さ迷い歩き 「量子の森」 (5)-2 = 朝永振一郎 量子力学 = |
章 | 内 容 | 章 | 内 容 | |||
00 |
朝永振一郎と量子力学 Prev.P |
2013.01.16 |
第U巻 | |||
07 | Schrodinger波動方程式 NextP | 2013.03.11 | ||||
第T巻 | 08 |
Schrodinger函数の物理的意味 4th.P |
2013.03.20 |
|||
01 | エネルギー量子の発見 | 省略 | ||||
02 | 光の粒子性 | 省略 | 09 | 量子力学的状態 5th.P | 2013.04.29 | |
03 | 前期量子力学 | 省略 | 10 | 多粒子系と波動場 5th.P | 2013.05.15 | |
04 | 原子の殻状構造 | 省略 | ||||
05 | マトリックス力学の誕生 | 省略 | ||||
第U巻 | 第V巻 | |||||
06 | 物質の波動論 (1) Prev.P | 2013.01.16 | 11 | 角運動量とスピン 6th.P | 2013.06.12 | |
06 | 物質の波動論 (2) | 2013.02.06 | 第U部 摂動論、観測の理論 | 省略 | ||
第V部 ベクトル空間 | 省略 | |||||
§36 | 波動場と量子像 | §43 | 波動方程式の固有値及び固有函数 | |
§37 | de Broglie-Einstein の関係 | (1) | 固有値と固有関数 | |
§38 | Davison-Germer の実験 | (2) | 直交定理 | |
§39 | de Broglie 波に対する波動方程式 | (3) | 展開定理 | |
§40 | de Broglie 波に属する物質密度と エネルギー密度 |
(4) | 波動函数の形と質点運動との関係 | |
§44 | 連続した固有値の場合の直交、展開定理 | |||
§41 | 簡単な例 | §45 | トンネル効果 | |
(1) | 自由空間中のdeBrogli 波 | §46 | 物質波の散乱 | |
(2) | 箱の中に閉じ込められたdeBrogli 波 | (1) | 入射波と散乱波 | |
(3) | Hookeの法則に従う場の中でのdeBroglie波 | (2) | 散乱波に対する方程式を解くこと | |
§42 | 水素原子の問題 | (3) | 散乱波の遠方での形 | |
(1) | 波動方程式を解くこと | (4) | 散乱の断面積 | |
(2) | 振動の形 | (5) | Rutherford の公式 | |
(3) | 密度分布 | §47 | 波動量子化の必要 | |
(4) | 自由空間の球面波 | |||
§43 波動方程式の固有値及び固有関数 2013年02月06日
本節は数学的な議論で、私はすべてフォローすることができません。しかし、波動方程式は量子力学の基本でもあり、飛ばすわけにもいかないので、筋に沿って記述しますが、もちろん数式はできるだけはしょります。朝永は、冒頭に次のように述べています。 「弾性波や電磁波や或いはまたde
Broglie波の場合に、それらの固有振動を求める問題は共通して次のような数学的な形をとる。それは、未定の振動数νを含む微分方程式を或る境界条件を満足するように解くことである。このときその解に対して無限大などになってはいけないというような条件が更につくことは言うまでもない。もし空間が無限に遠方までひろがっていて境界などのない場合には、境界条件の代りに、波動函数が無限遠点で無限大などにならないという条件の用いられるのが普通である。この条件を更にはっきり言いあらすことはこの節の最後に行う。」
「物理学に現れる微分方程式が或る未定の常数を含んでいて(例えば我々の振動ウ数νのような)、その未定の常数が勝手な値をとっていると、こういう条件をみたすような解が存在しないが、その常数が、その方程式とその境界条件とに特有な、いくつかの値のどれかをとっていれば、そういう解の存在が可能である、という風な事情に物理学者はしばしば出会う。問題が今までの例のように波動に関するものであって、その常数が振動数である場合には、こういう特別な常数の値が即ち固有振動の振動数を与え、その解が固有振動の形を与える。この節では、この種の問題の数学的な議論を行う。
ファインマン量子力学ではこのような数学的な説明は少なかったのですが、固有値、固有関数、直交定理、展開定理などは、物理数学の基礎中の基礎ですから、えいやっとの思いで突き進もうと思います。
(1)固有値と固有函数
先ず最初は、固有値と固有関数のお話です。数学的にはだいたい追えるのですが、実際問題にそれを適用した経験がないので、なかなか物理的イメージがわきません。最初に簡単な1次元の波動系の場合が取り上げられます。すなわち、1次元の波動方程式の最も簡単な例として、前節で議論された次のような波動方程式を考えます。
d2y/dx2 + λy = 0 (43.1)
λは未定常数
一般解は次のようになります。
y = a sin(nx) + b cos(nx) (43.4)
n2乗 = λ (43.5)
ここで、前々節41の(2)”箱の中に閉じ込められたde Broglie波”における境界条件を適用すると、次のような解が得られます。
λ = n2乗 n = 1,2,3,・・・ (43.7)
yn = √(2/π) sin(nx) n = 1,2,3,・・・ (43.8)
次に、前節42の”水素原子の問題”における境界条件を適用すると、次のような解が得られます。
n = 0 のとき y0 = √(1/2π) (43.11')
n ≠ 0 のとき yn1 = √(1/π) sin(nx) (43.11)
yn2 = √(1/π) cos(nx)
n = 1,2,3,・・・
ここで、固有値と固有関数が次のように定義されます。
微分方程式が未定の常数λ含んでいて、その値が境界条件によって決定される とき、λの値を、その方程式の固有値といい その境界条件を満たす解を、その方 程式のその固有値に属する固有関数という |
次に、二つの固有関数の独立についての説明があります。 「固有関数は y =
a sin(nx) のように未定の因子を除いてただ一つに決定されることもあり、また
y = a sin(nx) + b cos(nx) のように二つの未定常数aとbとを含むこともある。このときには、固有関数のうちから独立な二つのものyn1とyn2とをえらび出しておけば、一般の固有関数はその二つのものの1次結合として表わすことができる。但し、二つの函数y1とy2が独立であるというのは、二つの常数a1とa2とを用いて
a1y1 + a2y2= 0 (43.12)
を恒等的に(即ちxに無関係に)成立さえるためには、 a1 = a2 = 0 でなくてはならぬ場合である。(43.12)を
y2 = -(a1/a2)y1 の形に書いてみればわかるように、この関係を平たく言えば、一方が単に他方に常数を掛けたものではないということである。」 私には具体的なイメージがさっぱりわかりません。
さらに固有値の縮退の定義が続きます。「これに対し、y = a sin(nx)
及び y = b の場合には一つの固有値にはただ一つの独立な固有関数しか属していない。もっと一般の場合、方程式が2階以上である場合(或いは後に論ずるように多次元の波動の場合)には、一つの固有値に更にたくさんの固有関数が属していることも起り得る。そのうち独立なものがk個あったとして、それを
y1,y2,・・・,yk とする。但し、k個の固有関数が独立であるというのは、上の(43.12)を一般化して、常数
a1,a2,・・・,ak を用いて
a1y1 + a2y2 + ・・・ + akyk = 0 (43.13)
を作ったとき、これが a1 = a2 = ・・・ = ak = 0 以外のaではxに無関係には成立しないことである。」
そして、固有値の多重度、縮退を次のように定義しています。
固有値の一つにただ一つの独立な固有関数が属している場合には、その固有 値は1重であるといい、k個の独立な固有関数が属している場合には、その固有 値がk重であるという。k > 1 の場合にはその固有値が縮退しているということも ある。 |
独立な固有関数の話が続きます。 「固有値がk重である場合、それに属するk個の独立な固有関数を、y1,y2,・・・,yk
とすると
y~1 = c11y1 + c12y2 + ・・・ + c1kyk (43.14)
y~2 = c21y1 + c22y2 + ・・・ + c2kyk
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
y~1 = ck1y1 + ck2y2 + ・・・ + ckkyk
なるy~1, y~2, ・・・ , y~k もまた固有函数である。このときこれらの常数を用いて作った行列式
|c11 c12 ・・・・・・・・ c1k|
= |c21 c22 ・・・・・・・・ c2k|
| ・・・・・・・・・・・・・・・・ |
| ・・・・・・・・・・・・・・・・ |
|ck1 ck2 ・・・・・・・・ ckk|
が0にならないときには、y~1, y~2, ・・・ , y~k もまた互いに独立である。」
ここから、y1,y2,・・・,yk と同等な権利で、y~1, y~2, ・・・ , y~k
を独立な函数として用いることが出来るようになるのだそうです。例えば前の(43.11)の固有関数の代わりに次のような固有関数を用いてもよいということです。
n ≠ 0 のとき y~n1 = (1/√2)(yn2 + i yn1) = √(1/2π)
exp(inx) (43.11'')
y~n2 = (1/√2)(yn2 - i yn1) = √(1/2π) exp(inx)
n = 1,2,3,・・・
いやはや、これは大変なことです。”独立”の意味は、なんとなくわかるのですが、正確に理解できていません。とほほ・・・・・ですね。これからは、更に難しくなっていきます。
(2)直交定理
固有値と固有関数の次は、直交関係と規格化の話です。まずは、深呼吸を!先ず最初に、今までの例の固有関数(43.8)や(43.11)や或いは(43.11'')は何れも次の重要な性質をもっているということです。
∫yn'*yn dx = 0 (n ≠= n' のとき) (43.15) 但し積分はxの全域にわたって、即ち(43.8)の場合には0からπまで、(43.11) 及び(43.11'')の場合には0から2πまでである |
朝永は次のように数学の教養のない者にとって難しい説明をしてくれます。 「この結果を言葉でいうと、二つの相異なる固有値λ
= n2乗とλ' = n'2乗とに属する固有関数は、その一方に他方の共役複素を掛けてxの全域にわたって積分すると0となる、といってよい。」 そして、固有関数の直交関係を以下のように定義します。
一般に二つの函数f とgとが、 ∫f*g dx = 0 (43.16) を満足するとき(但し積分はxの全変域にわたってとる)、fとgとは直交するとい う。それ故、上の関係を簡単に相異なる固有値に属する固有関数は直交すると言 ってもよい。直交というような幾何学的な言いあらし方をする理由は後に明らかに なる。 |
この直交関係に関連して重要な注釈が付きます。 「同一の固有値λnに二つの固有関数yn1とyn2とが属している場合には、yn1とyn2として勝手なものをとったのでは、この二つは直交しているとは限らない。しかし、yn1とyn2とが直交していなくとも、c11、c12、c21及びc22を適当な常数にとって
y~n1 = c11yn1 + c12yn2
y~n2 = c21yn1 + c22yn2
によって定めたy~n1とy~n2とが直交するようにすることは常に可能である。こういうy~を用いると、(43.1)の固有関数のどの二つをとっても互いに直交するようにすることが出来る。」
今までは簡単な?例で直交関係を説明してきましたが、これからは、これを次のようなde Broglie 波の波動方程式について行います。
単色のde Broglie波: ΔΦ + (8π2乗m){ ν - β(x,y,z) }Φ = 0 (43.17) *(39.3)では波動函数の記号としてΨを使っていましたが、ここでなぜ Φを使うのか意味が分かりません |
この方程式に於いて、Φに対する境界条件を与えたとき、一般にその条件を満足する解は、νがいくつかの特別な値のどれかをとっているときに限り存在することになります。このときのν(正確には8π2乗mν)をこの波動方程式の固有値といい、このとき、その境界条件を満足する解をその波動方程式の固有関数ということになります。
ここで、一般の場合の固有値や固有関数を議論するときには、自変数の変域が無限遠点を含む場合には特殊な複雑さが現れてくるということで、難しい議論が展開されています。ここでは、結論のみを拾い出しておきます。固有値には、条件によって飛び飛びの(即ち不連続的な)値を持つ固有値になる場合と、連続した値を持つ固有値になる場合とがあります。そして、「とびとびの固有値に属する固有関数は無限遠点で0に収斂するのに対し、連続した固有値に属する固有関数は無限遠点で0にならない。」ということが言えるのだそうです。
連続固有値に属する固有函数に関する議論は難しいので、方程式が飛び飛びの固有値だけを持つ単純な?場合に限って話が進められます。その理由を次のように述べています。 「連続した固有値は、変数の変域が無限遠を含むときだけ現れるものであるが、物理的には、電磁波にしてもde
Brogkie波にしても、実際は有限の大きさのところで何らかの壁にかぎられている場合が多い。従って物理的には、非常に狭い間隔を置いて配列しているにせよ、多くの場合、固有値はむしろ飛び飛びである。」 ということで、方程式(43.17)の固有函数に対しての直交定理を、証明なしで以下に記します。
直交定理: 方程式 Δφ + (8π2乗m){ ν - β(x,y,z) }φ = 0 に於いて二つの愛顧となる固有値νnとνn'トに属する固有函数を夫々φn、φn' としたとき(但しnは1,2,3,・・・等固有値の番号 ∫φn'*φn dv = 0 (n ≠= n' のとき) (43.18) である(もし固有値νnやνn'の一方、または両方にいくつかの独立な固有函数 が属しているなら、その各々の中からどれでもよいから一つずつとりだしてそれ を夫々φn、φn'とする)。 |
同一の固有値にいくつかの固有函数φn1,φn2,・・・,φnk が属する場合にも適当な常数c11,c12,・・・cnkをとって
φ~n1 = c11φn1 + c12φn2 + ・・・・ + c1kφnk
φ~n2 = c21φn1 + c22φn2 + ・・・・ + c2kφnk
,・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・,
φ~nk = cn1φn1 + cn2φn2 + ・・・・ + cnkφnk
によってφ~n1,φ~n2,・・・,φ~nk をつくり、このk個のφ~は互いに直交するようにすることができるとのことです。そうすれば、方程式(43.17)の固有函数はどの二つをとっても直交していることになるそうです。ふーっフーッ!!
続いて、規格化の話ですが、次のようにまとめられています。
規格化: どの二つをとっても互いに直交するように固有函数をとったとき、その 各々に勝手な常数を掛けてもその各々が固有函数であること、その各々が互いに 直交することに変化はない。そこでこの常数を適当にとって ∫φn*φn dv = 1 (43.18') になるようにすることは常に可能である。この(43.18')を満足しているとき、そのφは 1に規格化されているという。 |
一般には、規格化条件(43.18')と直交関係(43.18)をひとまとめにして次のように書きます。
∫φn'*φn dv = δn'n (43.18'') ただし、 δn'n = 1 n' ≠ n のとき (43.20) = 0 n' = n のとき |
(3)展開定理
さあ、どんどん難しくなっていきます。Fourier級数が出てきます。朝永は次のように述べています。 「固有函数の一群は直交性以外にいま一つ重要な性質を持っている。それは完全性ということである。」 すなわち、Fourierの定理によって勝手な函数が、1次元波動方程式(43.1)の固有函数の級数に展開することが出来るということです。ちょっと式が難しいのですが、以下のように展開されます。
@) 0 < x < πの間で定義された勝手な函数f(x) f(x) = 馬=1,∞ { cn√(2/π) sin nx } (43.21) cn = ∫0,π{ f(x)√(2/π) sin nx dx } (43.22) |
A) 0 < x < 2πの間で定義された勝手な函数f(x) f(x) = b0√(1/2π) + 馬=1,∞ { an√(1/π) sin nx + bn√(1/π) cos nx } (43.23) an = ∫0,2π{ f(x)√(1/π) sin nx dx } (43.24) bn = ∫0,2π{ f(x)√(1/π) cos nx dx } b0 = ∫0,2π{ f(x)√(1/2π) dx } |
(43.23)は、三角函数の代わりに指数函数を用いて、次のように書きあらわすことが出来ます。
B) 0 < x < 2πの間で定義された勝手な函数f(x) f(x) = 馬=-∞,+∞ { cn√(1/2π) exp (inx) } (43.23') cn = ∫0,2π{ f(x)√(1/2π) exp (-inx) dx } (43.24') |
以上の議論では、1次元波動方程式(43.1)について述べていますが、この級数展開は方程式(43.17)のような場合にも成立しているということです。すなわち、方程式(43.17)の固有函数がすべて求められたとし、かつ、同一の固有値に独立ないくつかの固有函数が属している場合には、それらを適当に組み合わせることにより互いに直交するようなものを作ります。そして、この全固有函数を
φ1,φ2,φ3,・・・・,φn,・・・・ (43.25)
のように並べます。この一列のφのどの二つをとっても互いに直交しているが、更にこの各々はすべて1に規格化してあるものとします。ということは、このφに対して(43.18'')
(∫φn'*φn dv = δn'n) が成立します。このようなとき、次のような展開定理が成立するのだそうです。
展開定理 : x,y,z の勝手な函数 f (但し、勝手なといってもある種の条件は必要である)を与 えたとき、この f はこのφ1,φ2,φ3,・・・を用いて f = 馬=1,∞ cnφn (43.26) の形に展開することが可能である。 そして、一般にφ1,φ2,φ3,・・・なる規格化された直交函数の系列があって、それ がこの性質を持っているとき、その系列を完全であるという。 また、展開係数は次式で求められる。 cn = ∫φn* f dv (43.27) |
(43.27)を用いて決定されたcnを(43.26)の右辺に用いると、次の完全関係(Parcevalの関係というのだそうです)が導かれる。
完全関係 : f(x)= 馬φn(x) {∫φn*(x') f(x')dx' } (43.28) |
以上の完全関係が成立しているため、時間微分を含むde Broigle波の波動方程式(39.8)の単色でない一般の解が、常に固有振動の重ね合わせで表わされることが証明されるそうです。結果を以下に書きます。
Ψ(x,y,z,t) = 狽ハφn(x,y,z)exp(-2πiνnt) (43.29)
cn = ∫Ψ0φn* dv (43.30)
朝永がここで以下のように締めくくっています。 「このようにして任意の波動を求める問題は(但しβが時間を含まないとして)結局固有振動を求める問題に帰着させ得ることが明らかになった。」 どうして明らかになったのかさっぱり分かりません。物理的なイメージはぼんやりとわかったような気もするのですが、このような数学式と物理との関係はちっともクリアになっていません。あきらめるしかないようですね。
(4)波動函数の形と質点運動との関係
数学にあきあきしてきたところで、ようやく少し物理的な話に移ります。すなわち、波動函数の形と粒子像における運動との関係が定性的に考察されます。物理的な話になったから分かりやすいかといえば、そんなことはありません。ここでの考察を要点をまとめて記述することはできません。ただし、波動像と粒子像では、方程式を若干変更して議論が進められますので、そこだけ記述します。
波動論では、次のdeBroglie 波(単色波)の波動方程式で出発します。
d2Φ/dx2 + (8π2乗m){ ν - β(x) }Φ = 0
一方、粒子像では、粒子の運動を記述するのですから、mやν、βの代りに、始めから粒子的な量mやEやVを用いて方程式を書き直す必要があるということです。
d2Φ/dx2 + (8π2乗m/h2乗){ E - V(x) }Φ = 0 (43.32)
なおここでは、E = hν、m = hm、V = hβ なる関係を使っています。
最後には、波動特有のトンネル効果の定性的な説明もありますが、別の節§45で詳細に取り上げられています。
2013年2月6日
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§44 連続した固有値の場合の直交、展開定理
2013年02月07日
前節で、飛び飛びの固有値の場合について議論がありましたが、本節では連続した固有値の場合の固有函数について議論されます。しかし、飛び飛びの固有値の場合でもなかなか議論についていけないので、ましてや連続した固有値の場合はもっともっとわからないといったことになってしまいます。ということで、ポイントとなる式を記述するレベルで留めておくことにします。
(1)一般的注意
連続した固有値の場合の固有函数についても、直交定理と展開定理とは成立します。但しこのときそれらの定理は飛び飛びの固有値の場合と少し異なるので、注意が必要とのことです。
第1の注意点は、連続した固有値の場合には、固有値も固有函数も連続した系列を作っているので、それに添字nをつけて、n
= 1,2,3,・・・というふうに並べるわけにはいきません。そこで、固有函数がどの固有値に属するものであるかを示す添字として固有値の値自身を用いるのが便利だということです。その場合、固有値をν、固有函数をφνといった表現をすることになります。
第2の注意点は、飛び飛びの場合と本質的に違う点です。すなわち、連続した固有値の場合には、φνは一般に無限遠点で0にならず、その結果として
∫|φν|2乗dx は一般に無限大になり、∫φν*φνdx は不定となって、何れにせよどちらも収斂しない積分となってしまうのだそうです。従って、飛び飛びの値の場合の直交定理(43.18)や規格化条件(43.18')をそのまま持ち込むわけにはいかないということです。
(2)直交定理
直交定理は次のようになります。
連続した固有値の場合の直交定理 : 固有値νが区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の中にないときには、区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の大きさやあり場所に無関係に ∫φν*〔φ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)dx = 0 (44.3) これを書き換えて、次のように表現することも出来る ∫φν*φν'dx = 0 (44.3') |
連続した固有値の場合の直交定理 : 固有値νが区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の中にあるときには ∫φν*〔φ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)dx = 区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)に無関係な正数 (44.3'') |
規格化条件は次のようになります。
連続した固有値の場合の規格化条件 : 固有値νが区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の中にあるときには ∫φν*〔φ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)dx = 1 (44.3) この規格化条件を満たすようなφνを規格化された固有函数とよぶ |
直交定理は次のように一般化した形で書けるそうです。いまC(ν)を任意の(無限大にはならない)函数として、次のように定義します。
〔Cφ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2) = ∫C(ν)φνdν (44.1')
連続した固有値の場合の直交定理(一般化) : 固有値νが区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の中にないときには、 ∫φν*〔Cφ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)dx = 0 (44.3''') |
連続した固有値の場合の直交定理(一般化) : 固有値νが区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の中にあるときには ∫φν*〔Cφ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)dx = C(ν)∫φν*〔φ〕区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)dx = 区間(ν'- ε/2, ν'+ ε/2)の無関係な正数 x C(ν) (44.3'''') |
(3)展開定理
連続した固有値の場合の展開定理は次のようになります。
連続した固有値の場合の展開定理 : xの勝手な函数 f(x)を与えたとき、f を固有函数φν(x)を用いて、次のように あらわすことが出来る f = ∫c(ν)φdν (44.7) また、展開係数は次式で求められる。 c(ν) = ∫φν* f dx (44.8) |
また、連続した固有値の場合の完全関係(Parcevalの関係)は次のように表わされます。
完全関係 : f = ∫φν' {φν* f dx }dν (44.9) |
次に波束について議論がありますが、省略します。
(4)δ函数の導入
δ函数は量子力学では非常に重要な概念です。δ函数を導入する利点は、それを導入することによって、多くの関係式において
limと∫との順序を入れかえたり、或いは通常の意味では許されない二つの積分の順序を自由に入れかえてよくなるといったことだそうです。δ函数の定義は次のようになります。
δ函数 : ∫(ν1,ν2)δ(ν)dν = 1 ・・・ 区間(ν1,ν2)が0を含むとき (44.19) 0 ・・・ 区間(ν1,ν2)が0を含まないとき |
更に、一般にf(ν)を任意の函数としたとき、次の式が成り立ちます。
∫(ν1,ν2) f(ν)δ(ν)dν = f(0) ・・・ 区間(ν1,ν2)が0を含むとき (44.20) 0 ・・・ 区間(ν1,ν2)が0を含まないとき |
その他に、δ函数のいろいろな使い方などの説明がありますが、省略します。
(5)固有函数に対する条件
次のようなことが述べられています。 「固有函数とは(自変数の変域が無限遠にひろがっているとき)、無限遠において0になるか、そうでなければ、無限遠において0になるような波束を作り得るような解のことである、ということを要求する。」 わかったような、わからないような、哲学のような話に聞こえてしまいます。ここでさっさと終わりにします。
2013年2月7日
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§45 トンネル効果 2013年02月7日
ここでは、具体的な物理現象であるトンネル効果を波動方程式を用いて定量的に取り扱います。簡単のために、問題を1次元に限り、かつポテンシャルの土堤として、高さU、厚さbの矩形のものを考えます。式で書くと次のようになります。
V(x) = 0 ・・・ x < 0 (区間T) (45.1)
V(x) = U ・・・ 0 < x < b (区間U)
V(x) = 0 ・・・ b < x (区間V)
問題は、ポテンシャルの或る土堤において、deBroglie波がTの区間のx軸の負の方向から入射して来たとき、その波のどれだけの部分が土堤によってTの区間で反射され、またどれだけの部分がVの区間に透過してもれていくかを計算することです。解くべき方程式は次のようなものです。
d2Φ/dx2 + (8π2乗m/h2乗)(E - V(x))Φ = 0 (45.2)
この方程式は、区間TとVおよび区間Uにおいては、それぞれ次のようになります。
区間T、V d2Φ/dx2 + (8π2乗m/h2乗)EΦ = 0 (45.3)
区間U d2Φ/dx2 + (8π2乗m/h2乗)(E - U)Φ = 0 (45.4)
ここで、次のようにkとk'を定義します。
(8π2乗m/h2乗)E = k2乗 (45.5)
(8π2乗m/h2乗)(E - U) = k'2乗
よって、上の方程式は、次のように書き表すことが出来ます。
区間T、V d2Φ/dx2 + k2乗Φ = 0 (45.3')
区間U d2Φ/dx2 + k'2乗Φ = 0 (45.4')
まず区間Tの一般解は直ちに次のようになります(入射波の振幅は1、反射波の振幅はBとする)。
ΦT = exp(ikx) + Bexp(-ikx) (45.6)
次に区間Uにおける解は次のように表わすことができます(入射波の振幅をB'、反射波の振幅をC'とする)。
ΦU = B'xp(ik'x) + C'exp(-ik'x) (45.7)
最後に区間Vの一般解は次のようになります(入射波の振幅をC、反射波の振幅をD(但し0)とする)
ΦV = Cxp(ikx) + Dexp(-ikx)
= Cxp(ikx) (45.8)
ここで4つの未知数B、B'、C'、Cがありますが、適当な境界条件を適用することによって(省略します)、求めることが出来ます(式が長くなるのでこれも省略約します)。そして求められた振幅から、反射率Rと透過率D(振幅のDではない)が計算で求められます。
R = |B|2乗 (45.13)
D = |C|2乗
R + D = 1 (45.13')
朝永は粒子論から得られる結論と比べて、その著しい差異について次のように述べています。 「粒子論に於いては、入射粒子のエネルギーEがポテンシャル土堤の高さUより小さいなら、そういう粒子は決して土堤を越えることが出来ないから、必ず反射されてしまって土堤の向こう側に現れることは決してない。即ちこのとき反射率は1であり、透過率は0である。また逆にEがUより大きいなら、粒子は必ず土堤を越えて土堤の他の側に進んで行く。従ってこのとき反射率は0で透過率は1である。」
「ところが、波動論においては事情が異なる。入射エネルギーがEであってE
> Uの場合は、(45.5)によってk2乗 > 0 の場合に相当する。ところがこのとき反射率を計算してみても、決してそれは0にならない。また、第二の場合、即ちE
< Uの場合は、k'2乗 < 0 (k'はこのとき虚数である)の場合に相当するが、このとき透過率はやはり決して0でない。 省略 土堤の暑さが十分厚くてその中で波が減衰しつくしてしまう程度になると、透過率が小さくなってしまうのだと解釈することが出来る。これに対して、土堤の厚さがうすいときには、土堤中で波が十分減衰しつくされないうちに区間Vになるので、波は相当に強く区間Vに漏れて行くのである。」
この節は何とか理解できました。うれしいですね。
2013年2月7日
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§46 物質波の散乱 2013年02月08日
本節では、ポテンシャルの存在によって、物質波がどのように散乱されるかを議論します。具体的にはRutherfordが扱ったα粒子の原子核による散乱の問題を波動論で取り扱います。
(1)入射波と散乱波
問題は、空間にV(x,y,z)なるポテンシャルがあって、ここにEなるエネルギーに相当した物質波が平面波として入射しているものとします。朝永は次のように述べています。
「そうすると、ポテンシャルの存在している結果として、物質波の方程式を解くと、その平面波は、それだけで解として存在し得なくて、散乱された球面波が混じってこなくてはならない。それが即ち物質波の散乱を意味する。」
ここでは、次のような仮定を置きます。すなわち、ポテンシャルV(x,y,z)は球対称とし、空間の無限のところではV(x,y,z)は十分に強く0になるものとします。また、ポテンシャルVが極めて小さいとして、近似的な方法をとります。解くべき波動方程式は次のようになります。
波動方程式 : ΔΦ + (8π2乗m/h2乗){ E - V(r ) }Φ = 0 (46.1) |
近似的な解き方を詳細に説明することは紙面上できませんので、ポイントだけを記していきます。まず、V(r)
= 0 のときの解を求めます。それは、次のようになります。
Φ = exp( i(kr)) (46.3)
k = |k| = √(8π2乗mE/h2乗) (46.4)
次に、ポテンシャルV(r)があるときを考えます。このときは、(46.3)は方程式(46.1)を満たしません。ここで、Vが小さいとすると、解は(46.3)をほんの少し補正したものが解となると考えるのだそうです。すなわち、次のような解を考えるということです。
Φ = exp{ i(kr)} + Φ1 (Φ1は補正項)
この補正項Φ1は次の方程式の解になることが導かれます。
ΔΦ1 + k2乗Φ1 = (8π2乗m/h2乗) V(r ) exp(ikz) (46.6)
入射波はz軸の負方向から入ってくると考えます。
(2)散乱波に対する方程式を解くこと
方程式(46.6)を解くために、方程式を次のように書き換えます。
ΔΦ1 + k2乗Φ1 = -4πρ (46.6')
ρ(r ) = -(2πm/h2乗) V(r ) exp(ikz)
すると、次のような解が得られるそうです。ただし、解は中心から外向きに出て行く球面波とします。
Φ1(r ) = ∫〔exp(ik |r - r'|/ |r - r'|)〕ρ(r')dv' (46.7) |
朝永はこの解について、次のようにコメントしています。 「理論と実際の実験とくらべるには、Φ1(r)なる散乱波は原点から非常に遠いところでの形さえわかっていればよい。なぜなら、問題のV(r)は、原子の程度の大きさの範囲にのみ存在し、実際、散乱された物質を観測するのは、それからはるかに遠方だからである。」 こういう物理的な近似の考え方は、物理的知識の豊富な物理学者でないと、なかなか浮かんではきませんよね。次に近似計算が述べられますが、途中経過は省略します。
(3)散乱波の遠方での形
省略しますが、計算の結果、次のような散乱波の波動函数が得られます。
散乱波の波動函数: Φ1(r ) = -(8πm/h2乗){exp(i(kr)/r)} x∫{ sin(kr' |ε-εz|)/kr' |ε-εz| } V(r')r'2乗dr' (46.9) ε:単位ヴェクトル |
難しい数式なので、物理的なイメージが湧いてきません。ただし、この解は、exp(i(kr)/r)なる形でr に関係しているので、このΦ1(r)は外向きの球面波になっていることを示しているといえるそうです。
(4)散乱の断面積
最初に、散乱球面波についての物質の流れの密度s(動径方向成分)を求め、それから立体角dΩ内に流出する単位時間当たりの散乱物質量を計算します。deBroglie波の物質密度、物質量については、§40ですでに学んでいます(正確には理解できていませんが)。ここから、散乱断面積を計算しますが、散乱断面積の定義が次のように述べられています。 「散乱断面積とは単位時間に単位面積を1個の割合で粒子が入射したとき、単位時間に、立体角dΩの中に散乱されて出てくる粒子の個数をいう」。 そして、実際に次のような散乱断面積の式が得られます。ちょっと複雑怪奇な式なので、理解不能ですね。
散乱断面積: dQ = -(8πm/h2乗)2乗 x 〔∫ sin { kr' |ε-εz|)/kr' |ε-εz| } ・V(r') r'2乗 dr'〕2乗dΩ (46.14) |
(5)Rutherfordの公式
朝永は次のように述べています。「以上で、一般の中心力ポテンシャルの場合の散乱断面積を得る公式が得られた。そこで、V(r)がCoulombポテンシャルである場合にわれわれの理論を適用して、Rutherfordの公式が得られるかどうかをしらべることは興味の或ることである。さて、Coulombの場での散乱の場合にはV(r)
= Ze 2乗/r ととるべきである。しかし、このポテンシャルは、無限に遠方で0になることはなるが、そのなり方が十分強くなくて、われわれの上の一般論を適用することが出来ない(それは
(46.9)の右辺のr' についての積分が収斂しないからである)。」
「しかし、実際、Rutherfordの実験に於いてのポテンシャルは、実は純粋のCoulombポテンシャルではない。なぜなら、Rutherfordの実験は、原子による荷電粒子の散乱であって、原子のポテンシャルは、中心近くはCoulombの形をしているが、中心から遠方に行くにつれて、そのポテンシャルはCoulombの場よりはるかに強く0になっていく。なぜなら、原子の作る場は、その核によるものだけでなく、核のまわりにある電子によってその電場が中和されていくからである。」
ということで、原子の作る場を次のように相当な近似式を用いることになります。
V(r) = Z { e2乗exp(-r/α) /r }
ここで、αは大体原子の半径程度の長さとしています。すると、途中の計算は省略しますが(よくわからないこともあります)、散乱断面積は次のようになるのだそうです。
散乱断面積 dQ = (πZ2乗e4乗/m2乗v4乗){ cot(θ/2)/sin2(θ/2) } dθ (46.16') |
うわー、これまた超難しい式ですね。でもこの式は、Rutherfordの散乱を粒子モデルで求めた公式と一致するとのことです。朝永は次のように締めくくっています。 「以上の理論によって、物質の波動論を用いても、古い理論と全く同じ形の散乱公式が得られたことになる。しかし、こういう都合のよい事態は、散乱ポテンシャルがCoulombの場であるときの特別な事情によるのであって、一般のポテンシャルの場合には、古い理論と波動論の間にはもちろん差異が生じる。」
「古い理論、従って原子内では当然成立しない筈の理論を用いても、正しい公式がこの場合に得られたことはまさに天のめぐみであった。なぜなら、そうでなかったら、荷電粒子の散乱を用いて原子内の電場を知ろうというRutherfordの企ても正しい答えを得ることができなくて、その結果、原子構造に関するRutherfordの模型なるものはずっと後まで人に知られなかったであろうから。」
いやー、そうだったのか。それにしても、いつも量子力学の”近似”モデルの方法には感心させられます。そりゃーそうですよね。こんな複雑な物理世界において、そう簡単に方程式を解いて解を得ることなどできないのが当たり前です。
2013年2月8日
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§47 波動量子化の必要 2013年02月09日
物質の波動論、deBrogli波の最後の節になりました。ここでは、波動の量子化において留意しなければならないことを整理してくれています。量子力学の基本的かつ重要な事が述べられており、正しく理解するのは困難ですが、少し長くなるかもしれないことを了解していただいて、朝永が強調している部分を引用していきたいと思います。
「最後にもう一度強調しておくことは、この波動論によって量子条件∫(cycle)
p・dq = nh がひとりでに現れてくるかと言って、直ちに量子論が全面的に波動論でおきかえ得ることにはならないという点である。なぜなら、この波動論だけでは、上の意味の量子条件が現れる代わりに、その波動に属する物質量Mが何故最小単位mの整数倍にならぬかが全く説明されぬからである。実際そのままの形ではこの理論でも、例えば(41.51)によって計算されるエネルギーの値は、波動の振幅Aが任意の値を取り得るかぎりどんな値でも取り得るのであって、Bohrが要求しているような飛び飛びのエネルギー準位はどこにも現れない。これは、昔の光の波動論が光子の存在を全く説明し得なかったのと全く同じ事情であり、光の場合にPlanckやEinsteinの考えを導入せざるを得なかったのと全く同様に、物質の粒子性も
deBroglie 波についてPlanck常数hの存在による不連続性を考慮に入れなければ説明されないのである。」
「我々は前に電磁場に対して標準座標を導入すればこれを無数の、互いに独立なPlanck振動子の集まりとみなし得ることを述べた。こうしてこの振動子の各々に対して量子条件∫(cycle)
ps・dqs = nsh を適用すればPlanckの要求するようなエネルギーの不連続性が現れる。更に我々は、マトリックス力学に於いてはこの量子条件が
psqs - qsps = h/2πi なる交換関係に翻訳されることを知った。こうして我々は、原子系のみならず、光の場を記述する座標qsや運動量psもマトリックスであると考えることによって、物質粒子に対してのみならず、光の場に対しても一貫した量子的な法則を作り上げることが出来よう。但し、このとき次の点に考慮が必要である。」
長くなりますが、重要な点ですので、続けます。「マトリックス力学はもともと原子が遷移を行うとき射出される光に関しての対応原理的な考察に導かれて作られたものである。一方光の場を振動子の集まりと考えたとき、この振動子の遷移に於いては光の射出などは考えられない。それ故、この光の場に属する振動子の遷移成分がどんな物理的意味のものであるかは未だ明らかでない。しかし、とにかく、原子内部で物質粒子の運動というものを考えることが無意味であって、それの統計的性質を記述する遷移成分が理論の中心にくるべきであることを考えた以上、光の場に属する振動子に対しても、そのpsやqsを通常の意味で時間の函数と考えて、場の「運動」を問題にする古い考え方は無意味であろう。こういうものに意味を考える昔のMaxwellの理論がどんなに光の粒子性と相いれないものであるかはすでに§10に於いて述べたことである。」
「この事情はde Broglie波にもあてはまる。実際このde Broglie波に対しても電磁波に対して行ったように、標準座標を導入して、それを無数の振動子の集まりと考えることが可能である。」 ということで、ここからこの問題を扱うための糸口として、難しい議論が展開されます。本当は省いてしまいたいのですが、ここも超重要な点なので、とりあえず議論をなぞってみます。
まず、de Broglie波の波動函数Ψ(x,y,z,t)が満足する波動方程式は次のとおりです。
ΔΨ - (8π2乗mβ)Ψ + (4πim)∂Ψ/∂t = 0 (47.1) |
また、de Broglieの単色波φに対する方程式
Δφ + (8π2乗m {ν - β}φ = 0 (47.2)
の固有値と固有函数とを夫々次のようにします。
ν1,ν2,ν3,・・・・,νn・・・・ (47.3)
φ1(xyz),φ2(xyz),φ3(xyz),・・・・,φ1(xyz),・・・・
各固有函数は1に規格化されており、かつ互いに直交しているものとします。そうすると、解Ψ((x,y,z,t)は、この固有函数で次のように展開できるということです。
Ψ(x,y,z,t) = 狽=1、∞ An(t)φn(xyz) (47.4)
この波動函数を波動方程式(47.1)に代入して、ある処理をすると、An(t)が満たすべき方程式が得られるそうです(私にはさっぱりわかりません)。
dAn/dt = -2πiνnAn (47.5)
Ψ(x,y,z,t)は複素数であるから、このAnもまた複素数になります。ここで二つの実数Qn、Pnを導入して、次のように定義します。
ReAn = (1/2)(An + An*) = √π・Qn (47.6)
ImAn = (1/2i)(An - An*) = √π・Pn
このQnとPnとは、de Broglie波を記述する量と考えられるそうです。Anが(47.5)を満足するということから、直ちにQnとPnとは次式を満足しなければならないということです。
dQn/dt = 2πνnPn (47.7)
dPn/dt = 2πνnQn
途中の議論は省略しますが、de Broglie波のエネルギーをこの変数Pn、Qnで表わすと次のようになります。
En = (1/2)狽 {2πνn(Pn2乗 + Qn2乗) (47.9)
これから系のHamilton函数とPとQが満足すべきHamiltonの方程式が求められるということです(解析力学の能力がないので、私にはああそうですかというしかありませんが)。
Hamilton函数: H = (1/2)狽 {2πνn(Pn2乗 + Qn2乗)} (47.9') Hamiltonの方程式: dQn/dt = -∂H/∂Pn (47.10) dPn/dt = -∂H/∂Qn |
こうして、(47.6)によって定義されたQnとPnとはde Broglie波に対する標準座標とそれに共役な運動量であるとみなすことができます。この結果、波に属する物質量は次のように表わされるそうです。
M = (1/2)狽 {2πm(Pn2乗 + Qn2乗)} (47.11)
朝永は、次のように話しています。「ここで、量子条件
∫circle PndQn = Nnh、 Nn = 0,1,2,・・・ (47.12)
を用いてこの振動子を量子化すると、Planckの振動子のとき学んだように、(47.9')の各項は夫々hνnNnとなり、従って
de Brogli波の全エネルギーと全物質質量 E = 馬 hνnNn (47.13) M = 馬 hmNn = m馬 Nn |
を得る。ところでこの関係は正にde Broglie波が粒子の性質を持つことを物語っている。なぜなら、(47.13)の第2式から、全物質質量は、mなる単位の整数倍だということが結論されるからである。このことから、正数Nは粒子の個数であり、mとは1個の粒子の質量であるということが出来る。もっと精密には、(47.13)第1式を参照して、Nnとは、Enなるエネルギーをもっているような粒子の個数である、ということが出来る。」ちょっと記述が長くなってしまいましたが、議論を途中ではしょってしまうと最後の結論が何のことか分からなくなってしまうため、とりあえず議論の流れを記述してみました。だからといって分かりやすくなったわけではなく、量子力学の理解の困難さが更に浮き彫りになってきただけのようです。
といって、ここで本節をやめるわけにはいきません。まだまだ重要な量子力学の考え方が述べられています。 朝永は続けて以下のように述べています。「ここで量子条件(47.12)は前期量子論という不完全な理論におけるものを用いたが、これをマトリックス力学によっておきかえ、QnやPnを通常の数であると考えずにマトリックスであると考え、交換関係を
PnQn - QnPn = h/2πi (47.12')
を(47.12)の代わりに用いれば更に首尾一貫した理論が得られることになるであろう。」
「こうして、波動的な表象の上に立って理論を組み立てることにしても、結局はその波動を量子化して、それを記述する座標や運動量をマトリックスと考えねばならぬことになる。こうして、量子力学を組み立てる二つの道が存在することになった。即ち一方は粒子的な表象の上に立って、その粒子を記述する座標や運動量をマトリックスと考える道であり、他の一方は波動的な表象の上に立ってその波動場を記述する座標や運動量をマトリックスと考える道である。それでは一体この何れの道が正しいのだろうか。後にだんだん示すように、この二つは、道こそ異なれ、あらゆる点で同一の結果を与えるものである。この二つの理論は単に数学手形式だけが異なっているのであって、その内容は同一なのである。」
更に続きます。「最後に次のことを注意しておく。上のようにして、波動を量子化するということは、結局波動を振動子の集まりと考えることによって行われる。従って波動論的に問題を取り扱えば、問題の一番面倒なところは波動に対する標準座標を求めること、したがって波動場の固有振動を求めるというところにあって、その量子化はただ簡単なPlanckの振動子について行うだけで十分であるように見える。従って一番むつかしいところは波動方程式の固有振動を求めるという古典的な段階のところにあって、量子化はただ計算の最後でPlanckの関係E
= hνNをつけ加えるだけでよいように見える。従って、問題を波動的に取り扱う方が、それを粒子的に取り扱うよりはるかに簡単であるように見える。実際、この章で我々が示した例はみなそんなものであった。」
「しかし、それは次のような単純化を我々が行っているからである。即ち、我々が今まで作り上げた波動論では、粒子論に於いて粒子相互の作用に相当するものを全く考えに入れていない。従ってこの章での計算は量子数Nnのうちのどれか一つが1で、他のすべて0であるような状態(即ち、言いかえて、粒子が1個だけ存在する状態)に於いてのみ正しい。実際に、例えば水素原子の問題に於いて得られた結果をそのまま用いて、単に量子数Nを2とおくことによって(このとき中心力の強さも倍にしておいて)ヘリウムの問題が解けたことにはならない。粒子相互の作用を入れた波動論においては、量子化を単に
E = hνNという形で計算の最後に入れるというような簡単なことではだめである。こうして波動像の上に立つ理論が粒子像の上に立つ理論より数学的に簡単であるなどとは言えないことになる。」
ということで、この後物質間に相互作用のあるときの波動について具体的な計算が示され、波動方程式が非常に難しくなるということが述べられますが、もうとても長くなったので省略します。これで、第6章の「物質の波動論」は終了です。当初の想定どおり、de
Broglie波のイメージは何とかつかめましたが、数学的展開については、数学や解析力学の能力不足によって、理解不能の部分がたくさん出てきてしまいました。これはもうしょうがないですね、あきらめるしかないです。次回からは、いよいよSchrodinger方程式です。ご期待を???
2013年2月11日
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