'97年10月
アダルト・チルドレン関係の本多数


「ターン」☆
北村薫 新潮社

 面白かった。「スキップ」よりも好きです。
 世界の中でただ一人取り残された私。その世界は同じ一日の繰り返し。そして外界とつながる一本の電話。
 信じられない世界だけど、それを語る二人の生真面目な語り口のせいで、素直に受け取れてしまうのが面白い。二人のキャラクタともに魅力的。最後への盛り上げ方も凄くうまい。

 ちなみに主人公がやっている版画のメゾチントは、中学の時にメゾチントの美術展を観て以来気に入っています。

 「スキップ」に続く、<時と人>の三部作の第二作目。三部作になっているとは知らなかったけど(^^;)。第三作は「リセット」だそうです。今から楽しみ。


「次はこうなる」☆
堺屋太一 講談社

 面白い。
 バブル期を過ぎて随分と経つのに、今だその総括もままならず、反省も出来ない日本の未来を危惧する著者の思いが強く伝わってくる。
 とにかく、魅力が無くなった日本の原因の総ざらいをする事により、少しでも未来を明るくする道を選ぶべき。それは市民レベルでも参考になるので読むとよい。
 コンビニと自動販売機の乱立は、大店法に影響とは知りませんでした。


「アダルトチャイルドが人生をかえていく本」
アスク・ヒューマン・ケア研修相談室編

 「アダルト・チャイルドが自分と向きあ本」の実践編という位置づけかな?
 この2冊は一緒に読んだ方がいいでしょう。アスクの経験から来ているチェックリストやワークと呼ばれる実践の項目が具体的でいいです。


「走らなあかん、夜明けまで」
大沢在昌 講談社文庫

 「涙はふくな、凍るまで」の前作で主人公も同じササヤチップスのササヤ食品のサラリーマン、坂田勇吉。この「走らな…」は監督萩庭貞明、主演萩原聖人で映画化されてます。
 「涙はふくな…」はそれほど面白いと思わなかったのだけど、この「走らな…」は結構面白かった。映画は原作とまるで同じ展開、同じテンポ。それでも映画よりもずっと面白かった。多分、大阪弁が作るテンポが文章とうまくあっていたのだと思う。


「震える岩」 -霊験お初捕物控 ☆
宮部みゆき 講談社文庫

 本屋では時代小説のコーナに置いてある(^^)。読んでみると、確かに本格的な<捕物帳>ものと言える。解説を読むと、そもそも「歴史読本」の臨時増刊号「時代小説」1992に発表された「百年目の仇討始末」を改題、加筆したものだそうです。

 宮部みゆき自体、歴史物は始めてじゃないし、「かまいたち」で第十二回歴史文学賞佳作、「本所深川ふしぎ草紙」では第十三回吉川英治文学新人賞を取っている。この「震える岩」も、「かまいたち」に出てくる霊験お初が主人公になっている。どちらかというと主人公お初よりも、相棒のちょっととぼけた右京之介の方が魅力があるけど。

 ストーリはというと、死人憑き騒動から鳴動する岩の不思議と別エピソードの様に展開するが、最後では見事に忠臣蔵を背景とした物語に収束していく。この辺の展開が見事としか言いようがなかった。

 根岸肥前守鎮衛の「耳袋」の中の「奇石鳴動の事」をモチーフにしているのだけど、これだけ話を膨らませられるのは見事。
 解説の<捕物帳>に関する部分は、読んでないものが多いので参考になる。


「英国ありのまま」
林信吾 中公文庫

 「地球の歩き方・ロンドン編」の著者によるエッセイ。
 「地球の歩き方・ロンドン編」はロンドン旅行の時に実にお世話になった。ホテルも予約せず、エアチケットだけで一週間以上以上の計画で一人ロンドンへ出かけたもので(^^;)。ミュージカルや美術館や、生活感ある情報が豊富なのが助かった。

 著者、林信吾の十年間の現地生活からの実体験。各章のタイトルが「〜は楽じゃない」というのが笑える(^^)。取り上げられるネタはビザ、食事、英語、泥棒、テロ、紀行、スポーツなどなど。スノッブで無く、甘くも無く、むやみに辛口でも無い文章がいい。街ネタ的なエピソードも面白い。何しろ最初の10行で出てくる話題がヒースロ空港の入国審査官の前で「南無妙法蓮華経」と唱えると黙って六カ月のビザがもらえるという噂についてである。この人の感覚の面白さが判る。

 ところで知らなかったのだけど元皇太子妃の故ダイアナさんは「300年ぶりに、イギリス人女性が英国の王位継承者に嫁いだ例」だそうです。うーむ、知らなかった。


「家族の中の心の病」-よい子たちの過食と拒食
斎藤学 講談社+α文庫

 「生きるのが怖い少女たち」(光文社カッパ・サイエンス)の文庫本版。
 摂食障害に関する論文を一般向けに書き直したもので、内容は詳しい割には判りやすい。内容的にも共依存やアルコール依存と通じるものがあるので参考になる。

 中に摂食障害の蔓延は、米国社会の痩身信仰と健康ノイローゼに源流がある(p109)と断言しているのは印象的だった。

 あと、過食ビジン後の嘔吐の直後ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とコンチゾール(副腎皮質ホルモン)が増量する事から、ランニング・ハイなどと同じ脳内麻薬物質との関連を指摘しているの面白い。自己誘発性嘔吐は、オピオイズ(体内アヘン様物質群)を介した嗜癖と考えている。


「連鎖」
真保裕一 講談社文庫

 「震源」に続いて、再び真保裕一。第三十七回江戸川乱歩賞受賞作。チェルノブイリ原発事故による汚染食品の三角輸入問題、横流しの調査から話が発展するハードボイルド・ミステリ。
 食品汚染というネタや、主人公が元厚生省食品衛生監視員、輸入食品の検査員というのが面白い設定。しかし、ネタとして面白いのが最後までついてきて無いのが残念。全体に冗長な感じがする。
 一つポイントになっている埠頭での車での自殺のトリックだけど、ちょっと無理やりな気がしないでも無い…、確かに意外だったけど(^^;)。
 やはり、真保裕一は「奪取」が突出して面白いのかなあ。


「学問はどこまでわかっていないか」
堀田力 講談社文庫

 著者は元検事で、現在福祉関係の仕事をしている。門外漢の著者が、大脳生理学、女性学、心理学、経済学等などの分野で仮設を立て、それを元に各分野の専門家と対談するという構成。
 しかし、もう基本的にこのオジさんは視野は狭いは、学問的知識に欠けるはで、「堀田はどこまでわかってないか」ってな題名の方がずっと似合う。引っ張り出された、専門家も迷惑な事でしょう。時間の無駄。


「リンボウ先生イギリスへ帰る」
林望 文春文庫

 それなりには面白いのだけど、文章が軽くなっているように感じるのは気のせい??昔よりもスノッブな感じが鼻につくし。そもそも、今さら林望の「オペラ座の怪人(The phantom of the Opera)」の感想なんか読みたい読者がいる?(私だって同じロンドンのHer Majesty's Theatreで観た(^^))。さらに「ミス・サイゴン」の感想まで書いてるし。
 大体、タイトルにリンボウ先生なんて付ける事自体が恥ずかしい。


「アダルト・チャイルドが自分と向きあう本」 
アスク・ヒューマンケア研修相談室編、発行

 アルコール問題全国市民協会(ASK)の出資による、アスク・ヒューマンケアによる本。
 薄く、内容も簡単なので入門編としてはよいかもしれない。逆にちょっと物足りないかもしれかもしれないけど。内容は広いけど、深くつっこんでないので、よく詳しく知るには他の本を参考にした方がいいでしょう。


「もうひとりの私をゆるしてあげよう」
金盛浦子 KKベストセラーズ

 アダルト・チルドレンの概要と、その癒しとしてインナー・チルドレンに着目して書かれている。内容的には短くて比較的簡単なので、あくまで概要、入門に過ぎない。


「アダルト・チルドレンと癒し」- 本当の自分を取りもどす
西尾和美 学陽書房

 著者の西尾和美は、カリフォルニアのサイコセラピスト。米国での実情を日本人的視点でみている所が面白い。
 アダルト・チルドレンをサイコセラピーの一つのコンセプトとしてみているが、やはり臨床単位として見るよりは、治療概念として見るのが正しい態度なのだろうか。


「気持ちが軽くなる心理相談88」
篠木満 日新報道

 ビジネスマンを対象にした心理的な悩みの相談の88例。
 テクノ・ストレスとか、社内いじめ、配置転換ストレスなどなど、いかにもサラリーマンっぽい話題もあるけど、ファミコン中毒や性風俗通いなど広い話題まで網羅している。
 回答は、いかにもという優等生的なものが多いけど、まあ、読んで気が楽になる事は確か。でも、自分に当てはまるのがわずか数個であるのだから、立読みでいい気がする(^^)。


「交流分析のすすめ」- 人間関係に悩むあなたへ
杉田峰康 日本文化科学社

 交流分析(トランザクション・アナリシス=TA)の紹介から、具体的な方法論まで。自己啓発と人間理解、よりよい人間関係を求める「気づきの科学」と位置づけています。エコグラム、コミュニケーション分析、ストロークなどなど内容は具体的。
 交流分析自体、最近の流行かと思っていたのですが、初版は1990年で結構古いです。


「私は親のようにならない」- アルコホリックの子供たち
クラウディア・ブラック著 誠信書房

 日本版の初版は1989年。米国でアルコール問題で育った子供たちは、特別の予防と治療が必要であるという考え方が定着した頃。AA(アルコホリック・アノニマス)やアラノン(Al-Anon)と同じ様に、十二ステップの回復を基礎とした、ACOD(アダルト・チルドレン・オブ・アルコホリック)と呼ばれる自助グループが米国各地に存在するようになった頃だそうです。
 内容的には、アルコホリックの影響のみなので、機能不全家族に育った、今で言う広い意味のアダルト・チルドレンでは無いが、内容的には十分に参考になる。


「リカバリー日本語版 アダルトチャイルド物語」
大越崇 星和書房

 「リカバリー」の訳者、大越崇の著書。
 タイトル通り、物語と言った方がいいかもしれない具体的なアダルト・チルドレンの日本の例を多く引いて、その環境、影響を分析しているのが参考になる。内容としては実に判りやすいし、日本特有の問題も出ているのではないかと思う。

 一つの例が非常に突っ込んで書いてあるのがいい。特に、臨床例「芙蓉の物語」では祖父母の代にまで遡って環境を調べあげて書いてある。アダルトチルドレンが世代を通じて伝播する仕組み、世代継承を調べた好例である。


「すべてを忘れて眠れる本」
小池能里子 KKベストセラーズ

 セルフコントロールを使った、題名通りの安眠の為の本。薄くて内容も軽いので、まあ、興味があれば読んでいいかも。でも、立読み出来るぐらいの分量しかないけど。


「アダルト・チルドレン完全理解」
信田さよ子 三五館

 原宿カウンセリングセンターの所長の著書。
 アダルト・チルドレンを解説した本の中では、もっともよくまとまっていて、歴史的な部分から、広い話題を網羅している。
 逆に話題を広げすぎている気もするけど、最初に読む本として適しているかもしれない。


「自己トレーニング」
リタ・スペンサー&アンジェラ・ロスマニス 東京図書

 副題に「思い込みを変える」とあるが、具体的には幼児期に擦り込まれたメッセージによる思い込みの問題解決の話。つまり、アドルト・チルドレンの問題を多く扱っている。
 具体的なトレーニング法としては、インナー・チャイルドや、アファーメーション(自分を肯定する文)を使っているけど、この辺はあまり面白くなかった。それ以前の思い込みの分析と気づきの部分の方が細かくて面白い。


「アダルト・チルドレンと共依存」
緒方明 誠信書房

 一般読者を対象にしたものではなく、研究書としてまとまっている。読者対処は明らかに、心理学、精神医学、行動科学などの専門家である。
 対象が専門家であっても、よくまとまっているし、他の一般図書が、共依存について解説が詳しくないだけに、この本の価値は高い。共依存については成因から、特に学校、家族、会社などの社会文化的背景にまで言及してまとめているのが面白い。
 ただし、治療については詳しくない。

 対象が専門家である事から、逆に専門家がどうアダルト・チルドレンを見ているかの参考にもなる。著者は、アダルト・チルドレンを「臨床単位」とは認めないが、「治療概念」「治療単位」として扱い、その有用性を認めている。

 嗜癖(アディクション)に、アルコール嗜癖やギャンブル嗜癖、摂食障害と並んで、「読書嗜癖」というのがあるのがショックだった(^^;)。いずれは「映画嗜癖」というのも並ぶのだろうか…。


「リカバリー」☆
H・L・グラヴィッツ、J・D・ボーデン 星和書房

 アダルト・チルドレンが自分の問題に気づいて、まっさきに読むならこの本でしょう。
一般論として、広い視野で見たいのなら他の本の方がいいが、まさに題名通りにリカバリー、回復の書としてこの本は良く出来ている。
 すべては質問とその回答から出来ているが、それもルーツ、サバイバル、不意の気づき、核心の問題点、変化、統合、創始と回復のステップを踏んで展開されている。一度だけ読む本ではなく、日々取り出して読む種類の本だろう。


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