'98年9月


「永遠も半ばを過ぎて」
中島らも 文春文庫

 映画「Lie lie Lie」の原作という事で読む。自動書記する写植屋、詐欺師、アル中の出版者という組み合わせの妙の面白さは映画と同じ。
 映画「Lie lie Lie」は、ストーリ構成、特に時間の流れがちょっと複雑で、原作から随分と書き換えているのかと思っていたら…これが、原作そのままなのでちょっと驚いた。原作ではさらに、三人それぞれの一人称という形で構成されている。これが時制が入り組む理由であるが、映画ではそのまま借用しているので、ちょっとヘンな感じを与える。映画では波多野、相川の方はまだ視点の切り換えがしっかりしていたが、宇井美咲から流れが変わってしまってイマイチだったような。

 中島らもの「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」にも出てくるが、学生時代に自動書記に凝っていたよう。「永遠も半ばを過ぎて」にペイシェンス・ワースなんて出てくるのはその影響。でも、こういう似非科学って嫌いみたいで、その結果が「ガダラの豚」に結実しているのが面白い。

→ 映画「Lie lie Lie」感想


「天使の囀り」
貴志祐介  角川書店

 平成八年「ISOLA」が第三回日本ホーラー小説大賞長編佳作(「十三番目の人格<ペルソナ>-ISOLA-」に改題)、「黒い家」が第四回日本ホラー小説大賞受賞になった貴志祐介。面白いという事で勧められて借りて読む。貴志祐介の小説はこれが初めて。

 博識ではあるけど、知識の寄せ集めで小説書いているな、という気がするけど、それなりには面白いけど、後に残る所が少ない。ストーリ的には竜頭蛇尾、ラストの方はこじんまりと収束してしまっている。死恐怖症タナトフォビア、蜘蛛恐怖症、メサイア・コンプレックス、ドーキンス「利己的な遺伝子」、新興宗教、大脳生理学など今風な話題を混ぜ混んでいる感じ。


「神の鉄槌」
- The Hammer of God - Authur C.Clarke
アーサー.C.クラーク

 映画「ディープ・インパクト」の原案となった小説。原作としての映画化ではなく、アイデアを使っている原案程度の関係である。
 2109年、太陽に接近しつつある小惑星が八ヶ月後に地球に衝突するという。宇宙船「ゴライアス」が特殊任務で小惑星へ向かう。

 クラークは「宇宙のランデヴー」の冒頭でも隕石による惨劇を語っているし、「シヴァ神降臨」、ニーブン&パーネル「悪魔のハンマー」、映画「メテオ」など小惑星衝突の回避というのはネタ的には新鮮では無いけれど、22世紀の太陽系世界、イスラム教キリスト教が結びついた電子の宗教クリスラム教などなど、クラークらしい正統的ハードSFの描写が楽しめる。

→ 映画「ディープ・インパクト」感想


「古本探偵の冒険」
横田順彌 学陽書房

 本の雑誌社「探書記」に、「本の雑誌」連載「地獄の資料館」というタイトルで書いていたものを加筆訂正、文庫本特別増補したもの。
 横田順彌は本来SF作家であるので、「日本SF古典こてん」に出てくる様な話はそれなりに面白かったけど、もう一つの興味である早慶戦についてはまるで興味が起きなかった(^^;)。本の面白さというのは感じられず、全般にはあんまり面白くなかった。


「ホログラム街の女」- Dydeetown World - ☆
F.ポール・ウィルスン ハヤカワ書房

 F.ポール・ウィルスンと言えば、1981年の「ザ・キープ」から「マンハッタンの戦慄」「触手タッチ」「黒い風」「闇から生まれた女」とホラーの大家という印象があるけど、最近は医学サスペンスも書くし、70年代には純粋なSF作家だった。この「ホログラム街の女」はSFもの。"Dydeetown Girl"、"Wires"、"Kids"の中編3つを組み合わせて加筆し一編としてある。

 依頼人はクローンの娼婦、主人公はハードボイルドな探偵、舞台はサイバーパンクなダイディータウン、…なんて設定とは言えクローンやロストボーイズに対する愛情はウィルスンぽい人間らしさがあっていい。


「メタルカラーの時代5」
山根一眞 小学館文庫

 やはり、技術者としてはこのシリーズをすべて読むのは義務だと思う(^^)。
 今回は前半が比較的近いかなと思える民生機器寄りの話。極小穴メッキ、ベアリング、8mmビデオの最小ベルト、瞳位置検出などなど。特にキヤノンの瞳検出は、EOS5ユーザーとしても、カメラ開発の同業者としても凄く面白かった。
 後半はもっと大きくなって、海水淡水化装置、液化天然ガス運搬船、新羽田空港の引っ越しなどなど。

 途上国で大活躍する船外機(ヤマハ)なんか遠い話だけど、頑張っているなあという白さがあったし、逆にラップ(呉羽化学工業)みたいな身近な話題も面白かった。


「英国解体新書」
岩野礼子 中公文庫

 英国のエッセイではあるけれど、これは英国内発行の週間日本語新聞「英国ニュースダイジェスト」に1995/7〜1997/12まで連載されていたもの。結構最近のものであるし、何より現地で書かれて現地で読まれているという所が面白い。

 ちなみに著者は今、so-net UKで、「ロンドン徒然草 」というエッセイを書いている。
so-net UK


「幻色江戸ごよみ」
宮部みゆき 新潮社文庫

「本所深川ふしぎ草紙」「かまいたち」「震える岩」に続く宮部みゆきの江戸もの。人情モノに怪談話をちょっとくわえた雰囲気で、まあ、安心してそれなりに期待出来る。短編が12編、月一話で一回りする。
 下町舞台の人情モノと言っても不条理な話も多く、アン・ハッピーエンドなのがほとんどなのは何故?…。


「ドラゴン・ティアーズ 」上
- Dragon Tears - Dean Koontz
D・クーンツ 文春文庫

 最近はキングはつまらない。その分、クーンツが面白いので、モンダホラーはプラスマイナスゼロという状況だけど、このクーンツもそ面白かった。でも、今までのネタの使い廻しという感じもするけど、文章力はアップしている。

 「ミスター・マーダー」から立て続けにクーンツものの出版が続いているけど、これも版権騒動(「インティシティ」を出したアカデミー出版)のせいではないかと解説にある。確かにそうかも。

 ともかく、「ミスター・マーダー」に続いて、ストーリーテーリングの上手さが際だっている。
 後半からどんどん面白くなってくる、アル中の元広告代理店、ホームレス親子と飼い犬、刑事のハリーとコニーがチクタクマンことブライアンを追い詰めていくスリルがテンポよくていい。


「ドラゴン・ティアーズ 」下
- Dragon Tears - Dean Koontz
D・クーンツ 文春文庫


「陋巷にあり」1 儒の巻
酒見堅一 新潮文庫

 酒見堅一は1989年のデビュー作「後宮小説」以来読んでないから9年ぶり。この第1巻は六年前の1992年11月に刊行されていたけど、内容はまるで知らなかった。1992年に「墨攻」「陋巷にあり」1 儒の巻で中島淳記念賞受賞。

 主人公は孔子の最愛の弟子、陋巷に住む顔回。孔子時代を背景に、政敵との「帝都物語」っぽい呪術合戦ありとなかなか面白い。礼の発生の理由など判るのも、勉強になる。

 ほとんどエッセイと化している後書きもなかなか読ませる(^^)。ここで、諸星大二郎の「孔子暗黒伝」について述べているけど、やはりこの人も諸星に影響されていたのかとちょっと嬉しくなった。このシリーズの装丁は諸星大二郎がやっている。


「陋巷にあり」2 呪の巻
酒見堅一 新潮文庫

「陋巷にあり」1 儒の巻に続く第2巻。

 本編は中国歴史サイキックものとしてますます面白くなってくるし、謎の美女は登場するし…、しかし、やっぱり後書きが面白い(^^)。トータル24ページの後書きは、エッセイとして実に面白い。ここに出てくる歴史小説雑誌のタイトル「歴史上等」…これ傑作です!

 「オレら歴史上等っスから。織田信長だろーが諸葛孔明だろうが、ただイクだけっす」…名文です(^^)。


「風水先生」地相占術の驚異
荒俣宏 集英社

 「帝都物語」が出た頃に荒俣宏に会った事がある。その頃は荒俣宏は上海は知っていたけど、香港の風水はほとんど知らなかった。で、リージェント・ホテルの一面のガラスは香港湾への龍脈を切らないようにした為だなんて、香港の風水の事を恐れ多くも教えた覚えがある。

 「風水先生」は荒俣宏の風水関係を集めたもので、新潮社「03」90/1の「香港風水戦争」、「ダイヤモンド・エグゼクティブ」94/1の「東京の風水チェック」、「週間プレイボーイ」93/6/8〜94/2/15の「ニッポン風水漫遊記」から成る。

 これだけで風水全般がよく判るし(実用にはあんまりならないけど)、雑学的にも面白いし、とくに日本の部分では沖縄、奈良、京都、大阪、東京と身近な地域が出てくるので都市設計という視点からも面白い。


「墨攻」
酒見堅一 新潮文庫

 「陋巷にあり」1を読んで、その勢いで「墨攻」。
 墨子教団の篭城技術から発想した架空の物語。大国・趙から小国・梁を守るために使わされ墨者の革離。これを原作とするコミック「墨攻」は非常に面白かったが、原作までなかなか読めなかった。ただ、原作ではコミックの前半部分のみで革離は殺されてしまい、後半の攻防は無くてちょっと物足りない。


Books Top


to Top Page