2001年11月


「エア・フレーム-機体-」上
- Airframe - Michael Crichton
マイケル・クライトン 酒井昭伸訳 早川書房

 香港からデンバーへ向かうトランスパシフィックTPA545便で異常事態発生、多数の負傷者と死者が出る。事故機を生産したノートン社は、ボーイング、ダグラスと並ぶ航空機業界大手。その品質保証部の事故原因究明チーム(IRT)の担当副部長ケイシー・シングルトンが主人公。中国との大規模な契約が進行中のため、事故究明には一週間という時間しか残されていない…。

 「タイム・ライン」がイマイチだったので、クライトンからはしばらく遠ざかっていたけど1997年のこの本は比較的硬派で面白い。航空業界の内幕や、エンジニアリングの話は技術者としてはなかなか楽しく読めた。TVという媒体、航空機事故を扱う無責任な態度への批判などもよい。

 最近では米国同時多発テロの航空機業界への影響、特に低コスト化の影響が安全面に表れるのが心配で、この本でもそんな不安が杞憂でない事が判る。
 もう一つ、心配になったのは操縦の自動化の問題。1994年、名古屋空港における中華航空エアバスの事故を思い出させた。本来的には人為的ミスであるが、この様な高度な自動化の問題の根深さを感じた。


「エア・フレーム-機体-」下
- Airframe - Michael Crichton
マイケル・クライトン 酒井昭伸訳 早川書房


「ショコラ」
- Chocolat - Joanne Harris
ジョアン・ハリス 那波かおり訳 角川書店

 映画「ショコラ」の原作。基本的には同じ話ではあるが、映画ではビィアンヌとルーの恋物語に比重が多くかかっていたのに対して、原作ではビィアンヌの背景が細かく描かれていたり、レノー神父(映画でのレノ伯爵)の思いが一人称で描かれたり、映画とはちょっと違った部分で楽しめる。面白かった。


「ビーイング・デジタル」 ☆
- Being Deigital - Nicholas Negroponte
ニコラス・ネグロポンテ 福岡洋一訳 アスキー出版局

 出版された時に読んだけど、MITメディアラボのセミナーに出たのを機会に再読。出版自体は6年前、内容的には10年前以上からメディアラボでは言われていた事だけど、今でもまるで古さを感じさせない。この先見性は尊敬に値する。
 「アトム(物質)からビット(情報)」へというメッセージは明快で的確。そして今、アトムとビットの境界としてのインターフェースの重要さとして、メディアラボの仕事は注目したい。


「木島日記」
大塚英志 角川書店

 昭和10年代、民俗学者の折口信夫は、仮面の怪しい古書店主・木島平八郎に出会って以来、身の回りに奇怪な事件が起こっていく…。コミックの原作を、本人がノベライズしているもの。まあ面白い部分もあるが、文章としては軽すぎ。人魚、反魂の術、巨人、謎の組織瀬条機関などなど、オカルト趣味のオンパレードであるが、それなり文化的、社会的背景を描いて品位を保つ。「帝都物語」みたいな感じ。
 イラストは森美夏。


「行ってはいけないアジア」
竹内書店新社アジア編集部編 竹内書店新社

 全体は7章で「いてはいけない」、「訪ねてはいけない」、「入ってはいけない」、「食べてはいけない」、「買ってはいけない」、「泊まってはいけない」、「乗ってはいけない」。それぞれ、ごく当然の知識から、そもそも行く事自体が危険な場所での出来事など色々。砂漠のキャメル・ツアーで、喉がカラカラな時に売りつけられる高いミネラルウォーターなど、凄い商売。アジアを旅するなら読んでいて損は無い。
 ライターは伊藤和己、岡崎大五、山田修、亜蓮、岡村晃一、吉永敦、今井幸生、斉藤章。


「本当にあった海外旅行の話」
高木暢夫 NHK出版

 著者は元ツアコン。「NHKラジオ英語会話」テキストに1990年4月号より2年連載されたものに加筆したもの。ツアコンものと言っても、「添乗員奮戦記」の岡崎大五の様にトホホな内容でもなく、それなりにまとも。内容にはそれほど派手な事件も起きない。旅券の取り違え、バゲッジのロスト程度や、他にちょっとしたホノボノ話ぐらい。


「夢の痕跡 20世紀科学のワンダーランドに遊ぶ」
荒俣宏 講談社

 「クォーク」に1991/8〜1993/9に連載したもの。
 前半はドイツ、後半はアメリカの博物館をネタにした科学のエッセイ。内容は多岐にわたり、オフセット印刷、ベンツの祖先である自転車、グライダーのリリエンタール兄弟、コンピュータのフォン・ノイマン、階差機関 (differrence engine)のバベジなどなど。それぞれ面白い部分はあるが、ちょっとまとまりは無いかなあ。


「ハンマー・オブ・エデン」
- The Hammer of Eden - Ken Follet
ケン・フォレト 矢野浩三郎訳 小学館

 「第三双生児」の次作。
 カルフォルニア州、シルバー・リバー・バレーの自然の中で暮らすコミューンのリーダー、プリースト<祭司>は自分たちの生活を守るため、「ハンマー・オブ・エデン」というグループ名で地震を起こすと州知事を脅す。対するのはジュディ・マドックス、米国人の警官の父、ベトナム人の母を持つFBIエージェント。美貌の捜査官は、ちょっと「羊たちの沈黙」、「ハンニバル」のクラリス・スターリングのを思い出させる。。
 サイスミック・バイブレーターでの地震を起こす、という荒唐無稽なアイデアがなかなか面白いし、テンポもあって読みやすい所はなかなかいい。分厚い分、人間の書き込みは十分な気がしたけど、後半に行くに従ってやや薄っぺらさを感じ、ラストはちょいとショボイ。
 字が読めないテロリストって、かなり間抜けかも。


「香港的電飾」
二代目一条さゆり 筑摩書房

 ストリッパー二代目一条さゆりは、香港の明星オタクだって事は知っていたけど、そのアイドルおっかけ的な視点の香港エッセイ集。食、ショッピングといったふつうの香港モノと違い、一風変わっている。
 そもそも明星迷として、かなりおっさんのテイ・ロン(狄龍)が好きというのが珍しい。エステや食、カジノ、結婚式、向こうの友達の話、さらに著者の香港での映画出演の話など。
 「ちくま」に1995/1〜1996/8の連載を元に書き下ろしたもの。


「モノを整理してすっきり暮らす -捨てられないひとのための生活術」
阿部絢子 大和書房

 内容的には当たり前の事ばかりで、知っている人はすでに実践しているような気がする。「捨てる!技術」に近いかもしれない。衣類、靴、ハンドバック、アクセサリー、化粧品、消耗品、寝具、写真・ビデオ・CDなどなど各論としては細かく解説、でも合計すると、これでも持ちすぎという感じはする。


「21世紀の10大技術 - 社会と生活はどう変わるか」
森谷正規 日本放送出版協会

 続いて未来予測の本だけど、これは技術予測の本。近未来の生活、20〜30年後には実現し広く普及しているだろう技術を取り上げ、近未来社会のありうる姿を描く。内容的には、燃料電池自動車、コジェネレーション、大深度地下利用、高度道路交通システム(ITS)、携帯情報機器、壁掛けテレビ、家庭情報システム、クローン、遺伝子診断/遺伝子治療、地震予知。
 すでに実現が見えている技術もあれば、そもそも需要が無いと思われる技術、経済的に見合わない技術もある。新鮮さはほとんど無かった。


「2020年からの警鐘 日本が消える」
日本経済新聞社編 日本経済新聞社

 「人口ピラミッドがひっくり返るとき」 に続いて未来予測の本。 2020年の日本や世界の姿を描き、そこから遡って今の経済や社会のありようを考えるという手法を使っている。 
 日本経済新聞に連載された「2020年からの警鐘」シリーズをまとめたもの。老齢化、頭脳流出、労働力不足、債務超過、国民負担増加…日本全体が破綻に向かっている。出版も1997年で今となっては古いけど、わずかな可能性の道はことごとく閉ざされて、事態はより深刻になっている。
 「人口ピラミッドがひっくり返るとき」にあるように、人口動態を変える事は不可能。2020年には日本の1/4が65歳以上。20世紀末に描いていた明るい未来は非現実的な事が判る。不可避な変化を受け入れ、どう折り合いを付け社会を作るかが重要なのが判る。


「2020年からの警鐘2 怠慢な日本人」
日本経済新聞社編 日本経済新聞社

 出版は同じ1と同じ1997年。
 日本経済新聞連載の「地球プロブレム」、「未来への創業」、「怠慢な納税者」」、「土地の反逆」「教育が見えない」、「技術立国の幻」、「ニホンゴキトク」に「日経2020年委員会」委員の投稿をまとめたもの。1の各論の様な内容。
 土地の評価を従来の取引事例法ではなく、収益還元法で行うと千もの市町村で標準値の地価がゼロになる、というのはショックな数字だった。


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