
   kx2乗 + ky2乗 + kz2乗 = 8π2乗ν               (41.3)
    なお、k = (kx,ky,kz)を波動ヴェクトルまたは伝播ヴェクトルといいます。

 時間を考慮した場合は、次のような式になります。
   Ψ = A(kxkykz)exp{ i(kx・x + ky・y + kz・z - 2πνt) }       (41.4')
 これは、波面、すなわち位相が一定な面をもって、次の位相速度uと波長λで進行する波動を表わします。
   u = 2πν/k = √(ν/2)         (41.6)
   λ = 2π/k                   (41.7')

 定在波は、k方向に伝わる波と-k方向に伝わる波とを重ね合わせることによって、次のような波動になります。
   Φ = Asin(kx・x + ky・y + kz・z + δ)    (41.8)

 ここで次のような注意が述べられています。 「de Broglie波の場合に進行波は(41.4)のような複素指数函数で表わされ、定在波は実数的な三角函数であらわされることである(但し時間部分はどちらもexp(-2πiνt)である)。このとき複素指数函数が現れるのは、前節(§39)の終りにのべたように、de Broglie波が本質的に複素数的なものであることによる。通常の電磁波や音の波の場合にも、物理学者はしばしば波動をあらわすのに同様な複素指数函数を用いるが、それとこれとは意味が違うことを忘れてはならない。即ちこれらの場合に複素函数を用いても。物理的に意味のあるのはいつもその実数部分であって、複素数を用いるのは単なる計算の便宜にすぎなかった。しかし、de Broglie波はこのように本質的に複素数的なのである。de Broglie波はこのように本質的に複素数的なものであるから、それが「波」であるからといっても、水面に起こる波のように山と谷との起伏を持った具体的な姿のものを想像することは出来ない。それが波であるというのは、ただそれが振幅と位相という属性を持っていて、重ね合わせの原理といっしょになって干渉を示すということを意味するだけである。」

 方程式(41.2)の一般的な解は、いろいろな振幅を持ったいろいろな平面進行波を重ね合わせた、次のようなものです。
   Ψ = ' Akxkykz・exp { i(kx・x + ky・y + kz・z ) }           (41.10)
解が連続的なものを含める場合は次のようになります。

 Ψ = ' Akxkykz・exp { i(kx・x + ky・y + kz・z )} 
      + ∫∫Bαβ
exp { i(kx・x + ky・y + kz・z )} sinαdαdβ     (41.10')

 更に、球面波が議論されますが、ここでは結果だけを掲げます。
  定在球面波:
    Φ(x,y,z) = A(sin kr)/r                  (41.15)
     kr = nπ (波の節) 、kr = (n + 1/2)π (波の腹)
  進行的球面波:
    Φ+ = Aexp(+i kr)/r   Φ- = Aexp(-i kr)/r     (41.17)
    ただし、実際に可能な波は、Φ = Φ+ - Φ-

 難しいですね。続いて単色でない波の話が続きます。一般に自由空間中の任意の単色でない波は、次のような単色波とは異なる方程式(式39.8)においてβ= 0としたもの)になります。
   △Ψ + 4πi∂Ψ/∂t = 0   (41.21)
 この方程式の任意の解は、先ほどの単色波の解の重ね合わせとして表されますから、次のように成ります。

 Ψ = Akxkykz・exp { i(kx・x + ky・y + kz・z ) - 2πiνkt } 
   + ∫∫Bkxkykz・exp { i(kx・x + ky・y + kz・z ) - 2πiνkt } dkxdkydkz   (41.22)
     ただし、νk = k2乗/8π2乗

 ふわーっ!さっぱり分かりません。更に、更に、波束の話が続きます。波束とは、空間のある限られた部分だけに存在するような波のことです。そのような波は、次のような形をとります。
   Ψ(x, 0) = Aexp(-x2乗/2△2乗)・exp(ikx)      (41.24)
     ただし、kは1/Δよりも十分大きいものとします
 求める解をΨ(x, t)とすると、その解は次のようになるのだそうです。
   Ψ(x, t) = ∫Bk'exp ( ik'x )exp( -ik'2乗t /4π ) dk'    (41.26)
 更に議論が進められ、波束Ψ(x, t)が算出されますが、省略します。

 波束の移動に対する公式が次のようになります。
   <x> = kt/2πm = ht/λ = (p/m) t      (41.33')
 p/mは、粒子的な表象においてその物質流を作る粒子の速度ということができます。したがって、(41.33')は、粒子論における粒子と同じ速度で波束が移動していくことを示すといえます。しかし、この物質束は移動するとともに、式(41.34)に従ってその大きさを次第に増し、それにつれて振幅が式(41.35)のように次第に減少していきます。
   幅  = Δ√{ 1 + ( t/2πΔ2乗)2乗}       (41.34)
   振幅 = |A/ √(1 + it/2πΔ2乗)|      (41.35)
言い換えると、波束は次第に拡散してぼんやりとして行くとということになります。そして、この波束のぼやける速さは、はじめの波束が小さいほど、またその物質のmが小さいほど著しくなります。電子の場合は、t = 10(-13乗)くらいの短い時間で、波束は√2倍の大きさまでぼやけてしまうということです。これは一瞬という感じですね。

 ここで注意があります。 「この例で、物質密度がどんな具合に移動していくかを示したが、このように密度が時間的に変化するような問題を取り扱うときには、いつも物質波の単色でない解を用いなければならない。なぜなら単色な解は時間とともにexp(-2πiνt)のように変化するので、ΨΨ*によって密度ρを作ると、必ずこのρは時間に無関係に一定になるからである。」

                            => Top(目次)へ

 (2)箱の中に閉じ込められたde Broglie波

 箱(稜の長さがLの立方体)の中には何の力の場も存在していないと考えると、解くべき方程式は、(1)自由空間中のde Broglie波と同じ方程式(41.2)と同じく成ります。

   ΔΨ + (8π2乗)νΨ = 0          (41.2)

この解を変数分離して、次のように書くことが出来ます。
  Φ(x, y, z) = X(x)Y(y)Z(z)         (41.36)

そうすると、波動方程式は、それぞれX、Y、Zの3つの方程式になります。
   d2X/dx2 + kx2X = 0, d2Y/dy2 + ky2Y = 0, d2Z/dz2 + kz2Z = 0  (41.38)
   kx2乗 + ky2乗 + kz2乗 = 8π2乗ν               (41.39)  

 こうして、3つの一般解が直ちに得られます。
   X = Axsin(kx + δx), Y = Aysin(ky + δy), Z = Azsin(kz + δz) (41.40)
ここで、壁の上での境界条件を適用することによって、kが取るべき条件が決まります。
   kx = πny/L, ky = πny/L, kz = πnz/L    (41.43)
     nx, ny ,nz = 1, 2, 3, ・・・

 こうして、(nz, ny, nz)番目の固有振動の振動数と波形は次のようになります。

   νnxnynz = (1/8L2乗)(nx2乗 + ny2乗 + nz2乗)            (41.44)
   Φ(x, y, z)
      = Anxnynz・sin(πnx/L)x・sin(πny/L)y・sin(πny/L)z    (41.45)

 このとき、nx2乗 + ny2乗 + nz2乗 = 8L2乗ν を満足するあらゆるnx、ny、nzの組はあうべて同一の振動数をもつことになり、したがって同一の方程式(41.2)を満足するということです。そのため、これらを任意の振幅Anxnynzをもって重ね合わせた1次結合の次のような函数も(41.2)の解になります。

   Φ(x, y, z)
      = ' Anxnynz・sin(πnx/L)x・sin(πny/L)y・sin(πny/L)z   (41.47)


 この後は、固有振動のde Broglie波(41.45) おける物質密度ρ(x, y, z)、物質全量Mnxnynz、およびエネルギー密度U(x, y, z)、全エネルギー量Enxnynzが算出されます。また、(41.47)の一般的な波動に対する全物質量M、全エネルギー量Eも算出されます。ここでは式が複雑なので省略します。

 ここで、朝永は波動像と粒子像について次のように述べています。 「以上で箱の中のde Broglie波の固有振動について必要な知識は大体得られた。これらの考察はすべて純然たる波動的表象に基づいて得られたものであるから、その振動の振幅Anxnynzはどんな値でもとることが出来る。従って物質量MnxnynzやエネルギーEnxnynzもあらゆる正の値を連続的にとることが可能である。従って電子の粒子的な性質はどこにも現れて来ない。しかし、光の波にPlanckの条件を考慮しなければならなかったように、de Broglie波についてもPlanckやEinsteinの考えを適用しなければならないであろう。νという振動数の光エネルギーがhνの整数倍の値だけしかとることが出来なかったと同様に、我々のde Broglie波においても、可能なエネルギーの値はhνの(0または正の)整数倍でなくてはならない。これは振幅Anxnynzも勝手な値をとり得ないことを意味する。」

 「我々の場合Enxnynzがhνnxnynzの(0または正の)整数倍でなくてはならないことから直ちに次の式が得られる。
   Mnxnynz = hNnxnynz   Nnxnynz = 0, 1, 2,・・・   (41.52)
こうしてPlanck流の量子化をde Broglie波に適用した結果として、固有振動の状態においてはこの中の物質総量は0またはhの正の整数倍だけが可能だということになる。ここで、m = h(37.6)を用いると、これは箱の中の物質量がmの整数倍でなくてはならないことを意味し、これはまさにその物質がつぶつぶのものからなっていて、そのつぶ1個の質量がmであることを示している。こうして、このとき現れた整数Nnxnynzは粒子の個数と考えてよいことになる。言いかえれば、この固有振動の状態において、振動が「量子数」Nnxnynzの状態で起こっているということは、とりもなおさずはこの中にhνnxnynzなるエネルギーの粒子がNnxnynz個存在することである。こうして、波動的な表象を基礎に取るなら、粒子の個数というものは量子数に外ならないことがわかった。」

 ようやく波動性と粒子性の関係についてのde Broglie波動論からみた結論がでました。それにしても長いですね。先が思いやられます。がんばりましょう。上の結論は、もっと一般の形の波動(41.47)である場合に一般化することができることが述べられています。

そして、今度は単色振動の場合の結論を更に一般化して、任意の単色振動の重ね合わせの場合を同様に考察していきます。経過は省略しますが、この全エネルギーEについて第T巻の§24で得られた式(24.11)と同じ形の式が得られるということです。
   E = (h2乗/8mL2乗)狽mnxnynz(nx2乗 + ny2乗 + nz2乗)    (41.55)

 これについて、朝永は次のように述べています。 「こうして、いろいろな結論が粒子像から出発しても波動像から出発しても一致することは注目すべき事柄である。公式(41.55)と(24.11)との一致を媒介として、この二つの表象の各々に特徴的な事柄を注意しておこう。波動像においては、Bohrの量子条件は極めて自然に、何ら量子的不連続ということは考えずに、波が境界条件を満足するという要求から導き出される。即ち上の式のnx、ny、nzなる整数は、並みの節の数であって、これが整数であることは自明である。それは弦の振動に基本振動、2倍振動、3倍振動・・・、n倍振動、・・・等の別が制すうちであるということは理論の出発点として自明である。こうして(24.11)の中の整数nx、ny、nzはBohrの量子条件を通じて始めて現れた量子数である。こういう風に全く異なった考え方から出発しても、量子化を行うことによって同じ結果(41.55)と(24.11)が得られたことは、電子や光が波であるか粒子であるかという問題に極めて重要な事実である。」

 「しかしここで次の点を注意しておこう。即ち、公式(41.55)と(24.11)とが同じ形である点を上に強調したが、これはまだ波動論から得られる結論と、粒子像から得られる結論とがあらゆる点で一致するということを意味しないことである。あらゆる点でこの二つの像が一致した結論を与えるためには、粒子像において単に量子化を行うだけではなく更に粒子の統計的性質に関する新しい仮定を導入しなければならない。更にまた§24の考察にしても今の考察にしても、粒子相互の間の作用を全く無視している。波動的な表象においてこの相互作用をどう取り入れるか、それを取り入れたときにも二つの理論が一致した結果を与えるか、これらの問題は後に取り扱う。」

 いよいよ、本質的な問題に近づいてきたようです。でも、少し息切れがして、心臓の脈拍も早まってきたようです。少し休憩をとってから次に進みたいと思います。

                            => Top(目次)へ

 (3)Hookeの法則に従う場の中でのde Broglie波

 粒子的な像においては。Hookeの場における力学系は質量mなる質点がV(x) = (κ/2)・x2乗 なるポテンシャルの場を運動していることになります。これに相当して、次のような媒質中のde Broglie波を問題にします。
   β(x) = (κ/2h)・x2乗
このような空間での単色波は次のような波動方程式を満足しなければなりません。

   d2Φ/dx2 + (8π2乗) { ν - (κ/2h)・x2乗)}Φ = 0       (41.58)

 途中の計算は極めて難解なので省略しますが、de Broglie波の固有振動の振動数は次のようになります。

   ν = (1/2π)√(κ/h)(n + 1/2)  n = 0, 1, 2,・・・        (41.64)

 ここで波形についての考察があり、波動函数がHermite(エルミート)の多項式を用いてあらわされることが示されます。これもとても難しい数式なので省略です。そして、求められた波動函数が、直交関係を満たすことが証明されます。
   ∫Φn*(ξ)Φn'(ξ)dξ = 0                  for n ≠ n'
   ∫Φn*(ξ)Φn'(ξ)dξ = |An|2乗√π 2n乗・n!   for n = n' 

 そして、一般の振動は、固有振動の重ね合わせで、次のように表されるということです。

   Ψ = 尿nHn(ξ) exp(-ξ2乗/2) exp{- i √(κ/h)(n + 1/2)t }   (41.71)


 この後は、固有振動のde Broglie波(41.71)における物質密度ρ(ξ, t)、全物質量M、および全エネルギーEが算出されますが、ここでは式が複雑なので省略します。朝永は次のように述べています。 「以上は純然たる波動論であるが、ここでPlanckの考え方にしたがって量子化を行ってみよう。それは、n番目の固有振動のエネルギーがhνnの整数倍でなくてはならないことを要求することである。その整数をNnとすると、(41.74)を用いて (νn/)Mn = hνnNn が成立しなくてはならない。これから直ちに
   Mn = hNn        (41.75’)
が得られるが、これは、この波動に属する質量がmhの整数倍でなくてはならないことを示す。こうして、自由空間中でのde Brogliw波の場合に46頁おいて論じたことと同様に、その物質がつぶつぶの物からなっていて、そのつぶ1個の質量がmhであることが導き出される。あるいは、(37.6)を用いて、そのつぶ1個の質量は、丁度mである。このとき、Planckの意味での量子数Nnは丁度粒子の個数という意味をもってくることも46頁の話と同様である。」

 もし1個の粒子だけが存在しているなら、全物質量と全エネルギーは次のようになり、これは粒子像から得られた(32.29')(第T巻)とまさに一致することになります。

   M = h = m
   E = (h/2π)√(κ/h)(n + 1/2) = (h/2π)√(κ/m)(n + 1/2)

 朝永は述べます。「こうして、この場合にも、粒子像において量子数として導入された整数nは、波動像では固有振動の番号であり、粒子像において自明であった粒子の個数Nn = 1 は、波動像では量子数として導入されるのである。」

 最後に、Hookeの場における波束の運動が議論され、波動Ψの周期変化の振動数が次のように求められますが、これはまさに古典的な振動子の運動の振動数と一致することになります。
      ν = (1/2π)√(κ/h) = (1/2π)√(κ/m)

 朝永は次のように締めくくっています。 「以上の事実から、われわれの波動場において、波束の時間的変化は、振動子の古典的な運動周期と同じ周期で行われる周期運動であることが結論される。このとき波束の時間的変化が周期的であるというのは、単に、その重心位置が周期的に動くのみでなく、波束の形も周期的に変化することを意味する。従って、波束がはじめあるかたまりの形をしていたなら、これが拡がってぼやけてしまうことはない。この点は、Hookeの法則に従う力の場の特徴的な点であって、一般の力の場には、力の作用しない場合(1)で取り扱った波束の例と同様に、時間のはじめにかたまった形をしていても、それは結局どんどんとぼやけていくものである。」


                                              2013年1月24日

                   => Top(目次)へ


§42 水素原子の問題  2013年02月01日

 粒子論では、水素原子は一つの質点がポテンシャルV(x, y, z) = - e2乗/r の下に運動している力学系と考えるので、波動論でもそれに対応して、βを次のようにとります。
   β(x, y, z) = -(e2乗/h)(1/r)        (42.1)
その固有振動に対する波動方程式は、次式のようになり、これを解くことになります。

   ΔΦ + (8π2乗) { ν + (e2乗/h)(1/r)} Φ = 0          (42.2)

 (1)波動方程式を解くこと

 問題が座標原点に対して球対象を持っているので、座標としては球座標(r, θ,φ)を用いるべきです。その結果、(42.2)の波動方程式は次のようになります(表現が困難ですが、重要な式なのであえて書きます)。

   {(1/r2乗)∂∂/r(r2乗∂/∂r) + (1/r2乗sinθ)∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)
    + (1/r2乗sin2θ)∂2/∂φ2+ 8π2乗{ ν
     + e2乗/h - 1/r }Φ = 0                         (42.3)

この方程式を解くには、解Φ(r, θ,φ)を次のように変数分離形式にします。
   Φ(r, θ,φ) = R(r)Θ(θ)Ω(φ)         (42.4)

 すると、途中計算は省略しますが、(42.3)の波動方程式は、次のように3つの方程式を解くことに帰着します。

   d2R/dr2 + (2/r)dR/dr + (A + 2B/r + C/r2乗 )R = 0         (42.5)-1
   (1/sinΘ)d/dθ(sinθdΘ/dθ - (C + 2m2乗/sin2θ)Θ = 0   (42.5)-2
   d2Ω/dφ2 + m2乗Ω = 0                            (42.5)-3
    ここで、A = 8π2乗ν 、B = (4π2乗e2乗)/h

 ここから、上の方程式3つを個別に解いて行きますが、もちろんここでは詳細に記述することは出来ませんので、結果を簡単に記します。
@ (42.5)-3の方程式から、次のような解Ω(φ)が得られます。

   Ω(φ) = exp(imφ)                          (42.6)
      m = 0, +-1, +-2, ・・・                        (42.7)

A (42.5)-2の方程式から、次のような解Θ(θ)が得られます(計算の過程でLegendreの方程式が出てきます)。

   Θ = (1 + x)(|m|/2)2乗                        (42.10)
      C = -l (l + 1)   l = 0, 1, 2, ・・・; l >= |m|

B 最後に、(42.5)-3の方程式を解きます。まず、A > 0 の場合は、次のような解が得られます。

   R+ = exp(+i √(A)r)    A > 0                  (42.16)
   R- = exp(-i √(A)r)

      この場合、振動数νはいかなる値もとりうる

 次に、A <0 の場合ですが、このときの解は次のようになります。

   R- = exp(- √(-A)r)    A < 0                          (42.17)
      B/√(-A) = nr + + 1    m = 0, +-1, +-2, ・・・          (42.18)
   ν = -(2π2乗e4乗/h2乗){ 1/(nr + + 1)2乗 }             (42.19)
      個の場合、振動数νは飛び飛びな値をとる

 この振動数が、水素原子の中でde Broglie波の固有振動すとなります。従って、この振動を量子化したとき現れるエネルギーは次のようになります。

   E = -(2π2乗me4乗/h2乗)(1/n2乗)                     (42.21)
      n = nr + + 1

これはBohrの理論の水素エネルギー準位と同じくなります。そして、Eはあらゆる正の値も許されるということです(A > 0 の場合)。

 この結果から、波動論においてもBohrの理論と同様に、水素原子のエネルギーは整数nだけに関係し、 やmに関係しないことがわかります。そして、nを与えたときは、 とmは次のような値となるということです。
    = 0, 1, 2, ・・・, n-1                (42.22)
   - =< m =<                     (42.23)

 量子数n,l, mがある与えられた値をもっているとき、解は通常次のような記号で書くのだそうです。

   Φ(r, θ, Φ) = APml (cosθ)exp(i mΦ)Fl n(r)              (42.24)

函数Pm(cosθ)はLegendre(ルジャンドル)の多項式と呼ばれ、またFln(r)lはLaguerre(ラゲール)の多項式L2l +1,n+l に関連していますが、これらの多項式は大変複雑な多項式で、私には理解することが出来ません。

 朝永はここで次のような考察をしています。 「こうして水素原子の定常状態は三つの量子数n、、mで決定されることがわかったし、また とBohrの理論に現れた量子数kとの関係が明らかになった。水素以外の原子に対しても問題を単純化して光る電子(最外殻電子)1個の力学系をもっておきかえるなら、やはり同様なことが可能である。即ち、一般の原子に対しては、第T巻198頁でのべた考え方にしたがって、Coulombポテンシャル e2乗/r を用いる代わりに、適当な中心ポテンシャルV(r)を用いて、われわれの波動方程式を解けばよい。」

 「ところで、一般に、力が中心力でさえあればなんであっても、われわれの解を(42.24)の形で解き得ることが容易にわかる。しかも、このとき、Θ(θ)とΩ(φ)に対しては、常に水素の場合と全く同じ形の方程式、即ち、(42.5)の第2、第3の方程式が得られる。なぜなら、この二つの式の中にポテンシャルは全く現れてないからである。それに反して、R(r)に対する方程式中にはポテンシャルV(r)があらわれ、一般には、(24.5)の第1式の代りに次の方程式を用いねばならないことが分かる。
   d2R/dr2 + (2/r)dR/dr + (A - 2BV(r)/e2乗 + C/r2乗 )R = 0   (42.5'') 」

 「この一般の中心力の場合にもΘ(θ)とΩ(φ)については常に(42.5)の第2、第3の式が現れることから、エネルギー準位を配列するのに、一般の場合もやはり量子数 とmが用いられることがわかる。このとき、エネルギーの準位の値が量子数mに関係しないことは直ちに結論されるが、その値は、量子数 と、(42.5)の解を順序づける整数nr との二つの変数の函数となり、この一般の場合には、(42.20)のように、それがnr + lだけの函数となるとは限らない。従って、水素のときとあわせるために(42.20')によってnを導入しても、エネルギー準位の値はnだけの函数とならずに、nとの二つの量子数の函数となる。これらのことは、§25で述べた通りである。そこでわれわれは前のスペクトルタームの命名法に従って、あらためて = 0 のタームをsターム、 = 1 のそれをpターム、 = 2 のそれをdタームという風に名付けることにする。」

省略。

 (2)波動の形

 (1)で得られたΦ(r, θ, φ)の振動がどんな形か議論されますが、説明が難しく、また私もなかなかイメージがつかめませんので、省略します。

 (3)密度分布

 (42.24)の解Φを用いて、水素原子の中での電子の密度分布ρ = Φ*Φ を得ることができます。 とmとが或る値を持つとき、角方向の密度分布は次のようになります。
   ρ角(θ、φ) = { Pm (cosθ)}2乗          (42.32)
この分布はφに無関係なので、z軸のまわりの分布は一様になります。この角度分布については、図を用いて説明がありますが、ここでは出来ません。続いて、r方向の密度分布が定性的に説明されますが、これも省略します。

 (4)自由空間の球面波

 朝永は次のように述べています。 「以上のような水素原子の問題の取り扱いの副産物として前節§41の(1)で残しておいた問題、即ち自由空間中のde Broglie波の球面波をすべて求めると言う問題に答えることが出来る。即ち、以上の取り扱いにおいてV(r)を0にすれば、問題は自由空間のものになり、しかも我々の解は(42.24)の形になっている結果、それによって表される波動はr = 一定なる球面を節とするような形をしており、従ってこれは球面波となっているからである。 省略 こうして今考えようとする゙自由空間の場合にはこの式((42.5)-1)の代りに、その中でB = 0 とおいたもの、即ち
   d2R/dr2 + (2/r)dR/dr + (A + C/r2乗 )R = 0        (42.33)
     C = - + 1)
を用いればよいことがわかる。」 この解はBessel(ベッセル) 函数を用いて表わすことができますが、複雑なので、ここでも省略します。

 ようやくのことで水素原子の問題まで終わりました。かなり長くなってしまいましたが、まだ序の口といったところです。次節からは数学のお話が中心になってきて、混迷を深めていくものと思われますが、がんばってみたいと思います。

                                              2013年2月01日


   => Next Page
   => Top(目次)へ
   => 「量子の森」Top Pageへ戻る
   => わんだふる山中湖(Close)