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NHKスペシャル 世紀を越えて
いのち  生老病死の未来
(第1集, 第2集 / 6回シリーズ)


NHK スペシャル「世紀を越えて」シリーズは取材がしっかりしているので 毎回欠かさず観ている。テーマ曲「アディエマス」もすごくいい。
今回は、NHK が力を入れている遺伝子テクノロジーに関する話題が 取り上げられた。 数年前には考えられなかったような医療処置や技術が紹介された。

第1集 人体改造時代の衝撃
2000/04/23 21:00-21:50 放映
◆ 豚の肝臓で延命
1997 年アメリカでの男性の例。激症肝炎で瀕死の状態に陥り 肝臓移植が必要なのだが、移植用臓器が無い。
そこで思い切って臨床実験前の「ヒト遺伝子を組み込んだ豚の肝臓」 を体外で接続し、血液の浄化を図った。 6時間半の間、豚肝臓は機能し患者は生きながらえた、 その間に移植用臓器が見つかり届けられた。彼は現在も元気にしている。
(遺伝子操作による医療はここまでできるのだ。 こんなことをしてでも生き延びたい。)

◆ ひとつの命を救うためにもうひとつの命を利用する
10 年前のアメリカでの女性の例。 娘が骨髄性白血病にかかり、骨髄移植を待っているが、ドナー適合者の 確率が低く見つからない。そこで 42 歳の母親は、 「もうひとり子供を産み、その子の骨髄の一部を移植する」 ことに賭けた。生まれた子供の適合確率は 25% だったがそれは一致し、 両方の娘は元気に育っている。
(誰かの命を助けるために、命が作られ利用されてもいいのか?)

◆ 自分のクローン作製を希望する女性 (1)
アメリカの 27 歳女性。何度か家族からの腎臓移植手術を受けたが 拒絶反応が強く、免疫抑制剤など大量の薬を服用する。副作用も辛い。
そこで、自分のクローンを作り、その子の腎臓を片方分けてもらえば、 拒絶反応も無く健康になれる。早くクローンを作って欲しい。

◆ 自分のクローン作製を希望する女性 (2)
アメリカの 51 歳独身女性。子宮筋腫で子宮と卵巣を切除。 しかし、クローン技術があれば自分のクローンを作って子供を残せると気付いた。 自分の家系の遺伝子を残すことには大きな意味があると考える。

◆ ヒト ES 細胞研究
どんな生体組織にも分化可能な「ヒト ES 細胞」が発見され、 これを元にした臓器作製研究が進んでいる。これを応用すれば 移植臓器の不足問題は解決され、ビッグビジネスになる可能性がある。 しかし、ヒト ES 細胞は受精卵からのみ抽出可能で、受精卵の供給が 問題となる。不妊治療で余った受精卵などが研究に用いられているが、 命が商品化されることにつながるのではないか? 倫理的には重い問題を含む。

◆ クローン作製技術の進歩
インターネットホームページなどで、 クローン人間作製を請け負う会社が登場した。 クローン羊ドリーの作製に用いられた技術を応用すれば、 ヒトのクローンも比較的容易に作ることができそう。 倫理面が問題だが、法律でクローン作製を規制していない国はいくつかあるので、 そこで出産すればいいだろう。

<NHK 結びの言葉>
人体改造の時代に踏み込んだ20世紀、
わたしたちは、その欲望にどこで線をひくべきなのか
その答えを見い出す間もなく、
命を操作するテクノロジーは
とめどない進化を続けています

第2集 遺伝子診断
2000/04/30 21:00-21:50 放映
◆ ガンの遺伝子診断
乳ガン、子宮ガンの遺伝子診断を受け、発症確率が高かったので 発症前に乳房と子宮の摘出手術を行った女性。 子供たちにも遺伝子診断をすすめるべきかどうか悩んでいる。

◆ アルツハイマー病の遺伝子診断
若年性アルツハイマー病の遺伝子診断を受け、発症確率が高いと 診断が出たので悩む男性。子供は作らない、と決めた。 母親も祖父もアルツハイマー病を発症して死んだ。自分がその遺伝子を 持っているかどうかという不安から受診したが、かえって辛い運命を 背負い込んでしまった。 うつ症もあり、カウンセリングを受けている。

◆ 受精卵診断・遺伝病
第1子が障害を持って産まれたので、第2子は受精卵診断による選別を行い、 障害を持たない受精卵を子宮に戻して出産した。健康な子が産まれて嬉しい。 (命を選別して良いのか?)

◆ 受精卵診断・糖尿病
産まれたばかりの子の遺伝子診断を行い、将来糖尿病になる確率が高いと わかった。それ以来、その子の将来に備え、家族の食生活を変えた。


ここから MINEW のコメント:

こうなるんだろうなぁ、こうなったら嫌だなぁ、と思っていた事例が どんどん現実のものになってきてしまっている、というのが実感。
いつまでも健康に生きたい、良い子を残したい、という強い欲望を受けて、 遺伝子技術(遺伝子診断、遺伝子操作、クローン作製)はどんどん進む。 止めようが無い。

「このまま何の手段も無く死ぬよりは…」という心理から、びっくりするような 臨床実験がまた行われるだろう。 まだ事例が少ないので、成功例が患者の笑顔とともに報告され、 もやもやしつつも規制されずに応用が進んでいるが、 いつか事故が起こった時に初めて深刻な問題になるのだろう。 (とはいっても、失敗例は隠されがちだろうし、失敗しても 「もともと死ぬはずだった」のだから諦めもつくのだろうか。)

例えばこんなことが起こる可能性がある。
「子供を作る前に、必ず自分と相手の遺伝子診断を受けておくべきだ」 なんていう考え方が広まるのではないだろうか? 生まれてしまってからでは、手遅れなのだ。 遺伝子障害が見つかれば結婚もできない。

あとはお金の問題か。
「お金さえあればもっと生きられますよ」
「お金さえあればもっと良い子が産まれますよ」
ということになりそうだが、それはいったいいくらぐらいになるのだろうか? (ブラックジャックなら、目ン玉飛び出るような額をふっかけてくる。 それが歯止めになる。)
金持ちは長寿と健康と良い子を手に入れる。 貧乏人は受精卵や臓器を売る。
みんなが使えばどんどん安くなる。安くなれば、 それを「利用しない」ことには勇気が必要になる。
「もう十分だ。そろそろ生きる / 生かすのをやめよう」という判断は いったいどこでするべきなのだろうか。 それは個人が自分の判断で決めるしか無いと思うが、 現実的に可能だろうか?

遺伝子操作について
遺伝病をなくす、ある方法
遺伝子の操作、プライバシー、保険
クローン人間?
死ぬようにできている

2000/05/03 T.Minewaki
2001/03/01 last modified T.Minewaki

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