グローバル・ヒーティングの黙示録

第七章 運輸部門における変 化

 

第七章 運輸部門における変化

第一章でふれましたように、IPCCは合意していませんが、CO2のグリーンハウス効果を否定する見解が多いし、科学的にも理解できる。人為的温暖化説の隠された目的は炭化水素燃料消費を節約して出来るだけ長くつかおうという意図と考えるとこの矛盾も分かりやすい。

節約してもいずれは炭化水素燃料は枯渇します。炭化水素燃料のピークアウト後の対策として再生可能エネルギーをバッテリーに蓄えてつかうか、メタン、アンモニアなどの合成燃料に変換して貯蔵・輸送・利用を行うか という選択の問題となります。

 

鉄道の再評価

日本の都市は馬車のない徳川時代に骨格が形成されったため、都市の道路が貧弱です。道路網が貧弱であったため、これを補完するために鉄道による公共交通機 関が発達しました。石油が枯渇する未来の先取りをしているといってもよいでしょう。しかし、石油時代に鉄道による貨物輸送がトラック輸送にとって代わられ ました。地方において鉄道・バスなどの公共交通機関が自家用車にとって代わられてしまい、今後に禍根を残す形となっています。鉄道による貨物輸送は操車場 が失われたため 、簡単に復旧できません。また地方の公共交通機関の復活も経済的にむずかしいかもしれません。せいぜい大都市での路面電車の復活くらいでしょうか。新技術 の開発が必要な分野でしょう。
 

軽量化・回生動力

自動車などの移動体は小型化で風の抵抗を減じ、軽量化で転がり摩擦とブレーキ損失を減らし、減速時に動力を回収して再利用し、停車中と低負荷時のエンジン 効率低下を回避すれば二酸化炭素排出量は減ります。

<風の抵抗・転がり摩擦・ブレーキ損失の低減と回生エネルギーの利用>

日本は公共交通機関が発達しております。一人当たりの輸送効率が高く、軌条上を動く公共交通機関は転がり摩擦がすくないですからもっとも好ましい乗もので す。ディーゼル軌条車を除き、ほとんど電化してしていますが、電池を登載し架線を無くせば、バスの普及で駆逐された路面電車を復活させることも可能です。 駅毎に急速充電を繰り返せばバッテリーは小さくてすみ、回生エネルギーも利用できます。

劣悪な道路事情により公共交通機関が発達したため、逆説的ですが、世界の最先端をゆくことになりました。

日本車は小型・軽量化で風の抵抗、転がり摩擦、ブレーキ損失を減らすことに成功しました。トヨタはハイブリッド車の導入で減速時の動力回収を市場に受け入 れられるコストで実現しました。


原動機の改良

<オットー・サイクル>

現在のレシプロ・エンジンは完成の域に近づいていると思われていますがどうもそのようではありません。未だに進化の途上にあります。

図-7.1 エンジンの熱効率 (古い時代のデータ)

ガソリンなどを燃料とするオットーサイクル・エンジン、ディーゼル油を燃料とするディーゼル・エンジンの性能は表-3.1の通りです。

オットー・サイクルでは機構上、吸気を圧縮する圧縮比と膨張比は等しいため、圧縮比が高いほど熱効率は高くなりますが、通常のガソリンエンジンは圧縮比を 高くしすぎると圧縮行程で混合気が 早期着火してノッキングが発生してしまうため、高々9〜11の範囲に抑えられております。

タイプ 圧縮比(-) 膨張比(-) 熱効率(%) 定常排気温度(oC) 最高排気温度(oC)
オットー・サイクル・エンジン 9-11 9-11 20-30 - 1,000
ディーゼル・エンジン 20-25 20-25 28-34 200-300 700
大型過給機付高圧縮ディーゼル・エンジン - - 47 - -
ガソリン直噴エンジン 11 11 30 - -
ミラー・サイクル(アトキンス・サイクル) 9-11 14 38 - -
大型ロングストローク・ミラー・サイクル 11 16 41 390 -

表-7.1 往復動エンジンの性能

オットー・サイクルにガソリン・インジェクションを併用して高圧縮比をガソリンでも圧縮比を上げようと、いわゆる直噴射エンジンといわれるものが効率向上 というより排気ガスの清浄化のために採用されました。しかしメンテナンスが面倒などの問題もあり、効率も左程でないため最近は採用されないようです。

<ミラー・サイクル>

ミラー・サイクルまたはアトキンソン・サイクは膨張比だけをより大きくして熱効率を改善するものです。R.H.Millerがアトキンソンサイクルを改良して圧縮比を14程度まで 高めたオットーサイクルにおいて吸気バルブの閉じるタイミングをカム形状だけで下死点の付近で遅らせる(遅閉じ)ことで実質的な圧縮比を10程度に抑さえ るように工 夫しました。吸気量不足による出力低下がありますがこれはエンジンを大きくするか過給器で補えます。トヨタがハイブリッド車に採用して再評価されました。

<可変圧縮比エンジン>

コンロッドがクランク軸に直結されておらずマルチリンクを介して連結されています。マルチリンクの回転角で圧縮比が変わる仕掛けです。マルチリンクの回転角はハーモニックドドライブを回して調します日産自動車が開発し、ターボと組み合わせてVC(Variable Compression)ターボとして商品化しました。27%燃費が向上します。


<気筒数制御エンジン>

ホンダは低負荷での無駄な空気圧縮損失を避けるために当該吸排気弁を全閉にし、点火栓を止めて気筒数制御するエンジンを開発しています。

<直噴ガソリンエンジン>

圧縮比を10以上に上げるためにガソリン直噴方式が採用されるが、高価。そこで吸入ポートの形状改良で13.5程度の圧縮比を達成しているメーカーあり。

<排ガス再循環装置>

空気を吸い込むときの損失を避けるために、排ガスの一部を吸気に戻してやって、エンジンに送り込む空気の量は増やさないまま、エンジンがラクに空気を吸い込むことができるようにする。

<燃料改質エンジン>

ガソリンエンジンで一般的なEGR(排ガス再循環)に改質器を加えたものです。排ガスを吸気側に通す管(EGR路)の途中に、触媒と燃料噴射装置から構成 する改質器を設置し、生成した水素ガスは空冷して吸気ポートに送ります。改質用の触媒は、ガソリンエンジンで一般的な排ガスの後処理装置である三元触媒に 似ています。主成分はロジウムで、三元触媒から白金とパラジウムを取り除いたもの。排気量の違いや貴金属の価格次第ですが、排気量1〜2Lのエンジンなら ば、触媒と燃料噴射装置を合わせて1万円以下のコストを目指せます。日産は、単気筒エンジンを使った実験で熱効率を約6%と大幅に高める成果をだしていま す。ホンダは独自路線で20%以上と驚異的数値を狙っています。

<アイドリング時停止装置>

アイドリング時のロスを減らすためにアイドリング時エンジンストップする。減速時の回生エネルギーを利用してエンジン始動をする方式がとられる。 その蓄電器として充放電のロスが少ないキャパシターと呼ばれる蓄電装置が採用される。リチウムイオン電池をつかうメーカーもある。キャパシターは通常の鉛 蓄電池よりもコストが高いという難点がある。

<OPOC(対向ピストン・対向シリンダ)エンジン>

OPOCエンジンは技術は、米国防総省の研究機関、国防高等研究計画局(DARPA)の資金援助によって開発されまし た。特徴はピストンが対向して動くためストロークが半分ですみますので、回転数を上げることができ、エンジンが軽量になることです。2サイクルまたは4サイ クルのディーゼル・エンジンまたはガソリンエンジンの基本になります。シリンダーヘッドがないため冷却損失が少なく。弁損失もないため、効率は50%に達するということです。この技術をビル・ゲイツ氏と米コースラ・ベン チャーズが出資しているベンチャー、エコモーターズが中国の第一汽車側に製造委託するという。第一汽車側が2億ドル(約207億円)出資して、中国北部山 西省に工場を設立すると約束。そこで年間10万台の新型エンジンを生産する予定とのこと。また2016年にはAchates Powerというベンチャーも取り組んでいるようです。部品数も減るため、コストも下がるようです。

<水インジェクションエンジン>

ガソリンエンジンやディーゼルエンジンに燃焼時に水インジェクションして過剰空気率を下げて熱機関効率を向上させるとともに、燃焼温度をさげて窒素酸化物 の生 成を抑制することができます。

水と油を別々にインジェクションする代わりに両者を混ぜてエマルジョンとしてインジェクションすることも可能です。エマ ルジョンにするには界面活性物質を加える方法と機械的に激しく混合する方法があります。

エマルジョン燃料をボイラー燃料とすることも行われますが、効果は不完全燃焼が少なく、黒煙が出ない、窒素酸化物が少ないということだけです。ボイラー は熱 交換器にすぎなく、熱機関ではありませんから、エマルジョンの水で温度上昇を抑えて過剰空気率を下げて熱機関効率を向上させる効果は期待できないからで す。

utMOST technologies, inc.のHomer Wang博士は通常の4サイクルに加え、排気を冷却して回収した水をシリンダー内に注入してシリンダー冷却を行いつつ動力を回収する2サイクルを加え、6 サイクルにする方式を提案しています。 ただシリンダー潤滑に問題が生じるようです。また新たに水コンデンサーが必要となります。(2007年のアンモニ ア会議発表論文)

こうなってくると吸排気弁の開閉、燃料インジェクション弁、水インジェクション弁、点火のタイミング、燃料・空気プレ混合弁などの制御はおのずと電子制御 となり、これら制御回路をファームウエア化した製品を開発し、回生動力系、バッテリー・モーター系とハイブリッド化すればシマノやインテルのようにエンジ ン専門メーカーとして世界の自動車マーケットに君臨できる可能性もいまだ残されています。車に小さくつけるXXインサイドというロゴを想像してください。

<ジーゼル・エンジン>

高圧縮比のジーゼル・エンジンは効率的には最も優れています。またディーゼルは高温燃焼のために排気中の窒素酸化物(NOx)、炭 化水素、微粒子 (PM)や振動、コストという問題があります。しかし最近ではNOx規制値0.7g/kWh、PM規制値0.01g/kWhをクリ アーしております。

<スターリング・エンジン>

スターリングエンジンは外燃機 関としては良く出てきては消えるテーマです。しかし 加熱面、冷却面がシリンダー表面積によって制約を受けるために伝熱の温度差を小さく出来ずに実効率がカルノーサイクルの4割程度と低い欠点があります。ま た高温に耐える素材がない、作動流体を漏洩なしに高圧に維持することが困難で小型化できないなどの問題が解決 できず自動車用としては内燃機関に敗れています。リークなしの小型化は高圧ヘリウムガス封入のフリーピストン型にして往復運動から直接電磁的に電力を取り 出すなどの技術も考えられます?

内燃機関のように弁がありませんので、静粛に作動するなどの特徴をもっております。

<マイクロガスタービン>

ガスタービンサイクルはオープンサイクルでも外熱式でもスターリングサイクルと熱力学的には等価です。効率向上は耐熱材料の制限があり無理があります。し かし寿命が長く、高回転速度のマ イクロガスタービンを使えば軽量小型化という面では有力です。

とくにバッテリーを介するハイブリッド方式でメリットがでます。トヨタでは1968年にガスタービン・ハイブリッドの試作車を作ってモーターショーに出品 している。

<ターボチャージャー>

ターボチャージャーは効率向上というより、往復動エンジンを大型にせずに出力を増すために使われます。これはディーゼル・エンジンとミラーサイクルエンジ ンに適していますが点火栓エンジンにも適用可能です。

<原動機廃熱の回収>

車載エンジンにしろ燃料電池にしろ、定置型では可能となる廃熱を利用するコンバインドサイクルは無理でしょう。

トヨタのガソリン・ハイブリッド車は廃熱を温水にして蓄え、エンジン始動時の燃焼効率向上に利用しておりますが、これも総合効率向上は1.5%とわずかな もものです。デンソーは80oCの温水でフロンを気化してタービンを回して発電するシステムを開発しましたが総合効率向上は1- 2%だということです。クーラーに冷水タンクをつけてエンジン停止時の空調に使うことも行われるようになるそうです。

<多重衝突噴流圧縮エンジン>

2013/7早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 機械科学・航空学科 教授 内藤健が多重衝突噴流圧縮エンジンを開発中であると公表しました。氏は元日産のエンジニアです。

この多重衝突噴流圧縮エンジンが成功すれば、自動車、電力業界、再生可能エネルギー転換産業にひじょうに大きなインパクトをもっているとおもいます。まずEV 車が無意味になり、電力会社は昼はPV、夜は本エンジンの自家発による分散発電によりオフグリッドを選ぶ消費者が増える、そして海外の砂漠での空気と水と 再生可能エネルギーでのアンモニア合成産業などがビジネスになります。やはり予想外のブレークスル―はあると実感しました。

理由は
@熱効率は60%を越えます
Aエンジン側壁からの熱損失が小さいの で小型化しても効率低下が少ない。これは自動車搭載エンジンで家庭用の電力も供給できることを意味します。従来のガソリンエンジンの熱効率・燃費が低速度 (低負荷)で悪化するのは、吸気管に取り付けられたスロットルバルブ付近の流動の粘性摩擦によるエネルギーロスに起因しているが、この新たなエンジンで は、スロットル不要で低負荷での効率低下はありません。
Bこの新たな原理のエンジンでは、トヨタのハイブリッドエンジンに使われているAtkinson サイクルのように、「膨張比を圧縮比以上にすること」を付加することが容易のため、更に熱効率を上げるポテンシャルがあります。従来エンジンで膨張比を大きく するということは、相対的に吸気量が減って最高出力が下がることを意味しますが、この新たな原理のエンジンでは、負圧の最適化などによって、吸気行程体積以 上の空気を引き込むことができる可能性があります。(究極の慣性過給効果を誘因する可能性等がある)
Cこのエンジンは液体燃料ならなんでもよいが、特に再生可能エネルギーから製造される水素をつかう燃料電池車にかわり、再生可能エネルギーから製造される液体アンモニアを直接燃焼室に噴霧することが可能で高価な燃料電池開発が無意味になります。

この原理の適用は通常のレシプロエンジンのように同一シリンダーでは無理でしょう。径は小さくストロークの長い膨張シリンダーと、径の大きな短めのスト ロークの空気圧縮専門のシリンダーに空気溜めをつけ。噴流を切り替えるスライド弁を組み合わせれば、可能かなと思っています。構造は通常のエンジンよりは すこし複雑となります。

本圧縮燃焼方式が過去に提案されてこなかったのは、空気噴 流の衝突によって、安定で十分な圧縮ができると思わなかったことがあげられます。無意識に近い日常生活の中では、「空気は軽いもの」とみなしており、それを衝突させても大きな動力になるとは想像しにくいかもしれません。だが、例えば、音速の10 分の1 程度の台風の突風が家屋を壊すことなどを思い起こせば、音速レベルの多数の空気噴流をパルス状に衝突させることによって、高圧力・高圧縮可能と合点がゆく はず。高速気流の噴流を燃焼室中心で衝突させるためには、噴出する気流が吸気管の軸線方向に真っすぐ噴出ことが必要だが、従来の自動車・バイク用4 ストロークレシプロエンジンでは、吸気噴流の噴出方向に傘つきバルブ(ポペット弁)があるために、気流が四方に飛散してしまい、燃焼室中心部で安定に衝突 させることができなかったことが、今までなされてこなかった理由のひとつだと考えられます。

LPG・CNG車

LPGを鋼製圧力容器(ボンベ)から気体として取り出し、点火栓エンジンの燃料とする車両をLPG車とよびます。タクシーの燃料として普及しております。 宅配業者ヤマトはLPG車を使っております。

天然ガスを200気圧のガラス繊維強化プラスチックボンベにつめて点火栓エンジンの燃料とする車両を圧縮天然ガス(CNG)車と呼びます。専用の給ガス・ ステーションか都市ガスまたはバイオガスを圧縮して使います。佐川急便はCNG車を使っております。三菱自動車はCNGとガソリン併用の軽商用車を市販し ています。CNG車への改造は部品が市販されているので可能で す。城 東自動車な どが手掛けています。都市ガスまたはバイオガスの小型 充填装置は自動車と原則的に1対1または2対1で設置する小型の燃料供給装置です。ガスを自動車の最高充填圧力まで昇圧し、自動車に供給する装置 です。一般の家庭に引かれているガス管に接続すれば、家庭でも使用できます。取り扱いも簡単で、誰にでも操作できます。高圧のガスを貯める蓄ガス器を持た ないため、充填には数時間程度かかりますが、無人運転が可能で利用できる天然ガススタンドが近くに無い場合や、少数の天然ガス自動車を運用する事業者等に 適 しています。

CNGの公的補助金は2011より削減され、乗用車へ の補助金は廃止されたので普及にブレーキがかかるかもしれません。ただ世界景気が回復し、ガソリン価格が上昇に転ずれば期待できのではないでしょうか。


ハイブリッド車

ハイブリッドの商業車を始めて開発したのはフェルディナンド・ポルシェで1900年のことです。はじめはイン・ホイール・モーター方式の電気自動車でした が、後続距離を伸ばすためにガソリンエンジンを搭載したのです。 いわゆるシリーズ型のハイブリッド車でした。しかし、ガソリン燃料の普及とともに廃れてしまいました。1968年にトヨタの中村健也がガスタービン・ハブ リッド車を試作しています。これもシリーズ型でした。1994年になり、中村健也の薫陶を受けた塩見正直が新規開発車にガソリンエンジン・ハイブリッド開 発を提案し、副社長の和田明広が支持して開発が始まりました。

通常のオットー・サイクル・エンジン搭載車のエンジン定格効率は28%前後です。しかし車が交差点などに止まるとき、エンジンをアイドリンさせると、キャ ブレターのスロットル弁が閉じ、吸入空気の圧縮損失は更に10%増えます。動力伝達系の損失が2%あるため、こうして市街地の平均タンク・ツー・ホイール 効率(Tank-to-Wheel Efficiency)は100-72-10-2=16%になってしまいます。この16%のうち、3%が空気抵抗で空気を温め、4%が車体のタイヤとサス ペンジョン系のダンパーで熱に変換され、9%が制動時に熱になります。空調機などを使うとアクセサリー損失として2%位ありますが 、以下の比較では0%としました。

図-7.2 オットー・サイクル・エンジン搭載車の伝統的エネルギー収支

トヨタが開発したハイブリッド車は先に紹介しましたミ ラー・サイクルエンジンを搭載し、定格効率38%という高性能をだすことができます。

これに加えエンジン効率の低いところではエンジンを止め、モーターで駆動してアイドリング時の原動機損失と低負荷時のエンジン損失を低減しました。また減 速時、ブレーキで慣性エネルギーを熱にしないで発電機で電気として回収し、ニッケル水素電池に蓄えるものです。頻繁に充電しますので高価なバッテリーが小 さくてすみます。搭載している車輪までの間に6%のロスがあっても回生動力の5%のため車両効率は37%を達成しております。

発電機とモーターを別にして、エンジンに直結した遊星歯車を介して結合しています。これはパラレル型のハイブリッドで機械的にはもっとも複雑でコスト高で すが、市街走行での効率は最も高い方式です。

ニッケル水素電池は開発当初40万円もしました。この寿命を10年にするのに苦労しています。電池の電圧は288Vです。

1990年以降電車にも使われるようになった高圧でかつスイッチング速度の速い絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT, Insulated Gate Bipolar Transistor)6個をスイッチングして交流を生み出すインバーターを内製化しました。それまでの小型インバーターで使われた 電界効果トランジスターMOSFETやBT(Bipolar Transistor)に比べ 、熱損失は小さいのですが、それでも数kWは損失となります。今後は熱に強い炭化ケイ素や窒化ガリウムを使うBT(Bipolar Transistor)が開発されるのかもしれません。

レアアースの ネオジム合金の永久磁石を使う交流の同期モーター、発電機も同じく内製化しました。モーター、発電機いずれも専用インバーターを持っています。空調機もエ ンジン直結ではなく、専用インバーターで直交変換して交流モーターを駆動しております。動力系の回路の最大650V、実行値は350Vです。

昇圧コンバーターは昇圧用のIGBTのオンオフと降圧用のIGBTのオンオフにリアクトルとコンデンサーを組み合わせて電池系のDC200Vを最大 DC600Vまで昇圧してインバーターに供給し、逆にDC600VをDC200Vに降圧します。

DC12Vの補機系と電池系DC200VはAC変換後、トランスで降圧して整流・平滑化するDC-DCコンバーター用意しました。

図-7.3 ミラー・サイクル・エンジン搭載ハイブリッド車のエネルギー収支

ミラー・サイクルエンジンの欠点は圧縮比が少ないためエンジンブレーキが弱いことでしょう。通常は回生ブレーキがこれを補います。ただ電池が満タンになっ ているときはバッテリーの過充電防止回路が働いて回生失効が起きることもありえます。回生失効という事態にならないためにバッテリーを満タンにしない制御 が重要となります。摩擦ブレーキはアンチスキッド機能(ABS)がついているため、弱いエンジンブレーキと摩擦ブレーキで減速しているときにたまたまに凸 凹道を通過するとアンチスキッド機能が横滑りを起こしたと誤認して一瞬摩擦ブレーキを緩めることがあります。不幸にもこのとき追突事故が発生 することもあります。日米でリコール問題になった原因の一つです。

ハイブリッド車はエンジン発電機を搭載して、高価なバッテリーを小さくしていますが寿命を長く維持するための過充電、過放電防止回路を持っていて、電池を 保護しておりますから古い車は回生ブレーキの出番が少なくなり、総合効率は低下してゆくでしょう。 中古車はこのような意味で問題をかかえます。ユーザーが勝手に純正品とことなるバッテリーに交換することは安全にもかかわってきます。

バッテリーをニッケル水素電池から後述するようにパソコン、携帯電話など携帯電子機器の電源として成功したリチウムイオン電池に変え、電池を大型化すれば プラグイン・ハイブリッドになります。

ハイブリッドの組み方には発電機とモーターを共用する簡単な構造も考えられますし、4輪独立駆動方式も考えられます。4輪にそれぞれ独立のモーター・ジェ ネレーターを装着し、バッテリーと結び、エンジン発電機はバッテリーとだけ結ぶのです。ドライブシャフトとデフが不用となりますので重量が軽減されて燃費 は更に改善されます。トヨタの遊星歯車での連結はコスト的に優れていますが、いずれそうなるのでしょう。問題は慶応大学の清水浩教授が 電池自動車で実験したようにモータージェネレーターを軽くしても車輪径も小さくするか幅を少なくするかしないと車輪重量と車体比が増し、サスペンジョンシ ステムの設計はより難しくなるかもしれません。車輪径が小さくなるとタイヤの交換頻度があがるとか、ネオジム資源が心配にはなりますが。

図-7.4 慶応大学の清水浩教授の電 地自動車

ホンダのハイブリッド車インサイトは吸入・排気弁を自動調節することにより負荷に応じて気筒をアイドリングさせる可変エンジンを開発して損失を減らす対策 をしています。停止時にはアイドリングストップ、発進時はモーターアシスト。クルーズ時は4気筒休止 してモーターで走行します。減速時には4気筒休止して、減速エネルギーは回生します。モーターはフライホイールと一体設計です のでエンジンルームを大きくする必要はなかったということです。トヨタハイブリッドより多少効率は悪いのですが、大幅なコストダウンに成功しました。

エンジンに早稲田大学教授 内藤健が考案した多重衝突噴流圧縮エンジンを使うのも考えられます。


CNGハイブリッド車

文字通りCNGを燃料とするハイブリッド車。通常自家用車は週末の外出に使う程度でほとんどの時間はガレージに駐車した まま使われません。

一方家庭用コジェネは燃料電池で熱効率が40%になったとしても、温水貯蔵、屋内温水配管などの設備がかかり、燃料電池 もコストもさがりません。

ハイブリッド車はミラーサイクルを採用して効率は高いし、ターボチャジャーを装着すれば、ミラーサイクルを採用して減っ た出力を回復できます。バッテリーがあるため、エンジンはエンジンをオンオフ制御して最高効率で使えます。都市ガスをベビコンで圧縮したCNGを燃料とす れば、CNGの高圧を利用した副室インジェクション点火が使えますので希薄燃焼を導入して更なる効率向上も可能となりましょう。

この高効率パワートレインを有効利用して停車 中はハイブリッド車のパワートレインを使って家庭用のPVのバックアップに使えます。これをコジェネのかわりにコ・ユースとでもよびましょう。

コ・ユースは車載パワートレインの稼働率を上げる手段です。こうして都市ガスの価格と電力費の差額にPVと都市ガスコ ストを押し込むことができます。このコ・ユースがフィージブルになるのは配電網にかかるコストが不要となるからです。

PVとパワートレインは200VのDCで連結し、そこからAC200Vへ変換して家庭電化製品に供給するのがよいでしょ う。ハイブリッド車を乗り回すのは 家族一緒を前提にすればバッテリーをダブルにもつことは高価ですからパワートレインに組み込まれたバッテリー以外はもちません。車を乗り回しているときは 昼間のPV電力だけで冷凍庫を動かし、夜間は不在ですから冷凍庫を空けることもありません。家族一緒で移動しないときはバッテリーアシスト自転車でという ライフスタイルを採用する家族向きといえます。

コ・ユースが成功すれは実質的な小口電力の自由化を達成でき、国家によって与えられた電力会社の特権的電力事業独占とい うビジ ネス・モデルは崩壊するのではないでしょうか?

図-7.5 CNGハイブリッド 車をつかった家庭用PV+ガスエンジン自家発電


圧縮空気車(Compressed Air CarまたはAir car)または空気ハイブリッド車(Air Hybrid)

インドのタタ・モーター、フランスのMDIが試作。圧縮空気を貯蔵するタンクに関しては、すでにISO規格が存在する(ISO 11439)。それによると、軽量化のため炭素繊維が用いられ、30MPaの圧縮空気を貯蔵することが求められる。

30Mpaの圧縮空気は50Wh/liter、鉛蓄電池は60-75Wh/liter、リチウム・イオン電池は250-620Wh/liter、ガソリンは9,400Wh/literですからまんざらすてたものではありません。

空気エンジンは第二次大戦では魚雷の推進器として使われました。空気を圧縮するディーゼルエンジンを車に搭載すればハイブリッド車になります。ただ空気を除湿しないと膨張による温度低下で凍りつきます。そのため膨張前に燃料で加熱の必要があります。

2011年9月には、豊田自動織機の社員で結成されたクラブが、カーエアコン用高効率なスクロールタイプ・コンプレッサを逆転させてスクロール膨張機とし てつかう、インホイール空気エンジンを開発しました。スクロール式の空気エンジンは世界初。出力は11.3kW、最大トルクは46.8Nm、空気エンジン 車としては世界最高となる時­速129.15kmを記録したという。車両には300気圧の空気ボンベが搭載されており、これを20気圧に下げてエンジンに 送り込みます。エンジンではこれを2気圧まで膨張させることで、回転するエネルギーを得ている。タイヤは前2、後1の3輪。トランスミッションはなく、電 気系統もなく、バッテリも搭載されていない。アクセルペダルによる圧縮空気の流量調節のみでスピードを制御し、アクセルを離すとエンジンブレーキがかかる 形となり、最後は前輪のブレーキで停止する。ちなみに、パワーウェイトレシオは手元の計算でおよそ6.51kg/psとなります。

問題としては300気圧の空気ボンベには疲労による寿命があるということで一定のサイクル毎に交換が必要になります。

2013年1月、望月氏が仏プジョーがバッテリー不要の新型ハイブリット車、ハイブリッド・エアシステムで駆動する車を開発して日本車に対抗という Reuters記事を送ってきました。 根幹技術は独自動車部品大手ロバート・ボッシュと共同開発という。ガソリンエンジンと圧縮窒素による駆動力を組み合わせる新技術で、従来のハイブリッド車 に比べ軽量化し、排出削減コストを半減できるとしています。圧縮窒素により油圧モーターを稼動させる仕組みで膨張窒素は低圧タンクに蓄え循環させる。ブレーキ時の動力も回収できる。市場への投入は2016年ごろを目指しており、2万 ユーロ(2万6,600ドル)を切る価格設定を見込んでいるそうです。

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二次電池車

電池電気自動車は1キロメートル走行当たりの二酸化炭素排出量は49グラムを達成できます。二酸化炭素を発生しない原発の電力がかなり貢献しています。 ウラ二ウム資源があれば原発電力、ソーラーセルしかなくなったらソーラーセル電力で二次電池を充電して車を走らせます。しかしいまだ実用に耐える安価で無 給電航続距離を満たすバッテリーを開発できていません。

2009年6月、三菱は1充電で4人乗、160km走行できるように16kWhのユアサ製のリチウムイオンバッテリーを積んだアイミーブという電池車を 460万円(補助金により320万円)で市販開始しました。販売対象は一般市民ではなく、官庁や企業です。電力消費は125Wh/kmとのことですが空調 を働かせたら消費量は増え、走行距離は短くなります。電気代金は深夜電力で1円/km、昼間3円/kmとのこと。 三菱のリチウムイオンバッテリーの価格は車体価格のほぼ半分とするとバッテリーコストは200万円となります。回収電力容量16kWhですから、回収率 85%として充電容量単価は100,000円/kWhとなります。2009年7月トヨタがパナソニックのリチウムイオン電池搭載のプラグインハイブリッド 車を2012年から量産すると発表しました。バッテリーだけで20-30km走行可能とし価格は400万円台としていますのでバッテリー価格は同じレベル にあるようです。

ニッサンはUS LA4モードで160km走行可能のリーフを376-406万円(補助金78万円)で売り出した。2010年の販売予定台数は6000台であるという。す でに予約注文は60%(内36%法人)を確保したという。リーフの24kWhリチウムイオン電池の価格は200万円程度になるという。200Vの交流電源 で8時間充電で200km走行可能。回収率85%として充電容量単価は98,000yen/kW。充電した電池交換方式を採用して車のコストを ガソリン車並に下げる方向のようです。そして毎月の電池リース代を数千円に抑えるとペイしないので充電能力が落ちたバッテリーを再生可能エネルギーのバッ クアップ用に使いまわすことを検討中だそうです。電池交換ステーションへの投資は未定のようです。

カルフォルニアのEVメーカーであるテスラ・モーターはパナソニック製の電気製品向け汎用リチウム・イオン電池を多数パックした電池パック搭載のスポーツ カー「ロードスター」を1,810万円で2010年より市販するそうです。フル充電で380km、時速100kmまでの加速は3.7sとのこと。 専用のバッテリーを開発せず、多量生産している汎用リチウム・イオン電池を多数パックしたところがコストダウンの秘訣だそうですが単価は公表されていませ ん。プラグイン・ハイブリッド車で踏みとどまると思っていたトヨタですが、文系社長のリーダーシップでテスラ・モーターに出資するということです。そして 大衆車を開発するのだといいます。どうなるか見ものです。

2010年11月にはリチウム・イオン電池の単価が60,000円/kWhまで下がったと報道されています。ガソリンと等価になるのは20,000- 30,000円/kWhとされています。電力業界が開発目標にしているバッテリー単価は50,000円/kWhです。 寿命は乗り方にもよりますが毎日乗れば7年です。仮に20,000yen/kWhになったとしても7年乗ってまた40万円のバッテリー買うのたいへんです よ。税金の優遇制度もなくなるだろうし。まず中古車の評価ができませんから中古車市場も成立しません。トヨタのハイブリッドの中古は買うなが常識。バッテ リーがいかれてただのガソリン車に成り下がっているからです。それでもハイブリッド車は動きます。しかしEV車はうごかず、売れず、結局40万円のバッテ リー買うしかないはめになります。

SAPの次期CEO候補だったシャイ・アガシ氏がイスラエルで数万台の電池電気自動車を入らせるべく動いたことがあります。50万基のバッテリー・スタン ドをもうけてソーラーセルで充電したバッテリーを交換するというビジネスモデル でした。 その後、成功したとは聞いていません。三菱自動車やニッサンはシャイ・アガシ氏のように電池をリースとし、充電した電池交換ステーションを多数設置してゼ ロックスのトナーやインクジェットプリンターのカートリッジ商法と同じビジネスモデルを構築することも検討したようです。結局断念したようです。

使えるのは郵便物や宅配業者の集配車くらいでしょう。は20-30km拠点に帰ることから日本では郵便事業会社から採用するようです。 大部分の個人ユーザーはレジャーように自家用車をもちますので給電ステーションのない遠方に出かけるわけですから、EVは役にたちません。またバッテリー 車にはエンジンは搭載されていないため、エンジンブレーキは使えません。減速は回生ブレーキと摩擦ブレーキだけとなります。ということはバッテリー満タン での回生失効の問題はハイブリッド車より大きくなります。

電池車は何度も登場し、退場してきた歴史があります。それはRange Axietyという、航続距離恐怖症ともいうべき、恐怖感から利用者が開放されないという問題があるからです。

 

燃料電池自動車

1990年代にカナダのベンチャー企業のバラード社が固体高分子型の燃料電池の開発に成功しました。これに着目したダイムラーベンツが燃料電池車の開発に 乗り出してから、世界中が開発フィーバーに感染しました。燃料電池は熱機関ではありませんので図-5.1のように火力発電のヒートソース温度3,000oC の理論効率83%を達成できると期待されました。

しかし10年以上の研究の結果、現時点では表-5.12燃料電池の分類のように自動車につかえそうな固体高分子型で40-47%程度の効率しか達成できて おりません。燃料電池はその原理上、水素燃料を必要とします。炭化水素燃料からの水素への転換で20%程度のエネルギーが損失となります。常温で作動する 固体高分子型の燃料電池の効率は40%を少し越える程度ですからWell to Wheel効率または総合発電効率は32-38%程度にしかなりません。実際に市販されている改質装置を含む家庭用燃料電池の総合効率は表-5.32のよ うに38%です。というわけで期待に反し総合効率はハイブリッド車程度に低下してしまいます。

効率論争を別にしても燃料電池は電極に希少金属の白金やパラジウムを使うため未だにコストダウンにも成功しておりません。尾崎純一群馬大学・東京工業大学 教授がナノメートルレベルの微細な球状(ナノシェル)の炭素原子の構造体に触媒作用があることを発見し、「カーボンアロイ触媒」と命名しました。白金の代 替としてこのカーボン・アロイ触媒がつかえるかどうかNEDOの資金で研究されていますがどうなりますか?2010年、京都大学の北川宏教授はロジウムと 銀からパラジウム代替合金ができることを発見しました。実用に耐えるかはまだ未知数です。

また寿命が短いのもコストパーフォーマンスを妨げています。バラード社が採用したダウ社の部分フッ化膜(ダウ膜)であるトリフロロスチレン膜は強度が弱 く、技術提携していた荏原バラード社は2009年5月、解散を発表しました。 ナフィオン膜タイプはイオン交換容量(スルフォン酸基の濃度)が十分でなく、80oC以上では膜が乾燥して使えません。また0oC 以下では凍結するという問題もあります。更にナフィオン膜タイプは高価です。

最新式のLNGコンバインドサイクル火力発電の効率59%にもはるかに及びません。むろん開発中の固体酸化物燃料電池の効率は60%程度になりますが、作 動温度が600oCで自動車用には向きません。 このように炭化水素燃料から水素を製造する限り、燃料電池はそのメリットを発揮することはできないではないかと考える者です。以上を皮肉ってフュエル・セ ルをフール・セルと 呼ぶ人もいます。

ホンダはFCXクラリティという350気圧の圧縮水素ガスボンベを登載し、固体高分子膜型燃料電池とリチウムバッテリー登載車を国内では企業と官庁向けに リース販売を2008年秋に開始すると発表しました。水素ベースでの効率は60%のようですがほうとうでしょうか?製造コストは数千万円といわれているの に米国での個人へのリース代金は月額600ドル(6.6万円)です。破格の低価格です。日米合計200台限定に見られるごとく、これは採算に乗せるビジネ スではなく、企業イメージ向上のための宣伝費と考えられます。

静観していたトヨタは2015年には燃料電池車を500万円で販売開始と2010年に公表しました。水素燃料供給は今のところ名案はないようです。

ト ヨタ自動車は、米国最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」(ラスベガス、2014年1月7日〜10日)の開幕前日に、 米国市場における燃料電池車(FCV)の市場投入計画を明らかにした。2015年に量産車を投入することに加えて、水素ステーション(インフラ)の拡充に 向けて取り組むという。カリフォルニア州の主要地域で1万台のFCVを運用するには、68カ所の水素ステーションが必要になるという。こうした調査に基づ いて、トヨタ自動車はカリフォルニア州と、2015年までに新たに20カ所、2016年までにさらに40カ所の水素ステーションを設置する検討を進めてい ることを明かした。新しい燃料電池スタックは出力密度を3kW/Lと、SUVタイプのFCV「トヨタFCHV-adv」に搭載した現行の燃料電池スタック のそれの2倍以上に高めた。粒径数μmレベルの白金系触媒を凝縮させずに塗布する技術を使った、電極の形成技術が出力密度の向上に大きく寄与したという。 加えて、FCシステムに高効率の昇圧コンバータ(DC-DCコンバータ)を搭載。昇圧コンバータで燃料電池の電圧を高め、モータの回転数を引き上げて高出 力化する方法を採用した。この方法により、駆動用モータを小型化し、燃料電池のセルの枚数を減らして燃料電池スタックのコンパクト化を図った。なお、コン パクトでありながらも、燃料電池スタックの出力は100kW以上を確保している。(二次電池とのハイブリッドで?)70MPaの高圧水素タンク2本と減速 エネルギーを回生充電する2次電池については「Liイオン2次電池にするかNi-MH2次電池にするかはまだ検討中だ。電池容量は、ハイブリッド車 (HEV)と同等にして床下部分に配した。これにより低重心となり、操縦安定性など走行性能が高まるという。燃料の水素を満充填するために要する時間は3 分程度と、ガソリン車並みに短い。また、満充填にしたときの実用航続距離は500kmで、JC08モードでは700kmに達するという。燃料電池スタック に必須だった加湿モジュールを不要にした他、水素タンクの内製化など、市販化に向けて着々と準備を進めている。コンセプトモデルの大きさは、全長4870 ×全幅1810×全高1535mm。ホイールベースは2780mm。乗車定員は4人。

 

水素燃料供給方式

<水素のパイプライン輸送>

東京の都市ガス網の埋設配管口径をそのままにしてコークス瓦斯を天然ガスに切り替えるだけで、輸送エネルギー量を倍にできたことをご記憶の方も多いとおも います。ちょうど電圧を2倍にすることと同じです。ガス圧力を高めれば水素が配管壁に中に浸透し、鋼をもろくさせます。水素はエネルギー媒体として優れて いるところはありません。

<高圧ボンベ>

CNGと同じように薄いアルミ容器に炭素繊維をまきつけた、350気圧150リッターの車載タンクが開発されました。現時点で700気圧も開発されています。これで燃料電池車の燃料タンクとして 使えますが、マツダはこの高圧ボンベを搭載したロータリーエンジン・ハイブリッド車を開発しました。最大走行距離が200km走行可能で水素タンクが空に なればガソリンで動くことが売りです。ただ水素供給ステーションは資源エネルギー庁が用意した実証用のものだけで、圧縮動力消費もバカになりません。
吸入圧0.6Mpa、吐出圧40Mpa、100Nm3/h(9kg/h)の往復動圧縮機の消費動力は37kWです。水素の燃焼熱は33.9kcal/gですから、圧縮動力/メタン燃焼熱=10.04%

資源エネルギー庁が実証研究用に準備した圧縮水素ガスステーションは関東地区に8ヶ所です。関西にも若干ありますが、実用に耐えるものではありません。主 として石油精製工場で脱硫用に製造している水素ガスまたはメタノールやLPGを改質して製造した水素ガスを圧縮したものですが、水電解で製造しているもの もあります。アンモニアを熱分解して、水素を膜分離で窒素混合ガスから分離して使う方式も考えられます。


<液化水素>

水素を冷却液化して車載燃料として使うという試験もなされました。技術的には可能です。しかしその動力消費はどんなものでしょう?どのくらいの液化動力が 必要か天然ガス液化動力から超概算してみましょう。メタンを液化してLNGにする時、メタンの燃焼熱の約7%のエネルギーを液化動力発生用に自家消費しま す。動力発生サイクルの熱効率を40%としますと液化用消費動力/メタン燃焼熱=28%となります。

図-7.6 液化用消費動力/燃焼熱

ヒートシンク温度TH=35oC、沸点-161oCのLNG液化用消費動力/燃焼熱= 2.8%となる1/COP曲線を-253oCの水素を液化温度まで外挿すると図-7.6のように 水素液化用消費動力/水素燃焼熱=23%となります。

WE-NETの2段ターボエキスパンダー方式の水素液化機30t/dの消費動力はターボ式で 7,673kW動力サイクルの効率を40%とすると液化に必要な熱は19,200kWとなります。水素の燃焼熱は33.9kcal/gですから、 30t/dの水素の燃焼熱は49,282kWとなり、水素液化用消費動力/水素燃焼熱=39%となります。容積型のコンプレッサーを使えばも少し損失が減 ることが期待されます。

石油から水素に変換する時のエネルギー・シュリンクが約30%あるでしょうから、液化で23%失えば、残りは46%しか残らないことになります。宇宙旅行 は兎も角、車載液化水素燃料の普及はむずかしいのではないでしょうか。

関東地区には有明に液体水素を供給する資源エネルギー庁の実証研究用ステーションが1ヶ所だけあります。液体水素自動車はBMWが2007年から一般ユー ザー向けにBMW Hydrogen 7というレシプロエンジン搭載でガソリンとの切り替え式の車を開発しましたが、米国などでの少量の試験販売に留まっています。

水素吸蔵物質>

水素吸蔵合金は重く、吸蔵熱が大きく、劣化もはげしく実用化には至っていません。せいぜいニッケル水素蓄電池に使われる程度です。カーボンナノチューブに 吸蔵させることも検討されましたが、夢で終わりました。その他、各種吸蔵物質が試されました。例えばジャドー・パワーシステムズ社(Jadoo Power Systems)のアンモニアボラン(Ammonia Borane)とシロキセン(Siloxene)の2種類の水素化物燃料、NEDOや日本企業の各社ではシクロヘキサン-ベンゼン系とデカリン-ナフタレ ン系などの有機ケミカルハイドライド(organic chemical hydride)、金属錯体、無機錯体系のリチウムイミド4Li2NHと窒化マグネシウムMg3N2をTi触媒で水素化して60気圧程度で貯蔵することも 研究されています。しかしこれも吸蔵物質の劣化が激しく、いまだ実用化には遠い感じです。吸蔵物質の最大の欠点は運ぶ水素の10倍近い物質を回収再利用し なければならないことです。運ぶためには空気中の窒素を担体にすれば担体はワンスルーとなり回収再利用する必要がありません。即ち水素をアンモニアに転換 して燃料とするのです。

以上高圧ボンベ、液化水素、各種吸蔵物質法の体積貯蔵密度、質量貯蔵密は第四章水素の大規模海上輸送の図-4.5 を参照願います。

 

水素を使わない燃料電池

<メタノール燃料電池>

唯一低炭素燃料のメタノールに変換してメタノールを水素に再転換して燃料電池に供給するか、ダイレクト・メタノール燃料電池の燃料とする自動車用に採用さ れる可能性があります。パソコン用などに試作品がつくられましたが普及しておりません。大型の自動車用は1997年にトヨタが自動車を直接駆動する固体高 分子燃料電池向きの改質器を小型化できないで断念し、姑息に圧縮水素燃料に転進したようです。補助金に守られたエネファームは0.7kWの改質装置と PEFCを実用化しましたが、補助金なしでは普及していません。トヨタは水素に入れ込んでいる官僚達に媚びを売ってその補助金で当面ごまかしているにすぎ ません。

2016/8、ニッサンがSOFCを使ってバイオエタノールを燃料にするFCVを2020年までに市場に出すと発表しま した。日産リーフに搭載している電池の性能を2倍にすれば、150kgの電池で航続距離150kmになる。5kWくらいの出力を持つエタノール改質型の燃 料電池が150kgの重量で作れるなら、5kWの出力を持たせることにより走りながら充電出来てしまいます。5時間稼働させると25kWhの電力を作れる 計算です。この電力だけで170kmくらい走れる。最初に搭載している電池で150km。走りながら発電させた分で170kmの合計320km走れます。 クルマを動かさなければ、燃料電池を使い4時間程度でフル充電可能。「e-Bio Fuel-Cell」テストしているプロトタイプは、5kWの燃料電池を搭載。30Lのエタノールタンク満タンで航続距離約500kmというスペックを持 ちます。100%エタノールでも、水55%を混ぜた「エタノール混合水」すなわち焼酎でも走れてしまいます。そしてSOFCが使えるということであれば、LPGもCNGも燃料にできるということになります。

<アンモニア燃料電池>

工学院大学の雑賀高(さいかたかし)教授によってアンモニアを触媒存在下で650℃程度で熱分解して水素を取り出し、触媒毒となる未分解アンモニアを水洗で除去して燃料 電池自動車を動かす実験が行われました。熱分解式は

2NH3→3H2 + N2

です。この熱分解は吸熱反応で反応熱は46kJ/molとアンモニアの蒸発潜熱1,336kJ/kg (78.4kJ/mol)をアンモニア燃焼でまかなうとすればアンモニアの燃焼熱は380kJ/mol、水素の燃焼熱は284kJ/molであるから、エ ネルギーの転換効率=(3*284-46-78.4)/(2*380)=0.9573となります。

アンモニアの容積当たりのエネルギー含量は20GJ/m3でメタノールとほぼ同じです。容 積当たりの水素含量は135kg/m3であらゆる液体燃料の中で最大です。

高価な燃料電池を使わずともLPG車とおなじオットーサイクルエンジンまたはミラー・サイクル・エンジンまたはコモンレール・インジェクション・エンジンで充分です。マタマイクロ・ガスタービンすら視野には いります。

2050年以降、炭化水素燃料、ウラニウム資源がピークアウトし、一次エネルギーの主力は再生可能エネルギーとなれば、エネルギー効率が求められるでしょ うからアンモニア燃料電池が本命になる可能性があります。

<ヒドラジン燃料電池>

ダイハツが水和ヒドラジンを燃料とする燃料電池を開発しました。白金を必要としない燃料電池でコストダウンが期待されます。しかしヒドラジンの毒性をどう クリアするかという問題は残ります


炭素系、窒素系合成燃料車

<炭素系合成燃料>

石油がピークアウトしても 天然ガスや石炭を原料に水素と一酸化炭素からなる合成ガスを製造します。そしてこの合成ガスから水素、メタン、LPG、F/T合成油(GTL)、メタノー ル、DME、アンモニアなどの 合成燃料を製造します。水素は燃料電池、DMEはディーゼルエンジン燃料としますが、その他はオットーサイクル・エンジンまたはガスタービンの燃料として 利用します。

燃料効率向上にはハイブリッド車が現実的な解決策です。電池車は排出量ゼロですが、バッテリーコストを下げることが困難なため、折衷案としてバッテリーが 小型で済むハイブリッド車が開発され、成功を収めたのです。日本中でリチウムイオン・バッテリーのコストダウンに拍車がかかっていますが、私は燃料電池と おなじくコストダウンが困難という見方です。

ハイブリッド車で先行するトヨタはバッテリーをリチウムイオン・バッテリーにしたプラグイン・ハイブリッド車を2009年に発売開始する予定です。これは まだリチウムイオン・バッテリーが高価なため電池車に完全に踏み切れないためです。

DME、アンモニアは冷凍タンカーで消費国に送り、メタノールはタンカー輸送します。そしてレシプロエンジン搭載の自動車燃料として使えます。炭化水素燃 料が枯渇したとき、太陽光から製造する水素のキャリアとして窒素をつかい、太陽光に恵まれた国で自動車用燃料の生産を行い、消費国に輸送して自動車燃料と するシステムに即転用可能となります。

アンモニアの流通コストはLPG並みで圧力容器で運べますから二次電池車より低コストになる可能性があります。

<炭素系合成燃料製造におけるプレコンバッション回収>

二酸化炭素による気候変動の恐れはなくとも、二酸化炭素の排出で海洋の酸性化が問題となるのならば、この合成過程で二酸化炭素を回収・隔離することも可能 です。IPCCの二酸化炭素回収貯留特別報告書のChapter 8 Cost and economic potentialでは天然ガスを原料として水素ガスを製造するプラントに二酸化炭素隔離法を適用する場合、燃料は4-22%増、コストは6-54%増と しております。

<窒素系合成燃料>

ソーラーセルまたはCSP電力を使うアンモニア電解合成が考えられます。ソーラーセル電力は夜間に電力を供給できないし、バッテリーは高価ですから、電力 をアンモニアに変換して蓄えて、夜間発電に使うということが主流になるのではないでしょうか。

ウラニウムが使えるなら遠隔地の原発電力でつくる水素または直接の電解合成でアンモニアを製造し、それをタンカー輸送して消費地で自動車燃料に使うことが ありえます。

 

アンモニア燃料熱機関

アメリカにはアンモニア燃料普及協会ammonia fuel networkがありま す。これによるとアンモニアが初めてバス燃料に使われたのは1943でベルギーにおいてでした。1960年には米空軍の実験用X-15ロケット機もアンモ ニア燃料を使用しております。1967年には米陸軍がアンモニア燃料をディーゼルエンジンと点火栓エンジンで使う試験をして点火栓エンジンが優れていると いう結論をだしました。性能向上には高度なエンジン制御が必要との知見を得ています。

アンモニアは日本では尿素肥料としてしか使われていないのでなじみがありませんが、ルイジアナからミネソタまで3,000マイルのアンモニアパイプライン が敷設されて 綿花栽培地帯や穀倉地帯においてトラクター牽引の鋤の先からアンモニアを直接地中にすき込む方法が昔から普及しております。リンドン・ジョンソンと綿花栽 培業者とのスキャンダルをもみ消した過去の線上にJFK暗殺があったというバー・マクレランの本があるくらい関係は深いものがあ ります。

<内燃機関>

2004年からアイオア・エネルギー・センターが専門家、投資家、役人を集めて毎年米国内主要都市を巡回しながらアンモニ ア会議を開催しております。 このアイオアで開催されたアンモニア会議で水素ガス燃料の内燃機関を研究していたカナダのHydrogen Engine Center Inc.のTed Hollingerが水素燃料内燃機関を使ったフォード社のハイブリッド車にヒントを見て水素供給が難しいこと、農地に直接アンモニアを注入する流通網が 構築済みであることを考慮してアンモニア燃料内燃機関の開発に着手しました。フォードの破棄された4.9リッター6気筒エンジンをボーリングしなおしてア ンモニア燃料内燃機関にするというものです。2005年のイリノイ州のアルゴンヌ研究所での会議ではアンモニア燃料内燃機関研究の続報を発表しておりま す。ここでは燃料噴射付点火栓エンジンとしております。2007年のサンフランシスコ会議では灌漑ポンプ駆動用として試験運転したということです。 2008年のミネアポリス会議では1,000時間の運転をして継続中であると報告がありました。2009年のカンザス会議の報告はまだネット上には未公表 です。

2007年のサンフランシスコ会議ではアンモニア燃料レシプロエンジンの発表がこの他にもありました。

アイオワ大学機械工学部のAaron Reiter教授らはアンモニア燃料でターボチャージャー付ディーゼルエンジンのテストを行っています。空気とのプレミックスとジーゼル油も使って着火補 助をして、インジェクション・ノズルを改良しなくとも使えることを証明しました。排気ガス中のHC、CO、CO2、NOx、O2は ディーゼル油使用時より減少しました。

utMOST technologies, inc.のHomer Wang博士はターボチャージャーを装着して着火を確実にするために点火栓をシリンダー当たり2個にするとか、電解で製造する少量の水素をアンモニアに混 合して着火性能を上げるとか、殆どディーゼルエンジンに近い領域まで圧縮比を上げて熱効率向上するとか、アンモニア・インジェクションノズルを設けると か、通常の4サイクルに加え水注入、蒸気排気の2サイクルを加えてシリンダー冷却を行い6サイクルにする、吸入排気弁を電磁弁で行うなどのアイディアを公 表しております。ただ水インジェクションはアンモニア燃焼で発生する排気を冷却して水回収を必要とするのでコンデンサーがかさばる可能性はあります。

 

各種方式の比較

東京大学石谷久石谷久教授は表-3.2のような各種自動 車のWell to Wheelの全ての二酸化炭素排出量の比較表を作成しました。

車種 エネルギー入力 二酸化炭素(Well to Wheel )排出量

 

MJ/km

g-CO2/km

電池電気自動車 0.94

49

燃料電池ハイブリッド車 1.5

86.8

ディーゼル・ハイブリッド車 1.2 89.4
ガソリン・ハイブリッド車 1.7 123
ディーゼル車 2.0 146
圧縮天然ガス(CNG)車 2.7 148
ガソリン車 2.7 193
アンモニア燃料ハイブリッド車 1.7 0

表-7.2 1km走行当たりのエネルギー入力と二酸化炭素排出量 (化学工学Vol.71 No.2 2007)

燃料電池ハイブリッド車は燃料電池と回生エネルギーを蓄えるバッテリーを積んだ車です。それでも燃料電池ハイブリッド車の86.8グラムは電池電気自動車 の49グラムより劣り失望を買いました。

自動車専用道路ではエンジンを定格で動かすことができるため、ディーゼル車の効率もよくなり、146グラムです。日本では産業用トラック優遇策として、 ディーゼル油の税率を低く抑え、かつ脱硫率をヨーロッパより一桁低く押さえたため、煤煙が多く発生し、公害が発生しました。技術音痴の石原都知事がディー ゼル車を締め出 したという不幸な歴史があります。ヨーロッパのように深度脱硫した燃料油を燃焼するデーゼルエンジンは触媒による排ガス浄化が可能ですの で問題はないのです。そいてディーゼルは乗用車にも普及しています。日本でももっと使うべきでしょう。ところで日本では産業用トラック優遇策としてディー ゼル油価格を安くしたため、鉄道の貨 物輸送と小型タンカーによる海上輸送はすっかり斜陽産業になってしまいました。輸送エネルギーは鉄道や船が少ないので残念です。

市街地でも効率を良くしようと燃料電池車と同じ程度の効率を持つディーゼル・ハイブリッド車がヨーロッパのメーカーのプジョー、ボルボ、フォルクス・ワーゲンが開発しました。その二酸化炭素排出量は 89.4-99グラム/kmです。日本ではイスズが市販しております。ハイブリッドの本家トヨタは技術音痴の社長ですから動きはありません。

今後の技術開発はCNGハイブリッド車でしょう。これはPVとハイブリッドにする、オフグリッド・アクティブ・ハウスにおいて家庭用夜間自家発にも使えます。コジェネではなく、コ・ユースという概念です。

自動車メーカーで大型トラック・バス用ディーゼルエンジンの排出ガス低減技術の研究開発 に従事していた石田明男氏はディーゼルに比べ15%のCO2削減が可能な軽油着火型天然ガス燃料のディーゼル・デュアル・フュ エル(DDF)エンジンを提唱しております。これはLNGタンカーの駆動エンジンとしても使われ始めています。

このような技術的可能性をベースにして欧州議会は2008年12月欧州で2015年以降に販売される乗用車の二酸化炭素排出量を130g-CO2/km 以下にするように義務づけました。メーカーに科せられる制裁金は95EURO/grです。

走行距離当たりの二酸化炭素排出量を比較した表-7.2をアップグレードすると表-7.3のベージュ色のようになります。水素は前述のように海上輸送が困 難のため、検討の対象に入れていません。カーボンフリー燃料であるアンモニアやヒドラジンは全く二酸化炭素をだしません。

車種 エネルギー入力 二酸化炭素(Well to Wheel )排出量 二酸化炭素削減率(Well to Wheel )

 

MJ/km

g-CO2/km

%

電池電気自動車 0.94

49

75
燃料電池ハイブリッド車 1.5

86.8

55
メタノール・ハイブリッド車 1.7

77.5

60
DMEディーゼル・ハイブリッド車 1.2

54.1

72
ディーゼル・ハイブリッド車 1.2 89.4 54
CNG・ハイブリッド車 1.7 62.6 68
ガソリン・ハイブリッド車 1.7 123 34
DMEディーゼル車 2.0 88.4 54
ディーゼル車 2.0 146 24
メタノール車 2.7 121 37
CNG車 2.7 148 23
ガソリン車 2.7 193 0
再生可能エネルギー転換燃料車 1.7 0 100

表-7.3  1km走行当たりのカーボンフリー燃料の二酸化炭素排出量(ベージュ色)

 

 

再生可能エネルギー転換アンモニア燃料自動車と二次電池車比較

再生可能エネルギーから転換したアンモニア燃料は冷凍アンモニアとしてタンカー輸送し、消費地では加圧ボンベにつめて車載燃料にできます。これを効率 38%のハイブリッド車の燃料として使います。または熱分解して水素にして燃料電池の燃料にするかヒドラジンとして白金を使用しない燃料電池の燃料とする ことも可能です。燃料電池は38%の効率をだしますが、いまだに高コストという問題があります。

給油口の防臭対策を施したアンモニア燃料流通網の構築が必要ですが、既存の給油ステーションの転用が可能です。ただアンモニアは刺激臭があり、劇物に指定 されている物質で、吸引したり液体が目に入ると失明のおそれがあるため、セルフサービスの給油などはできないでしょう。

EV車はリチウムイオン電池とし バッテリーの条件は第5章の二次電池と同じ条件としました。車の稼働率は業務用として0.33、自家用として0.1としました。表-7.4にグリッド電力 で充電する自家用EVの電力費をまとめました。

power cost of grid charged EV of 0.1 unit 2000 2030 2060 2090
power source - grid grid grid grid
type of battery - lithium ion lithium ion lithium ion lithium ion
battery construction cost yen/kWh 100,000 28,000 14,000 14,000
life y 9 9 9 9
power recovery % 85 85 85 85
load factor - 0.100 0.100 0.100 0.100
annual recovered power kWh/y 310 310 310 310
(revenue-fuel cost)/equity %/y 16.35 16.35 16.35 16.35
(revenue-fuel cost)/recovered power yen/kWh 526.99 147.56
73.78
73.78
grid power price yen/kWh 23.00 32.10 30.10
27.80
lost power yen/kWh 3.45 4.82
4.52 4.17
recovered power cost yen/kWh 553.44 184.47
108.39
105.75

表-7.4 グリッド電力で充電する自家用EVの電力費

表-7.5にPV電力で充電する自家用EVの電力費をまとめました。

power cost of PV charged EV of 0.1 unit 2000 2030 2060 2090
power source - PV
PV
PV
PV
type of battery - lithium ion lithium ion lithium ion lithium ion
battery construction cost yen/kWh 100,000 28,000 14,000 14,000
life y 9 9 9 9
power recovery % 85 85 85 85
load factor - 0.100 0.100 0.100 0.100
annual recovered power kWh/y 310 310 310 310
(revenue-fuel cost)/equity %/y 16.35 16.35 16.35 16.35
(revenue-fuel cost)/recovered power yen/kWh 526.99 147.56 73.78 73.78
PV power cost yen/kWh 44.78 16.28 10.18 10.18
lost power yen/kWh 6.72 2.44 1.53 1.53
recovered power cost yen/kWh 578.49 166.28 85.48 85.48

表-7.5 PV電力で充電する自家用EVの電力費

表-7.6に再生可能エネルギー転換アンモニア燃料をつかう効率38%のハイブリッド車と効率98%のEV車の動力費を比較しました。ここでアンモニア燃 料は無税とします。再生可能エネルギーとしては国内風力、国内ソーラーセル、 サンベルト立地蓄熱式CSPとしました。アンモニア電解合成はPCC固体電解質と溶融炭酸塩としました。

trend of wheel power cost (yen/kWh)
  renewables electrohydrolysis 2000 2030 2060 2090
grid power price - - 23.0 33.6 29.8 23.7
gasoline price - - 10.6 16.7 27.6 42.5
ammonia hybrid (hybrid 38%) wind land PCC 106.7 91.4 90.6 90.6
ammonia hybrid (hybrid 38%) PV PCC 276.9 254.0 248.3 248.3
ammonia hybid (hybrid 38%) CSP sunbelt PCC 54.1 48.8 49.0 49.0
ammonia hybrid (hybrid 38%) wind land molten salt 98.9 88.1 86.4 86.4
ammonia hybrid (hybrid 38%) PV molten salt 268.5 249.4 246.2 246.2
ammonia hybrid (hybrid 38%) CSP sunbelt molten salt 52.9 49.6 49.0 49.0
gasoline hybrid (hybrid 38%)  - - 28.0 44.1 72.6 111.8
EV, operation factor of 0.33 (motor 98%) grid Li-ion battery 189.9 120.9 100.2 93.0
EV, operation factor of 0.1 (motor 98%) grid Li-ion battery 564.7 308.3 250.1 242.9

表-7.6 再生可能エネルギー転換アンモニア燃料をつかうハイブリッド車とEV車の動力費

これをグラフにすると図-7.7のようになります。これでわかることは;

@グリッド充電またはPV充電業務用EVの稼働率を33%とした場合、2040年頃、ガソリン・ハイブリッド車とクロスオーバーします。

Aグリッド充電またはPV充電自家用EVの稼働率10%とした場合、2080年頃、ガソリン・ハイブリッド車とクロスオーバーします。

Bサンベルト地帯立地のCSP電力転換アンモニア燃料を使うハイブシッド車とガソリン・ハイブリッド車は2040年頃クロスオーバーします。


図-7.7 再生可能エネルギー転換アンモニア燃料をつかうハイブリッド車とEV車の動力費図



図-7.8 アンモニアエンジン搭載Toyota GT86=R marangoni Eco Explorer   worldcarfans.com



貨物帆船

1980年に航空機の主翼のようなハードな翼を甲板上にマストのように設置し、コンピュータ制御で角度制御して風上にも間切ることのできる700総トンの 帆走タンカー「新愛徳丸」を建造して50%の燃料費の節減を達成し ましたが、まだ石油が安く、2隻目は建造されませんでした。

クリッパー船と同じように横帆を使いますが、ヤードをマストに固定し、セイルはマストにファーリングでき、マストを回転させてセイル角を調整するという新 機軸を有するリグを3本甲板上に設置する1,500トンのプレジャーボート、The Maltese Falconという船が建造され、 世界中を航海しております。ファーリングできることは大きなメリットでしょう。

ドイツでは2007年布製のパラグライダーを巨大にした、帆面積160m2のスカイ・セイルを空 にあげ、貨物船を牽引して20%の燃料費の節約する実用船を建造していると望月浩二氏は報告しております。凧のように揚げるパラセールは大洋の貿易風帯を ずっと追手で走る航海にしか使えません。風が横に振れたり前に回ればセールとたたむしかありません。大圏コースを航海する本船では片道しか帆走できません が、コストが安いため有効でしょう。

いずれにせよ、燃料費が高騰すれば、貨物帆船は実用の域に入るでしょう。

それまでの繋ぎとしてアウリガ・リーダー号という2008年の新造自動車運搬船はデッキ上に40kWの太陽電池パネルを敷き詰め、0.8%の動力源として 使うとしています。

LNGタンカーではスチームタービン駆動ボイラーにエコノマイザーを付け、スチームタービン + モーター駆動にすることにより効率を上げるとか、ディーゼルエンジン+ モーター駆動にするなどして燃料消費量を減らす船が出現しています。ボイルオフガスを燃料にしてもが余りますので再液化装置を搭載するようになりました。

2009年には日本郵船と三菱重工が自動制御帆+ソーラーセル+アルゴフロートの海流観測データ利用+炭素繊維による軽量化+船底泡膜による摩擦損失低減 +LNG燃料電池+ハブ渦対策としてのプロペラ・ボス・キャップ・フィンズ(PBCF)装着等を全て利用して69%削減する貨物船の建造を発表し ました。それぞれの二酸化炭素排出削減効果は表-7.7の通りです。

採用技術

二酸化炭素排出削減効果(%)

自動制御帆 4
ソーラーセル 2
アルゴフロートの海流観測データ利用 9
炭素繊維による軽量化 9
船底泡膜による摩擦損失低減 10
LNG燃料電池 32
商船三井開発のPBCFによるスクリューの泡損失低減 5
合計 69

表-7.7 貨物帆船の二酸化炭素排出削減効果

 

北極海航路開発

グローバル・ヒーティングで北極海の海氷が溶けています。それならこれを利用して北極海航路を開拓して輸送にかかるエネルギー消費を節約することも考える べきでしょう。中国がアイスランドに拠点を設けて北極海航路開発に意欲的です。

ロシアも積極的で2012/11/7原子力砕氷船を伴ったロシアのLNGタンカーがノルウェーの北極海にある Melkoya IslandのHammerfestにあるスタッド・オイルのLNGプラント(リンデ社製)を出航、温暖化で開けた北極海航路とベーリング海峡経由 12/5北九州戸畑の九州火力に到着した。スエズ経由の6割ですむという。今回はあくまで実験。ロシアとしては既設のサハリンと建設計画のあるウラジオス トックからの輸出が目的ではある。

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最終稿 April 1, 2007

Rev. January 22, 2018


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