鎌倉プロバスクラブ卓話

「原発敗戦」を書いた背景

青木一三

2013/06/14

鎌倉プリンスホテル

引退前から趣味で始めた エネルギー問題に関する論文集などを掲載するセブン・マイル・ビーチ・ファイルというウエブサイトを延々と12年間継続してきた。2007年にプロバスクラブ卓話の機会を いただいたことを契機として論文化し、継続して改訂し続けている「グ ローバル・ヒーティングの黙示録」は本サイト最大の論文である。これを書きだした当初 は人為的温暖化説を信じていたが、諸外国の論文を読むうちにこれは事実誤認と認識し、いわゆる懐疑派に転向した。この誤認はこの世界のパイオニアである真 鍋淑郎らが米国気象局で作った放射対流平衡モデルでは二酸化炭素分子が赤外放射するよりも早く、空気分子の直接衝突によって空気が熱を二酸化炭素より奪 い、対流で熱輸送が行われるという事実をモデル化していないことに発する。二酸化炭素の濃度は地表面の温度、すなわち気候にたいして影響を与えないのにス パコンは影響するというイリュージョンを出力しているにすぎない。過去において海面高はプラス10mからマイナス70mで振れているわけで、現在の気候変 動は過去の地球の変動幅におさまっているのである。ところが国連にIPCCという機関を作ってしまったため、これに悪乗りして原発は人為的気候変動防止に 有効ということになっている。またプルトニウムサイクルや核融合は化石燃料の枯渇後に使えるとしている。しかしこれは腐敗した科学者と企業・政治家の野合 にマスコミが乗せられている構図である。おなじようなことはフロンによるオゾン層破壊、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)がエイズの原因とする考え、善玉、 悪玉コレステロール論等々など枚挙にいとまがない。

2011年3月に福島第一原発の事故が発生した。原発の構成要素は石油精製・LNGプラントを構成する要素と同じため、エンジアリング業界にいた人間には 事故の因果関係は手に取るようにわかる。マスコミにより報道される曖昧な報道を補完して「福島原発メルトダ ウン」という報告書を書いた。ついで原発事故は 地震の規模、言語の使用頻度、戦争の規模、所得分布と同じくべき分布になるのではと考えてデータを整理するとその通りであると分かった。BWR、アイスコ ンデンサー付きPWR、ロシアのチェルノブイリ式RBMKの封じ込め機能が低いため、福島級の累積確率は1回/2,100炉・運転年となる。すなわち世界 で今後25年間にどこかで1回福島級が発生することになるという論文「石棺を越えて」 を書いた。ちなみに日本には世界のBWRの42%があるのだ。

グーグルの検索システムのおかげで、沢山のアクセスがあった。結果として意見や情報交換できるプロ仲間が増えた。本職のLNGコンサルティングも依頼され た。その他、講演の依頼、本の執筆などが舞い込むようになった。

「福島原発メルトダウン」を本にしたいという申し出があったが、にわかにLNGがクローズアップされ、LNGコンサルティングのためにロンドンに出張して くれという要請もあったので、実入りのいい方を優先させてもらった。ロンドンから帰って原発事故はべき分布になるという発見を大学の先生の協力で理論的に すっきりさせ、外国の専門誌に投稿するための作業を開始した。またべき分布になるのはどういうメカニズム検証のため経済物理学で使われるエージェントベー スモデルで再現する試みもした。しかし時間がかかりそうなので、中断し出版社からの要請にこたえることにし、2012年末に「原発敗戦」を出版し た。そし てべき分布論文も順次完成させ、海外誌に投稿し、目下査読を待っているところである。

本を出版後、原子力規制委員会はBWRの封じ込め性能が低いことを勘案してフィルター付ベントの設置を義務付けた。これがどの程度べき分布に影響を与える かは従来のフェイリャー・モードを事前想定するだけの確率計算ではどうしても想定外が残り極端に小さな値になる。これが安全神話の原因なのである。今後は 人間系を含むエージェントベースモデルを作成して、このフィルター付ベントの効果を想定無しで推算する真のサイエンスをしようと大学の先生と話しているが どうなることか?

以上は前置きで本当に話したいことは

  1. 二酸化炭素排出で気候変動するという見解ははなはだ疑問。だから二酸化炭素をださないことが売りの原子力は必ずしも必要でなく、石炭やLNG などの化石燃料を燃し続けても問題はない。とはいえ化石燃料はいつか枯渇する。そのときのために再生エネルギーの開発が必用になるが本日は時間の都合で別 の機会にする
  2. 原子炉は複雑なシステムで規制委員会の新基準をクリアしてもメルトダウン事故はかならず起こる。これは飛行機がおちるとおなじ。原発の放射性 物質大量放出事故は地震、戦争、貧富の差、言葉の分布と同じ確率分布になる。福島と同程度の汚染を起こ事故は今後64年に1回程度になる
  3. 今後64年に1回発生。事故補償金と廃炉費用を1基3兆円(3基で10兆円)のための積立金は電力料金にして11円/kWhとなり、原子力が もっとも高価となる。しかし政府はいやなものには蓋をしてこれを積み立てろとはいわない。(ちなみに事故前の電気料金は23円/kWh)
  4. 政府が中央計画経済的にエネルギーのベストミックスを決めるのは時代錯誤である。電力自由化と発想電分離の仕組をつくれば、原発は淘汰されるはず
  5. 福島型の沸騰水型原子炉の格納容器の脆弱性を考慮し、規制委員会はセシウムを分離して水素ガスだけをベントするフィルター付ベントの設置をす れば再稼働可能としているが、ヨード、キセノンやトリチウムなど半減期の短い放射性物質は分離されずフィルターを素通りして放散されることには言及してい ない。(ヨードはスリーマイルのようなPWRでは出にくい)
  6. 事故は避けられない以上、原発運転者はdo or dieの覚悟と訓練が必要となる。米国はそうだ
  7. 原子力空母や原潜の母港周辺人口過密地帯の事故時の防災が不備
  8. 放射性廃棄物問題はピーク・ソシアル・リソーシズ(社会資源枯渇)
  9. 燃料再処理から核武装はほんの数歩
  10. 脱原発すれば、核抜き抑止力を持てる
である。本を出すとき価格の問題で削った図版で40分間、縷々説明。受けた質問と回答は
  1. 初めて原発事故と原子力と核兵器がどういうものか分かった。
  2. 40年の寿命を60年にあげることはどう思う?・・・40年というのはプロジェクトの採算性のベースに過ぎない。制御機器系の寿命は10年、電気ケーブル系は20年、鉄構造物などはメンテすれば40年以上つかえるがBWRはデザインがよくないので今すぐ止めたい。
  3. 小型水力発電が水利権などで開発できないそうだがどう思う?・・・水利権というものは米作とともにあり、調整を逃げている政治にもんだいがあると思う。これは地熱発電も同じ。
  4. 世界が500基原発を運転し続けるなかで日本だけが脱原発するのは不利ではないか?・・・原発を持つことはメリットではなく、不利だということがわかれば心配はなくなるのでは?
  5. 原発輸出をどう思う?・・・後始末を税金でしてほしくはない。MHIや東芝が責任賠償保険でこの世から消えてなくなるというリスクもありうる。
  6. 原発が止まったら越前クラゲの発生がとまった。原発の温排水で温暖化が生じているといわれるが本当か?・・・越前クラゲはあるいは関係あるかもしれないが、原発が温暖化の原因であることはありえない。
であった。意外に危機意識は高いと感じた。良く考えて投票しましょうということになった。鎌倉プロバスクラブは医者、経営者、官僚、弁護士、教師のOBな どがメンバーだが、一般に安倍政権には批判的な人が多い。にも拘わら世界が500基の原発を使い続けるなかで日本だけ脱原発してよいのかという一抹の不安 があるようだ。マー!千年間、隣百姓してきたのだからその習性はなかなか抜けない。独自思考の恐怖がある。これこそが、日本の問題だろう。

白井聡著「永続敗戦論」は私が「原発敗戦」で書きつくせなかった本質をついているようだ。自民党のなかにはそのひ弱な精神の代表のよう名ものが大勢いる。

ジョセフ・A・テンターの「複合社会の崩壊」(The Collapse of Complex Society.)はエネルギーと文明の興亡について「成熟した文明が、自らの複雑な社会制度をただ維持するためだけに、エネルギーの蓄えをどんどん費や さざるを得なくなり、その制度から得られる一人当たりのエネルギーが減ってゆくと、崩壊が始まる。我々は複雑な仕掛けを開発しすぎて、個体が全体を考える ことができなくなり、組織がそれを担うことになる。それが原因で社会が崩壊し、それを支える技術も崩壊する」という。コンピュータ技術もそうだが、原発 は複雑さの象徴ではないか?日本の政治家、官僚、メディア、評論家、学者はこのようなことを認知できない。すなわち専門バカにすぎない。遺伝子操作で人間 改造なんてDNAのメカニズムを知れば不可能。唯一可能なのは教育となるが、これも文部省に権力を丸投げしている以上不可能。コンピューターだって、素子 の設計ノウハウ、ソフトのノウハウは日本から失われて久しい。日本はただ中国の労働者と価格競争する運命になっているだけでいくら製造装置に資本を投じて もドブにすてるようなもの。自分で道を切り開くような能力を持った人材をそだてるには時間がかかる。安倍政権の成長戦略は依然縦割りの確証の予算確保の場 となっているにすぎない。株式市場はこのことをよく理解している。つまり日本社会は遅かれ早かれ崩壊する。

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May 29, 2013

Rev. June 20, 2013


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