グローバル・ヒーティングの黙示録

第八章 世界と日本の現状

 

第八章 世界と日本の現状

ここでは政策について論ずるつもりです。

 

再生可能エネルギーに関する世界と日本の取り組み

<規制・補助金・税>

国連の下に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が結成され、科学的知見を担当する第一作業部会がなんども公表され、二酸化炭素のグリーンハウス効果関する理解はほぼ国際的に共有されるようになりました。 しかしながらこの見解は全く根拠のないものであることが次第に判明してまいりました。従ってエネルギーの利用の仕方で温暖化対策は不用となりますが、有限の炭化水素燃料、ウラニウム燃料の持続的利用法という問題は同じ程度に重要度を持っております。

有限の資源の利用の場合、残り資源が減少すれば価格が上がりますので市場の原理により代替エネルギーの開発は促進されます。しかし一次エネルギー問題は経済の根幹ですので事前に市場に手を貸して一次エネルギーの交代を促進する必要があるかもしれません。二酸化炭素のグリーンハウス効果が疑われていたときは経済学でいう外部不経済を解決するには一般に4つの方法が検討されました。それは

@一律規制:従来のように「市場の失敗(market failure)」として政府の干渉をゆるす方法の一つです。日本の官僚が得意としますが、利権につながるのでAやBにくらべ最適解を得にくい方法です。

A補助金: 補助金はこれをばら撒く政治家や官僚に余計な権力を与え、新たな中間搾取あるいはそれを行う天下り機関が肥大化しがちです。結果として長期自民政権は債務残高を積み重ねてGDPの2倍 近くになっています。フィードイン・タリフもこの一種と考えられます。

Bピグー税: 需給関係を課税によって外部不経済のコストを反映したものにするものでイギリスの経済学者アーサー・セシル・ピグーが考案した税です。ピグー的課税ともいいます。環境税、炭素税がこれに相当します。情報の非対称性や取引費用の存在、汚染の検証不可能性がある場合には実行できない場合があります。行政コストがかかり、税金にむらがる政・官・業が多くなり、途中で失われるコストが高くなります。

Cロナルド・コースの定理:生産費用の中に外部不経済をもつ2つの生産当事者あったとして、市場価格の安い生産が減産し、他方の市場価格が高い製品の生産者が社会の外部不経済を一定に保ちながら、増産して得る利益で、前者の減産保証をすれば、外部不経済がかわらずに総生産量は最大化するという定理です。市場価格などに関心を持たない政府の干渉より、社会厚生は極大化するということを言っております。ロナルド・コースがこれを証明し、ノーベル賞を受賞しています。排出権取引がこれに相当します。

Bピグー税の一つである 環境税または炭素税に関する各国の取り組みは

 

2007年の石油石炭税

2009年環境省案

2009年フランス案

石炭 700円/t 環境税2,740円/t 炭素税2,200円(17EURO)/t
LNG 1,080円/t   炭素税2,200円(17EURO)/t
石油 2,040円/kl  環境税2,780円/kl 炭素税2,200円(17EURO)/t
ガソリン 暫定税率含むガソリン税53.8円/l ガソリン税17,320円/kl 炭素税2,200円(17EURO)/t(5円/l)

表-8.1 環境税

二酸化炭素が気候変動の原因でないならこれを規制する必要もありませんが海洋の酸性化防止のためのピグー税すなわち環境税または炭素税は考えられるかもしれません。ただ排出権取引はナンセンスかもしれません。

そして@一律規制である気候変動枠組み条約や締約国会議(COP, Conference of Parties)。1997年のCOP3で京都プロトコルは全くのナンセンスとなります。

ここで日本は2012年までに温室ガス削減量を1990年の6%減にする義務を負ったのでした。しかし米国はこの京都プロトコルの批准は拒否しました。米国に追従していれば良いと考える日本は気合が抜けてしまい、2005年にはかえって7.8%増となっています。2007年12月、バリ島で開催されたCOP13は進展はありませんでした。日本は1970年のオイルショックのときに、生産工程の効率向上を欧米に先駆けておこないましたので、COP3での6%削減目標は欧米に比べてしんどいものであることは確かです。しかし横ばいなら兎も角、かえって増えてしまったのはやはり怠慢といわれてもやむをえません。米国民は処女地に殖民して自然を収奪してきたため、自然の有限性に気がつきません。そして2008年4月になってようやく重い腰を上げて、2025年までに二酸化炭素排出量増加をとめると発表しました。

京都プロトコル付属書 1990年基準削減率(%) 1990年基準削減率(%)
ドイツ -8 -18.5
英国 -8 -14.8
スエーデン -8 -7.3
デンマーク -8 -7.0
フランス -8 -1.6
日本 -6 7.8
イタリア -8 12.1
ニュージーランド 0 24.7
カナダ -6 25.3
オーストラリア +8 25.6
スペイン -8 53.3
アメリカ -8 -

表-8.2 削減義務を負う先進国の2005年の排出量削減率

現時点においてはドイツ、英国、北欧などはBの方法である炭素税を導入し、@の方法である削減目標を表-6.2のようにクリアしております。そして先進国が率先して数値目標を定めて見本を示すべきと、国連を通じて各国に働きかけております。2050年に50%削減、先進国としての義務として80%削減とか目標を掲げております。究極的には世界の人全てが一人当たりの許容炭素排出量を平等に達成する義務を負うというカーボンデモクラシーを理想としなければならないとしております。自動車の二酸化炭素排出規制にしてもヨーロッパは規制値を1km走行時の炭素排出量で規制していますが、日本や米国はまだ効率しか規定していなく、1リッターで走る走行距離で規制しようとしているところにもその姿勢の違いが現われています。

2004年の二酸化炭素の世界総排出量265億トンの内訳は表-6.3の通りで、経済発展著しい中国は2007年には米国を抜いたともいわれております。

2004年 世界総排出量265億トンの内訳 (%)
アメリカ 22.1
中国 18.1
EU 12.8
ロシア 6.0
日本 4.8
インド 4.3
31.9

表-8.3 世界の二酸化炭素の排出量内訳

表-6.4は1990年以降の日本の部門別二酸化炭素排出量の推移です。エネルギー転換部門の増加が目立ちます。 この表も海洋の酸性化防止の資料としての意味しかなくなります。

部門 1990 2000 2005 2007
エネルギー転換部門 318 348 398 440
産業部門 390 389 382 387
運輸部門 211 259 250 242
業務その他部門 84 101 106 88
家庭部門 57 69 68 63
工業プロセス 62 57 54 54
廃棄物 22 31 30 31
合計 1,143 1,255 1,287 1,304

表-8.4 日本の部門別二酸化炭素排出量の推移 (単位百万トン)

2008年3月、経済産業省が国のエネルギー政策の基幹となる「長期エネルギー需給見通し」なるものを発表しました。

2009年に経済産業省はバイオブームに便乗してエネルギー供給構造高度化法なるものを制定し、大手石油会社に一定以上のバイオ燃料の利用を義務付けました。しかし第三章の農業によるバイオ燃料に記しましたようにバイオ燃料によってはかえって排出量を増してしまうものがあることに気が付き、慌てて2010年に50%以上削減できるものという利用基準を追加いたしました。ピグー税すなわち炭素税を採用すべきところを一律規制で行おうとするからこのような朝礼暮改をする破目になるのです。

部門 2020年の達成目標 必要費用(兆円)
産業部門 世界最先端の技術導入 3.7
業務その他部門 ネットワーク機器の98%を省エネ型 17.2
家庭部門の住宅 新築住宅の80%を省エネ住宅、新築住宅の70%にソーラーセル 12.2
家庭部門の機器・設備 液晶・有機EL、省エネエアコン、コジェネ 8.8
家庭部門の自動車 新車の50%をハイブリッド・電気自動車、総保有台数の20% 5.7
エネルギー転換部門 原発の推進、火力発電所の効率向上 4.7
合計   52.3

表-8.5 コスト度外視の最大削減ケース

コスト度外視の最大削減ケースでは25年間に必要な費用52.3兆円は日本のGDPが500兆円ですから、年当り0.4%ということになり、スターン報告の1%の半分以下です。いくら経済産業省が旗を振っても、家庭部門はこのような負担をする経済的インセンティブがないわけで絵に描いた餅でしょう。2008年8月になりようやく家庭用太陽光発電の導入補助金238億円の予算要求(補助金70円/W)を出していますが、いまだに 炭化水素燃料を使う家庭用燃料電池の導入補助金74億円も要求していて国の将来をおもんぱかるというより我田引水的政策と感じます。

<政府の姿勢の転換の必要>

資源エネルギー庁は揚水発電施設、長距離送電線などのインフラ・コスト、10年間で3兆5000億円の政府の支援コストを含まない電事連の試算に騙されるフリをして、原発は風力より安いと国民に説明しております。 これは国民をミスリードする政策です。そして再生可能エネルギーの導入に無力な「新エネルギー利用特別処置法」なるものを後生大事に守り、再生可能エネルギーの普及を阻害して 技術的に成功が困難な高速増殖炉、燃料再処理、核融合などの技術開発に国富を浪費しております。「政治は技術で直せる、しかし技術は政治では直せない」のであります。

オイルショック後の1974年に発足したNEDOはサンシャイン計画という長期計画をたて産官学の連携の下に太陽光発電、太陽熱発電にとりくみました。1978年には省エネルギー技術を開発するためにムーンライト計画を発足させました。1993ー2000年にはニューサンシャイン計画でソーラーセル、燃料電池を重点的に研究し、その後は「長期エネルギー需給見通し」に基づいた政策が展開されています。しかし残念ながら世界に羽ばたく技術は ソーラーセルを除き、役所主導の研究からは生まれておりません。燃料電池、NAS電池、水素燃料しかり、学者が政府委員となって取り込まれ、役人の顔色をうかがっている仕組みが見えてきます。民間も補助金がもらえるならとズルズルと付き合っています。そもそも石油税を道路目的税とし、その見返りにNEDOに巨額の予算をつけるところに間違いの元があるのでしょう。OECDのなかで教育費/GDP比が一番低い文部省に予算を回さねば国を誤ることになると思っています。

国土交通省の管轄の運輸部門に関しては長期エネルギー需給見通しには触れておりません。 国土交通省は道路建設目的税であるガソリン税の維持に汲々としているだけです。そして必要でもないのに建築基準法を一律に適用して超高層ビルの耐震設計と同じ厳しい耐震設計を風車に適用して従来の工作物基準で設計した風車を建設できないようにしております。 風車が弱いには地震ではなく風と落雷なのです。

厚生省は一般廃棄物の焼却処分に固執して嫌気的にメタン発酵して都市ガスシステムに供給する方式を考えてもいないようです。 有効利用どころか補助燃料を使ってもしているのですからダブルパンチです。縦割り行政の弊害です。

環境省はなぜか炭素排出税または炭素税に関しては沈黙しています。民主党に政権が代わって打ち出した政策が欧米に追従する二酸化炭素90年比25%削減宣言です。しかしこれを実現するためには炭素税の導入が必要です。ガソリンなどの税ではなく、灯油、ディーゼル、重油、石炭に含まれる炭素に課税することです。90年比3%削減のために必要な炭素税は二酸化炭素トン当たり1万円と試算されています。これはガソリン換算1リッター当たり25円に相当します。90年比25%削減のために必要な炭素税は二酸化炭素トン当たり5-9万円ガソリン換算1リッター当たり110-200円になります。これは経済に大きな影響を及ぼすため不可能な数値でしょう。アンモニア燃料は全く炭素税の影響を受けない燃料なのです。

政府がうまく機能していないので国民としては無駄なことするより、なにもしないほうがありがたいのです。「環境利権資金」を握られ「環境利権学者」となりさがった学者達が役人におもねて「省エネ、、環境税、倍額購入」と連呼するだけで産業構造を変えるような研究はしておりません。炭化水素燃料をエネルギー源にする燃料電池などに学者が入れこんでいますが、燃料電池などはエネルギー産業構造を変えるものではなく、原油価格を更に暴騰させるだけでしょう。まことにふがいないと思っています。

<産業構造の転換>

日本には既存産業保護をむねとする経団連という圧力団体が存在しています。米国が2001年に京都議定書を離脱したときに日本が京都議定書を批准する条件として、政府は規制せず民間の自主行動計画に任せるという密約を小泉政権としたとされています。このようなわけで政府はエネルギー供給構造をかえるような既存産業に犠牲を強いる市場メカニズムをもつ炭素税とか排出量規制や排出権取引を言い出しません。「新エネルギー利用特別処置法」(RPS法)は電力会社によって骨抜きにされました。野党は国民の人気取りに汲々としてガソリン税を下げることには熱心ですが 政権をとった途端に沈黙しました、石油税を廃し、炭素税または排出税を設けるなどというグランドデザインをする能力に欠けています。しかしIPCCの二酸化炭素温暖化説が間違いであるなら全ての前提が崩壊します。

2005年の日本政府のエネルギー関連研究費の内訳はInternational Energy Agency (IEA), 2006によれば下表のようになります。高速増殖炉と核融合が突出していて、再生可能エネルギー開発研究を阻害しております。技術の理解力のない官僚と政治家が間違った資源配分を行っていて国を滅ぼしているとしか見えません.

研究項目 比率(%)
Nuclear Fission & Fusion 64
Energy Efficiency 12
Fossil Fuels 9
Renewable Energy Sources 7
Total Other Tech/Research 6
Other Power & Storage Technologies 1

表-8.6 2005年の日本政府のエネルギー関連研究費の内訳    International Energy Agency (IEA), 2006

18年間グリーンスパンが低金利政策を継続したためと日本がバブル崩壊後のデフレから脱却するためにゼロ金利を継続したため、実体経済の何倍ものあぶく銭が出来てしまいました。これによ って米国ではITバブル、株式バブル、住宅バブル、金融バブルが相次いで発生し、つぶれました。増える需要分まかなえない供給能力の限界に着目した余剰資金が石油マーケットに流入し、資源バブルを引き起こし、これもつぶれました。食料まで値上がりし、貧しいアフリカでは食糧難です。中東や北極海では天然ガス資源開発で大忙しですが、資材・人権費の値上がりは天井知らずです。資源バブルを発生させ た余剰資金が無制限に国境をこえないように為替税などの導入が必要なのかもしれません。世界のエネルギー産業は激動の時代に入ったのですが、日本では高騰した石油や天然ガスを言い値で購入しているだけで、再生可能エネルギーの開発などの産業構造改革の風はそよとも風は吹いていません。

東電の勝股社長は首相直轄の温暖化に関する有識者会議で1兆円を原発建設に当てた場合の二酸化炭素削減効果は、太陽光に1兆円を充てた場合の17倍の効果と古いデータで試算したコストに基礎をおく思想をぶち上げ たのはつい2008年のことです。前述のように5年後の2013年にはNEDOの成果の一つである薄膜型ソーラーセルはグリッドパリティーを達成できるという予想があります。勝股社長はもすこし勉強してほしいものです。

米国では蓄熱器付集光型太陽熱発電、薄膜型ソーラーセル製造ラインの大型化、金属化合物半導体型ソーラーセル、ドイツでは5MWの巨大風力発電機、ノルウェーでは棒状浮体洋上風力発電など日本が開発できなかった安価な新技術を開発しています。日本では既存産業が新技術開発の抵抗勢力となっているようです。多少の論理の飛躍があるかもしれませんが、丸山眞男が指摘するように明治以降、天皇制で「植物的」にされて知的に不活発になった日本人に特有の傾向かもしれません。このままでは日本は世界にとり 残され、貧乏になると思います。気候変動問題は米国政府に追従していればよいという経団連と国の方針に寄りかかって安眠をむさぼり、自らは代替エネルギーを開発しようともしない日本企業は政府とは関係なく独自技術を開発している欧米の企業の後塵を拝するだけで先頭集団を走る利益を失うのではと著者は危惧しております。1970年代の覇気はどこに行ってしまったのでしょうか?世界の動きは気候変動問題を越えたところで進展しております。

発電は分散化に向かう流れのなかで、特に発電と送電一体の電力事業の独占制度をかえなければならないでしょう。送電と蓄電を含む系統連携のみ地域独占として、発電は完全自由化するなどの制度の再設計が必要となるでしょう。消費者は任意に発電業者を選びこれに、送電と蓄電を含む系統連携費を上乗せするという制度です。現在の制度では電力の経営者は巨大な原発から電力網の末端に電力を流すことしか頭に上りません。時代が逆潮流可能なシステムを要求しているのにこれを毛嫌いし、資源エネルギー庁を巻き込み、スマートグリッドの目的は逆潮流しないように制御する仕組みにするとも読めそうな案を考えています。これでは分散発電化に向かう世界の潮流に「完全に出遅れることになります。結果は高価な電力という型で産業界に跳ね返り、日本の競争力はそがれることになるでしょう。

一次エネルギーの世代交代に積極的に取り組む仕組みを作ってエネルギー供給産業の構造を変え、太陽エネルギーから低炭素エネルギーを製造するという新産業創出をしてこそ資源バブルを回避し、 都市、運輸、産業、発電産業を維持し、炭化水素燃料や、ウラニウム資源を長持ちさせ、二酸化削減も容易に達成されます。そうすれば世界に先駆けてそのような仕組みを育て、世界にその技術を供給すれば、国家としては失う以上のゲインを得られるはずです。最後に笑うのは おのれの利益最大化という部分最適化しかできない日本政府や地域独占に安住する電力企業を無視して、独自の判断で行動する企業だろうと思っています。

米国のオバマ大統領が2008年の金融危機後の不況脱出のために新しい産業を興して雇用を維持するという「グリーン・ニューディール」をぶち上げたのをみて、危機感をつのらせた経済産業省の役人が手のひらを返したように倍額買取り制度を法制化する言い出しまし、2009年7月1日には「エネルギー供給構造高度化法」が参議院で可決されました。これはドイツのフィードイン・タリフ制度と同じように市販電力の倍額買取制度です。初年度は48円/kWhで10年間同じ価格で買い取る。セルの価格が下がった時、導入する人の買取価格は毎年引き下げます。電力会社はかかった費用は電力料金に上載せできるという制度です。 しかし遅れた制度の導入は量産効果がでてきたソーラーセルの価格を高値に固定する効果もあり、普及をかえって阻害することにもなります。日本のPVメーカーは世界のリーダーからずり落ちてしまい、このようなことをしても回復は困難でしょう。死んだ魚に餌を与えるようなものでPVを高止まりにする恐れがあります。

安価で高性能なソーラーセルや集光型太陽熱発電装置を開発して世界マーケットに売ることが日本の雇用と世界の環境のためにな ると思っていましたが政府の支援停止が早すぎて日本はそのチャンスを永久に失ったと見えます。

いままで中央官庁の役人が後ろを向いて予算をつけなかった東工大の玉浦教授のビームダウン型CSPに民主党の松下忠洋副大臣が30億円ながら資金を出し、チュニジアニのCSPの受注をしました。これも民主党がした唯一の貢献です。しかし韓国に負けじと過去の技術である原発をベトナムに売りたいと役所主導で1兆円を出したプロジェクトには政治家も乗せられています。まだ産官複合体は健在のようです。 今後もタイ、カザフスタンへの輸出が俎板に乗っているようです。タックスペイヤーとしては事故時の補償まで国家として引き受けないように監視する必要があるのではないでしょうか。

ジョン・スチュアート・ミルは「権力は地方分権化すると良いが、知識は中央集中化されねばならない」と言っています。資本主義やこれに伴う政治が健全であるためには、権力の分散が必要です。システムを顧みない過度の集権化は、巨大な歪曲、停滞、政治的硬直性を生み出します。そして市民社会を窒息させます。日本は過度な中央集権というシステムによって崩壊の危機に直面しているのではないでしょうか?

日本ではドイツはプロシャとナチの独裁のイメージが強く残っていますが、これは誤認のようです。戦後の西ドイツは中世的遺産を回復し、連邦制における諸邦が政治的自立性をもっているという事実を見過ごしているのです。日本では徳川時代にサムライを土地から切り離し、明治期にサムライの貴族的バックボーンを廃絶して、県を従属させ、租税制度を樹立できたという歴史があって地方の自律性は失われたのです。日本がドイツに学ぶべきはこの分権化でしょう。

フランスは日本と同じくフランス革命で貴族を追放したため極端な中央集権国家となりました。そして日本とフランスが奇妙に共有している国家政策が1970年代に始まる原子力に過度に依存したエネルギー構造です。これも過度の中央集権国家の象徴でしょう。なぜなら地方分権下では原発立地は不可能となるからです。

しかし東海村の臨界事故でも分かるように、チェルノブイリがソ連を崩壊させたように、原発の潜在的危険性が日本を滅ぼすこともありうるのです。中央集権国家の脆弱性ともいえることでしょう。われわれはそれを太平洋戦争で一度経験したはずです。

図-8.1 超国家的組織体

 

炭化水素燃料枯渇 v.s. グローバル協調 v.s. 人口

自由貿易というドグマの元に世界は富の獲得競争をしてきた。その結果、 世界の生活水準が向上、平均寿命が伸び、識字率が向上し、人口増加は止まります。 貧富の差は改善傾向ではありますが、これからどうなるかは不透明で、今後これをどう解消するかは課題として残されます。これをスエーデンの人口学者ハンス・ローシングは見事なアニメーションで示しました。Visualizing Mortality History by Hans Rosling, a guru of data animation, is at it again. Here is a very cool video showing 200 years of mortality/wealth progress in just four minutes:

資源の持続的利用に正面から立ち向かう古典的な意味での権力をもつグローバル政府というものは今だ存在しません。国連は米国、ロシア、中国などが拒否権を持っている従属的国民国家の集合体で世界をコントロールする力はありません。世界の構造は図-8.1のアントニオ・ネグリとマイケル・ハートが定義するようなピラミッド型の構造をした超国家的組織体です。このピラミッドのトップに最近力がめっきり衰えたとはいえ2025年でも米国が座っているでしょう。その直下に第一次石油危機を解決するためにパリのランブイエに集まった先進7ヶ国首脳会議=G7(ロシアを加えてG8)などがひかえ、欧州連合が続きます。G7+欧州連合=サミットです。 この他にもグローバル化の陰のサミットといわれるビルダーバーグクラブ、三極会議、ダボス会議などがあります。これが今の世界の構造です。

国民的な枠組みを越えて諸国にまたがって産業・金融部門で活動する巨大多国籍企業は創造的で生産的な仕方で現実にグローバルな規模の領域を構造化しはじめ、これら多国籍企業は労働力をさまざまの市場に直接割り当て、資源を機能的に配分し、世界的生産の多岐にわたる部門を階層的に組織化して世界の新しい構造を作っています。国民国家より力のある巨大多国籍企業は 炭化水素燃料を低炭素化して世界市場に供給するなどのビジネスで貢献できるでしょう。メディア、宗教団体、グリーンピースなどに代表される非政府組織による正義の介入という権力で超国家的調整がなされるのでしょうし、またそうしなければなりません。

国民国家内部また超国家的調整が失敗しても、資本主義がよってたつ市場の自己平衡性、即ち「神の手」が同じことをしてくれるのではとひそかに思うものです。 現に石油価格上昇がその市場が自由化していれば炭化水素燃料やウラニウム資源コストが市場の力学で高騰し、自然エネルギーへの転換を則しますので炭素税導入と同じ結果になるのではと期待しているものです。その何によりの例がドイツが自然エネルギーの利用率を高くしてもその経済が好調であることで証明できるのではないでしょうか?環境対策が新たな市場を生み、経済が活性化されるためです。1970年代の日本がそうでした。

地球は今後寒冷化するかもしれません。ローマ帝国は農産物の収穫量より軍備に使う食料が増えて崩壊しました。現代文明は石油という安いエネルギーがあったがゆえのものです。米国国産原油が1970年にピークを迎えてからの米国の力の相対的低下は確実に進行しております。教育の普及のおかげで、人類は文字の発明から5,000年かけて平均的識字率を80-90%に向上させることができました。この効果がでてようやく人口増加率は低下しつつあり、世界の人口がピークに達するのは2050年頃とされております。 炭化水素燃料が枯渇する前に、太陽エネルギーを中心とする再生可能エネルギーの低コスト転換技術の開発に成功しなければ、現在の人類の文明は崩壊に向かうかもしれませんし、その技術の開発のリーダーとならなければグローバル世界のリーダーにもなりえないでしょう。

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最終稿 April 1, 2007

追補版 February 13, 2011


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