鎌倉プロバスクラブ トピックス

グローバリゼーションと原発敗戦の

フォローアップ

青木一三

2019/03/8

鎌倉プリンスホテル

2013年の卓話で 「『原発敗戦』を書いた背景」、3年後の2016年に「ジャック・アタリの21世紀の歴史」を紹介させていただきました。それから更に3年経過しました 今、何処が当たってどこが当たらなかったかをここで顧みておくとは意味があるのだろうと少しまとめてみました。


1.「『原発敗戦』を書いた背景」について

1972年に出たローマクラブの報告「成長の限界」以後、地球の限界が認識されて化石燃料燃焼による大気中の二酸化炭素濃度上昇に人々の関心が集 まっていました。確かに1750年から2000年までの250年間は大気中のニ酸化炭素濃度の上昇曲線は幾何級数的に滑らかに増加しています。しかし地球の平均気温上昇は1850 年から1910年までの160年間はフラットで1910年から1940年までに急に増加し、その後1980年までの40年間はフラットで、その後2000年までふたたび急激に上がるとい う階段状 の変化を示していて大きな傾向は一致していますが、この違いを説明した議論には出会っていません。唯一確実なのは台風の風速が上がり、集中豪雨が頻発することでしょうか。英仏海峡の両側にある巨大な白い断崖は 温暖期に海水面が今より270m高 かったとき、イングランドの東半分とパリが水面下に沈み、円石藻などの化石が海底に積もってできた未固結の石灰岩からできているとされているように、ヨー ロッパには海面上昇恐怖症があります。そこでヨーロッパがリードして人為的温暖化説を展開し、二酸化炭素排出税を設けようと提唱したのです。

一方、私の居た化石燃料業界ではピークオイル説が支配的な考えでした。有限の資源は価格が上昇すると信じられていまして、まさにそのように石油はバーレル100$を越 えていました。

こういう状態で2008年の年賀状として来る1世紀間の一次エネルギーの需要予想をしました。原子力はウラン資源量に限りがあることとチェルノ ブイリ事故の後でしたので事故により膨大な土地が居住不能になるという理由で2020年をピークに衰退 し、石油、ガスもピークオイル説に従って衰退する。再生可能エネルギーは技術の進歩により将来は安くなると予想されるが、エネルギーの中心になるのは 2100年以降中心となるだろうというものでした。そうすると今世紀後半のエネルギー不足は安い石炭が再生エネルギー時代までのつなぎとして2100年ま で中心的エネルギーになると予測しまし た。



再生可能エネルギーのほうがライフサイ クル温暖化ガス放出量が原発より少ないことは分かっていましたし、技術の進歩でソーラーセルのコストは板ガラスのコストに漸近すると考えていましたから人 為的温暖化説がもし本当で海面上昇するなら、オランダのように水没防止の堤防を築けばよいではないか。現にニューヨークのマンハッタン島では「ビッグU」という防潮土手を計画しています。皆が納得したら、再生可能エネルギーに切り替えればよいではないか、姑息に原発に走り 自分の住む地域を放射能で数万年にわたって汚染して居住不能にするリスクを負う必要などないと考えたわけです。

そして案の定、3年後の2011年に福島事故が発生しました。そして2013年に『原発敗戦』を書いたわけです。当時盛んに喧伝されていた人為的気候変動防止のために原発が必用だという論はアイゼンハウアー大統領がかって使った軍 産複合体と同じく、原発利権複合体と呼ばれる原発村が我田引水のためにする主張だと感じました。そもそも人為的温暖化説すら政治によって作り出された気候変動利権複合体のドグマと感じたものです。

健康に直接関係ある有害物質の排出は健康に対し実害があるため、すぐに対策がとられますが、人類が二酸化炭素排出規制すれば気候変動を防止できるかどうかは誰もわかりません。不可能かもしれぬ予防に人々が金をかけることには同意しないだろうと当時は考え、今もそう考えて います。現にトランプ大統領はパリ協定から離脱し、パリ協定の御膝元ではマクロン大統領はイエローヴェストを着た炭素税反対派の抵抗にあっています。

価格が上がるとフラッキングという高圧水で膨大な化石燃料の埋蔵量のある頁岩を破砕し、緻密な頁岩に封じ込められているガスを採掘する技術が米 国で開発され、価格は半分に下がったのでした。そこで私も関係したオフショアガス開発プロジェクトは消えて無くなり、石炭の出番はなくなり、今のところシェールガス含む天然ガス全盛時代となっています。

米国の軍産複合体はこれを抑制しようというあらゆる企てを回避できるという不気味な能力を持っていますが、日本の原発利権複合体もヨーロッパ人がもつ洪水 恐怖症が原因の人為的温暖化説に乗って原発の発電コストは6yen/kWhと再生可能エネルギーの発電コストの40yen/kWhより安いから原発を使う べきだと強弁していたわけです。無論、ここには廃炉コスト、安全対策、事故補償積立金は含まれていないのですが、住民を騙して強引に原発事業を推進した責 任を問われることを回避するためにも原発維持に加え、輸出振興策を打ち出して外貨を稼ぐからと民意を封殺したのです。

ところが日本の原発利権複合体の思惑は技術の進歩と中国の工業力に見事に負けてしまったのです。この6年間に再生可能エネルギーコストが中国の努力で劇的 に下がり。もう気候変動防止目的に原発など建設するなどということを主張できなくなりましたし、インフラ輸出政策も破綻しました。IEAによれば発電原価 は原子力11.3- 17.1yen/kWh、石炭10.3yen/kWh、LNG 10.9yen/kWh、太陽光12.9yen/kWh、風力13.1yen/kWhとなったのです。こうして気候変動防止も再生可能エネルギー利用で対 処できることになりました。

日本の国土の1.8%に太陽電池を設置すれば日本電力は賄えるのです。国土の60%は山岳地帯ですから設置面積の確保はむずかしくありません。砂漠での太 陽光発電は2.5yen/kWhだそうですからこれで水を電気分解して水素を作り、アンモニアにして冷蔵タンカーで運べば夜間電力用の温暖化しない燃料に なります。

再生可能エネルギーコストが石炭火力より下がると、もう日本の石炭火力発電所を海外に売ることもかなわなくなり、温暖化防止の技術開発に背を向ける企業に は海外の投資家は投資せず、温暖化の被害をもろに被る保険会社は二酸化炭素は温暖化の原因と認定して二酸化炭素を排出する企業の保険を引き受けないという 事態になりつつあります。

人間の全ての経済活動は物質の循環を伴っています。原子力の核燃料の廃棄物は反生命原理を持っており、環境負荷をあげるので再生可能エネルギーと比較すれ ば採用すべきでないと断言できます。事故後、福島県の町や村は、避難指示解除地域が復興するためには子どもを育てる世代が戻る必要があると判断。総額93億円をかけ、14の小中学校の校舎を それぞれ新設、改修し、制服や給食費の無料化など手厚い教育環境を整えました。ただ、再開時の児童・生徒数は震災前の3.4%にすぎず多くが廃校の運命が まっています。

原子力のような集中発電は巨大な圧力容器や格納容器、配管そして送電網を必要とし、これを構成する鉄や銅金属の循環を増やします。一方、太陽電池など の再生可能エネルギーの設備はガラ スとシリコンから出来ており、その素材は浜の真砂であるから環境負荷は低い。また再生可能エネルギーによって実現する分散発電は銅金属の使用を減らしま す。バッテリーを構成するリチウムはナトリウムで代替でき、炭素電極は資源的に問題なく、コバルトなどの重金属だけが問題となりますがリサイクルで解決で きそうで環境負荷を減らすことができます。

2018年にかかる変化を織り込み、10年前の予測を修正しました。福島事故の影響で原子力増が世界的にストップし、世界的に天然ガスガ スの利用が促進されたのと中国から大量の安価なソーラーパネルが供給されるようになり、再生可能エネルギー利用が当初の予測より促進された結果、石炭のリバイバ ルは消え去りました。現時点では天然ガスの利用と再生可能エネルギーがこの予測より増えています。



このような事態になっても政府はいまだ発送電の法的分離はせず、2030年まではベースロード原発20%維持政策をかかげています。そして電力会社は原子 力発電の発電量を変動させる と炉の寿命が短 くなるとして、例えば九州電力は日曜の夜の需要の極端に少ない時には原発を優先して稼働させ太陽光発電をとめるなどという不合理な運用をして再生 エネルギー利用にブレーキをかけています。原発に拘る政権を国民が見限らないのは富のトリクルダウンなどというありもしない虚言に幻惑される 程愚かなのか、政府がNHKなどのマスコミを 手なずけて彼らの間違ったドグマを拡散させる権力を手放さないからでしょうか。

    日本の民主化の実現を妨げるものありと すれば、それは唯一つ、国民自身の無自覚怠慢ーーー尾崎咢堂

このように政府と電力会社が原発に拘っているうちに、電力会社に電力を卸せない再生可能エネルギー発電企業はこれも技術の進歩によって安くなったバッテ リーに電力を蓄えて直接消費者に電力を 売る時代が来るでしょう。こうして電力会社が投資した配電網の稼働率は下がり、隠れコストのある原発に頼る電力のコストは上昇し、消費者は電力網離れを起 こすことが予想されます。

太陽光発電のコストが下がったのは中国が安価なパネルを供給する能力をもった たためで、この傾向が続くと中国はチャッカリと自前の安い太陽光発電パネルを広大な国内の砂漠地帯に設置するでしょう。そう して長大な輸送路が必要な他国の化石燃料に頼らないすむエネルギー自立を達成し、強国となるでしょう。

私は「鎌倉プロバスクラブ」とともに総合知学会にも参画して、原発問題に関して「わが国の原子力発電のあり方を問う!」という提言を学会メンバーとして行 い ました。最近は、提言のフォローアップとして「放射性廃棄物をどうすべきか」という提言を出そうと内部でディスカッションしています。いくつかある議論 の一つにオンカロの岩盤だって地下水はジャジャ漏れで廃棄物は水を透さない粘土で水を10万年間遮断するという手法を採用しています。ならば地下にトンネ ルを掘らずとも地表に廃棄物を置いて防水のために粘土で覆い、更にミサイル攻撃で破壊されないよう鉄とコンクリートで防護する方法で十分ということになり ます。これを原発敷地内「廃炉神社」方式と呼びましょう。民主主義の原則に忠実であれば、現在の日本の原発が廃止されたときは誰もそのような厄介物は引き 受けませんから、なし崩しに物理的に今ある場所に置いておくしかないことになります。

廃家電は金を使ってますから都市鉱山と呼ばれますが、この廃炉神社の ご神体にはプルトニウムが含まれております。そしてこのプルトニウムは使用済み燃料棒を濃硝酸に溶かし、リン酸トリブチル(TBP)や硫酸ヒドロキシルア ミン溶液で抽出分離でき、核兵器のための材料にす ることが出来ます。こうして原発の放射性廃棄物は都市鉱山ならぬ原発鉱山となりえます。

平和憲法を持つ日本の安全保障は同盟国の米国の核兵器に頼っているわけですが、国家 間の力学はその経済力に比例します。遠くない将来に予想される力学変化にも対応できる準備は必要でしょう。それが原発鉱山です。無論、この鉱山の所有権は 地元のものとなります。所有権は金に変換可能なのです。無論日本はこれからビンボーになり、軍拡などやる力もありません。だから国際的には核廃絶を目指す べきなのですが、資源も持たずには国際的な交渉力は出てきません。そのくらいの深謀遠慮が必用ではないでしょうか?


2.「ジャック・アタリの21世紀の歴史」について

私が2016年に紹介したジャック・アタリの説は:

そもそも人類が市場を発見したのは3,200年前。当時は隊商がユーラシア大陸を細 々とつないでいた程度だった。中世のヨーロッパの都市国家の時代になると都市国家を構成するクリエーター階級(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業 者)が新しいアイディアを試し、数多くの過ちをするが、成功した者が生き残というメカニズムで勃興し、また没落した。ちょうど脳内で新しいシナプスがラン ダムに形成され、有用でないものは切断されるという神経ダーウィニズムと同じ原理である。クリエーター階級が集まる市場民主主義の中心都市は時代順にブ ルージュ→ベネチア→アントワープ→ ジェノヴァ→アムステルダム→ロンドン→ボストン→ニューヨーク→ロスアンゼルス、シリコンバレーと交代した。このように中心都市は西に向かって移動し た。次はロスアンゼルスの西にある東京かとおもわれたが、そうはならなかった。 理由は東京が既存産業保護と官僚周辺の利益を過剰に保護したことと、流通の中心として必須になる港湾や金融市場の開発を怠り、クリエーター階級の育成を怠 り、国境を超えるクリエーター予備軍の移住を禁止してきたからである。フランスも過去に超ノマドを引き付ける世界の中心都市となるチャンスがあったが、農 業とこれに付随する官僚の利益保護を優先したためそのチャンスをみすみす逃した。

というものでした。そして2018年にもしかしたら、シリコンバレーは「深圳」に移行しそうな気配がでてきて米国はあわてて関税と知的財産法で中国の 牙を抜こうとやっきになりはじめました。また安全補償を理由にIoTを可能とする5G通信用Huawei製品を米政府機関が調達することを禁じる 「2019年度米国防権限法」を制定し、日本、EU、オーストラリアにも協力するよう要請しました。機器のOSや通信プロトコルは米国製を使っているので すから片手落ちの要請のように見えます。Huaweiはこれは米憲法違反だとして、テキサス州の裁判所で米政府を提訴しました。私も家族用のスマホとして 最もコストパーフォーマンスの良いHuawei製品を購入しました。

これは1980年代の日米貿易摩擦の再来のように見えますが、中国は日本のようには従順ではなく、核兵器をもって いますので、強気でかなり反撃するでしょう。でも幸か不幸か中国も日本と同じく官僚国家でトップダウンの国ですから、米国とは上手く交渉できても自ら新し い技術を生めないという日本の失敗をトレースするだろうという予感がします。

一方、米国では人間の脳の神経回路を模したニューラルネットワークをGPU上でマトリックス計算することで人工知能を実現し、車の自動運転は目前にせまっ ていますが、そのための目として波長が1550nmの赤外線域を検出できるインジウムガリウムヒ素をセンサーとするレーダー技術をベンチャーが生み出す活 力を米国は維持しています。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス出身のダロン・アセモグル&ジェイムス・ロビンソンらによれば:

ロンドンが中心都市になったのはバラ戦争で勝ったチューダー王朝の力は大したものでは なかったという偶然のたまものであったという。当時の英国のライバルのスペイン王の権力は強大でたまたまコロンブスのスポンサーとなったため、新世界から の富はほとんど王家のものとなった。彼らはそれをすべて消費して再生産に投資しなかったため、収奪した富は泡粒のように消えてしまった。スペインやポルト ガルの植民地だった南米、中米の経済が今でも振るわないのもこの収奪的政治制度のためである。一方、王権の弱かった英国では集権的ではあるが、政権交代が 可能な民主的制度、自由な言論が可能となり、あらゆる人が決めごとに参加でき、所有権が守られ、分配ルールが確立し、選手交代ルールが確立した社会となっ た。権力を持っている主体がいくつかあって、それなりに拮抗してチェック&バランスが働いている社会となったがゆえに、かの産業革命を達成し、世界を物流 で繋いだのである。これがグローバリゼーションの始まりである。

シェイクスピアはまさにこのチューダー王朝の血ぬられた物語を語っているのです。血だらけの沸騰するような社会が活力の元なんですね。世界中の人がシェイ クスピアの作品が好きなのはまさにこの環境下でもがく人物に自分を投影して魅了されるからでしょう。米国はこの英国の伝統を受け継いで世界のリーダーとな りましたが、伝統に従い、国を開き、貿易の自 由をもとめたため、まず国内の製造工場は日本に移転し、ついで中国に移ってしまいました。それでもGAFAなどの知的産業で世界のヘ ゲモニーを維持しようとしているわけで、日本は知的産業の能力を涵養することに失敗したが故に中心になりえませんでした。

GAFAの一つグーグルで活躍しているヒロシ・ロックハイマー氏は日本人の母とドイツ人の父を持ち、麻布六本木で育ちました。建築家になろうとテキサスの ライス大に留学しますが、そこでUNIXマシンを発見してプログラミングに目覚めました。日本に帰って、家にあったMacを使い独学でプログラミングを習 得し、BeOSに出会うます。このOS向けのテキストエンジンを開発してオープンソースにしたらBeOSの開発者の目にとまったのです。BeOS はマルチスレッド・マルチタスク化されており、並列・並行処理のパフォーマンスが優れていました。このオープン版はHaikuと呼ばれています。ヒロシは BeOSの開発者のジャン=ルイ・ガセーCEOの目にとまり、直接採用を言い渡されてテクノロジー業界入りしました。ジャン=ルイ・ガセーはヒロシ・ロッ クハイマーの抜群の頭脳を評価したのです。

次にヒロシはアンディ・ルービン氏に見いだされ、2006年にグーグル入社しました。ルービン氏は2003年にAndroidを立ち上げ、買収されてGoogle入りし、Android全般を統括したことで、Androidの父と呼ばれる ようになった人です。こうして2008年にアンドロイドOSが世にでます。このOSは無償なため、HTC、 Samsung、LG、Sony等日本メーカー、HuaweiがAndroid OS を搭載したスマホを売り出し、急激に普及しました。代償はグーグル検索と地図サービスを使うことだけです。結果2億人のユーザーの85%がグーグルOSの 利用者となったのです。こうしてリーダーだったアップルはマイナーな存在となり、日本のiモードはガラパゴス化したのです。

私はAndroidが市場に出た翌年の2009年に台湾のHTC製のアンドロイド携帯を購入し、グーグルOSの利用者になりました。以後愛用者となって現 在に至っております。アンドロイドOSやクロームOS、地図サービス、Utube、Gmail、Googleフォト、オフィスアプリ、各種クラウドサー ビスは全て無償です が、グーグルは多額の広告収入でOS開発費用を賄っています。

ラリー・ペイジがグーグルCEOをピチャイに譲った時、ヒロシ・ロックハイマーはアンドロイド部門とクロームのトップとなりました。そしてGoogle CEOのスンダー・ピチャイ氏はヒロシ・ロックハイマーをアンドロイドとクローム両OSの後継者に選んで今日に至ります。アンドロイドやクロームの次世代 OSであるFuchsiaは ヒロシ・ロックハイマーの舵捌きにかかっているのです。FuchsiaはLinuxベースのAndroidやChorme OSとは異なり、Google独自のカーネル(OSの中核部分)を使用しています。GoogleはまたWear OS by GoogleというスマートウォッチOSも提供し、カシオのProTrekを含む多くの時計会社が採用しています。

以上の構図をみますとグーグルのソフトの開発費はすべて広告収入で賄うというビジネスモデルは日本のような電通や博報堂とメーカーが君臨していたようなビ ジネス 構造の社会では所詮生み出せなかったものだとわかります。こう見てくると中国では政府の検閲を通過したものだけしか検索サービスの対称にして はいけないという規制のため、Googleは中国市場に参入していません。中国では代わりにバイド ウ、アリババ、テンセントがデジタル 広告の暴利をむさぼっていが、彼らが新しいビジネスを発明するかはいまだ未知数です。

アマゾンは流通業を電子化してウォルマート等の既存流通業を退場させました。アマゾンは倉庫用ロボットを開発する企業であるキバ・システムズ(Kiva Systems)を2012年に買収し、その技術を非公開とし、自社内だけで使っています。これは固定した保管棚はなく、広大な床面上を小さな保管棚毎、 ロボットが運ぶというコンセプトが斬新です。これで24,000人の雇用を削減しました。2017年はなんと、5万5000台のロボットを自社施設に追加して おります。

さて世界の工場が中国に移ってしまったため、米国では工場労働者が路頭に迷いました。すべての人が大学をでて知的労働者になれるわけではないという冷厳な現実 がそこにあったのです。そ れに知的産業の製造部門やトレーディング部門が外国にあるため、租税も還流しない。というわけで、民主主義下ではトランプ大統領の登場は歴史的必然であっ たわけです。しかしトランプ大統領の関税を上げるという方法では、VATや消費税と同じく累進制をとりにくく、低所得層に厳しいもので、所得格差防止のた めの再配分にはならないことです。

資本主義が必要とする資本を提供する金融業の取引はゼロサムゲームです。そこに価値の創造はありません。唯一の価値の創造者である労働力を組み込んだ非金 融経済からの所得移転(価値の捕獲)にすぎません。このレントを得る仕組は株式購入、貸付、公的資金注入、量的緩和など未来世代からの収奪等によってなさ れます。よく人工知能が人々の職場を奪うので将来はミニマムインカムを保証しないと世の中は回らなくなると言われていますが、米国、EUと日本は金融業を 発達させ、このゼロサムゲームに熱中したため、富が収奪されて皆に公平に分配されないのです。

ですから政治は産業の構造に手を突っ込むより、この分配機能を回復させるだけでよいのです。そうしないとグローバリゼーションでイラクやシリアのような破 綻国家が発生し、金融資本に収奪され、虐げられ、食い詰めた人々が移民の波となってヨーロッパと北米に向かっています。英国のBrexitや米国・メキシ コ間の壁もこの流れを止めようという動きです。これは止めた方が勝ちという構図で止められる側にとっては悲惨なものです。

グローバリゼーションの結果、関税はすでにゼロ近いのでBrexitで英国はたいして困りません。自動車メーカーが英国を捨てようとしているのは 関税というより過去のマーケット構造の変化を反映したものではないでしょうか?むしろ統一を維持するのが難しくなるのはEU側 と危惧します。フランスのマクロン大統領 などはロスチャイルド銀行出身で簒奪される側の痛みを理解できない可能性があり、失敗するかもしれません。日本も英国のように海で隔てられていて比較的平 穏ですが、各国の政治が富の再配分のメカニズムを用意しなければ人類社会はいずれ分解して継続できないようになるのではと愚考しています。

さて市場民主主義の活力はグーグルの成功をみれば分かるように個人の自由が無ければ成立しません。その点で米国や英国の文化の優位性を認めざるをえませ ん。資 本主義の成功はビジネスの儲けを全て ビジネスに再投資するので個人に自由があるかぎり投資が新しい技術を生み出し、また利益を生むというアダムスミスの正の帰還回路が構成されます。 ウィンウィンの関係というやつです。一介の下級将校から転身し、トップクラスのスマホメーカーに成長させ、5Gの通信システムで世界をリードするまでにし たHuaweiの創業者も「米国(手先のカナダ)に逮捕された娘は経営トップにはつかせない。なぜなら彼女は技術者ではないから」といっています。中国人だから家族に権力 を引く継ぐだろうと邪推した米国側の完全な誤算でしょう。

これからクラウドベースのビッグデータ全盛の時代になり、ますますメモリー需要が増えるとき、日本は原子力という古いテクノロジーにつぎ込んで、 フラッシメモ リー製造工場を自ら放棄するような盲目の経営をし、液晶やコンピュータやスマホなどの情報機器の組み立て工場も海外に移転し、大型航 空機の製造には手をそめませんでした。MHIが遅まきながら頑張っていますが、どうなりますことやら。OSやアプリの開発は安全保障してもらう米国に気兼 ねしてか、はたまた実力に自信がなかったのか手にも染めず、単なる利用者に成り下がりました。農業をやる人もおらず、米作に拘ったため大型農業機械が使え る大規模農業向きに農地を改革することもなく、日本はどうして生 きてゆこうとするのでしょうか?



2019/3/8例会のトピクス(10分)の内容は

私は永らく化石燃料関連の仕事をしていましたので地球の限界を指摘した1972年のローマクラブの報告「成長の限界」が指摘した人為的気候変動説が気に なっていました。マーガレット・サッチャーは若い頃化学を学んでいますから、英国首相になったときに科学的な国際委員会を組織したら政治家としての箔もつ くだろうと言われてIPCCを1988年に作りました。その結果、京都プロトコルとかパリ協定がでてきたわけです。しかし私は炭素税などは貧しい人が真っ 先に苦しむために上手くゆかないだろうと覚めた目でみていました。現にトランプもパリ協定を脱すると宣言し、マクロンは国民の強い反対に会っています。

ところが日本では原子力こそ回答だという声が大きかった。そもそも宇宙が出来て初期の頃、超新星爆発で生成したウランなどの重金属は不安定ですから放射線 を放出して自然崩壊して最後は鉛になって安定し、現在の地球ができました。こうして安全になってから地球上に生物が発生し、人間にも進化しました。ですか ら地中に残っているウランなどを掘り出してエネルギー源にするなどという行為は生命原理に反することです。

一方、太陽電池などの再生可能エネルギーの設備はガラスとシリコンから出来ており、その素材は浜の真砂であるから環境負荷は低いし、日本ですら国土の 1.8%をつかうだけで全エネルギを賄える能力がありますので、2008年に世界の一次エネルギーの世代交代予想を作りました。このときに再生可能エネル ギーが主力になるまでのつなぎに石炭がリバイバルするだろうと予想しました。しかしこれは全く間違いでした。

米国の素晴らしいところはイノベーション能力です。メジャーオイルがピーク・オイル説を信じて海底ガス田開発していたのにジョージ・ミッチェルと言う人が 高圧水で頁岩に割れ目を作って隙間からガスを抜くというフラクチャリング技術を開発したのです。そうして現在はシェールガス全盛時代となっております。不 思議なことにまだ海面上昇で水没した都市はありません。強い台風と集中豪雨の被害だけです。これは社会インフラを強靭化すれば解決できます。

さてジャック・アタリのクリエーター階級が集まる市場民主主義の中心都市はロンドン→ボストン→ニューヨーク→ロスアンゼルス、シリコンバレーと西進する という説がありますが、現在は東京を飛び越して「深圳」に飛んだように見えます。まだOSは米国に残っていますが、ハードの方は日本が手足を出せないプロ セッサの設計からすべて「深圳」で行われています。日本は相当な覚悟を持って対処しないと仲間にも入れてもらえません。



2019/3/8例会のトピクス「私のひとこと」

1988年にIPCCができた結果、京都プロトコルとかパリ協定ができました。しかし私は炭素税などは貧しい人が真っ先に苦しむために上手くゆかないだろうと覚めた目でみていました。現にトランプもパリ協定を離脱すると宣言し、マクロンは国民の強い反対に会っています。

ところが日本では原子力こそ回答だという声が大きかった。そもそも宇宙が出来て初期の頃、超新星爆発で生成したウランなどの重金属は不安定ですから放射線 を放出して自然崩壊して最後は鉛になって安定し、現在の地球ができました。こうして安全になってから地球上に生物が発生し、人間にも進化しました。ですか ら地中に残っているウランなどを掘り出してエネルギー源にするなどという行為は生命原理に反することです。

一方、太陽電池などの再生可能エネルギーの設備はガラスとシリコンから出来ており、その素材は浜の真砂であるから環境負荷は低いし、日本ですら国土の 1.8%に設置するだけで全エネルギを賄えます。2008年に世界の一次エネルギーの世代交代予想を作ったときは再生可能エネルギーが主力になるまでのつ なぎに石炭がリバイバルするだろうと予想しました。しかしこれは全く間違いでした。

米国の素晴らしいところはイノベーション能力です。ある人が高圧水で頁岩に割れ目を作って隙間からガスを抜くというフラクチャリング技術を開発したため、 現在はシェールガス全盛時代となっております。不思議なことにまだ海面上昇で水没した都市はありません。強い台風と集中豪雨の被害だけです。これは社会イ ンフラを強靭化すれば解決できます。

さてジャック・アタリのクリエーター階級が集まる市場民主主義の中心都市はロンドン→ボストン→ニューヨーク→ロスアンゼルス、シリコンバレーと西進する という説でしたが、現在は東京を飛び越して「深圳」に飛んだように見えます。日本は相当な覚悟を持って対処しないと仲間にも入れてもらえません。



2019/3/14の脳梗塞後に世の中の動きを見ると

ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス出身のダロン・アセモグル&ジェイムス・ロビンソンら「国家はなぜ衰退するのか  権力・繁栄・貧困の起源 上下」 を引用した。ヨーク朝最後のイングランド王リチャード3世(在位:1483年 - 1485年)は薔薇戦争の最後を飾る王であった。王権の弱かった英国では集権的ではあるが、政権交代が可能な民主的制度、自由な言論が可能となり、あ らゆる人が決めごとに参加でき、所有権が守られ、分配ルールが確立し、選手交代ルールが確立した社会となったとされています。

王権の弱い王がいた英国が成功した。米国もそれの風習を受け継いで現在に至っていると理解していた。しかし、製造業に集中した中国の収奪的であるにも関わ らず成功している。困った米国は急遽インバランスを関税だけて修正できるのか。そして中国が強いままどのくらい頑張るのか?




参考資料

成長の限界 人類の選択

東大話法と原発危機 傍観者の論理・欺瞞の言語

「原発敗戦」を書いた背景

ジャック・アタリの21世紀の歴史

総合知学会機関誌

グローバル・ヒーティングの黙示録

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March 7,  2019

Rev. September 2, 2019


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