読書録

シリアル番号 945

書名

クリーンエネルギー社会のおはなし

著者

吉田邦夫

出版社

日本規格協会

ジャンル

技術

発行日

2008/3/24第1版第1刷

購入日

2008/4/29

評価

昔の上司の小松さんに紹介される。著者は元東大工学部長で1938年生まれだから私と同い年だ。データが多い本との評価であった。目次は

第1章人間社会とエネルギー

第2章石炭エネルギー

第3章天然ガス

第4章自然エネルギー

第5章原子力

第7章水素エネルギー

第8章エネルギーシステムの将来

とのことだった。第7章水素エネルギーという章はお笑い。水素という資源は地球上には存在しない。当然化石燃料を変換するか、ソーラーセル、集光型太陽熱発電の電力から変換して作るわけ。 安全上大いなる問題ではあるが理論的には核分裂の熱から熱化学的方法でも作れる。水素エネルギーという概念は1974年のオイルショック後に設立されたNEDOのサンシャイン計画から始まっていると著者はいうが石油産業の落とし子ブッシュ政権の間違った政策に乗せられた面も忌めないだろう。これに乗ってしまった日本の学者やNEDOの恥をさらすものではないかと思う。私がグローバル・ヒーティングの黙示録」 という一文を書いたのも水素エネルギーという概念に反発したためだ。化石燃料がなくなるころはウランもなくなっているだろうが、仮に原発が残ったとしてもトップダウン型のエネルギーの配給は電力で行われ、水素ガスが代替することはないだろう。電力は蓄えが利かないから水素にして蓄えて燃料電池で再度電力に もどすという手はある。しかし揚水発電、超伝導磁力平衡コイル、フライホイール、二次電池で も代替できる。とくに自動車は軽量な二次電池だ。太陽光発電が安くなれば分散発電となるのでトップダウン型のエネルギーの配給はバックアップを除き不要となる。水素エネルギーという概念はかわいそうな人民にエネルギーを与えねばと思い込んでいる役人の思い込みに過ぎない。それに学者が迎合してしまってどうする。

この本は最近発行されたばかりだが第4章自然エネルギーには自然エネルギーへの転換は急速に進む予感がする「リニア・フレスネル鏡を使うCSP発電プラント」とかCIGS金属化合物型半導体のナノ粒子を金属フォイル上に塗布して薄膜を形成し、その上に電極となる透明電気伝導性薄膜をコートするという安価な製法のソーラーセルの実用化には言及されていないだろうと判断した。

本屋に出かけて手にとってみると予想の通りの本であった。ただ日本政府とNEDOと学会が取り組んできた歴史は簡潔に要領よくまとめられていたので反面教師として買った。著者は エネルギー開発、省エネルギー、環境技術分野の政府委員を務めていたとか。政府が水素エネルギーに突っ込んでいった研究路線に責任のあった人だ。NEDOの広告塔のような書きっぷりで最後に燃料電池に突っ込み過ぎたと反省しているが、水素エネルギー=燃料電池なのだから自己矛盾ではないのか? この程度の人が政府委員をしているから国を誤ることになるのだ。

この本に引用されている発電単価は科学技術動向研究センターが作成したもののようだが、古いデータだ。算定基準も示さず、著者自らなにもチェックせず、無批判に引用しているだけである。それに風力や太陽光のバックアップコストの代わりに回避可能原価として燃料費相当を加えているが、論理的に無意味だ。燃料も炊かず待機している発電設備の資本費こそ算入すべきであろう。

電力の負荷変動とバックアップ

太陽電池も量産効果によってコストダウンとしか書いてない。新規な製法と書けなかったところにこの先生の限界がある。若い人がこういう本を読んで再生産されると、米国のようなダイナミックな発想は出てこないのではと危惧する。現に日本は地球温暖化には関心がないと思われていた米国のシリコンバレーにソーラーセルのコストダウンで完全に先を越されている。それも大量生産技術によってではなく、新規な製法の開発によってである。

二酸化炭素の地中隔離や海底隔離は紹介されているが海洋隔離についてはIPCCの報告書を読んでいないらしくまったく触れられていない。

学会のリーダーが政府委員となって役人の顔色をうかがっているからこういう本を書いてしまうのだ。そもそも石油税を道路目的税とし、その見返りにNEDOに巨額の予算をつけるところに間違いのもとがある。 目的税の廃止とともにNEDOの予算の裏付けがなくなるからよしとしよう。民間もつまらぬテーマにつき合わされなくて、本来の研究開発に専心できる。OECDのなかで一番教育費/GDP比が低いという文部省に予算を配分しないとグローバル化の時代に他国に伍してゆけないかなと思うが、文部省も経済産業省に輪をかけてなさけない役所だから民がしっかりしなければいけないのだろう。


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